説明

【課題】簡単な部分構成の改変を加えるだけでどのような型式の鋏に対しても適用することができて、周りの毛髪を無闇に切断することなく狙いを定めた特定の白髪などのむだ毛だけを確実に根元から切りとることのできる鋏を提供する。
【解決手段】鋏身1、2と指掛け3、4とが柄6、7を介して一体化されてなり、二つの鋏身の裏面同士を対向させるとともに、二つの鋏身を支軸10で枢支してなる鋏において、少なくとも一方の鋏身には、刃先先端部29を越えて外方に伸びるとともに、略直角方向内側に伸びる鉤状部21が備えられている。また、該鉤状部を該鋏身と一体構造とすることもできるし、該鉤状部が該鋏身とは別体であって、該鉤状部を備えるL形鉤状部材を該鋏身に固着して一体構造とすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋏の分野、特に白髪切り用として好適な鋏の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
頭髪に白髪が一本でも見つかると、若い女性に限らず大いに気になるものである。そのような場合、得てして毛抜きで抜いて済ませてしまうことが多いが、毛を抜くことは本人にとって疼痛を伴うだけでなく毛根を傷つけたり炎症を誘発したりするので皮膚にとって決して好ましいことではない。また、少ない白髪を目立たなくするためにわざわざ頭髪全体を染めるのも大げさである。また、眉毛に出てくる白髪や癖毛も大いに気になる。そして、陰毛の白髪も精神衛生上よろしくない。
【0003】
そのような事情から、毛根を残して白髪だけを根元から切る工夫がなされているが、普通の鋏を使って行うとどうしても白髪の周りの正常な毛髪まで同時に切ってしまうおそれが大きかった。そこで、白髪だけを根元から確実に切ることのできる鋏やカッターが発明されてきている。
【0004】
例えば、特開平9−75561号公報(特許文献1)に記載される発明は、刃部2の先端の閉塞重なり部7と切れ口6との間に円弧状切欠部8を設けてなるものである。白髪を片手でつまみ上げたところで鋏本体1をやや開いた状態で白髪に近づけ、閉塞重なり部7間の隙間から円弧状切欠部8に誘導して鋏本体を閉じると、閉塞重なり部7同士が重なるのに伴い白髪のみが円弧状切欠部8同士が形成する捕捉スライド開口部9で捕捉されることになる。鋏本体を閉じたまま白髪の根元まで移動させ、鋏本体1を僅かに開きながら前方に押しやり白髪の根元を切れ口6側に導入する。そして鋏本体1を閉じれば白髪だけを根元で切断することができるようになっている。しかし、この構成は刃部2の先端部に円弧状切欠部8と閉塞重なり部7とを設けなければならないので、通常の鋏に比べて製作工数が大幅に増えてしまうという問題があった。また、白髪を開口部9で捕捉する際に鋏を一旦閉じ、白髪の根元まで移動させた後鋏を僅かに開きながら前方に押しやるという不自然で厄介な動作を経なければ、白髪を根元で切断することができないという操作上の問題点をも有していた。
【0005】
特開2007−215976号公報(特許文献2)に記載される発明は、鋏本体1のどちらか片方の先端刃部3に、細長状の切り込み部4を設けた白髪固定部2を固着してなるものであって、片手でつまみ上げた白髪6を白髪止め部5まで挿入した後、鋏本体1を白髪6に沿って頭部に密着するまで下降し、そこで白髪固定部2に内蔵された先端刃部3で白髪だけを切断するものである。しかし、このものは白髪固定部2が予想以上に嵩張る上に、先端刃部3への固着態様が難しいという難点がある。また、白髪固定部2が嵩張ることにより、片手でつまみ上げた白髪6を白髪止め部5まで挿入した後、鋏本体1を白髪6に沿って頭部に密着するまで下降させた時に、白髪周りのふくよかな黒髪を無理に寝かせてしまうという問題があり、これに伴い、白髪を真の意味で根元から切断することができないという難点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−75561号公報
【特許文献2】特開2007−215976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明が解決しようとする課題は、どのような型式の鋏に対しても簡単な部分構成の改変を加えるだけで適用することができて、狙いを定めた特定の毛髪、例えば白髪、だけを周りの毛髪を無闇に切断することなく確実に根元から切ることのできる鋏を提供することにある。また、毛髪の長さに影響されない、即ち、女性の長い髪はもとより眉毛程度の短いむだ毛にも適用し得る鋏を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鋏身と指掛けとが柄を介して一体化されてなり、二つの鋏身の裏面同士を対向させるとともに、二つの鋏身を支軸で枢支してなる鋏において、少なくとも一方の鋏身には、刃先先端部を越えて外方に伸びるとともに、略直角方向内側に伸びる鉤状部が備えられている、ことを特徴とする鋏。
【0009】
該鉤状部が該鋏身と一体構造である、ことを特徴とする請求項1に記載される鋏。
【0010】
該鉤状部が該鋏身とは別体であって、該鉤状部を備えるL形鉤状部材が該鋏身に固着されて一体構造をなす、ことを特徴とする請求項1に記載される鋏。
【発明の効果】
【0011】
頭髪に発生した長い白髪を片手で摘み上げて本発明の鋏をやや開いた状態で白髪に近づけ、白髪を鋏の捕捉空間内に取り込んだ後、鋏をやや閉じて白髪を捕捉空間内に隔離収容する。その状態で鋏を頭皮に触れるまで下降し、そのまま自然に鋏を閉じると摘み上げられた白髪だけがその根元から切断される。その際、捕捉空間内に周りの頭髪が入り込む事はまずあり得ないから、狙いを定めた白髪だけを確実に根元から切断することができる。
そして、鋏の構造が単純であるから製造が容易であり、白髪を捕捉したり切断したりする動作が一連の閉じ動作としてなされるから、操作に無理や無駄が全くなく鋏の取り扱いを楽に行うことができる。
本願発明にかかる鋏は、頭髪、眉毛や陰毛などに発生した白髪や癖毛などのむだ毛を一人で取り除くのに、使って便利である。また、家庭にあっては子供に白髪取りをさせて小遣いをあげるとかすれば、親孝行の気持ちが自然に身につきお金を稼ぐことの面白さを知るようにもなる。夫婦で白髪取りを行えば本来不愉快な白髪が転じて愛情の絆に変わらないとも限らないのである。何より、毛根を残して目立たなくしておいた白髪が黒髪に戻れば、喜びはこの上なく、精神衛生上の効果は計り知れないものがある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明を適用した鋏を完全に閉じた状態図である。
【図2】図2は、本発明を適用した鋏をやや開いた状態図である。
【図3】図3は、本発明を適用した別の型式の鋏をやや開いた状態図である。
【図4】図4は、図1、2に示される鋏の鋏身部の部分図である。
【図5】図5は、図4の鋏身部の上面図である。
【図6】図6は、鋏身部を示す他の例である。
【図7】図7は、図6の鋏身部の上面図である。
【図8】図8は、図3に示す型式の鋏の鋏身部を示すその他の例である。(a)は鋏をやや開いた状態図、(b)は鋏を完全に閉じた前面状態図である。
【図9】図9は、図3に示す型式の鋏の鋏身部を示すその他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の基本的形態は、狙いを定めた特定の毛髪、例えば白髪、だけを周りの毛髪を無闇に切断することなく確実に根元から切ることのできる鋏を提供することを一つの課題として、鋏身と指掛けとが柄を介して一体化されてなり、二つの鋏身の裏面同士を対向させるとともに、二つの鋏身を支軸で枢支してなる鋏において、少なくとも一方の鋏身には、刃先先端部を越えて外方に伸びるとともに、略直角方向内側に伸びる鉤状部が備えられている鋏、とすることにあるが、以下、詳細に説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明を適用した鋏を完全に閉じた状態図である。鋏身1と鋏身2とは裏面同士が背中合わせに配され、支軸10により枢動自在に支承されている。鋏身1は柄6により指掛け3と一体化され、鋏身2は柄7により親指掛け4と一体化されている。鋏身1の先端には鉤状部21が一体化されている。鋏が完全に閉じた状態では、指掛け3が親指掛け4に設けたヒットポイント5と接触しており、一方、鋏身1と鋏身2とは鉤状部21を除く先端部で互いに若干重なっている。鋏身1には平面からなる表面8が形成されており、表面8から裏面9にかけて形成された急傾斜面22により、鋏の切断に直接寄与する刃先部28が形成されている。
【0015】
図2は、図1図示の鋏をやや開いた状態を表している。図1には現れていないが、鋏身2の刃先部28が明瞭である。鋏身1と鋏身2の刃先部28とが交叉した点で切断力が発生するから、刃先部28の交叉する点の何処でも切断が可能な構造になっている。鋏身2では刃先部28の刃先先端部29が鋏身2の先端と一致し、鋏身1では刃先部28の刃先先端部29が鋏身1に設けた鉤状部21の付け根と一致している。鋏身2を開閉するときに刃先先端部29が軌跡Sを描くが、鋏身1、2と鉤状部21とが形成する捕捉空間27が重要な意味を持っている。白髪を摘み上げて鋏をやや開いた図示の状態で白髪に近づけ、白髪を鋏身2と鉤状部21との隙間から捕捉空間27に導き入れた後に鋏をやや閉じると、白髪は鋏身2と鉤状部21とにより形成される捕捉空間27内に収容されて他の毛髪から隔離される。この状態から鋏を頭皮に触れるまで下降させ、更に鋏を閉じれば、白髪だけを根元で切断することができるのである。鉤状部21の外面形状は肌を傷つけることがないよう滑らかになっていなければならない。
【0016】
図3は、本発明を適用した別の型式の鋏を示している。図2のものとの相違点は2つ有り、1つは鋏身1と一体の指掛け3が大きくなっており複数本の指を入れることができるようになっている点である。もう一点は、鋏身1の表面8から裏面9にかけて、幅広の緩傾斜面23が形成され、それに続く急傾斜面22によって、鋏の切断に直接寄与する刃先部28が形成されている点である。
【0017】
図4は、図1、2に示される鋏身1の部分図である。鋏身1に備わる背部20と刃先部28とは直線に限らずやや丸みを帯びた曲線状になっていても良いことを示している。
【0018】
図5は図4を刃先部28の方向から見た図を示している。鋏身1はほぼ同じ厚みを有しており急傾斜面22は鉤状部21の付け根まで伸びている。鉤状部21は刃先先端部29から紙面上方に伸びている。鋏身1は微視的に見れば裏面9側にやや反った形状を呈しているのであるが、鋏の鋏身の裏面形状は種々の工夫が凝らされたものも多く、本件発明の主要な構成とは関連が薄いのでこれ以上の説明はしない。
【0019】
図6は、本発明を適用した鋏身部を示す他の例である。ここで特徴的なのは鉤状部21が鋏身1と一体構造ではない点である。鉤状部21と同等の機能を果たすべく用意されたL形鉤状部材24は、鋏身方向に伸びる根本部25とこれにほぼ直角方向に伸びる鉤状部26とからなるほぼL形形状を呈している。L形鉤状部材24は急傾斜面22と干渉しないように、鋏身1の平面状の表面8に固着されている。固着手段としては接着、溶着、鑞付け、溶接、リベット止めやねじ止め等、周知の固着手段を適用することができる。L形鉤状部材24の材質は鋏身1の材質と必ずしも同じである必要はなく、合成樹脂、象牙、鼈甲、貴金属、卑金属、スチール等の合金等、周知の材料から適宜選択する事ができる。
【0020】
図7は、図6を鋏身1の急傾斜面22の方向から眺めた図を示している。鋏身1はほぼ同じ厚みを有しており急傾斜面22は鋏身1の刃先先端部29まで続いている。L形鉤状部材24は根本部25で鋏身1の平面状の表面8に固着されており、その鉤状部26は刃先先端部29から紙面上方に伸びている。従って鋏身1とL形鉤状部材24とは積層構造をなしている。鋏身1は微視的に見れば裏面9側にやや反った形状を呈しているのであるが、鋏の鋏身の裏面形状は種々の工夫が凝らされたものも多く、本件発明の主要な構成とは関連が薄いのでこれ以上の説明はしない。
【0021】
図8は図3に示す型式の鋏の鋏身部を示すその他の例である。鋏身1の表面8から裏面9にかけて、幅広の緩傾斜面23が形成され、それに続く急傾斜面22によって、鋏の切断に直接寄与する刃先部28が形成されている。L形鉤状部材24は急傾斜面22と干渉しない位置を保つよう、根本部25で鋏身1に設けられた緩傾斜面23に固着されている。(b)を参照すれば明らかなように、L形鉤状部材24の根本部25と鉤状部26とはほぼ緩傾斜面23の傾斜角に対応した角度関係をなしている。L形鉤状部材24の根本部25と鉤状部26とが特定の角度関係を有していなくとも白髪の捕捉に大きな支障を来すことはないが、人が鋏を持って作業をするときには当然の如く視覚に頼るので、違和感を与えないようにするには、L形鉤状部材24の根本部25と鉤状部26とが相応の角度関係を持っていることが好ましい。
【0022】
図9は図3に示す型式の鋏の鋏身部を示すその他の例である。その特徴点は、図3のものと同様鋏身に鉤状部21を一体に設けていることと、鋏身1および鋏身2の双方に鉤状部21を設けている点である。鋏身の一方のみに鉤状部或いはL形鉤状部材を設けた鋏では、鉤状部或いはL形鉤状部材が設けられていない方の鋏身との干渉に細かな気を遣う必要はあまりないのであるが、双方の鋏身の先端部に鉤状部或いはL形鉤状部材を設けた鋏では、鉤状部或いはL形鉤状部材同士が干渉することを避けることに配慮した設計をする必要がある。また、双方の鋏身に鉤状部或いはL形鉤状部材を設けることは製造工程数が増えるという欠点を伴うが、一面、デザイン的に見ると鋏身が左右対称となり見た目のバランスが良いという利点がある。勿論、白髪切りの効果に大きな影響を及ぼすことはない。
【0023】
本願発明にかかる鋏は、頭髪、眉毛や陰毛などに発生した白髪や癖毛などのむだ毛を一人で取り除くのに、使って便利である。また、家庭にあっては子供に白髪取りをさせて小遣いをあげるとかすれば、親孝行の気持ちが自然に身につきお金を稼ぐことの面白さを知るようにもなる。夫婦で白髪取りを行えば本来不愉快な白髪が転じて愛情の絆に変わらないとも限らないのである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
この発明がむだ毛切り専用の美容用鋏という新たな一つの鋏の分野を開拓した意義は大きい。この発明に係る鋏は、製造が容易な上に、むだ毛切り時の鋏の操作が自然な流れに則ったものであるから、一般家庭の常備品として、また携帯用として、広く普及することが大いに期待される。
【符号の説明】
【0025】
1 鋏身
2 鋏身
3 指掛け
4 親指掛け
5 ヒットポイント
6 柄
7 柄
8 表面
9 裏面
10 支軸
20 背部
21 鉤状部
22 急傾斜面
23 緩傾斜面
24 L形鉤状部材
25 根本部
26 鉤状部
27 捕捉空間
28 刃先部
29 刃先先端部
S 刃先先端部が描く枢動軌跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋏身と指掛けとが柄を介して一体化されてなり、二つの鋏身の裏面同士を対向させるとともに、二つの鋏身を支軸で枢支してなる鋏において、少なくとも一方の鋏身には、刃先先端部を越えて外方に伸びるとともに、略直角方向内側に伸びる鉤状部が備えられている、ことを特徴とする鋏。
【請求項2】
該鉤状部が該鋏身と一体構造である、ことを特徴とする請求項1に記載される鋏。
【請求項3】
該鉤状部が該鋏身とは別体であって、該鉤状部を備えるL形鉤状部材が該鋏身に固着されて一体構造をなす、ことを特徴とする請求項1に記載される鋏。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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