説明

鋼を還元及びドープするための合金「カザフスタンスキー」

本発明は鉄冶金の分野に関し、より詳細には鋼を還元、ドープ、改良するための合金の製造に関する。本発明によれば、非金属介在物を高度に還元及び改良すると同時に、バリウム、チタン、及びバナジウムによって鋼をマイクロアロイングすることにより、本願発明の合金によって処理した鋼の品質を改善することができる。本発明によれば、アルミニウム、ケイ素、カルシウム、炭素、及び鉄を含む合金に、以下の構成元素比でバリウム、チタン、及びバナジウムを添加する(単位:質量%):ケイ素45.0〜63.0、アルミニウム10.0〜25.0、カルシウム1.0〜10.0、バリウム1.0〜10.0、バナジウム0.3〜5.0、チタン1.0〜10.0、炭素0.1〜1.0、残部鉄。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄冶金の分野に関し、より詳細には鋼を還元、アロイング、改良するための合金の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼を還元、改良するための合金が知られている(ソビエト連邦発明者証第990853号、分類C22C 35/00、発明公報1983年No.3に掲載)。この合金の組成(単位:質量%)は、ケイ素30.0〜49.0、カルシウム6.0〜20.0、バナジウム4.0〜20.0、マンガン1.0〜10.0、チタン1.5〜4.0、マグネシウム1.5〜5.0、アルミニウム0.3〜0.8、リン0.5〜1.5、残部鉄である。
【0003】
この合金の欠点はリンを含むことである。リンは鋼の品質に悪影響を及ぼし、特に冷間脆性となることがある。合金中のケイ素及びアルミニウム含有量が低いと鋼の還元が充分になされない。この合金の合金元素の回収率を上げるためには、鋼をまずアルミニウムで還元する必要がある。さもないとより大量の合金を消費することが必要となる。
【0004】
本願発明の合金に組成が最も近いのは、鋼を還元及びドープするための合金(カザフスタン共和国特許第3231号、分類C22C 35/00、1996年3月15日、公報No. 1に掲載)である。この合金は構成元素として、アルミニウム15.0〜30.0質量%、ケイ素45.0〜55.0質量%、カルシウム1.0〜3.0質量%、マグネシウム0.1〜0.3質量%、炭素0.1〜0.8質量%、残部鉄を含む。この合金は石炭灰のコークス還元によって製造される。高炉装入物の技術的・化学的組成を表1に示す。
【0005】
【表1】

【0006】
このアロイング(プロトタイプ)プロセスの欠点は、このドープ用組成物が鋼を十分に還元しないので、この種の合金で処理した鋼の定性的特徴が充分高水準ではなく、よって得られた鋼の性質が低水準となる、ということである。公知の合金(前記プロトタイプ)で処理した鋼の酸素含有量が0.0036%まで高くなると、鋼中の酸化物系介在物の残存量が増加しやすくなる(〜0.097%)。これは改良元素であるカルシウム含有量が低いためであり、そのために非金属介在物をより完全に除去してその量を0.0082%未満まで低下させることができない。さらに、高炉装入混合物の組成中にコークス及び石炭灰を使用することは溶融工程に悪影響を与え、電気炉上部表面に装入物が多く凝集し、ヒュームの排出が困難になる。可融灰が激しく引火し始め、その結果、早計にスラグが生成され、ガス透過性が低下し、高温ガスの流出により主要元素が気相に排出される。合金製造時の電力消費率は11.0〜11.6MW時/tであり、カルシウム含有量は3.0%を超えない。
【0007】
上述した欠点が集まると、製造される鋼の定性的特徴が低下しやすくなり、特に衝撃硬さ(−40℃)が0.88mJ/m2を上回らない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明が達成した技術的結果は、非金属介在物を高度に還元、改良すると同時に、バリウム、チタン、及びバナジウムによって鋼をマイクロアロイングすることにより、本願発明の合金によって処理した鋼の品質を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は以下の特徴を有する。
鋼を還元、ドープ、改良するための合金であって、以下の割合で、アルミニウム、ケイ素、カルシウム、炭素、及び鉄を含み、さらにバリウム、バナジウム、及びチタンを含む(単位:質量%)。
ケイ素 45.0〜63.0
アルミニウム 10.0〜25.0
カルシウム 1.0〜10.0
バリウム 1.0〜10.0
バナジウム 0.3〜5.0
チタン 1.0〜10.0
炭素 0.1〜1.0
鉄 残部
【発明の効果】
【0010】
合金組成における還元元素の含有量が特定範囲内であると、公知の合金(前記プロトタイプ)と比較して1.4〜1.8倍、鋼体積中の酸素量を低下させることができる。これによりバナジウムの有効利用を90%まで上げることができた。活性カルシウム、バリウム、アルミニウム、及びケイ素による高度な還元及び酸素遮断により、シリコマンガンから鋼へのマンガンの回収率は9〜12%上昇して98.8%に達した。特定範囲内のバリウム及びカルシウムは、その還元効果に加えて、活性脱硫剤、及び非金属介在物(NI)のための脱リン剤及び調整剤としての役割も果たし、その製錬能を上げ、さらに複雑さにより、鋼中の総NI量を顕著に削減する。カルシウム、バリウム、及びチタンの存在下では、残留硫黄及び酸化物は、ストリンガー及びその塊(堆積物)を生じることなく、鋼体積中に均等に分散して、細かい硫化酸素及び複合酸化物に接種される。残留酸化物系非金属介在物(NI)の量は、前記合金(前記プロトタイプ)による鋼処理と比較して1.16〜1.35倍減少した。
【0011】
公知の合金(前記プロトタイプ)の使用と比較して、バナジウム及びチタンによるマイクロドープにより、処理後の鋼の機械的特性を顕著に改善することができるので、−40℃における衝撃硬さは0.92〜0.94MJ/m2まで達した。
【0012】
本願発明の合金は、直接ドープのマンガン含有精鉱及びフェロアロイ由来のマンガン含有精鉱の両方による処理中における鋼へのマンガンの移行率を増加させる。マンガン抽出率は0.3〜0.5%増加し、酸化物系介在物の量は20%減少し、衝撃硬さは0.04〜0.06MJ/m2増加し、公知の合金(前記プロトタイプ)を使用した場合よりも高かった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明の合金は、高灰分石炭採掘時の石炭廃棄物に、低強度裂炭、石灰、バリウム鉱石、バナジウム含有珪岩、及びイルメナイト精鉱を添加したものからなる。コークスを使用する必要はない。比消費電力は10.0〜10.9MW/時である。合金溶融工程において、公知の合金(前記プロトタイプ)とは異なり、高灰分炭質岩及び裂炭を使用する。炭質岩は50〜65%の灰分を含み、そのうち酸化ケイ素及び酸化アルミニウムの含有量は90%以上であり、還元工程に十分な量の天然炭素を含有しているので、技術的且つ経済的に理にかなっている。装入物剥離剤の性質を有する裂炭添加物は、シャフト上部上層のガス透過性及びプロセスガスの抽出を改善する。本願発明の合金のドープ時の消費電力は、プロロタイプと比較して8.7%低い。
【実施例】
【0014】
鉱石製錬炉に装入した本願発明の合金組成物を、変圧器電力0.2MWAで溶融した。使用した装入物の化学的・技術的組成を表2及び表3に示す。
【0015】
【表2】

【0016】
【表3】

【0017】
試験の結果、最小限の比消費電力、安定した炉運転、及び炉口におけるガス透過性の改善が、本願発明の合金組成物の溶融に対応することが証明された。そのアプローチは、カーバイドの生成を無くし、炉口の技術的性質を改善し、よって炉の運転を改善する。
【0018】
開放型コアレス誘導炉IST−0.1(容量100kg)で低合金鋼グレード(17GS、15GUT)を溶融して、本願発明の合金及び公知(プロトタイプ)の合金の還元能及びドープ能を評価した。金属装入物として、炭素含有量0.03〜0.05%、マンガン含有量0.05%以下の金属くずを使用した。
【0019】
金属溶湯を得て、1630〜1650℃まで加熱した後、取鍋に注湯した。取鍋内で、鋼中にマンガンを1.4%以下得るためにシリコマンガンSMn17と共に本願発明の合金及び公知の合金(前記プロトタイプ)による還元を行った。合金へのマンガン抽出率を、金属試料の化学的組成によって求めた。金属を取鍋から鋳塊とし、これを圧延して10〜12mmのシートとした。還元及びドープの結果を表4に示す。
【0020】
製造例3〜11において本願発明の合金を鋼処理に使用した。鋼を合金No. 5〜9(表4)で処理した場合に、還元、ドープ、改良について最良の結果が得られた。これらの製造例では、シリコマンガンから鋼へのマンガンの最高回収率96.0〜98.9%を達成した。これはプロトタイプの合金を使用した場合よりも9〜12%高い。マンガン抽出率の増加は、本願発明の合金にはケイ素及びアルミニウムが高含有量で含まれ、さらにカルシウム、バリウム、チタンが含まれるために、鋼がより完全に還元される、ということによって説明できる。合金No.5〜9で処理した鋼試料の酸素含有量は、プロトタイプの合金で処理した場合の0.003〜0.0036%と比較して、1.4〜1.8倍少ない0.002〜0.0026%であった。
【0021】
得られた金属の品質及び機械的特性を評価するために、非金属介在物の量をGOST(ロシア閣僚会議国家標準委員会規格)1778−70に従って測定した。公知の合金(前記プロトタイプ)を使用する場合とは異なり、本願発明の合金による還元では、非金属介在物はより小さい球状であり、アルミナのストリンガーや酸化物の蓄積はない。これは、カルシウム及びバリウムが合金中に存在するためであり、このことは、脱硫能及び脱リン能以外に、毛細管現象を生じる物質に似た接種特性も示している。これは酸化物が、凝固物から鋼体積から容易に除去できる易可融性錯体となることから明らかである。残留酸化物系NIの含有量は、0.0084〜0.0097%である公知の合金(前記プロトタイプ)で還元する場合と比較して、0.007〜0.0075%まで低下した。本願発明の合金にバナジウム及びチタンがマイクロドープされていることにより、試料鋼の衝撃硬さ、成形性、及び硬度が上昇した。−40℃における衝撃硬さは、0.82〜0.88MJ/m2に対して0.92〜0.94MJ/m2まで増加した。フローリミット(flow limit)(σT):490〜510mPa、相対伸び(relative extension)(σS):35〜37%、暫定抵抗(temporary resistance)(σB):610〜629mPa。得られた本願発明の合金の構成元素の組成は最適組成に相当し、セミキルド鋼及び低合金鋼の還元及びドープに使用することができ、鋼体積から容易に除去できる易可融性の錯体NIの均等な形成を確実にし、残留NIを微細分散した最適な球状に変える。
【0022】
合金構成元素の許容範囲は合理的である。特にカルシウム、バリウム、バナジウム、及びチタンの濃度を立証した範囲よりも低くすると、鋼処理において所望の還元、ドープ及び残留NIの改良の効果を保証することができない。よってアルミニウム及びチタンの含有量は高いが、ケイ素、カルシウム、及びバリウムの含有量が低い溶湯No. 3で得られた合金による鋼処理では、鋼を十分に還元することはできず、アルミナ及び酸化物系NIのストリンガーの含有量が高く、機械的特性は公知の合金(プロトタイプ)で処理した鋼と同様のレベルである。
【0023】
また、これらの元素の許容濃度範囲を超えることは、本願発明の合金を得る工程における比消費電力を上昇させるので合理的ではなく、その使用の結果として得られる有益な特性も、請求の範囲に記載した組成の範囲と大差がない。
【0024】
従って、プロトタイプと比較して合金中のバリウム、バナジウム、及びチタンの含有量が多いため、本願発明によれば以下のことが可能である。
− 鋼のより高度な還元
− 非金属介在物含有量の顕著な削減
− 残留非金属介在物の、鋼体積中に均等分散される好ましい錯体への改良(接種)
− 鋼へのマンガン抽出率の増加
− 鋼の衝撃硬さの増強
【0025】
さらにドープは、高価なコークスを使用せず、廉価な高灰分炭質岩を使用できるため、経済的に実行可能性がある。
【0026】
17GS及び15GUTグレード鋼の試作結果は、本願発明の合金が非常に効果的であることを示している。
【0027】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、ケイ素、カルシウム、炭素、及び鉄を含む、鋼の還元及びドープのための合金において、さらにバリウム、バナジウム、及びチタンを下記の構成元素の相互関係(単位:質量%)で含むことを特徴とする合金。
ケイ素 45.0〜63.0
アルミニウム 10.0〜25.0
カルシウム 1.0〜10.0
バリウム 1.0〜10.0
バナジウム 0.3〜5.0
チタン 1.0〜10.0
炭素 0.1〜1.0
鉄 残部

【公表番号】特表2011−524462(P2011−524462A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506211(P2011−506211)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際出願番号】PCT/KZ2008/000004
【国際公開番号】WO2009/131428
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(510282099)ナショナル・センター・オブ・コンプレックス・プロセッシング・オブ・ミネラル・ロー・マテリアルズ・オブ・リパブリック・オブ・カザフスタン・アールエスイー (1)
【Fターム(参考)】