説明

銅の電着によって放出を制御される電気化学的電池

本発明は、制御電圧の動作の下で、電着によって制御される放出を有する電気化学的電池に関する。この電池は、互いに接触して積層される以下の可撓性要素、すなわち、制御電圧の第1電位に接続されることを意図している第1電極(11)、PVDF−HFP、PEO及び活性炭粉の混合物で形成される第1多孔層(12)、PVDF−HFP及びPEOの混合物で形成される多孔質セパレータ(13)、格子形態で形成されて前記制御電圧の第2電位に接続された第2電極(14)、PVDF−HFP、PEO及び活性炭粉の混合物で形成される第2多孔層(15)、そして、第1可撓性層(12)、セパレータ(13)、第2可撓性層(15)中に含まれる、銅塩を含む水性電解液、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視及び赤外線における放出を制御される電気化学的電池に関する。
【背景技術】
【0002】
2003年5月1日に行われた講義に続いて出版された、エレクトロクロミック材料及びその用途における、国際シンポジウムの会報の、2003−17巻、第190頁の、D.M.TENTI他による文献「Reversible Electrochemical Mirror(REM) Smart Window」には、銀の可逆的な電着によって作動する可視光の吸収及び放出を制御するための装置が開示されている。この装置は、第1のガラスプレート、格子形態の対極、電着可能な銀イオンを含むガンマブチロラクトンの電解質層、混合インジウム及びスズ酸化物(ITO)のミラー電極、及び、赤外線を透過しない第2のガラスプレートを、積層して備える。この装置の反射率を増加させるために、電解質と接触するミラー電極の表面上に銀を電着させる目的で、装置に電圧が印加される。一旦電圧が切られると、この装置は同じ状態のままに保たれ、高い反射率を保つために電圧を維持する必要がない。反射率を減少するため、ミラー電極の表層に堆積された銀を溶かす目的で、電圧の極性が反転される。銀は、それから格子の形態で対極に堆積される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この既知の装置は、柔軟性の低い装置になってしまい赤外線を全体で吸収してしまうという不利な点がある。
【0004】
さらに、米国特許第5,296,318号明細書は、複合電極を備えて、挿入イオンとしてリチウムを使用している可充電バッテリを開示する。このバッテリは、フィルムの形態でポリマーマトリックスに組み込まれる異なるパウダー(粉)を使用する。この構造は、2つの効果を得る。第1に、この構造は、パウダーに機械的強さを与える。第2に、バッテリの異なる構成要素から形成されるフィルムは、全体的に可撓性の電池を形成するために、格子の形態で電流コレクタと共に積層されてもよい。
【0005】
従来技術によって開発される電池は、12重量%の割合で、疎水性コポリマー・タイプ・ポリマーのフッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロピレン(PVDF−HFP)を使用する。従って、この電池は、有機タイプの溶媒(例えばジメチル炭酸塩、プロピレンカーボネート、エチレン炭酸塩又はアセトニトリル)を使用する。これらの電池には、グローブボックスにおいて組立てられなければならない不利な点がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、可視及び赤外線における放出を制御されて、水性媒体中において可撓性で作動する重要な特性を有する電気化学的電池を提案する。
【0007】
水性媒体の関心事は、水の解離定数が高いという事実のために、より高いイオン伝導率によってより高いイオン交換を可能にすることである。水の他の効果として、赤外線における透過性及び環境の尊重に留意しうる。水電池の形成には、適切なポリマーを抽出して、前記ポリマーを実装することが必要である。
【0008】
従って、本発明の主題は、制御電圧の動作の下で、電着によって制御される放出を有する電気化学的電池である。この電池は、互いに接触して積層される以下の可撓性要素を備えるという特徴を有する。
・制御電圧の第1電位に接続されることを意図している第1電極、
・PVDF−HFP、PEO及び活性炭粉の混合物で形成される第1多孔層、
・PVDF−HFP及びPEOの混合物で形成される多孔質セパレータ、
・格子形態で形成されて前記制御電圧の第2電位に接続された第2電極、
・PVDF−HFP、PEO及び活性炭粉の混合物で形成される第2多孔層、
そして、第1可撓性層、セパレータ、第2可撓性層中に含まれる、銅塩を含む水性電解液。
【0009】
前記第1電極は、(例えばステンレス鋼における)金属箔、又は、(例えば銅における)金属格子によって形成されうる。
【0010】
前記第2電極は、銅又はステンレス鋼の格子であってもよい。
【0011】
前記電解質の銅塩は、銅の硫酸塩又は他の銅の塩類であってもよい。
【0012】
本発明は、添付の図面とともに例示として付与されて非限定的な後述の説明を読むことによって、より充分に理解され、そして、他の利点及び特色がより明瞭になるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
上述したように、PVDF−HFPコポリマーは疎水性である。しかしながら、このコポリマーは、その著しい力学的性質のため非常に興味深いものである。このポリマーに対して水を吸収可能とするために、親水性ポリマーを添加することが本願において提案される。提案されるものは、高い親水性のポリエチレン酸化物(PEO)である。
【0014】
この提案には、第1に、PVDF−HFP及びPEOの混合物に対する適切な構成、換言すれば適切な機械的強さを維持すると共に混合物が大量の水を吸収するような構成、を抽出することが必要である。
【0015】
図1は、分での吸収時間tの関数として、PVDF−HFP及びPEOの異なる混合物に対して、%での重量増加(WG)曲線を表している線図である。使用されるPVDF−HFPコポリマーには、12%モルのHFPが含まれている。曲線1は、PVDF−HFPコポリマー(従って、PEOなし)に対応する。曲線2は、80重量%のPVDF−HFP及び20重量%のPEOを含む混合物に対応する。曲線3は、60重量%のPVDF−HFP及び40重量%のPEOを含む混合物に対応する。曲線4は、50重量%のPVDF−HFP及び50重量%のPEOを含む混合物に対応する。
【0016】
曲線のベル形状は、PEOが水に溶けることを示す。機械的強さを保証するのは、PVDF−HFPである。50重量%を超えるPEOの組成物が試験された。これらは、充分な機械的強さを有していない。しかしながら、二酸化ケイ素充填材の添加によって、PEOのパーセンテージが更に増加することが可能である。
【0017】
硫酸溶液での電気伝導率試験を実施した。その結果によって、30%のPEOを組み込んで得られた誘電率は非水バッテリのそれ(すなわち、1.61・10−4S・cm−1)よりも大きいことが示された。これにより、非常に高性能電解質が簡単に得られる。
【0018】
PVDF−HFP及びPEO混合物のフィルムは、実験的材料で形成されていてもよい。50重量%のPEOのフィルムに対して、錠剤(ピル)製造機器中に1gのPEOを導入して、フラスコの半分のマークまでアセトニトリルを添加する前に、1mLのエーテル中に分散させる。そして、PEOが充分に溶媒和するまで、栓をつけられたフラスコを煽動する。それから、12モル%のHFPを含む1gのPVDF−HFP、可塑剤として作用する2gのジ−nブチル・フタル酸塩(DBP)及びアセトンを、添加する。そして、堆積物の厚さを制御可能なドクターブレードによってガラスプレートに広げられる前に、2000回転数/分の適切な率で、この溶液を15分間混合する。溶媒の蒸発後、幅5cmそして長さ約1.2mのリボン形態で、フィルムが得られる。
【0019】
図2は、PVDF−HFP及びPEO混合物における、異なる濃度のHSO及び異なる重量のPEOに対する電気伝導率を表している線図である。曲線5は、1Mに等しいHSOの濃度に対してトレースされたものである。曲線6は、0.1Mに等しいHSOの濃度に対してトレースされたものである。
【0020】
活性剤を含むPVDF−HFP及びPEO混合物のプラスチックフィルムは、同様に形成されうるが、しかし、製造終了時に粉形態の活性剤を加えることによって形成されうる。3.66(質量比)に等しい活性剤/ポリマー比率を使用した。より多量の活性剤を使用することもできる。
【0021】
図3は、本発明による、銅の電着によって放出を制御される電気化学的電池を表す。この電池は、銅の格子11、活性炭、PVDF−HFP及びPEOの混合物で形成される層12、PVDF−HFP及びPEOの混合物で形成されるセパレータ13、銅又はステンレス鋼の格子で形成される電極14、及び、PVDF−HFP、PEO及び炭素粉の混合物で形成される層15、で形成される可撓性層の積層体を含む。
【0022】
格子11及び14は、約0.5mmのメッシュを含みうる。セパレータ13は、50重量%のPVDF−HFP(12モル%のHFP)及び40重量%のPEOを含む混合物で形成されうる。
【0023】
PVDF−HFP及びPEO混合物中のフィルム12、13及び15は、それらを形成するために用いられるDBPの除去によって多孔性にされた。この除去は、組み立てられた電池をエーテル中に配置することによって行われうる。多孔性になったこれらのフィルムを含む電池は、それから、この電解質を含んでいる容器に浸すことによって、電解水溶液で充填されうる。
【0024】
層12の厚さは、10μmから100μmでありうる。セパレータ13の厚さは、10μmから100μmでありうる。層15の厚さは、10μmから100μmでありうる。
【0025】
層11、12及び13は、PVDF―HFP及びPEOの混合物中の層12及び13の孔に浸透する溶液が注入される容器中で試験される半電池を形成する。この溶液は、0.5MのCuSO・5HOと1MのHSOで形成される。
【0026】
図4は、上述された電気化学的電池に対して得られた反射スペクトルを表す。Y軸は反射光Rを表し、そして、X軸は、電極14側の電池に入射した光の波長λを表す。
【0027】
電気化学的電池は、電極11及び電極14の間に、連続制御電圧によって又は電流によって供給される。曲線21は、この電池の初期状態を表している。層15に入射する光は、約20%の水準で反射される。0.2Aの制御電流の効果で、銅の堆積物は、層15のカーボン粒上に形成される。銅の堆積物は、1分間に単位cmにつき、3クーロンの割合で、そこに形成される。この状態で、層15に入射する光は、約60%の水準で反射される。これは、曲線22によって示される。他の制御電圧の効果で、前述のものと反対側で、銅は溶解する。この状態で、層15に入射する光は、約20%の水準で反射される。この電池は、従って、40%のコントラストを有する。
【0028】
本発明による電池の二重の利点は、短時間(約1分)で高いコントラストを有することである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明による電気化学的電池を形成するために用いる異なるコポリマーに対する重量増加曲線を表している線図である。
【図2】図2は、本発明による電気化学的電池を形成するために用いるコポリマーに対する硫酸の濃度の関数として、電気伝導率を表している線図である。
【図3】図3は、本発明による、銅の電着によって放出を制御される電気化学的電池を表す。
【図4】図4は、本発明による電気化学的電池に対して得られる反射スペクトルを表す。
【符号の説明】
【0030】
11 格子
12 層
13 セパレータ
14 電極
15 層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御電圧の動作の下で、電着によって制御される放出を有する電気化学的電池であって、
互いに接触して積層される以下の可撓性要素である、
制御電圧の第1電位に接続されることを意図している第1電極(11)、
PVDF−HFP、PEO及び活性炭粉の混合物で形成される第1多孔層(12)、
PVDF−HFP及びPEOの混合物で形成される多孔質セパレータ(13)、
格子形態で形成されて前記制御電圧の第2電位に接続された第2電極(14)、
PVDF−HFP、PEO及び活性炭粉の混合物で形成される第2多孔層(15)、
そして、第1可撓性層(12)、セパレータ(13)、第2可撓性層(15)中に含まれる、銅塩を含む水性電解液、を備える、電気化学的電池。
【請求項2】
前記第1電極は、金属箔、又は、金属格子によって形成されることを特徴とする請求項1に記載の電気化学的電池。
【請求項3】
前記第1電極は、ステンレス鋼箔で形成されることを特徴とする請求項2に記載の電気化学的電池。
【請求項4】
前記第1電極は、銅の格子によって形成されることを特徴とする請求項2に記載の電気化学的電池。
【請求項5】
前記第2電極は、銅又はステンレス鋼の格子であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学的電池。
【請求項6】
前記電解液の銅塩は、銅の硫酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学的電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2008−524821(P2008−524821A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547592(P2007−547592)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【国際出願番号】PCT/FR2005/051104
【国際公開番号】WO2006/067352
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(507058339)ヨーロピアン・エアロノーティック・ディフェンス・アンド・スペース・カンパニー・イーズ・フランス (6)
【Fターム(参考)】