説明

銅の電解採取方法

【課題】塩化第1銅を含む酸性水溶液から、給液中の銅濃度を極力低くしても、鉄の混入が少ない良好な析出状態の電着銅を得ることができる電解採取方法を提供する。
【解決手段】陰極室1、陽極室2、及び陽極室の側壁両面に設けられて両室を分離する隔膜から構成される電解槽を用いる隔膜電解法により、陰極室1に塩化第1銅を含む酸性水溶液を給液し、陽極室2に塩化鉄水溶液を給液して、銅を電解採取する方法において、前記陰極室1への給液は、陰極室1内の電解液上部に位置する陰極給液口4で行い、一方陰極室1からの排液は、陰極3の下端側の下部の電解液をサイフォン6により陰極排液口5からオーバーフロー方式で排出するとともに、陰極室内の電解液の銅濃度は、15〜50g/Lに制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅の電解採取方法に関し、さらに詳しくは、陰極室、陽極室、及び前記両室を分離する隔膜から構成される電解槽を用いる隔膜電解法により、該陰極室に塩化第1銅を含む酸性水溶液を給液し、一方該陽極室に塩化鉄水溶液を給液して、銅を電解採取する方法において、該陰極室への給液中の銅濃度を極力低くしても、鉄の混入が少ない良好な析出状態の電着銅を得ることができる電解採取方法に関する。
これにより、硫化銅鉱物を含む銅原料から、銅イオンを含む浸出生成液を得る塩素浸出工程、該浸出生成液を還元して1価の銅イオンを含む還元生成液を得る銅イオン還元処理工程、該還元生成液を溶媒抽出に付し、銅を含む逆抽出生成液と抽出残液とを得る溶媒抽出工程、該逆抽出生成液を電解採取に付し、電着銅を得る銅電解採取工程、及び該溶媒抽出工程で得られる抽出残液を鉄電解採取に付し、電着鉄を得る鉄電解採取工程を含む湿式製錬法で銅を回収するプロセスにおいて、該溶媒抽出工程から産出される逆抽出生成液から、1価銅電解により効率的に銅を電解採取することができる。
【背景技術】
【0002】
銅の電解採取方法は、近年開発が要請されている湿式銅製錬プロセスにおいて、その実用上の効率性向上にとって重要な技術的課題のひとつである。
現在、世界の銅の大部分が、硫化銅精鉱を原料とした乾式溶錬法によって製造されている。黄銅鉱など硫化銅鉱物を含有する鉱石を浮遊選鉱などの物理分離手段によって硫化鉱物を濃集したものである硫化銅精鉱を原料とした乾式溶錬法では、まず高温雰囲気中で溶解して、原料に含まれる鉄分および脈石をスラグとして分離して、銅マットを製造する。次いで銅マットを酸素など酸化剤の存在下で鉄分をスラグとして、硫黄をSOガスとして除去して粗銅を得る方法が用いられる。
【0003】
しかしながら、乾式溶錬法による銅製錬は、大量の鉱石を効率よく処理するのに適した方法であるが、通常は大型設備のため膨大な設備投資が必要であり、生成する大量のSOガスの処理が不可欠である。これら乾式溶錬法による銅製錬の課題を解決するために、近年、湿式法による製錬方法が研究されている。従来、湿式法による銅精錬としては、銅酸化鉱物を含有する銅鉱石を原料として、積み上げた鉱石に硫酸を散布して銅を浸出し、浸出生成液を溶媒抽出法で処理して銅濃度を上げて、電解採取する方法が工業的に広く用いられている。しかしながら、銅鉱石の大部分を占める硫化鉱の場合、含有鉱物として最も賦存量の多い黄銅鉱に関しては、硫酸による浸出反応がきわめて難しく銅浸出率が低く、かつ浸出速度が遅いので、乾式溶錬に匹敵する生産性を得ることは困難であると言われている。
【0004】
そこで、黄銅鉱を始めとする硫化銅鉱物を含む銅原料の湿式製錬法において、原料中に共存する硫黄の酸化を抑制しながら、銅を完全に浸出して回収し、また同時に随伴する有価金属も回収して、浸出残渣などの廃棄物量を可能な限り減少し有効に活用することができる製錬方法が検討されている。例えば、塩素浸出工程、銅と鉄の分離工程、銅電解採取工程、及び鉄電解採取工程を有する塩化浴での湿式精錬プロセスで硫化銅鉱物を含有する原料を処理する方法では、乾式溶錬法の多くの基本的な課題のほか、湿式製錬法としての課題が解決される。しかしながら、このプロセスを工業的に実施するためには、効率的な銅の電解採取方法の開発が望まれていた。
【0005】
この解決策として、上記硫化銅鉱物を含む銅原料の湿式製錬法に用いる隔膜電解法による電解槽において、陽極室への給液が隔膜を通じて該陰極室へ流入するのを防止するため、給液及び排液が陰極室と陽極室のそれぞれで個別に行われ、陰極室に塩化第1銅を含む酸性水溶液を給液し、一方陽極室に塩化鉄水溶液を給液し、かつ陰極室の液面レベルを陽極室のそれよりも高くする構造にする方法(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。
【0006】
ところで、上記硫化銅鉱を含む銅原料の湿式製錬法において、銅電解採取工程の陰極室への給液中には鉄イオンも含まれている。また、銅電解を通過した後の電解廃液を溶媒抽出工程の逆抽出に用いることから、電解廃液中の銅濃度はできるかぎり低いことが望ましい。そのためには、銅電解で採取される銅イオンの量には制限があることから、銅電解への給液の銅濃度もまたできるだけ低いことが望まれる。
【0007】
しかしながら、銅電解の給液における銅濃度が低い場合には、銅電解において電着銅の形状が不安定になり、かつ銅だけでなく不純物元素となる鉄の電着が起こることがある。このため、電解液の銅濃度をできるだけ低く保ちつつ、形状、不純物濃度等の品質を高く保つため、鉄の混入が少ない良好な析出状態の電着銅を得ることが困難であるという課題があった。特に、銅濃度の低い電解液での銅電解においては、電解槽中で電解液が供給される近傍では、給液された電解液から銅が局所的に優先的に電着しまうので、電解廃液が排出される近傍では、銅濃度が低くなりすぎるため、鉄の方が優先的に電着する範囲となり、結果として鉄が電着し、電着物の形状又は品質に問題を起こすことがあった。
【0008】
以上の状況から、硫化銅鉱物を含む銅原料の塩素浸出を含む一連の工程からなる湿式製錬法における銅電解採取において、鉄の混入が少ない良好な析出状態の電着銅を得るとともに、給液中の銅濃度を極力低く保ち、しかも局所的な銅濃度の低下及び鉄の電着が起こらないように、電解槽内の銅濃度をできるだけ均一にすることができる電解採取方法が求められていた。
【0009】
【特許文献1】特開2005−60813号公報(第1〜3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、陰極室、陽極室、及び前記両室を分離する隔膜から構成される電解槽を用いる隔膜電解法により、該陰極室に塩化第1銅を含む酸性水溶液を給液し、一方該陽極室に塩化鉄水溶液を給液して、銅を電解採取する方法において、該陰極室への給液中の銅濃度を極力低くしても、鉄の混入が少ない良好な析出状態の電着銅を得ることができる電解採取方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために、隔膜電解法により、該陰極室に塩化第1銅を含む酸性水溶液を給液し、一方該陽極室に塩化鉄水溶液を給液して、銅を電解採取する方法について、鋭意研究を重ねた結果、該陰極室での給液及び排液を該陰極室内の特定の位置で行って、陰極室内の電解液の銅濃度を均一に保つとともに、陰極室内の電解液を特定の銅濃度に制御したところ、鉄の混入が少ない良好な析出状態の電着銅を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、陰極室、陽極室、及び前記両室を分離する隔膜から構成される電解槽を用いる隔膜電解法により、該陰極室に塩化第1銅を含む酸性水溶液を給液し、一方該陽極室に塩化鉄水溶液を給液して、銅を電解採取する方法において、
前記陰極室への給液は、該陰極室内の電解液上部で行い、一方該陰極室からの排液は、該陰極室内の陰極下端より下部の電解液から行うとともに、陰極室内の電解液の銅濃度は、15〜50g/Lに制御することを特徴とする銅の電解採取方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記電解槽は、陰極室の内部空間中に陽極室が設置され、該陽極室の側壁両面に設けられた隔膜により、両室が仕切られている構造を有することを特徴とする銅の電解採取方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記塩化第1銅を含む酸性水溶液は、銅原料から、銅イオンを含む浸出生成液を得る塩素浸出工程、該浸出生成液を還元して1価の銅イオンを含む還元生成液を得る銅イオン還元処理工程、該還元生成液を溶媒抽出に付し、銅を含む逆抽出生成液と抽出残液とを得る溶媒抽出工程、該逆抽出生成液を電解採取に付し、電着銅を得る銅電解採取工程、及び該溶媒抽出工程で得られる抽出残液を鉄電解採取に付し、電着鉄を得る鉄電解採取工程を含む湿式製錬法で銅を回収するプロセスにおいて、該溶媒抽出工程から産出される逆抽出生成液であることを特徴とする銅の電解採取方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、前記塩化鉄水溶液は、銅原料から、銅イオンを含む浸出生成液を得る塩素浸出工程、該浸出生成液を還元して1価の銅イオンを含む還元生成液を得る銅イオン還元処理工程、該還元生成液を溶媒抽出に付し、銅を含む逆抽出生成液と抽出残液とを得る溶媒抽出工程、該逆抽出生成液を電解採取に付し、電着銅を得る銅電解採取工程、及び該溶媒抽出工程で得られる抽出残液を鉄電解採取に付し、電着鉄を得る鉄電解採取工程を含む湿式製錬法で銅を回収するプロセスにおいて、該鉄電解採取工程から産出される電解廃液であることを特徴とする銅の電解採取方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の銅の電解採取方法は、塩化第1銅を含む酸性水溶液から、銅電解への給液中の銅濃度を極力低くしても、鉄の混入が少ない良好な析出状態の電着銅を得ることができる電解採取方法であり、その工業的価値は極めて大きい。これにより、硫化銅鉱物を含む銅原料から、銅イオンを含む浸出生成液を得る塩素浸出工程、該浸出生成液を還元して1価の銅イオンを含む還元生成液を得る銅イオン還元処理工程、該還元生成液を溶媒抽出に付し、銅を含む逆抽出生成液と抽出残液とを得る溶媒抽出工程、該逆抽出生成液を電解採取に付し、電着銅を得る銅電解採取工程、及び該溶媒抽出工程で得られる抽出残液を鉄電解採取に付し、電着鉄を得る鉄電解採取工程を含む湿式製錬法で銅を回収するプロセスにおいて、該銅電解採取工程において、該溶媒抽出工程の逆抽出液として好適に使用することができるほど銅濃度が低く、しかも鉄の電着を防止することができるほど銅濃度が高い陰極廃液を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の銅の電解採取方法を詳細に説明する。
本発明の銅の電解採取方法は、陰極室、陽極室、及び前記両室を分離する隔膜から構成される電解槽を用いる隔膜電解法により、該陰極室に塩化第1銅を含む酸性水溶液を給液し、一方該陽極室に塩化鉄水溶液を給液して、銅を電解採取する方法において、前記陰極室への給液は、該陰極室内の電解液上部で行い、一方該陰極室からの排液は、該陰極室内の陰極下端より下部の電解液から行うとともに、陰極室内の電解液の銅濃度は、15〜50g/Lに制御することを特徴とする。
【0018】
本発明の銅の電解採取方法において、陰極室への給液を陰極室内の電解液上部で行い、一方陰極室からの排液を陰極室内の陰極下端より下部の電解液から行うこと、及びそのときの陰極室内の電解液の銅濃度を15〜50g/Lに制御することの2点が重要である。
【0019】
すなわち、陰極室への給液を陰極室内の電解液上部で行い、一方陰極室からの排液を陰極室内の陰極下端より下部の電解液から行うことにより、陰極室内の電解液の上下方向での銅濃度の均一化が実現される。その結果、銅濃度が極端に低い場所の形成を防止して、銅濃度の低下に伴う鉄の局所的な電着を防止することができる。
【0020】
さらに、この際、陰極室内の電解液の銅濃度を15〜50g/L、好ましくは18〜40g/Lに制御することにより、電着鉄の析出を略完全に防止することができ、生成された電着鉄によるセメンテーション反応に伴う電解銅の品質悪化を防止することができる。
【0021】
すなわち、鉄イオンが銅イオンと共存する塩化物水溶液を用いる電解採取において、銅電解における銅濃度の影響としては、一般的な塩化浴における銅電解採取で用いられる電流密度である100〜500A/mの場合、銅濃度が15g/L未満では、銅電着だけでなく、同時に鉄の電着が確実に起きる。このとき、電着鉄は、ただちに溶液中で銅イオンとセメンテーション反応を起こし、電着鉄が溶解し、溶液中に残存する銅イオンが金属銅に還元されて非常に細かい粉状の澱物を形成する。なお、このセメンテーション反応は、完全に反応が進行しないので、細かい粉状態の銅中に鉄が残存し、電解銅としての品質上の問題となる。このため、銅の電解採取において、電解鉄の電着を防止することが肝要である。ところで、陰極室内の電解液の銅濃度には、ばらつきがあり、ある程度余裕をもたせた銅濃度で管理する必要がある。そのため、より実用的には、陰極室内の電解液の銅濃度としては、18g/L以上の濃度になるように管理することが望ましい。
一方、銅濃度が50g/Lを超えると、銅電解採取の陰極廃液が逆抽出始液として溶媒抽出工程に送られる際に、銅濃度が高いため溶媒抽出工程での逆抽出において銅を溶液中に排出することが困難になる。
【0022】
本発明の銅の電解採取方法を図面を用いて説明する。図1は、本発明で用いる隔膜電解槽の構造の一例を表す概要図である。
図1において、隔膜電解槽は、陰極室1と2槽の陽極室2からなり、陰極室1の内部空間中に、陽極室2が設置され、この陽極室2の側壁両面に設けられた隔膜により陰極室1と陽極室2とが仕切られている。陰極室1には、3個の陰極3が設置され、陰極給液が陰極給液口4から供給され、陰極排液口5を通じてサイフォン6により陰極下端より下部の電解液から陰極廃液がオーバーフロー方式で排出され、液面レベルが所定の高さに維持される。また、陽極室2には、陽極7が設置され、陽極給液が供給され、陽極廃液がオーバーフロー方式で排出され、液面レベルが所定の高さに維持される。なお、陽極室の槽数、陰極の個数及び陽極室の給排液の方式は、適宜選択される。
【0023】
上記隔膜電解槽において、陰極室1への給液は、陰極給液口4を通じて陰極室内の電解液上部になされるが、例えば、電解給液の配管を電解槽上部に設置し、陰極室の液面直上から、液面上又は陰極室の深さの10〜20%に当たる深さ方向の位置に給液することもできる。この際、給液の先端部としては、特に限定されるものではなく、通常の丸い管状の形状のものが用いられるが、陰極室の陰極全体に渡って満遍なく給液される形状のものが好ましい。
【0024】
一方、陰極室1からの排液は、陰極排液口5を通じて、陰極室内の底部、もしくは陰極の下端よりも下方部の電解液から抜き出されるが、ポンプでの強制排出又は静水圧での押し出しによって払いだすことができる。静水圧での押し出しによる方法では、一般的には、サイフォン6を設ける方法、又は電解槽の側面部に切れ込みを入れてそこからオーバーフローさせる方法が簡便である。
【0025】
ここで、陰極室内の電解液銅濃度の制御としては、陰極室への給液中の銅濃度を調整するとともに、給液の流量の調整することにより容易に行われる。なお、その条件は、実効電流量などの操業条件により変えられる。また、このような制御をより確実にするためには、定期的に陰極廃液の銅濃度を分析すること、或いは生成した銅粉末への鉄の巻き込みの有無を磁石により確認することなどの方法で確認すれば良い。
【0026】
ところで、上記陽極室の給排液の方法としては、特に限定されるものではなく、電解液を陽極室の上部から供給して下部から排出する、又は陽極室の下部から供給して上部から排出する方法がとられる。
【0027】
上記隔膜電解槽に用いる陰極としては、特に限定されるものではなく、例えば、金属銅、チタン、ステンレス等が用いられる。また、上記隔膜電解槽に用いる陽極としては、特に限定されるものではなく、食塩電解等を行い際に、塩化物水溶液から塩素ガス発生用に用いる不溶性電極、例えば、商品名DSE(ペルメレック電極(株)製)等の市販の電極が用いられる。
【0028】
上記隔膜電解槽に用いる隔膜としては、特に限定されるものではなく、例えば濾布又は固体電解質膜が用いられるが、この中で、目が細かく通水度が低くなるように織られた濾布が好ましい。なお、固体電解質膜は、濾布と比べてコストが高く、また不純物に弱い。すなわち、上記隔膜電解槽では、陽極室への給液が隔膜を通じて陰極室へ流入するのを防止する構造とするため、陰極室液と陽極室液とが分離されるが、隔膜を通してイオン及び電気が通過する必要があるので、陰極室液と陽極室液を厳格に分割するものではない。したがって、陰極室に酸化された陽極室液が自由に流入しない構造であればよく、イオン及び水の通過を完全に停止するものである必要はない。
【0029】
上記隔膜の通水度としては、特に限定されるものではないが、0.04〜0.15L/m.sが好ましい。すなわち、通水度が0.04L/m.s未満では、液の移動が少ないため槽電圧が上昇し、また濾布のコストも上昇する。一方、通水度が0.15L/m.sを超えると、液の移動の増加により陰極室で電着した銅が再溶解するなどして銅収率が低下する。
【0030】
上記方法で用いる塩化第1銅を含む酸性水溶液としては、特に限定されるものではないが、1価銅電解に付すため、種々の原料から湿式製錬法で銅を回収するプロセスから産出される銅の大部分を塩化第1銅として含む酸性水溶液が用いられる。ここで、鉄等の銅よりも卑な元素を不純物として含有する液も用いることができる。
また、上記方法で用いる塩化鉄水溶液としては、特に限定されるものではなく、例えば、エッチング、鉄電解等から産出される廃液も用いられるが、種々の原料から湿式製錬法で銅を回収するプロセスから産出される塩化鉄を含む酸性水溶液が用いられる。
【0031】
上記銅を回収するプロセスとしては、特に限定されるものではないが、例えば銅原料から、銅イオンを含む浸出生成液を得る塩素浸出工程、該浸出生成液を還元して1価の銅イオンを含む還元生成液を得る銅イオン還元処理工程、該還元生成液を溶媒抽出に付し、銅を含む逆抽出生成液と抽出残液とを得る溶媒抽出工程、該逆抽出生成液を電解採取に付し、電着銅を得る銅電解採取工程、及び該溶媒抽出工程で得られる抽出残液を鉄電解採取に付し、電着鉄を得る鉄電解採取工程を含む湿式銅製錬法が挙げられ、この場合、上記塩化第1銅を含む酸性水溶液としては、上記溶媒抽出工程から産出される逆抽出生成液、また、上記塩化鉄水溶液としては、鉄電解採取工程から産出される鉄電解廃液が好ましく用いられる。
【0032】
上記湿式銅製錬法を図面を用いて説明する。図2は、硫化銅鉱物を含む銅原料から銅と鉄を回収するプロセス工程図の一例を表す。ここで、銅電解採取工程において、溶媒抽出工程から産出される逆抽出生成液が塩化第1銅を含む酸性水溶液として陰極給液に、また、鉄電解採取工程から産出される鉄電解廃液が塩化鉄水溶液として陽極給液に好ましく用いられる。
図2において、銅原料19は、最初に塩素浸出工程12に付され、銅、鉄等を含有する浸出生成液と硫黄含有残渣とに分離される。浸出生成液は、銅イオン還元処理工程13に付され、浸出生成液中の銅イオンは還元され、1価の銅イオンを含む還元生成液が得られる。ここで、還元剤として硫化銅鉱物を含む銅原料を用いる場合は、この残渣は塩素浸出工程12へ循環される。還元生成液は、溶媒抽出工程14に付され、溶媒抽出及び逆抽出により1価の銅イオンを含有する逆抽出生成液と抽出残液に分離される。逆抽出生成液は、銅電解採取工程15に付され、銅は電着銅20として回収される。
【0033】
また、製錬処理の原料の種類にもよるが、通常硫化銅鉱物を含む銅鉱石は、銅とほぼ同量に近い鉄を含有しており、前記溶媒抽出工程14における抽出残液には、多量の鉄イオンが含まれる。したがって、溶媒抽出工程14における抽出残液は、必要に応じて浄液工程16に付され、鉄イオン含有精製液と鉄以外の有価金属固形物とに分離される。鉄イオン含有精製液は、鉄電解採取工程17に付され、鉄は電着鉄21として回収される。
【0034】
また、塩素浸出工程12で分離された硫黄含有残渣は浸出残渣処理工程18に付され、元素状硫黄が回収される。さらに、銅電解採取工程15で分離された電解廃液は、陰極廃液が逆抽出給液として溶媒抽出工程14に、陽極廃液が浸出液として塩素浸出工程12に再循環される。また、鉄電解採取工程17で得られる電解廃液は陽極給液として銅電解採取工程15へ送られる。
【0035】
上記湿式製錬法の原料としては、特に限定されるものではなく、例えば、硫化銅鉱物を含む銅原料、また、銅メッキ被覆鉄系材料、自動車、家電製品等のシュレッダー処理産出物等のリサイクル工程から産出する合金など銅及び鉄を含む銅原料が用いられる。硫化銅鉱物を含む銅原料としては、黄銅鉱(CuFeS)、輝銅鉱(CuS)、斑銅鉱(CuFeS)などの硫化銅鉱物を含む銅鉱石、硫化銅鉱物を含む鉱石から浮遊選鉱法などによって硫化銅鉱物を濃集した銅精鉱および銅精鉱など濃集物から乾式溶錬法で得られる銅マットが含まれ、さらには、これらと同時処理される硫化物状、酸化物状、金属状の各種含銅原料がある場合も含まれる。
【0036】
上記塩素浸出工程は、硫化銅鉱物を含む銅原料を塩化第2銅、塩化第2鉄などを含む酸性塩化物水溶液中に懸濁させ、塩素を吹きこんで主に硫化銅鉱物を浸出して銅、鉄等を溶出させ、銅イオン、鉄イオンを含む浸出生成液と元素状硫黄を含む残渣とを形成する工程である。
【0037】
上記銅イオン還元処理工程は、2価銅イオン、2価鉄イオン及び3価鉄イオン等を含有する浸出生成液に還元剤を添加してイオンの還元処理を行い、浸出生成液に含有される2価銅イオンを1価銅イオンに還元し、同時に3価鉄イオンも2価鉄イオンに還元する。
上記溶媒抽出工程は、還元生成液から1価銅イオンのみを選択的に有機溶媒に抽出し、溶媒抽出液から逆抽出により逆抽出生成液として塩化第1銅を含む酸性水溶液を得るとともに鉄イオンを含有する抽出残液を得る工程である。この抽出剤は、トリブチルフォスフェイトなどの中性抽出剤が好ましい。
【0038】
上記鉄電解採取工程は、溶媒抽出工程の抽出残液から鉄を電解採取して、陰極に析出された電着鉄と銅電解採取工程に好適な陽極給液を形成する工程である。鉄の電解採取方法は、特に限定されるものではないが、例えば、通常の隔膜電解法を用いて前記溶媒抽出工程の抽出残液を鉄電解給液として電解槽の陰極給液とし、陽極室から陽極廃液を得る。
【0039】
以上のように、湿式銅製錬法で本発明の銅の電解採取方法を用いた銅電解採取工程においては、溶媒抽出工程の逆抽出生成液が銅電解採取工程の給液として用いられ、給液中の銅濃度を極力低くした条件で、鉄の混入が少ない良好な析出状態の電着銅として回収される。さらに、銅電解採取工程で分離された電解廃液は、陰極廃液が逆抽出給液として溶媒抽出工程に再循環される。また、鉄電解採取工程で得られる電解廃液は陽極給液として銅電解採取工程へ送られ、この陽極廃液が浸出液として塩素浸出工程に再循環される。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例及び比較例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析は、ICP発光分析法で行った。
【0041】
(実施例1)
図1に示す構造の隔膜電解槽を用いて電解採取を行い、電着銅の析出状態と陰極室内の銅濃度を求め評価した。
隔膜電解槽としては、塩化ビニール製の縦450mm、横350mm及び高さ600mmの大きさの箱型のものを使用した。前記電解槽の中には、縦350mm、横40mm及び高さ400mmの大きさの陽極室を2槽設置し、陰極室と陽極室の間には目が細かい通水度の低いテトロン製の濾布(通水度0.06L/m.s)にて仕切りを設けた。ここで、陰極としては、ペルメレック電極(株)製の不溶性アノードで、340mm×330mmのものを2枚使用した。また、陰極としては、チタン板を陽極と電極面積が同じとなるようにマスキングしたもの3枚を用いた。
ここで、陰極室内の液面上に給液し、電解槽底部の電解液が側面の陰極排液口から排液された。
【0042】
銅電解始液としては、硫化鉱銅鉱精鉱を塩素浸出して得た液を硫化鉱銅精鉱で還元し、それを溶媒抽出で分離した塩化銅溶液に対応する、銅濃度が40g/L、鉄濃度が55g/L、及び塩素イオン濃度が170g/Lの塩化物水溶液を用いた。
この溶液を、塩酸でpHが1.0程度になるように調整した後、給液温度が50〜60℃及び給液速度が300mL/分の条件で給液した。また、通電は、電流密度390A/mで24時間行った。その後、電解槽内の液が安定した時点で、細いテフロン(登録商標)製のチューブを接続した注射器で陰極室内部から電解液のサンプリングを行い、銅濃度を分析した。その結果、陰極室上部での電解液の銅濃度は、18g/Lであり、一方陰極室下部での電解液の銅濃度は19g/Lであり、上下の銅濃度差は1g/Lと陰極室内部の銅濃度分布は略均一であった。
なお、この状態では、陰極室上部においても銅の供給は十分であり、セメンテーションによる粉状物が形成されない正常な析出状態の銅電着物が得られた。
【0043】
(比較例1)
図3に示す構造の隔膜電解槽を用いた。
給液方法としては、図3において、陰極室の底部に設けた陰極給液口4から給液し、陰極室の上部に設けられたオーバーフロー方式の陰極排液口5から排液するようにしたこと以外は、実施例1と同様に行い、その後、電解槽内の液が安定した時点で、細いテフロン(登録商標)製のチューブを接続した注射器で陰極室内部から電解液のサンプリングを行い、銅濃度を分析した。その結果、陰極室上部での電解液の銅濃度は、14g/Lであり、一方陰極室下部での電解液の銅濃度は33g/Lであり、上下の銅濃度差は19g/Lと陰極室内部の銅濃度分布のばらつきが大きくなった。
なお、この状態では、陰極室上部においては銅の供給は不十分であり、かつ鉄の電着も生じるので、セメンテーションによる粉状物で形成された銅電着物が得られた。
【0044】
(比較例2)
銅電解始液としては、硫化鉱銅鉱精鉱を塩素浸出して得た液を硫化鉱銅精鉱で還元し、それを溶媒抽出で分離した塩化銅溶液に対応する、銅濃度が35g/L、鉄濃度が55g/L、及び塩素イオン濃度が170g/Lの塩化物水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、その後、電解槽内の液が安定した時点で、細いテフロン(登録商標)製のチューブを接続した注射器で陰極室内部から電解液のサンプリングを行い、銅濃度を分析した。
その結果、陰極室上部での電解液の銅濃度は、14g/Lと低くなり、この状態では、陰極室上部においては銅の供給は不十分であり、かつ鉄の電着も生じるので、セメンテーションによる粉状物で形成された銅電着物が得られた。
【0045】
以上より、実施例1では、陰極室への給液は、該陰極室内の電解液上部で行い、一方該陰極室からの排液は、該陰極室内の電解液下部から行うとともに、陰極室内の電解液の銅濃度は、15〜50g/Lに制御され、本発明の方法に従って行われたので、鉄の析出に伴うセメンテーションによる粉状物が形成されない正常な析出状態の銅電着物が生成されることが分かる。
これに対して、比較例1又は2では、給液の条件又は陰極室内の電解液の銅濃度のいずれかがこれらの条件に合わないので、生成される銅電着物において満足すべき結果が得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上より明らかなように、本発明の銅の電解採取方法は、給液中の銅濃度を極力低くしても、鉄の混入が少ない良好な析出状態の電着銅が得られる1価銅電解方法として、好適である。さらに、特に、銅原料から、銅イオンを含む浸出生成液を得る塩素浸出工程、該浸出生成液を還元して1価の銅イオンを含む還元生成液を得る銅イオン還元処理工程、該還元生成液を溶媒抽出に付し、銅を含む逆抽出生成液と抽出残液とを得る溶媒抽出工程、該逆抽出生成液を電解採取に付し、電着銅を得る銅電解採取工程、及び該溶媒抽出工程で得られる抽出残液を鉄電解採取に付し、電着鉄を得る鉄電解採取工程を含む湿式銅製錬法における銅電解採取工程として用いる際に、より有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明で用いる隔膜電解槽の構造の一例を表す概要図である。(実施例1)
【図2】硫化銅鉱物を含む銅原料から銅と鉄を回収するプロセスの一例を表す工程図である。
【図3】隔膜電解槽の構造の一例を表す概要図である。(比較例1)
【符号の説明】
【0048】
1 陰極室
2 陽極室
3 陰極
4 陰極給液口
5 陰極排液口
6 サイフォン
7 陽極
12 塩素浸出工程
13 銅イオン還元処理工程
14 溶媒抽出工程
15 銅電解採取工程
16 浄液工程
17 鉄電解採取工程
18 浸出残渣処理工程
19 銅原料
20 電着銅
21 電着鉄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極室、陽極室、及び前記両室を分離する隔膜から構成される電解槽を用いる隔膜電解法により、該陰極室に塩化第1銅を含む酸性水溶液を給液し、一方該陽極室に塩化鉄水溶液を給液して、銅を電解採取する方法において、
前記陰極室への給液は、該陰極室内の電解液上部で行い、一方該陰極室からの排液は、該陰極室内の陰極下端より下部の電解液から行うとともに、陰極室内の電解液の銅濃度は、15〜50g/Lに制御することを特徴とする銅の電解採取方法。
【請求項2】
前記電解槽は、陰極室の内部空間中に陽極室が設置され、該陽極室の側壁両面に設けられた隔膜により、両室が仕切られている構造を有することを特徴とする請求項1に記載の銅の電解採取方法。
【請求項3】
前記塩化第1銅を含む酸性水溶液は、銅原料から、銅イオンを含む浸出生成液を得る塩素浸出工程、該浸出生成液を還元して1価の銅イオンを含む還元生成液を得る銅イオン還元処理工程、該還元生成液を溶媒抽出に付し、銅を含む逆抽出生成液と抽出残液とを得る溶媒抽出工程、該逆抽出生成液を電解採取に付し、電着銅を得る銅電解採取工程、及び該溶媒抽出工程で得られる抽出残液を鉄電解採取に付し、電着鉄を得る鉄電解採取工程を含む湿式製錬法で銅を回収するプロセスにおいて、該溶媒抽出工程から産出される逆抽出生成液であることを特徴とする請求項1に記載の銅の電解採取方法。
【請求項4】
前記塩化鉄水溶液は、銅原料から、銅イオンを含む浸出生成液を得る塩素浸出工程、該浸出生成液を還元して1価の銅イオンを含む還元生成液を得る銅イオン還元処理工程、該還元生成液を溶媒抽出に付し、銅を含む逆抽出生成液と抽出残液とを得る溶媒抽出工程、該逆抽出生成液を電解採取に付し、電着銅を得る銅電解採取工程、及び該溶媒抽出工程で得られる抽出残液を鉄電解採取に付し、電着鉄を得る鉄電解採取工程を含む湿式製錬法で銅を回収するプロセスにおいて、該鉄電解採取工程から産出される電解廃液であることを特徴とする請求項1に記載の銅の電解採取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−167451(P2009−167451A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5209(P2008−5209)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】