説明

【課題】鋸身の柄部とそれに取り付けられたグリップとが、相互に遊びを生じることがなく、また柄部とグリップとの固定が緩むといったことなく、長期にわたって柄部とグリップとの固定を確実に保持し、またこれによって良好な鋸挽き作業を長期にわたって確保することができる鋸を提供する。
【解決手段】刃渡り部10と柄部20とが一体形成されてなる鋸身と、該鋸身の柄部20に外嵌して取り付けられるグリップ30とを有する鋸であって、鋸身の柄部20には、該柄部20の一部を別部材で置換、一体化してなる材料置換領域21を形成すると共に該材料置換領域21に雌ねじ孔22を形成し、該雌ねじ孔22を用いてグリップ30を柄部20に直接ねじ固定している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃渡り部と柄部とからなる鋸身の前記柄部にグリップを被着した鋸に関する。
【背景技術】
【0002】
手挽き鋸等のハンド式の鋸においては、握り手として、例えばゴム製のグリップを鋸身の柄部に鞘状に被覆した形で取り付けている。
一般に手挽き鋸等の鋸においては、鋼板からなる鋸の切れ味を良くするため、刃先を付けた鋸身を焼き入れして、その硬度を増すようにしている場合が多い。このため焼き入れ後の鋸身は、硬度的な面からあまり微細な加工には適さない状態となっている。
このような加工上の問題から、従来は鋸身の柄部には簡単な貫通孔だけを設けるようにしており、グリップと柄部の固定は、柄部に貫通孔を設けたグリップを嵌め合わせた状態で、ボルトをグリップ及び柄部のそれぞれの貫通孔に貫通させて、他側からナットで締め付けるようにして取り付けていた。
一方、特開2004−34282号公報には、鋸刃(7)後部のマチ部(5)を両側から円柱突起挿入柄部材(2)と円柱挿着柄部材(4)とによって挟着し、円柱突起挿入柄部材(2)に設けた円柱突起(1)でマチ部(5)の挿入孔(6)と円柱挿着柄部材(4)の挿着孔(3)を嵌合することにより鋸柄を形成した脱着鋸刃が開示されている(特許文献1)。
また特開2003−145451号公報には、鋸刃(3)に設けた切り欠き部(7)で柄(2)に螺合配置されたボルト(5)の胴部を嵌合し、柄(2)の内部に形成した保持具(4)で鋸刃(3)を受け止めることによって、柄(2)の先端部に鋸刃(3)を接合した鋸柄が開示されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2004−34282号公報
【特許文献2】特開2003−145451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが上記従来のボルト、ナットで柄部とグリップとを固定する鋸においては、製造時における寸法誤差により或いは鋸の使用を重ねることによって、ボルトと柄部の貫通孔との間に隙間が生じ、それがグリップと鋸身との遊びとなって、鋸挽き操作と鋸身の動きとがちぐはぐになるというような問題があった。また前記ボルトと柄部の貫通孔との遊びによってボルトと貫通孔とが擦れ合う結果、ボルトとナットに緩みが生じるという問題があった。
上記特許文献1の脱着鋸刃の場合は、着脱が自在で柄の取り替えが簡単である。また特許文献2の鋸柄の場合は、鋸刃を保持する部材が不要で、鋸刃の取り替えが簡単で使用勝手がよい。しかしながら、どちらもグリップが抜け取れやすいという問題があった。
【0004】
そこで本発明は上記従来技術の問題を解決し、鋸身の柄部とそれに取り付けられたグリップとが、相互に遊びを生じることがなく、また柄部とグリップとの固定が緩むといったことなく、長期にわたって柄部とグリップとの固定を確実に保持し、またこれによって良好な鋸挽き作業を長期にわたって確保することができる鋸の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するため本発明の鋸は、刃渡り部と柄部とが一体形成されてなる鋸身と、該鋸身の前記柄部に外嵌して取り付けられるグリップとを有する鋸であって、前記鋸身の柄部には、該柄部の一部を別部材で置換、一体化してなる材料置換領域を形成すると共に該材料置換領域に雌ねじ孔を形成し、該雌ねじ孔を用いて前記グリップを柄部に直接ねじ固定していることを第1の特徴としている。
また本発明の鋸は、上記第1の特徴に加えて、別部材は圧入体とし、該圧入体を柄部に設けた受入れ開孔に圧入、一体化することで材料置換領域を形成してあることを第2の特徴としている。
また本発明の鋸は、上記第1又は第2の特徴に加えて、予め雌ねじ孔を形成した別部材を用いて材料置換領域を形成していることを第3の特徴としている。
また本発明の鋸は、上記第1又は第2の特徴に加えて、雌ねじ孔を材料置換領域に後から形成していることを第4の特徴としている。
また本発明の鋸は、上記第2〜第4の何れかの特徴に加えて、多角形状の圧入体が圧入、一体化されて材料置換領域が形成されていることを第5の特徴としている。
また本発明の鋸は、上記第1〜第5の何れかの特徴に加えて、材料置換領域は柄部の表裏面に面一に形成されていることを第6の特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の鋸によれば、刃渡り部と柄部とが一体形成されてなる鋸身と、該鋸身の前記柄部に外嵌して取り付けられるグリップとを有する鋸であって、前記鋸身の柄部には、該柄部の一部を別部材で置換、一体化してなる材料置換領域を形成すると共に該材料置換領域に雌ねじ孔を形成し、該雌ねじ孔を用いて前記グリップを柄部に直接ねじ固定しているので、
グリップと鋸身の柄部とを直接固定することが可能となり、よって両者の固定をより強固に、確実にして、両者間に遊びが生じるのをなくすことが可能となった。
またグリップと柄部との間に遊びが生じないので、ねじ固定の緩みも生じ難くなる。よってグリップを持って行う鋸挽き作業を長期にわたって確保することが可能となった。
加えて、鋸身の一部を別部材で置換、一体化して材料置換領域を形成し、そこに雌ねじ孔を形成するようにしたので、加工のし難い鋸身に対しても雌ねじ孔を容易に形成することができ、グリップと鋸身とを直接的にねじ固定することが現に容易に、確実にできるようになった。
【0007】
請求項2に記載の鋸によれば、上記請求項1に記載の構成による作用効果に加えて、別部材は圧入体とし、該圧入体を柄部に設けた受入れ開孔に圧入、一体化することで材料置換領域を形成してあるので、
柄部の受入れ開孔に圧入体が圧入されることによって、材料置換領域を十分強固に且つ一体不可分に柄部に形成することが可能になり、その材料置換領域に形成された雌ねじ孔を用いてグリップを十分強固に、確実に、遊びが生じることなく、柄部に取り付けることができる。
【0008】
請求項3に記載の鋸によれば、上記請求項1又は2に記載の構成による作用効果に加えて、予め雌ねじ孔を形成した別部材を用いて材料置換領域を形成しているので、
別部材を鋸身の一部に置換、一体化して材料置換領域とする作業をするだけで、雌ねじ孔を後加工する必要がなくなる。よって雌ねじ孔を形成した材料置換領域を容易に、効率良く形成することができる。
【0009】
請求項4に記載の鋸によれば、上記請求項1又は2に記載の構成による作用効果に加えて、雌ねじ孔を材料置換領域に後から形成しているので、
材料置換領域に形成される雌ねじ孔を歪等のない、より正確なものとすることができ、グリップと柄部とのねじ固定をより確実に行うことができる。
【0010】
請求項5に記載の鋸によれば、上記請求項2〜4の何れかに記載の構成による作用効果に加えて、多角形状の圧入体が圧入、一体化されて材料置換領域が形成されているので、
材料置換領域の圧入、一体化の状態がより確実になされ、ねじの回転方向に対して十分な強度を持った材料置換領域とすることができる。
【0011】
請求項6に記載の鋸によれば、上記請求項1〜5の何れかに記載の構成による作用効果に加えて、材料置換領域は柄部の表裏面に面一に形成されているので、
グリップと柄部との嵌め合わせ隙間を十分に少なくして、グリップが柄部にピッタリと密着した使い勝手のよい鋸を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下の図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係る鋸の斜視図、図2は本発明の実施形態に係る鋸の分解図、図3は実施形態に係る鋸の鋸身の形成を説明する図である。図4と図5は図3のA−A断面図で、図4は圧入体を鋸身の柄部の受入れ開孔に嵌め合わせた圧入前の状態を示す図図5は圧入体を鋸身の柄部の受入れ開孔に嵌め合わせた後に圧入した状態を示す図である。図6は図1のB―B断面図である。
【0013】
先ず図1、図2、図6を参照して、本発明の実施形態に係る鋸1は、刃渡り部10と柄部20とが一体形成された鋸身と、該鋸身の前記柄部20に取り付けられるグリップ30と、該グリップ30を柄部20にネジ固定するボルト40とで構成されている。
【0014】
前記刃渡り部10には、鋸歯11が形成されている。また刃渡り部10の基端に前記柄部20が一体的に連続して形成されている。柄部20は、その後端に向けて多少湾曲した形状とされている。
柄部20のうち、前記刃渡り部10に近い部分に材料置換領域21が形成されている。そしてこの材料置換領域21の中央付近に、雌めじ孔22が形成されている。
前記刃渡り部10と柄部20とからなる鋸身は、焼き入れ処理ができる鋼板で構成されている。
【0015】
前記グリップ30は前記柄部20に外嵌されて、ネジ固定される部材で、作業者の手持ち部となる。
グリップ30には、該グリップ30の長手方向での中心に内部を切り欠いて嵌入溝31を設け、その嵌入溝31に前記柄部20を嵌入し、グリップ30が該柄部20全体を被覆するように嵌着されている。
前記柄部20の雌ねじ孔22に対応する部分に、ボルト40を貫通させる貫通孔32が設けられている。
グリップ30はゴム製とするが、プラスチック製のブリップ30とすることも可能である。弾力性のあるゴム製とすることで、握りやすく、握った際の密着性がよく、また握った手が疲れ難いものとなる。
【0016】
前記ボルト40は、ツマミ部41と雄ねじ部42とを有する。ツマミ部41は手で締め付けができるものである。
【0017】
前記柄部20の材料置換領域21は、刃渡り部10及び柄部20を構成する本来の材料とは別材で形成された領域である。別材とは、本来の材料が焼き入れがなされた状態の鋼板である場合に、同じ鋼板ではあるが焼き入れがなされていない材料を用いることができる。また同じ鋼板であっても、成分が異なる材料を用いることができる。また鋼板以外の鉄鋼材料やその他の金属材料を用いることができる。その他、雌ねじ孔22を形成することができ、しかも柄部20の一部に置き換えて十分強固に一体化できる部材であれば、プラスチックのようなものであっても可能である。
本実施形態では、材料置換領域21を同じ成分の鋼材で形成している。しかし雌ねじ孔22の加工が容易に、確実に行える、焼き入れ処理がなされていないものを用いることができる。
【0018】
図3〜図5を参照して、本実施形態では、材料置換領域21に、別部材として用意した圧入体50を用い、これを柄部20の一部に貫通して設けた受入れ開孔23に対して圧入、一体化することで形成している。
圧入体50は、柄部20の材料と同じ材料で焼き入れがなされていないものを用いる。しかし他の金属材料で構成することもできる。
また圧入体50は受入れ開孔23とその水平断面形状が相似形で僅かに寸法が小さいものを用い、一方、圧入体50の厚みは受入れ開孔23の貫通寸法(柄部20の厚み)より多少厚いものを用いる。
【0019】
圧入体50の受入れ開孔23への圧入、一体化は、次のようにして行うことができる。即ち、圧入体50を受入れ開孔23に嵌め合わせ、その状態で上下方向からプレスすることで、圧入体50を受入れ開孔23内に拡径して圧入状態で一体化する。
圧入体50の圧入、一体化により形成される材料置換領域21は、柄部20の表裏面に面一になるようにする。勿論、この面一は厳密な意味での面一を意味するのではなく、図5に示すように、圧入体50が受入れ開孔23の表裏の開孔縁23aの周囲に多少の厚みをもって拡がる場合も含めて、グリップ30を柄部20に支障なく密着して外嵌することができる程度の面一を意味するものとする。
勿論、リベット状の圧入体50を用いて材料置換領域21を形成することも可能である。この場合には、圧乳、一体化後もその材料置換領域21が多少盛り上がった状態となる。
【0020】
図4、図5に示す様に、圧入体50には、その中心部に貫通して、予め雌ねじ孔22を形成しておくことができる。
また圧入体50の水平断面形状は、多角形状とすることができる。この場合、受入れ開孔23の水平断面形状と同形の水平断面形状とする。図に示す形状では6角形状としている。勿論、圧入体50の水平断面形状は円状とすることも可能である。
また圧入体50には、その中心部に貫通孔だけを形成しておき、圧入体50を圧入、一体化した後に、雌ねじ孔をねじ切りして形成するようにしてもよい。更に圧入体50には予め貫通孔も形成することなく、圧入体50を圧入、一体化した後に雌ねじ孔をねじ切りして形成するようにすることも可能である。
【0021】
以上のようにして、刃渡り部10と柄部20とからなる鋸身と、該鋸身の柄部20に外嵌されてねじ固定されるグリップ30と、ボルト40と、前記柄部20に形成された材料置換領域21及び雌ねじ孔22とが形成されると、先ず鋸身の柄部20にグリップ30を外嵌する。そしてボルト40をグリップ30の貫通孔32から差し入れて、柄部20の材料置換領域21の雌ねじ孔22に螺合してゆき、グリップ30をボルト40によって直接柄部20に固定する。これによってグリップ30を取り付けた鋸1が完成する。グリップ30をボルト40によって直接柄部20にねじ固定するようにしているので、グリップ30と柄部20とに遊びが生じたりすることなく、またねじ固定の緩みも生じ難くすることが可能となり、グリップを持って行う鋸作業を長期にわたって良好に行うことが可能となった。
【0022】
本発明の鋸の製造を説明する。先ず鋸刃を形成した刃渡り部10とその基端側に連続して一体形成された柄部20とからなる鋸身を鋼板によって成形し、この鋸身を焼入れする前に、予め前記柄部20に受入れ開孔23を形成する。一方、圧入体50を予め形成しておく。この場合、雌ねじ孔22を圧入体50の中心付近に予め形成しておく。そして鋸身を焼入れした後、圧入体50を前記受入れ開孔23に嵌め込み、該圧入体50を上下からプレス等によって、圧入体50を受入れ開孔23に圧入、一体化して材料置換領域21を形成する。組み立ては、グリップ30を柄部20に挿着して、ボルト40をグリップ30の貫通孔33に通し、柄部20の前記雌ねじ部22に螺合して、ねじ固定することで完成する。
【0023】
なお、圧入体50に予め貫通孔のみを設けたものを用いる場合には、圧入体50を受入れ開孔23に圧入、一体化した後に、前記貫通孔を用いて雌ねじ孔をねじきりする。圧入体50に予め貫通孔を設けておくことで、圧入体50を圧入、一体化した後の雌ねじ孔のねじ切りが容易に確実にできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る鋸の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る鋸の分解図である。
【図3】本発明の実施形態に係る鋸の鋸身の形成を説明する図である。
【図4】図3のA―A断面図で、圧入体を鋸身の柄部の受入れ開孔に嵌め合わせた圧入前の状態を示す図である。
【図5】図3のA―A断面図で、圧入体を鋸身の柄部の受入れ開孔に嵌め合わせて圧入した状態を示す図である。
【図6】図1のB―B断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 鋸
10 刃渡り部
11 鋸刃
20 柄部
21 材料置換領域
22 雌ねじ孔
23 受入れ開孔
23a 開孔縁
30 グリップ
31 嵌入溝
32 貫通孔
40 ボルト
41 ツマミ部
42 雄ねじ部
50 圧入体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃渡り部と柄部とが一体形成されてなる鋸身と、該鋸身の前記柄部に外嵌して取り付けられるグリップとを有する鋸であって、
前記鋸身の柄部には、該柄部の一部を別部材で置換、一体化してなる材料置換領域を形成すると共に該材料置換領域に雌ねじ孔を形成し、該雌ねじ孔を用いて前記グリップを柄部に直接ねじ固定していることを特徴とする鋸。
【請求項2】
別部材は圧入体とし、該圧入体を柄部に設けた受入れ開孔に圧入、一体化することで材料置換領域を形成してあることを特徴とする請求項1に記載の鋸。
【請求項3】
予め雌ねじ孔を形成した別部材を用いて材料置換領域を形成していることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋸。
【請求項4】
雌ねじ孔を材料置換領域に後から形成していることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋸。
【請求項5】
多角形状の圧入体が圧入、一体化されて材料置換領域が形成されていることを特徴とする請求項2〜4の何れかに記載の鋸。
【請求項6】
材料置換領域は柄部の表裏面に面一に形成されていることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の鋸。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−23846(P2008−23846A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198934(P2006−198934)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(590006387)株式会社ユーエム工業 (17)
【Fターム(参考)】