説明

銅箔とその製造方法

【課題】表面に均一な粗面化形状を形成することを可能とし、優れた密着力を有することを可能とした銅箔とその製造方法を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池用銅箔は、Ni:1.0質量%以上5.0質量%以下、Si:0.2質量%以上1.0質量%以下、Zn:0.1質量%以上2.0質量%以下、P:0.03質量%以上0.2質量%以下の各元素を含有する銅合金箔の表面に、NiとSiとからなる微粒子層を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅箔とその製造方法に係り、特に、表面の粗面化処理による品質の向上を図るとともに、他の材料との密着性の向上を図った銅箔とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン二次電池は、例えばモバイル機器用をはじめとして広く普及している。この種のリチウムイオン二次電池に用いられる負極は、例えば銅箔または銅合金箔からなる負極集電体上にカーボン系の材料を活物質として形成したものである。
【0003】
一般的に、このリチウムイオン二次電池用負極の材料は、圧延銅箔または電解銅箔上にカーボン材料あるいはグラファイト材料(以下、「炭素材料」という。)をバインダーと溶剤でスラリー化したものを塗布・乾燥し、熱ロールプレスを施すことで製造される。炭素材料を活物質として用いると、カーボンとリチウムとの化合物であるLiCが生成され、リチウムイオンを吸蔵・脱離することができる。このとき、LiCの単位重さ当たりの理論放電容量(最大容量)は、約372mAh/gであると言われている。
【0004】
しかしながら、炭素材料を活物質として用いる場合は、この放電電流値を超えて放電容量の増大を図ることができない。そのため、最近では、さらに放電容量の大きい錫(Sn)を主体とした活物質(Li 4.4 Snで約1000mAh/g)、シリコン(Si)を主体とした活物質(Li 4.4 Siで約4000mAh/g)などの実用化の検討が盛んに行われている。
【0005】
この種の従来のリチウムイオン二次電池用負極の一例としては、例えばSnやSiを含む材料を予め微粉化しておき、これを炭素材料と導電助剤に混合したものを負極集電体上に塗布することにより、リチウムとの反応による体積膨張を軽減して充放電サイクル特性を向上させようとする技術がある(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0006】
上記特許文献1に記載された従来の技術は、炭素材料中にSn含有物の粒子を分散して負極活物質としている。上記特許文献2に記載された従来の技術は、炭素材料中にSiOを分散して負極活物質としている。
【0007】
また、上記特許文献1及び2に記載された従来のリチウムイオン二次電池用負極の他にも、例えば負極集電体としてのコルソン系(Cu−Ni−Si系)高強度の銅箔に銅めっきなどによる粗面化処理を施したリチウムイオン二次電池用負極がある(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2007−149604号公報
【特許文献2】特開2004-119176号公報
【特許文献3】特開2003-007305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、活物質として用いられる炭素材料は、上述したように、ほぼ理論放電容量に近いところまで電池の開発が進んでおり、今後、実放電容量の大幅な向上を期待することは困難である。このため、SnやSiを電気めっきやスパッタリングなどで形成するリチウムイオン二次電池用負極の開発が行われている。
【0009】
しかしながら、これらの材料は、リチウムイオンを吸蔵したときの体積膨張が極めて大きいという欠点がある。具体的には、炭素材料の場合が、約1.5倍程度の体積膨張であるのに対し、Snは、約3.5倍程度、Siは、約4倍程度の体積膨張となる。このような大きな体積変化のため、充放電サイクルに伴い負極集電体である銅箔(集電銅箔)から活物質が剥離・脱落し、電池特性が急激に低下してしまうという問題点が生じており、このことが、実用化にあたっての最大の障害となっていた。
また、LiとSnやSiを合金化する方法も検討されているが、活物質と集電銅箔との剥離が多少改善されるものの、実用化のレベルには至っていない。
【0010】
一方、上記特許文献1及び2に記載された従来の技術にあっても、活物質と集電銅箔との剥離は避けられない。特に、炭素材料の割合を低減して高容量化した場合は、体積変化の増大が避けられず、充放電中に活物質と集電銅箔との剥離がより発生しやすくなるという問題点があった。
【0011】
本発明者等は、活物質と集電銅箔との剥離の原因について鋭意研究した結果、その主な原因としては、集電銅箔の強度不足と集電銅箔及び活物質の密着強度不足とにあり、高強度の銅箔を用いて、その銅箔を粗面化して集電銅箔とすることで、活物質と集電銅箔との密着性が改善されることを見いだした。この理由を次のように考える。
【0012】
通常の銅箔(電解銅箔やタフピッチ銅箔)を使用した場合は、充電時に活物質が体積膨張すると、集電銅箔も追従して伸びるが、集電銅箔の弾性変形範囲を超えて塑性変形するので、放電で活物質の体積が減少しても、集電銅箔は伸びたままの状態となってしまう。これによって活物質の剥離が起こり、この剥離は、充放電を繰り返すことで、より顕著になる。
【0013】
一方、上記特許文献3に記載された従来の技術のように集電銅箔が高強度銅箔である場合は、活物質の体積膨張により生じる応力よりも集電銅箔の耐力が勝るので、集電銅箔の伸びは、弾性変形範囲内に留まる。充放電による活物質の体積変化に応じて集電銅箔が伸び縮みする。高強度銅箔の場合には、充電時においてリチウムイオンは集電銅箔近傍までは進入できず、集電銅箔近傍の体積膨張が小さく抑えられると考えられる。
【0014】
強度の増大は、集電銅箔を厚くすることでも得られる。しかしながら、集電銅箔の占める体積割合が増加することで活物質の占める割合が減ってしまい、高容量化の妨げとなるので望ましくない。
【0015】
また、粗面化処理の効果は、集電銅箔表面の凹凸が活物質層へ食い込み、アンカー効果が発揮されるためであると考えられる。しかしながら、圧延銅箔に通常のめっき前処理を施したのち銅めっきを施しても、圧延銅箔の表面に均一な粗面化形状が得られない場合がある。そのため、活物質との密着力が不均一になり、活物質の剥離が起こり、充放電サイクル特性が低下する原因となっている。
【0016】
従って、本発明の目的は、表面に均一な粗面化形状を形成することを可能とし、優れた密着力を有することを可能とした銅箔とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、上記課題を解決すべく銅箔について熱意検討を重ねたところ、ある特定の元素を含有する銅合金箔の表面に、ある特定の元素を含有する微粒子層を形成することで、めっきによる均一な粗面化処理が可能となり、めっき欠陥の発生を防止することができることを見いだし、本発明に至った。
【0018】
[1]本発明は、Ni:1.0質量%以上5.0質量%以下、Si:0.2質量%以上1.0質量%以下の各元素を含有する銅合金箔の表面に、前記Niと前記Siとからなる微粒子層を有することを特徴とする銅箔にある。
[2]本発明は更に、Ni:1.0質量%以上5.0質量%以下、Si:0.2質量%以上1.0質量%以下、Zn:0.1質量%以上2.0質量%以下、P:0.03質量%以上0.2質量%以下の各元素を含有する銅合金箔の表面に、前記Niと前記Siとからなる微粒子層を有することを特徴とする銅箔にある。
[3]上記[1]または[2]記載の発明にあって、前記銅合金箔の最大引張り強度と前記銅合金箔の厚みとの積が、6000N/mm・μm以上であることを特徴としている。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の発明にあって、前記微粒子層の表面に、表面粗さがJIS B 0601(1994)に規定される十点平均粗さRzで1μm以上5μm未満である銅層を有することを特徴としている。
[5]本発明は更に、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の銅箔を製造する方法であって、前記銅合金箔の表面を電解エッチングすることで、前記銅合金箔の添加元素の析出物であるNiとSiとからなる微粒子層を前記銅合金箔の表面に形成することを特徴とする銅箔の製造方法にある。
[6]上記[5]記載の発明にあって、前記微粒子層の表面に電気銅めっきにより銅層を形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、銅合金箔の表面に、NiとSiとからなる微粒子を核として銅めっきすることで均一な粗面化処理が可能となり、めっき欠陥のない粗化銅めっき層を効果的に得ることができるようになる。本発明によれば、例えば活物質との密着性を向上させることを可能としたリチウムイオン二次電池用の銅箔が効果的に得られ、リチウムイオン二次電池用の電極として実用上に問題を生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
【0021】
この実施の形態の主要な特徴部とするところは、高強度なコルソン系(Cu−Ni−Si系)の銅合金箔を電解エッチングすることで、Cuマトリクスを選択的に溶解し、その銅合金箔の表面に添加元素の析出物であるNiとSiとからなる微粒子層を形成すること、その微粒子層の表面に電気銅めっき(粗化銅めっき)を行い、この微粒子を核として銅合金箔の表面を均一に粗面化することにある。
【0022】
この銅合金箔は、特に限定するものではないが、例えばNi:1.0質量%以上5.0質量%以下、Si:0.2質量%以上1.0質量%以下の各元素を含有していることが好適である。銅合金箔は、例えばZn(亜鉛)、P(リン)の各元素などを更に含んでいることが好適である。Znは、半田耐候性などを向上させる作用を有するので、必要に応じてZnを含有させることが好適である。Znは、0.1質量%以上2.0質量%以下の範囲とすることが好ましい。一方のPは、製造の際にSiが酸化してしまうのを防止する作用を有するので、必要に応じてPを含有させることが好ましく、Pは、0.03質量%以上0.2質量%以下の範囲とすることが好適である。
【0023】
この銅合金箔の表面にNiとSiとからなる微粒子層を形成し、その微粒子を核として銅合金箔の表面に粗化銅めっきを行うことで、例えば活物質との密着性を大幅に向上させることができるようになり、リチウムイオン二次電池用の電極、これを用いたリチウムイオン二次電池に使用することができる。活物質としては、特に限定するものではないが、例えばSn、SiあるいはNiSn(ニッケル錫)合金などを電解析出によって形成することができる。カーボン系の活物質を利用した場合に比べてエネルギー密度が高く、充放電を繰り返しても、活物質が集電体である銅箔から剥離・脱落するのを防止することができるようになり、充放電サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極として好適である。
【0024】
一般に、圧延銅箔に粗化銅めっきを施すと、めっき欠陥部が発生する場合がある。このめっき欠陥部の発生が原因となり、上述したように、銅箔の表面の凹凸が活物質層へ食い込むアンカー効果が得られず、銅箔と活物質層との密着性が低下する。これに対し、この実施の形態にあっては、粗化銅めっきの下地には、NiとSiとからなる微粒子層が存在するので、この微粒子を核として銅めっきされる。その結果、均一な粗面化処理が可能となり、めっき欠陥のない粗化銅めっき層を効果的に得ることができるようになり、活物質層に対するアンカー効果を高めて銅箔と活物質層との密着力を向上させることができる。
【0025】
このNiとSiとからなる微粒子は、必ずしも層を形成している必要はなく、銅合金箔の表面に存在しさえすればよい。銅合金箔を電解エッチングしている間に、NiとSiとからなる微粒子が不可避的に脱落したり、あるいは超音波負荷などにより意図的に除去したりすることで、その微粒子の一部が消失したとしても、粗化銅めっきのめっき欠陥を防止する効果を十分に得ることができる。
【0026】
NiとSiとからなる微粒子の存在の有無は、例えば粗化銅めっき後の銅箔、活物質層の形成後の負極、あるいは電池から取り出した負極について、集束イオンビーム(FIB)、イオンミリングやミクロトームなどの一般的な装置を使って断面を形成した後、素地となる銅合金箔と銅粗化めっき層との界面を電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて分析することで確認することができる。このNiとSiとからなる微粒子は、NiSiと考えられており、これらの原子数比が測定誤差の範囲内で2:1になっていることが好適である。
【0027】
充放電時に銅箔が塑性変形するかどうかは、銅合金箔の最大引張り強度と銅合金箔の厚みとの積で規定することができる。充放電時の活物質の膨張・収縮の程度にも依存するが、SnまたはSiを主体とした活物質を用いた場合、あるいはNiSn合金などを活物質として用いた場合は、粗化めっき前の銅合金箔の最大引張り強度と銅合金箔の厚みとの積が、6000N/mm・μm以上であるとき銅箔の塑性変形を防止することができる。
【0028】
NiとSiとからなる微粒子を核として銅合金箔に粗化銅めっきを施したときのNiとSiとからなる微粒子層の表面には、表面粗さRzが1μm以上5μm未満である銅層を形成することが好適である。その粗化銅めっきの表面粗さRzが1μm未満である場合は、活物質層に対するアンカー効果が弱くなり、十分な密着性が得られない。その表面粗さRzが5μm以上になると、粗化粒子自体が脱落しやすくなり、銅箔と活物質層との密着性を低下させる原因となるので好ましくない。ここで、表面粗さRzは、JIS B 0601(1994)に規定する十点平均粗さに基づき表面粗さ計で測定した値である。
【0029】
以下に、本発明の更に具体的な実施例について比較例とともに説明する。
【実施例1】
【0030】
厚み18μmのコルソン系銅合金箔(日立電線(株)製のHCL305箔)を下地銅板として使用した。このHCL305箔は、例えばNi:2.31質量%、Si:0.40質量%、Zn:1.70質量%、P:0.02質量%、残部Cuからなる析出硬化型のコルソン系銅合金箔である。その下地銅板である銅合金箔に、以下の表1に示すように、陰極電解脱脂、陽極電解酸洗、粗化銅めっき1及び粗化銅めっき2の各工程を行った後、NiSn合金めっきの工程で活物質層を形成した。
【0031】
表1は、実施例1−1〜1−3と比較例における陰極電解脱脂、陽極電解酸洗、銅粗化めっき1、粗化銅めっき2、NiSn合金めっきの各工程の条件と、Ni及びSiからなる微粒子層の評価結果(備考欄)とをまとめて表す。
【0032】
【表1】

【0033】
ここでは、陽極電解酸洗の条件を様々に変化させた。表1に示す実施例1−1における陽極電解酸洗の条件としては、室温で、電流密度を20A/dm、処理時間を5秒とし、実施例1−2では、室温で、電流密度を20A/dm、処理時間を30秒とし、NiとSiとからなる微粒子層を多く形成した。実施例1−3では、上記実施例1−2と同様に、室温で、20A/dmの電流密度、処理時間を30秒とし、NiとSiとからなる微粒子層を形成した。その後、微粒子層に超音波を負荷して微粒子層の一部を除去した。
【0034】
表1に示す比較例では、陽極電解酸洗の工程において、電解せずに硫酸溶液に室温で30秒間浸漬した。
【0035】
実施例1−1及び実施例1−2における銅箔の表面には、NiとSiとからなる微粒子が残っていることが確認できた。実施例1−3においては、微粒子層の除去後も、銅箔の表面は薄茶色を呈しており、銅箔の表面には、NiとSiとからなる微粒子が残っていることが確認できた。
【0036】
比較例では、硫酸溶液に浸漬した後の銅合金箔の表面は、銅色を呈しており、その銅合金箔の表面には、NiとSiとからなる微粒子層は形成されなかった。
【0037】
次に、実施例1−1及び比較例における銅粗化めっき2の工程後の銅箔の表面を観察した。その結果を図1に示す。図1(a)は、実施例1−1における銅粗化めっき2の工程後の銅箔の表面を示すSEM写真であり、図1(b)は、比較例における銅粗化めっき2の工程後の銅箔の表面を示すSEM写真である。
【0038】
図1(a)から明らかなように、実施例1−1における銅粗化めっき2の工程後の銅箔の表面は、均一に粗面化されており、めっき欠陥部を発生していなかった。実施例1−2及び実施例1−3における銅粗化めっき2の工程後の銅箔の表面にあっても、上記実施例1−1と同様に、均一に粗面化されており、めっき欠陥部は発生しなかった。
【0039】
比較例における銅粗化めっき2の工程後の銅箔の表面には、Cuめっきされない円形状をなすめっき欠陥部が多数確認された。そのめっき欠陥部を図1(b)の○印の部分で表す。
【0040】
次に、日立E−3500イオンミリング装置を用いて実施例1−1における銅粗化めっき2の工程後の銅箔の断面を形成した。日立S−4300を用いて銅箔の断面をSEM観察し、堀場EMAX Energyを用いてEDX分析を行った。その結果を図2、図3及び表2に示す。
【0041】
図2(a)は、実施例1−1における銅粗化めっき2の工程後の銅箔の断面SEM写真であり、図2(b)は、比較例における銅粗化めっき2の工程後の銅箔の断面SEM写真である。図3(a)は、実施例1−1における銅粗化めっき2の工程後の銅箔のEDX分析の結果を示す写真であり、図3(b)は、比較例における銅粗化めっき2の工程後の銅箔のEDX分析の結果を示す写真である。
【0042】
図2(a)、図2(b)、図3(a)、図3(b)及び表2において、炭素Cは、不可避的に発生したコンタミネーションであり、酸素Oは、大気中の酸素によって酸化されて不可避的に発生した自然酸化膜である。
【0043】
【表2】

【0044】
図2(a)及び図3(a)から明らかなように、実施例1−1における銅粗化めっき1の工程後のめっき層と銅箔との界面A点にNiとSiの存在を確認できた。その界面A点の析出物(C、O、Si、Ni、Cu)の組成のそれぞれは、表2に示すように、5.8at%、8.6at%、6.8at%、10.6at%、68.2at%であった。界面A点に含まれるNiとSiに対するNiの組成は、61.0at%であり、NiとSiに対するSiの組成は、39.0at%であった。NiとSiの原子数比は、ほぼNi:Si=2:1であった。
【0045】
図2(b)、図3(b)及び表2から明らかなように、比較例における銅粗化めっき1の工程後のめっき層と銅箔との界面B点には、NiがCuマトリクスに含まれるものが検出されたが、その界面B点に含まれるNiの組成比は、2.0at%と少なく、Siは確認できなかった。
【実施例2】
【0046】
上記実施例1−1〜1−3及び比較例で作成した銅箔を2cmの円板形に打ち抜いて試験用電極とした。そして、金属リチウムを対極とする試験セルを製作し、充放電サイクル特性の評価を行った。測定セルは、(株)宝泉製のHSセルを用い、測定装置は、北斗電工(株)製のHJ1001SM8Aを用い、セパレータは、セルガード(株)製の#2400を用い、電解液は、富山薬品工業(株)製のLIPASTER-EDMC/PF1(1mol/LのLiPF)を溶解したエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶液(1:1 vol.)を用いた。充放電は、0.01〜1V(vs.Li/Li)の範囲で0.25mA/cmの定電流密度で行った。その結果を表3に示す。表3において、高い放電容量維持率が得られたものを○印として判定し、放電容量維持率が低下したものを×印として判定した。
【0047】
【表3】

【0048】
表3から明らかなように、20サイクル後の放電容量維持率は、実施例1−1〜1−3で80%以上であった。実施例1−1〜1−3で作成した銅箔では、充放電サイクル特性が改善されることが分かる。
【0049】
比較例では、20サイクル後の放電容量維持率が55%であり、実施例1−1〜1−3と比較して、充放電サイクル特性が悪化していることが分かる。
【実施例3】
【0050】
表4に示すように、8μm、12μm、及び18μmの板厚を有するコルソン系銅合金箔(日立電線(株)製のHCL305箔)とタフピッチ銅(日立電線(株)製のTPC箔)とを試料番号3−1〜3−6の6つの試料として用意した。試料番号3−1〜3−3は、本発明の実施例3−1〜3−3となるものであり、試料番号3−4〜3−6は、比較例3−1〜3−3となるものである。
【0051】
コルソン系銅合金箔であるHCL305箔は、上記[実施例1]と同様に、例えばNi:2.31質量%、Si:0.40質量%、Zn:1.70質量%、P:0.02質量%、残部Cuからなる析出硬化型のコルソン系銅合金箔である。タフピッチ銅であるTPC箔は、例えば純度が99,9質量%、残部が不可避不純物からなる。TPC箔は、180°Cで12時間加熱し、リチウムイオン二次電池の製造工程で付与される熱処理を模擬した。そして、上記表1に示す実施例1−1と同様の条件で試験用電極を作成し、上記[実施例2]と同様に、充放電試験を行った。
【0052】
表4は、試料番号3−1〜3−3である実施例3−1〜3−3及び試料番号3−4〜3−6である比較例3−1〜3−3における銅箔の材質、板厚と、最大引張り強度、板厚と最大引張り強度との積、初回放電容量、放電容量維持率の結果とをまとめて表す。表4において、高い最大引張り強度及び高い放電容量維持率が得られたものを○印として判定し、最大引張り強度が低く、放電容量維持率が低下したものを×印として判定した。
【0053】
【表4】

【0054】
表4から明らかなように、実施例3−1〜3−3では、最大引張り強度が高く、板厚×最大引張り強度の値が、6000N/mm・μm以上であり、良好な放電容量維持率を得られることが分かる。
【0055】
比較例3−1〜3−3では、熱処理後の最大引張り強度は、150N/mmとなり、実施例3−1〜3−3と比較して、放電容量維持率が大幅に低下した。なお、コルソン系銅合金箔は、TPC箔のような180°Cの温度の熱処理を施しても物性は変化しない。
【実施例4】
【0056】
表5に示すように、18μm厚さのコルソン系銅合金箔(日立電線(株)製のHCL305箔)を試料番号4−1〜4−9の9つの試料として用意した。これらの試料番号4−1〜4−9のうち、試料番号4−2、4−3、4−6〜4−9は、本発明の実施例4−1〜4−6となるものであり、試料番号4−1、4−4、4−5は、比較例4−1〜4−3となるものである。これらの9つの試料を使用し、上記[実施例1]と同様に、陰極電解脱脂、陽極電解酸洗、粗化銅めっき1及び粗化銅めっき2の各工程を行った後、NiSn合金めっきの工程で活物質層を形成した。なお、コルソン系銅合金箔であるHCL305箔は、上記[実施例1]と同様に、例えばNi:2.31質量%、Si:0.40質量%、Zn:1.70質量%、P:0.02質量%、残部Cuからなる析出硬化型のコルソン系銅合金箔である。
【0057】
この実施例4では、上記表1に示す条件と同様に、陰極電荷脱脂、粗化Cuめっき1、及びNiSn合金めっきの各工程を行ったが、陽極電解酸洗の工程の時間と粗化Cuめっき2の工程とは、以下の表5に示す条件を使用した。
【0058】
表5は、実施例4−1〜4−6及び比較例4−1〜4−3における陽極電解酸洗、粗化Cuめっき2の各工程の条件と、溶解量、表面粗さRz、初回放電容量、放電容量維持率の結果とをまとめて表す。
【0059】
【表5】

【0060】
表5に示すように、実施例4−1〜4−6では、陽極電解酸洗の工程の条件は、室温で、電流密度を20A/dmとし、処理時間を1秒、5秒、20秒、60秒の4通りとした。粗化Cuめっき2の工程の条件は、室温で、電流密度を2A/dmとし、処理時間を100秒、150秒の2通りとした。
【0061】
比較例4−1、4−2では、陽極電解酸洗の工程の条件は、室温で、電流密度を20A/dm、処理時間を5秒とした。粗化Cuめっき2の工程の条件は、室温で、電流密度を2A/dmとし、処理時間を50秒、300秒の2通りとした。比較例4−3では、陽極電解酸洗の工程において、電解せずに硫酸及び過酸化水素を含む化学研磨液に、室温で5秒間浸漬した。粗化Cuめっき2の工程の条件は、室温で、電流密度を2A/dmとし、処理時間を150秒とした。
【0062】
そして、実施例4−1〜4−6及び比較例4−1〜4−3の銅箔を打ち抜いて試験用電極を作成し、充放電試験を行った。充放電試験方法は、上記[実施例2]と同様に行った。その結果を表5に示す。表5において、高い放電容量維持率が得られたものを○印として判定し、放電容量維持率が低下したものを×印として判定した。
【0063】
表5から明らかなように、実施例4−1〜4−6における銅粗化めっき2の工程後の銅箔の銅めっき層は、粗面形状が均一化し、表面粗さがJIS B 0601(1994)に規定される十点平均粗さRzで1μm以上5μm未満で高い放電容量維持率を得られることが分かる。
【0064】
銅めっき層の表面粗さRzが、比較例4−1に示すように1μm未満では、放電容量維持率が低くなり、実施例4−1〜4−6のように高い放電容量維持率が得られない。銅めっき層の表面粗さRzが、比較例4−2に示すように5μmに達すると、銅の粒子自体の強度が不十分になり、容易に脱落してしまうので好ましくない。
【0065】
比較例4−3のように、陽極電解酸洗に代えて、濃度が5重量%である硫酸と、濃度が3重量%である過酸化水素とを含む化学研磨液に室温で5秒間浸漬させることで化学研磨を行うと、銅合金箔の溶解量が0.01μmと少なくなり、表面にNiとSiとからなる微粒子の存在が認められなかった。そのため、銅合金箔の粗化面に欠陥が生じて充放電サイクル特性が悪化した。
【0066】
表5に示すデータから、陽極電解酸洗の工程における銅合金箔の溶解量が0.1μm以上であり、粗化Cuめっき2の工程後における銅箔の銅めっき層の表面粗さRzが1μm以上5μm未満であれば、充放電サイクル特性が改善されることが理解できる。
【0067】
以上の説明からも明らかなように、本発明の銅箔は、高強度であり、エネルギー密度が高く、充放電を繰り返しても、活物質の剥離・脱落を防止することができるとともに、充放電サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用電極、これを用いたリチウムイオン二次電池に効果的に適用することができるということが理解できる。
【0068】
なお、上記実施の形態及び実施例では、リチウムイオン二次電池に適用した場合について説明したが、本発明は、例えばフレキシブルプリント基板や電磁シールドテープなどに適用することができる。従って、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲内で様々に設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】(a)は、表1の実施例1−1における銅粗化めっきの工程後の銅箔の表面を示すSEM写真であり、(b)は、表1の比較例における銅粗化めっきの工程後の銅箔の表面を示すSEM写真である。
【図2】(a)は、表1の実施例1−1における銅粗化めっきの工程後の銅箔の断面SEM写真であり、(b)は、表1の比較例における銅粗化めっきの工程後の銅箔の断面SEM写真である。
【図3】(a)は、表1の実施例1−1における銅粗化めっきの工程後の銅箔のEDX分析の結果を示す写真であり、(b)は、表1の比較例における銅粗化めっきの工程後の銅箔のEDX分析の結果を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni:1.0質量%以上5.0質量%以下、Si:0.2質量%以上1.0質量%以下の各元素を含有する銅合金箔の表面に、前記Niと前記Siとからなる微粒子層を有することを特徴とする銅箔。
【請求項2】
Ni:1.0質量%以上5.0質量%以下、Si:0.2質量%以上1.0質量%以下、Zn:0.1質量%以上2.0質量%以下、P:0.03質量%以上0.2質量%以下の各元素を含有する銅合金箔の表面に、前記Niと前記Siとからなる微粒子層を有することを特徴とする銅箔。
【請求項3】
前記銅合金箔の最大引張り強度と前記銅合金箔の厚みとの積が、6000N/mm・μm以上であることを特徴とする請求項1または2記載の銅箔。
【請求項4】
前記微粒子層の表面に、表面粗さがJIS B 0601(1994)に規定される十点平均粗さRzで1μm以上5μm未満である銅層を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅箔。
【請求項5】
上記請求項1〜4のいずれかに記載の銅箔を製造する方法であって、
前記銅合金箔の表面を電解エッチングすることで、前記銅合金箔の添加元素の析出物であるNiとSiとからなる微粒子層を前記銅合金箔の表面に形成することを特徴とする銅箔の製造方法。
【請求項6】
上記請求項5記載の銅箔を製造する方法であって、
前記微粒子層の表面に電気銅めっきにより銅層を形成することを特徴とする銅箔の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−215604(P2009−215604A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60060(P2008−60060)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】