説明

鋼の連続鋳造方法

【課題】ロール間隔の制御によって連続鋳造鋳片の内部品質を確保するとともに、安定した操業を行うことが可能である鋼の連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1対の圧下ロールを用いて鋳片を大圧下する鋼の連続鋳造方法であって、鋳片の圧下中における前記圧下ロールの圧下力およびロール間隔を検出し、前記圧下ロールの圧下力を常時使用限界の圧下力の90%以上に維持するとともに、前記圧下ロールのロール間隔の目標値を、検出したロール間隔の実測値に応じ、この実測値より常時小さくなる値に設定する。前記ロール間隔の目標値は、前記ロール間隔の実測値より常時0.1mm以上10.0mm未満の範囲で小さくなる値に設定することが好ましい。また、前記ロール間隔の実測値が目標値に達したときに、前記目標値をより小さい値に変更することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造方法に関し、特に、大圧下操業時の圧下ロール対のロール間隔の制御によって、内部品質の優れた連続鋳造鋳片を安定して製造することを図った鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳片の連続鋳造に関する技術として、鋳片の大圧下がある。本明細書において「大圧下」とは、鋳片支持用の通常ロールよりも直径が大きい圧下ロールを有する設備を用い、鋳片を厚さ方向に積極的に押しつぶし、鋳片内部に厚さ方向の圧縮力を加える技術をいう。「通常ロール」とは、鋳片を支持案内するロールである。また、「圧下ロール」とは、鋳片を圧下するためのロールであり、その直径は、通常、大圧下に耐えるよう通常ロールの直径の1.5倍よりも大きい。
【0003】
大圧下は、極厚鋼板のように内質改善が必要な鋳片の製造において適用され、鋳片段階で鋳片中心の空隙(ポロシティ)を低減することができるため、その後の圧延による圧下比を低減できるとともに、未凝固状態での圧下による濃化溶鋼の排出により鋳片厚さ方向中心部を負偏析化できるというメリットがある。
【0004】
大圧下時に圧下量を確保する方法としては、例えば特許文献1に、バルジング大圧下手法が提案されている。しかし、特許文献1には、圧下時の圧下速度については記載されているものの、具体的な圧下方法については示されていない。
【0005】
また、特許文献2には、溶融金属を連続鋳造するに際し、鋳片の厚さを測定し、その測定結果に基づいて鋳片を支持案内するロールの圧下量、2次冷却水量および鋳片引抜速度のうちの1以上を制御して、鋳片の内部品質を高い水準に維持することを特徴とする技術が提案されている。しかし、この技術は、ロールの熱変形による変動幅分を圧下して鋳片厚さの変動を抑制するものであり、大圧下に関するものではない。
【0006】
図1は、従来の連続鋳造装置の圧下ロール対近傍の、大圧下操業中における鋳片に対する圧下ロール対と通常ロールの相対位置の概念図であり、同図(a)は通常操業状態を示し、同図(b)は通常操業状態よりも圧下量が減少した状態を示す。圧下ロール対1は、上側圧下ロール1aと下側圧下ロール1bからなる。圧下ロール対1の鋳造方向上流側および下流側には鋳片2を支持案内する通常ロール3が配置されている。ここでは、鋳造方向下流側の通常ロール3を後続ロール3aという。圧下ロール対1を構成するロールは鋳片2を圧下するためのロールである。上述のように、圧下ロール対1を構成するロールの直径は、大圧下に耐えるように、通常ロール3の直径の1.5倍よりも大きい。
【0007】
連続鋳造機内で鋳片の大圧下を行うプロセスにおいては、未凝固鋳片に対する圧下および凝固後鋳片に対する圧下のいずれの圧下においても、鋳片には、連続鋳造設備が有する最大圧下力の範囲内で、極力大きい圧下力が作用している状態が理想である。「圧下力」とは、スラブ等の鋳片の圧下を行う際に、圧下ロールから鋳片に作用する圧縮力をいう。
【0008】
しかし、鋳造速度や溶鋼過熱度(鋳造時のタンディッシュ内の溶鋼の温度と液相線温度との差)等の鋳造条件が変化した場合、鋳片の変形抵抗が変動するため、圧下ロール対の圧下力を一定に保持していても圧下量は変動する。また、鋳片の変形抵抗が変動すると、圧下力連続性を有した圧下の実施が困難となる。ここで「圧下力連続性」とは、鋳造中の鋳片の圧下に対する抵抗の連続的な状況変化に応じ、ロール間隔の設定によって安定な圧下量を維持することである。
【0009】
特に、取鍋を交換し連続鋳造を継続する連々鋳の実施時には、取鍋交換の境界部や取鍋毎に鋳片の圧下量の変動が生じるため、その度に圧下ロール対のロール間隔の目標値を修正し、上側圧下ロールの位置および圧下ロール対のロール間隔を適切に制御する必要がある。ここで「連々鋳」とは、鋳込みにより空になった取鍋を次の溶鋼が充填された取鍋に、鋳込み中に交換することで、複数の取鍋内の溶鋼を連続的に鋳込む操業形態のことである。
【0010】
このとき、連続鋳造中における手動によるロール位置の変更は、操作ミスに起因するトラブルを引き起こす可能性がある。また、手動操作では、鋳造中の鋳片の圧下に対する抵抗の状況の変化に瞬時に対応して、上側圧下ロールの位置および圧下ロール対のロール間隔を設定して安定した圧下を維持することは困難である。さらに、手動によるロール位置の調整では、鋳片の鋳造方向における目標圧下開始位置での圧下を厳格に行うことが困難であり、鋳片の厚さ方向中心部での品質の低下の原因となるため、これは防止しなければならない。
【0011】
さらに、大圧下操業においては、以下のような問題点がある。連続鋳造中において、圧下ロール対のロール間隔が増大する方向に変動する場合がある。例えば、前記図1(b)に示すように、圧下ロール対1のロール間隔(上側圧下ロール1aと下側圧下ロール1bの間隔)が増大した場合、圧下ロール対1に後続して鋳片2を支持案内する後続ロール3aの上下ロール間隔は、圧下ロール対1のロール間隔よりも過度に小さくなる。この場合、鋳片の圧下に耐える強度設計となっていない後続ロール3aが圧下の役目を負うことになり、後続ロール3aの上側のロールには鋳片2からの反力による過大な負荷がかかることになる。最悪の場合には、ロール折損やベアリング損傷の設備トラブルを引き起こす可能性がある。
【0012】
また、圧下ロールが鋳造方向上流側に、複数の通常ロールがその圧下ロールの下流側に組み込まれて配置された構造を有するセグメント型の圧下設備を用いた大圧下時には、圧下ロールが配置されたセグメント上流側の上下ロール間隔を過剰に小さくしたり、通常ロールのある下流側のみ過剰に大きくしたりすると、セグメント自体の傾斜が大きくなり、鋳片から設備への圧下反力による負荷が過剰となるため、設備上好ましくない。
【0013】
圧下ロール対のロール間隔変動による後続ロールへの影響を完全に解消する方法としては、圧下ロール対の位置を連続鋳造機の鋳造方向最下流側(後続ロールがない連続鋳造機の最後端)に設置することも考えられる。しかし、鋳片凝固における厚さ方向中心の固相率を考慮した場合に、鋳造方向における最適圧下位置は鋳造速度や冷却条件から、連続鋳造機内最後端を必ず圧下位置とすることは困難な場合があるため、この方法は必ずしも有効な手段ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第3055462号公報
【特許文献2】特開昭58−13454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述のように、大圧下操業では、鋳造速度や溶鋼過熱度の変化によって鋳片の圧下量が変動した場合や、連々鋳を実施した際の鋼種境界部において鋳片の圧下量が変動した場合において、内部品質の低下が発生するという課題がある。また、圧下量の変動によって後続ロールにトラブルが発生するおそれもある。
【0016】
本発明は、これらの大圧下操業時の圧下量変動にともなう課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧下ロール対のロール間隔の制御によって、内部品質の優れた連続鋳造鋳片を安定して製造することができる鋼の連続鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記目的を達成するため、大圧下操業を行う鋼の連続鋳造方法において、圧下ロール対の圧下力と鋳片の圧下量との関係について検討した。その結果、鋳片の圧下中の圧下力を、連続鋳造設備の圧下ロール対に定められる使用限界の圧下力の90%以上に常時維持することにより、上側圧下ロールは常時ロール間隔を狭める方向へ力が作用している状態を維持でき、十分な鋳片の圧下量を確保し、内部品質の優れた連続鋳造鋳片を製造できることを知見した。
【0018】
また、圧下ロール対のロール間隔の目標値および実測値と、鋳片の圧下量との関係について検討したところ、圧下ロール対のロール間隔の目標値を、鋳片の圧下中に検出した実測値よりも常時小さくなる値に設定することにより、鋳片の圧下量を安定して維持できることを知見した。
【0019】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨は下記の(1)〜(5)に示す鋼の連続鋳造方法にある。
【0020】
(1)少なくとも1対の圧下ロールを用いて鋳片を大圧下する鋼の連続鋳造方法であって、鋳片の圧下中における前記圧下ロールの圧下力およびロール間隔を検出し、前記圧下ロールの圧下力を常時使用限界の圧下力の90%以上に維持するとともに、前記圧下ロールのロール間隔の目標値を、検出したロール間隔の実測値に応じ、この実測値より常時小さくなる値に設定することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【0021】
(2)前記ロール間隔の目標値を、前記ロール間隔の実測値より常時0.1mm以上10.0mm未満の範囲で小さくなる値に設定することを特徴とする前記(1)に記載の鋼の連続鋳造方法。
【0022】
(3)前記ロール間隔の実測値が目標値に達したときに、前記目標値をより小さい値に変更することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の鋼の連続鋳造方法。
【0023】
(4)鋳片の圧下抵抗の変動に応じて、前記圧下ロール対の圧下力の設定値で圧下可能なロール間隔の下限まで圧下することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の鋼の連続鋳造方法。
【0024】
(5)前記圧下ロールに後続し、鋳片を支持案内する支持ロールのロール間隔の目標値を、常時前記圧下ロールのロール間隔の実測値以上に設定することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の鋼の連続鋳造方法。
【0025】
本発明において、「大圧下」とは、上述したように、鋳片支持用の通常ロールよりも直径が大きい圧下ロールを有する設備を用い、鋳片を厚さ方向に積極的に押しつぶし、鋳片内部に厚さ方向の圧縮力を加える技術をいう。また、「通常ロール」とは、鋳片を支持案内するロールである。「圧下ロール」とは、鋳片を圧下するためのロールであり、その直径は、大圧下に耐えるよう通常ロールの直径の1.5倍よりも大きい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の鋼の連続鋳造方法を用いることにより、大圧下時に圧下力連続性を有した安定な鋳片の圧下の実施が可能であり、良好な内部品質を有する鋳片を製造することができる。さらに、本発明の方法によれば、後続ロールにおけるトラブルの発生を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来の連続鋳造装置の圧下ロール対近傍の、大圧下操業中における鋳片に対する圧下ロール対と通常ロールの相対位置の概念図であり、同図(a)は通常操業状態を示し、同図(b)は通常操業状態よりも圧下量が減少した状態を示す。
【図2】本発明の鋼の連続鋳造方法に用いる連続鋳造装置の圧下ロール対近傍の、大圧下操業中における鋳片に対する圧下ロール対と通常ロールの相対位置の概念図であり、同図(a)は通常操業状態を示し、同図(b)は通常操業状態よりも圧下量が減少した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.本発明の鋼の連続鋳造方法
図2は、本発明の鋼の連続鋳造方法に用いる連続鋳造装置の圧下ロール対近傍の、大圧下操業中における鋳片に対する圧下ロール対と通常ロールの相対位置の概念図であり、同図(a)は通常操業状態を示し、同図(b)は通常操業状態よりも圧下量が減少した状態を示す。同図に示す装置は、後続ロールのロール間隔が変更可能である点以外は前記図1に示す装置と同様の構成であり、実質的に同一の部分には同一の符号を付している。
【0029】
圧下ロール対1および後続ロール3aのロール間隔の制御は、上側ロールの位置を制御することによって行うことができる。本発明の鋼の連続鋳造方法に使用する上側圧下ロールの昇降設備は、セグメント型でも独立制御型であってもよい。上側ロールの位置制御、圧下力の検出、ならびに圧下ロール対のロール間隔の制御および検出は、昇降シリンダーのヘッド側(シリンダ軸のない側)およびロッド側(シリンダ軸のある側)の双方にかかる油圧を測定できるセンサーや、ロール昇降時のロール位置検出を行うセンサーを設け、これらのセンサーから得られる情報を利用して行うことができる。
【0030】
本発明の鋼の連続鋳造方法では、鋳片2の圧下中における圧下ロール対1の圧下力およびロール間隔を検出し、圧下ロール対1の圧下力を、常時圧下ロール対1が有する使用限界の圧下力(設備圧下能力)の90%以上に設定する。これにより、上側圧下ロール1aは常時下降する方向へ力が作用している状態を維持できるため、十分な鋳片の圧下量を確保し、内部品質の優れた連続鋳造鋳片を製造できる。圧下ロール対1は、1対に限られず複数対設けられていてもよい。
【0031】
また、圧下ロール対1のロール間隔の目標値を、検出した実測値よりも常時小さくなる値に設定する。これにより、鋳片の圧下量を安定して維持できる。すなわち、圧下力連続性を有した圧下の実施が可能であるため、圧下量不足による鋳片品質の悪化防止が可能である。圧下ロール対1のロール間隔の目標値は、実測値よりも常時0.1mm以上10.0mm未満の範囲で小さくなる値に設定することが好ましい。
【0032】
圧下ロール対1のロール間隔の実測値が目標値に達したときには、目標値をより小さい値に変更することが好ましい。このとき、圧下ロール対1のロール間隔の実測値が目標値に達しない場合には、上側圧下ロール1aは常時目標下降位置に到達しようとするため、圧下ロール対1は鋳片2を圧下し続けることになる。一方、圧下ロール対1のロール間隔の実測値が目標値に達した場合には、鋳片2に対して圧下ロール対1の使用限界の圧下力の90%以上の圧下力であるものの、上側圧下ロール1aに下降する方向への力が作用している状態ではなくなるため、すぐに圧下ロール対1のロール間隔の目標値をより小さい値に変更し、鋳片2の圧下を進行させる。これにより、上側圧下ロール1aに圧下ロール対1の使用限界の圧下力の90%以上の圧下力で下降する方向への力が作用している状態を維持し、鋳片の圧下量を安定して維持できる。そのため、鋳片の圧下中に圧下抵抗が大きく変動する場合、例えば前鍋と後鍋とで溶鋼の鋼種が変わる異鋼種連々鋳造の境界部位の圧下を行う場合であっても、安定した圧下を維持できる。
【0033】
また、本発明の鋼の連続鋳造方法では、鋳片の圧下抵抗の変動に応じて、圧下ロール対1の圧下力の設定値で圧下可能なロール間隔の下限まで圧下することが好ましい。これは、前記図2で、上側圧下ロール1aおよび下側圧下ロール1bが鋳片2からの反力を受けた状態において、圧下ロール対1の圧下力と鋳片2からの反力が釣り合った状態とすることに相当する。このように制御することにより、例えば鋳片2の圧下抵抗が減少した場合には、上側圧下ロール1aには下降する方向へ力が作用し、新たなロール間隔の下限まで圧下する状態を維持できる。
【0034】
上述の圧下操業を、ロッドとヘッドを有するシリンダーを備えたタイプの圧下設備を用いて行う場合には、シリンダーの油圧背圧が規定圧力以下になるまで、鋳片を圧下することが好ましい。シリンダー油圧背圧の規定圧力は、圧下ロール対の圧下力を使用限界の圧下力の90%以上となる値に設定する。また、鋳片の圧下抵抗が小さく、圧下ロール対の使用限界の圧下力まで駆使せずとも、十分に鋳片の圧下を行うことができる場合には、任意のシリンダー圧力で操業することにより、圧下ロール対への負荷を軽減することができる。
【0035】
前記図2で、大圧下時の圧下ロール対1の位置での鋳片2においては、鋳片2の厚さ方向中心近傍の最終凝固位置において、鋳片2の上下からの凝固シェルの界面の圧着が完了するため、後続ロール3aは、鋳片2を引き抜くための駆動ロール(不図示)を除いて、必ずしも鋳片2と接触、支持するする必要はない。
【0036】
しかし、突発的な鋳造の終了等による圧下ロール対1の圧下開放のような大圧下中のトラブルが発生した場合には、鋳片のバルジングを防止するため、通常の操業で行っているロールサポートは少なくとも実施する必要がある。ロールサポートを実施する場合において、操業中に圧下ロール対1のロール間隔が後続ロール3aのロール間隔よりも過度に大きくなったときは、後続ロール3aが圧下の役目を負うことになり、後続ロール3aには鋳片2からの反力による過大な負荷がかかることになる。
【0037】
そのため、本発明の鋼の連続鋳造方法では、後続ロール3aのロール間隔の目標値を、常時圧下ロール対1のロール間隔の実測値以上となるように設定することが好ましい。これにより、前記図2(b)に示すように、後続ロール3aのロール間隔を、常時圧下ロール対1のロール間隔以上にできる。このようなロール間隔は、圧下ロール対1開放後の上側圧下ロール1aの最下端位置と同等の高さまたはそれより上方に後続ロール3aの上側のロールの最下端位置を待機しておくことにより可能である。
【実施例】
【0038】
本発明の鋼の連続鋳造方法の効果を確認するため、以下に示す試験を実施してその結果を評価した。
【0039】
1.鋳片の内部品質についての試験
1−1.試験条件
垂直曲げ型連続鋳造機を用いて、表1に示す組成の中炭素鋼を、厚さ280〜310mm、幅2250mmの鋳片を鋳造した。鋳造速度は、鋳片圧下時の鋳片厚さ方向中心部の固相率が所定の値となるように0.70〜0.72m/分の範囲で調整した。二次冷却条件は比水量0.58L/kg−鋼とした。
【0040】
【表1】

【0041】
大圧下には圧下ロール対を使用し、圧下ロール対は、鋳型内溶鋼湯面から鋳造長で21.2mの位置に配置した。圧下ロール対を構成するロールの直径は、鋳片を支持案内する通常ロールの直径の1.5倍よりも大きかった。圧下ロール対の最大圧下力(設備圧下能力)は600tであった。鋳片の圧下は、鋳造時に鋳片の先端が圧下ロール位置を通過した後から開始し、圧下ロール位置を通過した鋳片長さが80mになるまで定常的に行った。圧下ロール対のロール間隔の制御および検出は、ロール昇降時のロール位置検出を行うセンサーから得られる情報を利用し、圧下ロール対の上側ロールの位置を制御することによって行った。
【0042】
本発明例1〜3および比較例では、鋳片の内部品質について試験を行った。それぞれの試験条件を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
本発明例1および本発明例2では、鋳片を圧下中の圧下ロール対の圧下力を、設備圧下能力の97%に維持して鋳片を鋳造した。本発明例1では、圧下ロール対のロール間隔の目標値を、検出した実測値に応じて実測値よりも常時5.0〜6.0mmの範囲で小さくなる値に設定し、本発明例2では、1.0〜2.0mmの範囲で小さくなるように設定した。
【0045】
表2に示さない本発明例3では、鋳片を圧下中の圧下ロール対の圧下力を、設備圧下能力の97%に維持して鋳片を鋳造し圧下の際に圧下ロール対のロール間隔の実測値が目標値に達すると、目標値をより小さい値に変更する操作を繰り返して圧下を継続した。
【0046】
比較例では、鋳片を圧下中の圧下ロール対の圧下力を、設備圧下能力の42〜97%として鋳片を鋳造した。また、圧下の際に圧下ロール対のロール間隔の実測値が目標値に達しても小さい値には変更せず、目標値をそのままとして圧下を継続した。表2における、比較例についての圧下ロール間隔の差の「0.0」との表示はこのように圧下したことを意味する。
【0047】
1−2.試験結果
本発明例1、本発明例2および比較例で鋳造した各鋳片について、鋳片の圧下量および鋳片厚さ方向中心部におけるMn偏析度を指標として整理した。ここでMn偏析度とは、鋳片の厚さ方向中心部におけるMn濃度を、鋳片のそれ以外の母材部分のMn濃度で除した値である。偏析度が1.0よりも大きいものを正偏析、1.0よりも小さいものを負偏析といい、正偏析で偏析度が大きいほど鋳片の内部品質が劣る。
【0048】
Mn偏析度は、鋳片の横断サンプルの端部から、厚さ方向中心部を含む代表サンプルを採取し、この代表サンプルについてマッピングアナライザで母材部および中心偏析部分を横切る線分析を行って測定したMn含有率に基づいて算出した。中心偏析部分の最大含有率をC、母材部の平均含有率をCoとしたとき、Mn偏析度はC/Coで表される。
【0049】
表2には、本発明例1、本発明例2および比較例についてMn偏析度の結果およびその評価を示した。Mn偏析度は、1.10以下である場合を○(良好)、1.10よりも大きい場合を×(不可)と評価した。
【0050】
表2に示すように、本発明例1および本発明例2では、鋳片の圧下量が、23.3〜24.7mmと十分に確保されていた。また、Mn偏析度は1.10以下と低位であり、評価は○であった。大圧下を行わない、通常の鋳片ではMn偏析度は1.40程度である。
【0051】
また、表2に示さない本発明例3でも、鋳片の圧下量は、23.0〜25.0mmと十分な値であり、Mn偏析度の評価は○であった。
【0052】
これに対して、比較例では、鋳片の圧下量は、9.0〜20.4mmと、本発明例1および本発明例2と比較すると顕著に低位であった。また、鋳片の圧下量が少ないほどMn偏析度は大きく、いずれのサンプルとも評価は×であった。
【0053】
2.鋳片の圧下中に圧下抵抗が変動する場合についての試験
【0054】
本発明例4では、前鍋と後鍋とで溶鋼の鋼種が変わる異鋼種連々鋳造を行い、鋳片の圧下中に圧下抵抗が大きく変動する場合について試験した。本発明例4では、本発明例1〜3と同じ垂直曲げ型連続鋳造機を用いて、以下に記載する条件以外は本発明例1〜3と同じ条件で鋳片を鋳造した。
【0055】
鋳片を圧下中の圧下ロール対の圧下力は、設備圧下能力の97.0〜97.3%とし、圧下の際に圧下ロール対のロール間隔の実測値が目標値に達すると、目標値をさらに小さい値に変更する操作を繰り返して圧下を継続した。前鍋の溶鋼の鋼種は800MPa級、後鍋の溶鋼の鋼種は400MPa級とした。
【0056】
表3には、連続鋳造鋳片から採取したサンプルについて、圧下ロール位置からの鋳造長(サンプルを採取した位置)、圧下ロール間隔の実測値と目標値の差、圧下力の設備圧下能力に対する比の値、および圧下量を示す。同表に示すように、鋼種は鋳造長45mで入れ替えを行い、ここを境界として以降の鋳片の圧下抵抗が小さくなった。
【0057】
【表3】

【0058】
鋳造長45.4〜49.4mのサンプルNo.5〜9では、圧下ロール間隔の目標値に対して、実測値が接近していき、ついにはサンプルNo.10および11において実測値と目標値との差が0.0mmに達したため、目標値を実測値よりも0.1〜1.0mmの範囲で小さくなる値に変更した。これにより、鋳造長51.4m以降のサンプルNo.11〜17鋳片の圧下量が30mm以上の安定した圧下を継続することができた。すなわち、本発明によれば、連続鋳造の途中で圧下抵抗が変わる場合であっても安定した鋳片の圧下が可能であった。
【0059】
3.後続の通常ロールのロール間隔を変動させる場合についての試験
本発明例5では、本発明例1の条件に加えて、後続の通常ロールのロール間隔の目標値を圧下ロール対のロール間隔の実測値以上に設定した。具体的には、鋳片の大圧下を行った際の圧下ロール間隔の実測値280mmに対して、後続の通常ロールのロール間隔の目標値は285mmと設定し、常時通常ロールのロール間隔の目標値が圧下ロール対よりも大きくなるように設定した。その結果、通常ロールにおいて、圧下過負荷の問題は生じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の鋼の連続鋳造方法を用いることにより、大圧下時に圧下力連続性を有した安定な鋳片の圧下の実施が可能であり、良好な内部品質を有する鋼を製造することができる。さらに、本発明の方法によれば、後続ロールにおけるトラブルの発生を回避することができる。したがって、本発明の鋼の連続鋳造方法は、鋼を製造する方法として広範に適用できる。
【符号の説明】
【0061】
1:圧下ロール対、 1a:上側圧下ロール、 1b:下側圧下ロール、 2:鋳片、
3:通常ロール、 3a:後続ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1対の圧下ロールを用いて鋳片を大圧下する鋼の連続鋳造方法であって、
鋳片の圧下中における前記圧下ロールの圧下力およびロール間隔を検出し、前記圧下ロールの圧下力を常時使用限界の圧下力の90%以上に維持するとともに、前記圧下ロールのロール間隔の目標値を、検出したロール間隔の実測値に応じ、この実測値より常時小さくなる値に設定することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【請求項2】
前記ロール間隔の目標値を、前記ロール間隔の実測値より常時0.1mm以上10.0mm未満の範囲で小さくなる値に設定することを特徴とする請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項3】
前記ロール間隔の実測値が目標値に達したときに、前記目標値をより小さい値に変更することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項4】
鋳片の圧下抵抗の変動に応じて、前記圧下ロール対の圧下力の設定値で圧下可能なロール間隔の下限まで圧下することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項5】
前記圧下ロールに後続し、鋳片を支持案内する支持ロールのロール間隔の目標値を、常時前記圧下ロールのロール間隔の実測値以上に設定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鋼の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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