説明

【課題】持手部の形状、指孔の大きさや形状、重量バランス等を使用者に適したものに調整できる鋏を提供する。
【解決手段】それぞれ刃部及び持手部5a,5bを有する一対の鋏片が支軸周りに回動可能に組み付けられた鋏であって、持手部は、刃部に連設された柄部10a,10bと、柄部から外方に一体的に延設され、指を挿通する第一指孔26を有する平板状の芯部20a,20bと、芯部に装着される装着体30u,30dとを具備する。また、装着体は、第一指孔と重畳する位置に第二指孔36a等を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋏に関するものであり、特に、美容師や理容師等の専門家の使用に適した鋏に関するものである。
【背景技術】
【0002】
美容師や理容師等の専門家が使用する鋏には、繊細な動きや素早い動きに対応できる優れた操作性が要求される。そのため、手に良く馴染んで手の一部のように使い易い鋏であるためには、鋏の持手部の大きさ・形状や、指孔の大きさ・形状が、個々の使用者の手指の大きさや形に適合していることが重要である。また、鋏片の各部の重量比(重量バランス)も、操作性に大きく影響する。加えて、美容師等は、開閉操作を高頻度に繰り返し、極めて長時間にわたって鋏を使用するため、腱鞘炎や関節炎などにかかり易い。そのため、使用者の手首や腕に過度の負担をかけないために、使用者の体格や筋力等に適合した重量を有する鋏が望ましい。
【0003】
ところが、実際には、美容師等の専門家用の鋏であっても、標準的な仕様の製品が製造されているに過ぎない。これは、例えば理美容用の鋏であれば、カット鋏、梳き鋏など用途の異なる種類が多く存在し、また、同じくカット鋏であっても、髪型デザイン等に応じて、刃の形状や刃長などの異なる極めて多種類の鋏が使用されることから、多種類の型のそれぞれについて、更に持手部の形状、指孔の大きさ、重量バランス等の異なる複数の種類の鋏を製造することは、製造者にとって実際的ではないことが、理由の一つとして挙げられる。
【0004】
そこで、実際の現場では、標準的な仕様の鋏では指孔が大き過ぎる、或いは小さ過ぎる美容師等は、指孔を構成する金属製のリング部を切断し、一部を切除あるいは継ぎ足した後、再び溶接して繋ぎ合わせる加工を施した上で使用している。また、指孔の大きさの異なるリング部を、着脱可能とした鋏も提案されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−113539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、使用者の指の太さに合わせるためのリング部の溶接加工は、製造業者に特注して行うことから、時間も費用も要し、気軽に行えるものではなかった。そのため、標準の仕様の鋏を、不具合を我慢しながら使用している者も多かった。また、指孔の大きさの異なるリング部を着脱可能とした鋏(特許文献1)は、リング部(「指輪」)を「柄部」の先端部に対してネジで装着する構成であるため、ネジによる留め付けがゆるみ、手の動きが鋭敏には刃部に伝わらないおそれがあった。加えて、美容師等は、激しい開閉操作を高速で繰り返すことが多いため、柄部の先端部とリング部との接続部分にかかる応力によって、ネジがゆるみ易い構成となっている。そして、万一、ネジが外れることがあれば、リング部のみが指に残り、柄部及び刃部が落脱するおそれがあった。
【0007】
また、柄部より先の部分をそっくり取り替える構成であるため、標準仕様の製品について、たとえ製造者が充分に吟味して重量バランスや鋏全体の重量を設計したとしても、その設定が崩れてしまうおそれがあった。
【0008】
逆に、製造者によって設定された重量バランスや全重量が、使用者の所望のものとは異なっていたとしても、製造された後の段階で、重量バランスや全体の重量を、能動的に調整できる鋏は、従来には存在しなかった。加えて、専門家用の鋏は機能性が重視されるあまりに画一的なデザインのものが多く、使用者の好みに対応できるデザインの多様性も望まれていた。
【0009】
そこで、本発明は上記の実情に鑑み、持手部の形状、指孔の大きさや形状、重量バランス等を使用者に適したものに調整できる鋏の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る鋏は、「それぞれ刃部及び持手部を有する一対の鋏片が支軸周りに回動可能に組み付けられた鋏であって、前記持手部は、前記刃部に連設された柄部と、該柄部から外方へ一体的に延設され、指を挿通する第一指孔を有する平板状の芯部と、該芯部の少なくとも片面に装着された装着体とを」具備している。
【0011】
芯部が柄部から延設される「外方」とは、支軸によって組み付けられた一対の鋏片において、一方の持手部が他方の持手部と対面する側とは反対の側を指している。
【0012】
装着体は、芯部の「少なくとも片面」に対して装着されるものであれば、芯部の片面の全体を被覆するように装着されるものであっても、一部のみを覆うように装着されるものであっても良い。また、芯部の両面に装着体が装着されるものであっても良い。加えて、第一指孔の内周や芯部の外周縁にも装着体が装着されるものであっても良い。更に、第一指孔の内周や芯部の外周縁を介して、芯部の一方の面から他方の面まで跨るように、装着体が装着されるものであっても構わない。
【0013】
上記の構成により、本発明によれば、刃部、柄部及び芯部という鋏の大部分を占める構成が同一の鋏であっても、個々の使用者に適した装着体を装着することによって、個々の使用者に適した鋏とすることができる。例えば、第一指孔の一部が塞がれるような形状の装着体を装着することにより、指の挿通される孔の大きさや形状を使用者の指の太さや形状に合わせることができる。
【0014】
ところで、装着体をリング状に形成し、これを第一指孔の内周に嵌め込む態様とすることによって、指の挿通される孔の大きさや形状を調整する構成も想定し得る。しかしながら、この場合は、単に指が挿通される孔の大きさや形状しか変化させることしかできない。これに対し、本発明では、平板状の芯部に対して装着体が面的に取り付けられる構成であるため、指が挿通される孔の大きさや形状のみならず、持手部における広い範囲にわたって形状を変化させることができる。例えば、第一指孔に挿通されない指の当たる部分についても、その形状の異なる装着体を装着することにより、使用者の手の形や鋏の使用のくせ等に適合した、よりフィット感の高い鋏とすることができる。
【0015】
また、大きさや材質の異なる装着体を装着することにより、鋏の重量バランスや全重量を変化させることができる。ここで、装着体の材質としては、樹脂、金属、セラミックス等を例示することができる。更に、一つの鋏に対して材質の異なる装着体を同時に使用することもできる。例えば、部分的に比重の異なる材質の装着体を取り付けたり、装着体の一部に比重の大きな材料をウエイト的に埋設したりすることによって、重量バランスを調整することができる。
【0016】
更に、一方の持手部と他方の持手部とで装着される装着体の色を異ならせたり、一方の持手部において芯部の一方の面と他方の面とで装着体の色を異ならせたりすることもできる。これにより、刃部、柄部及び芯部から構成される部分が画一的に製造された鋏であっても、デザインに変化を持たせることができる。
【0017】
加えて、本発明では、第一指孔は芯部に設けられ、芯部は柄部と一体的に形成されるため、万一、芯部から装着体が外れたとしても、芯部、及び刃部に連設された柄部は指を離れることはない。これにより、柄部の先端に装着されたリング部が外れた場合には刃部が落脱してしまうという、従来の鋏における上述の問題点を、解消することができる。
【0018】
また、本発明に係る鋏は、「前記装着体は、前記第一指孔と重畳する位置に、第二指孔を具備する」ものとすることもできる。ここで、鋏を把持する状態では、第一指孔と第二指孔とが重畳した部分に持手部を貫通するように形成される空間(貫通孔)に、使用者の指が挿通されることとなる。
【0019】
上記の構成により、本発明によれば、第一指孔と第二指孔との大きさの関係や位置関係の異なる装着体を装着することにより、指が挿通される貫通孔の大きさや形状を変化させ、個々の使用者に適合したものとすることができる。
【0020】
加えて、使用者の指は、芯部に設けられた第一指孔と装着体に設けられた第二指孔との両方に挿通されるため、万一、装着体が芯部から外れたとしても、第二指孔には指が挿通されたままであり、装着体が落下することを防止することができる。また、第二指孔に指が挿通されることにより、装着体は常に芯部と共に使用者の手と連動することとなるため、装着体が芯部から外れること自体が起こり難いものとなる。
【0021】
更に、本発明に係る鋏は、「前記装着体は、前記柄部及び前記芯部を構成する材料より比重の小さな材料で構成されている」ものとすることができる。
【0022】
上記の構成により、本発明によれば、装着される装着体の大きさや形状等が異なっても、製造者が吟味して設計し、精密に制御して製造した鋏の重量バランスや全重量の設定からのずれを、小さく抑えることが可能となる。
【0023】
次に、本発明に係る鋏は、「前記芯部に対して着脱可能に構成され、形状、材質、及び色のうち少なくとも何れか一つが互いに相違する複数の前記装着体を備える」ものとすることができる。
【0024】
装着体を芯部に対して「着脱可能」とする構成としては、使用者でも取り外すことができる種類の螺子によって両者を留め付ける構成や、一方に設けられた凸部と他方に設けられた凹部との嵌合によって装着体が芯部に取り付けられる構成を例示することができる。或いは、専用の剥離剤で剥離することができる接着剤で、両者を接着する構成であっても良い。
【0025】
上記の構成により、本発明によれば、芯部にいったん装着された装着体を、形状、材質、色等の異なる別の装着体に取り替えることにより、一つの鋏でありながら、異なるフィット感を実現することができる。或いは、装着体が損耗した際に、装着体を容易に交換し、使用者にとって最適なフィット感を維持することができる。或いは、一つの鋏でありながら、多様なデザインの変化を楽しむことができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明の鋏によれば、持手部の形状、指孔の大きさや形状、重量バランス等を使用者に適したものに調整できる鋏を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の一実施形態である鋏について、図1乃至図6に基づいて説明する。ここで、図1は本実施形態の鋏の正面図であり、図2は図1のA−A間及びB−B間における(a)左側面図及び(b)右側面図であり、図3は図2(a)におけるZ−Z線断面図であり、図4は図1のA−A間及びB−B間における(a)拡大正面図、装着体を取り外した状態での(b)X−X線断面図及び(c)Y−Y線断面図、装着体を装着した状態での(d)X−X線切断部端面図及び(e)Y−Y線切断部端面図、他の装着体を装着した状態での(f)X−X線切断部端面図及び(g)Y−Y線切断部端面図であり、図5は他の実施形態の持手部の正面図であり、図6は更に他の実施形態の持手部の正面図である。なお、以下では、美容師や理容師が使用する理美容用の鋏に本発明を適用した場合を例示する。
【0028】
本実施形態の鋏1は、図1に示すように、それぞれ刃部3及び持手部5を有する一対の鋏片2(動刃2a、静刃2b)が支軸4周りに回動可能に組み付けられた鋏であり、持手部5は、図1のA−A間及びB−B間における正面図等を図4に示したように、刃部3に連設された柄部10と、柄部10と一体的に形成され、指を挿通する第一指孔26を有する平板状の芯部20と、芯部20に装着される装着体30とを主に具備している。
【0029】
以下、より詳細に説明するが、一対の持手部5のそれぞれについて、他方の持手部5と対面する側を「内方」、これと反対側を「外方」と称して説明する。また、一対の鋏片2における各構成について、動刃2a及び静刃2bとで区別する必要がある場合は、各構成を示す符号に、それぞれ「a」及び「b」の符号を添えて説明する。
【0030】
芯部20は、厚さ約2mmの平板状に形成され、この芯部20に略円形の第一指孔26が穿設されている。また、本実施形態の柄部10は、刃部3の端部から持手部5の先端まで延びており、その外方に芯部20が延設されている部分では、柄部10は芯部20から略直交する方向に突設されている。そして、柄部10から芯部20が延設されている部分の断面は、図4(b),(c)に装着体30を取外した状態での図4(a)のX−X線断面図及びY−Y線断面図を示すように、略T字形を呈している。
【0031】
ここで、芯部20と柄部10とは一体的にステンレス鋼で形成されており、本実施形態では、更に、刃部3も一体的にステンレス鋼で形成されている。また、本実施形態では、動刃2a側の持手部5aと静刃2b側の持手部5bとは異なる形状をしており、図3に図2(a)のZ−Z線断面図を示したように、一体的に形成された芯部20及び柄部10は、持手部5の内部で全体にわたる構成である。なお、動刃2a側の柄部10の先端には、開閉操作に伴う一対の持手部5a,5bの衝突の衝撃を和らげるために、ヒットポイント9が取り付けられている。
【0032】
本実施形態では、装着体30は芯部20の両面に装着されている(図2(a),(b)、図4(d),(e)参照)。以下では、右側面図(図2(b))における紙面上の関係によって、紙面左側を「上側」、及び紙面右側を「下側」と称し、芯部20の上側及び下側の構成をを区別する必要があるときは、各構成を示す符号に、それぞれ「u」及び「d」の符号を添えて説明する。
【0033】
装着体30には、装着体30を芯部20に取り付けた際に第一指孔26と重畳する位置に、第二指孔36が設けられている。従って、持手部5を貫通し、鋏1を把持する状態で使用者の指が挿通される空間である指通孔6は、第二指孔36u、第一指孔26、及び第二指孔36dが連通する空間である。
【0034】
本実施形態の装着体30は、合成樹脂で形成され、正面視の外形(輪郭)が、芯部20の正面視の外形と略一致するように形成されている。従って、装着体30を芯部20に取り付けた状態では、図2(a),(b)に示すように、持手部5の外方の周縁に沿って芯部20の側面が露呈している。更に、装着体30の厚さ(芯部20から突出する高さ)は、上側にも下側にも柄部10の高さ(芯部20から突出する高さ)を超えない設定とされている。
【0035】
また、本実施形態の装着体30では、左側面図及び右側面図にも表れているように(図2(a),(b)参照)、厚さや角部の面取りの程度が、部分によって異なる設定とされ、使用者の手指がよりフィットし易いように形成されている。例えば、静刃2b側の持手部5bでは、第二指孔36bに薬指を挿入した場合に中指の腹の当たる装着体30dの角部(図示、部分イ)、及び小指の先が当たる角部(図示、部分ロ)は、厚さを小さくすると共に大きく面取りがされている。また、装着体30uにおいて小指が掛けられて小指の腹を載置する部分(図示、部分ハ)は、小指を安定して支持できるように厚さを特に大きくし、これに伴って柄部10bの高さも先端に向かって増加する設定とされている。更に、動刃2a側の持手部5aでは、第二指孔36aに挿入された親指によって押される力が動刃2aに効率よく伝わるように、親指の腹の当たる装着体30uの部分(図示、部分ニ)の厚さを大きくし、これに伴ってこの部分の柄部10aの高さも大きく設定されている。
【0036】
そして、本実施形態の装着体30は、動刃2a側の芯部20aの上側及び下側、静刃2b側の芯部20bの上側及び下側に取り付けられるそれぞれについて、第二指孔36の大きさの異なる複数の種類が備えられている。本実施形態では、第一指孔26及び第二指孔36のそれぞれの中心が略一致する設定とされているため、図4(d),(e)に示すように、第二指孔36及び第一指孔26の大きさが略等しいときに、指通孔は最大となる。また、図4(f),(g)に示すように、第一指孔26に比べて第二指孔36が小さい装着体30を用いることにより、指通孔を小さくすることができる。
【0037】
また、本実施形態の鋏1には、第二指孔36の大きさのみならず、材質や色の異なる複数種類の装着体30が備えられている。更に、その他の種類の装着体30として、第二指孔36の形状や第二指孔36の周縁の面取りの程度の異なる種類を複数備えるものとすることができる。例えば、第二指孔36の形状を指の形状に合わせて偏平な楕円とすると共に、第二指孔36の周縁の面取りの程度の小さい装着体30とすれば、手の細かな動きを刃先に鋭敏に伝え易く、繊細なカットをしたい場合に適している。逆に、第二指孔36を、指との間に空隙ができるような形状及び大きさに設定すると共に、第二指孔36の周縁が大きめに面取りされた装着体30とすれば、締め付けのない感触で長時間の作業を行う場合に適している。
【0038】
更に、その他の装着体30として、上述の各部分イ,ロ,ハ,ニの形状や面取りの程度が異なる種類を、複数備えるものとすることができる。
【0039】
鋏1の使用に際しては、使用者は複数の種類の装着体30の中から、自分の指の太さや所望のフィット感に適合した装着体30を選択し、芯部20に装着して使用する。ここで、装着体30の芯部20への取り付けは、接着剤を用いた接着により行うことができる。なお、専用の剥離剤によって剥離可能な接着剤を用いることにより、いったん接着された装着体30を芯部20から剥離し、別の装着体30を取り付けることが可能な構成とすることができる。
【0040】
以上のように、本実施形態の鋏1によれば、第二指孔36の大きさの異なる複数の装着体30を複数備え、その中から何れかを選択して芯部20に取り付けて使用することにより、指通孔6の大きさが使用者の指の太さに合った鋏1とすることができる。また、本実施形態の装着体30は、芯部20に対して面的に取り付けられる構成であるため、第二指孔36の大きさのみならず、第二指孔36に挿通される指が当たる部分、第二指孔36に挿通されない指の当たる部分、小指を掛ける部分など、装着体30の各部の厚さや形状の異なるものとすることができる。これにより、装着体30によって持手部5の広い範囲でその形状を変化させることができ、それぞれの使用者に適合した形状として、鋏1のフィット感をより高めることが可能となる。そして、鋏1の大部分の構成である刃部3、柄部10、及び芯部20から構成される部分は共通であり、画一的な仕様で製造されるものであっても、個々の使用者に適した鋏1とすることができる。
【0041】
また、本実施形態の装着体30は樹脂製であり、樹脂の比重は、刃部、柄部及び芯部を構成する金属に比べて小さいため、装着体30を取り換えても、製造者が吟味して設計し、精密に制御して製造した重量バランスや全重量の設定からのずれを小さく抑えることができる。なお、逆に、製造時に設定された重量バランスや全重量が、使用者の所望のものと異なる場合は、材質の異なる装着体を使用したり、比重の大きな金属が一部にウエイトとして埋設された装着体を使用することにより、製造後に重量バランスや全重量を調整することもできる。
【0042】
加えて、樹脂は手に触れた感触が柔らかく、また、気温の低い時期でも金属のように冷たい感触がないという利点を有している。更に、複雑な形状であっても加工を容易に行うことができるため、厚さや形状の異なる複数の種類の装着体30を容易に製造することができる。また、カッターで削ることができる樹脂であれば、使用者自身が形状の微調整を行うこともできる。
【0043】
更に、第一指孔26は芯部20に設けられ、芯部20は柄部10と一体的に形成されるため、万一、芯部20から装着体30が外れたとしても、柄部10は手から離れることはなく、従って、柄部10と一体的に形成された刃部3が落下することもない。加えて、本実施形態では、装着体30に第二指孔36が設けられているため、万一、装着体30が芯部20から外れても、装着体30が落下することを防止することができる。また、装着体30は、常に使用者の手の動きと連動するため、芯部20から装着体30が外れること自体が起こり難いものとなっている。
【0044】
また、持手部5の先端まで柄部10が延びており、持手部5の内方には装着体30が露呈しない構成であるため、鋏1の開閉操作に伴って一対の持手部5がヒットポイント9を介して衝突を繰り返しても、その衝撃は柄部10によって受け止められる。また、一対の持手部5の外方では芯部20の側面が露呈しているため、鋏1の開操作に伴って持手部5の外方がどこかにぶつかったとしても、その衝撃は主に芯部20によって受け止められる。これにより、衝突の衝撃によって樹脂製の装着体30が損傷する恐れの少ないものとなっている。
【0045】
また、持手部5の内部では、一体的に形成された芯部20及び柄部10が、ほぼ全体にわたって存在しており、芯部20及び柄部10は装着体30の取り替えによって着脱されることのない構成であるため、持手部5の強度を高く維持することができる。また、装着体30として採用する材料には、高い強度を求める必要がないため、材料の選択の幅が広いものとなる。
【0046】
上記では、装着体30が芯部20に接着される構成を例示したが、着脱容易な種類の螺子によって、装着体30が柄部10または/及び芯部20に対して留め付けられる構成とすることもできる。例えば、図5に示すように、柄部10の上側及び下側の開端辺から、装着体を一部覆うように舌片状の螺子受け部27を延設して、ここに螺子用孔部28を穿設し、螺子用孔部28に挿通した螺子29によって、装着体30を柄部10に対して留め付ける構成の持手部5’とすることができる。なお、螺子29としては、一般的なプラス型またはマイナス型の小型ドライバーで、容易に着脱できる頭部付き螺子を使用することができる。これにより、使用者自身が装着体30を容易に着脱し、交換することが可能となる。なお、図5では、螺子受け部27の外形を略U字形に形成した場合を例示したが、この形状に限定されるものではない。
【0047】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0048】
例えば、本実施形態では、装着体に第二指孔が設けられる場合を例示したが、これに限定されない。例えば、指孔を設けることなく略U字形に装着体を形成し、これを芯部に取り付けることによっても、指通孔の大きさや形状等を変化させることができる。
【0049】
また、上記では動刃及び静刃が区別される左右非対称の鋏の場合を例示したが、これに限定されず、図6に示すような左右対称の持手部を有する鋏に対して、本発明を適用することもできる。この場合、例えば、一対の持手部51の一方と他方とで、第二指孔36の周縁の面取りの程度や、指通孔に挿通されない指の当たる部分等の形状の異なる装着体31を取り付けることができる。これにより、鋏の左右を持ち替えることによってフィット感が異なる鋏とすることができ、髪型デザインや鋏の使用時間等に応じて使い分けをすることができる。また、その際、左右の装着体の色を異なるものとすれば、フィット感の違いを視覚で識別し易く、より好適である。
【0050】
更に、理美容用の鋏に本発明を適用した場合を例示したが、これに限定されず、繊細な作業のためにフィット感が重要視される、工芸やデザインの分野で専門家によって使用される鋏にも、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態の鋏の正面図である。
【図2】図1のA−A間及びB−B間における(a)左側面図及び(b)右側面図である。
【図3】図2(a)におけるZ−Z線断面図である。
【図4】図1のA−A間及びB−B間における(a)拡大正面図、装着体を取り外した状態での(b)X−X線断面図及び(c)Y−Y線断面図、装着体を装着した状態での(d)X−X線切断部端面図及び(e)Y−Y線切断部端面図、他の装着体を装着した状態での(f)X−X線切断部端面図及び(g)Y−Y線切断部端面図である。
【図5】他の実施形態の持手部の正面図である。
【図6】更に他の実施形態の持手部の正面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 鋏
2 鋏片(動刃2a,静刃2b)
3 刃部
4 支軸
5,5’,51 持手部
10 柄部
20 芯部
26 第一指孔
30,31 装着体
36 第二指孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ刃部及び持手部を有する一対の鋏片が支軸周りに回動可能に組み付けられた鋏であって、
前記持手部は、
前記刃部に連設された柄部と、
該柄部から外方へ一体的に延設され、指を挿通する第一指孔を有する平板状の芯部と、
該芯部の少なくとも片面に装着された装着体と
を具備することを特徴とする鋏。
【請求項2】
前記装着体は、前記第一指孔と重畳する位置に、指を挿通する第二指孔を具備することを特徴とする請求項1に記載の鋏。
【請求項3】
前記装着体は、前記柄部及び前記芯部を構成する材料より比重の小さな材料で構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋏。
【請求項4】
前記芯部に対して着脱可能に構成され、形状、材質、及び色のうち少なくとも何れか一つが互いに相違する複数の前記装着体を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の鋏。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−161242(P2008−161242A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350969(P2006−350969)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(397076888)株式会社刃物屋トギノン (8)
【Fターム(参考)】