説明

銀ナノ粒子とその製造方法

【課題】 電子工業用導電性ペースト等の原料となる分散性に優れた銀ナノ粒子とその製造方法を提供する。
【手段】
硝酸銀溶液を、クエン酸ソーダの存在下で、硫酸第一鉄によって還元し、生成した銀粒子を回収して銀ナノ粒子を得る方法において、硫酸第一鉄とクエン酸ソーダの混合溶液に硝酸銀溶液を投入する際に、硝酸銀溶液の投入を10秒以内の短時間で行うことを特徴とする銀ナノ粒子の製造方法、および、この方法によって製造された平均粒径20nm以下の粒径が均一な球状銀ナノ粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径がナノサイズの銀微粒子(銀ナノ粒子と云う)、特に電子工業用導電性ペースト等の原料となる分散性に優れた銀ナノ粒子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化が進み、これに伴って電子デバイスの小型高密度化が求められており、配線や電極などを形成するペースト材料の原料である銀粉末について、微細で分散性の良いものが求められている。
【0003】
一般に金属微粒子の製造方法としては、CVD法や噴霧熱分解法などの気相法と、化学的な還元反応を利用した湿式法が知られているが、従来の湿式法によって製造した微粒子は凝集性が強く、単分散粒子が得られ難いため、凝集が少ない高純度の銀微粒子などは多くが気相法によって製造されていた。一方、気相法によって得た金属微粒子は単分散性に優れるが、製造コストが高く、かつ粒度制御が難しいと云う問題がある。そこで、金属微粒子の分散性に優れた湿式製造方法が試みられている。
【0004】
銀微粉末の湿式製造方法としては、(イ)硝酸銀などの銀塩溶液に水酸化ナトリウムを加えて酸化銀を形成し、または炭酸ナトリウムを加えて炭酸銀を形成し、これにヒドラジン等によって還元する方法が従来から知られているが、この方法によって得られる銀粒子は不定形で凝集した粒子が多い。そこで、(ロ)銀塩または銀アミン錯体を還元して銀微粉を製造する方法において、有機還元剤と亜硫酸塩およびアルカリで調整した還元剤溶液を硝酸銀溶液等に加えて銀を沈澱させ、これを回収し乾燥することによって、サブミクロンの樹枝状や単分散の球状銀粉末を製造する方法(特許文献1)や、(ハ)銀塩または銀アンモニア錯体を還元して銀微粉を製造する方法において、還元剤としてハイドロキノンと亜硫酸塩を用い、25〜60℃の液温で反応させることによって分散性のよい球状銀微粒子を製造する方法が知られている(特許文献2)。しかし、これらの製造方法によって得られる銀微粒子は粒径のバラツキが大きいと云う問題がある。
【0005】
銀粒子の粒径を制御する湿式製造方法として、硝酸銀を還元する際にクエン酸ナトリウムを保護剤として用いるクエン酸法が知られている。具体的には、例えば、(ホ)クエン酸ナトリウムと硫酸第一鉄との混合溶液に硝酸溶液を攪拌下で混合し、5〜50℃で反応させて銀微粒子を生成させ、これを回収して媒体に分散させる銀コロイド液の製造方法(特許文献3)、(ヘ)クエン酸ナトリウム水溶液を攪拌しながら硫酸第一鉄水溶液を添加して均一に混合し、これを激しく攪拌しながら硝酸銀水溶液を添加して銀コロイドを生成させる方法(特許文献4)が知られている。
【特許文献1】特開平4−59904号公報
【特許文献2】特開平8−134513号公報
【特許文献3】特許第3429958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の上記クエン酸法によって銀ナノ粒子を製造する方法は、硝酸銀溶液と硫酸第一鉄溶液とを反応させる際に、何れも硝酸銀溶液を数分間の比較的長い時間かけて投入し、かつ激しい攪拌下で混合している。例えば、上記(ヘ)の方法では1000rpm以上の攪拌強度下で混合しており、これは実用装置では相当に厳しい条件である。しかも、得られる銀粒子の粒径が不均一である。
【0007】
本発明は、従来の製造方法における上記問題を解決したものであり、硝酸銀溶液を投入する際に激しい攪拌を必要とせず、穏やかな製造条件によって粒径が均一な銀ナノ粒子を効率よく製造する方法と、この方法によって製造した銀ナノ粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の構成からなる銀ナノ粒子とその製造方法が提供される。
(1)硝酸銀溶液を、クエン酸ソーダの存在下で、硫酸第一鉄によって還元し、生成した銀粒子を回収して銀ナノ粒子を得る方法において、硫酸第一鉄とクエン酸ソーダの混合溶液に硝酸銀溶液を投入する際に、硝酸銀溶液の投入を10秒以内の短時間で行うことを特徴とする銀ナノ粒子の製造方法。
(2)上記(1)に記載の方法によって製造された平均粒径20nm以下の粒径が均一な球状銀ナノ粒子。
【0009】
〔具体的な説明〕
本発明に係る製造方法のフローを図1に示す。図示するように、本発明の製造方法は、硝酸銀溶液を、クエン酸ソーダの存在下で、硫酸第一鉄によって還元し、生成した銀粒子を回収して銀ナノ粒子を得る方法において、硫酸第一鉄とクエン酸ソーダの混合溶液に硝酸銀溶液を投入する際に、硝酸銀溶液の投入を10秒以内の短時間で行うことを特徴とする銀ナノ粒子の製造方法である。
【0010】
硝酸銀溶液に還元剤を加えて銀を還元し、生成した粒子を回収して銀ナノ粒子を製造する方法において、還元剤として硫酸第一鉄を用い、保護剤としてクエン酸ソーダを用いる。これらは予め混合して用いると良い。
【0011】
硝酸銀溶液の銀濃度は1〜200g/Lが適当である。銀濃度がこれより高いと保護剤であるクエン酸ソーダの量も多くする必要があり、このため液の粘性が大きくなるので取扱い難くなる。また、生成した銀微粒子が凝集しやすくなる。一方、銀濃度がこれより小さいと製造効率が低くなる。なお、硫酸第一鉄の量は硝酸銀を十分に還元できればよく、硝酸銀に対して等モルよりやや多い量であれば良い。
【0012】
クエン酸ソーダの量は銀のモル数の2倍〜7倍が適当であり、3倍程度が好ましい。クエン酸ソーダの量がこれより少ないと、銀微粒子に対する吸着量が減少し、凝集を十分に抑制できなくなる。一方、クエン酸ソーダの量が上記範囲より多いと、液の粘性が大きくなるので取扱い難くなる。
【0013】
硫酸第一鉄とクエン酸ソーダをあらかじめ混合しておき、室温下、この混合溶液に硝酸銀溶液を投入し、硝酸銀を還元する。本発明の製造方法は、硫酸第一鉄とクエン酸ソーダの混合溶液に硝酸銀溶液を投入する際に、硝酸銀溶液の投入を10秒以内の短時間で行う。硝酸銀溶液を短時間で投入することによって、結果として粒子径の揃った銀ナノ粒子が得られる。
【0014】
硝酸銀溶液を、長い時間、例えば数分〜十数分かけて添加すると、混合初期に生成した粒子が核となり、その後に供給された硝酸銀の還元によって生じた銀が初期に生成した粒子の成長に費やされるため、粗大粒子が混在するようになり、結果的に粒径の不揃いな銀粒子になる。
【0015】
硫酸第一鉄とクエン酸ソーダの混合溶液に硝酸銀溶液を投入した後、数十秒、300rpm前後の回転数で攪拌し、全体に均一な反応を完結させる。1000rpm以上で激しく攪拌する必要はない。この反応によって銀が還元され、粒径がナノメートルサイズの銀超微粒子(銀ナノ粒子)を含む銀コロイド液が得られる。
【0016】
この銀コロイド液を遠心分離などによって固液分離し、分離した固形分をクエン酸ソーダで洗浄した後に回収する。回収した固形分を水に分散させて銀ナノ粒子が分散した銀コロイド液を得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明の上記製造方法によれば、平均粒径20nm以下の粒径が均一な球状銀ナノ粒子を得ることができる。また、本発明の製造方法は、硝酸銀溶液を混合する際に、激しく攪拌する必要がなく、従って、装置の負担が少なく、効率よく銀ナノ粒子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施例と比較例を示す。
〔実施例1〕
硫酸第一鉄とクエン酸ソーダをおのおの0.25mol/Lおよび0.5mol/Lの濃度で含む水溶液500mLに、濃度0.83mol/Lの硝酸銀溶液100mLを3秒間で添加した。温度は20℃であり、混合後、300rpmで30秒間攪拌した。この反応で生成した銀コロイド液を3000rpmで遠心分離を行い、固形分を回収してこれを水で再分散させ、銀固形分10重量%の銀コロイド液を得た。このコロイド液中の銀粒子をTEM(透過電子顕微鏡)で観察したところ6〜7nmでサイズの揃った球状銀ナノ粒子であった。
【0019】
〔実施例2〕
硫酸第一鉄とクエン酸ソーダをおのおの0.5mol/Lおよび0.9mol/Lの濃度で含む水溶液500mLに、濃度1.7mol/Lの硝酸銀溶液100mLを5秒間で添加した。温度は20℃であり、混合後、300rpmで30秒間攪拌した。この反応で生成した銀コロイド液を3000rpmで遠心分離を行い、固形分を回収してこれを水で再分散させ、銀固形分10重量%の銀コロイド液を得た。このコロイド液中の銀粒子をTEM(透過電子顕微鏡)で観察したところ6〜7nmでサイズの揃った球状ナノ粒子であった。
【0020】
〔比較例〕
硝酸銀溶液の添加速度条件を3分間で添加した他は実施例1と同様の条件で反応させた。これで得られたコロイド液を実施例1と同様の条件で遠心分離して固形分を回収し、これを水分散させ銀固形分10重量%の銀コロイド液を得た。このコロイド液中の銀粒子をTEM観察したところ、最大径70nmから最小径数nmまでの銀粒子が混在した状態で、部分的に凝集している粒子が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の製造方法を示す工程図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸銀溶液を、クエン酸ソーダの存在下で、硫酸第一鉄によって還元し、生成した銀粒子を回収して銀ナノ粒子を得る方法において、硫酸第一鉄とクエン酸ソーダの混合溶液に硝酸銀溶液を投入する際に、硝酸銀溶液の投入を10秒以内の短時間で行うことを特徴とする銀ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法によって製造された平均粒径20nm以下の粒径が均一な球状銀ナノ粒子。



【図1】
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【公開番号】特開2006−45655(P2006−45655A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232502(P2004−232502)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】