説明

銅−樹脂複合体の製造方法

【課題】接着剤を使用せずに銅と樹脂組成物の密着性を向上できる上、作業環境が良好な銅−樹脂複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の銅−樹脂複合体の製造方法は、銅製部品の表面をエッチング剤によって粗化処理する粗化工程と、前記粗化処理した表面に樹脂組成物を付着させる付着工程とを実施する銅−樹脂複合体の製造方法であって、前記エッチング剤が、硫酸、過酸化水素、フェニルテトラゾール類、ニトロベンゾトリアゾール類、ベンゼンスルホン酸類及び塩化物イオンを含む水溶液であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製部品の表面に樹脂組成物を付着させた銅−樹脂複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・自動車分野を中心に、幅広い産業分野で銅と樹脂とを一体化させる技術が開発されている。従来、銅と樹脂との接合には、接着剤を使用することが一般的であり、このために多くの接着剤が開発されている。しかし、接着剤の使用は、生産工程を煩雑化して製品のコストアップの要因になっていた。また、接着剤を使用すると、高温下における接合強度が低下するので、自動車等の耐熱性が要求される用途への適用が困難となる。
【0003】
そのため、近年では、接着剤を使用せずに銅と樹脂とを一体化させる技術が研究されている。例えば、下記特許文献1には、銅合金表面にナノサイズの凹凸を形成した後、強塩基性下の酸化剤によって銅酸化物の薄層を形成した処理面にポリフェニレンサルファイド樹脂又はポリブチレンテレフタレート樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を射出成形して、銅−樹脂複合体を得る技術が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の方法によれば、銅表面に形成された極微細凹凸に熱可塑性樹脂組成物が浸入することによりアンカー効果が得られるため、接着剤を使用せずに銅と樹脂組成物とを一体化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2008/047811号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1に記載の方法では、強塩基性下の酸化剤を高温にして処理を行う必要があるため、作業環境が悪くなるという問題があった。
【0007】
本発明は、前記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、接着剤を使用せずに銅と樹脂組成物の密着性を向上できる上、作業環境が良好な銅−樹脂複合体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の銅−樹脂複合体の製造方法は、銅製部品の表面をエッチング剤によって粗化処理する粗化工程と、前記粗化処理した表面に樹脂組成物を付着させる付着工程とを実施する銅−樹脂複合体の製造方法であって、前記エッチング剤が、硫酸、過酸化水素、フェニルテトラゾール類、ニトロベンゾトリアゾール類、ベンゼンスルホン酸類及び塩化物イオンを含む水溶液であることを特徴としている。
【0009】
本発明では、部品を粗化処理するエッチング剤として、硫酸、過酸化水素、フェニルテトラゾール類、ニトロベンゾトリアゾール類、ベンゼンスルホン酸類、及び塩化物イオンを含む水溶液を使用する。前記エッチング剤は、取扱い性が良好であり、かつ高温下での処理が不要なため、作業環境を良好に維持できる。
また、本発明では、フェニルテトラゾール類とニトロベンゾトリアゾール類とを含むエッチング剤を使用するため、部品表面を均一に粗化することができる。これにより、銅−樹脂組成物間の密着性向上に適した凹凸が形成され、そのアンカー効果により銅−樹脂組成物間の密着性が向上する。
【0010】
尚、前記本発明における「銅」は、銅からなるものであってもよく、銅合金からなるものであってもよい。また、本明細書において「銅」は、銅又は銅合金をさす。
【0011】
また、本発明における「粗化処理」とは、エッチング剤を前記銅製部品に接触させることにより、前記銅製部品の表面の表面粗さ(Ra)が、処理前よりも大きくなるような処理をいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定のエッチング剤で銅製部品の表面を粗化処理するため、接着剤を用いなくても銅と樹脂組成物との密着性を向上できる上、作業環境が良好な銅−樹脂複合体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施例で用いた試験用銅−樹脂複合体を示す斜視図。
【図2】(a)は本実施例で用いた試験用銅−樹脂複合体を示す上面図、(b)は(a)の側面図、(c)は(a)のA−A線断面図。
【図3】本実施例の気密性試験及び水密性試験に用いた試験装置の断面図。
【図4】一実施例の銅製部品の表面の走査型電子顕微鏡写真(撮影角度45°倍率3000倍)。
【図5】一実施例の銅製部品の表面の走査型電子顕微鏡写真(撮影角度真上、倍率1000倍)。
【図6】一実施例の銅製部品の表面の走査型電子顕微鏡写真(撮影角度真上、倍率5000倍)。
【図7】一実施例の銅製部品の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1000倍)。
【図8】一実施例の銅製部品の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る銅−樹脂複合体の製造方法について説明する。
【0015】
本実施形態の銅−樹脂複合体の製造方法は、銅製部品の表面をエッチング剤によって粗化処理する粗化工程と、前記粗化処理した表面に樹脂組成物を付着させる付着工程とを実施する銅−樹脂複合体の製造方法であって、前記エッチング剤が、硫酸、過酸化水素、フェニルテトラゾール類、ニトロベンゾトリアゾール類、ベンゼンスルホン酸類及び塩化物イオンを含む水溶液である製造方法である。
【0016】
[銅製部品]
本実施形態で使用できる銅製部品(以下、「部品」ともいう)は、樹脂組成物を付着させて銅−樹脂複合体(以下、「複合体」ともいう)を形成できる形状を有している限り、特に限定されない。例えば、銅の塊、板材、棒材などから塑性加工、鋸加工、フライス加工、放電加工、ドリル加工、プレス加工、研削加工、研磨加工等を単独、又はこれらの加工を組み合わせて所望の形状に機械加工されたもの等が使用できる。
【0017】
前記銅製部品は、樹脂組成物を付着させる表面に酸化膜や水酸化物等からなる厚い被膜がないことが望ましい。このような厚い被膜を除去するために、エッチング剤で処理する前に、サンドブラスト加工、ショットブラスト加工、研削加工、バレル加工等の機械研磨や、化学研磨により表面層を研磨してもよい。
【0018】
[エッチング剤]
本実施形態では、部品を粗化処理するエッチング剤として、硫酸、過酸化水素、フェニルテトラゾール類、ニトロベンゾトリアゾール類、ベンゼンスルホン酸類、及び塩化物イオンを含む水溶液を使用する。前記エッチング剤は、取扱い性が良好であり、かつ高温下での処理が不要なため、作業環境を良好に維持できる。
【0019】
前記エッチング剤は、フェニルテトラゾール類とニトロベンゾトリアゾール類とを含むため、部品表面を均一に粗化することができる。これにより、銅−樹脂組成物間の密着性向上に適した凹凸が形成され、そのアンカー効果により銅−樹脂組成物間の密着性が向上するものと考えられる。なお、前記エッチング剤は、部品表面を粗化することによって、アンカー効果で銅と樹脂組成物との密着性を向上させる機能の他、化学的な作用で前記密着性を向上させる機能も有すると考えられる。
この化学的な作用については、例えば、フェニルテトラゾール類及びニトロベンゾトリアゾール類が部品表面に付着することによって、これらの成分と銅イオンとが皮膜を形成し、この皮膜が樹脂組成物に固着することにより、前記密着性が向上することが考えられる。
【0020】
更に、前記エッチング剤で処理することにより、銅と樹脂組成物との界面からの水分や湿気の浸入を防ぐこともできる。つまり、前記エッチング剤で処理することにより、複合体の付着界面における気密性や水密性を向上させることもできる。
よって、本実施形態の製造方法は、高い気密性、水密性が要求される各種電極端子部品、各種センサー部品、各種スイッチ部品等の製造に好適である。
【0021】
以下、本実施形態で使用できるエッチング剤の各成分について説明する。
【0022】
(硫酸)
前記エッチング剤中の硫酸の濃度は、エッチング速度やエッチング剤の銅溶解許容量に応じて調整されるが、60〜220g/Lが好ましく、90〜150g/Lがより好ましい。60g/L以上の場合は、エッチング速度が速くなるため、部品表面を速やかに粗化することができる。一方、220g/L以下の場合は、溶解した銅が硫酸銅として析出するのを防止できる。
【0023】
(過酸化水素)
前記エッチング剤中の過酸化水素の濃度は、エッチング速度や表面粗化能力に応じて調整されるが、5〜70g/Lが好ましく、7〜56g/Lがより好ましく、10〜30g/Lがさらに好ましい。5g/L以上の場合は、エッチング速度が速くなるため、部品表面を速やかに粗化できる。一方、70g/L以下の場合は、部品表面をより均一に粗化できる。
【0024】
(フェニルテトラゾール類)
前記エッチング剤中のフェニルテトラゾール類としては、1−フェニルテトラゾール及びその誘導体、5−フェニルテトラゾール及びその誘導体等が挙げられる。
なかでも、ニトロベンゾトリアゾール類との相乗効果により銅と樹脂組成物との密着性を高めるには、前記フェニルテトラゾール類が、5−フェニルテトラゾールであることが特に好ましい。前記誘導体としては、−SH基が導入された化合物、例えば、1−フェニル−5−メルカプト−1Hテトラゾールや、−NH2基が導入された化合物、例えば、5(3−アミノフェニル)1Hテトラゾール等が例示できる。
また、1−フェニルテトラゾールの金属塩や5−フェニルテトラゾールの金属塩を使用してもよく、これらの金属塩のカウンターカチオンとしては、カルシウムイオン、第一銅イオン、第二銅イオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン等が例示できる。
【0025】
前記エッチング剤中のフェニルテトラゾール類の濃度は、粗化形状やエッチング剤の銅溶解許容量に応じて調整されるが、0.01〜0.7g/Lが好ましく、0.03〜0.6g/Lがより好ましく、0.05〜0.4g/Lがさらに好ましい。0.01g/L以上の場合は、エッチング速度が速くなるため、部品表面を速やかに粗化できる。一方、0.7g/L以下の場合は、エッチング剤中でフェニルテトラゾール類が析出するのを防止できる。
【0026】
(ニトロベンゾトリアゾール類)
前記エッチング剤中のニトロベンゾトリアゾール類としては、4−ニトロベンゾトリアゾール及びその誘導体、5−ニトロベンゾトリアゾール及びその誘導体等が挙げられる。なかでも、フェニルテトラゾール類との相乗効果により銅と樹脂組成物との密着性を高めるには、前記ニトロベンゾトリアゾール類が、4−ニトロベンゾトリアゾール又は5−ニトロベンゾトリアゾール、あるいは4−ニトロベンゾトリアゾールと5−ニトロベンゾトリアゾールの混合物であることが好ましい。特に、4−ニトロベンゾトリアゾールを使用した場合には、エッチング剤中で析出物が生じにくいため好ましい。
【0027】
前記エッチング剤中のニトロベンゾトリアゾール類の濃度は、粗化形状やエッチング剤の銅溶解許容量に応じて調整されるが、0.01〜1.5g/Lが好ましく、0.1〜1.0g/Lがより好ましく、0.2〜0.8g/Lがさらに好ましい。0.01g/L以上の場合は、部品表面をより均一に粗化できる。一方、1.5g/L以下の場合は、エッチング剤中でニトロベンゾトリアゾール類が析出するのを防止できる。
【0028】
銅と樹脂組成物との密着性をより向上させ、かつ複合体の付着界面における気密性や水密性をより向上させるには、前記フェニルテトラゾール類の濃度をAg/Lとし、前記ニトロベンゾトリアゾール類の濃度をBg/Lとした場合に、B/Aが1.0〜3.0であることが好ましく、1.5〜3.0であることがより好ましい。
【0029】
(ベンゼンスルホン酸類)
前記エッチング剤には、連続使用して多量の銅を処理した際の過酸化水素の分解を抑制するため、ベンゼンスルホン酸類が配合される。前記ベンゼンスルホン酸類は、従来のエッチング剤中では、過酸化水素により酸化され、褐色ないし黒色の沈澱を生じることが知られている(特開平11−140669号公報参照)。
本実施形態においては、ベンゼンスルホン酸類が、フェニルテトラゾール類及びニトロベンゾトリアゾール類と併用されることにより、褐色の沈澱を生じることなく過酸化水素の分解抑制作用が発現する。
【0030】
前記エッチング剤中のベンゼンスルホン酸類としては、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、m−キシレンスルホン酸、フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸、スルホサリチル酸、m−ニトロベンゼンスルホン酸、p−アミノベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0031】
前記エッチング剤中のベンゼンスルホン酸類の濃度は、過酸化水素の安定性の観点から、2〜10g/Lが好ましく、2〜4g/Lがより好ましい。
【0032】
(塩化物イオン)
前記エッチング剤は、粗化処理後の部品表面の凹みを深くするために、塩化物イオンを含有する。塩化物イオンは、塩化物イオン源を配合することによって、エッチング剤中に含有させることができる。塩化物イオン源としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩酸等が挙げられる。塩化物イオンの濃度は、粗化形状やエッチング速度に応じて調整されるが、1〜60ppmが好ましく、2〜30ppmがより好ましい。この範囲内であれば、部品表面を充分に粗化できる。また、安定したエッチング速度を得るために、硫酸銅、塩化銅、酢酸銅などの銅化合物を溶解させてもよい。これらの銅化合物の濃度は、通常、銅濃度として5〜60g/L程度である。
【0033】
<他の成分>
本実施形態で使用できる前記エッチング剤には、銅製部品表面の指紋などの表面汚染物による粗化のむらを防ぐために界面活性剤を添加してもよく、必要に応じて消泡剤等の他の添加剤を添加してもよい。これら他の成分を添加する場合、その含有量は、0.001〜0.1g/L程度であるのが好ましい。
【0034】
本実施形態のエッチング剤は、前記の各成分をイオン交換水などに溶解させることにより容易に調製することができる。
【0035】
[粗化工程]
次に、上述したエッチング剤を用いて部品の表面を粗化処理する粗化工程について説明する。
【0036】
処理対象物の部品表面に機械油などの著しい汚染がある場合は、脱脂を行なった後、前記エッチング剤による粗化処理を行なえばよい。粗化処理方法としては、浸漬、スプレーなどによる処理方法が挙げられる。処理温度は20〜40℃が好ましく、処理時間は10〜300秒程度が好ましい。前記処理後は、通常水洗、乾燥が行なわれる。
【0037】
前記エッチング剤を用いた粗化処理によって、部品表面が凹凸形状に粗化される。粗化処理する際の深さ方向のエッチング量(溶解量)は、溶解した銅の重量、比重および表面積から算出した場合、0.1〜20μmであることが好ましく、1.5〜20μmであることがより好ましく、1.5〜10μmであることが更に好ましい。エッチング量が0.1μm以上であれば、部品表面を均一に粗化することができる。
また、エッチング量が20μm以下であれば、形成された凸部の過剰なエッチングを防止できる。よって、エッチング量が前記範囲内であれば、銅−樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状を得ることができる。エッチング量は、処理温度や処理時間等により調整できる。
【0038】
尚、本実施形態では、前記エッチング剤を用いて部品を粗化処理する際、部品表面の全面を粗化処理してもよく、樹脂組成物が付着される面だけを部分的に粗化処理してもよい。
また、粗化処理後の部品表面に形成されたアゾール含有皮膜を水酸化ナトリウム水溶液等で除去してもよい。この場合、皮膜を除去した後に硫酸等で中和処理し、更に防錆処理を施すことが好ましい。
【0039】
また、本実施形態においては、本発明の効果を損なわない範囲で、前記粗化工程において、その他のエッチング剤によるウェットエッチングや、各種のドライエッチングを併用して粗化処理を行ってもよい。
また、粗化処理後、更に該処理面に各種めっき処理やクロメート処理等の化成処理を施してもよい。めっきの種類としては、ニッケルめっき、スズめっき、亜鉛めっき等が挙げられる。めっきを施すことで、耐候性や長期信頼性を向上させることができる。
【0040】
[樹脂組成物の付着工程]
次に、前記粗化処理工程で粗化処理された前記銅製部品の表面上に樹脂組成物を付着させる樹脂組成物の付着工程を実施する。
前記粗化処理された銅製部品は、その粗化表面上に樹脂組成物を付着させることによって、銅−樹脂複合体が得られる。
本実施形態では、前記特定のエッチング剤で処理することにより、銅−樹脂組成物間の密着性向上に適した凹凸が形成されるため、接着剤を使用せずに銅−樹脂組成物間の密着性確保が可能となる。
前記粗化処理した部品表面上に樹脂組成物を付着させる方法としては、特に限定されず、射出成形、押し出し成形、加熱プレス成形、圧縮成形、トランスファーモールド成形、注型成形、レーザー溶着成形、反応射出成形(RIM成形)、リム成形(LIM成形)等の樹脂成形方法が採用できる。
また、銅表面に樹脂組成物皮膜をコーティングした銅−樹脂組成物皮膜からなる複合体を製造する場合は、溶剤に樹脂組成物を溶解又は分散させて塗布するコーティング法や、その他の各種塗装方法が採用できる。その他の塗装方法としては、焼き付け塗装、電着塗装、静電塗装、粉体塗装、紫外線硬化塗装等が例示できる。中でも、樹脂組成物部分の形状の自由度や、生産性などの観点から、射出成形が好ましい。前記列挙した成形方法の成形条件は、樹脂組成物に応じて公知の条件を採用することができる。
【0041】
[樹脂組成物]
本実施形態で使用できる樹脂組成物としては、前記列挙した成形方法で部品表面に付着させることができる限り、特に限定されず、熱可塑性樹脂組成物や熱硬化性樹脂組成物の中から用途に応じて選択することができる。
【0042】
(熱可塑性樹脂組成物)
熱可塑性樹脂組成物を使用する場合、主成分となる熱可塑性樹脂としては、ポリアミド6やポリアミド66等のポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、非晶ポリアリレート樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン・アクリル酸共重合樹脂、エチレン・メタクリル酸共重合樹脂等や、これら2種以上を組み合わせたもの等を挙げることができる。
中でも、成形加工が容易なポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂が好ましく、銅−樹脂組成物間の密着性を向上させるという観点からポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂がより好ましい。
また、複合体の付着界面における気密性や水密性を向上させるという観点からポリアミド樹脂がより好ましく、ポリアミド6が更に好ましい。
【0043】
本実施形態で使用できる熱可塑性樹脂組成物としては、前記列挙した熱可塑性樹脂からなる組成物であってもよく、本発明の効果を損なわない程度に、前記列挙した熱可塑性樹脂に対して、従来公知の各種無機・有機充填剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤、カーボンブラック、加工助剤、核剤、離型剤、可塑剤等の添加剤を添加した組成物であってもよい。中でも銅と樹脂組成物との線膨張率の差によって生じる銅−樹脂組成物間の界面剥離を防止するために、前記列挙した熱可塑性樹脂100重量部に対して、無機充填剤を10〜200重量部添加することが好ましい。
【0044】
(熱硬化性樹脂組成物)
樹脂組成物として熱硬化性樹脂組成物を使用する場合、主成分となる熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、シアネート樹脂、シリコーン樹脂等や、これら2種以上を組み合わせたもの等を挙げることができる。
中でも、成形加工が容易なフェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂が好ましく、銅−樹脂組成物間の密着性を向上させるという観点、及び複合体の付着界面における気密性や水密性を向上させるという観点からフェノール樹脂がより好ましい。
【0045】
本実施形態で使用できる熱硬化性樹脂組成物としては、前記列挙した熱硬化性樹脂からなる組成物であってもよく、本発明の効果を損なわない程度に、前記列挙した熱硬化性樹脂に対して、従来公知の各種無機・有機充填剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤、カーボンブラック、加工助剤、核剤、離型剤、可塑剤等の添加剤を添加した組成物であってもよい。中でも銅と樹脂組成物との線膨張率の差によって生じる銅−樹脂組成物間の界面剥離を防止するために、前記列挙した熱硬化性樹脂100重量部に対して、無機充填剤を10〜200重量部添加することが好ましい。
【0046】
(その他の樹脂組成物)
本実施形態で使用できる樹脂組成物としては、前記列挙した樹脂組成物以外にも、アクリル樹脂、スチレン樹脂等を含む光硬化性樹脂組成物や、ゴム、エラストマー等を含む反応硬化性樹脂組成物など、各種の樹脂組成物を挙げることができる。
【0047】
本実施形態で例示される本発明の複合体の製造方法は、電子機器用部品、家電機器用部品、あるいは輸送機械用部品等の各種機械用部品等の製造に用いられ、更に詳しくは、モバイル用途等の各種電子機器用部品、家電製品用部品、医療機器用部品、車両用構造部品、車両搭載用部品、その他の電気部品や放熱用部品等の製造に好適である。
放熱用部品の製造に適用した場合、銅製部品の表面を粗化することによって表面積が増加するため、銅−樹脂組成物間の接触面積が増加し、接触界面の熱抵抗を低減させることができる。よって、本発明の方法を放熱用部品の製造に適用すると、密着性や気密・水密性を向上させる効果以外に、放熱性を向上させる効果も得られる。
【実施例】
【0048】
次に、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0049】
[引張せん断試験]
(実施例1〜3及び比較例1)
厚み2mmのタフピッチ銅(C1100)の板材を、長さ110mm、幅25mmに切断した。
この銅製部品を表1に示す組成のエッチング剤(30℃)中に浸漬し、揺動させることによって、表2に示すエッチング量だけエッチングした後、水洗を行い、乾燥させた。
処理後の銅製部品と表2に示す樹脂組成物を用いて、表3に示す成形条件にて射出成形(使用装置:型式TH60−9VSE(単動)、日精樹脂工業社製)して、図1に示すように、前記銅製部品1と、樹脂組成物2とが一端側で上下に重なりあっている複合体を得た。
尚、重なり部分aの長さは12.5mmである。また、樹脂組成物2は、長さ110mm、幅25mm、厚み2mmである。
得られた複合体について、引張り試験機(インストロン社製万能試験機、型式:1175)により、引張り速度1mm/分で図1に示す方向Xに引っ張って、破断するときの強度を引張せん断強度とした。
尚、前記エッチング量は、エッチング処理前後の銅製部品の重量差、銅の比重、および銅製部品の表面積から算出したエッチング量であり、エッチング時間で調整した。以下に示す「エッチング量」も同様である。
比較例1として、実施例3において粗化処理を行っていないこと以外は同様の条件で複合体を成形し、実施例3と同様に引張せん断強度を測定した。
結果を表2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
表2の結果より、実施例1乃至3の複合体は、引張せん断強度は、いずれも良好であった。
比較例1の複合体は射出成形後に銅製部品から樹脂組成物の一部が剥がれ落ちて、測定することができなかった。
【0054】
[垂直押込試験]
(実施例4〜6及び比較例2,3)
次に、垂直押込試験について説明する。
厚み2mmのタフピッチ銅(C1100)の板材を、80mm×80mmの寸法に切断し、中央に20mmφの穴をあけて試験用の銅製部品を得た。
この銅製部品を表1に示す組成のエッチング剤(30℃)中に浸漬し、揺動させることによって、表4に示すエッチング量だけエッチングした後、水洗を行い、乾燥させた。処理後の銅製部品と表4に示す各樹脂組成物を用いて、トランスファーモールド成形機(装置型式:TA−37、株式会社神藤金属工業所製)によってトランスファーモールド成形し、図2(a)〜(c)に示す形状の銅製部品10と樹脂組成物20とが積層された試験用の複合体3を得た(実施例4及び5)。
尚、成形条件は、金型温度155℃、注入圧力17.7MPaに設定した。
また、実施例6については、前記実施例5と同様の粗化工程までを行った後、表4に示す樹脂組成物を用いて、前記実施例1と同様の成形条件で、図2(a)〜(c)に示す形状の銅製部品10と樹脂組成物20とが積層された試験用の複合体3を得た
成形後の複合体を試験機(インストロン社製万能試験機、型式:1175)により、押込み速度1mm/分で、図2(b)に示す方向Yに押し込んで、銅製部品から樹脂が剥がれるときの強度(MPa)を垂直押込強度とした。
比較例2として、実施例4において粗化処理を行っていないこと以外は同様の条件で複合体を成形し、前記と同様に垂直押込強度を測定した。
更に、比較例3として、実施例6において粗化処理を行っていないこと以外は同様の条件で複合体を成形し、前記と同様に垂直押込強度を測定した。
尚、実施例4、5及び比較例2の評価については、複合体を得た後、1週間、25〜30℃の雰囲気温度で放置することによってエージングしたものを用いた。
結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
表4に示すように、各実施例では、垂直押込強度が所定以上の強度であるが、各比較例の複合体は射出成形後に銅製部品から樹脂組成物の一部が剥がれ落ちて、測定することができなかった。
【0057】
[気密性試験及び水密性試験]
(実施例7〜9及び比較例4,5)
前記実施例4〜6と同様の手順で複合体を成形し、それぞれ実施例7〜9の評価用複合体とした。
また、前記比較例2および3と同様の手順で複合体を成形し、それぞれ比較例4、5の評価用複合体とした。
得られた各複合体について、以下に示す方法で気密性試験及び水密性試験を行った。
尚、実施例7,8及び比較例4の評価については、複合体を得た後、1週間、25〜30℃の雰囲気温度で放置することによってエージングしたものを用いた。
【0058】
<気密・水密試験方法>
図3に示す試験装置を用いて評価を行った。まず、耐圧気密容器の金属製容器部11に、ゴム製Oリング12を介して複合体3をセットし、金属製上蓋部11aで複合体を挟み込むように固定した。
気密試験方法としては、前記複合体3をセットした耐圧気密容器を水槽に投入し、エアーバルブ(図示せず)を徐々に開放して耐圧気密容器内の圧力を上げていき、複合体の付着界面からのエアー漏れの有無を確認した。この際、所定の圧力をかけて3分間の静置状態においてエアー漏れが無ければ、当該圧力下での気密性は良好と判断した。
試験は圧力0.1MPaから開始し、エアー漏れが無ければ順次0.1MPaずつ上げていき、最大0.4MPaまで試験を行った。そして、0.1MPaでエアー漏れがあった場合を×、0.2〜0.3MPaでエアー漏れが無く、かつ0.4MPaでエアー漏れがあった場合を△、0.4MPaでエアー漏れがなかった場合を○として気密性の評価を行った。
水密試験方法としては、前記気密試験において、耐圧気密容器を水槽に投入しないことと、エアーの代わりに水を注入し、水洩れの有無で評価したこと以外は、同様の方法で行い、圧力0.1MPaで水漏れがあった場合を×、0.2〜0.3MPaで水漏れが無く、かつ0.4MPaで水漏れがあった場合を△、0.4MPaで水漏れがなかった場合を○として水密性の評価を行った。
結果を表5に示す。
【0059】
【表5】

【0060】
表5に示すように、各実施例では気密性、水密性のいずれも良好であるが、各比較例では、いずれも0.1MPaでエアー漏れおよび水漏れが生じた。
【0061】
<表面観察、断面観察>
前記実施例1の粗化工程と同様の条件で処理した銅製部品の表面および断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(型式JSM−7000F、日本電子社製)で観察した。その際のSEM写真を図4乃至図8に示す。
【符号の説明】
【0062】
1、10:銅製部品、
2、20:樹脂組成物、
3:複合体、
11:金属製容器部、
11a:金属製上蓋部、
12:Oリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅製部品の表面をエッチング剤によって粗化処理する粗化工程と、前記粗化処理した表面に樹脂組成物を付着させる付着工程とを実施する銅−樹脂複合体の製造方法であって、
前記エッチング剤が、硫酸、過酸化水素、フェニルテトラゾール類、ニトロベンゾトリアゾール類、ベンゼンスルホン酸類及び塩化物イオンを含む水溶液であることを特徴とする銅−樹脂複合体の製造方法。
【請求項2】
前記エッチング剤が、硫酸60〜220g/L、過酸化水素5〜70g/L、フェニルテトラゾール類0.01〜0.7g/L、ニトロベンゾトリアゾール類0.01〜1.5g/L、ベンゼンスルホン酸類2〜10g/L、及び塩化物イオン1〜60ppmを含む水溶液である請求項1に記載の銅−樹脂複合体の製造方法。
【請求項3】
前記銅製部品の表面を粗化処理する際、前記エッチング剤の処理温度が20〜40℃である請求項1又は2に記載の銅−樹脂複合体の製造方法。
【請求項4】
前記付着工程が、射出成形により行われる請求項1乃至3の何れか1項に記載の銅−樹脂複合体の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂及びフェノール樹脂から選ばれる1種以上を含む請求項1乃至4の何れか1項に記載の銅−樹脂複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−22761(P2013−22761A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156949(P2011−156949)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000114488)メック株式会社 (49)
【Fターム(参考)】