説明

銅の電解精製装置及びそれを用いた銅の電解精製方法

【課題】電解液中の膠の濃度管理を良好に行うことで品質の良好な電気銅を作製できる銅の電解精製装置及びそれを用いた銅の電解精製方法を提供する。
【解決手段】銅の電解精製装置10は、銅の電解槽17と、電解液供給部11と、膠の水溶液を供給する膠溶解槽13と、膠濃度検出部と、膠の水溶液の供給量を制御する膠供給量制御部とを備える。膠の濃度の算出に当たっては、銅の電解精製装置に循環利用されている電解液を電気分解して測定したカソード電位と、この液に所定量の膠を新たに添加して電気分解して測定したカソード電位との差を算出し、カソード電位差と膠の添加濃度との検量線を作製しておく。膠濃度検出部は、電解槽に供給する前の膠が添加された電解液で測定したカソード電位と、電解槽から排出された電解液で測定したカソード電位との差から、前記検量線に基づき電解液中の膠の濃度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅の電解精製装置及びそれを用いた銅の電解精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅の電解精製では、一般に、電解槽に供給する電解液に、電気銅表面の外観を向上させるために膠を添加している。ここで、電解液中には、塩酸や硫酸が含まれており、動物性タンパク質で高分子物質である膠は、これらの酸により分解されやすく、低分子化しやすいという性質を有する。また、膠を塩酸や硫酸と混合させず、中性の水溶液中で取扱う場合には、膠は腐食しやすいという性質も有している。
膠が電解液中の酸により低分子化した場合(すなわち、電解液中の膠濃度が低下した場合)、電気銅に対する膠効果が低下し、電気銅板表面に瘤状の異常成長部分が発生しやすくなり、表面荒れによる品質の低下や電極板間の短絡(ショート)による生産効率の低下に繋がる。一方、膠の添加量を増量し、膠濃度が高くなり過ぎた場合には、電解液中に過剰に添加された膠による電解液抵抗が増化し、印加電圧を高電圧化しなければならず、消費電力の増大に繋がる。このため、電解液中の膠濃度を最適値に管理することが求められている。
【0003】
従来の電解液中の膠の濃度管理として、例えば、特許文献1では、電気銅1トン当たり膠を80g添加する、いわゆる原単位管理を行っている。
また、特許文献2では、電解液から膠を液体クロマトグラフィにより分離してその濃度を検出することで、膠の添加量の管理を行っている。
さらに、特許文献3では、試料液から陽イオン交換カラムで膠を分離し、紫外線吸光光度計にて膠による紫外吸収量を測定することにより、膠の濃度を定量評価し、管理している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3428607号公報
【特許文献2】特開2009−69001号公報
【特許文献3】特開2001−147197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の原単位管理によれば、電解液中での膠の劣化現象が不安定であるため、膠の濃度管理が不十分となってしまう。また、特許文献2及び3の濃度管理によれば、濃度測定対象となる試料を電解液から採取して分析する間に膠が分解・劣化するため、測定結果にばらつきが生じ、膠の濃度管理を良好に行うことは困難である。
【0006】
そこで、本発明は、電解液中の膠の濃度管理を良好に行うことで品質の良好な電気銅を作製できる銅の電解精製装置及びそれを用いた銅の電解精製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、電解液への添加剤の中でも特に膠はカソード電位に大きく影響を与えることに着目し、この性質を利用してカソード電位をモニターすることで、連続的に電解液中の膠濃度を検出し、これにより膠濃度を良好に管理できることを見出した。
【0008】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、銅の電解槽と、前記電解槽へ電解液を供給する電解液供給部と、膠の水溶液を前記電解液供給部へ供給する膠水溶液供給部と、銅の電解精製装置を循環する電解液から膠の濃度を算出する膠濃度検出部と、前記膠濃度の検出結果に基づいて前記膠水溶液供給部からの膠の水溶液の供給量を制御する膠供給量制御部と、を備え、前記膠濃度検出部は、前記銅の電解精製装置において、電解槽に供給する前の所定量の膠を添加した電解液を採取し該電解液を電気分解することにより測定したカソード電位と、電解槽から排出された電解液を採取して該電解液を電気分解することにより測定したカソード電位との差を算出し、前記カソード電位の差と、あらかじめ銅の電解精製装置に循環利用されている電解液を採取し、前記電解槽とは異なる試験電解槽内で電気分解することにより測定したカソード電位と、該試験電解槽とは別の試験電解槽内で、採取した電解液に所定量の膠を新たに添加して電気分解することにより測定したカソード電位との差を算出し、該カソード電位差と膠の添加濃度との検量線を作製し、該検量線に基づき、循環利用されている電解液中の膠の濃度を算出する銅の電解精製装置である。
【0009】
本発明に係る銅の電解精製装置の一実施形態において、前記検量線は、前記膠濃度検出部において、銅の電解精製装置を循環する電解液を採取し、該電解液について所定濃度の膠を添加した電解液のカソード電位の経時変化を測定し、その経時変化が飽和状態に達したときのカソード電位と、銅の電解精製装置を循環する電解液を採取し、該循環電解液に膠を新たに添加しないで、所定濃度の膠が残留している電解液のカソード電位の経時変化を測定し、その経時変化が飽和状態に達したときのカソード電位との差を算出し、前記カソード電位の差の算出が膠の添加濃度を変えて複数回行われて得られた複数の電位差から導かれる。
【0010】
本発明に係る銅の電解精製装置の別の一実施形態においては、膠濃度検出部が膠供給量制御部を兼ねている。
【0011】
本発明に係る銅の電解精製装置の更に別の一実施形態においては、膠水溶液供給部は、連続して供給される膠を連続的に溶解して作製した膠の水溶液を、電解液供給部へ連続的に供給する膠溶解槽である。
【0012】
本発明に係る銅の電解精製装置の更に別の一実施形態においては、膠溶解槽に膠を連続して供給する膠供給部をさらに備える。
【0013】
本発明に係る銅の電解精製装置の更に別の一実施形態においては、膠水溶液供給部は、チオ尿素及び塩酸をさらに含む。
【0014】
本発明は別の一側面において、あらかじめ銅の電解精製装置に循環利用されている電解液に膠を添加して電気分解することにより測定したカソード電位と、銅の電解精製装置に循環利用されている電解液に膠を新たに添加しないで電気分解することにより測定したカソード電位との差から検量線を導く第1の工程と、前記銅の電解精製装置において、電解槽に供給する前の膠が添加された電解液を採取し、該電解液を電気分解することによりカソード電位を測定する第2の工程と、前記銅の電解精製装置において、電解槽から排出された電解液を採取し、該電解液を電気分解することによりカソード電位を測定する第3の工程と、第2及び第3の工程で測定されたそれぞれのカソード電位の差を算出し、該カソード電位の差と前記検量線とにより電解液中の膠濃度を算出する第4の工程と、前記第4の工程で算出した膠濃度に基づいて調整した量の膠を電解液へ添加し、該電解液を前記電解槽に供給する第5の工程と、を含む銅の電解精製方法である。
【0015】
本発明に係る銅の電解精製方法の一実施形態においては、第1の工程は、銅の電解精製装置を循環する電解液を採取し、電解液に所定濃度の膠を添加しながら電気分解して、カソード電位の経時変化を測定する第1Aの工程と、銅の電解精製装置を循環する電解液を採取し、電解液について膠を新たに添加しないで第1工程の電気分解と同一条件で電気分解して、カソード電位の経時変化を測定する第1Bの工程と、第1A及び第1Bの工程で測定されたそれぞれのカソード電位の差を算出する第1Cの工程と、第1A、第1B及び第1Cの工程を、膠の添加濃度を変えて複数回行い、それぞれの濃度によるカソード電位の差を得て、複数の電位差から検量線を導く第1Dの工程とを含む。
【0016】
本発明に係る銅の電解精製方法の別の一実施形態においては、第1Dの工程は、膠を除く添加剤を電解液供給部へ供給する工程と、連続して供給される調整された量の膠を連続的に溶解して作製した膠の水溶液を、電解液供給部へ連続的に供給する工程と、膠を除く添加剤と膠の水溶液とを含む電解液を、電解液供給部から電解槽へ供給する工程とを含む。
【0017】
本発明に係る銅の電解精製方法の更に別の一実施形態においては、膠の水溶液を作製する際に用いる膠の計量を、膠の連続供給及び連続溶解と同時に連続して行う。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電解液中の膠濃度がカソード電位の変化に敏感に反応する点に着目し、電解精製中のカソード電位の変化をモニターしながら連続的に電解液中の膠濃度を制御することで、膠濃度の過不足をなくし、膠の過剰添加による供給電力の増化を抑制し、また、連続的に新鮮な膠を供給することができる。このため、電解液には常に高分子状態の膠が供給され、膠使用量の低減にも寄与する。さらに、従来、膠の濃度分析を個別に実施していたため長時間の分析時間を要していたが、本発明により、膠濃度の判定が短時間で行えるようになり、作業効率の向上にも寄与し、電気銅板表面の品質が安定化する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る銅の電解精製装置の模式図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る銅の電解精製装置の模式図である。
【図3】本発明の実施形態に係る検量線作成試験装置の模式図である。
【図4】本発明の実施形態に係る検量線作成試験時のカソード電位の経時変化を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態に係る検量線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(銅の電解精製装置)
図1に示すように、銅の電解精製装置10は、銅の電解槽17と、排液槽18と、電解液供給部11と、添加剤槽12と、膠溶解槽13(膠水溶液供給部)と、チオ尿素溶解槽14と、塩酸槽15と、膠供給部16と、膠濃度検出部19とを備えている。電解液供給部11と添加剤槽12との間、電解液供給部11と膠溶解槽13との間、添加剤槽12とチオ尿素溶解槽14との間、添加剤槽12と塩酸槽15との間、電解液供給部11と電解槽17との間には、それぞれ溶液の供給動力となるポンプp1〜p5が設けられている。
【0021】
添加剤槽12には、チオ尿素溶解槽14からポンプp3によって供給されたチオ尿素の水溶液と、塩酸槽15からポンプp4によって供給された塩酸とが含まれている。
【0022】
膠供給部16は、貯蔵している膠を計量して切り出し、膠溶解槽13へ供給する。膠溶解槽13には、膠供給部16から供給された膠と不図示の温水供給部からの温水とが混合されて形成された膠の水溶液が含まれている。
【0023】
電解液供給部11には、電解液と、膠溶解槽13からポンプp2によって供給された膠の水溶液と、添加剤槽12からポンプp1によって供給された添加剤溶液とが含まれている。添加剤溶液は、チオ尿素を含む塩酸で構成されている。
【0024】
電解槽17には、陽極となる粗銅と、電着面に銅を電着させることにより、製品となる電気銅を精製するための陰極となる銅製の母板とが、所定間隔を空けて設けられている。また、電解槽17には、電解液供給部11からポンプp5によって電解液が供給されている。ここで、陰極となる母板には、用途に合わせて種々のものを用いることができる。例えば、パーマネントカソード法(PC法)で電気分解を行う場合は、SUS板等を用いても良い。
【0025】
排液槽18には、電解槽17で電気分解に用いられた後に排出された電解液が含まれており、この電解液を電解液供給部11に供給している。これにより、銅の電解精製装置10内を電解液が循環している。
【0026】
膠濃度検出部19には、電解液供給部11からの、電解槽17に供給する前の膠が添加された電解液を採取して、採取した電解液を電気分解する電解槽A(不図示)と、排液槽18から排出された電解液を採取して、採取した電解液を電気分解する電解槽B(不図示)とを備えている。膠濃度検出部19は、電解槽A及びBの電気分解で測定した各カソード電位の差を算出し、このカソード電位の差と後述する検量線とにより電解液中の膠の濃度を算出する。さらに、膠濃度検出部19はこの検出結果を基にポンプp2へ制御信号を送り、ポンプp2で膠の水溶液の供給量が調整される。
【0027】
上述の実施形態では、膠濃度検出部19が膠濃度の検出結果に基づいた制御信号をポンプp2へ送っている。すなわち、膠濃度検出部19が膠供給量制御部を兼ねている。しかしながら、これに限られず、膠供給量制御部は膠濃度検出部19とは別に設けてもよい。すなわち、膠濃度検出部19からの膠濃度のデータを受信した膠供給量制御部が、当該データに基づいてポンプp2へ制御信号を送ってもよい。
【0028】
また、上述の実施形態では、膠水溶液供給部が膠溶解槽13であり、他の添加剤と膠とが別に電解液供給部11に供給されているが、これに限られず、例えば、膠水溶液供給部が、膠、チオ尿素及び塩酸を同時に含むものであってもよい。具体的には、図2に示すように、銅の電解精製装置20は、電解槽27、排液槽28、電解槽27へ電解液を供給する電解液供給部21、電解液供給部21へ供給する添加剤が設けられた添加剤槽22(膠水溶液供給部)、添加剤槽22へ供給する膠の水溶液が調整される膠溶液槽23、添加剤槽22へ供給するチオ尿素が設けられたチオ尿素溶解槽24、添加剤槽22へ供給する塩酸が設けられた塩酸槽25、添加剤槽22へ供給する硫酸が設けられた硫酸槽26、膠濃度検出部29、及び、これらの各槽間に設けられたポンプp’1〜p’6を備えている。電解精製装置20の添加剤槽22には、膠溶解槽23で水溶液とされた膠と、別に供給されたチオ尿素と、塩酸と、硫酸とを含んでいる。このように、電解精製装置20は、電解精製装置10とは異なり、膠が他の添加剤と混合された状態で電解液供給部21へ供給される構成となっている。電解精製装置20においても、膠濃度検出部29には、電解液供給部21からの、電解槽27に供給する前の膠が添加された電解液を採取して、採取した電解液を電気分解する電解槽A’(不図示)と、排液槽28から排出された電解液を採取して、採取した電解液を電気分解する電解槽B’(不図示)とを備えている。膠濃度検出部29は、電解槽A’及びB’の電気分解で測定した各カソード電位の差を算出し、このカソード電位の差と後述する検量線とにより電解液中の膠の濃度を算出する。さらに、膠濃度検出部29はこの検出結果を基にポンプp’1へ制御信号を送り、ポンプp’1で膠の水溶液の供給量が調整される。
【0029】
(銅の電解精製方法)
次に、電解精製装置10を用いた銅の電解精製方法について説明する。
まず、図1に示した電解精製装置10において、チオ尿素溶解槽14に所定濃度のチオ尿素の水溶液を作製しておく。また、塩酸槽15に所定濃度の塩酸を作製しておく。
続いて、チオ尿素の水溶液及び塩酸を、ポンプp3及びp4を用いて添加剤槽12へ供給して撹拌混合する。
【0030】
次に、添加剤槽12内のチオ尿素を含む塩酸をポンプp1を用いて電解液供給部11へ供給する。
ここで、添加剤槽12から電解液供給部11へのチオ尿素を含む塩酸の供給は、バッチ式で行ってもよい。すなわち、添加剤槽12で、チオ尿素の水溶液及び塩酸の例えば一日分を一度に混合して貯蔵しておいたものを、電解液供給部11へ供給してもよい。また、当該供給は、連続式で行ってもよい。すなわち、添加剤槽12で、チオ尿素の水溶液及び塩酸を連続して混合し、必要量をその都度電解液供給部11へ供給してもよい。
【0031】
一方、膠供給部16では、貯蔵している膠を計量して切り出し、膠溶解槽13へ連続して供給する。不図示の温水供給部からの温水も、膠溶解槽13へ連続して供給する。供給された膠は、温水と共に膠溶解槽13内で撹拌されて10分程度で溶解し、膠の水溶液が生成する。これと連続して、膠の水溶液を、ポンプp2を用いて電解液供給部11へ供給する。ここで、ポンプp2は、後述のように膠濃度検出部19によって自動制御されており、これによって電解液供給部11への膠の水溶液の供給量が調整されている。
また、このとき、膠供給部16による膠の計量を、膠の供給、膠溶解槽13での膠の溶解、及び、膠溶解槽13から電解液供給部11への膠の水溶液の供給と同時に連続して行ってもよい。
【0032】
添加剤槽12から供給されたチオ尿素を含む塩酸、及び、膠溶解槽13から連続供給される膠の水溶液は、電解液供給部11内で電解液と共に撹拌・混合される。続いて、電解液供給部11から電解槽17へ、チオ尿素、塩酸及び膠を含む電解液をポンプp5によって供給し、この電解液を用いて電解槽17内で銅の電解精製を行う。
【0033】
上述のように連続して供給される膠を連続的に溶解することにより作製した膠の水溶液を、電解液供給部11へ連続的に供給している。このように、添加剤槽12で塩酸と混合することなく、溶解した膠が直接電解液供給部11へ供給されるため、酸による膠の分解が少なく、膠を高濃度添加する必要性がなくなり、液抵抗の増化を防げることから消費電力の増大を抑制できる。また、膠の腐食防止のための硫酸を添加剤槽12へ供給する必要がなくなる。従って、製造コストが良好となる。また、連続して供給される膠を連続的に溶解し、電解液供給部11へ連続的に供給するため、電解液供給部11へ供給するまでに膠が水に溶解している時間が短く、膠の腐食を良好に抑制し、良好な品質の電気銅を提供することができる。また、膠の水溶液を作製する際に用いる膠の計量を、膠の連続供給及び連続溶解と同時に連続して行うため、製造効率が良好となる。
電解槽17で電気分解に用いられた電解液は、排液槽18へ送られ、さらに排液槽18から電解液供給部11へ送られる。
【0034】
(検量線の作成方法及び膠濃度検出部による膠供給量の自動制御)
検量線は、以下のようにして作成される。
まず、図3に示すような検量線作成試験装置30を準備する。検量線作成試験装置30は、電解精製装置10の排液槽18内から採取した電解液が供給される液受け31と、液受け31から電解液がそれぞれ供給される試験電解槽33a及び33bと、液受け31から試験電解槽33aへの電解液の供給経路の途中に膠の水溶液を供給する膠水溶液槽32とを備えている。また、液受け31と試験電解槽33aとの間、液受け31と試験電解槽33bとの間、及び、膠水溶液槽32からの膠の水溶液の供給経路の途中に、それぞれポンプp8、p9及びp7が設けられている。
試験電解槽33a及び33bは、それぞれカソード電極34a及び34b、参照電極35a及び35b、アノード電極36a及び36b、電源37a及び37b、浴槽38a及び38b、及び、電解液39a及び39bを備えている。
ここで、試験電解槽33a及び33bで使用する電解液として排液槽18内から採取したものを用いるのは、検量線作成試験装置30で新たに膠を添加する前の電解液のカソード電位を本技術の標準電位として取扱い、電解精製装置10内を実際に循環する電解液に合わせるためである。また、電解精製装置10内で直接測定せず、別に用意した液受け31に電解液を採取したものを用いて測定するのは、循環される電解液を同一場所より採取することで同一成分を有する電解液を各試験電解槽33a及び33bに使用したと仮定し、アノード電極からの銅分、不純物の溶出による成分変動および添加剤槽12からの電解液中添加剤成分の変動の影響を受けないようにするためである。これにより、膠の添加量に応じたより正確な検量線を作成することができる。
【0035】
次に、排液槽18内から採取した電解液を液受け31に供給し、液受け31からそれぞれ試験電解槽33a及び33bへ電解液を供給する。試験電解槽33aへ供給される電解液には、供給経路の途中で膠水溶液槽32から膠の水溶液が供給される。すなわち、試験電解槽33aでは膠が新たに供給された電解液を使用し、試験電解槽33bでは電解精製装置10で使用して排液槽18へ排出されたままの電解液を使用して、それぞれ電気分解を行う。このように、試験電解槽33aは、排液槽18内から採取した電解液に残留していた膠と、新たに膠水溶液槽32から供給された膠とを含んだ電解液で電気分解を行い、試験電解槽33bは、膠成分として排液槽18内から採取した電解液に残留していたもののみを含んだ電解液で電気分解を行う。
【0036】
より具体的には、膠水溶液槽32から所定濃度の膠の水溶液を供給しながら、試験電解槽33a及び33bで同時に電気分解を行い、カソード電位の経時変化を測定する。このとき、試験電解槽33a及び33bでは、試験電解槽33aに膠の水溶液が新たに添加されている以外は両者の電気分解の諸条件(各電極の種類、電流密度、電解液流量、及び、浴温等)は同一である。
このときのカソード電位の経時変化の例を図4に示す。図4に示すように、膠の水溶液の供給開始により試験電解槽33a(添加浴)のカソード電位が徐々に低下してき、一定時間経過で定常状態になる。膠の水溶液の供給を停止すると、試験電解槽33a(添加浴)のカソード電位が上昇し、供給前の状態に戻る。一方、試験電解槽33b(無添加浴)のカソード電位はほとんど変化していない。膠の水溶液中の膠濃度を変えて、この試験を複数回行い、それぞれ試験における試験電解槽33a(添加浴)と試験電解槽33b(無添加浴)とのカソード電位の差を算出する。次に、得られた複数のカソード電位の差における膠濃度をグラフにプロットし、それらの点を曲線で結ぶことで、図5に示すような検量線を導く。
【0037】
膠濃度検出部19には、このようにして作成した検量線が基準データとして入力されており、当該検量線と以下のようにして算出したカソード電位の差とによって電解液中の膠の濃度を算出する。
具体的には、膠濃度検出部19は、電解精製装置10において、電解槽17に供給する前の膠が添加された電解液を電解液供給部11から排出された直後で採取し、該電解液を電気分解することによりカソード電位を測定する。また、同時に、電解精製装置10において、電解槽17から排出されて排液槽18を通り戻って来た電解液を電解液供給部11へ戻る直前で採取し、該電解液を電気分解することによりカソード電位を測定する。次に、これらのカソード電位の差を算出し、該カソード電位の差と、上述のようにして導かれた検量線とにより電解液中の膠濃度を算出する。
膠濃度検出部19では、このように、電解液供給部11から排出された直後の電解液と、電解液供給部11へ戻る直前の電解液とを採取しているため、膠以外のカソード電位影響因子(銅、硫酸、ニッケル、砒素、その他の不純物等)による電位への影響を抑制することができる。
【0038】
次に、算出した膠の濃度に基づき、膠の水溶液の供給量を決定し、当該供給量に従ってポンプp2へ膠の水溶液の供給量を制御する信号を送る。
このように、ポンプp2が膠濃度検出部19によって自動制御されており、これによって電解液供給部11への膠の水溶液の供給量が電解槽17での電気分解と並行して随時調整される。従って、連続的に短時間で膠の濃度判定が行われるため、濃度管理性が向上し、且つ、電解精製の操業が安定する。また、電解液中の膠濃度の差による特定の電位差に基づいて電解精製装置10を稼働させることができるため、製造効率が良好となる。さらに、電解液中の膠の濃度管理を良好に行うことができ、品質の良好な電気銅を作製することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0040】
(実施例)
実施例として、図1に示す構成の銅の電解精製装置、及び、図3に示す構成の検量線作成試験装置を準備し、これを用いて銅の電解精製を行った。
具体的には、まず、長さ1280mm×幅5550mm×深さ1340mmの電解槽に、縦1060mm×横990mm×厚さ45mmの粗銅板を54枚、及び、縦1040mm×横1040mm×厚さ10mmの母板を53枚、それぞれ100mmの間隔を空けて設けた。
次に、チオ尿素溶解槽に0.83mol/Lのチオ尿素の水溶液を設け、塩酸槽に9.6mol/Lの塩酸を設けた。
次に、チオ尿素の水溶液及び塩酸を、添加剤槽へ供給して撹拌混合した。また、添加剤槽内の液温は、20〜30℃に保持した。添加剤槽内のチオ尿素を含む塩酸は、このようにして作り貯めをしておき、その内の必要量を電解液供給部へ供給した。
膠供給部では、貯蔵している膠を計量して切り出し、膠溶解槽へ連続して供給すると共に、温水供給部から温水も膠溶解槽へ連続して供給した。供給された膠は、温水と共に膠溶解槽内で撹拌されて10分程度で溶解した。このとき、膠の水溶液は、濃度が0.5mol/Lとなるように調整した。
また、これとは別に、銅の電解精製装置内で循環する電解液を排液槽内から採取し、この電解液を用いて検量線作成試験装置によって検量線の作成を行った。検量線作成試験装置の2つの試験電解槽では、それぞれアノード電極としてDSE電極を用い、カソード電極としてSUS板を用い、電流密度を200A/m2とし、電解液流量を22cc/minとし、浴温を65℃とした。また、基準電極としてAg/AgClを用いた。さらに、電解液中の膠の目的濃度を1〜5ppmとし、膠の水溶液の流量を1cc/minとした。膠の水溶液の供給は二度行い、これらのカソード電位差の平均値とそのときの膠濃度を評価した。具体的には、それらの関係は、膠濃度1ppm−カソード電位差9.6mV、膠濃度2ppm−カソード電位差19.4mV、膠濃度3ppm−カソード電位差35.0mV、膠濃度4ppm−カソード電位差59.7mV、膠濃度5ppm−カソード電位差76.8mVであった。これらのデータから図5に示すような検量線を引いた。このときの検量線が描く曲線の式はy=1.7407x2+6.9897xとなり、変動係数は0.9924であった。
続いて、膠濃度検出部(膠供給量制御部)からの制御信号によって調整された量の膠の水溶液を連続して電解液供給部へ供給した。また、膠溶解槽内の液温は、35〜45℃に保持した。
次に、電解液供給部内で、添加剤槽からのチオ尿素を含む塩酸、及び、膠溶解槽から連続供給される膠の水溶液を、電解液と共に撹拌・混合した。続いて、電解液供給部から電解槽へ、チオ尿素、塩酸及び膠を含む電解液を供給し、この電解液を用いて電解槽内で、210時間、電流密度320A/m2にて銅の電解精製を行った。
上述の実施例により、6350gの品質の良好な電気銅を得た。これに要した膠使用量は350kgであり、消費電力量は370kWhであった。
【0041】
(比較例)
比較例として、実施例で記載した検量線を作成せずに通常のバッチ処理により膠を電解槽へ供給する以外は、実施例と同様の構成の電解精製装置を準備し、実施例と同一の条件により銅の電解精製を行った。比較例により、6350tの電気銅を得た。これに要した膠使用量は410kgであり、消費電力量は378kWhであった。
【符号の説明】
【0042】
10、20 電解精製装置
11、21 電解液供給部
12、22 添加剤槽
13、23 膠溶解槽
14、24 チオ尿素槽
15、25 塩酸槽
16 膠供給部
26 硫酸槽
17、27 電解槽
18、28 排液槽
19、29 膠濃度検出部(膠供給量制御部)
p1〜p5、p’1〜p’6 ポンプ
30 検量線作成試験装置
33a、33b 試験電解槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅の電解槽と、
前記電解槽へ電解液を供給する電解液供給部と、
膠の水溶液を前記電解液供給部へ供給する膠水溶液供給部と、
銅の電解精製装置を循環する電解液から膠の濃度を算出する膠濃度検出部と、
前記膠濃度の検出結果に基づいて前記膠水溶液供給部からの膠の水溶液の供給量を制御する膠供給量制御部と、
を備え、
前記膠濃度検出部は、
前記銅の電解精製装置において、電解槽に供給する前の所定量の膠を添加した電解液を採取し該電解液を電気分解することにより測定したカソード電位と、電解槽から排出された電解液を採取して該電解液を電気分解することにより測定したカソード電位との差を算出し、
前記カソード電位の差と、あらかじめ銅の電解精製装置に循環利用されている電解液を採取し、前記電解槽とは異なる試験電解槽内で電気分解することにより測定したカソード電位と、該試験電解槽とは別の試験電解槽内で、採取した電解液に所定量の膠を新たに添加して電気分解することにより測定したカソード電位との差を算出し、該カソード電位差と膠の添加濃度との検量線を作製し、該検量線に基づき、循環利用されている電解液中の膠の濃度を算出する銅の電解精製装置。
【請求項2】
前記検量線は、
前記膠濃度検出部において、銅の電解精製装置を循環する電解液を採取し、該電解液について所定濃度の膠を添加した電解液のカソード電位の経時変化を測定し、その経時変化が飽和状態に達したときのカソード電位と、銅の電解精製装置を循環する電解液を採取し、該循環電解液に膠を新たに添加しないで、所定濃度の膠が残留している電解液のカソード電位の経時変化を測定し、その経時変化が飽和状態に達したときのカソード電位との差を算出し、
前記カソード電位の差の算出が膠の添加濃度を変えて複数回行われて得られた複数の電位差から導かれる請求項1に記載の銅の電解精製装置。
【請求項3】
前記膠濃度検出部が前記膠供給量制御部を兼ねている請求項1又は2に記載の銅の電解精製装置。
【請求項4】
前記膠水溶液供給部は、連続して供給される膠を連続的に溶解して作製した膠の水溶液を、前記電解液供給部へ連続的に供給する膠溶解槽である請求項1〜3のいずれかに記載の銅の電解精製装置。
【請求項5】
前記膠溶解槽に膠を連続して供給する膠供給部をさらに備えた請求項4に記載の銅の電解精製装置。
【請求項6】
前記膠水溶液供給部は、チオ尿素及び塩酸をさらに含む請求項1〜3のいずれかに記載の銅の電解精製装置。
【請求項7】
あらかじめ銅の電解精製装置に循環利用されている電解液に膠を添加して電気分解することにより測定したカソード電位と、銅の電解精製装置に循環利用されている電解液に膠を新たに添加しないで電気分解することにより測定したカソード電位との差から検量線を導く第1の工程と、
前記銅の電解精製装置において、電解槽に供給する前の膠が添加された電解液を採取し、該電解液を電気分解することによりカソード電位を測定する第2の工程と、
前記銅の電解精製装置において、電解槽から排出された電解液を採取し、該電解液を電気分解することによりカソード電位を測定する第3の工程と、
第2及び第3の工程で測定されたそれぞれのカソード電位の差を算出し、該カソード電位の差と前記検量線とにより電解液中の膠濃度を算出する第4の工程と、
前記第4の工程で算出した膠濃度に基づいて調整した量の膠を電解液へ添加し、該電解液を前記電解槽に供給する第5の工程と、
を含む銅の電解精製方法。
【請求項8】
前記第1の工程は、
銅の電解精製装置を循環する電解液を採取し、該電解液について所定濃度の膠を添加しながら電気分解して、カソード電位の経時変化を測定する第1Aの工程と、
銅の電解精製装置を循環する電解液を採取し、該電解液について膠を新たに添加しないで前記第1工程の電気分解と同一条件で電気分解して、カソード電位の経時変化を測定する第1Bの工程と、
前記第1A及び第1Bの工程で測定されたそれぞれのカソード電位の差を算出する第1Cの工程と、
前記第1A、第1B及び第1Cの工程を、膠の添加濃度を変えて複数回行い、それぞれの濃度によるカソード電位の差を得て、該複数の電位差から検量線を導く第1Dの工程と、
を含む請求項7に記載の銅の電解精製方法。
【請求項9】
前記第1Dの工程は、
膠を除く添加剤を電解液供給部へ供給する工程と、
連続して供給される調整された量の膠を連続的に溶解して作製した膠の水溶液を、前記電解液供給部へ連続的に供給する工程と、
前記膠を除く添加剤と前記膠の水溶液とを含む電解液を、前記電解液供給部から前記電解槽へ供給する工程と、
を含む請求項8に記載の銅の電解精製方法。
【請求項10】
膠の水溶液を作製する際に用いる膠の計量を、前記膠の連続供給及び連続溶解と同時に連続して行う請求項9に記載の銅の電解精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−174114(P2011−174114A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37399(P2010−37399)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(500483219)パンパシフィック・カッパー株式会社 (109)
【Fターム(参考)】