説明

鋼の連続鋳造方法

【課題】 低コストで且つ補修が容易なタンディッシュを用いて、鋳片歩留りを低下させることなく、タンディッシュへの注入開始時期の鋳片の清浄性を向上する。
【解決手段】 鉛直方向上部の80体積%以上の範囲を複数の領域に分割したタンディッシュ1を用い、タンディッシュに設置された溶鋼流出孔3を閉鎖した後、複数に分割された各領域に不活性ガスを個別に供給しつつ酸素濃度を測定し、各領域のうちで取鍋からの溶鋼の注入位置以外の領域における酸素濃度が1体積%以下になった以降に取鍋からのタンディッシュへの溶鋼の注入を開始し、その後、タンディッシュの基準収容溶鋼質量の30質量%以上の溶鋼がタンディッシュ内に溜まった時点で、タンディッシュから鋳型への溶鋼の注入を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンディッシュへの注入開始時期の鋳片の清浄性を向上することのできる鋼の連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造においては、取鍋内の溶鋼を一旦タンディッシュに注入し、タンディッシュ内に所定量の溶鋼が滞在した状態で、タンディッシュ内の溶鋼を鋳型に注入している。取鍋内の溶鋼が無くなった場合には、空の取鍋を別のヒートの溶鋼が収容された取鍋と交換して連続連続鋳造(「連々鋳」ともいう)が行われている。多ヒートの連々鋳では、取鍋交換と同時にタンディッシュを交換して連々鋳を続ける場合もある。
【0003】
この連続鋳造工程においては、鋳造開始時や取鍋交換時などの非定常部鋳片の品質が定常鋳造域の鋳片に比べて低下するという問題がある。これは、鋳造開始時には、タンディッシュ内に滞在する溶鋼量が少なく、タンディッシュ内における溶鋼の滞在時間が短くなり、酸化物系非金属介在物(以下、「介在物」と記す)の浮上分離に悪影響を与えたり、また、タンディッシュ内で溶鋼が酸化されて新たに介在物が形成されたりして、これらの介在物がタンディッシュから鋳型内に注入されて鋳片に捕捉されるからである。また、鋳造開始時には、タンディッシュ内の溶鋼の温度が低下しやすく、溶鋼中に懸濁した介在物の溶鋼からの浮上分離が悪くなることも品質の低下を招く原因になっている。
【0004】
取鍋交換時には、取鍋内に収容される溶鋼が少なくなった時点で、取鍋内の溶鋼上に存在するスラグが溶鋼とともにタンディッシュ内に流出し、或いは、タンディッシュ内で溶鋼が酸化して介在物が新たに形成するなどして、これらの介在物が最終的に鋳型内に混入し、鋳片に捕捉されるからである。連々鋳において、タンディッシュ交換と取鍋交換とを同時に行う時には、前述した鋳造開始時の問題と取鍋交換時の問題とが重なり合って、品質の低下を来している。
【0005】
このように、連続鋳造工程の非定常部においては、複数の原因により品質が低下しやすいという問題がある。
【0006】
一方、タンディッシュに関しては、連続鋳造の操業上からは耐火物コストの削減、堰の撤廃による補修時間の短縮及び簡略化、更にはタンディッシュ内残溶鋼の削減による鋳片歩留りの向上などの要求がある。これらの要求の多くは、前述した鋳片品質対策とは二律背反の関係であり、従って、構造が簡便でありながら品質向上に効果的なタンディッシュ形状或いはそれを用いた連続鋳造方法が強く望まれてきた。
【0007】
特許文献1には、タンディッシュ内の溶鋼から介在物を効率的に除去することを目的として、溶鋼吐出孔を有する仕切壁を用いてタンディッシュ内を複数の溶鋼プールに分割し、前記溶鋼吐出孔から下流側の溶鋼プールに溶鋼を落下・注入させることによって溶鋼の攪拌力を強化させ、この攪拌力の強化によって介在物の凝集・浮上分離を促進させることを意図したタンディッシュが開示されている。特許文献1によれば、このタンディッシュを使用することにより、簡便に介在物を除去できると同時に、タンディッシュで簡単な精錬を行うことができるようになり、溶鋼品質の向上が可能としている。
【0008】
しかしながら、特許文献1は、タンディッシュ内に多くの仕切壁つまり堰を設置して、溶鋼の流れを細かく制御する手法を採用しており、タンディッシュの構造及びメンテナンスなどを考えると、簡便な手法とはいいがたく、タンディッシュのコスト上昇は避けられない。また、多数の仕切壁を設けているので、タンディッシュ内の残溶鋼が多くなり、鋳片歩留りの低下を来す。
【特許文献1】特開平8−141709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記説明のように、鋼の連続鋳造工程においては、構造や操作が簡便なタンディッシュを用いても確実に品質を向上できる連続鋳造方法が切望されているにも拘わらず、未だ有効な提案はなされていないのが現状である。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、低コストで且つ補修が容易なタンディッシュを用いて、鋳片歩留りを低下させることなく、タンディッシュへの注入開始時期の鋳片の清浄性を向上することのできる、鋼の連続鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明に係る鋼の連続鋳造方法は、鉛直方向上部の80体積%以上の範囲を複数の領域に分割したタンディッシュを用い、タンディッシュに設置された溶鋼流出孔を閉鎖した後、複数に分割された各領域に不活性ガスを個別に供給しつつ酸素濃度を測定し、各領域のうちで取鍋からの溶鋼の注入位置以外の領域における酸素濃度が1体積%以下になった以降に取鍋からのタンディッシュへの溶鋼の注入を開始し、その後、タンディッシュの基準収容溶鋼質量の30質量%以上の溶鋼がタンディッシュ内に溜まった時点で、タンディッシュから鋳型への溶鋼の注入を開始することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、タンディッシュを複数の領域に分割し、分割された各領域に個別に不活性ガスを供給するので、取鍋からの溶鋼の注入位置以外の領域においては迅速に酸素濃度を1体積%以下に低減することができ、そして、酸素濃度が1体積%以下の状態で取鍋から溶鋼を注入するので、タンディッシュにおける溶鋼の酸化を防止することができる。また、タンディッシュの基準収容溶鋼質量の30質量%以上の溶鋼がタンディッシュ内に溜まった以降にタンディッシュから鋳型への溶鋼の注入を開始するので、この溶鋼を溜める期間に介在物の浮上・分離が促進される。つまり、タンディッシュ内における溶鋼の酸化が防止されるとともに、タンディッシュにおける溶鋼中介在物の浮上・分離が促進されるので、タンディッシュへの溶鋼注入開始時期の鋳片の清浄性を向上させることができる。また、タンディッシュの底部には堰などの仕切りが設置されていないので、鋳造終了時にタンディッシュ内に残留する溶鋼量は少なく、鋳片歩留りを低下させることがなく、且つ、簡単なタンディッシュ構造であるので、タンディッシュの補修作業を妨げることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0014】
先ず、本発明に至った検討結果について説明する。基準収容溶鋼質量が50トンで2ストランドのタンディッシュを用い、ストランド当たり5トン/分の鋳造条件で、SPCC材(冷間圧延鋼板)用の溶鋼を連続鋳造する際に、取鍋からタンディッシュへ溶鋼を注入する直前のタンディッシュ内雰囲気の酸素濃度を変更する試験を実施し、各試験において得られた鋳片の介在物量を定量分析した。
【0015】
ここで、タンディッシュの基準収容溶鋼質量とは、設備の仕様から定められる収容溶鋼質量であり、通常、連続鋳造工程の定常部においてタンディッシュに収容される溶鋼質量である。また、タンディッシュから鋳型への溶鋼の注入開始時期は、全ての試験において、タンディッシュ内に30トンの溶鋼が溜まった時点とした。尚、本発明においては、鋳型への注入開始前にタンディッシュ内に溶鋼を溜めることを「湯溜」と称し、溜まった溶鋼量を「湯溜量」と称す。
【0016】
図1に、最ボトム部の鋳片の介在物量とタンディッシュ内雰囲気の酸素濃度との関係の調査結果を示す。図1では、各鋳片の介在物量を、タンディッシュ内雰囲気の酸素濃度が1体積%のときの最ボトム鋳片の介在物量を1とする介在物指数で表示している。ここで、最ボトム鋳片とは、空のタンディッシュに注入された溶鋼から最初に鋳造される鋳片のことである。図1に示すように、タンディッシュ内雰囲気の酸素濃度を1体積%以下とすることにより、最ボトム鋳片の介在物量は少なく、良好な品質の鋳片を得られることが明らかになった。
【0017】
湯溜量を変更する試験を実施した。この試験では取鍋からタンディッシュに溶鋼を注入する直前のタンディッシュ内雰囲気の酸素濃度は何れも1体積%以下の条件に揃えて実施した。各試験で得られた最ボトム鋳片を熱間圧延及び冷間圧延し、冷間圧延後の薄鋼板を介在物センサーで検査し、単位面積当たりの介在物個数を計測した。図2に、薄鋼板における介在物調査結果と湯溜量との関係を示す。図2では、各薄鋼板の介在物量を、湯溜量が20トンのときの介在物量を1とする介在物指数で表示している。
【0018】
図2に示すように、湯溜量が15トン以上になると、つまり湯溜比率が30質量%以上になると、それ以下の湯溜量に比較して介在物が減少することが明らかになった。ここで、湯溜比率とは、タンディッシュから鋳型内へ溶鋼を注ぐ前に予めタンディッシュ内に溜める溶鋼質量の基準収容溶鋼質量に対する百分率表示の比率である。
【0019】
ところで、通常、タンディッシュはシール性を確保するために、タンディッシュ本体と蓋との間の空間を閉塞するように設計されている。しかし、溶鋼のオーバーフローを防止するための開口部が必要であることから、完全な密閉性の確保は実質上困難である。また、タンディッシュの蓋及びタンディッシュ本体は、溶鋼の熱の影響による変形が避けられないために、完全な密閉を確保することが難しい。
【0020】
そこで、完全な密閉性が確保されていなくても、タンディッシュ内雰囲気の酸素濃度を迅速に下げることを目的として、タンディッシュ内を複数の領域に分割し、各領域にそれぞれ不活性ガスを吹き込むことを検討した。具体的には、通常使用しているタンディッシュを用い、タンディッシュの内部を分割しない場合(条件1)と、仕切壁やカーテンにより少なくとも2つ以上に分割した場合(条件2)とで、不活性ガス吹き込みと雰囲気の酸素濃度との関係を調査した。この試験は、雰囲気の酸素濃度の変化を調査することを目的としているので、溶鋼は注入しないで試験した。
【0021】
試験に使用した2ストランド型のタンディッシュ本体の平面形状を図3に示す。図3に示すように、タンディッシュ本体1の平面形状はT字型であり、T字型タンディッシュの特徴である突出部1Aに取鍋からの溶鋼の注入点4が形成され、突出部1Aに注入された溶鋼は両側の溶鋼流出孔3に流れ、この溶鋼流出孔3から鋳型内に注入されるようになっている。突出部1Aの底部は、他の部位の底部に比べて高くなるように段差が設けられている。
【0022】
この形状のタンディッシュ本体1において、図4及び図5に示すP及びQの位置(以下「P位置」、「Q位置」と記す)で酸素濃度を測定した。P位置は突出部1Aに、Q位置はタンディッシュ本体1の中央部に位置している。尚、図4及び図5は、タンディッシュ本体1の片側半分のみを、耐火物の内壁面形状で表示している。図4は、条件1の場合、つまりタンディッシュ本体1の内部を分割しない場合を示し、図5は、条件2の場合、つまり突出部1Aとその他の部位との境界である段差部に仕切壁5を設け、タンディッシュ本体1を2つに分割した場合を示している。試験の際には、条件1及び条件2ともに、タンディッシュ本体1の上には蓋(図示せず)を載せている。但し、突出部1Aに載せる蓋には、取鍋の底に取り付けられたロングノズル(図示せず)が挿入される開口部が設けられており、また、突出部1Aの側壁には、所定量以上の溶鋼がタンディッシュ本体1に注入された際のオーバーフローを防止するための切欠部2が設けられている。つまり、切欠部2から優先的に溶鋼が流出するように構成されている。
【0023】
これらのタンディッシュを用い、溶鋼流出孔3をスライディングノズル(図示せず)により閉鎖し、1分間当たり8Nm3 の窒素ガスを不活性ガスとして吹き込んで時間経過に伴うタンディッシュ内雰囲気の酸素濃度の変化を調査した。条件2の場合は、分割された領域の体積に応じて8Nm3の窒素ガスを個別に分配した。条件1も条件2と同様の条件とした。窒素ガスの噴射位置は、図4及び図5に示すP位置及びQ位置の近傍とした。尚、P位置及びQ位置は、鉛直方向ではタンディッシュ本体の上面に相当する。
【0024】
酸素濃度の測定結果を図6及び図7に示す。図6は条件1の結果を示し、図7は条件2の結果を示している。条件1では、図6に示すようにP位置及びQ位置の何れの場所でも酸素濃度は5体積%程度までしか低下していないが、条件2では、図7に示すようにQ位置では4分経過以降から酸素濃度は1体積%以下に低下することが明らかになった。
【0025】
これらの結果から、タンディッシュ内雰囲気の酸素濃度を1体積%以下に低減してからタンディッシュへの溶鋼の注入を開始するとともに、湯溜比率が30質量%以上になるように湯溜を行った後に鋳型への注入を開始することで、品質の良好な鋳片を得られることが明らかになった。この場合に、タンディッシュ内雰囲気の酸素濃度を一様に1体積%以下に低減することは極めて困難であるが、タンディッシュ内を複数の領域に分割し、各領域に個別に不活性ガスを供給することによって、酸素濃度の高い領域を取鍋からの溶鋼注入箇所に制限することができ、つまり、タンディッシュのほとんどの部分の酸素濃度を低減することができ、タンディッシュ内雰囲気の全体の酸素濃度を低減した場合と同様に品質の良好な鋳片を得られることが分かった。
【0026】
タンディッシュ内を複数の領域に分割する際に、タンディッシュ内の空間の鉛直方向上部の80体積%以上の範囲を分割すればよいことが分かっている。当然ながら、タンディッシュの鉛直方向全体に亘って分割すれば不活性ガスの置換が迅速になるが、供給する不活性ガスは常温であり、加熱昇温したタンディッシュ内に常温の不活性ガスを供給すると、タンディッシュ内の加熱された雰囲気空気に比べて、相対的に温度が低く重い不活性ガスがタンディッシュの底部に滞留する。つまり、タンディッシュの底部から優先的に不活性ガスの置換が進行する。従って、タンディッシュの底部側を開放していても不活性ガスの置換速度には大差が生じず、迅速に雰囲気の酸素濃度を低減することができる。また、タンディッシュの底部側を開放することにより、鋳造終了時のタンディッシュ内残溶鋼を少なくすることができる。耐火物などを用いてタンディッシュの鉛直方向全体に亘って分割する場合には、当然ながら溶鋼の流路となる開口部を設置するが、開口部を設置したとしても、鋳造終了時のタンディッシュ内残溶鋼は増加する。
【0027】
本発明はこれらの検討結果に基づきなされたものであって、本発明に係る鋼の連続鋳造方法は、鉛直方向上部の80体積%以上の範囲を複数の領域に分割したタンディッシュを用い、タンディッシュに設置された溶鋼流出孔を閉鎖した後、複数に分割された各領域に不活性ガスを個別に供給しつつ酸素濃度を測定し、各領域のうちで取鍋からの溶鋼の注入位置以外の領域における酸素濃度が1体積%以下になった以降に取鍋からのタンディッシュへの溶鋼の注入を開始し、その後、タンディッシュの基準収容溶鋼質量の30質量%以上の溶鋼がタンディッシュ内に溜まった時点で、タンディッシュから鋳型への溶鋼の注入を開始することを特徴とする。
【0028】
タンディッシュから鋳型への溶鋼の注入を開始した以降は、通常の連続鋳造操業を行えばよい。つまり、タンディッシュには基準収容溶鋼質量に相当する量の溶鋼を注入し、鋳型内に注入された溶鋼は適宜の鋳造速度で鋳型から引き抜けばよい。
【0029】
タンディッシュ内を複数の領域に分割する際に、取鍋からの溶鋼の注入点の範囲は酸素濃度が低減しにくいので、酸素濃度の高い範囲を狭くする観点から、取鍋からの溶鋼の注入点を含む範囲は可能な限り狭くなるように分割することが好ましい。また、多数に分割するほど、雰囲気の酸素濃度は低下しやすくなるが、2以上に分割される限り、幾つに分割しても構わない。分割するための材料は、一般的には耐火物とするが、タンディッシュ内に所定量の溶鋼が滞留した以降には存在する必要はないので、溶鋼に対しては耐えられないものの、タンディッシュの加熱時には耐えられる、例えば耐熱性の織布などを使用してもよい。
【0030】
本発明はタンディッシュへの溶鋼の注入開始時期に適用されるものであり、具体的には、連々鋳(1ヒートのみの連続鋳造も含む)の鋳造開始時期及び連々鋳のタンディッシュ交換時期に適用することができる。
【0031】
本発明によれば、鋳片歩留りを低下させることなく、タンディッシュへの溶鋼注入開始時期の鋳片の清浄性を向上させることができる。
【実施例1】
【0032】
基準収容溶鋼質量が50トンで、2ストランド型である、前述した図4及び図5に示す形状のタンディッシュを用い、SPCC材用の溶鋼を幅1200mm、厚み250mmの鋳片に連続鋳造する際に、不活性ガスの供給量や湯溜量を変更し、溶鋼の品質を調査する試験を実施した。
【0033】
即ち、タンディッシュの内部を分割していない図4に示すタンディッシュと、タンディッシュを2分割した図5に示すタンディッシュとを用い、取鍋からタンディッシュに溶鋼を注入する前、タンディッシュ内雰囲気の酸素濃度を測定しながら、タンディッシュ内に1分間当たり5Nm3 の窒素ガスを不活性ガスとして分割した領域に個別に供給し、窒素ガスを供給した以降、所定時間経過した時点で取鍋からロングノズルを介してタンディッシュに溶鋼を注入し、湯溜量を5〜20トンの範囲に変更してタンディッシュから鋳型への注入を開始した。
【0034】
鋳造後、得られた最ボトム鋳片を熱間圧延及び冷間圧延して、板厚0.4mmの薄鋼板とした。この薄鋼板を介在物センサーで検査し、薄鋼板の1m2 当たりで検出された10μm以上の介在物個数によって品質を評価した。表1に、鋳造条件及び品質評価結果などの試験結果を示す。尚、表1の品質評価の欄の◎印は、薄鋼板表面の1m2中に検出された10μm以上の介在物個数が0.1個未満、○印は、前記介在物個数が0.1個以上0.3個未満、×印は、前記介在物個数が0.3個以上であることを表しており、何れのユーザーへも問題なく提供できる品質レベルは◎印である。
【0035】
【表1】

【0036】
表1からも明らかなように、タンディッシュの内部を分割しない試験番号1,2では、取鍋開口時のQ位置における酸素濃度が高く、良好な品質の鋳片を得ることができなかった。試験番号3は、内部が分割されたタンディッシュを用いたが、取鍋開口時のQ位置における酸素濃度が9体積%と高く、しかも、湯溜量も少なく、良好な品質の鋳片を得ることができなかった。試験番号4は、取鍋開口時のQ位置における酸素濃度が2.5体積%であり、管理値に比べて若干高く、また、湯溜量も若干少なく、品質レベルは○印であった。これらに対して、取鍋開口時のQ位置における酸素濃度が1体積%以下であり、湯溜量が15トン以上である、つまり湯溜比率が30質量%以上である、本発明範囲内の試験番号5,6では、良好な品質の鋳片を得ることができた。但し、試験番号6では湯溜のために試験番号5に比べて1分間余分に費やしており、生産性と品質とを同時に満足する条件としては、試験番号5の条件が好適であることが確認できた。
【0037】
また、本発明はタンディッシュの基準収容溶鋼質量が50トンの場合のみならず、20トン、80トンなど大小各サイズで適用可能であって、その場合の必要な湯溜比率は30質量%、タンディッシュ内雰囲気の酸素濃度の管理値は、タンディッシュのサイズに拘らず全て1体積%である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】最ボトム部の鋳片の介在物量とタンディッシュ内雰囲気の酸素濃度との関係を示す図である。
【図2】薄鋼板における介在物調査結果と湯溜量との関係を示す図である。
【図3】試験に使用したタンディッシュ本体の平面形状を示す図である。
【図4】タンディッシュの内部を分割しないときのタンディッシュ本体の片側半分を示す斜視図である。
【図5】タンディッシュの内部を分割したときのタンディッシュ本体の片側半分を示す斜視図である。
【図6】条件1における酸素濃度の測定結果を示す図である。
【図7】条件2における酸素濃度の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 タンディッシュ本体
2 切欠部
3 溶鋼流出孔
4 注入点
5 仕切壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向上部の80体積%以上の範囲を複数の領域に分割したタンディッシュを用い、タンディッシュに設置された溶鋼流出孔を閉鎖した後、複数に分割された各領域に不活性ガスを個別に供給しつつ酸素濃度を測定し、各領域のうちで取鍋からの溶鋼の注入位置以外の領域における酸素濃度が1体積%以下になった以降に取鍋からのタンディッシュへの溶鋼の注入を開始し、その後、タンディッシュの基準収容溶鋼質量の30質量%以上の溶鋼がタンディッシュ内に溜まった時点で、タンディッシュから鋳型への溶鋼の注入を開始することを特徴とする、鋼の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−264801(P2008−264801A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107813(P2007−107813)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】