説明

鋼の連続鋳造用顆粒状モールドパウダーの製造方法

【課題】本発明の目的は、加圧ノズル式で顆粒状モールドパウダーを製造するに際して、加圧ノズルの閉塞による異常噴霧を防止でき、乾燥塔内へ噴霧されたスラリー液滴の付着を低減して顆粒状モールドパウダーの回収率を向上することができ、また、操業中の加圧ノズルの交換が不要となるため省人力化が可能となり、更に、スラリー液滴が乾燥塔内に付着しても顆粒状モールドパウダー中のカーボンブラックの酸化による白色化の恐れが少ない鋼の連続鋳造用顆粒状モールドパウダーの製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の顆粒状モールドパウダーの製造方法は、乾燥塔上部から熱風を導入して乾燥塔下部にて排気すると共にモールドパウダー原料スラリーを乾燥塔上部に設けられた加圧ノズルから下向きに噴霧してスラリー液滴を熱風と並流式に移動させながら乾燥し、得られた顆粒状モールドパウダーを乾燥塔下部から回収することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造においてモールド内に添加される顆粒状モールドパウダーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造時にモールド内の溶鋼上に添加されるモールドパウダーの形態は、粉末タイプと顆粒タイプに大別される。粉末状モールドパウダーはモールド内への投入時に発塵が多く、作業環境を悪化させる等の問題があるため、通常、顆粒状モールドパウダーが使用されている。顆粒状モールドパウダーにも製造方法によって各種タイプがあるが、最も一般的なものはスプレードライヤーで造粒、乾燥するスプレー造粒法により得られるスプレー顆粒である。
【0003】
スプレー造粒法は高温雰囲気の乾燥塔中で原料スラリーを噴霧してスラリー液滴を短時間に乾燥させて顆粒状とするものである。原料スラリーの噴霧方法として、ディスク式と加圧ノズル式がある。ディスク式は、高速回転するディスクに原料スラリーを供給し、遠心力により原料スラリーの微粉化を行う方式である。ディスク式は、通常粒子径の比較的小さい顆粒を得るために使用される。ディスク式は、ディスクの半径方向へ原料スラリーを噴霧するため、加圧ノズル式と比較して乾燥塔の径を大きくする必要がある。
【0004】
これに対して、加圧ノズル式は、噴霧される原料スラリーに圧力を加えて加圧ノズルからスラリー液滴を噴霧して微粒化する方式である。加圧ノズル式は、ディスク式と比較して大きな粒子径の顆粒を得たい場合に使用される。加圧ノズル式では、原料スラリーに旋回流を与えてから噴霧するものが一般的に使用されており、スラリー液滴は、ホロコーン(中空円錐)型の噴霧パターンを形成し、スラリー液滴の粒子径が均一となり、また、スラリー液滴と熱風との接触が良いという特徴がある。加圧ノズル式は、ディスク式と比較して構造が簡単で、設備費、維持費が安いが、原料スラリーの種類や処理量の変化に対応するには、オリフィス、コアと呼ばれるノズル部品の交換が必要となる。また、乾燥塔の径は、ディスク式に比較して小さく、高さ方向に長くなる傾向がある。加圧ノズル式は、主に少品種、大量生産に使用されている。
【0005】
スプレー造粒法における乾燥塔内での熱風とスラリー液滴の接触方式は、並流式と向流式に大別される。ディスク式の場合に多く使用される並流式は、乾燥塔上部から導入された熱風が乾燥塔上部から噴霧されるスラリー液滴流と共に下降する方式で、乾燥した顆粒の温度が熱風出口温度より高くなることがない。また、加圧ノズル式で採用されている向流式では、熱風は乾燥塔上部から導入して下部から排出される。加圧ノズルを使用して原料スラリーを乾燥塔下部から上向きに噴霧して乾燥初期にスラリー液滴と熱風とを向流接触させ、その後、落下してきた顆粒は乾燥塔最下部から回収される。向流式は、スラリー液滴の滞留時間を長く取れるので、比較的大きめの顆粒を造粒する際に適合する。
【0006】
鋼の連続鋳造用顆粒状モールドパウダーは、平均粒子径が300μm以上と大きい粒子が必要であるため、スプレー造粒法により製造されるスプレー顆粒は従来全て加圧ノズル式を使用して向流式で製造されている。熱風導入温度は400〜600℃であり、スラリー固形分濃度は50〜70質量%程度であり、原料スラリーを噴霧するための加圧ノズルは噴霧量等を勘案して乾燥塔下部に3〜10本程度配設されるのが一般的である。この方法によって平均粒子径300〜500μm程度の顆粒状モールドパウダーが得られる。
【0007】
例えば、特許文献1には、モールドフラックスの原料スラリーを熱風乾燥塔内で噴霧乾燥し該乾燥塔下部から中空モールドフラックスを排出するに際し、400〜550℃の乾燥用熱風を乾燥塔の頂部から下向きに供給すると共に、乾燥塔内の乾燥域の下方部に配設されている原料スラリー噴霧用の複数のランスノズルから、固液比55〜75%、粘度50〜1000mPa.Sの原料スラリーを上向き広がり状態に噴霧し、生成した原料スラリーの粒滴の初期乾燥を乾燥用熱風との向流接触によって行うことを特徴とする中空顆粒モールドフラックスの製造方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、モールドフラックスの原料スラリーを蒸気乾燥する装置であって、熱風供給源からの熱風を搬送する熱風搬送管を、円筒状の乾燥塔の頂部に接続し、さらに、原料スラリーを乾燥塔内に噴射する複数個のランスノズルを、前記乾燥塔の側壁を貫通させ、乾燥塔直胴部内で点対称に、かつ、ノズルを上向き傾斜をもたせて着脱自在に配設すると共に、前記乾燥塔直胴部の下方には製品フラックスと、乾燥済み熱風の排気とを分別して排出する熱風排気部と、モールドフラックス製品貯留切り出し部とにより構成したことを特徴とする中空顆粒モールドフラックスの製造装置が開示されている。
【0009】
更に、特許文献3には、金属鋳造用の融剤成分と炭素質粉末とからなる球形の粒子で、粒子内では固体部分の全体にわたって炭素質粉末が分散して含まれており、粒子の固体部分内では粒子表面における炭素質粉末の割合が粒子の固体部分内における炭素質粉末の全体割合よりも大きくなっていることを特徴とする金属鋳造用融剤が開示されている。また、第3図には、乾燥塔の頂部に、回転ディスク方式の噴霧器と熱風供給口が備えられ、スラリーと熱風が下方へ並流する方式の融剤製造装置が開示されている。なお、この装置には、融剤を回収するためのサイクロンが設けられており、回転ディスクとサイクロンを併用していることから、得られる融剤の粒子径はかなり細かいものと推察される。得られる粒子径が小さいため、ディスク式で並流式の本方法はモールドパウダーの製造には実用化されていない。
【0010】
また、特許文献4には、鋼の連続鋳造用モールドフラックスの原料スラリーを、噴霧乾燥塔内に片持ち状に設置したランスノズルを介して高温雰囲気中に噴射して乾燥する際に、ランスノズルに振動を与えることによりノズルチップ部へのスラリー付着を防止することを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドフラックスの製造法が開示されている。また、[0034]及び[0035]段落には、個々のランスノズルをビデオカメラ等で監視し、この結果に基づいてランスノズルに振動を与える監視システムが開示されている。
【0011】
更に、特許文献5には、モールドフラックスの原料スラリーを熱風乾燥塔内で噴霧乾燥し、該乾燥塔下部から中空顆粒モールドフラックスと熱風排気を分別して排出する装置において、前記乾燥塔の直胴部に配設した原料スラリー噴射用ランスノズル取付け位置より上方、乾燥塔頂部の熱風導入口までの乾燥域構成壁内面に、原料スラリーの噴霧によって生成する粒滴の付着を抑制する被覆層を形成したことを特徴とする中空顆粒モールドフラックスの製造装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−146657号公報
【特許文献2】特開平10−193060号公報
【特許文献3】特公平3−79100号公報
【特許文献4】特開平10−211563号公報
【特許文献5】特開平10−166122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載されているように、向流式で加圧ノズル式で顆粒状モールドパウダーを製造すると種々の問題点がある。先ず、原料スラリーを加圧ノズルから上向きに噴霧すると噴霧したスラリー液滴の拡がり角度が大きくなるため、乾燥塔内側壁へのスラリー液滴の付着を防止するために乾燥塔直径を大きくする必要がある。また、原料スラリーを上向きに噴霧すると、ノズル先端からスラリーの一部が液垂れしてしまい、長時間の運転で液垂れした原料スラリーが堆積、成長し、堆積物にスラリー液滴が接触して噴霧方向が変化する異常噴霧を生じて乾燥塔へ付着したり、更に、堆積が進行すると噴霧量が減少して加圧ノズルが閉塞してしまうこともある。加圧ノズルが閉塞すると、設定通りの噴霧量を確保することができず、生産性が悪化する。また、閉塞した加圧ノズルが熱を受けて加圧ノズル内のスラリーが凝固し、そのまま放置すると洗浄しても凝固した原料スラリーを除去することができず、加圧ノズル自体を再使用することができなくなり、加圧ノズルが一旦閉塞すると、加圧ノズルを交換しなければならない。
【0014】
更に、加圧ノズルは、乾燥塔側壁に設置されたノズル支持棒に取り付けられているが、ノズル支持棒に、乾燥塔内を落下してくる未乾燥状態のスラリー液滴が付着、堆積して付着物を形成する。ノズル先端の液垂れ付着物やノズル支持棒への付着、堆積を防止するために、特許文献4に開示されているような製造方法が提案されているが、加圧ノズルに振動を与えても液垂れによる付着物の成長やノズルへのスラリー液滴の堆積を完全に防止することはできない。
【0015】
また、向流式で、乾燥塔下部に設置された加圧ノズルから原料スラリーを上向きに噴霧すると、乾燥塔内上部にスラリー液滴が付着する。乾燥塔上部は熱風導入口に近く、高温となるため乾燥塔内上部に付着したモールドパウダー中のカーボンブラックが受熱によって酸化してしまう。モールドパウダーには通常1〜2%程度のカーボンブラックが添加されており、モールドパウダーの色調は黒色であるが、上述のようにカーボンブラックが酸化すると、モールドパウダーは白色となる。白色化したモールドパウダー付着物が落下すると、顆粒状モールドパウダー中にカーボンブラックが酸化した状態の不良品が混入することとなり好ましくない。白色化したモールドパウダーの混入を防止するために、従来、カーボンブラックが酸化しないように熱風温度を低く抑えていた。しかし、熱風温度を下げると、乾燥し難くなるので、乾燥塔内へのスラリー液滴の付着が助長されるという問題点があった。乾燥塔内への付着が多いと、顆粒状モールドパウダーの回収率が悪化し、製造コストが高くなるという問題点もある。また、乾燥塔内上部に付着すると、高所であるため、その除去作業が困難且つ危険を伴うという問題点もある。
【0016】
そこで、特許文献5に開示されている製造装置が提案されているが、噴霧されたスラリーの乾燥塔内上部への付着防止効果は限定的であり、耐用性が低く、被覆層を形成するコストも高く、実用化されるには至っていない。
【0017】
従って、本発明の目的は、加圧ノズル式で顆粒状モールドパウダーを製造するに際して、加圧ノズルの閉塞による異常噴霧を防止でき、乾燥塔内へ噴霧されたスラリー液滴の付着を低減して顆粒状モールドパウダーの回収率を向上することができ、また、操業中の加圧ノズルの交換が不要となるため省人力化が可能となり、更に、スラリー液滴が乾燥塔内に付着しても顆粒状モールドパウダー中のカーボンブラックの酸化による白色化の恐れが少ない鋼の連続鋳造用顆粒状モールドパウダーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
即ち、本発明の顆粒状モールドパウダーの製造方法は、乾燥塔上部から熱風を導入して乾燥塔下部にて排気すると共にモールドパウダー原料スラリーを乾燥塔上部に設けられた加圧ノズルから下向きに噴霧してスラリー液滴を熱風と並流式に移動させながら乾燥し、得られた顆粒状モールドパウダーを乾燥塔下部から回収することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の顆粒状モールドパウダーの製造方法は、導入される熱風の温度が450〜750℃であることを特徴とする。
【0020】
更に、本発明の本発明の顆粒状モールドパウダーの製造方法は、モールドパウダー原料スラリーの固形分濃度が50〜70質量%であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の顆粒状モールドパウダーの製造方法は、乾燥塔中央部付近に第2の熱風導入口を設けて乾燥塔上部から下部へ向う熱風に旋回流を付与することを特徴とする。
【0022】
更に、本発明の顆粒状モールドパウダーの製造方法は、乾燥塔直胴部の長さが10〜20mであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の顆粒状モールドパウダーの製造方法によれば、加圧ノズル式で顆粒状モールドパウダーを製造するに際して、加圧ノズルの閉塞による異常噴霧を防止でき、乾燥塔内へスラリー液滴の付着を低減して顆粒状モールドパウダーの回収率を向上することができ、また、操業中の加圧ノズルの交換が不要となるため省人力化が可能となり、更に、スラリー液滴が乾燥塔内に付着しても、付着部位が熱風導入口からは離れた比較的温度が低い帯域となるため、モールドパウダー中のカーボンブラックの酸化による白色化の恐れが少ないという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例において使用した乾燥塔の概略図である。
【図2】比較例において使用した乾燥塔の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の顆粒状モールドパウダーの製造方法は、加圧ノズル式で顆粒状モールドパウダーを製造するに際して、乾燥塔上部から熱風を導入して乾燥塔下部にて排気すると共にモールドパウダー原料スラリーを乾燥塔上部に設けられた加圧ノズルから下向きに噴霧してスラリー液滴を熱風と並流式に移動させながら乾燥し、得られた顆粒状モールドパウダーを乾燥塔下部から回収するものである。
【0026】
本発明において、モールドパウダー原料スラリーを加圧ノズルを使用して噴霧することにより、得られる顆粒状モールドパウダーの平均粒子径を300〜500μm、好ましくは310〜450μmの範囲に調節することができる。ここで、モールドパウダー原料スラリーを加圧ノズルにて下向きに噴霧すると、スラリー液滴の拡がり角を45°程度にまで小さくすることができる。これに対して、モールドパウダー原料スラリーを加圧ノズルにて上向きに噴霧すると、スラリー液滴の拡がり角は60°程度まで拡がる。即ち、加圧ノズルから下向きに噴霧することにより、スラリー液滴の拡がり角が小さくなり、乾燥塔内側壁に、噴霧されたスラリー液滴が到達し難くなり、乾燥塔径を小さくすることができる。なお、噴霧角度は鉛直真下を基本とするが、熱風の導入方向によっては乾燥塔内側壁へ未乾燥のスラリー液滴が到達しないように鉛直真下より若干角度を付けることも可能である。また、モールドパウダー原料スラリーを加圧ノズルから下向きに噴霧することにより、ノズル先端からの液垂れを防止することができ、ノズル先端への原料スラリーの堆積がなくなり、異常噴霧や加圧ノズルの閉塞を防止することができる。更に、乾燥塔下部に加圧ノズルを設置する場合のような支持棒は不要となり、支持棒へのスラリー液滴の付着、堆積を生ずることがなく、一定の品質の顆粒状モールドパウダーを得ることができる。
【0027】
本発明のように乾燥塔上部からモールドパウダー原料スラリーを加圧ノズルにて下向きに噴霧すると、スラリー液滴の付着は主に乾燥塔下部で生じ、熱風導入口に近く高温となる乾燥塔上部では付着しない。乾燥塔下部は熱風導入口から離れているため、乾燥塔上部でスラリー液滴と接触した熱風の温度は低下している。従って、乾燥塔下部でスラリー液滴の付着が生じたとしても、熱風温度はモールドパウダー中のカーボンブラックの酸化温度である400〜500℃程度よりも低下しているため、カーボンブラックが酸化されることはなく、付着したスラリー液滴が白色化することはない。従って、たとえ付着物が脱落して顆粒状モールドパウダー中に混入しても製品品質に影響を及ぼすことはない。
【0028】
なお、加圧ノズルの構造は特に限定されるものではなく、慣用の加圧ノズルを使用することができる。また、加温による加圧ノズル内でのスラリーの凝固を防止するために、加圧ノズルの外周に冷却用空気を流すような二重管構造とすることもできる。更に、加圧ノズルのモールドパウダー原料スラリー吐出口のオリフィス径は顆粒状モールドパウダーの粒子径に応じて変化させることができ、例えば1.5〜4.0mm程度、好ましくは1.8〜3.8mm程度とすることができる。
【0029】
本発明において、熱風温度は乾燥塔への導入口で450〜750℃、好ましくは500〜700℃の範囲内である。ここで、熱風の温度が450℃未満であると、スラリー液滴を乾燥することができず、乾燥塔下部への未乾燥状態のスラリー液滴の付着が多くなったり、特に大きな液滴は乾燥されにくく、未乾燥状態で付着してしまうため、大きな粒子径の顆粒が得られないために好ましくない。更に、顆粒水分が低下せずに2次乾燥が必要となるために好ましくない。また、750℃を超えると、熱風送風設備や乾燥塔の内壁表面に耐火物を施工する必要が生じ、乾燥塔の製造のコストが上昇する;乾燥塔が繰り返し加熱冷却を受けた時に膨張収縮を繰り返すことにより耐久性が低下する;熱効率が悪化して燃料代が高くなる;モールドパウダー原料スラリーが熱風と接触した時に急乾燥しすぎて中空率が高くなりすぎ、得られるモールドパウダーの粒強度が低下するなどの問題点があるために好ましくない。
【0030】
更に、モールドパウダー原料スラリーの組成は特に限定されるものではなく、慣用の組成のものを使用することができる。また、モールドパウダー原料スラリーの固形分濃度を50〜75質量%、好ましくは54〜65質量%の範囲内とする。ここで、モールドパウダー原料スラリーの固形分濃度が50質量%未満であると、水分が多くなりすぎ、乾燥効率が低下することと、乾燥に時間を要し、乾燥塔下部への付着が多くなるため好ましくなく、また、75質量%を超えると、モールドパウダー原料スラリーの粘度が高くなりすぎ、モールドパウダー原料スラリーを圧送するための圧力を高くする必要があり、圧送ポンプや配管への負担が大きくなるために好ましくない。
【0031】
本発明方法により得られる顆粒状モールドパウダーの平均粒子径は300〜500μm、好ましくは310〜450μmの範囲内である。ここで、顆粒状モールドパウダーの平均粒子径が300μm未満であると、微粉が多くなり、顆粒の効果が小さいために好ましくなく、また、500μmを超えると、乾燥塔内への付着が多くなり、製品回収率が悪化するために好ましくない。
【0032】
300〜500μmの範囲内にある顆粒状モールドパウダーを製造するに際しては、加圧ノズルから大きなスラリー液滴を噴霧する必要があり、顆粒状モールドパウダーへ乾燥するまでに長時間を要する。乾燥塔上部から下向きに加圧ノズルにてスラリー液滴を噴霧し、充分な乾燥時間を確保するためには、乾燥塔直胴部の長さを長くすることが必要となる場合もある。乾燥塔直胴部の長さは7〜20mが好ましく、10〜20mがより好ましく、15〜20mが更に好ましい。乾燥塔直胴部の長さが7m未満であると、スラリー液滴を完全に乾燥することができず、大きなスラリー液滴が乾燥されずに乾燥塔下部に付着して小さな粒子径の顆粒しか得られないために好ましくなく、また、乾燥塔直胴部の長さが20mを超えてもそれに見合う作用・効果は期待できない。
【0033】
本発明の顆粒状モールドパウダーの製造方法では、熱風とスラリー液滴を乾燥塔上部から下部へ向って並流式に移動させるが、乾燥塔下部では、熱風温度が低下しすぎて乾燥効率が低下することがあるため、乾燥塔中間部に補助的な熱風供給口を設けて新たな熱風を乾燥塔へ導入することができる。また、この補助的な熱風供給口を乾燥塔内の熱風に旋回流を与える方向に設置して乾燥塔内の水平方向温度分布を均一化したり、顆粒状モールドパウダーと熱風の接触効率を増加することができる。なお、補助的な熱風供給口から導入される熱風の温度は250〜500℃、好ましくは300〜400℃程度である。
【実施例】
【0034】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明の顆粒状モールドパウダーの製造方法を更に説明する。
まず、実施例及び比較例に使用した乾燥塔を図によって説明する。
図1は、実施例において使用した乾燥塔の概略図である。乾燥塔(1)は、塔頂部(A)、直胴部(B)及び下部円錐部(C)から構成されている。
塔頂部(A)の中央部には熱風導入口(2)が設けられており、以下の表1に記載の所定温度の熱風を乾燥塔内に導入することができる。また、塔頂部(A)には、中心部から同心円状に所定の本数の加圧ノズル(5)が下向きに設置され、ポンプ(3)により原料スラリー(4)がスラリー液滴として乾燥塔(1)内に噴霧される構成となっている。なお、加圧ノズル(5)として、ノズルの外周に冷却用空気を流せる二重構造の加圧ノズルを使用した。また、直胴部(B)の長さは表1に記載の通りであり、熱風及びスラリー液滴は並流式に直胴部(B)を下方へ移動する構成となっている。
更に、下部円錐部(C)は、円錐角度60°で構成されており、熱風排気口(6)及び顆粒状モールドパウダー取出口(7)を設置した構成となっている。
【0035】
図2は、比較例において使用した乾燥塔の概略図である。乾燥塔(1)は、図1と同様に塔頂部(A)、直胴部(B)及び下部円錐部(C)から構成されている。
塔頂部(A)の中央部には熱風導入口(2)が設けられており、以下の表1に記載の所定温度の熱風を乾燥塔内に導入することができる。
また、直胴部(B)の下部には、加圧ノズル(5)が上向きに設置され、ポンプ(3)により原料スラリー(4)がスラリー液滴として乾燥塔(1)内に噴霧される構成となっている。
更に、下部円錐部(C)は、円錐角度60°で構成されており、熱風排気口(6)及び顆粒状モールドパウダー取出口(7)を設置した構成となっている。
【0036】
上記図1及び図2に記載する乾燥塔を使用し、カーボンブラックを1.2質量%含むモールドパウダー原料粉末を用い、表1に記載する条件にて実施例及び比較例を行った。
【0037】
【表1】

【0038】
表1中、
顆粒状モールドパウダー回収率(%)は、連続10時間運転時の回収率である;
顆粒状モールドパウダーの付着水分は、得られた顆粒状モールドパウダーを105℃で乾燥前後の質量から求めたものである;
顆粒状モールドパウダーのかさ比重は、顆粒状モールドパウダーのサンプル100gを容量200mlのメスシリンダーに入れ、緩め充填した時の体積から求めたものである;
顆粒状モールドパウダーの粒強度は、V型ミキサーでアルミナボートと10分間混合した後の粉化率から求めたものであり、○は粉化率が小さく使用上問題がないことを示し、×は粉化率が大きく発塵が目立つ場合を示す;
顆粒状モールドパウダーの平均粒子径は、乾式篩で粒度測定したメディアン径である。
【0039】
本発明例1では、実験終了後、下部円錐部に僅かに付着物が観察されたが、付着物は黒色で顆粒状モールドパウダー中のカーボンブラックは酸化されていなかった。
本発明例2では、実験終了後、下部円錐部に付着物が観察されたが、付着物は黒色で顆粒状モールドパウダー中のカーボンブラックは酸化されていなかった。
本発明例3では、実験終了後、下部円錐部に僅かに付着物が観察されたが、付着物は黒色で顆粒状モールドパウダー中のカーボンブラックは酸化されていなかった。
比較例1では、実験終了後、直胴部中央付近より上側及び加圧ノズルに多くの付着物が観察され、付着物は白色で、カーボンブラックが酸化された状態の顆粒状モールドパウダーの混入が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、鋼の連続鋳造に使用される顆粒状モールドパウダーを製造することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 乾燥塔;2 熱風導入口;3 ポンプ;4 原料スラリー;5 加圧ノズル;6 排気口;7 顆粒状モールドパウダー取出口;8 付着物;A 塔頂部;B 直胴部;C 下部円錐部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥塔上部に設けられた熱風導入口から熱風を導入して乾燥塔下部にて排気すると共にモールドパウダー原料スラリーを乾燥塔上部に設けられた加圧ノズルから下向きに噴霧してスラリー液滴を熱風と並流式に移動させながら乾燥し、得られた顆粒状モールドパウダーを乾燥塔下部から回収することを特徴とする鋼の連続鋳造用顆粒状モールドパウダーの製造方法。
【請求項2】
導入される熱風の温度が450〜750℃である、請求項1記載の鋼の連続鋳造用顆粒状モールドパウダーの製造方法。
【請求項3】
モールドパウダー原料スラリーの固形分濃度が50〜75質量%である、請求項1または2記載の鋼の連続鋳造用顆粒状モールドパウダーの製造方法。
【請求項4】
顆粒状モールドパウダーの平均粒子径が300〜500μmの範囲内にある、請求項1ないし3のいずれか1項記載の鋼の連続鋳造用顆粒状モールドパウダーの製造方法。
【請求項5】
乾燥塔中央部付近に第2の熱風導入口を設けて乾燥塔上部から下部へ向う熱風に旋回流を付与する、請求項1ないし4のいずれか1項記載の鋼の連続鋳造用顆粒状モールドパウダーの製造方法。
【請求項6】
乾燥塔直胴部の長さが10〜20mである、請求項1ないし5のいずれか1項記載の鋼の連続鋳造用顆粒状モールドパウダーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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