説明

鋼の連続鋳造方法

【課題】ノズル接合部に与えられる押付け力による液体シールの分断がなく、長期間にわたってノズル接合部からの大気の吸い込みを確実に防止できる鋼の連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】ノズル接合部が内外二重の耐火性パッキング材11、12の間に保持された液体シール材10によってシールされた連続鋳造設備を用いて行う鋼の連続鋳造方法である。本発明では、各耐火性パッキング材11、12の厚さを押付け力が加わらない状態では液体シール材10に接する側で薄く、その反対側では厚くしておき、液体シール材の固化状態における厚さdを1〜8mm、幅wを3mm以上とすることにより、ノズル接合部に押付け力を加えて各耐火性パッキング材11、12を扁平に押しつぶしたときに液体シール材10が分断されることを防止し、ノズル接合部のシールを確保しながら鋳型への溶湯注入を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル接合部を液体シール材によってシールした連続鋳造設備を用いて行う鋼の連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、鋼の連続鋳造は溶鋼を取鍋からノズルを介してタンディッシュに注湯し、更にタンディッシュから浸漬ノズルを介して溶鋼を鋳型に注湯しながら行われる。これらのノズルは耐火物製であり、取鍋やタンディッシュも全て耐火物製であるから、ノズルと取鍋やタンディッシュとの接合部(ノズル接合部)を完全にシールすることは容易ではない。このためにノズル接合部からの大気の吸い込みによって溶鋼中に酸素が浸入し、アルミナクラスタ等の製品欠陥の原因となったり、ノズル閉塞等の操業トラブルの原因となったりする。
【0003】
このため従来から、アルミナを主成分とする耐火性粉末を熱硬化性樹脂で混練した耐火性パッキング材を用いてノズル接合部をシールする方法(特許文献1)が用いられている。しかしなおシール性は十分ではなく、やむを得ず、ノズルの内部にアルゴン等の不活性ガスを吹き込み、溶鋼中に浸入した酸素によって生ずるアルミナクラスタをアルゴン気泡とともに浮上分離することが行われているが、不活性ガスの流量に応じてコストがかかることとなる。
【0004】
そこで出願人は特許文献2に示すように、液体金属からなる液体シール材によってノズル接合部をシールする技術を開発した。液体シール材としては例えばAl合金が使用される。このような液体シール材は内外二重の耐火性パッキング材の間に保持され、室温では金属リングであるが使用状態においては溶融して液化し、ノズル接合部を確実にシールすることができるものである。
【0005】
ところがこのような液体シール材を用いた場合、液体シール材を囲む内外二重の耐火性パッキング材がノズル接合部に与えられる押付け力によって変形することがあり、その場合に耐火性パッキング材がリング状の液体シール材の上に覆い被さり、液体シールを分断するおそれがあることが判明した。もしこのような状態となると液体シールの機能が失われ、耐火性パッキング材のみによるシールが行われる状態となる。
【特許文献1】特公昭60−15592号公報
【特許文献2】特開2007−69254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、ノズル接合部に与えられる押付け力による液体シールの分断がなく、長期間にわたってノズル接合部からの大気の吸い込みを確実に防止できる鋼の連続鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、ノズル接合部が内外二重の耐火性パッキング材の間に保持された液体シール材によってシールされた連続鋳造設備を用いて行う鋼の連続鋳造方法において、各耐火性パッキング材の厚さを押付け力が加わらない状態では液体シール材に接する側で薄く、その反対側では厚くしておき、液体シール材の固化状態における厚さdを1〜8mm、幅wを3mm以上とし、ノズル接合部に押付け力を加えて各耐火性パッキング材を扁平に押しつぶすことにより液体シール材によるノズル接合部のシールを確保しながら鋳型への溶湯注入を行うことを特徴とするものである。
【0008】
なお請求項2のように、各耐火性パッキング材の液体シール材に接する側の厚さを(0.7〜1.0)dとし、反対側の厚さを(1.1〜1.5)dとすることが好ましい。また請求項3のように、各耐火性パッキング材の径方向の幅を10mm以上とすることが好ましい。
【0009】
さらに請求項4のように、ノズル接合部に与える押付け力を、0.2〜1.5MPaとすることが好ましく、請求項5のように、ノズルに吹き込まれる不活性ガスの流量を溶鋼1トン当たり(0〜1)NLとすることが好ましい。なお請求項6のように、液体シール材としては液体金属または非金属融体を用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、液体シール材の内外両側を囲む耐火性パッキング材として、押付け力が加わらない状態では液体シール材に接する側で薄くその反対側では厚いものを用いる。この耐火性パッキング材も使用状態においては押付け力によって扁平に押しつぶされるが、圧縮密度が液体シール材に接する側ではその反対側に比べて低くなるため、液体シール材に接する領域では変形量は僅かとなり、液体シール材の上に覆い被さるような変形は生じない。このため液体シール材によるノズル接合部のシールを確保しながら鋳型への溶湯注入を行うことができ、ノズル接合部からの大気の吸い込みに起因する製品欠陥や操業トラブルを効果的に防止することができる。このためノズルに吹き込まれる不活性ガスの流量を溶鋼1トン当たり(0〜1)NLにまで減少させることが可能となり、生産コストの低減を図ることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1は本発明の実施形態に用いられる連続鋳造設備の断面図であり、1は溶鋼を搬送する取鍋、2はタンディッシュ、3は連続鋳造用の鋳型である。溶鋼は取鍋1の底部に設けられたスライディングノズル4及びロングノズル5を介してタンディッシュ2に注湯され、さらにタンディッシュ2の底部に設けられたスライディングノズル6及び浸漬ノズル7を介して鋳型3に注湯される。
【0012】
これらのロングノズル5及び浸漬ノズル7の上端はスライディングノズル4及びスライディングノズル6の下プレートに押付けられるノズル接合部となっており、これらの部分に図2に示されるシール手段が設けられている。
【0013】
図2において、10は液体シール材、11はその外側の耐火性パッキング材、12はその内側の耐火性パッキング材である。これらは何れもノズル中心の円形孔を囲むリング状であり、液体シール材10の内外両側を耐火性パッキング材11、12によって囲む構造である。耐火性パッキング材11、12は例えばアルミナ粉末をアクリル樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂に混練した材質である。液体シール材10は室温においては固体であるが使用状態においては溶融して液化する液体金属または非金属融体からなるものである。液体金属としてはAl、Al合金、Sn、Sn合金が好ましく、非金属融体としては例えばCaO、SiO2、PbOのような金属酸化物や、CaF2、PbF2のような金属弗化物などを原料に使った低融点の化合物を用いることができる。
【0014】
図3は本発明の要部を示す拡大断面図であり、図2に丸印を付けた部分の押付け力を加えない初期状態を示している。この図に示すように、液体シール材10の固化状態における厚さをd、幅をwとすると、dは1〜8mm、wは3mm以上とすることが好ましい。dがこの範囲より薄いとシール効果が不十分となり、この範囲よりも厚いと液体シール材10が漏れ出すおそれがある。またwが3mm未満であるとやはりシール効果が不十分となる。
【0015】
本発明においては、液体シール材10の内外両側を囲む耐火性パッキング材11、12として、図3に示すように上面を傾斜させた形状のものを用いる。具体的には、押付け力を加えない初期状態における各耐火性パッキング材11、12の液体シール材10に接する側の厚さd、dを(0.7〜1.0)dとし、反対側の厚さd、dを(1.1〜1.5)dとする。このように初期状態における厚さが液体シール材10に接する側で薄く、その反対側で厚い耐火性パッキング材11、12を用いると、図2に示される押付け力を加えた使用状態において耐火性パッキング材11、12は主として液体シール材10から遠い側の領域が強く圧縮されることとなり、液体シール材10に近い領域では圧縮力は弱くなるので、液体シール材10の上に覆い被さるような変形は生じなくなる。
【0016】
なお、d、dが(0.7〜1.0)dよりも小さくなると、使用状態において液体シール材10を漏れ出さないように保持する能力が低下し、逆にこの範囲を超えて大きくなると耐火性パッキング材11、12のみによってシールが行われ、液体シール材10を設けた意味が減少する。またd、dが(1.1〜1.5)dよりも小さくなると上面を傾斜させた効果が低下し、逆にこの範囲を超えて大きくなると耐火性パッキング材11、12の液体シール材10から遠い側の領域のみによってシールが行われ、液体シール材10を設けた意味が減少する。
【0017】
なお、各耐火性パッキング材11、12の径方向の幅w1、w2は10mm以上とすることが好ましい。幅が10mm未満であると十分なシール効果を得にくいためである。またノズル接合部には機械的に押付け力が加えられるが、その押付け力は面圧が0.2〜1.5MPaとなる範囲とすることが好ましい。前記したようなアルミナ粉末をアクリル樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂に混練した耐火性パッキング材11、12を用いる場合には、この範囲未満であると十分なシール効果を得にくく、逆にこの範囲を越えると耐火性パッキング材11、12の変形が大きくなって液体シール材10が漏れ出すおそれがあるためである。尚、w、w1、w2の上限は、効果上の上限の規定はないが、ノズル接合部へのパッキング材およびシール材設置スペースにより制限され、さらにw、w1、w2がそれぞれの下限を外れないように配置することが好ましい。
【0018】
上記のようにノズル接合部を図3に示す構造のシール材によってシールすれば、耐火性パッキング材11、12が液体シール材10の上に覆い被さるような変形が発生するおそれがなくなり、液体シール材10が分断されることがないため、常に安定した液封が可能となる。この結果、ノズル接合部からの大気の吸い込みがなくなり、浸漬ノズル7の内部に吹き込まれるアルゴンガスの流量を溶鋼1トン当たり(0〜1)NLにまで減少させても、大気の吸い込みに起因する製品欠陥や操業トラブルを効果的に防止することができる。このため本発明によれば、生産コストの低減を図ることが可能となる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。
極低炭素鋼の溶鋼300トンを転炉−RH工程にて溶製した。タンディッシュ内の溶鋼を1560〜1580℃とし、3層式スライディングノズルと浸漬ノズルを使用して鋳型内に溶鋼を注入し、厚さ250mm、幅1200〜1600mmの鋳片を鋳造速度1.6〜2.0m/minで製造した。ノズル接合部のシール条件を様々に変化させ、製造された鋳片を切削して、内部に含まれる気泡個数、シール材の分断状況及びノズルの閉塞状況を観察した。シール条件としては、シール材の厚さ、幅、組成、押付け面圧を表1と表2に示すように変化させた。アルゴン流量も合わせて変化させた。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
表中の*の意味は下記の通りである。
*1 表中の記号は全て図3に表わした高さ、あるいは、円周方向の幅を示す。
*2 ○:d1<d2かつd3<d4で本発明の範囲内、×:d1≧d2またはd3≧d4、d1≧d2かつd3≧d4で本発明の範囲外。
*3 全て%である。
*4 不活性ガスとしてArガスを使用した。スライディングノズルプレート部、あるいは浸漬ノズル部からArガスを吹き込んだ。
*5 鋳造後に接合面を上から見て、シール材が円周方向に健全に保持されている場合を「シール材分断無しで○」、耐火性パッキング材が液体シール材上に面積率で20%未満覆い被さっている場合を「シール材分断若干有りで△」、20%以上覆い被さっている場合を「シール材分断有りで×」とした。
*6 鋳造後に接合面を上から見てシール材残存率が面積率で「90%以上を○」、「70〜90%を△」、「70%未満を×」とした。
*7 鋳片表層10〜60mmを5mmピッチで研削した時に観察された気泡の1m2当たりの積算個数。
*8 7連々鋳でノズル内部の付着物を除去する酸素洗浄作業を全くしなかった場合を「ノズル閉塞なしで○」、酸素洗浄作業を1回実施した場合を「ノズル閉塞若干有りで△」、2回以上実施した場合を「ノズル閉塞有りで×」とした。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に用いられる連続鋳造設備の断面図である。
【図2】ノズル接合部の水平断面図と中央縦断面図である。
【図3】要部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 取鍋
2 タンディッシュ
3 鋳型
4 スライディングノズル
5 ロングノズル
6 スライディングノズル
7 浸漬ノズル
10 液体シール材
11 その外側の耐火性パッキング材
12 内側の耐火性パッキング材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル接合部が内外二重の耐火性パッキング材の間に保持された液体シール材によってシールされた連続鋳造設備を用いて行う鋼の連続鋳造方法において、各耐火性パッキング材の厚さを押付け力が加わらない状態では液体シール材に接する側で薄く、その反対側では厚くしておき、液体シール材の固化状態における厚さdを1〜8mm、幅wを3mm以上とし、ノズル接合部に押付け力を加えて各耐火性パッキング材を扁平に押しつぶすことにより液体シール材によるノズル接合部のシールを確保しながら鋳型への溶湯注入を行うことを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【請求項2】
各耐火性パッキング材の液体シール材に接する側の厚さを(0.7〜1.0)dとし、反対側の厚さを(1.1〜1.5)dとすることを特徴とする請求項1記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項3】
各耐火性パッキング材の径方向の幅を10mm以上とすることを特徴とする請求項1または2記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項4】
ノズル接合部に与える押付け力を、0.2〜1.5MPaとすることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項5】
ノズルに吹き込まれる不活性ガスの流量を溶鋼1トン当たり(0〜1)NLとすることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項6】
液体シール材として液体金属または非金属融体を用いることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の鋼の連続鋳造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate