説明

銅含有不均一触媒上で、脂肪酸トリグリセリドの水素化を行うことによって脂肪アルコールを製造する方法

本発明は、少なくとも1種の脂肪酸トリグリセリドを含む流れが供給され、そしてこの流れが不均一銅触媒の存在下に水素化処理を受ける、脂肪アルコールを製造するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の脂肪酸トリグリセリドを含む流れが供給され、そしてこの流れが不均一銅触媒の存在下に水素化処理される、脂肪アルコールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪アルコールは、種々の化学生成物、例えば界面活性剤及び化粧品のための重要な中間物である。これらは例えば、(存在するトリグリセリドをエステル交換することによって、脂肪性又は油性の出発材料から得ることができる)脂肪酸メチルエステルを水素化することによって製造することができる。得られる更なる価値ある生成物は、グリセロールで、例えばこれを水素化して、1,2−プロパノールを得ることができる。
【0003】
1,2−プロパンジオールを製造するためにグリセロールを水素化することが、不均一銅触媒の存在下に行なわれ得ることが公知である。このような方法は、例えば特許文献1(WO2007/099161)、特許文献2(WO2009/027500)、特許文献3(WO2009/027501)及び特許文献4(WO2009/027502)に記載されている。
【0004】
脂肪アルコールが、(例えば中性油、及び脂肪の)トリグリセリド−含有出発材料の直接的な水素化によって製造することができることも公知である。
【0005】
特許文献5(DE−B1154448)には、脂肪、脂肪酸、及び脂肪酸エステルを、タブレット化した銅−亜鉛、銅−クロミウム、銅−マンガン、銅−亜鉛−クロミウム、銅−マンガン−クロミウム、銅−カドミウム、銅−カドミウム−クロミウム及び銅−カドミウム−マンガン触媒を使用して触媒的に水素化することによって、比較的高い分子量の一価−及び多価アルコールを製造するための方法が記載されている。
【0006】
特許文献6(EP0063427A2)には、アンモニア及び、Pd、Pt、Ir及びRhから選ばれる少なくとも1種の金属を含む触媒の存在下に、不飽和脂肪酸誘導体の選択的な水素化を行うための方法が記載されている。
【0007】
特許文献7(EP0254189A2)には、それぞれ酸化性触媒材料(oxidic catalyst material)に対して、30〜40質量%の銅、23〜30質量%のクロミウム、1〜7質量%のバリウム、及び所望により更なる遷移金属をこれらの酸化物の状態で含む触媒の存在下で、グリセリド油を直接的に水素化するための方法が記載されている。
【0008】
特許文献8(DE3708430A1)には、それぞれ酸化性触媒材料に対して、30〜40質量%の銅、23〜30質量%のクロミウム、1〜10質量%のマンガン、1〜10質量%のシリコン、及び1〜7質量%のバリウム、及び所望により更なる遷移金属をこれらの酸化物の状態で含む触媒の存在下で、乳脂肪を直接的に水素化するための方法が記載されている。
【0009】
特許文献9(DE4129622A1)には、スピネルタイプの亜鉛−クロミウム触媒を使用して水素化することによって、不飽和の脂肪アルコールを製造するための方法が記載されている。
【0010】
特許文献10(DE19843798A1)には、固定触媒床を使用して、脂肪酸又は脂肪酸エステルを水素化することによって、脂肪アルコールを製造するための方法(該方法では、変換されていない水素が回収され、そして水素化に再循環され、そして反応器が加熱されていない水素を散布することによって冷却される)が記載されている。
【0011】
特許文献11(WO01/43873A2)には、(不飽和の脂肪酸、脂肪酸低級アルキルエステル、又は脂肪酸グリセリドを水素化することによって)不飽和の脂肪アルコールを製造するための酸化性亜鉛−アルミニウム触媒が記載されている。
【0012】
特許文献12(US2004/0133049A1)には、固定床反応器内で、脂肪酸、脂肪酸エステル、及び自然発生的なトリグリセリドから、脂肪アルコールを製造するための方法が記載されている。記載されている適切な水素化触媒は、酸化性銅−アルミニウム触媒を含む。
【0013】
特許文献13(WO96/14280)には、銅化合物、亜鉛化合物、及び(アルミニウム、ジルコニウム、マグネシウム、希土類金属、及びこれらの混合物の化合物から選ばれる、)少なくとも1種の化合物を含む触媒の存在下に、カルボン酸を脂肪アルコールに直接的に水素化するための方法が記載されている。
【0014】
特許文献14(DE4242466A1)には、天然脂肪、及び油が、任意にか焼された銅−亜鉛触媒の存在下に、高い水素圧で、及び高温で、連続的なチューブ束反応器内で水素化される、脂肪アルコールを製造するための方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】WO2007/099161
【特許文献2】WO2009/027500
【特許文献3】WO2009/027501
【特許文献4】WO2009/027502
【特許文献5】DE−B1154448
【特許文献6】EP0063427A2
【特許文献7】EP0254189A2
【特許文献8】DE3708430A1
【特許文献9】DE4129622A1
【特許文献10】DE19843798A1
【特許文献11】WO01/43873A2
【特許文献12】US2004/0133049A1
【特許文献13】WO96/14280
【特許文献14】DE4242466A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、脂肪アルコールを製造するための、改良された方法を提供することにある。従って、公知の方法は、脂肪酸トリグリセリドの実質的に完全な水素化、及び同時に、更なる価値有る生成物としての1,2−プロパンジオールのための良好な選択性について、なお改良の必要があるものである。提供する方法は、有機物供給源からの脂肪酸トリグリセリド流、及び工業的に得られる脂肪酸トリグリセリド流の処理の両方のために、特に適切であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
驚くべきことに、触媒の触媒的に活性の成分が、追加的に、アルミニウム、及び(ランタン、タングステン、モリブデン、チタニウム、ジルコニウム及びこれらの混合物から選ばれる)少なくとも1種の更なる金属を含む不均一銅触媒が、(脂肪アルコールを得る)脂肪酸トリグリセリド流の1段階水素化のために、特に有利に適切であることが見出された。これらは特に、1段階水素化を実質的に完了することを可能にする。有利なことに、これらの触媒は、水素化の価値有る更なる生成物としての1,2−プロパンジオールについて、高い選択性が顕著である。
【0018】
従って本発明は、脂肪アルコールを製造するための方法であって、
a)少なくとも1種の脂肪酸トリグリセリドを含む流れを供給する工程、
b)脂肪酸トリグリセリドを含む流れを、不均一銅触媒の存在下に水素化処理する工程、
c)少なくとも1種の 脂肪アルコール−含有部分を、工程b)で得られた水素化生成物から分離する工程、
を含み、工程b)の触媒の触媒活性成分が、追加的にアルミニウム、及び少なくとも1種の更なる金属(該少なくとも1種の金属は、ランタン、タングステン、モリブデン、チタニウム、ジルコニウム及びこれらの混合物から選ばれる)を含むことを特徴とする脂肪アルコールを製造するための方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明について、「脂肪アルコール」は、6〜40個、好ましくは8〜30個、特に10〜28個の炭素原子を有する、飽和、及び不飽和のアルコールを意味する。脂肪アルコールは、特に直鎖状アルコールである。
【0020】
特定の実施の形態では、脂肪アルコールは、飽和脂肪アルコール、又は主に飽和脂肪アルコール(すなわち少なくとも80%の範囲)を含む脂肪アルコール混合物である。
【0021】
本発明に従う方法は、脂肪酸トリグリセリドを含む出発材料を、1段階(すなわち直接)で水素化して、脂肪アルコールを含む生成物にすることを可能にする。「1段階」は、脂肪酸トリグリセリド−含有出発材料が、先行する脂肪酸トリグリセリドの(例えば脂肪酸メチルエステルへの)エステル交換を行うことなく、水素化に使用されることを意味すると理解される。本発明に従う方法は、遊離脂肪酸の含有量を増すために先行する変換を行うことなく、脂肪酸トリグリセリド−含有出発材料を水素化することをも可能にする。しかしながら、本発明に従う方法における水素化は、順次連結された、少なくとも2個の水素化反応器内で行うことができる。しかしながらこの構成で、部分的に水素化された中間生成物の分離は通常、分離されない。
【0022】
工程a)
脂肪酸トリグリセリド−含有流を供給するために、使用可能な全ての有機物から由来する油性、及び/又は脂肪性出発混合物が、原則として適切である。油及び脂肪は、通常、(特に植物及び動物源の、化学的な意味で基本的に高級脂肪酸のグリセリルエステルから成る)固体、半固体、又は液体の脂肪酸トリグリセリドである。適切な高級脂肪酸は、好ましくは6〜40個、より好ましくは8〜30個、特に10〜28個の炭素原子を有する、飽和、又はモノ−又はポリ不飽和脂肪酸である。例は、n−ノナン酸、n−デカン酸、n−ウンデカン酸、n−トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノール酸、ステアリン酸、エレオステアリン酸、等を含む。
【0023】
植物脂肪、及び油は、基本的に、偶数個の炭素原子を有する脂肪酸に基づき、この一方で、動物脂肪及び油は、トリグリセリドエステルのように、奇数個の炭素原子を結合状態で有する脂肪酸も含む。植物脂肪及び油中に発生する不飽和脂肪酸は、シス形の状態で存在するのに対して、動物脂肪酸はしばしばトランス配列を有する。
【0024】
工程a)で脂肪酸トリグリセリド−含有流を供給するために、原則として、使用済み、又は未使用の、未精製の、又は精製した植物、動物、又は工業油又は脂肪、又はこれらの混合物を使用することができる。これらは、更なる成分、例えば遊離脂肪酸を含んでいても良い。遊離脂肪酸の割合は、工程a)で供給される、脂肪酸トリグリセリド−含有流の合計質量に対して、通常、0%〜20%、例えば0.1〜15%である。
【0025】
工程a)で、脂肪酸トリグリセリド−含有流を供給するために、所望により、遊離脂肪酸を部分的に、又は完全に除去することができる。これらの脂肪酸の塩(例えば、アルカリ金属塩)を、強酸、例えばHClで酸性化することによって、予め遊離脂肪酸に変換することも可能である。遊離脂肪酸を、例えば遠心分離によって除去することも可能である。
【0026】
工程a)で脂肪酸トリグリセリド−含有流を供給するのに適切な未使用の脂肪、及び油は、対応する植物、又は動物出発材料から得られた後に、他の用途に送られておらず、従って出発材料に由来する成分のみを含むか、又は出発材料からの抽出に結合された、脂肪性、又は油性の成分である。所望により、脂肪酸トリグリセリド以外の成分(及び任意に、遊離脂肪酸)を、(工程b)での水素化の前に、)これらの出発材料から、少なくとも部分的に除去することが可能である。
【0027】
工程a)で脂肪酸トリグリセリド−含有流を供給するために適切な使用済みの脂肪、及び油は、対応する出発材料から得られた後に、最初に他の目的、例えば工業的な目的、又は食品の製造の目的のために使用され、及びこの用途のために化学的に変性された、又は変性されていない、又はこの用途のために特に関連する追加的な成分を含んでも良い、脂肪、及び/又は油性の成分である。これらは、所望により、脂肪酸トリグリセリド−含有流を供給するために、少なくとも部分的に除去されても良い。
【0028】
精製、及び/又は濃縮(enrichment)のために、未使用、又は使用済みの脂肪、又は油を、望ましくない成分、例えばレシチン、炭水化物、プロテイン、含油スラッジ、水等の除去処理に処理することができる。
【0029】
植物油、及び脂肪は、主として植物出発材料、例えば種、根、葉、又は他の適切な植物部分から由来するものである。動物脂肪、又は油は、主として動物出発材料、例えば動物器官、組織、又は他の体の部分、又は体の液体部分、例えばミルクから由来する。工業的油、及び脂肪は、特に動物、又は植物出発材料から得られ、そして工業的な目的で処理されたものである。本発明に従い使用される、使用済み、又は未使用の、未精製の、又は精製した油、及び/又は脂肪は、特に、ソープストック、ブラウングリース、イエローグリース、工業獣脂、工業ラード、ディープファットフライヤー油、動物脂、食品獣脂、粗製植物油、粗製動物油、又は脂、又はこれらの混合物である。
【0030】
「ソープストック」は、植物油の処理で得られた副生成物、特に、大豆油、菜種油、又はヒマワリ油に基づく料理油精製の副生成物を意味すると理解される。ソープストックは、遊離脂肪酸の割合が、約50〜80%である。
【0031】
「ブラウングリース」は、遊離脂肪酸の割合が15%〜40%以上の動物脂−含有廃棄物を意味すると理解される。「イエローグリース」は、約5%〜15%の遊離脂肪酸を含む。
【0032】
「工業獣脂」及び「工業ラード」は、工業的な目的で製造され、そして例えば、食肉処理廃棄物からの乾燥又は湿潤溶融法によって得られる動物脂肪を意味すると理解される。工業獣脂は、その酸価、遊離脂肪酸の含有量(由来に従い、例えば1〜20質量%の範囲、例えば1〜15質量%の範囲)に従い、評価され、そして処理される。遊離脂肪酸の含有量は、しかしながら20質量%を超えても良い。
【0033】
「動物脂」は、特に、家禽、牛、豚、魚、及び海洋哺乳類の処理における脂肪廃棄物、例えばソーラーステアリン、ポークラードからの抽出ラードオイルの後に残る固体残留物を含む。
【0034】
脂肪酸トリグリセリド−含有流は、好ましくは、工程a)で、出発材料として粗製植物油から供給される。未精製の粗製植物油(すなわち、出発材料から、例えばプレスによって得られる、液体、又は固体組成物)から進めることが可能である。ここでこの場合、これらは、通常、一般的な期間安定させること、そしてスピンニングさせること、又はろ過すること(これらの場合、固体構成物から油を分離するために機械的な力、例えば重力、遠心力、又は圧力のみが使用される)以外の他の処理を受けない。その特性が、プレスを使用して得られた対応する植物油に対して、(あっても)大きく異ならない場合には、このような未精製の粗製植物油は、抽出によって得られる植物油であっても良い。未精製の植物脂及び油中の遊離脂肪酸の割合は異なり、及び例えば、約0〜20%、例えば0.1〜15%である。
【0035】
植物油が、工程b)で水素化に使用される前に、1つ以上の処理工程を受けても良い(このことについては、以下に詳述する)。例えば、精製された植物油、例えば上述した植物油のラフィネート又はセミラフィネートを、出発材料として使用することも可能である。
【0036】
好ましくは、工程a)で脂肪酸トリグリセリド−含有流を供給するために、好ましくはレープシード油、パルム油、コルザ油、ソイビーン油、ヒマワリ油、マイズケルネル油、コットンシード油、パルムケルネル脂、及びココナッツ脂、及びこれらの混合物から選ばれる植物油、又は脂が使用される。特に好ましくは、レープシード油(菜種油)又はレープシード−含有混合物が使用される。
【0037】
工程a)で脂肪酸トリグリセリド−含有流を供給するために適切なものは又、好ましくはミルク脂、ウール脂、ボビン獣脂、ポークラード、魚油、トレイン油等、及びこれらの混合物から選ばれる動物油又は脂である。
【0038】
工程a)で供給される脂肪酸トリグリセリド−含有流は、好ましくは、水の含有量が30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。特定の実施の形態では、工程a)で、基本的に無水の脂肪酸トリグリセリド−含有流が供給される。本発明において、「基本的に無水」は、3質量%以下の水含有量、より好ましくは1質量%以下の水含有量を意味すると理解される。水の含有量が30質量%以下の範囲、特に20質量%以下の範囲の脂肪酸トリグリセリド−含有流の使用は、脂肪アルコール、及び1,2−プロパンジオールを(工程b)での水素化のために使用される温度と圧力の範囲内で、)高収率で、及び高い選択性で製造することを可能にする。
【0039】
脂肪酸トリグリセリド−含有流は、水の替わりに、又は水に加えて、少なくとも1種の有機溶媒を含んでも良い。工程a)で供給される脂肪酸トリグリセリド−含有流は、合計溶媒含有量が、好ましくは最大で20質量%、より好ましくは最大で15質量%、より好ましくは最大で10質量%、及び特に最大で5質量%である。水、及び少なくとも1種の水混和性有機溶媒を含む溶媒が使用される場合、有機溶媒の割合は、溶媒の合計量に対して、好ましくは最大で50質量%、より好ましくは最大で20質量%以下である。好ましい有機溶媒は、C1〜C4アルカノール、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、ポリオール、及びこれらのモノ−及びジアルキルエーテル、環式エーテル、例えばジオキサン、及びテトラヒドロフラン等である。適切な溶媒はまた、芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン、又はキシレンでもある。好ましい有機溶媒は、C1−C4アルカノール、特にメタノール、及び/又はエタノール、及びこれらと水の混合物である。しかしながら、工程a)で供給され、及び工程b)で水素化するために使用される脂肪酸トリグリセリド−含有流は、好ましくは、如何なる有機溶媒をも含まない。
【0040】
工程a)で供給される脂肪酸トリグリセリド−含有流は、少なくとも1つの後処理工程(workup step)の処理を受けても良い。これは、例えば、望ましくない成分を除去するための、少なくとも1つの精製工程を含む。これは、水、及び/又は存在する場合には、有機溶媒の含有量の減少を含む。
【0041】
特定の実施の形態では、工程a)での脂肪酸トリグリセリド−含有流の供給は、少なくとも1つの精製工程を含む。この目的のために、脂肪性、及び/又は油性の出発混合物が、少なくとも1つの通常に使用される、脂肪と油のための精製工程の処理、例えば、浄化、ろ過、漂白土での処理、又は問題になる不純物(例えば、プロテイン、フォスファタイド、及び粘液性の物質)を除去するための酸又はアルカリでの処理、又は他に、これらの精製工程の2つ以上の組合せを受けることが可能である。
【0042】
由来に従い、脂肪酸トリグリセリド−含有流は、望ましくない成分として、無機塩をなお含んでいても良い。これらは、公知の後処理工程で除去することができる。この目的のための適切な方法は、特に熱後処理(例えばSambayエバポレーターを使用したもの)である。
【0043】
由来に従い、脂肪酸トリグリセリド−含有流は、触媒毒、すなわち水素化触媒を不活性化することによって水素化を損なう成分を含んでいても良い。これらは例えば、窒素化合物、例えばアミン、及び硫黄化合物、例えば硫酸、硫化水素、チオアルコール、チオエーテル、例えばジメチルスルフィッド、及びジメチルジスルフィッド、カーボンオキシドスルフィッド、アミノ酸、例えば硫黄基及び追加的な窒素基を含むアミノ酸、脂肪酸、及びこれらの塩、等を含む。触媒毒は、ハロゲン化合物、微量の通常の抽出剤、例えばアセトニトリル、又はN−メチルピロリドン、等、及び任意に、有機リン及びヒ素化合物をも含む。
【0044】
工程a)で供給される脂肪酸トリグリセリド−含有流の後処理のために、例えば熱後処理、好ましくは蒸留、吸着、イオン交換、膜分離法、結晶化、抽出、又はこれらの方法の2つ以上の組合せを使用することができる。規定された孔径を有する膜を使用した膜分離方法が(特に、水含有量を低減するために、及び/又は塩を除去するために)適切である。結晶化は、脂肪酸トリグリセリド−含有流の冷却表面における、部分的な凝固(冷凍)を意味すると理解される。従って、固相中に蓄積する不純物を除去することが可能である。
【0045】
第1の実施の形態では、工程a)で供給される脂肪酸トリグリセリド−含有流は、蒸留処理を受け、水の含有量の低減、及び/又は触媒的な水素化を損なう成分の除去が行われる。これは、原則として、この技術分野の当業者にとって公知の通常の蒸留法で行なうことができる。蒸留を行う後処理のための適切な装置は、蒸留カラム、例えば(バブル−キャップ、シーブプレート、シーブトレイ、構造パッキング、ランダムパッキング、バルブ、側方取出部等を備えていても良い)トレイカラム、薄−フィルムエバポレーター、フォーリングフィルムエバポレーター、強制循環エバポレーター、Sambayエバポレーター等、及びこれらの組合せを含む。
【0046】
適切な分離方法は、以下の文献に記載されている:Sattler,Klaus:Thetmische Trennverfahren [Thermal Separation Processes],3rd edition,Wiley VCH,2001;Schlunder E.U.,Thurner F.:Destillation,Absorption,Extraktion[Distillation,Absorption,Extraction],Springer Verlag,1995;Mersmann,Alfons:Thermische Verfahrenstechnik [Thermal Process Technology],Springer Verlag,1980;Grassmann P.,Widmer F.:Einfuhrung in die thermische Verfahrenstechnik [Introduction to Thermal Process Technology],de Gruyter,1997;Weiss S.,Militzer K.−E.,Gramlich K.:Thermische Verfahrenstechnik,Dt.Verlag fur Grundstoffindustrie,Leipzig,Stuttgart,1993.ここで、これらの文献の論及(参照)がなされる。
【0047】
更なる実施の形態では、工程a)で供給される脂肪酸トリグリセリド−含有流が、任意に、水素の存在下に、触媒を使用した脱硫処理を受け、硫黄成分、特に芳香族硫黄化合物の含有量が低減される。適切な脱硫剤は、金属成分を含み、該金属成分は、好ましくは周期表の6、7、8、9、10、11及び12族の金属から選ばれる。金属は、Mo、Ni、Cu、Ag、Zn及びこれらの組合せから選ばれることが好ましい。脱硫剤の適切な更なる成分は、ドーパントである。金属成分は、酸化物の状態(oxidic form)、還元された状態、又は酸化された、及び還元された成分を含む混合物の状態で使用しても良い。脱硫剤の活性成分(金属成分、及び任意にドーパント)は、担体に施されても良い。適切な担体は、原則として、吸着剤、及び以下に記載する触媒担体である。担体材料は、活性炭、グラファイト、カーボンブラック、Al23、SiO2、TiO2、ZrO2、SiC、シリケート、ゼオライト、アルミナ(例えば、ベントナイト)、及びこれらの組合せから選ばれることが好ましい。少なくとも1種の金属成分、及び任意に更なる成分の、担体材料への積載(供給)は、公知の方法、例えば(共)沈殿又は含浸によって行うことができる。脱硫剤は、成形体、例えばプレスされたシリンダー、タブレット、ペレット、ワゴンホイール、リング、星状の状態、又は押出し成形物、例えば固体押出物、ポリローバル押出し物、空洞状押出し物、及びハニカム、又は他の幾何学体の状態で使用しても良い。担持されていない脱硫剤を、通常のプレスによって、例えば押出し、タブレット化等によって成形することができる。担持された脱硫剤は、担体の形状によって決定される。
【0048】
触媒作用による脱硫のために、銅と亜鉛を1:0.3〜1:10の原子割合、好ましくは1:0.5〜1:3の原子割合、特に1:0.7〜1:1.5の原子割合で含む脱硫剤を使用することが好ましい。35〜45質量%の酸化銅、35〜45質量%の酸化亜鉛、及び10〜30質量%の酸化アルミニウムを含む脱硫剤を使用することが好ましい。特定の実施の形態では、脱硫剤は、工程b)で水素化触媒として使用可能な成分である。これに関して、水素化触媒とその製造方法についての続く開示が参照される。
【0049】
本方法の変形の一形態では、脂肪酸トリグリセリド−含有流は、少なくとも1つの脱硫領域で、脱硫剤と接触され、そして次に少なくとも1つの反応領域で水素化される。
【0050】
この技術分野の当業者にとって、脱硫及び反応領域の特性の構成と配置を、(任意の)公知の方法で行うことができることは明確である。脱硫及び反応領域を、互いに空間的に離れた状態で配置すること、すなわち、装置の配置上の理由で、構成的な意味で、これらを互いに分離するができ、又は他に、1つ以上の組合された脱硫/水素化領域内で構成することも可能である。
【0051】
銅−亜鉛脱硫剤は、例えば通常の沈澱又は共沈殿法によって得ることができ、そして酸化された、又は還元された状態で使用することができる。
【0052】
特定の実施の形態では、銅−亜鉛脱硫剤は、少なくとも銅、亜鉛、及びアルミニウムを含み、この場合、銅:亜鉛:アルミニウム原子割合は、1:0.3:0.05〜1:10:2、好ましくは1:0.6:0.3〜1:3:1、及び特に1:0.7:0.5〜1:1.5:0.9の範囲である。
【0053】
還元された状態に変換するために、脱硫剤を水素還元処理することが可能である。これは、約150〜350℃、好ましくは約150〜250℃で、水素の存在下に行なわれ、この場合、水素は不活性ガス、例えば窒素、アルゴン、メタン、特に窒素で、水素含有量が10体積%以下、好ましくは6体積%以下、特に0.5〜4体積%になるように希釈される。このようにして得られた銅−亜鉛脱硫剤(「還元状態」)は、この状態で、脱硫に使用されても良い。
【0054】
一実施の形態では、脂肪酸トリグリセリド−含有流の脱硫は、酸化状態の銅−亜鉛脱硫剤を使用して、水素を加えることなく行われる。
【0055】
更なる実施の形態では、脂肪酸トリグリセリド−含有流の脱硫は、酸化された状態の銅−亜鉛脱硫剤上で、水素の存在下に行なわれる。
【0056】
更なる実施の形態では、脂肪酸トリグリセリド−含有流の脱硫は、還元された状態の銅−亜鉛脱硫剤上で、水素を加えることなく行なわれる。
【0057】
更なる実施の形態では、脂肪酸トリグリセリド−含有流の脱硫は、還元された状態の銅−亜鉛脱硫剤上で、水素の存在下に行なわれる。
【0058】
典型的には、脱硫は、40〜200℃の温度範囲、特に50〜180℃、特に60〜160℃、好ましくは70〜120℃の温度範囲で、1〜40バールの圧力、特に1〜32バール、好ましくは1.5〜5バール、特に2.0〜4.5バールの圧力で行われる。脱硫は、不活性ガス、例えば窒素、アルゴン、又はメタンの存在下に行うことができる。しかしながら通常、脱硫は、不活性ガスを加えることなく行われる。
【0059】
典型的には−所望により−ここで水素は≧99.8体積%の純度、特に≧99.9体積%、好ましくは≧99.95体積%の純度で使用される。これらの純度は、任意に行われる触媒の活性化に使用される水素にも、類推して適用される。
【0060】
典型的には、脂肪酸トリグリセリド−含有流の水素に対する質量割合は、40000:1〜1000:1の範囲、特に38000:1〜5000:1の範囲、より特定的には37000:1〜15000:1の範囲、好ましくは36000:1〜25000:1の範囲、特に35000:1〜30000:1の範囲である。
【0061】
従って、脱硫された脂肪酸トリグリセリド−含有流は、通常、硫黄不純物、特に芳香族硫黄化合物の含有量が、最大で70ppb、好ましくは最大で50ppbであり、及び合計硫黄含有量が合計で≦200ppb、好ましくは≦150ppb、特に≦100ppbである。
【0062】
上述した脱硫剤はまた、塩素、ヒ素、及び/又はリン、又は対応する塩素、ヒ素、及び/又はリン化合物の低減、又は脂肪酸トリグリセリド−含有流からの除去を可能にする。
【0063】
更なる実施の形態では、工程a)で供給される脂肪酸トリグリセリド−含有流は、少なくとも1種の吸着剤と接触されて、触媒作用による水素化を損なう成分が除去される。
【0064】
吸着剤は、好ましくは、BETに従い測定して比表面積が、10〜2000m2/gの範囲、より好ましくは10〜1500m2/gの範囲、より好ましくは10〜400m2/gの範囲、特に60〜250m2/gの範囲である。
【0065】
適切な吸着剤は、例えば活性酸化アルミニウムである。これらは、例えば、(アルミニウム塩溶液からの通常の沈澱法によって得ることができる)水酸化アルミニウムから進めて製造される。本発明に従う方法に適切な活性酸化アルミニウムは、水酸化アルミニウムゲルから進めて得ることもできる。このようなゲルを製造するために、例えば沈澱した水酸化アルミニウムを、通常の後処理工程で、例えばろ過、洗浄、及び乾燥、そして次に任意に研磨又は塊状化することによって活性化することができる。所望により、得られた酸化アルミニウムは、次に成形工程、例えば押出し、造粒、タブレット化等に処理することもできる。適切な吸着剤は、好ましくはAlcoaからのSelexsorb TM typesである。
【0066】
適切な吸着剤は、酸化アルミニウム含有固体でもある。これらは例えば、同様にアルミニウムを主要成分として含むアルミナを含む。
【0067】
更に、適切な吸着剤は、リン酸アルミニウムである。
【0068】
更に適切な吸着剤は、例えば、シリカゲルを脱水しそして活性化することによって得られる二酸化ケイ素である。二酸化ケイ素を製造するための更なる方法は、シリコンテトラクロリドの火炎加水分解である。ここで、反応パラメーターの適切なバリエーション、例えば反応混合物の化学量論的な組成、及び温度のものが、得られる二酸化ケイ素の表面特性を広い範囲で変化させる。
【0069】
更なる適切な吸着剤は、同様に二酸化ケイ素を主要な成分として含む、珪藻土(kieselguhr)である。これらは、例えば、シリカ沈澱物から得られる珪藻類を含む。
【0070】
更なる適切な吸着剤は、例えばRompp,Chemie−Lexikon,9th ed.(paperback),vol.6,p.4629ff.及びp.5156hh、及びそこに引用されている文献に記載されているような、二酸化チタン又は二酸化ジルコニウムである。これにより、これらの文献は全てここに導入される。
【0071】
更に適切な吸着剤は、フォスフェイト、特に濃縮されたフォスフェイト、例えば(活性表面積が非常に大きい)縮合した、又はか焼されたフォスフェイトである。適切なフォスフェイトは、例えば、Rompp,Chemie−Lexikon,9th ed.(paperback),vol.4,p.3376ff.及びこの文献に引用されている文献に記載されている。これにより、これらの文献は全てここに導入される。
【0072】
更に適切な吸着剤は、炭素含有吸着剤、好ましくは活性炭である。ここで、活性炭は通常、多孔性構造及び大きい内部表面積を有する炭素であると理解される。活性炭を製造するために、植物、動物、及び/又は無機炭素含有原材料が、例えば脱水剤、例えば塩化亜鉛、又はリン酸と一緒に、加熱され、又は乾留によって炭化され、そして次に酸化的に活性化される。この目的のために、炭化した材料を、例えば、蒸気、二酸化炭素、及び/又はこれらの混合物で、約700〜1000℃の上昇した温度で処理することができる。
【0073】
イオン交換体、及び/又は吸着樹脂を使用することもできる。
【0074】
吸着体は、好ましくは、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、二酸化ケイ素、珪藻土、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム−含有固体、アルミニウムフォスフェイト、天然及び合成アルミニウムシリケート、フォスフェイト、炭素含有吸着剤、及びこれらの混合物から選ばれる。
【0075】
吸着剤は、BETに従い測定して比表面積が、通常約10〜2000m2/gの範囲、より特定的には、10〜1500m2/gの範囲、及び特に20〜600m2/gの範囲である。
【0076】
望ましくない成分を吸着除去するために、より特定的には、触媒作用による水素化を損なう成分を除去するために、工程a)で供給される脂肪酸トリグリセリド含有流が、吸着領域で、少なくとも1種の吸着剤と接触される。
【0077】
特定の実施の形態では、(工程b)で使用される水素化触媒としても使用可能な)少なくとも1種の成分を含む吸着剤が使用される。以下に水素化触媒について更に詳細に記載する。吸着剤として使用するのにも適切なものはまた、2種以上の吸着剤の組合せでもある。水素化触媒として可能な成分をもっぱら使用すること、水素化触媒として適切ではない吸着剤をもっぱら使用すること、及びこれらの組合せを使用することが可能である。
【0078】
好ましい実施の形態では、使用する吸着剤と水素化触媒は、同じ成分である。任意に、上述したように、水素化触媒以外の、1種以上の更なる通常の吸着剤が、ここで追加的に使用される。
【0079】
本発明の一形態(一実施の形態)では、脂肪酸トリグリセリド−含有流が、少なくとも1つの吸着領域で吸着剤と接触され、そして次に少なくとも1つの反応領域で水素化される。
【0080】
1つ以上の吸着及び反応領域の特定の構成と配列が、公知の如何なる方法によってでも行い得ることは、この技術分野の当業者にとって明確である。吸着及び反応領域を、空間的に互いに分離して、すなわち装置の構造によって構成的に相互に分離して配置することが好ましい。
【0081】
異なる吸着剤が使用される場合、例えば、第1の吸着領域を(第1の吸着剤を含む)第1の反応器に設け、そして分離して、すなわち装置という意味でこれとは分離して、例えば第2の反応器に、(第2の吸着剤を含む)第2の吸着領域を設けることが可能である。この場合、第1、及び/又は第2の吸着剤は、水素化触媒として使用可能な少なくとも1種の成分を含んでも良い。
【0082】
更なる実施の形態では、通常の吸着剤が、水素化を行うことができる吸着剤と一緒に、例えば、互いを重ねた層状態で、ランダムな分配の状態に混合されて、又は勾配床の状態で、1つの吸着領域内で使用される。混合状態での使用は、任意に、温度のより良好な制御を可能にする。勾配床の場合、直線状、又は非直線状の勾配を使用することができる。ここで、床内の分配状態を、水素化される脂肪酸トリグリセリド−含有流が、(水素化が可能な吸着剤と接触する前に)最初に通常の吸着剤と接触するように構成することが有利であっても良い。
【0083】
水素化される脂肪酸トリグリセリド−含有流が最初の吸着領域で通常の吸着剤と接触し、そして第2の吸着領域で、水素化触媒として使用可能な少なくとも1種の成分を含む吸着剤と接触するように、少なくとも2つの吸着領域が配置されることが有利である。
【0084】
工程b)
本発明に従えば、工程b)での水素化のために、銅、アルミニウム、及び(ランタン、タングステン、モリブデン、チタニウム、ジルコニウム、及びこれらの混合物から選ばれる)少なくとも1種の更なる金属を含む不均一触媒が使用される。
【0085】
本発明に従う方法で使用される不均一水素化触媒は、担持されていない触媒であっても良く、又は担持された触媒であっても良い。これらは均一な組成の触媒、含浸された触媒、被覆された触媒、及び沈澱触媒の状態で使用しても良い。
【0086】
適切な触媒は、酸化状態、還元状態(元素状態)、又はこれらの組合せの状態の金属を含んでも良い。1つ以上の酸化状態で安定な金属を、完全に1つの酸化状態で、又は異なる酸化状態で使用しても良い。
【0087】
本発明に従う方法で使用するのに特に有利に適切な触媒の特定の実施の形態は、銅を酸化状態で、及び任意に追加的に、元素の状態で含む触媒のものである。従って、工程b)で使用される水素化触媒は、触媒の合計質量に対して、好ましくは少なくとも25質量%、より好ましくは少なくとも35質量%の銅を酸化状態で、及び/又は元素状態で含む。
【0088】
特に好ましい触媒は、以下の金属含む:Cu、Al、La、又はCu、Al、W。
【0089】
このような触媒を製造するためにしばしば使用される方法では、担体材料が触媒成分で含浸され、触媒成分は、次に熱処理、分解、又は還元によって触媒的に活性な状態に変換される。
【0090】
触媒を製造するために適切な更なる方法は、少なくとも1種の触媒成分の沈澱を含む。種々の触媒成分を相次いで沈澱させることができ、又は2種以上の触媒成分を、共沈殿させることができる。例えば、成形された触媒体を製造するために、銅成分、少なくとも1種の更なる金属化合物、及び任意に少なくとも1種の添加剤を沈澱させることができ、そして次に乾燥、か焼、及び成形処理することができる。沈澱は、担体材料の存在下に行うことができる。沈澱のための適切な出発材料は、金属塩、及び金属錯体である。沈澱のために使用される金属化合物は、原則として、担体に施すために使用される溶媒に溶解可能な、全ての公知の金属塩であって良い。これらは、例えば、ニトレート、カーボネート、アセテート、オキサレート、又はアンモニウム錯体を含む。好ましい実施の形態では、少なくとも1種の金属ニトレートが使用される。沈殿のために、水性媒体が好ましい。
【0091】
適切な水性媒体は、工程条件下では液体であり。そして少なくとも10質量%、より好ましくは少なくとも30質量%、及び特に少なくとも50質量%の水を含む物質、又は混合物である。水以外の部分は、少なくとも部分的に水に可溶性であり、又は少なくとも部分的に水と混和性である無機又は有機化合物から選ばれることが好ましい。例えば、水以外の化合物は、有機溶媒、例えばC1−C20アルカノール、特にメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、及びヘキサノール、C4−C8−シクロアルキルエーテル、例えばテトラヒドロフラン、ピラン、ジオキサン、及びトリオキサン、C1−C12−ジアルキルエーテル、例えばジメチルエーテル、ジブチルエーテル、及びメチルブチルエーテルから選ばれる。水性媒体は、好ましくは40質量%未満、より好ましくは30質量%未満、及び特に20質量%未満の有機溶媒を含む。本発明に従う方法の好ましい一実施の形態では、水性媒体は基本的に、有機溶媒を含まない。
【0092】
沈澱は、例えば、飽和した溶液の冷却、沈澱剤の添加等の公知の方法で行うことができる。適切な沈澱剤は例えば、酸、塩基、還元剤等である。
【0093】
沈澱は、酸又は塩基を(銅化合物、及び任意に更なる化合物を含む)水性媒体中に加えることによって行うことができる。適切な酸は、無機酸、例えばHCl、H2SO4、及びH3PO4である。塩基は、好ましくは、金属酸化物、金属ヒドロキシド、特にアルカリ金属ヒドロキシド、例えば水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム、金属カーボネート、特にアルカリ金属、及びアルカリ土類金属カーボネート、例えばリチウムカーボネート、ナトリウムカーボネート、及びカリウムカーボネート、マグネシウムカーボネート、及びカルシウムカーボネート、チッソベース、特にアンモニア、及び第1級、2級、及び3級アミンから選ばれる。
【0094】
適切な還元剤の例は、カルボン酸、例えばギ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、及び特にカルボン酸の塩、好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、及びC1−C10−アルキルアンモニウム塩、亜リン酸、又は次亜リン酸、亜リン酸、又は次亜リン酸の塩、特にアルカリ金属、又はアルカリ土類金属塩、C1−C10アルカノール、例えばメタノール、エタノール、及びイソプロパノール、砂糖、例えばアルドース、及びモノサッカリド、ジサッカリド、及びオリドサッカリドの状態のケトース、特にグルコース、フラクトース、及びラクトース、アルデヒド、例えばホルムアルデヒド、ホウ素水素化合物、例えばホウ化水素、ボラン、金属ボロネート、及びボラン錯体、例えばジボラン、ナトリウムボロヒドリド、及びアミノボラン、特にトリメチルアミノボラン、ヒドラジン、及びアルキルヒドラジン、例えばメチルヒドラジン、ハイドロージェンジチオナイト、及びジチオナイト、特にナトリウム、及びカリウムハイドロージェンジチオナイト、ナトリウム、カリウム、及び亜鉛ジチオナイト、ハイドロージェンスルフィド、及びスルフィド、特にナトリウム、及びカリウムハイドロージェンスルフィド、ナトリウム、カリウム、及びカルシウムスルフィド、ヒドロキシアミン及びウレア、及びこれらの混合物である。
【0095】
WO2006/005505には、本発明に従う方法で使用するのに特に適切な、成形された触媒体が記載されている。これらは、以下の工程、
(i)酸化銅、酸化アルミニウム、及び(ランタン、タングステン、モリブデン、チタニウム、又はジルコニウムの)少なくとも1種の酸化物、好ましくはランタン、及び/又はタングステンの酸化物を含む酸化性材料が使用可能であり、
(ii)粉状の金属銅、銅フレーク、粉状のセメント、又はこれらの混合物、又はグラファイトとの混合物を酸化性材料に加えることができ、及び
(iii)(ii)で得られた混合物を成形して、直径d及び/又は高さhが<6.0mmの触媒ペレット、又は触媒押出し物、直径dが<6.0mmの触媒球体、又はセル直径rzが<6.0mmの触媒ハニカムに成形すること、
によって製造されても良い。
【0096】
ランタン、タングステン、モリブデン、チタニウム、又はジルコニウムの酸化物の中で、酸化ランタンが好ましい。酸化性材料の組成は、通常、酸化銅の割合が、40〜90質量%であり、ランタン、タングステン、モリブデン、チタニウム、又はジルコニウムの酸化物の割合が、1〜59質量%の範囲であり、酸化アルミニウムの割合が、1〜59質量%の範囲であり(質量%は、それぞれ、上述した酸化性成分の全体の合計質量に対する)、及びこれら3種の酸化物は一緒に、か焼の後で、酸化性材料の少なくとも80質量%であり、及びセメントは、上述した意味で、酸化性材料の部分には含まれない。
【0097】
好ましい実施の形態では、酸化性材料は以下の、
(a)50≦x≦80質量%の範囲、好ましくは55≦x≦75質量%の範囲の割合の酸化銅、
(b)15≦y≦35質量%の範囲、好ましくは20≦y≦30質量%の範囲の割合の酸化アルミニウム、
(c)2≦x≦20質量%の範囲、好ましくは3≦x≦15質量%の範囲の割合の、ランタン、タングステン、モリブデン、チタニウム、又はジルコニウムの酸化物、好ましくはランタン及び/又はタングステンの酸化物の少なくとも1種、
(但し、質量%は各場合において、か焼の後の酸化性材料の合計質量に基づき、及び80≦x+y+z≦100、特に95≦x+y+z≦100である)
を含む。
【0098】
工程b)で使用される水素化触媒は、組成(CuO)0.6〜0.8(Al230.1〜0.34(La230.02〜0.2の酸化性材料を含むか、又はこのような酸化性材料(酸化物材料)から成る触媒である。特定の適切な触媒は、化学組成、57%CuO,28.5%Al23、9.5%La23、及び5%Cuを有する。
【0099】
本発明の触媒のために使用される不活性担体材料は、実質的に、担持触媒を製造するのに有利に使用される、従来技術の如何なる担体材料であっても良く、例えばSiO2(石英)、磁器、酸化マグネシウム、二酸化スズ、シリコンカーバイド、TiO2(ルチル、アナターゼ)、Al23(アルミナ)、ケイ酸アルミニウム、ステアタイト(マグネシウムシリケート)、ジルコニウムシリケート、セリウムシリケート、又はこれら担体材料の混合物であっても良い。好ましい担体材料は、酸化アルミニウム及び二酸化シリコンである。触媒の製造のために使用される二酸化シリコン担体は、由来と製造(調製)が異なる二酸化シリコン材料であっても良く、例えば、ヒュームドシリカ、又は湿潤化学的手段によって製造されたシリカ、例えばシリカゲル、エアロゲル、又は沈澱シリカであっても良い(異なるSiO2出発材料の製造については以下を参照:W.Buchner;R.Schliebs;G.Winter;K.H.Buchel:Industrielle Anorganische Chemie[Industrial Inorganic Chemistry];2nd ed.,p.532−533,VHC Verlagsgesellschaft,Weinheim 1986)。
【0100】
触媒は、成形体として使用しても良く、例えば球状、リング状、シリンダー状、立方体状、直平行六面体状、又は他の幾何学体の状態であっても良い。担持されていない触媒を通常の方法、例えば押出し、タブレット化等で成形することもできる。担持された触媒の形状は、担体の形状によって決定される。この替わりに、担体は、触媒活性成分を施す前、又は後に、成形工程を受けさせることもできる。触媒は、例えば、プレスされたシリンダー、タブレット、ペレット、ワゴンホイール、リング、星形、又は押出し物、例えば固体押出し物、ポリロバール押出し物、中空押出し物、及びハニカム、又は他の幾何学体の状態で使用しても良い。
【0101】
触媒粒子は、(最大)直径の平均が通常、0.5〜20mm、好ましくは1〜10mmである。これは例えば、直径が1〜7mm、好ましくは2〜6mm、及び最高で3〜5mmのタブレット、例えば押出し径が4〜7mm、好ましくは5〜7mm、最高で2〜5mm、及び孔径が2〜3mmのリング、又は例えば直径の異なる長さが1.0〜5mmの押出し物の状態の触媒を含む。このような形状は、タブレット化、又は押出しによる、それ自体公知の方法で得ることができる。この目的のために、通常の助剤、例えば滑剤、例えばグラファイト、ポリエチレンオキシド、セルロース、又は脂肪酸(例えばステアリン酸)、及び/又は成形助剤、及び補強剤、例えばガラスのファイバー、アスベスト、又はシリコンカーバイドを、触媒組成物に加えても良い。
【0102】
担持触媒の特定の実施の形態は、被覆触媒のものである。被覆触媒は、担体に被覆状態で施された触媒組成物を含む。これらは、球状、リング状、シリンダー状、立方体状、直平行六面体状、又は他の幾何学体の状態であっても良い。触媒活性材料の種類と組成にかかわらず、被覆された触媒粒子は原則として、担体を液体バインダーと触媒活性成分に接触させ、組成物の層を担体に施し、そして次に任意に、部分的にバインダーを除去することによって得ることができる。触媒粒子を得るために、触媒的に活性な材料が実際に、その仕上られた触媒活性状態で、例えばか焼された混合酸化物として施される。被覆された触媒を製造するための適切な方法は、例えば、DE−A−2909671及びEP−A−714700に記載されている。後者の方法に従えば、担体は最初に、液体バインダーでぬらされ、次に活性触媒組成物の層が、乾燥し、微細化した、活性触媒組成物と接触することにより、ぬれた担体の表面に付着し、そして次に、液体バインダーが任意に部分的に除去される。特定の実施の形態では、担体をぬらす工程、触媒組成物と接触させる工程、及び液体バインダーを除去する工程は、所望の厚さの被覆触媒層が達成されるまで、1回以上繰り返される。
【0103】
担体触媒の更なる特定の実施の形態は、含浸法によって製造された触媒である。この目的のために、触媒的に活性な触媒組成物、又はこれらの前駆体化合物を担体材料に施すことができる。通常、担体材料は、成分の塩水溶液、例えばそのハロゲン化物、サルフェート、ニトレート等を施すことによって含浸される。銅成分を、例えば、そのアミン錯体の水溶液の状態で、例えば[Cu(NH34]SO4として又は[Cu(NH34](NO32として、任意に炭酸ナトリウムの存在下に、担体材料に施しても良い。同様の首尾を使用して、例示したもの以外の銅−アミン錯体を触媒の製造のために使用することも可能である。
【0104】
担体材料は原則として、触媒的に活性な成分の前駆体で、1以上の段階で含浸させることができる。含浸は、通常の含浸装置、例えば含浸ドラムで行うことができる。乾燥、及び/又はか焼の後、仕上られた触媒が得られる。含浸された成形触媒体は、例えばベルト又はトレー炉内で、連続的に又は非連続的に乾燥させることができる。乾燥は、大気圧下に又は減圧下に行なうことができる。更に、乾燥を、ガス流内、例えば空気流、又は窒素流内で行うことができる。使用される圧力に従い、乾燥は通常、50〜200℃の温度、好ましくは80〜150℃の温度で行われる。任意に予め乾燥された触媒は、通常200〜800℃、好ましくは500〜700℃の温度でか焼される。か焼は、乾燥と同様に、連続的に、又は非連続的に、例えばベルト又はトレイ炉内で行うことができる。か焼は、大気圧下で、又は減圧下、及び/又はガス流中で、例えば空気流、又は窒素流中で行うことができる。通常では水素化条件に対応する条件下で行われる、水素又は水素−含有ガスでの予備処理は、水素化触媒を予備還元/活性化させる。ここで触媒は、現場(in situ)で、水素化で設定された条件下で、好ましくはは圧力下(例えば、約100〜325バールの水素圧で)で還元することもできる。
【0105】
工程b)における水素化は、好ましくは100〜320℃の温度範囲、より好ましくは150〜270℃の温度範囲、特に180〜230℃の温度範囲で行われる。
【0106】
工程b)における水素化は、好ましくは100〜325バールの圧力範囲、より好ましくは150〜300バールの圧力範囲、特に180〜230バールの圧力範囲で行われる。
【0107】
水素の脂肪酸トリグリセリドに対するモル割合は、好ましくは10:1〜1000:1、より好ましくは12.5:1〜500:1である。
【0108】
連続モードにおける触媒の時間空間速度(hourly space velocity)は、好ましくは0.1〜1kg、より好ましくは0.2〜0.5kgの水素化される脂肪酸トリグリセリド/kg(触媒)×hである。
【0109】
脂肪酸トリグリセリドに基づく変換は、好ましくは少なくとも90%、特に少なくとも95%である。
【0110】
本発明に従う方法で、工程b)での水素化における、1,2−プロパンジオールのための選択率は、(グリセロールとグリセロールの水素化生成物の合計に対して)好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%である。多くの場合、95%までのより高い選択率、及びそれ以上でも達成することができる。
【0111】
水素化は、好ましくは連続的に行なわれる。水素化の排出物は、基本的に脂肪酸と1,2−プロパンジオールで構成される。更なる成分は、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、1,3−プロパンジオール、グリセロール、エチレングリコール、及び水から選ばれる。
【0112】
本発明に従う特定の実施の形態では、水素化は、順次接続されたn個(但し、nは、少なくとも2の整数である)の水素化反応器内で行われる。適切なnの値は、2、3、4、5、6、7、8、9及び10である。nは、好ましくは3〜6であり、及び特に2又は3である。この実施の形態では、水素化は好ましくは連続的なものである。
【0113】
工程b)で水素化のために使用される反応器は、それぞれ独立して、1個以上の反応領域を反応器内に有していても良い。反応器は、同一又は異なる反応器であって良い。これらは、例えば、それぞれ、同一又は異なる混合特性を有していても良く、及び/又は内部構造によって1回以上分けられても良い。
【0114】
水素化のための適切な圧力−抵抗性反応器は、この技術分野の当業者にとって公知である。これらは、一般に、ガス−液体反応のための通常の反応器、例えば管型反応装置、管束反応器、ガス循環反応器、バブルカラム、ループ装置、攪拌タンク(攪拌タンクは、攪拌タンクカスケードとして構成されていても良い)エアリフト反応器等を含む。
【0115】
不均一触媒を使用した、本発明に従う方法は、固定床、又はサスペンションモードで行うことができる。固定床法は、例えば液相モード、又は液滴モード(trickle mode)で行うことができる。触媒は、上述したような成形体、例えばプレスされたシリンダー、タブレット、ペレット、ワゴンホイール、リング、星形、又は押出し物、例えば固体押出し物、ポリローバル押出し物、中空押出し物、ハニカム等として使用されることが好ましい。
【0116】
サスペンションモードでも、不均一触媒が同様に使用される。不均一触媒(不均一系触媒)は、通常、微細に分散した状態で使用され、そして反応媒体中に微細に懸濁して存在する。
【0117】
適切な不均一系触媒、及びその製造方法は上述したものである。
【0118】
固定床上で水素化する場合、(その内部に固定床が配置され、該固定床を通して反応媒体が流れる)反応器が使用される。固定床は、単一床から、又は複数の床から形成することができる。各床は、(領域の少なくとも1つは水素化触媒として活性な材料を含む)1つ以上の領域を有していても良い。各領域は、1種以上の異なる触媒活性の材料、及び/又は1種以上の異なる不活性材料を有していても良い。異なる領域は、同一、又は異なる組成を有していても良い。(例えば不活性床で互いに分離された)複数の触媒的に活性な領域を設けることも可能である。個々の領域は、異なる触媒活性を有していても良い。この目的のために、異なる触媒的に活性な材料を使用することができ、及び/又は不活性材料を、領域の少なくとも1つに加えることができる。固定床を流れる反応媒体は、本発明に従い、少なくとも1種の液相を含む。反応媒体は、ガス相も追加的に含んでも良い。
【0119】
水素化で浮遊状態で(in suspention)使用される反応器は、特にループ装置、例えばジェットループ、又はプロペラループ、攪拌タンク(該攪拌タンクは、攪拌タンクカスケードとして構成されても良い)、バブルカラム、又はエアリフト反応器である。
【0120】
好ましくは、工程b)での連続的な水素化は、少なくとも2個の順次接続された固定床反応器内で行われる。反応器は、並流で運転されることが好ましい。供給流は、頂部から、又は底部からの何れからであっても供給することができる。
【0121】
水素化の反応条件下で、脂肪酸トリグリセリド、得られる脂肪アルコール、及び得られる1,2−プロパンジオールは、好ましくは液相中に存在する。反応混合物の個々の成分が、単独では、これらの条件下で固体であるように条件を選択しても良い。例えば、(1種以上の)脂肪アルコールの場合がこのケースに該当する。
【0122】
工程b)での全ての反応器内での水素化での温度は、通常、約150〜300℃、特に180〜250℃である。
【0123】
所望により、n個の反応器から構成される水素化装置の中で、少なくとも2個の反応器(すなわち、2〜n個の反応器)が互いに異なる温度を有していても良い。特定の実施の形態では、それぞれの続く下流の反応器は、上流の反応器よりも高い温度で運転される。更に、各反応器は、異なる温度の2個以上の反応領域を有していても良い。例えば、異なる温度、好ましくは、第1の反応領域の温度より高い温度が、第2の反応領域に設定可能であり、又は例えば、(水素化で実質的に完全な変換を達成するために)上流の反応領域内の温度よりも高い温度が、各下流の反応領域内に設定可能である。
【0124】
工程b)内の反応圧は、全ての反応器内で、好ましくは、通常、約150〜300バール、より好ましくは180〜250バールである。
【0125】
所望により、n個の反応器から成る水素化装置の場合、少なくとも2個の反応器(すなわち2〜n個の反応器)が異なる圧力を有していても良い。特定の実施の形態の場合、下流に接続された各反応器は、上流の反応器よりも高い圧力で運転される。
【0126】
水素化に必要とされる水素は、第1、及び任意に、追加的に、少なくとも1個の更なる反応器に供給することができる。第1の反応器にだけ水素を供給することが好ましい。反応器に供給される水素の量は、水素化反応で消費される水素の量、及び任意にオフガスと一緒に排出される水素の量から生じる。
【0127】
特定の反応器内で変換される脂肪酸トリグリセリドの含有量は、例えば反応器体積、及び/又は反応器内での滞留時間によって調節することができる。第1の反応器内での変換は、脂肪酸トリグリセリドに対して、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%である。工程b)での合計変換は、脂肪酸トリグリセリドに対して、好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、特に少なくとも99%である。
【0128】
発熱の水素化で発生する反応の熱を除去するために、1個以上の反応器に、少なくとも1個の冷却装置を設けることが可能である。特定の実施の形態では、少なくとも第1の反応器が冷却装置を備えている。反応の熱は、外部の循環流を冷却することにより除去可能であり、又は少なくとも1個の反応器内の内部冷却によって除去可能である。内部冷却のために、この目的にとって通常の装置(通常、中空モジュール、例えばField tube、チューブコイル、熱交換板等)を使用することが可能である。この替わりに、反応を冷却チューブ束反応器内で行うことも可能である。
【0129】
工程b)での水素化は、好ましくは、順次接続されたn個の水素化反応器内(但し、nは少なくとも2の整数である)で行われ、ここで少なくとも1個の反応器が、外部循環システム(外部循環流、液体循環流、ループモード)に接続された反応領域からの流れを有している。nは2又は3であることが好ましい。
【0130】
工程b)での水素化は、好ましくは、順次接続されたn個の水素化反応器内で行われ、ここで、nは好ましくは2又は3であり、及び1番目〜(n−1)番目の反応器は、外部循環システムに接続された反応領域からの流れを有している。
【0131】
工程b)における水素化は、好ましくは、順次接続されたn個の水素化反応器内で行われ、ここで、nは好ましくは2又は3であり、及びn番目の反応器(水素化される反応混合物が流れる最後の反応器)内で、反応が断熱的に行なわれる。
【0132】
工程b)における水素化は、好ましくは、順次接続されたn個の水素化反応器内で行われ、ここで、nは好ましくは2又は3であり、及びn番目の反応器が直線状の通路内で運転される。
【0133】
第1の反応器(1番目の反応器)の下流に接続された反応器(即ち2番目〜n番目の反応器)の1つの反応器内で水素化された反応混合物が、水素化可能な脂肪酸トリグリセリドを低い割合でしか含まず、反応器内での発熱的が、反応器内での所望の温度を維持するためには不十分である場合、反応器の加熱(又は2番目の反応器の個々の反応領域の加熱)も必要とされて良い。このことは、上述した熱の除去に類似して、外部循環流の加熱か、又は内部加熱によって行うことができる。適切な実施の形態では、反応器の温度は、上流側の反応器の少なくとも1個からの反応の熱を使用することによって制御することができる。
【0134】
更に、反応混合物から取り出された反応熱は、反応器への供給流を加熱するために使用することができる。例えば、第1の反応器への脂肪酸トリグリセリド供給流は、この反応器の外部循環流と、少なくとも部分的に混合することができ、そして結合された流れを、第1の反応器に導入することができる。更に、m=2〜n個の反応器の場合で、(m−1)番目の反応器からの供給流を、m番目の反応器内で、m番目の反応器の循環流と混合することができ、そして次に結合された流れを、m番目の反応器に導入することができる。更に、脂肪酸トリグリセリド供給流、及び/又は他の供給流を(取り出された水素化熱で運転される熱交換器の補助下に)加熱することができる。
【0135】
特定の実施の形態の場合、順次結合されたn個の反応器から構成される反応カスケードが使用され、この場合、n番目の反応器内で、反応が断熱的に行なわれる。本発明において、この用語は技術的な意味で使用されており、物理化学的な意味では使用されていない。従って、反応混合物は通常、(発熱水素化反応のために)第2の反応器を通って流れるに従い温度が上昇する。断熱反応は、水素化で放出された熱量が、反応器内の反応混合物によって吸収され、及び冷却装置による冷却が行われない進行状態を意味すると理解される。従って反応の熱は、(自然の熱伝導及び熱放射の結果として、反応器から環境へと放出される残留内容物とは別に)第2の反応器から反応混合物と一緒に除去される。n番目の反応器は、直線状の通路(straight pass)で運転されることが好ましい。
【0136】
好ましい実施の形態では、工程b)での水素化のために、2段階反応器カスケードが使用され、この場合、第1の水素化反応器は、外部循環システムに導入される反応領域からの流れを有している。本方法の特定の実施の形態の場合、順次接続された2個の反応器から成る反応カスケードが使用され、そして第3の反応器で反応が断熱的に行なわれる。
【0137】
好ましい更なる実施の形態では、3段階反応器カスケードが、工程b)での水素化のために、3段階反応器カスケードが使用され、及び第1と第2の水素化反応器が、外部循環システムに導入される反応領域からの流れを有している。本発明の特定の実施の形態では、順次接続された3個の反応器から成る反応器カスケードが使用され、及び第3の反応器内で、反応が断熱的に行なわれる。
【0138】
一実施の形態では、追加的な混合を、使用される反応器の少なくとも1個で行うことが可能である。水素化が反応混合物の長い滞留時間を使用して行なわれる場合には、追加的な混合が特に有利である。混合のために、例えば適切な混合装置、例えばノズルを使用して、これらを特定の反応器に導入することにより、反応器内に導入される流れを使用することができる。混合のために、外部循環システム内に導入される特定の反応器からの流れを使用することができる。
【0139】
水素化を完了するために、水素化可能な脂肪酸トリグリセリドをなお含んでいる排出物が、各場合において、第1番目から(n−1)番目の反応器から取り出され、そしてそれぞれ、下流の水素化反応器内に供給される。特定の実施の形態では、排出物は、第1と第2の副流に分離され、そして第1の副流が循環流として反応器(該反応器からこの流れが取り出される)に戻され、そして第2の副流が下流側の反応器に供給される。排出物は、溶解した水素、又は水素のガス状部分を含んでいても良い。特定の実施の形態の場合、第1から(n−1)番目の反応器からの排出物が、相分離容器に供給され、そして液相とガス相に分離され、液相は第1と第2の副流に分離され、そしてガス相が別に、少なくとも部分的に下流側反応器に供給される。替わりの実施の形態では、第1番目から(n−1)番目の反応器からの排出物が、相分離容器に供給され、そして第1の液状の水素−低減副流と、第2の水素濃化副流に分けられる。次に第1の副流は、循環流として反応器(該反応器からこの流れが取り出される)に戻され、そして第2の副流が(脂肪酸トリグリセリド−及び水素−含有供給物として)下流側の反応器に供給される。更なる替わりの実施の形態では、2番目〜n番目の反応器には、(上流側の反応器から取り出される水素供給によってではなく、別の供給ラインを使用して、新鮮な水素を使用することにより)水素が供給される。
【0140】
上述した方法の変形例は、反応温度の制御、及び反応媒体、境界を画定する装置壁及び環境の間の熱伝導を制御するために特に有利で、及び適切である。熱バランスを制御する更なる方法は、脂肪酸トリグリセリド含有供給の入口温度を規定することから構成される。例えば、供給の入口部の温度が低いと、通常、水素化の熱の除去が改良される。触媒活性が下降する場合、(高い反応速度を達成し、及び従って、触媒活性が下降することを補償するために)入口温度をより高いレベルに選択することができる。有利なことには、使用する触媒の耐用年数は通常、延長することができる。
【0141】
工程c)
少なくとも1種の脂肪アルコール−含有部分が工程b)で得られた水素化生成物から分離される(=工程c)。
【0142】
最も単純な場合、水素化排出物は後処理を行うことなく、脂肪アルコール含有部分として分離することができる。これは、残留成分が意図する使用に悪影響を与えない場合に該当する。
【0143】
通常、水素化排出物は、この技術分野の当業者にとって公知の、通常の方法で、後処理に処理される。
【0144】
適切な例は、熱的な方法、好ましくは蒸留法、吸着、イオン交換、膜分離法、結晶化、抽出、又はこれらの方法の2つ以上の組み合わせを含む。水素化排出物は、好ましくは蒸留によって後処理される。この目的のために適切な方法は、この技術分野の当業者にとって公知の通常の蒸留法である。蒸留による後処理のための適切な装置は、蒸留カラム、例えばバブル−キャップが設けられていても良いトレイカラム、篩プレート、篩トレイ、パッキング、内部構造、バルブ、側方取り出し等を含む。特に適切なものは、側方取り出し、再循環ライン等が設けられていても良い隔壁カラムである。蒸留のために、2つ以上の蒸留カラムの組合せを使用することも可能である。また適切なものは、蒸発器、例えば薄フィルム蒸発器、流下膜式蒸発器、Sambay蒸発器等、及びこれらの組合せである。
【0145】
本発明に従う好ましい実施の形態では、工程c)で、水素化の生成物から1,2−プロパンジオールが追加的に分離される。
【0146】
以下に本発明を、実施例(本発明は、この実施例に限定されるものではない)を使用して説明する。
【0147】
実施例
実施例1
固定床触媒上でのレープシード油(菜種油)の連続的な水素化
使用した供給流は、レープシード油で、これは、加水分解及びGC/MSカップリングを使用した分析の後、以下の脂肪酸分布を有していた:
パルミチン酸 4.5面積%(area%)
ステアリン酸 1.8面積%
オレイン酸 66.0面積%
リノール酸 24.2面積%
この分布は、オクタデカノール87質量%、及び6.7質量%の1,2−プロパンジオールの水素化という最大の可能な収率を与えた。
【0148】
水素化法を行うために、2段階実験室反応器カスケードを使用した。第1の反応器は140mlの触媒体積を有しており、第2の反応器は100mlの触媒体積を有していた。両方の反応器で、CuO0.6-0.85(Al230.1-0.34(La230.01-0.2を含む酸化性材料を触媒として使用した(第1の反応器:182g、第2の反応器:133g)。水素化反応の前に、触媒を水素流中で還元した。
【0149】
第1の反応器は循環システムを有しており、そして細流モード(trickle mode)で運転された;第2の反応器は直線通路(straight pass)で運転された。
【0150】
連続的な水素化は、1400時間にわたって行われた。第1の反応器内の温度は、反応器入口で205℃であり、そして反応器出口で220℃であり;第2の反応器内の温度は一定して200℃であった。両方の反応器内の水素圧力は、200バールであった。触媒の時間空間速度は、0.18kgrapeseed oil/Lcat×hに設定された。実験期間にわたり、触媒の非活性化は検知されなかった。
【0151】
上述した条件下に、97%の変換、及び85質量%(理論の98%)のオクタデカノールの収率が達成された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪アルコールを製造するための方法であって、
a)少なくとも1種の脂肪酸トリグリセリドを含む流れを供給する工程、
b)脂肪酸トリグリセリドを含む流れを、不均一銅触媒の存在下に水素化処理する工程、
c)少なくとも1つの脂肪アルコール−含有部分を、工程b)で得られた水素化生成物から分離する工程、
を含み、工程b)の触媒の触媒活性成分が、追加的にアルミニウム、及び少なくとも1種の更なる金属を含み、該少なくとも1種の更なる金属は、ランタン、タングステン、モリブデン、チタニウム、ジルコニウム及びこれらの混合物から選ばれることを特徴とする脂肪アルコールを製造するための方法。
【請求項2】
工程a)で、少なくとも1種の天然脂肪、及び/又は少なくとも1種の天然油を含む流が供給されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)での水素化処理のために、銅、アルミニウム及びランタンを含む触媒が使用されることを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載の方法。
【請求項4】
組成(CuO)0.6〜0.8(Al230.1〜0.34(La230.02〜0.2の酸化物材料を含むか、又はこのような酸化物材料から成る触媒が、工程b)で水素化処理のために使用されることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程b)での水素化処理が、100〜320℃の範囲、好ましくは150〜270℃の範囲、特に180〜230℃の範囲の温度で行われることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程b)での水素化処理が、100〜325バールの範囲、好ましくは150〜300バールの範囲、特に180〜230バールの範囲の圧力で行われることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程b)での水素化処理が連続的であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程b)での水素化が、順次連結されたn個の水素化反応器内で行われ、nが少なくともの2の整数であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
nが2又は3の整数であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程b)での水素化が、順次連結されたn個の水素化反応器内で行われ、nが少なくともの2の整数であり、及び第1番目から(n−1)番目までの反応器は、外部循環系内に結合された反応領域からの流れを所有することを特徴とする請求項8又は9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
工程b)での水素化が、順次連結されたn個の水素化反応器内で行われ、nが少なくともの2の整数であり、及び第n番目の反応器内での反応が、断熱的に行なわれることを特徴とする請求項8〜10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程b)での水素化が、順次連結されたn個の水素化反応器内で行われ、nが少なくともの2の整数であり、及び第n番目の反応器が、まっすぐな通路内で運転されることを特徴とする請求項8〜11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
水素が、第1の反応器内にのみ供給されることを特徴とする請求項8〜12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
追加的に、工程c)で、1,2−プロパンジオールを含む流れが水素化処理の生成物から分離されることを特徴とする請求項1〜13の何れか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−527427(P2012−527427A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511272(P2012−511272)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056859
【国際公開番号】WO2010/133619
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】