説明

銅線の製造方法

【課題】冷間加工の加工度を増大でき、銅線を高強度化できる銅線の製造方法を提供する。
【解決手段】伸線ダイスを用いて銅線10を縮径する冷間加工工程(F1)を備えた銅線の製造方法において、上記冷間加工工程(F1)で形成された銅線11を複数本束ねて固相接合して銅線11を拡径する接合工程(F2)と、該接合工程(F2)で形成された銅線12を所望径まで伸線する複合線冷間加工工程(F3)とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンタグラフ等を介して電車に給電を行う電車線(トロリー線)及び、機器ケーブル(各種電気機器用)並びに、一般の産業ケーブル(耐熱電線、ロボット用ケーブル、キャブタイヤケーブル)の芯線、シールド線に適用する銅線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トロリー線又は、機器ケーブル若しくは一般の産業ケーブルの芯線、シールド線には、銅線又は銅合金線が使用されている。図2のフローチャートに示すように、一般にこれらの線材は太サイズの銅荒引線などの伸線母材10を順次、伸線ダイスに通して連続的に冷間引抜加工を行い(冷間加工工程(F1))、所望線径の銅伸線材11を形成している。
【0003】
このように製造された銅又は銅合金線は、高強度、高導電性が要求される。例えば、電車線(トロリー線)には、導電率が高い硬銅線又は耐摩耗性、耐熱性を有する銅合金線が使用されている。銅合金線としては、銅母材にSnを0.25〜0.35mass%含有させたものが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
近年では、電車の高速化に対応すべく、トロリー線の架線張力を高めることが求められており、電車線の張力は1.5tから2.0tに高められる傾向にある。また、電車通過密度(単位長さ当たりの路線を走行する電車の数)が高い路線では、トロリー線の大電流容量化が求められ、さらに強い強度、かつ高い導電率の銅線が求められてきている。
【0005】
このような要求に対応するため、酸素0.001〜0.1mass%(10〜1000重量ppm)とSn0.15〜0.70mass%(0.15mass%は除く)を含有させた銅合金溶湯を、連続鋳造圧延を行って荒引線を形成し、その荒引線を50%以上の加工度で、冷間加工を行う銅合金線の製造方法が考案されている。この発明によると、銅合金線の強度を向上させるために、連続鋳造圧延の熱間圧延加工における加工度を高めて荒引線の強度を十分に向上させておくこと、冷間加工における加工度を50%以上とすることが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭59−43332号公報
【特許文献2】特開2006−193807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、冷間加工において、加工度を増大させるには、より太い線径の荒引線を適用して加工幅を増大させる必要がある。ところが、荒引線の線径を太くすることは、熱間圧延工程の加工度の低下につながり、また、連続鋳造圧線設備の負荷増大といった問題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、冷間加工の加工度を増大でき、銅線を高強度化できる銅線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために請求項1の発明は、伸線ダイスを用いて銅線を縮径する冷間加工工程を備えた銅線の製造方法において、上記冷間加工工程で形成された銅線を複数本束ねて固相接合して銅線を拡径する接合工程と、該接合工程で形成された銅線を所望径まで伸線する複合線冷間加工工程とを備えたものである。
【0010】
請求項2の発明は、上記複合線冷間加工工程の後、複合線冷間加工工程で形成された銅線を複数本束ねて固相接合して銅線を拡径する接合工程と、該接合工程で形成された銅線を所望径まで伸線する複合線冷間加工工程とを所定回数繰り返すものである。
【0011】
請求項3の発明は、上記接合工程は、複数本束ねた銅線に50%以上の加工度で熱間伸線を行って固相接合するものである。
【0012】
請求項4の発明は、上記銅線は、タフピッチ銅であるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、太い線径の荒引線を用いずに、冷間加工の加工度を増大でき、銅線を高強度化できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の好適実施の形態を示す銅線の製造方法のフローチャートである。
【図2】従来の銅線の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好適実施の形態を添付図面を用いて説明する。
【0016】
図1のフローチャートに示すように、本実施の形態に係る銅線の製造方法は、銅荒引線などの伸線母材10を冷間伸線して銅伸線材11を形成する冷間加工工程(F1)と、その銅伸線材11を複数本束ねて固相接合して銅複合線12を形成する接合工程(F2)と、その銅複合線12を所望径まで伸線する複合線冷間加工工程(F3)とを含むものである。
【0017】
本実施の形態に係る銅線の製造方法をより詳細に説明する。
【0018】
まず、冷間加工工程(F1)を行う。冷間加工工程(F1)では、荒引線などの伸線母材10を、順次、伸線ダイスに通して連続的に冷間伸線して銅伸線材11を複数本形成する。
【0019】
次に、接合工程(F2)を行う。接合工程(F2)では、冷間加工工程(F1)で形成された銅伸線材11を複数本束ねて加工度50%以上、100〜200℃程度の温度で熱間伸線などを行うことで固相接合して銅伸線材11より大径の銅複合線12を形成する。
【0020】
さらに、複合線冷間加工工程(F3)を行う。複合線冷間加工工程(F3)では、銅複合線12を冷間伸線して所望線径の銅伸線材13を形成する。この複合線冷間加工工程(F3)にて形成する銅伸線材13が製品である場合、上記の所望線径は製品の線径とする。また、銅伸線材13が中間生成物であって銅伸線材13にさらに多くの加工度を加える(強度を向上させる)場合、上記の所望線径は自由に決定してよい。この場合、銅伸線材13を用いて接合工程(F2)と、この接合工程(F2)で形成された銅複合線(銅線)12を用いた複合線冷間加工工程(F3)とを所定回数繰り返す。具体的には、複合線冷間加工工程(F3)の後、複合線冷間加工工程(F3)で形成された銅伸線材13を複数本束ねて固相接合して銅線を拡径、すなわち、銅複合線12を形成する接合工程(F2)と、この接合工程(F2)で形成された銅複合線12を所望径まで伸線する複合線冷間加工工程(F3)とを所定回数繰り返す。
【0021】
ここで、固相接合するに際し、熱間伸線の加工度を50%以上とする理由は、加工度50%未満では銅伸線材が固相接合せず、銅複合線12を形成できないためである。
【実施例】
【0022】
連続鋳造圧延設備を用いて製造したタフピッチ銅(以下、TPCと称す)の荒引線(φ8mm)を銅伸線母材とし、以下の方法で銅伸線材を形成した。
【0023】
(実施例1)
図1に示す銅線の製造方法において、接合工程(F2)の回数を1回とし、φ6mmの銅伸線材13を形成した。具体的には、φ8mmのTPC荒引線をφ6.0mmまで冷間伸線して銅伸線材を形成し、この銅伸線材を7本束ねて、150℃で熱間伸線し、φ11.2mmの銅複合線を形成した。形成した銅複合線を冷間伸線し、φ6.0mmの銅伸線材を形成した。なお、熱間伸線による銅線の加工度は50%である。
【0024】
(実施例2)
図1に示す銅線の製造方法において、接合工程(F2)の回数を1回とし、φ6.0mmの銅伸線材13を形成した。具体的には、φ8mmのTPC荒引線をφ6.0mmまで冷間伸線して銅伸線材を形成し、この銅伸線材を7本束ねて、150℃で熱間伸線し、φ8.7mmの銅複合線を形成した。形成した銅複合線を冷間伸線し、φ6.0mmの銅伸線材を形成した。なお、熱間伸線による銅線の加工度は80%である。
【0025】
(実施例3)
図1に示す銅線の製造方法において、接合工程(F2)の回数を2回とし、φ6.0mmの銅伸線材13を形成した。具体的には、φ8mmのTPC荒引線をφ6.0mmまで冷間伸線して銅伸線材を形成し、この銅伸線材を7本束ねて、150℃で熱間伸線し、φ7.1mmの銅複合線を形成した。形成した銅複合線を冷間伸線し、φ6.0mmの銅伸線材を形成した。さらにこの銅伸線材を7本束ねて、熱間伸線、冷間伸線を行い、φ6.0mmの銅伸線材を形成した。なお、熱間伸線による銅線の加工度は1度目も2度目も50%である。
【0026】
(比較例)
図1に示す銅線の製造方法において、接合工程(F2)の回数を1回とし、φ6.0mmの銅伸線材11を形成した。具体的には、φ8mmのTPC荒引線をφ6.0mmまで冷間伸線して銅伸線材を形成し、この銅伸線材を7本束ねて、熱間伸線し、φ12.2mmの銅複合線を形成した。形成した銅複合線を冷間伸線し、φ6.0mmの銅伸線材を形成した。なお、熱間伸線による銅線の加工度は40%である。
【0027】
(従来例)
図2に示す従来の製造方法にて、φ6.0mmの銅伸線材を形成した。
【0028】
(結果及び結果の評価)
実施例1〜3、比較例および従来例における熱間伸線の加工度および、銅複合線の接合状況、試作できた銅伸線材(φ6.0mm)の引張強さを表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
熱間伸線の加工度が50%以上である実施例1〜3ではいずれも銅複合線を形成することができたが、加工度が40%である比較例では、銅複合線を形成できず、圧延後に束ねた銅線がはがれてしまった。また、実施例1〜3で製造できた銅伸線材の強度は、従来の製造方法と比較して、向上していた。このことから、本発明に係る製造方法の特徴である接合工程と冷間加工工程とを備える製造方法は銅線の強度向上に有効であると評価できる。
【0031】
このように、伸線ダイスを用いて銅線を縮径する冷間加工工程(F1)で形成された銅伸線材11を複数本束ねて固相接合して銅伸線材11を拡径する接合工程(F2)と、接合工程(F2)で形成された銅複合線12を所望径まで伸線する複合線冷間加工工程(F3)とを備える銅線の製造方法によれば、太い線径の荒引線を用いずとも冷間加工の加工度を増大でき、銅線を高強度化できる。
【0032】
複合線冷間加工工程(F3)の後、複合線冷間加工工程(F3)で形成された銅伸線材13を複数本束ねて固相接合して銅伸線材13を拡径する接合工程(F2)と、接合工程(F2)で形成された銅複合材12を所望径まで伸線する複合線冷間加工工程(F3)とを所定回数繰り返せば、銅伸線材13の加工度をさらに高めることができ、銅伸線材13の強度をさらに高めることができる。
【0033】
接合工程(F2)は、複数本束ねた銅線に50%以上の加工度で、かつ、100〜200℃程度の温度下で熱間伸線を行って固相接合するものとしたため、確実に銅複合線12を形成できる。
【0034】
銅伸線母材10は、タフピッチ銅であるものとしたため、本実施の形態に係る製造方法にて確実に銅線の強度を高めることができる。
【符号の説明】
【0035】
10 伸線母材(銅線)
11 銅伸線材(銅線)
12 銅複合線(銅線)
13 銅伸線材
F1 冷間加工工程
F2 接合工程
F3 複合線冷間加工工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸線ダイスを用いて銅線を縮径する冷間加工工程を備えた銅線の製造方法において、上記冷間加工工程で形成された銅線を複数本束ねて固相接合して銅線を拡径する接合工程と、該接合工程で形成された銅線を所望径まで伸線する複合線冷間加工工程とを備えたことを特徴とする銅線の製造方法。
【請求項2】
上記複合線冷間加工工程の後、複合線冷間加工工程で形成された銅線を複数本束ねて固相接合して銅線を拡径する接合工程と、該接合工程で形成された銅線を所望径まで伸線する複合線冷間加工工程とを所定回数繰り返す請求項1記載の銅線の製造方法。
【請求項3】
上記接合工程は、複数本束ねた銅線に50%以上の加工度で熱間伸線を行って固相接合することを特徴とする請求項1又は2記載の銅線の製造方法。
【請求項4】
上記銅線は、タフピッチ銅であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−186587(P2010−186587A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28632(P2009−28632)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】