説明

鋏型手動利器、グリップアタッチメント及びグリップ被覆構造

【課題】鋏型手動利器のグリップ被覆を複数の軟質弾性材料を用いた複合被覆とすることにより制振性を増補するとともに衝撃吸収性、圧力分散性、耐候性その他の操作環境評価に係る負条件を多角的に改善する。
【解決手段】鋏型手動利器Xが、鋏半体要素1の把握体12(1)のそれぞれに複数の軟質弾性材料からなる被覆体2(10)を覆装している。かつまた、把握体12(1)の自由端部の各内面に、複数の軟質弾性材料からなる緩衝部材3(10)をそれぞれ設け、かつ、切断操作時に弾性的に衝合可能に対向形成している。被覆体2(10)及び緩衝部材3(10)は、いずれも2種類又はそれ以上の物性特性の異なる軟質弾性素材を積層して内外層を複合形成したものとされ、それぞれ最内層の構成素材はいずれも衝撃吸収率80%以上の制振ゴム21;31 であり、それぞれ最外層の構成素材はいずれもシリコン樹脂22;32 である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃体(作用部)と把握体(操作部)を有した鋏半体要素からなる対部材を交差させ、交差部を軸支して回動可能又は開閉可能に結合し、前記鋏半体要素の一部にそれぞれ衝突部又はストッパを対向形成してなるとともに、前記把握体のそれぞれに軟質弾性材料からなる被覆体を覆装し、かつ、その自由端部の各内面に、切断操作時に弾性的に衝合可能な緩衝部材を対設してなり、把持圧力の分散を増補するとともに、切断操作時に衝突部又はストッパ同士の撃力の発生に起因する手指への衝撃を緩和するようにした鋏型手動利器に係り、詳しくは、複数の軟質弾性材料を用いた複合被覆により制振性を含む衝撃吸収性、圧力分散性、耐候性その他の操作環境評価に係る負条件を多角的に改善した鋏型手動利器、グリップアタッチメント及びグリップ被覆構造に関する。
【0002】
ここで、本発明に関する鋏型手動利器の適用範囲(用途)は、比較的硬いもの(難切断材料)を長時間の反復作業を要して剪断(切断)するような鋏類であって、例えば採果鋏、摘果鋏、摘花鋏、芽切り鋏、生花鋏、園芸鋏、剪定・枝切り鋏、電気工事鋏、大工用鋏、難切断繊維用裁断鋏等として指称されるものである。なお、本発明に関し「切断」と「剪断」は互換的に使用する。また、「柄」及び「グリップ」は「把握体(操作部)」と同義である。
【背景技術】
【0003】
従来より、一般的な鋏は、2枚の刃体に設けられる柄(把握体に同じ)の開閉動作によって被切断物を切り離すための手動利器として周知である。そのなかには、園芸用や農業用として提供されている鋏類には、柄の内側にそれぞれ松葉バネやコイルバネを介設して、両刃体が自動的に開くように付勢したものがある。なおかつ、2本の柄を取り付ける根脚体に対向形成された衝突部にそれぞれ緩衝体を設けて、剪断時の衝撃や衝突音の発生を減弱しようとするものがみられる(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
しかしながら、衝突音に関しては、減弱化とは逆に切断作業の調子をとるために快音を発する点に技術的意義を認めたものがある(例えば、特許文献2を参照)。ここでは、輪状形成した操作部(把握体に同じ)の内側の衝突部に金属等の硬質物を出し入れ自在(当たり具合を調整可能)に対向設置して快音の発生を保障し、かつ、弾性樹脂製のグリップを用いて衝突の勢い(撃力)を吸収するようにしている。
【0005】
近年、多くの鋏類のグリップに、合成ゴムなどの樹脂素材を被覆したものがみられるが、この施装目的は主に滑り防止と柔軟な触感の付与であって、切断操作時の手指への衝撃の緩和を目的効果とするものはみられない(例えば、特許文献3を参照)。
【0006】
しかしながら、この種の棒状のグリップに樹脂被覆を施しただけでは、鋏操作を反復しているうちに指が刃先方向へ前進していくことを阻止しづらいという問題がある。このため、グリップに指止め体を設けたり(例えば、特許文献4を参照)、突起部や大きな彎曲部を有したグリップ形状としているものも多い。
【0007】
上記従来技術に関し、少なくとも園芸用や農業用として提供されている鋏類(前掲の採果鋏、摘果鋏、摘花鋏、芽切り鋏、生花鋏、園芸鋏、剪定・枝切り鋏等)について、具体的な問題点は以下のとおり集約される。
【0008】
(1)把握体が素材剥き出しであったり、樹脂被覆していても硬かったり、柔らかくても厚さ1mm程度の薄いものであったりするので、接触する手指に大きな衝撃と把持圧力の増大や偏重によって痛みが発生するという問題がある。
【0009】
(2)グリップの刃先側端部を彎曲形成したものでは、グリップの直線部分が短くなるので、示指、中指、薬指、小指の4本の指でしっかりとした把握がしづらく、人差指が彎曲部の上に配置されたり、小指がグリップエンドの外側に配置されたりというようになり、4本の指で均等的に力を発揮することが困難となるため、中指や薬指に大きな筋負担と衝撃圧が掛かるという問題が生じる。
【0010】
(3)鋏を用いた長時間反復作業における衝撃の繰り返しは、手の正中神経を圧迫し慢性的に手がしびれるといったような症状が現われる手根管症候群などの頸肩腕障害を発生させ、健康を阻害する要因となることが知られており、これらの上肢負担を軽減するためには、グリップの効果的な位置に衝撃緩衝材を配置したり、グリップに被覆する樹脂の硬度や形状を適切にしたりすることが重要である。
【0011】
こうしたなかで、本発明者らは先に切断操作時の部材衝突による手指への衝撃を緩和できるとともに、刃先への指の前進を防止し、それぞれの指が均等的に力を発揮することにより、長時間の鋏を用いた反復作業が可能な鋏型手動利器及びそのグリップアタッチメントを提案してきた(以下、先願発明;特許文献5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実用新案登録第3121120号公報
【特許文献2】実公平7−45166号公報
【特許文献3】特開平7−285084号公報
【特許文献4】実公昭34−11648号公報
【特許文献5】特開2008−43578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、先願発明について、より効果的に衝撃を解消する性能を改善する余地がある。特に複数の軟質弾性材料を用いた複合被覆により制振性(防振及び除振に関する性能を含む)の改善に関する問題解決が求められる。
【0014】
この制振性の改善は、長時間の反復作業を強いられる鋏を用いた切断操作において衝撃の緩和、滑り防止、圧迫防止、筋肉ポンプ作用促進効果を増補することになるからである。
【0015】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、上記課題を解消し、複数の軟質弾性材料を用いた複合被覆により制振性を含む衝撃吸収性、圧力分散性、耐候性その他の操作環境評価に係る負条件を多角的に改善することにより長時間の鋏を用いた反復作業が可能な鋏型手動利器、グリップアタッチメント及びグリップ被覆構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
課題を解決するために、第1の発明は、刃体(作用部)と把握体(操作部)を有した鋏半体要素からなる対部材を交差させ、交差部を軸支して回動可能又は開閉可能に結合し、前記鋏半体要素の一部にそれぞれ衝突部又はストッパを対向形成してなるとともに、前記把握体のそれぞれに軟質弾性材料からなる被覆体を覆装し、かつ、その自由端部の各内面に、切断操作時に弾性的に衝合可能な緩衝部材を対設してなり、把持圧力の分散を増補するとともに、切断操作時に衝突部又はストッパ同士の撃力の発生に起因する手指への衝撃を緩和するようにした鋏型手動利器において、
複数の軟質弾性材料を用いた複合被覆により制振性を含む衝撃吸収性、圧力分散性、耐候性その他の操作環境評価に係る負条件を多角的に改善した鋏型手動利器であって、
前記被覆体及び前記緩衝部材が、いずれも2種類又はそれ以上の物性特性の異なる軟質弾性素材を積層して内外層を複合形成したものであり、
それぞれ最内層の構成素材はいずれも衝撃吸収率80%以上の制振ゴムであり、
それぞれ最外層の構成素材はいずれもゴム、シリコン樹脂その他の弾性樹脂である
ことを特徴とするものである。
【0017】
また、第2の発明は、刃体(作用部)と把握体(操作部)を有した鋏半体要素からなる対部材を交差させ、交差部を軸支して回動可能又は開閉可能に結合し、前記鋏半体要素の一部にそれぞれ衝突部又はストッパを対向形成してなる鋏型手動利器に付加装着され、
把握体上で把持圧力の分散を増補するとともに、切断操作時に衝突部又はストッパ同士の撃力の発生を無化又は減弱して手指への衝撃を緩和するために、
前記把握体のそれぞれに覆装可能に形成した軟質弾性材料からなる被覆体構成部と、前記把握体の自由端部の各内面に対設され、切断操作時に弾性的に衝合可能に形成した軟質弾性材料からなる緩衝部材構成部からなり、
前記被覆体構成部と前記緩衝部材構成部とを、それぞれ別体形成し組み合わせて付加装着するか、又は複合的に一体成形して付加装着するようにした鋏型手動利器のグリップアタッチメントにおいて、
複数の軟質弾性材料を用いた複合被覆により制振性を含む衝撃吸収性、圧力分散性、耐候性その他の操作環境評価に係る負条件を多角的に改善した鋏型手動利器のグリップアタッチメントであって、
前記被覆体構成部及び前記緩衝部材構成部が、いずれも2種類又はそれ以上の物性特性の異なる軟質弾性素材を積層して内外層を複合形成したものであり、
それぞれ最内層の構成素材はいずれも衝撃吸収率80%以上の制振ゴムであり、
前記被覆体構成部の最外層の構成素材はゴム、シリコン樹脂その他の弾性樹脂であって、2mm以上の断面肉厚を有し、かつ、ショアA硬さ15〜50範囲の表面硬さを有するものであり、
前記緩衝部材構成部の最外層の構成素材はゴム、シリコン樹脂その他の弾性樹脂であって、2mm以上の断面肉厚を有し、かつ、その衝合面はショアA硬さ15〜70範囲の表面硬さを有するものであることを特徴とするものである。
【0018】
また、第3の発明は、刃体(作用部)と把握体(操作部)を有した鋏半体要素からなる対部材を交差させ、交差部を軸支して回動可能又は開閉可能に結合し、前記鋏半体要素の一部にそれぞれ衝突部又はストッパを対向形成してなるとともに、前記把握体のそれぞれに軟質弾性材料からなる被覆体を覆装し、かつ、その自由端部の各内面に、切断操作時に弾性的に衝合可能な緩衝部材を対設してなり、把持圧力の分散を増補するとともに、切断操作時に衝突部又はストッパ同士の撃力の発生に起因する手指への衝撃を緩和するようにした鋏型手動利器において、
複数の軟質弾性材料を用いた複合被覆により制振性を含む衝撃吸収性、圧力分散性、耐候性その他の操作環境評価に係る負条件を多角的に改善した鋏型手動利器のグリップ被覆構造であって、
前記被覆体及び前記緩衝部材が、いずれも2種類又はそれ以上の物性特性の異なる軟質弾性素材を積層して複合形成した内外層を有し、
それぞれ最内層の構成素材はいずれも衝撃吸収率80%以上の制振ゴムであり、
それぞれ最外層の構成素材はいずれもゴム、シリコン樹脂その他の弾性樹脂である
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、複数の軟質弾性材料を用いた複合被覆からなるグリップを構成しているので、少なくとも制振性を含む衝撃吸収性、圧力分散性、耐候性その他の操作環境評価に係る負条件を多角的に改善できる。
【0020】
特に制振性を増補したグリップの被覆構造により、長時間の反復作業を強いられる鋏を用いた切断操作において衝撃の緩和、滑り防止、圧迫防止、筋肉ポンプ作用促進効果を増補することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】一実施例である鋏型手動利器(後述の実施例鋏体に同じ)の正面視説明図であって、把握体に一体成形した被覆体及び緩衝部材を覆装した構成例を示し、かつ、そのグリップ被覆構造が複合被覆であることを部分断面視で示したものである。
【図2】一実施例であるグリップアタッチメント(後述の実施例アタッチメントに同じ)の正面視説明図であって、把握体に一体成形した被覆体構成部及び緩衝部材構成部からなる緩衝部付被覆体を覆装した構成例を示し、かつ、そのグリップ被覆構造が複合被覆であることを部分断面視で示したものである。
【図3】一実施例であるグリップ被覆構造(後述の実施例被覆構造)を示す断面視説明図である。ここで、(a)は図1における被覆体のA−A視左片側断面であり、(b)は図1における緩衝部材のB−B視左片側断面である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態は、上記構成の鋏型手動利器及びグリップ被覆構造において、それぞれに共通して以下の複合被覆を構成している。
【0023】
被覆体の最外層の弾性樹脂が2mm以上の断面肉厚を有し、かつ、ショアA硬さ15〜50範囲の表面硬さを有するものとしている。
【0024】
また、緩衝部材の最外層の弾性樹脂が2mm以上の断面肉厚を有し、かつ、その衝合面はショアA硬さ15〜70範囲の表面硬さを有するものとしている。
【実施例】
【0025】
本発明の実施例である鋏型手動利器(以下、実施例鋏体X。)、グリップアタッチメント(以下、実施例アタッチメントY。)及びグリップ被覆構造(以下、実施例被覆構造Z。)についてそれぞれ添付図面を参照して以下詳細説明する。
【0026】
(実施例1)
図1は、実施例鋏体Xの正面視説明図であって、把握体12(1)に一体成形した被覆体2(10)及び緩衝部材3(10)を覆装したストレート&ロングカバーグリップの構成例を示し、かつ、そのグリップ被覆構造(Z)が複合被覆であることを部分断面視で示している。
【0027】
図示した実施例鋏体Xは4本指で均等的に力を発揮できるようにした剪定鋏の一例である。その特徴的形状は、刃体11(1)から把握体12(1)へ移行する部分がほぼ直角であり、把握体12(1)の直線部分を長く造形してストレート&ロングカバーグリップを形成した点にある。
【0028】
図1に示すように、実施例鋏体Xは、鋏半体要素1の把握体12(1)のそれぞれに複数の軟質弾性材料からなる被覆体2(10)を覆装している。かつまた、把握体12(1)の自由端部(交差部軸支点14からの遠位端部に同じ)の各内面に、複数の軟質弾性材料からなる緩衝部材3(10)をそれぞれ設け、かつ、切断操作時に弾性的に衝合可能に対向形成している。
【0029】
被覆体2(10)及び緩衝部材3(10)は、いずれも2種類又はそれ以上の物性特性の異なる軟質弾性素材を積層して内外層を複合形成したものとされ、それぞれ最内層の構成素材はいずれも衝撃吸収率80%以上の制振ゴム21;31 であり、それぞれ最外層の構成素材はいずれもシリコン樹脂22;32 である。図示のとおり、被覆体2及び緩衝部材3は一体成形したもの(緩衝部付被覆体10)を示している。
【0030】
この構成によって特に制振性を増補し、切断操作時に衝突部13(又はストッパ)同士の撃力の発生を無化又は減弱して手指への衝撃をより効果的に緩和する。
【0031】
最内層の構成素材として好適な軟質弾性材料は制振ゴム21;31 である。
【0032】
なお、この種の制振ゴムは、有機溶剤に耐性が小さく、水で膨潤する欠点があるため最内層として使用し、最外層には以下に述べる耐候性等環境適性に優れたシリコン樹脂を使用する。
【0033】
被覆体2(10)及び緩衝部材3(10)の最外層の構成素材として好適な弾性樹脂はシリコン樹脂22;32 である。シリコン樹脂は、撥水性、耐熱性、耐寒性、耐候性に優れるため、農作業や園芸作業など屋外での作業に適する。
【0034】
ここで、被覆体2(10)の最外層のシリコン樹脂22の表面硬さは、ショアA硬さ15〜50範囲(至適には30〜41)とするのが好ましい。一方、緩衝部材3(10)〔衝合面33〕の最外層のシリコン樹脂32の表面硬さは、ショアA硬さ15〜70範囲とするのが好ましい。断面肉厚はいずれも2mm以上であるのが好ましい。
【0035】
この好適範囲は実験的事実に基づくものであり、弾性効果により手指への圧迫を緩和し、手指筋の筋肉ポンプ作用(筋収縮弛緩による血流改善作用)を促進して筋血流を改善することを確認しており、鋏を用いた長時間の反復作業に適するものである。
【0036】
なお、上記推奨の制振ゴムの衝撃吸収率は刮目に価するものであるが、有機溶剤への耐性が劣り、水で膨潤する欠点があるため最内層として使用し、最外層には耐候性等環境適性に優れたシリコン樹脂を使用する。
【0037】
実施例鋏体の効果を実証するために、以下の実験をおこない結果を評価した。
【0038】
<痛み及び手指負担自覚症状の比較実験>
切断時の衝撃力が強い剪定鋏(実施例鋏体に同じ)について、20代の健康な学生10名を被験者にして、従来品と、シリコン樹脂のみを被覆した先願発明の実施製品(ソフトグリップ)と、シリコン樹脂と制振ゴムを複合被覆した本発明構成品(制振グリップ)を使用して、42分間にわたり角材のカット作業を行わせ、衝撃による上肢の自覚症状及び手指負担に関する評価を比較した。
【0039】
表1に上記3種類のグリップ被覆構造の異なる剪定鋏による母指及び2−5指(示指、中指、薬指及び小指)の痛み自覚症状に関する検査結果を示す。痛み自覚症状検査には「Borgスケールの10点法」を採用している。得点が高いほど、痛みを発症していることとなる。なお、数値データは平均値である。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果、複合被覆〔シリコン+制振ゴム〕を施した制振グリップ(本発明構成品)が痛みを発症しにくく、衝撃緩和効果が顕著であることが確認された。
【0042】
表2は、被検者に上記3種類の剪定鋏について手指負担の少ない順にランク(1−5)を付けさせたものである。なお、数値データは平均ランクを示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2の結果、痛み自覚症状と同様に、複合被覆〔シリコン+制振ゴム〕を施した制振グリップ(本発明構成品)が手指負担が少ないと評価された。
【0045】
<衝撃緩和効果の比較実験>
切断時の衝撃力が強い剪定鋏(実施例鋏体に同じ)について、シリコン樹脂のみを被覆した先願発明の実施製品(ソフトグリップ)と、シリコン樹脂と制振ゴムを複合被覆した本発明構成品(制振グリップ)を使用して、衝撃緩和効果を比較した。
【0046】
実験対象は、表3に被験者のプロフィールを示すように、健康な成人10名(男性8名、女性2名)を対象に切断実験を行ったものである。
【0047】
【表3】

【0048】
実験方法は、被験者の右手の橈骨の茎状突起部に加速度センサーを運動用テープで装着して、直径3mmの竹ひごを、上記2種類の剪定鋏を使用して3秒に1回のペースで、繰り返し10回切断させ、切断時の跳ね返り(反動)の衝撃を測定したものである。
【0049】
切断実験に際しては、各鋏とも5回程度練習をさせて実行した。切断順は、2つの鋏が均等な順番になるよう実施した。2つの鋏の実験の間には、2分間の休憩を挟んだ。表4に衝撃のピーク値(G)をそれぞれ示す。
【0050】
【表4】

【0051】
実験の結果、制振グリップとソフトグリップの衝撃の平均値は、それぞれ8.95Gと19.40Gであリ、制振グリップがソフトグリップに比して衝撃のピーク値が有意に低下していた。その衝撃緩和効果は、ソフトグリップに比して、制振グリップでは、衝撃が平均46.1%に低下していた。この結果は、制振グリップに大きな衝撃緩和効果があることを示している。
【0052】
(実施例2)
図2は、実施例アタッチメントYの正面視説明図であって、把握体12(1)に一体成形した被覆体構成部20(10)及び緩衝部材構成部30(10)からなる緩衝部付被覆体10を覆装したショートカバーグリップの構成例を示し、かつ、そのグリップ被覆構造(Z)が複合被覆であることを部分断面視で示している。
【0053】
図2に示すように、実施例アタッチメントYは、刃体11(作用部)と把握体12(操作部)を有した鋏半体要素1からなる対部材を交差させ、交差部(14)を軸支して回動可能又は開閉可能に結合し、鋏半体要素1の一部にそれぞれ衝突部13(又はストッパ)を対向形成してなる鋏型手動利器本体に付加装着され、把握体12(1)上で把持圧力の分散を増補するとともに、切断操作時に衝突部13(又はストッパ)同士の撃力の発生を無化又は減弱して手指への衝撃を緩和するために、把握体12(1)のそれぞれに覆装可能に形成した軟質弾性材料からなる被覆体構成部20(10)と、把握体の自由端部の各内面に対設され、切断操作時に弾性的に衝合可能に形成した軟質弾性材料からなる緩衝部材構成部30(10)からなり、被覆体構成部20(10)と緩衝部材構成部30(10)とを、それぞれ別体形成し組み合わせて付加装着するか、又は複合的に一体成形して付加装着するようにしたものである。
【0054】
図示の実施例アタッチメントYは一体成形したショートカバーグリップ(緩衝部付被覆体10)の構成例を示している。
【0055】
ここで、被覆体構成部20(10)及び緩衝部材構成部30(10)は、いずれも2種類又はそれ以上の物性特性の異なる軟質弾性素材を積層して内外層を複合形成したものであり、それぞれ最内層の構成素材はいずれも衝撃吸収率80%以上の制振ゴム21;31 である。
【0056】
また、被覆体構成部20(10)の最外層の構成素材はゴム、シリコン樹脂22その他の弾性樹脂であって、2mm以上の断面肉厚を有し、かつ、ショアA硬さ15〜50範囲の表面硬さを有するものとしている。
【0057】
また、緩衝部材構成部30(10)の最外層の構成素材はゴム、シリコン樹脂32その他の弾性樹脂であって、2mm以上の断面肉厚を有し、かつ、衝合面をショアA硬さ15〜70範囲の表面硬さを有するものとしている。
【0058】
被覆体構成部20(10)及び緩衝部材構成部30(10)の構成素材の詳細はそれぞれ実施例鋏体Xにおける場合と同様である。
【0059】
(実施例3)
図3は、実施例被覆構造Zを示す断面視説明図である。ここで、(a)は図1における被覆体2(10)のA−A視左片側断面であり、(b)は図1における緩衝部材3(10)のB−B視左片側断面である。右片側断面はいずれも対称にあらわれるので省略した。
【0060】
実施例被覆構造Zは、実施例鋏体X(図1)において、鋏半体要素1の把握体12(1)のそれぞれに複数の軟質弾性材料からなる被覆体2(10)を覆装している。かつまた、把握体12(1)の自由端部(交差部軸支点14からの遠位端部に同じ)の各内面に、複数の軟質弾性材料からなる緩衝部材3(10)をそれぞれ設け、かつ、切断操作時に弾性的に衝合可能に対向形成している。
【0061】
被覆体2(10)及び緩衝部材3(10)は、いずれも2種類又はそれ以上の物性特性の異なる軟質弾性素材を積層して内外層を複合形成したものとされ、それぞれ最内層の構成素材はいずれも衝撃吸収率80%以上の制振ゴム21;31 であり、それぞれ最外層の構成素材はいずれもシリコン樹脂22;32 である。
【0062】
被覆体2(10)及び緩衝部材3(10)の構成素材の詳細はそれぞれ実施例鋏体Xにおける場合と同様である。
【0063】
実施例アタッチメントY(図2)においても 被覆体構成部20(10)及び緩衝部材構成部30(10)ついて適用される。
【0064】
この構成によって特に制振性を増補し、切断操作時に衝突部13(又はストッパ)同士の撃力の発生を無化又は減弱して手指への衝撃をより効果的に緩和する。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の活用例として、摘果、摘粒などの果実の収穫、摘花、芽切り、剪定、枝切、切花など農業や園芸分野に用いるとともに、電気工事、大工仕事、繊維裁断作業等で用いる難切断材料用の鋏や、反復作業の多い一般事務用鋏にも活用できる。特に、複合被覆により制振性を増補しているので、衝撃の緩和、滑り防止、柔軟な接触感の効果を有するため、長時間の反復作業を強いられる場合により効果的である。
【符号の説明】
【0066】
1 鋏半体要素
11 刃体(作用部)
12 把握体(柄;グリップ;操作部)
13 衝突部(又はストッパ)
14 交差部軸支点
2 被覆体
21 制振ゴム(最内層)
22 シリコン樹脂(最外層)
3 緩衝部材
31 制振ゴム(最内層)
32 シリコン樹脂(最外層)
33 衝合面
5 バネ
10 緩衝部付被覆体(一体成形)
20 被覆体構成部
30 緩衝部材構成部

X 実施例鋏体
Y 実施例アタッチメント
Z 実施例被覆構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃体(作用部)と把握体(操作部)を有した鋏半体要素からなる対部材を交差させ、交差部を軸支して回動可能又は開閉可能に結合し、前記鋏半体要素の一部にそれぞれ衝突部又はストッパを対向形成してなるとともに、前記把握体のそれぞれに軟質弾性材料からなる被覆体を覆装し、かつ、その自由端部の各内面に、切断操作時に弾性的に衝合可能な緩衝部材を対設してなり、把持圧力の分散を増補するとともに、切断操作時に衝突部又はストッパ同士の撃力の発生に起因する手指への衝撃を緩和するようにした鋏型手動利器において、
複数の軟質弾性材料を用いた複合被覆により制振性を含む衝撃吸収性、圧力分散性、耐候性その他の操作環境評価に係る負条件を多角的に改善した鋏型手動利器であって、
前記被覆体及び前記緩衝部材が、いずれも2種類又はそれ以上の物性特性の異なる軟質弾性素材を積層して内外層を複合形成したものであり、
それぞれ最内層の構成素材はいずれも衝撃吸収率80%以上の防振ゴムであり、
それぞれ最外層の構成素材はいずれもゴム、シリコン樹脂その他の弾性樹脂である
ことを特徴とする鋏型手動利器。
【請求項2】
被覆体の最外層を構成する弾性樹脂が2mm以上の断面肉厚を有し、かつ、ショアA硬さ15〜50範囲の表面硬さを有するものであり、
緩衝部材の最外層を構成する弾性樹脂が2mm以上の断面肉厚を有し、かつ、その衝合面はショアA硬さ15〜70範囲の表面硬さを有するものである
ことを特徴とする請求項1記載の鋏型手動利器。
【請求項3】
刃体(作用部)と把握体(操作部)を有した鋏半体要素からなる対部材を交差させ、交差部を軸支して回動可能又は開閉可能に結合し、前記鋏半体要素の一部にそれぞれ衝突部又はストッパを対向形成してなる鋏型手動利器に付加装着され、
把握体上で把持圧力の分散を増補するとともに、切断操作時に衝突部又はストッパ同士の撃力の発生を無化又は減弱して手指への衝撃を緩和するために、
前記把握体のそれぞれに覆装可能に形成した軟質弾性材料からなる被覆体構成部と、前記把握体の自由端部の各内面に対設され、切断操作時に弾性的に衝合可能に形成した軟質弾性材料からなる緩衝部材構成部からなり、
前記被覆体構成部と前記緩衝部材構成部とを、それぞれ別体形成し組み合わせて付加装着するか、又は複合的に一体成形して付加装着するようにした鋏型手動利器のグリップアタッチメントにおいて、
複数の軟質弾性材料を用いた複合被覆により制振性を含む衝撃吸収性、圧力分散性、耐候性その他の操作環境評価に係る負条件を多角的に改善した鋏型手動利器のグリップアタッチメントであって、
前記被覆体構成部及び前記緩衝部材構成部が、いずれも2種類又はそれ以上の物性特性の異なる軟質弾性素材を積層して内外層を複合形成したものであり、
それぞれ最内層の構成素材はいずれも衝撃吸収率80%以上の防振ゴムであり、
前記被覆体構成部の最外層の構成素材はゴム、シリコン樹脂その他の弾性樹脂であって、2mm以上の断面肉厚を有し、かつ、ショアA硬さ15〜50範囲の表面硬さを有するものであり、
前記緩衝部材構成部の最外層の構成素材はゴム、シリコン樹脂その他の弾性樹脂であって、2mm以上の断面肉厚を有し、かつ、その衝合面はショアA硬さ15〜70範囲の表面硬さを有するものであることを特徴とする鋏型手動利器のグリップアタッチメント。
【請求項4】
刃体(作用部)と把握体(操作部)を有した鋏半体要素からなる対部材を交差させ、交差部を軸支して回動可能又は開閉可能に結合し、前記鋏半体要素の一部にそれぞれ衝突部又はストッパを対向形成してなるとともに、前記把握体のそれぞれに軟質弾性材料からなる被覆体を覆装し、かつ、その自由端部の各内面に、切断操作時に弾性的に衝合可能な緩衝部材を対設してなり、把持圧力の分散を増補するとともに、切断操作時に衝突部又はストッパ同士の撃力の発生に起因する手指への衝撃を緩和するようにした鋏型手動利器において、
複数の軟質弾性材料を用いた複合被覆により制振性を含む衝撃吸収性、圧力分散性、耐候性その他の操作環境評価に係る負条件を多角的に改善した鋏型手動利器のグリップ被覆構造であって、
前記被覆体及び前記緩衝部材が、いずれも2種類又はそれ以上の物性特性の異なる軟質弾性素材を積層して複合形成した内外層を有し、
それぞれ最内層の構成素材はいずれも衝撃吸収率80%以上の防振ゴムであり、
それぞれ最外層の構成素材はいずれもゴム、シリコン樹脂その他の弾性樹脂である
ことを特徴とする鋏型手動利器のグリップ被覆構造。
【請求項5】
被覆体の最外層の弾性樹脂が2mm以上の断面肉厚を有し、かつ、ショアA硬さ15〜50範囲の表面硬さを有するものであり、
緩衝部材の最外層の弾性樹脂が2mm以上の断面肉厚を有し、かつ、その衝合面はショアA硬さ15〜70範囲の表面硬さを有するものである
ことを特徴とする請求項4記載の鋏型手動利器のグリップ被覆構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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