説明

鋳型とその製造方法、および成形体の製造方法

【課題】転写面に色ムラを生じさせることのない、表面に陽極酸化アルミナが形成された鋳型の提供、および該鋳型を用いた成形体の製造方法の提供。
【解決手段】圧延痕のないアルミニウム原型の鏡面表面に、隣り合う凹部同士または凸部同士の少なくともいずれか一方の距離が可視光の波長以下の微細凹凸構造を有するアルミナが、陽極酸化により形成され、かつ、結晶粒界による凹凸の高さが600nm以上であることを特徴とする鋳型。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細凹凸構造を転写するのに好適な鋳型とその製造方法、および成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、可視光の波長以下の周期の微細凹凸構造を表面に有する材料は、反射防止機能、Lotus効果などの機能を発現することから有用性が認識されている。特に、Moth−Eye構造と呼ばれる微細凹凸構造は、空気の屈折率から材料の屈折率に連続的に増大していくことで有効な反射防止の手段となることが知られている。
【0003】
材料表面に微細凹凸構造を形成する方法としては、材料の表面を直接加工する方法、微細凹凸構造に対応した反転構造を有する鋳型を用いて、この構造を転写する転写法などがあり、生産性、経済性の点から、後者の方法が優れている。鋳型に反転構造を形成する方法としては、電子線描画法、レーザー光干渉法等が知られているが、近年、より簡便に製造できる鋳型として、陽極酸化により形成された微細凹凸構造を有するアルミナが注目されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−156695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、表面に陽極酸化アルミナが形成された鋳型を用いて、例えば反射防止膜(反射防止フィルム、反射防止シートを含む。)などの反射防止物品をはじめとする光学用途シートを転写法で製造した場合、転写により形成された転写面には、アルミニウムの結晶粒界が色ムラとなって現れ、光学用途に適したものが得られない場合があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、転写面に色ムラを生じさせることのない、表面に陽極酸化アルミナが形成された鋳型とその製造方法、さらには、このような鋳型を用いて、転写面に色ムラのない成形体を製造する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、このような鋳型の原型に使用されるアルミニウムは、複数の単結晶から構成される多結晶体であって、単結晶ごとに表面に露出している結晶面は異なり、各結晶面によって陽極酸化速度や酸への溶解速度が異なるために、結晶粒サイズの大きなアルミニウムから形成された鋳型には、結晶粒界が目視確認可能なほどのマクロな凹凸となって現れてしまうことを見出した。
そして、このような結晶粒界によるマクロな凹凸を有する鋳型から形成された転写面には、アルミニウムの結晶粒界による僅かな凹凸も転写され、構造色と推測される色ムラを生じさせてしまう、という問題点を有していた。
【0007】
そこで、本発明者らは、圧延痕がなく、結晶粒界による凹凸の高さが600nm以上であるアルミニウム原型を鋳型材料として用いることにより、転写面に色ムラを生じさせることのない、表面に陽極酸化アルミナが形成された鋳型を製造でき、このような鋳型を用いることにより、転写面に色ムラのない成形体を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の鋳型は、圧延痕のないアルミニウム原型の鏡面表面に、隣り合う凹部同士または凸部同士の少なくともいずれか一方の距離が可視光の波長以下の微細凹凸構造を有するアルミナが、陽極酸化により形成され、かつ、結晶粒界による凹凸の高さが600nm以上であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の鋳型の製造方法は、前記鋳型の製造方法であって、圧延痕のないアルミニウムを研磨してアルミニウム原型を作製する研磨工程と、該アルミニウム原型表面のアルミニウムを定電圧で陽極酸化して細孔を有する厚さ30μm以上の酸化皮膜を形成する第1の酸化皮膜形成工程と、前記酸化皮膜の全てを除去する酸化皮膜除去工程と、前記酸化皮膜除去工程後のアルミニウム原型表面のアルミニウムを定電圧で陽極酸化して酸化皮膜を形成する第2の酸化皮膜形成工程と、前記第2の酸化皮膜形成工程により形成された酸化皮膜の一部を除去して前記細孔の孔径を拡大処理する孔径拡大処理工程とを含み、前記第2の酸化皮膜形成工程と、前記孔径拡大処理工程を繰り返すことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の成形体の製造方法は、前記鋳型と透明基材との間に活性エネルギー線硬化性組成物を充填し、活性エネルギー線を照射して、前記活性エネルギー線硬化性組成物を硬化した後、前記鋳型を剥離し、前記透明基材の表面に微細凹凸構造が形成された成形体を製造することを特徴とする。
さらに、本発明の成形体の製造方法は、前記鋳型と透明基材との間に活性エネルギー線硬化性組成物を充填し、前記活性エネルギー線硬化性組成物に前記鋳型表面の微細凹凸構造を転写し、前記鋳型を剥離した後、前記活性エネルギー線硬化性組成物に活性エネルギー線を照射して、前記活性エネルギー線硬化性組成物を硬化し、前記透明基材の表面に微細凹凸構造が形成された成形体を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、転写面に色ムラを生じさせることのない、表面に陽極酸化アルミナが形成された鋳型を提供でき、さらには、このような鋳型を用いた成形体の製造方法も提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の鋳型、すなわち、表面に陽極酸化アルミナが形成された鋳型は、圧延痕のないアルミニウム原型から形成され、隣り合う凹部同士または凸部同士の少なくともいずれか一方の距離が可視光の波長以下の微細凹凸構造を表面に有するものである。
なお、本明細書において「可視光の波長」とは、400nmの波長を意味する。
【0013】
[アルミニウム原型]
本発明の鋳型の材料であるアルミニウム原型は、圧延痕がない。このようなアルミニウム原型としては、圧延処理がされていない非圧延処理アルミニウム原型、または、圧延処理された後、形成された圧延痕が除去されたアルミニウム原型が挙げられる。
圧延痕のないアルミニウム原型を製造する方法としては、アルミニウムのインゴット(鋳塊)を切断または切削などの方法により、板状、円柱状、円筒状などの所望の形状にし、アルミニウム原型とする方法が好適である。
なお、結晶粒径を微細化する方法として圧延処理も挙げられるが、この方法では結晶粒径は微細化されるものの圧延方向に筋状に伸びた凹凸、いわゆる「圧延痕」が多数形成されてしまうため、圧延痕を除去するための処理を施す必要がある。このような処理が不要である点からも、インゴットを用いる方法が好ましい。
【0014】
[鋳型]
上述のアルミニウム原型から表面に微細凹凸構造を有する陽極酸化アルミナが形成された本発明の鋳型を製造する方法としては、圧延痕のないアルミニウムを研磨してアルミニウム原型を作製する研磨工程と、該アルミニウム原型表面のアルミニウムを定電圧で陽極酸化して細孔を有する厚さ30μm以上の酸化皮膜を形成する第1の酸化皮膜形成工程と、前記酸化皮膜の全てを除去する酸化皮膜除去工程と、前記酸化皮膜除去工程後のアルミニウム原型表面のアルミニウムを定電圧で陽極酸化して酸化皮膜を形成する第2の酸化皮膜形成工程と、前記第2の酸化皮膜形成工程により形成された酸化皮膜の一部を除去して前記細孔の孔径を拡大処理する孔径拡大処理工程とを順次実施する方法が挙げられる。また、前記第2の酸化皮膜形成工程と、前記孔径拡大処理工程を繰り返すことが好ましく、本明細書では、この工程を「繰り返し工程」とする。
【0015】
なお、アルミニウム原型表面のアルミニウムは、通常、酸性電解液中、定電圧下で陽極酸化し、一旦酸化皮膜を除去し、これを陽極酸化の細孔発生点にすることで細孔の規則性を向上することが出来る(例えば、益田,応用物理,vol.69,No.5,p558(2000)参照。)。本発明においては、規則的な細孔発生点をつくるための陽極酸化を「一段階目の陽極酸化」といい、この陽極酸化による酸化皮膜の形成工程を「第1の酸化皮膜形成工程」という。また、酸化皮膜除去後の陽極酸化を「二段階目の陽極酸化」といい、この陽極酸化による酸化皮膜の形成工程を「第2の酸化皮膜形成工程」という。
【0016】
このような方法によれば、アルミニウム原型の鏡面表面に、開口部から深さ方向に徐々に径が縮小するテーパー形状の細孔が周期的に形成され、その結果、表面に微細凹凸構造を有する陽極酸化アルミナが形成された鋳型を得ることができる。
以下、各工程について説明する。
【0017】
(研磨工程)
研磨工程では、アルミニウムのインゴット(鋳塊)を切断または切削してえたアルミニウム原型を、械研磨、羽布研磨、化学的研磨、電解研磨などの電気化学的研磨などの方法で研磨して、原型を作成する。
この際、表面を表面光沢度80%以上、好ましくは90%以上に鏡面化するのが好ましい。
【0018】
(第1の酸化皮膜形成工程)
第1の酸化皮膜形成工程では、表面が鏡面化されたアルミニウム原型を電解液中、定電圧下で陽極酸化し、図1(a)に示すように、アルミニウム原型10の鏡面表面に、細孔11を備えた酸化皮膜12を形成する。使用される電解液としては、酸性電解液、アルカリ性電解液が挙げられるが、酸性電解液が好ましい。また、酸性電解液としては、硫酸、シュウ酸、これらの混合物等が使用できる。
【0019】
シュウ酸を電解液として用いる場合、シュウ酸の濃度は0.7M以下が好ましい。濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて酸化皮膜の表面が粗くなることがある。
また、化成電圧を30〜60Vとすることにより、周期が100nmの規則性の高い細孔を有する酸化皮膜(以下、ポーラスアルミナという)が表面に形成された鋳型を得ることができる。化成電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向があり、周期が可視光の波長より大きい凹凸構造が出来ることがある。
なお、本明細書において「周期」とは、微細凹凸構造の隣り合う凹部同士または凸部同士間の距離のことであり、具体的には、凹部(細孔)の中心からこれに隣接する凹部の中心までの距離、または微細凹凸構造の凸部の中心からこれに隣接する凸部の中心までの距離のことである。
【0020】
陽極酸化反応時の電解液の温度は40℃以下が好ましく、30℃以下がさらに好ましい。電解液の温度が40℃を超えると、いわゆる「やけ」といわれる現象が起こる傾向にあり、細孔が壊れたり、表面が溶けて規則性が乱れたりすることがある。
【0021】
硫酸を電解液として用いる場合、硫酸の濃度は0.7M以下が好ましい。濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて定電圧を維持できなくなることがある。
また、化成電圧を25〜30Vとすることにより、周期が63nm程度の規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナが表面に形成された鋳型を得ることができる。化成電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向があり、周期が可視光の波長より大きい微細凹凸構造となる場合がある。
陽極酸化反応時の電解液の温度は30℃以下が好ましく、20℃以下がさらに好ましい。電解液の温度が30℃を越えると、いわゆる「やけ」といわれる現象が起こる傾向にあり、細孔が壊れたり、表面が溶けて規則性が乱れたりすることがある。
【0022】
アルミニウム原型を電解液及び化成電圧下で陽極酸化して形成される酸化皮膜の厚さは、電界放出形走査電子顕微鏡で観察した時に30μm以上が好ましく、40μmがさらに好ましく、43μm以上が特に好ましい。酸化皮膜の厚さが30μm以上であれば、アルミニウムの結晶粒界による転写表面の色ムラの発生を防止できる。酸化皮膜の厚さの上限は特にないが、厚すぎると陽極酸化に非常に長時間を要したり、次の工程においてポーラスアルミナ皮膜を一旦除去するのに長時間の溶解が必要となったりして、鋳型の製造に長時間かかることになる。そのため酸化皮膜の厚さは60μm以下が適している。
【0023】
(酸化皮膜除去工程)
酸化皮膜除去工程では、前記第1の酸化皮膜形成工程により形成された酸化皮膜12の全てを一旦除去することにより、図1(b)に示すように、除去された酸化皮膜12の底部(バリア層と呼ばれる)に対応する比較的規則的な窪み、すなわち、細孔発生点13を形成する。
このように、形成された酸化皮膜12の全てを一旦除去し、陽極酸化の細孔発生点13を形成することで、最終的に形成される細孔の規則性を向上させることができる。
【0024】
酸化皮膜12を除去する方法としては、特に限定されないが、アルミニウムを溶解せず、アルミナを選択的に溶解する溶液に溶解させて除去する方法が挙げられる。このような溶液としては、例えばクロム酸/リン酸混合液などが挙げられる。
【0025】
(第2の酸化皮膜形成工程)
第2の酸化皮膜形成工程では、細孔発生点13が形成されたアルミニウム原型10を電解液中、定電圧下で再度陽極酸化し、再酸化皮膜を形成する。第2の酸化皮膜形成工程においては、先の第1の酸化皮膜形成工程と同様の条件(電解液濃度、添加液温度、化成電圧等)下で陽極酸化すればよい。
これにより、図1(c)に示すように、円柱状の細孔14形成された酸化皮膜15を設けることができる。
【0026】
(孔径拡大処理工程)
孔径拡大処理工程では、第2の酸化皮膜形成工程で形成された細孔14の径を拡大させ、図1(d)に示すように、細孔14の径を図1(c)の場合よりも拡径する。
孔径拡大処理の具体的な方法としては、アルミナを溶解する溶液に浸漬して、第2の酸化皮膜形成工程で形成された細孔径をエッチングにより拡大させる方法が挙げられる。このような溶液としては、例えば、5質量%程度のリン酸水溶液が挙げられる。孔径拡大処理工程の時間を長くするほど、細孔径は大きくなる。
【0027】
(繰り返し工程)
繰り返し工程では、再度第2の酸化皮膜形成工程を行って、図1(e)に示すように、細孔14の形状を径の異なる2段の円柱状とし、その後、再度孔径拡大処理工程を行う。このように第2の酸化皮膜形成工程と、孔径拡大処理工程とを繰り返すことにより、図1(f)に示すように、細孔14の形状を開口部から深さ方向に徐々に径が縮小するテーパー形状にでき、その結果、周期的に微細凹凸構造が形成された陽極酸化アルミナを表面に備えた鋳型20を得ることができる。
【0028】
ここで第2の酸化皮膜形成工程と、孔径拡大処理工程との条件、例えば陽極酸化の時間と孔径拡大処理の時間を適宜設定することにより、様々な形状の細孔を形成することができる。よって、鋳型から製造しようとする成形体の用途などに応じて、これら条件を適宜設定すればよい。特に、本発明の鋳型が反射防止膜などの反射防止物品を製造するものである場合には、このように条件を適宜設定することにより、細孔の周期や深さを任意に変更できるため、最適な屈折率変化を設計することも可能となる。
【0029】
具体的には、同じ条件で第2の酸化皮膜形成工程と、孔径拡大処理工程とを繰り返せば、図2に示すような略円錐形状の細孔14が形成されるが、第2の酸化皮膜形成工程と、孔径拡大処理工程の処理時間を適宜変化させることで、図3に示すような逆釣鐘形状の細孔14や、図4に示すような先鋭形状の細孔14等を適宜形成できる。
【0030】
繰り返し工程における繰り返し回数は、回数が多いほどより滑らかなテーパー形状の細孔を形成できるが、第2の酸化皮膜形成工程と、孔径拡大処理工程との合計で3回以上が好ましく、5回以上がより好ましい。繰り返し回数が2回以下では、非連続的に細孔径が減少する傾向にあり、このような鋳型から反射防止膜などの反射防止物品を製造した場合、その反射率低減効果が劣る可能性がある。
【0031】
こうして製造された本発明の鋳型は、多数の周期的な細孔が形成された結果、表面に、隣り合う凹部同士または凸部同士の少なくともいずれか一方の距離が可視光の波長、すなわち400nm以下の微細凹凸構造を有するものとなる。本発明の鋳型の微細凹凸構造が転写された表面(転写面)は、いわゆるMoth−Eye構造となり有効な反射防止機能を発現する。隣り合う凹部同士または凸部同士の少なくともいずれか一方の距離が400nmより大きいと可視光の散乱が起こるため、充分な反射防止機能は発現せず、反射防止膜などの反射防止物品の製造には適さない。
ここで、本発明において「隣り合う凹部同士の距離」とは、図2に示すように、微細凹凸構造の凹部(細孔)14の中心からこれに隣接する凹部14(14’) の中心までの距離w1のことである。また、「隣り合う凸部同士の距離」とは、図2に示すように、微細凹凸構造の凸部15の中心からこれに隣接する凸部15(15’ )の中心までの距離w2のことである。上述したように、これら距離w1およびw2を微細凹凸構造の「周期」という場合がある。
【0032】
なお、本発明の鋳型は、隣り合う凹部同士または凸部同士の少なくともいずれか一方の距離が可視光の波長以下の微細凹凸構造を表面に有していればよいが、例えば反射防止物品の製造に用いる場合などは、隣り合う凹部同士および凸部同士の距離が可視光の波長以下の微細凹凸構造を有することが好ましい。
また、上述した実施形態の製造方法によれば、隣り合う凹部同士および凸部同士の距離が概ね同一の微細凹凸構造が形成されるので、隣り合う凹部同士または凸部同士の距離の一方が可視光の波長以下を満たせば、実質的に隣り合う凹部同士および凸部同士の距離の両方が可視光の波長以下を満たした鋳型が得られる。
【0033】
本発明の鋳型が反射防止膜などの反射防止物品を製造するものである場合には、微細凹凸構造の周期が可視光の波長以下の周期であると共に、図2に示すように凹部(細孔)の深さHが50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。深さHが50nm以上であると、転写面の反射率が低下する。また、鋳型の細孔のアスペクト比(=深さ/周期)は0.5以上が好ましく、1以上がさらに好ましい。アスペクト比が0.5以上であると、反射率が低い転写面を形成でき、その入射角依存性も充分に小さくなる。
【0034】
また、本発明の鋳型は、結晶粒界による凹凸の高さが600nm以上であり、630nm以上であることが好ましく、800nm以上であることが特に好ましい。結晶粒界による凹凸の高さが600nm未満であると、鋳型の微細凹凸構造を転写した際に、転写表面に鋳型の原料であるアルミニウムの結晶粒界が色ムラとなって現れ外観が低下する。結晶粒界による凹凸の高さの上限は特にないが、高すぎると鋳型製造時における第1の酸化皮膜形成工程での陽極酸化に長時間を要したり、酸化皮膜除去工程でのポーラスアルミナ皮膜を一旦除去するのに長時間の溶解が必要となったりして、鋳型の製造に長時間かかることになる。そのため結晶粒界による凹凸の高さの上限としては1200nm程度が適しており、好ましくは1100nm以下であり、さらに好ましくは1000nm以下である。結晶粒界による凹凸の高さを上記範囲内とするためには、第1の酸化皮膜形成工程で形成する酸化皮膜の厚さを上述した範囲内とすることで達成できる。
【0035】
ここで、結晶粒界による凹凸の高さは以下の方法で求められる。
まず、鋳型の表面をZygo社製の走査型白色干渉計3次元プロファイラーシステム「New View6300」を用いて観察を行い、視野をつなぎ合わせて10mm角の観察結果を得る。上記10mm角から任意の10点の結晶粒界の段差の高さを測定し、それらの平均値を「結晶粒界による凹凸の高さ」とした。また、本発明において、結晶粒界による凹凸の「高さ」と「深さ」は同じ意味をなすものとする。
【0036】
なお、鋳型の最適な微細凹凸構造の形状や細孔の深さなどは、鋳型を使用して製造する反射防止膜などの成形体の用途によって、適宜設定すればよい。
また、以上の説明では、第2の酸化皮膜形成工程の後に孔径拡大処理工程を実施することで、開口部から深さ方向に径が縮小する細孔を形成する場合について例示したが、第2の酸化皮膜形成工程の後に必ずしも孔径拡大処理工程を行わなくてもよい。その場合は、形成される細孔は円柱状となるが、このような鋳型により製造された微細凹凸構造を備える成形体であっても、この構造からなる層が低屈折率層として作用し、反射を低減する効果は期待できる。
【0037】
本発明の鋳型は、離型が容易になるよう、微細凹凸構造が形成された表面に離型処理が施されていてもよい。離型処理方法としては特に限定されないが、例えば、シリコーン系ポリマーやフッ素ポリマーをコーティングする方法、フッ素化合物を蒸着する方法、フッ素系またはフッ素シリコーン系のシランカップリング剤をコーティングする方法などが挙げられる。
また、本発明の鋳型の形状としては、平型でもロール型でもよい。アルミニウム原型として円柱状、円筒状の形状のものを用いれば、より生産性が高いロール型にすることも容易である。特に、ロール型の場合は、表面に継ぎ目や目視で確認できる凹凸がないため、歩留まり高く転写品を得ることができ、経済的に優れる。
【0038】
[成形体]
以上説明した、表面に陽極酸化アルミナが形成された鋳型を用いることによって、この鋳型の微細凹凸構造が転写された転写面を有する成形体を製造できる。
例えば、この鋳型と透明基材との間に活性エネルギー線硬化性組成物(以下、硬化性組成物という場合もある。)を充填し、この硬化性組成物が鋳型に接触した状態で、この硬化性組成物に活性エネルギー線を照射して、これを硬化する。その後、鋳型を剥離する。その結果、透明基材の表面に、硬化性組成物の硬化物からなる微細凹凸構造が形成された成形体が得られる。
【0039】
より具体的には、鋳型と透明基材とを対向させ、これらの間に硬化性組成物を充填、配置する。この際、鋳型の微細凹凸構造が形成された側の面(鋳型表面)が、透明基材と対向するようにする。ついで、充填された硬化性組成物に、透明基材を介して活性エネルギー線(可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、赤外線等の熱線)を、例えば高圧水銀ランプやメタルハライドランプにより照射して、硬化性組成物を硬化する。なお、その際には、硬化性組成物が鋳型に接触した状態で、この硬化性組成物に活性エネルギー線を照射する。その後、鋳型を剥離する。その結果、透明基材の表面に、硬化性組成物の硬化物からなる微細凹凸構造が形成された成形体が得られる。この際、必要に応じて、剥離後に再度活性エネルギー線を照射したり、熱処理したりしてもよい。また、照射量は、硬化が進行するエネルギー量であればよいが、通常、100〜10000mJ/cmである。
【0040】
硬化性組成物の充填方法としては、鋳型と透明基材の間に活性エネルギー線硬化性組成物を供給してニップロールなどで圧延して充填する方法、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布した鋳型上に透明基材をラミネートする方法、あらかじめ透明基材上に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して鋳型にラミネートする方法などがある。
【0041】
また、鋳型の微細凹凸構造が転写された転写面を有する成形体は、以下に示す方法でも製造できる。
すなわち、鋳型と透明基材との間に硬化性組成物を充填し、該硬化性組成物に前記鋳型表面の微細凹凸構造を転写した後、前記鋳型を剥離する。その後、硬化性組成物に活性エネルギー線を照射して、これを硬化する。その結果、透明基材の表面に、硬化性組成物の硬化物からなる微細凹凸構造が形成された成形体が得られる。
【0042】
より具体的には、透明基材上に硬化性組成物をコーティングし、該硬化性組成物に鋳型を圧接して微細凹凸構造を転写する。次いで、鋳型を剥離し、硬化性組成物に、透明基材を介して活性エネルギー線を照射して、硬化性組成物を硬化する。その結果、透明基材の表面に、硬化性組成物の硬化物からなる微細凹凸構造が形成された成形体が得られる。この際、必要に応じて、活性エネルギー線を照射した後に、熱処理を施してもよい。
活性エネルギー線の照射については、先と同様の条件(種類、照射手段など)下で行えばよい。
【0043】
鋳型を圧接する条件としては、特に限定されないが、圧接時の温度は50〜250℃が好ましく、50〜200℃がさらに好ましく、50〜150℃が特に好ましい。温度が50℃未満では微細凹凸形状が転写されにくくなる場合がある。一方、温度が250℃を超えると、着色したり、熱分解したりすることがある。
また、圧接時の圧力は0.1〜15MPaが好ましく、0.5〜10MPaがさらに好ましく、1〜5MPaが特に好ましい。圧力が0.1MPa未満では微細凹凸形状が転写されにくくなる場合がある。一方、圧力が15MPaを超えると、鋳型の耐久性に問題が起きる場合がある。
【0044】
ここで、図5を用い、微細凹凸構造を有する成形体の製造方法の一例について具体的に説明する。なお、図5は、成形体の製造装置30の一例を示す構成概略図であり、鋳型としてロール鋳型を用いている。
図3において、31は本発明の鋳型(ロール鋳型)であり、タンク38からロール鋳型31と透明基材32の間に硬化組成物33が供給される。なお、空気圧シリンダー39にてニップ圧が調整されたニップロール36によりニップされ、ロール鋳型31の凹部内にも硬化組成物33が充填される。ロール鋳型31の下方には、活性エネルギー線照射装置35が設置されており、透明基材32を介して活性エネルギー線が硬化組成物33に照射され、硬化組成物33が架橋硬化して、透明基材32に接着すると共に、ロール鋳型31の凹凸が硬化組成物33に転写される。この後、剥離ロール37により微細凹凸構造を有する成形体34がロール鋳型31から剥離され、矢印方向に移送される。このようにして、微細凹凸構造を有する成形体34が形成される。
【0045】
ここで使用される透明基材としては、活性エネルギー線の照射を、該透明基材を介して行うため、活性エネルギー線の照射を著しく阻害しないものであればよい。例えば、メチルメタクリレート(共)重合体、ポリカーボネート、スチレン(共)重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、ガラスなどが挙げられる。
また、透明基材の形状としては、製造する成形体に応じて適宜選択できるが、例えば成形体が反射防止膜などである場合には、シート状またはフィルム状が好ましい。さらに、硬化性組成物との密着性、帯電防止性、耐擦傷性、耐候性等の改良のために、透明基材の表面には例えば各種コーティングやコロナ放電処理が施されていてもよい。
【0046】
本発明に使用する活性エネルギー線硬化性組成物は、分子中にラジカル重合性結合および/またはカチオン重合性結合を有するモノマー、オリゴマー、反応性ポリマーを適宜含有するものであり、非反応性のポリマーを含有するものでもよい。また、活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物を使用したものであってもよい。
【0047】
ラジカル重合性結合を有するモノマーとしては、特に限定されることなく使用することができるが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート誘導体、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン誘導体、(メタ)アクリルアミド、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド誘導体等の単官能モノマー、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,2−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、1,4−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ブタン、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド等の二官能性モノマー、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキシド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド変性トリアクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、等の三官能モノマー、コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸の縮合反応混合物、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート等の多官能のモノマー、二官能以上のウレタンアクリレート、二官能以上のポリエステルアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
カチオン重合性結合を有するモノマーとしては特に限定はないが、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基、ビニルオキシ基などを有するモノマーが挙げられ、これらの中でも特にエポキシ基を有するモノマーが好ましい。
オリゴマーおよび反応性ポリマーの例としては、不飽和ジカルボン酸と多価アルコールの縮合物などの不飽和ポリエステル類、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、カチオン重合型エポキシ化合物、側鎖にラジカル重合性結合を有する上述のモノマーの単独または共重合ポリマー等が挙げられる。
非反応性のポリマーとしては、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0049】
活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物としては特に限定はないが、例えばアルコキシシラン化合物、アルキルシリケート化合物などが挙げられる。
アルコキシシラン化合物としてRSi(OR’)で表せるもの使用でき、RおよびR’は炭素数1〜10のアルキル基を表し、xおよびyはx+y=4の関係を満たす整数である。
具体的には、テトラメトキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、トリメチルブトキシシランなどが挙げられる。
【0050】
アルキルシリケート化合物としては、RO[Si(OR)(OR)O]で表せるものが使用でき、R〜Rはそれぞれ炭素数1〜5のアルキル基を示し、zは3〜20の整数を示す。
具体的にはメチルシリケート、エチルシリケート、イソプロピルシリケート、n−プロピルシリケート、n−ブチルシリケート、n−ペンチルシリケート、アセチルシリケートなどが挙げられる。
【0051】
活性エネルギー線硬化性組成物は、通常、硬化のための重合性開始剤を含有する。重合性開始剤としては特に限定されず公知のものが使用できる。
光反応を利用する場合、光開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド;などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
電子線硬化反応を利用する場合、重合開始剤は例えば、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン;ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド;メチルベンゾイルホルメート、1,7−ビスアクリジニルヘプタン、9−フェニルアクリジン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
熱反応を利用する場合、熱重合開始剤の具体例としては、例えばメチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物;前記有機過酸化物にN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン等のアミンを組み合わせたレドックス重合開始剤等が挙げられる。
【0054】
重合開始剤の添加量は、活性エネルギー線硬化性組成物100質量部に対して0.1〜10質量部である。0.1質量部より少ないと、重合が進行しにくく、10質量部より多いと得られる硬化物が着色したり、機械強度が低下したりすることがある。
【0055】
また、活性エネルギー線硬化性組成物には、上述したもの以外に、帯電防止剤、離型剤や防汚性を向上させるためのフッ素化合物などの添加剤、微粒子や少量の溶剤が添加されてもよい。
【0056】
このようにして製造された成形体は、圧延痕がないアルミニウム原型から形成され、表面に微細凹凸構造を有する鋳型の該微細凹凸構造が、鍵穴と鍵の関係で転写された転写面を備えている。そして、この転写面には鋳型の結晶粒界に起因する色ムラがない。よって、このような成形体は、光学用途成形体、特にシート状またはフィルム状の反射防止膜や立体形状の反射防止体などの反射防止物品として好適である。
【0057】
成形体がシート状またはフィルム状の反射防止膜である場合には、例えば、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、陰極管表示装置のような画像表示装置、レンズ、ショーウィンドー、展示ケース、メーターパネル、メーターカバー、眼鏡等の対象物の表面に貼り付けたり、インサート成形したりして使用される。
成形体が立体形状の反射防止体である場合には、あらかじめ用途に応じた形状の透明基材を用いて反射防止体を製造しておき、これを上記対象物の表面を構成する部材として使用することもできる。
【0058】
なお、対象物が画像表示装置である場合には、その表面に限らず、その前面板に対して反射防止膜を貼り付けてもよいし、前面板そのものを本発明の成形体から構成することもできる。
また、本発明より得られる成形体を反射防止膜として用いる場合、ヘイズは3%以下が好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。ヘイズが3%を超えると、例えば画像表示装置に用いた場合、画像の鮮明度が低下するため好ましくない。
【0059】
さらに、成形体の用途としては、上述した以外にも、光導波路、レリーフホログラム、レンズ、偏光分離素子、エレクタロルミネッセンスなどの光取り出し効率向上部材等の光学物品;細胞培養シート;超撥水性フィルム;超親水性フィルムなどが挙げられる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
また、各種測定は以下の方法にて行った。
【0061】
(1)酸化皮膜の厚さ、鋳型の細孔
表面に陽極酸化アルミナが形成された鋳型の一部を削り取り、その断面を1分間Pt蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子社製、「JSM−7400F」)により、加速電圧3.00kVで観察した。そして、酸化皮膜の厚さ、細孔周期(すなわち、隣接する凹部(細孔)同士の距離)、細孔径(開口部)、細孔径(底部)、細孔の深さを測定した。
【0062】
(2)成形体の微細凹凸
製造された成形体(転写フィルム)の一部を削り取り、その断面を5分間Pt蒸着し、上記(1)の場合と同様の装置および条件にて、細孔周期、細孔径(開口部)、細孔径(底部)、細孔の深さを測定した。
【0063】
(3)結晶粒界による凹凸の高さ
鋳型の表面を走査型白色干渉計3次元プロファイラーシステム(Zygo社製、「New View6300」)を用いて、2.5倍の対物レンズ、0.5倍のズームレンズで観察を行い、視野をつなぎ合わせて10mm角の観察結果を得た。上記10mm角から任意の10点の結晶粒界段差の高さを測定し、それらの平均値を結晶粒界高さとした。
【0064】
(4)反射率測定
製造された成形体(転写フィルム)の裏面(微細凹凸構造が形成されていない面)を艶消し黒色スプレーで塗り、これをサンプルとし、分光光度計(日立製作所社製、「U−4000」)を用いて、入射角5°、波長380〜780nmの範囲でサンプルの表面(微細凹凸構造が形成された面)の相対反射率を測定した。
【0065】
(5)フィルムの外観
製造された成形体(転写フィルム)を目視で観察し、色ムラが確認できる場合を×、ほとんど確認できない場合を○、全く確認できない場合を◎とした。
【0066】
[実施例1]
純度99.99%のアルミニウムビレットから機械加工で厚さ2mm、直径75mmのアルミニウム円板を作製し、これに羽布研磨処理を施した後、電解研磨を行った(研磨工程)。
次いで、表面が鏡面化されたアルミニウム円板(アルミニウム原型)を、0.3Mシュウ酸水溶液中で、浴温16℃において直流40Vの条件下で5時間陽極酸化を行い、厚さが32μmである第1の酸化皮膜を形成した(第1の酸化皮膜形成工程)。
形成した第1の酸化物層を、6質量%のリン酸と1.8質量%のクロム酸混合水溶液中で一旦溶解除去した後(酸化皮膜除去工程)、再び第1の酸化皮膜形成工程と同一条件下において、30秒間陽極酸化を行い、第2の酸化皮膜を形成した(第2の酸化皮膜形成工程)。
その後、5質量%リン酸水溶液(30℃)中に8分間浸漬して、酸化皮膜の細孔を拡径する孔径拡大処理を施した(孔径拡大処理工程)。
さらに、第2の酸化皮膜形成工程と、前記孔径拡大処理工程を繰り返し、これらを合計で5回追加実施することで、図6に示すように、細孔周期(すなわち、隣接する凹部(細孔)14同士の距離)w1:100nm、細孔径(開口部;すなわち隣接する凸部15同士の距離)w2:100nm、細孔径(底部)d1:40nm、細孔の深さH:220nmのテーパー状細孔を有する鋳型を得た。
【0067】
このようにして得られた鋳型は、ダイキン化成品販売社製の「オプツールDSX」をダイキン化成品販売社製の「デュラサーフHD−ZV」で0.1質量%に希釈した液に、10分間浸漬した後、1晩風乾して離型処理を行った。
そして、離型処理した鋳型と、透明基材であるPETフィルム(東洋紡社製、「A4300」)との間に、下記の組成の活性エネルギー線硬化性組成物を充填して、高圧水銀ランプで積算光量3000mJ/cmの紫外線を照射して、硬化組成物を硬化させた。
その後、鋳型を剥離し、透明基材と硬化組成物の硬化物からなる転写フィルムを得た。
【0068】
得られた転写フィルムの硬化物の表面には、周期:100nm、凸部の高さ:200nm、凸部の先端径:40nmの凸部が形成され、鋳型表面の微細凹凸構造が良好に転写された微細凹凸構造が形成されていた。なお、転写フィルムの凸部は鋳型の細孔(凹部)と鍵と鍵穴の関係にあるので、転写フィルムの凸部の先端径は鋳型の細孔径(底部)が反映される。
得られた鋳型の第1の酸化皮膜の厚さ、結晶粒界による凹凸の高さ、転写フィルムの反射率および外観の評価結果を表1に示す。
【0069】
(活性エネルギー線硬化性組成物)
トリメチロールエタンアクリル酸・無水コハク酸縮合エステル:40質量部
ヘキサンジオールジアクリレート:40質量部
信越化学社製「x−22−1602」:10質量部
チバ・スペシャリティケミカルズ社製「イルガキュア184」:2.7質量部
チバ・スペシャリティケミカルズ社製「イルガキュア819」:0.18質量部
【0070】
[実施例2]
第1の酸化皮膜形成工程における陽極酸化を、0.5Mのシュウ酸水溶液を用い、6時間実施した以外は、実施例1と同様の方法で鋳型を製造し、微細凹凸構造を有する転写フィルムを作製した。
得られた鋳型は、図6に示すような、細孔周期w1:100nm、細孔径(開口部)w2:100nm、細孔径(底部)d1:40nm、細孔の深さH:220nmのテーパー状細孔を有していた。一方、転写フィルムは表面に、周期:100nm、凸部の高さ:200nm、凸部の先端径:40nmの凸部が形成されていた。
得られた鋳型の第1の酸化皮膜の厚さ、結晶粒界による凹凸の高さ、転写フィルムの反射率および外観の評価結果を表1に示す。
【0071】
[比較例1]
第1の酸化皮膜形成工程における陽極酸化を、4時間実施した以外は、実施例1と同様の方法で鋳型を製造し、微細凹凸構造を有する転写フィルムを作製した。
得られた鋳型は、図6に示すような、細孔周期w1:100nm、細孔径(開口部)w2:100nm、細孔径(底部)d1:40nm、細孔の深さH:220nmのテーパー状細孔を有していた。一方、転写フィルムは表面に、周期:100nm、凸部の高さ:200nm、凸部の先端径:40nmの凸部が形成されていた。
得られた鋳型の第1の酸化皮膜の厚さ、結晶粒界による凹凸の高さ、転写フィルムの反射率および外観の評価結果を表1に示す。
【0072】
[比較例2]
第1の酸化皮膜形成工程における陽極酸化を、2時間実施した以外は、実施例1と同様の方法で鋳型を製造し、微細凹凸構造を有する転写フィルムを作製した。
得られた鋳型は、図6に示すような、細孔周期w1:100nm、細孔径(開口部)w2:100nm、細孔径(底部)d1:40nm、細孔の深さH:220nmのテーパー状細孔を有していた。一方、転写フィルムは表面に、周期:100nm、凸部の高さ:200nm、凸部の先端径:40nmの凸部が形成されていた。
得られた鋳型の第1の酸化皮膜の厚さ、結晶粒界による凹凸の高さ、転写フィルムの反射率および外観の評価結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1からも明らかなように、第1の酸化皮膜が30μm以上である実施例の鋳型から得られた転写フィルムは、色ムラがなく外観が良好であった。
一方、第1の酸化皮膜が30μm未満である比較例の鋳型から得られた転写フィルムは、色ムラが確認でき、外観が実施例に比べて劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の鋳型の製造方法を説明する説明図である。
【図2】本発明の鋳型の表面に形成された細孔形状の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の鋳型の表面に形成された細孔形状の他の例を示す断面図である。
【図4】本発明の鋳型の表面に形成された細孔形状の他の例を示す断面図である。
【図5】ロール鋳型を用いて、微細凹凸構造を有する成形体を連続的に製造する成形体の製造装置の一例を示す構成概略図である。
【図6】実施例で得られた鋳型の表面に形成された細孔形状を示す断面図である。
【符号の説明】
【0076】
10 アルミニウム原型
11、14 細孔
12、15 酸化皮膜
13 細孔発生点
20 (表面に陽極酸化アルミナが形成された)鋳型
30 成形体の製造装置
31 鋳型(ロール鋳型)
32 透明基材
33 活性エネルギー線硬化組成物
34 成形体
35 活性エネルギー線照射装置
36 ニップロール
37 剥離ロール
38 タンク
39 空気圧シリンダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延痕のないアルミニウム原型の鏡面表面に、隣り合う凹部同士または凸部同士の少なくともいずれか一方の距離が可視光の波長以下の微細凹凸構造を有するアルミナが、陽極酸化により形成され、かつ、結晶粒界による凹凸の高さが600nm以上であることを特徴とする鋳型。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳型の製造方法であって、
圧延痕のないアルミニウムを研磨してアルミニウム原型を作製する研磨工程と、該アルミニウム原型表面のアルミニウムを定電圧で陽極酸化して細孔を有する厚さ30μm以上の酸化皮膜を形成する第1の酸化皮膜形成工程と、前記酸化皮膜の全てを除去する酸化皮膜除去工程と、前記酸化皮膜除去工程後のアルミニウム原型表面のアルミニウムを定電圧で陽極酸化して酸化皮膜を形成する第2の酸化皮膜形成工程と、前記第2の酸化皮膜形成工程により形成された酸化皮膜の一部を除去して前記細孔の孔径を拡大処理する孔径拡大処理工程とを含み、前記第2の酸化皮膜形成工程と、前記孔径拡大処理工程を繰り返すことを特徴とする鋳型の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の鋳型と透明基材との間に活性エネルギー線硬化性組成物を充填し、活性エネルギー線を照射して、前記活性エネルギー線硬化性組成物を硬化した後、前記鋳型を剥離し、前記透明基材の表面に微細凹凸構造が形成された成形体を製造することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の鋳型と透明基材との間に活性エネルギー線硬化性組成物を充填し、前記活性エネルギー線硬化性組成物に前記鋳型表面の微細凹凸構造を転写し、前記鋳型を剥離した後、前記活性エネルギー線硬化性組成物に活性エネルギー線を照射して、前記活性エネルギー線硬化性組成物を硬化し、前記透明基材の表面に微細凹凸構造が形成された成形体を製造することを特徴とする成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−174007(P2009−174007A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14135(P2008−14135)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】