説明

鋳抜きピン

【課題】鋳造用金型より鋳造製品を離型する際の、該鋳造製品に加わる離型力の影響を受けにくく、破損や折損の発生を極力防止した鋳抜きピンを提供する。
【解決手段】鋳造用金型50に形成され該鋳造用金型50の外部とキャビティ52内部とを連通する取付孔に挿設される鋳抜きピンであって、前記取付孔(本体孔部)は、キャビティ52側へ向かって縮径するテーパー形状に形成され、前記鋳抜きピン1は、前記取付孔(本体孔部)のテーパー形状に応じた勾配のテーパー形状に形成される外周面を有し、前記取付孔(本体孔部)と嵌合する挿着部2aと、前記挿着部から前記キャビティ側へ向かって延出し、前記キャビティ内へ突出する先端部2bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用金型に備えられる鋳抜きピンの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ボルト孔などを有する鋳造製品の鋳造においては、該ボルト孔の下孔を予め形成しておくために、鋳抜きピンが用いられる。前記鋳抜きピンは、棒状の本体部と、該本体部の一方の端部において該本体部に比べて拡径して形成される係止部とを有して構成され、前記本体部の他方の端部は、前記下孔の内径寸法と同程度の外径寸法に形成されている。
前記鋳抜きピンは、本体部の他方の端部(以下、「先端部」と記す)が鋳造用金型のキャビティ内に突出した状態となるように、前記金型に挿入されて装着される。そして、鋳抜きピンが装着された鋳造用金型のキャビティ内に溶融金属が充填され、その後、該溶融金属が凝固することで、予め下孔が形成された鋳造製品が鋳造されるのである。
【0003】
ところで、このような鋳抜きピンを備える鋳造用金型において、突発的に起こり得る故障原因の一つとして、鋳抜きピンの破損や折損が挙げられる。そして、このような鋳抜きピンの破損や折損などの発生要因としては、主に以下に示す二つの要因が考えられる。
先ず、第一の要因としては、キャビティ内の溶融金属の凝固収縮が考えられる。
即ち、鋳造用金型に挿設された鋳抜きピンは、その先端部を除く大部分を鋳造用金型によって堅固に固定保持される一方、前記先端部は、その周囲を溶融金属によって包まれることとなる。そして、前記溶融金属が徐々に冷却されて凝固収縮すると、鋳抜きピンの先端部は、前記溶融金属の収縮方向に応じた方向に押圧されることとなる。
その結果、鋳抜きピンの先端部近傍には曲げ応力が発生し、該鋳抜きピンの破損や折損などが引き起こされるのである。
【0004】
次に、第二の要因としては、鋳造製品の離型の際に、該鋳造製品に加えられる離型力(鋳造用金型のキャビティ面より鋳造製品を引き離す力。以下同じ。)が考えられる。
即ち、鋳抜きピンの先端部は、周囲の溶融金属の凝固収縮によって、鋳造製品と堅固に嵌合された状態となっている。また、前記鋳抜きピンは、前記係止部が鋳造用金型と係止するで、鋳造用金型による軸心方向への支持が行われている。
このように、鋳抜きピンが嵌合される鋳造製品は、鋳抜きピンの軸心方向に離型されるため、その離型力は鋳抜きピンの軸心方向、且つキャビティ側に向かう大きな引張力となって該鋳抜きピンに作用される。すると、鋳抜きピンの係止部には、鋳抜きピンの軸心方向、且つキャビティと対向する側に向かう大きな反力が作用される。
つまり、鋳抜きピンの係止部において、本体部側の端面には大きな引張応力が発生し、該鋳抜きピンの破損や折損などが引き起こされるのである。
【0005】
なお、鋳抜きピンの破損や折損などの発生要因が、前述した第一の要因、および第二の要因の何れによるものかについては、主に、鋳抜きピンの形状や、キャビティ内における鋳抜きピンの配置場所などによって決定付けられる。
【0006】
そこで、このような鋳抜きピンの破損や折損などを防止し、鋳造用金型に起こり得る突発的な故障原因を低減するために、従来から様々な構成からなる鋳抜きピンが提案されている(例えば、「特許文献1」乃至「特許文献3」を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第2501410号公報
【特許文献2】特開平10−58111号公報
【特許文献3】特開2000−190337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記「特許文献1」乃至「特許文献3」によって示される鋳抜きピンは、何れも先端部近傍の形状に工夫をこらすことにより、鋳造用金型に嵌合される本体部に対して、前記先端部を任意の方向に撓ますことが可能な構成となっている。
よって、このような鋳抜きピンであれば、破損や折損などを防止し、鋳造用金型に起こり得る突発的な故障原因を低減することも可能であるとも思われる。
しかし、前記「特許文献1」乃至「特許文献3」によって示される技術は、何れも前述した第一の要因を解決するための技術であり、前述した第二の要因を解決するための技術については、確立されていなかった。
【0009】
そこで、本発明者らは、前述した第二の要因を解決するために鋭意検討を繰り返し、本発明を完成させるに至ったのである。
即ち、本発明は、鋳造用金型より鋳造製品を離型する際の、該鋳造製品に加わる離型力の影響を受けにくく、破損や折損の発生を極力防止した鋳抜きピンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、鋳造用金型に形成され該鋳造用金型の外部とキャビティ内部とを連通する取付孔に挿設される鋳抜きピンであって、前記取付孔は、キャビティ側へ向かって縮径するテーパー形状に形成され、前記鋳抜きピンは、前記取付孔のテーパー形状に応じた勾配のテーパー形状に形成される外周面を有し、前記取付孔と嵌合する挿着部と、前記挿着部から前記キャビティ側へ向かって延出し、前記キャビティ内へ突出する先端部とを備えるものである。
【0012】
請求項2においては、請求項1に記載の鋳抜きピンであって、前記取付孔は、前記鋳造用金型に貫設される筒状部材の内周部によって構成されるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
即ち、本発明における鋳抜きピンによれば、鋳造用金型より鋳造製品を離型する際の、該鋳造製品に加わる離型力の影響を受けにくく、破損や折損の発生を極力防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例に係る鋳抜きピンの全体的な構成を示した斜視図。
【図2】鋳抜きピンの使用状態を示した図であり、(a)は本実施例の鋳抜きピンについて示した概略図、(b)は従来の鋳抜きピンについて示した概略図。
【図3】別実施例における鋳抜きピンの使用状態を示した概略図。
【図4】鋳造製品の離型の際において、鋳抜きピンに生じる応力の分布を示した図であり、(a)は本実施例の鋳抜きピンについて示した斜視図、(b)は従来の鋳抜きピンについて示した斜視図。
【図5】従来の鋳抜きピンの全体的な構成を示した斜視図。
【図6】従来の鋳抜きピンが挿入された状態を示した鋳造用金型の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0016】
[鋳抜きピン1]
先ず、本発明を具現化する鋳抜きピン1の構成について、図1、図2、図5および図6を用いて説明する。
なお、便宜上、図1、図2、図5および図6の上下方向は、鋳抜きピン1、或いは鋳抜きピン100の上下方向を示すものとして規定し、以下の説明を行う。
【0017】
鋳抜きピン1は、ボルト孔などを有する鋳造製品51(図2(a)を参照)に対して、該ボルト孔の下孔51aを予め形成しておくために、鋳造用金型50に挿設されるものである。
なお、以下の説明において、鋳抜きピン1は鋳造用金型50に直接挿設されることとしているが、これに限定されるものではない。即ち、鋳抜きピン1は、例えば、鋳造用金型50に備えられる入子などに挿入されることによって、鋳造用金型50に挿設されることとしてもよい。
【0018】
図1に示すように、鋳抜きピン1は、主に丸棒状の本体部2、および該本体部2の一方の端部に配設される大径部3などを有して構成される。
前記本体部2は、一方の端部側から他方の端部に向かって徐々に縮径するように形成される挿着部2aと、該挿着部2aの縮径側端部より、該挿着部2aと同軸上に延出する先端部2bとを有して構成される。つまり、挿着部2aの外周面は、先端部2bに向かって徐々に縮径するテーパー面に形成される。
【0019】
ここで、挿着部2aは、後述する取付孔50A(図2(a)を参照)の本体孔部50aの深さ寸法と同程度の長さ寸法を有して形成される。また、先端部2bは、下孔51aの内形形状と同様の外形形状を有しており、該下孔51aの抜き勾配に応じたテーパー形状に形成されている。
即ち、先端部2bは先端側に向かって縮径するテーパー形状に形成されている。
【0020】
大径部3は短柱形状からなり、本体部2と同軸上に配設されつつ、該本体部2と一体的に形成される。また、大径部3は、挿着部2aの拡径側端部の外径寸法に比べて、大きな外径寸法を有して形成される。
【0021】
一方、図2(a)に示すように、鋳造用金型50には、該鋳造用金型50の外部(図2(a)における下側。以下同じ。)と、キャビティ52の内部(図2(a)における上側。以下同じ。)とを連通する取付孔50Aが形成されている。
【0022】
前記取付孔50Aは、その内周面が鋳造用金型50の外部側からキャビティ52側に向かって徐々に縮径するテーパー面に形成される本体孔部50aを有して構成される。
取付孔50Aにおけるテーパー面の勾配と、本体部2における挿着部2aのテーパー面の勾配とは同程度に構成されている。つまり、挿着部2aは、取付孔50Aのテーパー形状に応じた勾配のテーパー形状に形成される外周面を有している。
これにより、鋳抜きピン1を取付孔50Aに挿入して、取付孔50Aと挿着部2aとが嵌合した際には、挿着部2aの外周面と取付孔50Aの内周面とが広範囲にわたって当接することとなる。
また、本体孔部50aにおける、キャビティ52側端部と反対側の端部には、本体孔部50aと同軸上に配設される大径穴部50bが形成される。
【0023】
前記大径穴部50bは、鋳抜きピン1の大径部3の外径寸法に比べて、やや大きな内径寸法を有して形成されるとともに、前記大径部3の長さ寸法に比べて、やや深い深さ寸法を有して形成される。そして、後述するように、取付孔50Aを介して、鋳抜きピン1を鋳造用金型50に挿設した状態において、大径部3は、大径穴部50bに完全に埋没されるようになっている。
なお、大径穴部50bは、本発明の構成要素として特に必要なものではなく、本体孔部50aのみをもって取付孔50Aを構成してもよい。
【0024】
このような構成からなる取付孔50Aを介して、鋳抜きピン1は鋳造用金型50に挿設される。
即ち、鋳抜きピン1は、先端部2bをキャビティ52側に向けつつ、鋳造用金型50の外部より、取付孔50A内に挿入される。その後、挿着部2aの外周面が本体孔部50aの内周面に密接されることで、鋳抜きピン1は取付孔50Aに嵌合され、鋳造用金型50に挿設される。
換言すれば、鋳抜きピン1は、取付孔50A(より具体的には、本体孔部50a)の内周面に沿った形状に形成される挿着部2aを有し、該挿着部2aが本体孔部50aと嵌合されることで、鋳造用金型50に対して堅固に挿設されるのである。
【0025】
そして、取付孔50Aを介して、鋳抜きピン1を鋳造用金型50に挿設した状態において、先端部2bはキャビティ52面より突出されるとともに、大径部3の本体部2側の端面3aと、大径穴部50bの底面50cとの間には、隙間が生じるようになっている。
【0026】
このような構成を有することで、鋳抜きピン1は、従来の鋳抜きピン101(図5を参照)に比べて、鋳造用金型50より鋳造製品51を離型する際の、該鋳造製品51に加わる離型力の影響を受けにくく、破損や折損の発生を極力防止することができるようになっている。
【0027】
即ち、図5に示すように、従来の鋳抜きピン101は、主に丸棒状の本体部102、および該本体部102の一方の端部に配設される係止部103などを有して構成される。
ここで、係止部103は鋳抜きピン1の大径部3と同様に形成される一方、本体部102は鋳抜きピン1の本体部2と異なる形状を有する。
【0028】
より具体的には、本体部102は、断面積を変化させることなく同一径で軸心方向に向かって延出する挿着部102aと、該挿着部102aの延出端部よりさらに同軸上に延出する先端部102bとを有して構成される。
なお、先端部102bは鋳抜きピン1の先端部2bと同様に形成される。
即ち、先端部102bは先端側に向かって縮径するテーパー形状に形成されている。
【0029】
ここで、挿着部102aは、後述する取付孔150A(図2(b)を参照)の本体孔部150aの深さ寸法と略同程度の長さ寸法を有して形成される。また、先端部102bは、後述する下孔151aの内形形状と同様の外形形状を有しており、該下孔151aの抜き勾配に応じたテーパー形状に形成されている。
【0030】
一方、図6に示すように、鋳造用金型150には、該鋳造用金型150の外部(図6における下側。以下同じ。)と、キャビティ152の内部(図6における上側。以下同じ。)とを連通する取付孔150Aが形成されている。
【0031】
前記取付孔150Aは、本体部102の挿着部102aの外径寸法に比べてやや大きな内径寸法を有しつつ、キャビティ152側に向かって延出して形成される本体孔部150aと、該本体孔部150aの、キャビティ152と対向する側の端部において、該本体孔部150aと同軸上に形成される係止穴部150bとを有して構成される。
【0032】
前記係止穴部150bは、前述した鋳造用金型50に形成される取付孔50Aの大径穴部50bと同様に形成される。
【0033】
このような構成からなる取付孔150Aを介して、鋳抜きピン101は鋳造用金型150に挿設される。
即ち、鋳抜きピン101は、先端部102bをキャビティ152側に向けつつ、鋳造用金型150の外部より取付孔150A内に挿入される。すると、鋳抜きピン101の先端部102bは、本体孔部150aを貫通し、キャビティ152内に突出する。
【0034】
そして、取付孔150Aを介して、鋳抜きピン101を鋳造用金型150に挿設した状態において、前述のごとく先端部102bがキャビティ152面より突出されるとともに、係止部103の本体部102側の端面103aと、係止穴部150bの底面150dとが互いに当接されるようになっている。
また、挿着部102aの外周面と本体孔部150aの内周面との間、および係止部103の外周面と係止穴部150bの内周面との間には、それぞれ隙間が生じるようになっている。
【0035】
このような構成からなる従来の鋳抜きピン101においては、鋳造用金型150より鋳造製品151(図2(b)を参照)を離型する際の、該鋳造製品151に加わる離型力の影響を受けやすく、破損や折損の発生を防止することが困難であった。
【0036】
即ち、図2(b)に示すように、鋳抜きピン101の先端部102bは、鋳造製品151の下孔151aと堅固に嵌合された状態にあるところ、鋳抜きピン101の軸心方向に沿って、鋳造製品151を離型すると、離型力は鋳抜きピン101の軸心方向、且つキャビティ152側に向かって発生する大きな引張力P2となって、鋳抜きピン101に作用される。
【0037】
ここで、前述したように、挿着部102aの外周面と本体孔部150aの内周面との間、および係止部103の外周面と係止穴部150bの内周面との間には、それぞれ隙間が設けられており、係止部103は係止穴部150bの底面150dと係止しているため、引張力P2の反力は、全て係止部103に作用することとなる。つまり、鋳抜きピン101にかかる、軸心方向におけるキャビティ152側への引張力を、全て係止部103で受けることになる。
このように、係止部103の端面103aには、引張力P2の反力として、鋳抜きピン101の軸心方向、且つ鋳造用金型150の外部側に向かって発生する大きな外力が加わることとなる。
【0038】
その結果、鋳抜きピン101において、本体部102と係止部103との境界部(より詳しくは、係止部103の端面103a)には大きな引張応力Pbが発生し、該鋳抜きピン101の破損や折損などが引き起こされるのである。
【0039】
このような従来の鋳抜きピン101に対して、本実施例における鋳抜きピン1は、前述したように、挿着部102a外周面が本体孔部50aの内周面に当接されるとともに、大径部3の本体部2側の端面3aと、大径穴部50bの底面50cとには、隙間が生じるようになっている。
【0040】
また、鋳抜きピン1の挿着部2aは、先端部2bに向かって徐々に縮径するテーパー形状を有するとともに、鋳造用金型50の本体孔部50aも同様のテーパー形状を有しており、鋳造製品51は、鋳抜きピン1の軸心方向、且つキャビティ52側(即ち、鋳抜きピン1の先端部2b側)に向かって離型される。
換言すれば、鋳抜きピン1の本体部2および鋳造用金型50の本体孔部50aは、鋳造製品51の離型方向に向かって徐々に縮径するテーパー形状を有して形成される。
【0041】
よって、図2(a)に示すように、鋳造用金型50より鋳造製品51を離型する際の離型力は、鋳抜きピン1の軸心方向、且つキャビティ52側に向かって発生する大きな引張力P1となって鋳抜きピン1に作用されるところ、引張力P1は、鋳造用金型50の本体孔部50aの内周面に全体的に当接し、挿着部2aの外周面全体にわたって作用することとなる。
つまり、引張力P1の反力としての、鋳抜きピン1の軸心方向、且つ鋳造用金型50の外部側に向かって発生する外力は、挿着部2aの外周面全体にわたって加わることとなる。
【0042】
従って、前記外力は本体部2の外周面全体に渡って分散されることとなり、前記外力によって発生する、鋳抜きピン1に生じる引張応力Paの値は、従来の鋳抜きピン101に発生する引張応力Pbの値に比べて小さくなる。
従って、鋳抜きピン1は、鋳造用金型50より鋳造製品51を離型する際の、該鋳造製品51に加わる離型力の影響を受けにくく、破損や折損の発生を極力防止することができるのである。
【0043】
[鋳抜きピン201(別実施例)]
次に、本発明を具現化する鋳抜きピン201(別実施例)の構成について、図3を用いて説明する。
なお、便宜上、図3の上下方向は、鋳抜きピン200の上下方向を示すものとして規定し、以下の説明を行う。
【0044】
別実施例における鋳抜きピン201は、前述した鋳抜きピン1と同等な形状を有する一方、ブッシング210を介して鋳造用金型250に挿設される点において、前記鋳抜きピン1と相異する。
【0045】
即ち、鋳造用金型250には、該鋳造用金型250の外部(図3における下側。以下同じ。)と、キャビティ252側(図3における上側。以下同じ。)とを連通する取付孔250Aが形成されている。
【0046】
前記取付孔250Aは、断面積を変化させることなく同一径で軸心方向に向かって延出する本体孔部250aと、該本体孔部250aにおけるキャビティ252側とは反対側の端部において、該本体孔部250aと同軸上に形成される係止穴部250bとを有して構成される。
なお、係止穴部250bは、鋳抜きピン201の大径部203、および後述するブッシング210の縁部210bの外形寸法に比べてやや大きな内径寸法を有して形成される。
【0047】
一方、ブッシング210は中空部材から形成され、その外径寸法は本体孔部250aの内径寸法と同程度に形成されるとともに、その長さ寸法は鋳抜きピン201の挿着部202aの長さ寸法と同程度に形成される。
また、ブッシング210の内周面210aは、挿着部202aの外周面に沿った形状に形成される。即ち、内周面210aは、テーパー形状に形成される挿着部202aの外周面と同等の勾配を有したテーパー面に形成される。
そして、ブッシング210の外周面において、内周面210aの拡径側端部には、縁部210bが形成される。
【0048】
このような構成からなるブッシング210を、鋳造用金型250の取付孔250Aに挿嵌し、さらに該ブッシング210に鋳抜きピン201を挿嵌することで、該鋳抜きピン201は、鋳造用金型250に挿設される。
【0049】
即ち、ブッシング210は、縁部210bと対向する側の端部をキャビティ252側に向けつつ、鋳造用金型250の外部より取付孔250A内に挿入される。
そして、縁部210bが係止穴部250bの底面250cと当接されることで、鋳造用金型250に対するブッシング210の挿入位置は規定され、本体孔部250aの内周面にブッシング210の外周面が嵌合することで、該ブッシング210は鋳造用金型250に挿設される。
【0050】
こうして、取付孔250Aを介して、鋳造用金型250に挿設されたブッシング210の内周部(内周面210aによって囲まれた空間部。以下同じ。)に、鋳抜きピン201は挿設される。
即ち、鋳抜きピン201は、先端部202bをキャビティ252側に向けつつ、鋳造用金型250の外部より、ブッシング210の内周部に挿入される。その後、挿着部202aの外周面がブッシング210の内周面210aに全体的に密接されることで、鋳抜きピン1は該ブッシング210の内周部と嵌合され、鋳造用金型250に挿設される。
【0051】
このような構成からなるブッシング210を有することで、鋳抜きピン201は、前述した鋳抜きピン1と同様に、鋳造用金型250より鋳造製品251を離型する際の、該鋳造製品251に加わる離型力の影響を受けにくく、破損や折損の発生を極力防止することができるようになっている。
【0052】
また、鋳抜きピン201の本体部202の外周面に沿って形成される、テーパー形状の貫通孔の穿孔については、高度な加工技術を必要とするところ、前記貫通孔は鋳造用金型250に比べて遥かに小型の別部品であるブッシング210に穿孔することとしている。
従って、前記貫通孔を穿孔する作業者にとってみれば、加工部品(ブッシング210)を扱いやすく、前記貫通孔を容易に加工することができるのである。
【0053】
[実証データ]
次に、本実施例における鋳抜きピン1(201)と、従来の鋳抜きピン101とに対して、本発明者らが行った応力解析の実証データについて、図4を用いて説明する。
なお、便宜上、図4の上下方向は、鋳抜きピン1(101・201)の上下方向を示すものとして規定し、以下の説明を行う。
【0054】
先ず、図4(a)は、鋳造用金型50(250)より鋳造製品51(251)を離型する際において、鋳抜きピン1(201)の表面上に加えられる応力の大小の分布を、該鋳抜きピン1(201)に着色される色の濃淡度合いによって示した図である。
即ち、本図上の応力スケール10によって示されるように、鋳抜きピン1(201)の表面上に加えられる応力は、着色される色の濃度が濃い領域ほど小さく、着色される色の濃度が薄い領域ほど大きいことが明示されている。
【0055】
本図によれば、鋳抜きピン1(201)の本体部2(202)において、先端部2b(202b)の一部は濃度の薄い色によって着色されているものの、その他の領域、即ち、本体部2(202)の先端部2b(202b)を除く領域、および大径部3(203)の全領域については、濃度の濃い色によって着色されている。
【0056】
このようなことから、本実施例における鋳抜きピン1(201)において、鋳造用金型50(250)より鋳造製品51(251)を離型する際に発生する応力は、前記鋳抜きピン1(201)の本体部2(202)の表面上に効果的に分散され低減されていることが分かる。
【0057】
一方、図4(b)は、鋳造用金型150より鋳造製品151を離型する際において、鋳抜きピン101の表面上に加えられる応力の大小の分布を、該鋳抜きピン101に着色される色の濃淡度合いによって示した図である。
【0058】
本図によれば、鋳抜きピン101の本体部102において、先端部102bの一部は濃度の濃い色によって着色されているものの、その他の領域、即ち、本体部102の先端部102bを除く領域、および係止部103の端面103aについては、濃度の薄い色によって着色されている。
【0059】
このようなことから、従来の鋳抜きピン101において、鋳造用金型150より鋳造製品151を離型する際に発生する応力は、本体部102の略全領域、および係止部103の端面103aの表面上に、低減されることなく大きな値を有して作用されていることが分かる。
【0060】
以上のように、本実施例における鋳抜きピン1は、鋳造用金型50に形成され該鋳造用金型50の外部とキャビティ52内部とを連通する取付孔50Aに挿設される鋳抜きピン1であって、前記取付孔50A(より詳しくは、取付孔50Aの本体孔部50a)は、キャビティ52側へ向かって縮径するテーパー形状に形成され、前記鋳抜きピン1は、前記取付孔50A(本体孔部50a)のテーパー形状に応じた勾配のテーパー形状に形成される外周面を有し、前記取付孔50A(本体孔部50a)と嵌合する挿着部2aと、前記挿着部2aから前記キャビティ52側へ向かって延出し、前記キャビティ52内へ突出する先端部2bとを備えることとしている。
【0061】
また、鋳造用金型50における、取付孔50Aへの鋳抜きピン1の挿設構造は、鋳造用金型50に、鋳造用金型50の外部とキャビティ52内部とを連通する取付孔50Aを形成し、前記取付孔50A(より詳しくは、取付孔50Aの本体孔部50a)は、キャビティ52側へ向かって縮径するテーパー形状に形成され、前記取付孔50A(本体孔部50a)に挿設される鋳抜きピン1は、前記取付孔50A(本体孔部50a)のテーパー形状に応じた勾配のテーパー形状に形成される外周面を有し、前記取付孔50A(本体孔部50a)と嵌合する挿着部2aと、前記挿着部2aから前記キャビティ52側へ向かって延出し、前記キャビティ52内へ突出する先端部2bとを備えるものである。
【0062】
このような構成を有することで、本実施例における鋳抜きピン1によれば、鋳造用金型50より鋳造製品51を離型する際の、該鋳造製品51に加わる離型力の影響を受けにくく、破損や折損の発生を極力防止することができる。
【0063】
即ち、鋳造用金型50より鋳造製品51を離型する際の離型力の反力(引張応力Pa)は、全て挿着部2aの外周面全体に作用し分散されるため、従来の鋳抜きピン101に発生する引張応力Pbの値に比べて小さくなる。
従って、鋳抜きピン1は、鋳造用金型50より鋳造製品51を離型する際の、該鋳造製品51に加わる離型力の影響を受けにくく、破損や折損の発生を極力防止することができるのである。
【0064】
また、別実施例における鋳抜きピン201においては、挿着部201aと嵌合される取付孔が、前記鋳造用金型250に貫設されるブッシング(筒状部材)210の内周部(内周面210aによって囲まれた空間部)によって構成されることとしている。
【0065】
このような構成を有することで、鋳抜きピン201の本体部202の外周面に沿って形成される貫通孔を穿孔する作業者にとってみれば、加工部品(ブッシング210)を扱いやすく、前記貫通孔を容易に加工することができるのである。
【符号の説明】
【0066】
52 キャビティ
50A 取付孔
50 鋳造用金型
1 鋳抜きピン
2 本体部
50a 本体孔部50a
2a 挿着部
2b 先端部
250 鋳造用金型
210 ブッシング
210a 内周部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造用金型に形成され該鋳造用金型の外部とキャビティ内部とを連通する取付孔に挿設される鋳抜きピンであって、
前記取付孔は、キャビティ側へ向かって縮径するテーパー形状に形成され、
前記鋳抜きピンは、前記取付孔のテーパー形状に応じた勾配のテーパー形状に形成される外周面を有し、前記取付孔と嵌合する挿着部と、前記挿着部から前記キャビティ側へ向かって延出し、前記キャビティ内へ突出する先端部とを備える、
ことを特徴とする鋳抜きピン。
【請求項2】
前記取付孔は、前記鋳造用金型に貫設される筒状部材の内周部によって構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の鋳抜きピン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−91176(P2012−91176A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237907(P2010−237907)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(509295457)有限会社竹内製作所 (3)
【Fターム(参考)】