説明

銀めっき付き繊維材料

【課題】 銀めっき付き繊維材料において、銀めっき膜は、薄くしても、抗菌性や防臭性、導電性や電磁波遮蔽性などの性能を維持する。
【解決手段】 繊維、繊維束や糸などの繊維材料は、外周面に銅めっき又は銅合金めっきを付着して外周面を銅めっき膜又は銅合金めっき膜で覆い、その銅めっき膜又は銅合金めっき膜の外周面に銀めっきを付着して銅めっき膜又は銅合金めっき膜の外周面を銀めっき膜で覆い、銀めっき膜の内周面に銅又は銅合金めっき膜を積層している。この銀めっき付き繊維材料を製造する場合は、繊維材料に、銅又は銅合金の無電解めっきを施し、その後、銀の無電解めっきを施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀めっきを付着した繊維、繊維束や糸などの繊維材料の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
銀めっきを付着した繊維、繊維束や糸などの繊維材料は、抗菌性や防臭性、導電性や電磁波遮蔽性があって機能性に優れている。また、外観が銀白色であって意匠性に優れている。各種の性能が高い。衣類、浄化材、導電材、静電気除去材、電磁波遮蔽材や装飾材など多方面において用いられる。
【0003】
銀めっき付き繊維材料は、特許文献1に例示されているように、繊維材料に銀の無電解めっきを施して製造される。この銀めっき付き繊維材料は、外周面に銀めっきをほぼ均一に付着し、外周を銀めっき膜で覆っている。銀めっき膜は、厚さが数分の一μm程度である。
【0004】
【特許文献1】特開2005−105386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
[背景技術の課題]
銀めっき付き繊維材料は、銀めっき用の銀塩、高価な銀を原料としている。銀の使用量が多くなると、原料費が高くなる。そこで、高価な銀を節約するため、銀の使用量を減らし、繊維材料に付着する銀めっき膜を薄くすることが考えられる。
【0006】
ところが、銀めっき付き繊維材料は、外周面に付着している銀めっき膜が薄くなると、銀イオンの溶出が不活発になって、抗菌性や防臭性が低下する。また、電気抵抗が増加して、導電性や電磁波遮蔽性が低下する。また、外観が銀白色にならず、濁った色になることがあり、意匠性が低下する。即ち、銀めっき膜を薄くすると、性能が低下する。銀めっき膜を薄くしても、性能が維持されることが望まれる。
【0007】
[課題を解決するための着想]
銀めっき付き繊維材料において、外周面に付着する銀めっき膜を薄くしても、性能を低下させないため、薄くした銀めっき膜の下に他の金属めっき膜を介在することにした。そして、その下地の金属めっき膜は、銅又は銅合金のめっき膜にすることにした。銅又は銅合金は、銀より安価なことが多い上、銀ほどではないが、抗菌性や防臭性、導電性や電磁波遮蔽性に優れている。しかも、銀との付着性や繊維材料との付着性に優れている。
【0008】
銀めっき付き繊維材料は、外周面を銅又は銅合金のめっき膜で覆い、その銅めっき膜又は銅合金めっき膜の外周面を銀めっき膜で覆うことにした。銀めっき膜は、その内周面に銅又は銅合金のめっき膜が積層する。内周層の銅めっき膜又は銅合金めっき膜と外周層の銀めっき膜の内外2層によって、抗菌性や防臭性、導電性や電磁波遮蔽性などの性能が発揮される。外周層の高価な銀めっき膜は、薄くしても、性能がほぼ維持される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1)繊維、繊維束や糸などの繊維材料は、外周面に銅めっき又は銅合金めっきを付着して外周面を銅めっき膜又は銅合金めっき膜で覆い、その銅めっき膜又は銅合金めっき膜の外周面に銀めっきを付着して銅めっき膜又は銅合金めっき膜の外周面を銀めっき膜で覆い、銀めっき膜の内周面に銅又は銅合金めっき膜を積層していることを特徴とする銀めっき付き繊維材料。
【0010】
2)上記の銀めっき付き繊維材料において、
繊維材料は、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維やアラミド繊維などの合成繊維、合成繊維の束や糸であることを特徴とする。
【0011】
3)上記の銀めっき付き繊維材料において、
銅合金めっき膜は、銅−銀合金めっき膜であることを特徴とする。
【0012】
4)繊維、繊維束や糸などの繊維材料は、銅又は銅合金の無電解めっきを施し、その後、銀の無電解めっきを施し、請求項1、2又は3に記載の銀めっき付き繊維材料を得ることを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0013】
銀めっき付き繊維材料は、その外周面に銅めっき膜又は銅合金めっき膜が付着し、その銅めっき膜又は銅合金めっき膜の外周面に銀めっき膜が付着している。外周層の銀めっき膜と内周層の銅めっき膜又は銅合金めっき膜の2層によって、抗菌性や防臭性、導電性や電磁波遮蔽性などの性能が発揮される。高価な銀めっき膜は、薄くして銀の使用量を減らしても、性能がほぼ維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
実施形態における繊維材料は、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維やアラミド繊維などの合成繊維の糸である。合成繊維の糸は、繊度が28〜1100〔dTex〕で、フィラメント数が3〜192〔本〕である。
【0015】
実施形態の銀めっき付き合成繊維糸を製造する場合は、上記の合成繊維糸に、最初に、銅又は銅合金の無電解めっきを施し、次に、銀の無電解めっきを施す。この銀めっき付き合成繊維糸は、外周面に銅又は銅合金のめっきを付着して外周面を銅めっき膜又は銅合金めっき膜で覆い、その銅めっき膜又は銅合金めっき膜の外周面に銀めっきを付着して銅めっき膜又は銅合金めっき膜の外周面を銀めっき膜で覆っている。銀めっき膜は、その内周面に銅又は銅合金めっき膜が積層している。
【0016】
銅又は銅合金の無電解めっきと銀の無電解めっきは、それぞれ、糸を前処理し、次に、本処理を行う。前処理は、前処理液に糸を浸漬し、接触中の前処理液と糸とを相対的に移動させる。本処理は、めっき液に糸を浸漬し、接触中のめっき液と糸とを相対的に移動させる。
【0017】
銀めっき付き合成繊維糸の実施例は、次の通りである。
[第1例]
合成繊維糸は、ポリエステル繊維の糸で、繊度が66〔dTex〕、フィラメント数が4〔本〕である。このポリエステル繊維糸は、最初に、銅の無電解めっきを施す。銅の無電解めっきの前処理は、脱脂処理、エッチング処理、中和処理、表面調整処理、触媒付与処理とアクセレータ処理を順次行う。エッチング処理は、カセイソーダ水溶液を使用する。中和処理は、塩酸水溶液を使用する。表面調整処理は、界面活性剤の水溶液を使用する。触媒付与処理は、塩化パラジウム、塩化第1スズなどの触媒と塩酸の水溶液を使用する。アクセレータ処理は、硫酸水溶液を使用する。
【0018】
銅めっき液の組成は、次の通りである。なお、Lはリットルを表す。
銅 塩:硫酸銅 10g/L
錯化剤:酒石酸カリウムナトリウム(ロッセル塩) 40g/L
還元剤:ホルムアルデヒド 10g/L
pH調整剤:カセイソーダ 8〜10g/L
安定剤:微 量
また、銅めっき液は、
pH:12.5
温 度:25℃
である。めっき時間は、5分である。
【0019】
ポリエステル繊維糸は、外周面に銅めっき膜が均等に付着する。ポリエステル繊維糸の外周面は、銅めっき膜で被覆される。銅めっき膜は、厚さが0.1μm位である。この銅めっき膜は、付着力テープテストで剥離しなかった。
【0020】
なお、銅めっき膜の厚さは、銅めっき時間の長短で増減する。例えば、銅めっき時間を10分にすると、銅めっき膜の厚さが0.2μm位になる。
【0021】
銅めっき膜が付着したポリエステル繊維糸は、次に、銀の無電解めっきを施す。銀の無電解めっきの前処理は、銅の無電解めっきのそれとほぼ同様である。
【0022】
銀めっき液の組成は、次の通りである。なお、mlはミリリットルを表す。
銀 塩:硝酸銀 3g/L
錯化剤:エタノールアミン 10ml/L
安定剤:チオリンゴ酸 0.5g/L
還元剤:蟻 酸 15g/L
また、銀めっき液は、
pH:12
温 度:20℃
である。めっき時間は、30分である。
【0023】
ポリエステル繊維糸は、外周面を被覆した銅めっき膜の外周面に銀めっき膜が均等に付着する。銅めっき膜の外周面は、銀めっき膜で被覆される。銀めっき膜は、厚さが0.1μm位である。この銀めっき膜は、付着力テープテストで剥離しなかった。
【0024】
なお、銀めっき膜の厚さは、銀めっき時間の長短で増減する。例えば、銀めっき時間を45分にすると、銀めっき膜の厚さが0.15μm位になる。
【0025】
本例のポリエステル繊維糸は、外周面に銅めっき膜と銀めっき膜が内外に厚さ0.1μm位ずつ積層している。内周層と外周層のめっき膜によって導電性がある。長さ1cm当りの電気抵抗値が10Ω以下である。外周層が銀めっき膜であり、外観が銀白色である。この銀白色は、洗濯テストで変色しなかった。洗濯耐久性がある。
【0026】
銅めっき膜と銀めっき膜が内外に厚さ0.1μm位ずつ付着したポリエステル繊維糸は、厚さ0.2μm位の銀めっき膜のみが付着した場合に比較して、抗菌性や防臭性、導電性や電磁波遮蔽性などの性能と意匠性がほぼ同じである。銀の使用量は、ほぼ半減している。
【0027】
[第2例]
本例は、第1例における内周層の銅の無電解めっきに代えて、銅合金の銅−銀合金の無電解めっきを施す。その他の点は、第1例におけるのと同様である。
【0028】
銅−銀合金の無電解めっきの前処理は、第1例における内周層の銅の無電解めっきのそれとほぼ同様である。
銅−銀合金めっき液の組成は、次の通りである。
銅 塩:酢酸銅 5g/L
銀 塩:硝酸銀 2.5g/L
錯化剤:エチレンジアミン 10ml/L
還元剤:水酸化ヒドラジン 0.2ml/L
安定剤:少 量
また、銅−銀合金めっき液は、温度が30℃である。めっき時間は、10分である。
【0029】
ポリエステル繊維糸は、外周面に銅−銀合金めっき膜が均等に付着する。ポリエステル繊維糸の外周面は、銅−銀合金めっき膜で被覆される。銅−銀合金めっき膜は、厚さが0.1μm位である。この銅−銀合金めっき膜は、付着力テープテストで剥離しなかった。
【0030】
なお、銅−銀合金めっき膜の厚さは、銅−銀合金めっき時間の長短で増減する。例えば、銅−銀合金めっき時間を20分にすると、銅−銀合金めっき膜の厚さが0.2μm位になる。
【0031】
銅−銀合金めっき膜が付着したポリエステル繊維糸は、次に、第1例におけるのと同様に、銀の無電解めっきを施す。このポリエステル繊維糸は、外周面を被覆した銅−銀合金めっき膜の外周面に銀めっき膜が均等に付着する。銅−銀合金めっき膜の外周面は、銀めっき膜で被覆される。銀めっき膜は、厚さが0.1μm位である。この銀めっき膜は、付着力テープテストで剥離しなかった。
【0032】
本例のポリエステル繊維糸は、外周面に銅−銀合金めっき膜と銀めっき膜が内外に厚さ0.1μm位ずつ積層している。内外層のめっき膜によって導電性がある。長さ1cm当りの電気抵抗値が10Ω以下である。外周層が銀めっき膜であり、外観が銀白色である。この銀白色は、洗濯テストで変色しなかった。洗濯耐久性がある。
【0033】
銅−銀合金めっき膜と銀めっき膜が内外に厚さ0.1μm位ずつ付着したポリエステル繊維糸は、厚さ0.2μm位の銀めっき膜のみが付着した場合に比較して、抗菌性や防臭性、導電性や電磁波遮蔽性などの性能と意匠性がほぼ同じである。銀の使用量は、減少している。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、抗菌性や防臭性電磁波遮蔽性や静電気除去性のある繊維製品の素材、抗菌性や防臭性の浄化材、導電性物品の素材、装飾物品の素材などに利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維、繊維束や糸などの繊維材料は、外周面に銅めっき又は銅合金めっきを付着して外周面を銅めっき膜又は銅合金めっき膜で覆い、その銅めっき膜又は銅合金めっき膜の外周面に銀めっきを付着して銅めっき膜又は銅合金めっき膜の外周面を銀めっき膜で覆い、銀めっき膜の内周面に銅又は銅合金めっき膜を積層していることを特徴とする銀めっき付き繊維材料。
【請求項2】
繊維材料は、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維やアラミド繊維などの合成繊維、合成繊維の束や糸であることを特徴とする請求項1に記載の銀めっき付き繊維材料。
【請求項3】
銅合金めっき膜は、銅−銀合金めっき膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の銀めっき付き繊維材料。
【請求項4】
繊維、繊維束や糸などの繊維材料は、銅又は銅合金の無電解めっきを施し、その後、銀の無電解めっきを施し、請求項1、2又は3に記載の銀めっき付き繊維材料を得ることを特徴とする銀めっき付き繊維材料の製造方法。

【公開番号】特開2008−31507(P2008−31507A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204548(P2006−204548)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(395010794)名古屋メッキ工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】