説明

銀ペースト

【課題】 硬化条件を限定する必要がなく、硬化させた状態でもはんだ付けが可能であると共に、配線などの微細化に対応可能な優れたスクリーン印刷性を備えた熱硬化型銀ペーストを提供する。
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明が提供する銀ペーストは、銀粉末と、エポキシ樹脂及びその硬化剤と、溶剤とを含む加熱硬化型銀ペーストであって、エポキシ樹脂の硬化剤がフェノールノボラック化合物であり、更にオレイン酸を銀粉末に対し0.05〜0.5重量%含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気配線又は電極の形成に用いられる加熱硬化型銀ペーストであって、はんだ付け性に優れ且つスクリーン印刷性が良好な銀ペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高温で処理すると特性が劣化してしまうような電気配線基板や電子部品の配線又は電極を形成する方法としては、銀、アルミニウム等のスパッタリングや蒸着による薄膜方式と、加熱硬化型ペーストを用いる厚膜方式がよく知られている。
【0003】
そのうちの厚膜方式は、加熱硬化型銀ペーストを基板や部品等に塗布又は印刷した後、250℃以下の低温で加熱して乾燥、硬化させることにより、配線又は電極を形成するものである。この厚膜方式は、設備が安価で、生産性も高いことから、フィルムアンテナ等の配線やコンデンサ、抵抗器、太陽電池等の電極の製造に広範に利用されている。
【0004】
ところで、上記厚膜方式に用いる加熱硬化型銀ペーストは、銀粉末と、エポキシ樹脂などの加熱硬化性樹脂と、溶剤とで実質的に構成される。導電粉末として銀粉末が用いられるのは、銀は電気抵抗が小さく、酸化され難いうえ、金に比べて安価であるなどの理由による。
【0005】
上記厚膜方式に用いられる加熱硬化型銀ペーストについては、従来から数多くの研究と提案されている。例えば特開平08−092506号公報には、銀粉末と、エポキシ樹脂及びそのイミダゾール系硬化剤とを含み、はんだ付け性が良好で且つ十分な引張強度を有する加熱硬化型銀ペーストが提案されている。
【0006】
しかしながら、上記の加熱硬化型銀ペーストは、半硬化状態にしてはんだ付け性を確保するものである。即ち、はんだ付け性と接着強度を十分なものにするためには、硬化条件を限定しなければならないという問題があった。
【特許文献1】特開平08−092506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の事情に鑑み、硬化条件を限定する必要がなく、十分に硬化させた状態でもはんだ付けが可能であると共に、配線などの微細化に伴って要求されているスクリーン印刷性についても良好な熱硬化型銀ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明が提供する銀ペ−ストは、銀粉末と、エポキシ樹脂及びその硬化剤と、溶剤とを含む加熱硬化型銀ペーストであって、エポキシ樹脂の硬化剤がフェノールノボラック化合物であり、更にオレイン酸を銀粉末に対し0.05〜0.5重量%含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、銀ペーストにおけるエポキシ樹脂の硬化剤としてフェノールノボラック化合物硬化剤を用い、更にオレイン酸を添加配合することにより、スクリーン印刷性が良好であると同時に、はんだ付け性に優れ、硬化させた状態でもはんだ付けが可能な熱硬化型銀ペーストを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明が提供する銀ペーストは、厚膜方式により配線や電極を形成するための熱硬化型銀ペーストであって、導電粉末としての銀粉末と、エポキシ樹脂及びその硬化剤としてのフェノールノボラック化合物と、溶剤とで実質的に構成されると共に、更にオレイン酸を少量添加配合することによってペーストの粘度が大きく低下し、特に良好なスクリーン印刷性が得られるものである。
【0011】
本発明の銀ペーストにおけるオレイン酸の含有量は、銀粉末に対して0.05〜0.5重量%の範囲とする。オレイン酸の量が0.05重量%未満では、銀ペーストの粘度が高くなり過ぎ、スクリーン印刷時に版抜けが悪くなってしまう。また、オレイン酸の量が0.5重量%を越えると、銀ペーストの粘度が低くなり過ぎるため、スクリーン印刷時にパターンが滲んでしまう。
【0012】
また、本発明の銀ペーストでは、エポキシ樹脂と、その硬化剤としてフェノールノボラック化合物を用いることによって、良好なはんだ付け性と引張強度が得られるだけでなく、はんだ付けの硬化条件が限定されず、はんだ付けが銀ペーストを十分に硬化させた状態でも可能になる。
【0013】
使用するエポキシ樹脂としては、特に制限はなく、主に電子材料の成形や接着あるいは封止などに通常用いられているものであってよい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂のようなビスフェノール型エポキシ樹脂などの2感応型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂などの多官能型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などを用いることができる。また、これらのエポキシ樹脂は、単独でも複数を混合して用いても差し支えない。
【0014】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、フェノールノボラック化合物を用いる。好ましいフェノールノボラック化合物としては、フェノールホルムアルデヒド型ノボラック樹脂、フェノールアラルキル型ノボラック樹脂などを挙げることができる。硬化剤としてフェノールノボラック化合物を用いることにより、はんだ付け性及び引張強度の向上と共に、他の硬化剤に比べて銀ペーストで形成した配線や電極の抵抗値を低くすることができる。尚、フェノールノボラック化合物硬化剤の量は、使用したエポキシ樹脂を硬化条件下で十分硬化できる量であれば良い。
【0015】
エポキシ樹脂とフェノールノボラック化合物硬化剤の含有量は、銀粉末100重量部に対し、合計で0.6〜2.5重量部配合することが好ましい。エポキシ樹脂とフェノールノボラック化合物硬化剤の合計が0.6重量部未満では、接着強度が低下し且つはんだ喰われが起こりやすい。また、エポキシ樹脂とフェノールノボラック化合物硬化剤の合計が2.5重量部を越えると、はんだ付け性が極端に低下するため好ましくない。
【0016】
銀ペーストに用いる銀粉末については、特に制限はなく、球状又はフレーク状のいずれか片方若しくは両方を用いることができる。銀粉末の平均粒径は、特に制限されないが、20μm以下が望ましい。平均粒径が20μmを越えると、スクリーン印刷時に目詰まりが発生したり、接着強度が低下したりしてしまうからである。
【0017】
溶剤としては、特に限定されるものではなく、ペーストに一般的に用いられている溶剤を用いることができる。具体的には、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等を好適に用いることができる。溶剤の含有量は、銀粉末の均一な分散が可能であり、且つ銀ペーストのスクリーン印刷可能な粘度が得られる量であれば良い。
【0018】
更に、本発明の銀ペーストでは、硬化を促進させることを目的として、メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、アミン類、三フッ化ホウ素を含むルイス酸錯体などの硬化促進剤を配合することができる。硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂100重量部に対して10重量部以下とすることが好ましい。
【0019】
尚、本発明の銀ペーストの製造は、上記した銀粉末、エポキシ樹脂、硬化剤のフェノールノボラック化合物、溶剤、及びオレイン酸の各成分、必要に応じて硬化促進剤を、ロールミルなどの市販の混練装置を用いて通常のごとく混練すればよい。
【実施例】
【0020】
銀粉末として、平均粒径が1.9μmの球状粉末と平均粒径が7.6μmのフレーク状粉末を用いた。エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量190)、硬化剤としてフェノールホルムアルデヒド型ノボラック樹脂(水酸基当量104)を用いた。硬化促進剤として2−フェニル−4−メチルイミダゾ−ルを少量加えた。溶剤にはジプロピレングリコールを用いた。
【0021】
上記の各成分を下記表1に示す配合割合で混合し、更にオレイン酸を試料ごとに配合割合を変えて添加した。尚、全ての試料において銀粉は、67.50重量部の球状粉末と22.50重量部のフレーク状粉末とを混合して、銀粉末100重量部とした。これらを3本ロールミルで混練して、試料1〜8の銀ペーストをそれぞれ作製した。
【0022】
得られた試料1〜8の各銀ペーストについて、25℃における粘度をブルックフィールド社製粘度計(モデルHBT)にて測定した。得られた結果を、各銀ペーストの配合割合と共に、下記表1に示す。尚、粘度は、ずり速度が4/秒のときの値である。
【0023】
【表1】

【0024】
表1から明らかなように、本発明例である試料1〜5の銀ペーストの粘度は、スクリーン印刷に適した粘度である50〜200Pa・sの範囲に入っていることが分る。一方、オレイン酸を含まない比較例の試料6〜7の銀ペーストは粘度が200Pa・sを越えてしまい、またオレイン酸の配合量が多い比較例の試料8の銀ペーストでは粘度が低くなり過ぎるため、いずれもスクリーン印刷に適さない。
【0025】
実際に、本発明例の試料1〜5の銀ペーストを、アルミナ基板上に幅0.6mm×長さ60.0mmのパタ−ンでスクリーン印刷したところ、微細なパターンを支障なく印刷することができた。また、得られたパターンは欠けや潰れがなく、良好な状態であった。しかし、比較例の試料6〜8の銀ペーストでは、版抜けが悪かったりパターンが滲んだりして、良好なスクリーン印刷は難しかった。
【0026】
次に、本発明例の試料1〜5の各銀ペーストについて、はんだ付け性評価した。即ち、アルミナ基板上に10mm角のパターンでスクリーン印刷し、200℃のオ−ブン中に30分間放置して銀ペーストを硬化させた。その後、得られた銀ペースト硬化膜上にフラックスを塗布し、直径4.0mm及び高さ1.0mmのはんだディスク(組成:Sn−3重量%Ag−0.5重量%Cu)を載せ、270℃に加熱してはんだを溶融させ、はんだが溶融してから5秒後に冷却した。はんだは銀ペースト硬化膜上で拡がり、はんだ付け性が良好であることが分った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粉末と、エポキシ樹脂及びその硬化剤と、溶剤とを含む加熱硬化型銀ペーストであって、エポキシ樹脂の硬化剤がフェノールノボラック化合物であり、更にオレイン酸を銀粉末に対し0.05〜0.5重量%含むことを特徴とする銀ペ−スト。

【公開番号】特開2010−55788(P2010−55788A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216559(P2008−216559)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】