説明

鋼帯の溶融めっき方法および装置

【課題】溶融金属めっき浴内に配置されたシンクロールと下流側のサポートロールとを介して鋼帯を通板させる溶融金属めっきにおいて、めっき浴中のサポートロールの振動を抑制することにより、めっき付着量の均一性を確保する事ができる溶融金属めっき鋼帯の製造方法及び溶融めっき装置の提供。
【解決手段】サポートロール3aのロール胴部の両側に固定されたロール軸5に対して押え荷重を負荷し、この押え荷重の大きさおよび方向を、押え荷重を負荷しない時の最低の鋼帯張力とその時のサポートロールの位置を基準にして、その位置に安定にとどまるように制御することにより、サポートロールの振動を抑制する。ロール軸押え手段22は、方向を調節可能な押え棒23、この棒の一端に取り付けられたロール軸押えパッド16、およびこの棒の他端に制御可能に押込み力を負荷できる押込み手段(バネ、シリンダ、カウンタウェイト等)21から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯の溶融めっき(例、溶融亜鉛めっき)方法および装置に関する。本発明の溶融めっき方法および装置は、めっき浴内の出側(シンクロールの下流側)に設けられたサポートロールの振動を抑えることにより、めっき付着量の均一性を改善することができる。
【背景技術】
【0002】
鋼帯の溶融亜鉛めっきでは、連続焼鈍炉により焼鈍された鋼帯を、溶融しためっき金属(亜鉛、但し、少量の他の元素を含有しうる)を保持しためっき浴中に下向きに侵入させ、浴中に設置されたシンクロールによって鋼帯の方向を上方に転換させ、めっき浴面の直上に設置されたガスワイピング装置によって余剰めっきが除去されて所定のめっき付着量に調整することにより、めっきが行われる。
【0003】
最近では、溶融亜鉛めっき鋼板の需要が高まりとともに、要求される品質のレベルも従来とは比較にならぬほど高度化しており、中でもめっき付着量の均一化は、溶融亜鉛めっき鋼板の耐食性、溶接性、めっき層密着性等に支配的な影響をおよぼすことから、非常に重要視されている。
【0004】
図1は、連続溶融亜鉛めっきラインにおけるめっき浴周辺の概略を示す説明図である。上述したように、連続焼鈍炉(図示しない)により焼鈍された鋼帯4は、溶融亜鉛めっき浴1に下向きに侵入することにより、めっき浴1に浸漬される。めっき浴1に侵入した鋼帯4は、めっき浴の内部に設置されたシンクロール2により上方に方向転換され、サポートロール3a、3bを介して、上向きにめっき浴1から出ていく。そして、めっき浴面の直上に設置されたガスワイピング装置(図示しない)によって、鋼帯4に付着した余剰のめっき金属が除去され、所定のめっき付着量に調整される。
【0005】
サポートロール3a、3bは、鋼帯の形状(主に幅方向の反り)及び鋼帯のパスラインを安定化させるために用いられ、その位置は水平方向に移動可能で、鋼帯4に接触させてそれを横(水平)方向に押し込み、その押込み量を変化させることができる。図1に示すように、サポートロールを2本備えるめっきラインが実際には多いが、1本のみまたは3本以上のサポートロールを備えるラインもある。幅方向の反りやパスラインの不安定化は、ガスワイピング装置でのめっき付着量を局部的に不均一にする主要な原因となる。
【0006】
図2(a)に示すように、各サポートロール3は、ロール胴部(ロール本体)とその両側のロール軸5とを備える。ロール軸5はロール胴部と一体的に構成することもできるが、通常は別部材のロール軸をロール胴部に溶接などにより固定する。両側のロール軸5はそれぞれ、軸受支持体10に設けられた軸受11に差し込まれ、軸受の内面を転動面として転動(回転)可能に支持される。図1には、サポートロール3aについてのみ、ロール軸5および軸受11を示すが、サポートロール3bも同様の構成をとる。軸受11は、図示のように貫通穴とはせずに、ロールに面しない側が閉じた穴とすることもある。
【0007】
ロール軸5は軸受11内で鋼帯4の通板速度(シンクロール2の回転速度)に同期して回転する必要がある。各サポートロール3の回転方式には、ロール軸5を回転駆動させずに、鋼帯4の通板に伴う鋼帯との摩擦によってサポートロール3を回転させる無駆動方式(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献4)と、ロール軸5を外部から強制的に回転駆動させることによりサポートロール3を回転駆動させる外部駆動方式(例えば、特許文献3)とがある。本発明では、前者を無駆動ロール、後者を外部駆動ロールと称する。無駆動のサポートロールは、モータ等の外部駆動の振動がサポートロールに伝達されないため、メッキ付着量が均一化しやすいという利点がある。
【特許文献1】特開平6−128711号公報
【特許文献2】特開平6−184717号公報
【特許文献3】特開平5−70916号公報
【特許文献4】実用新案登録第2565736号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
外部駆動ロールと無駆動ロールのいずれの場合も、サポートロール3が振動すると、結果として鋼帯4のパスラインの振動(フラッタリング、チャタリング等と呼ばれることもある)を生じ、めっき付着量が安定しなくなり、したがって、めっき品質が劣化する。
【0009】
サポートロールの振動の主な原因は、外部駆動ロールの場合には、駆動系の伝達機構が振動、脈動することである。一方、サポートロールが無駆動ロールである場合にも振動が起こるメカニズムは次のように説明できる。
【0010】
図3(a)、(b)に示すように、サポートロール3aのロール軸5を支持する軸受11の穴の径が、これに差し込まれるサポートロール軸5の径より大きく、両者の間に遊びがある。この遊びは、軸受11内でサポートロール軸5を無駆動で円滑に転動させるのに必要である。なお、図3(a)、(b)では、説明の都合上、軸受11の径とロール軸5の径の差(遊び)を大きく誇張して示している。
【0011】
図3(a)は、鋼帯4とサポートロール3aのロール胴部とが接触していないときを示したものである。サポートロール3aのロール軸5は、サポートロール3aの質量による重力8により、軸受11の底部に位置している。この状態では、ロール軸5はその下端が軸受11の下端と接触している。
【0012】
次に、ロール軸5を水平方向に鋼帯4に近づく方向に移動させて、図1に矢印で示すように、サポートロール3a(の胴部)を鋼帯4に押し込んでいくと、図1に示す鋼帯4の張力15とサポートロール3aの鋼帯4に対する押込み量14により、図3(a)に示すように、サポートロールのロール軸5に押込み力9が働く。そのため、ロール軸5には、サポートロール3aの重力8と押込み力9との合成荷重ベクトル6が作用する。この合成荷重ベクトル6と鉛直方向との角度を12とする。この合成荷重6の作用により、サポートロールは軸受11の転動面に沿って押込み方向と反対方向に上昇し、図3(b)に示すように、理論的には、ロール軸5の軸受11との接触位置が、合成荷重ベクトル6と軸受11とが交わる位置に達した時に安定する。この時のロール位置[図3(b)に示す位置]を以下では安定位置という。ロール軸がこの安定位置にある時、図3(a)に示した押込みのない位置にある時に比べて、合成荷重ベクトル6の向き(角度12)は変化しないが、その起点が変化する。
【0013】
溶融めっきライン操業中は、無駆動のサポートロール3aは、鋼帯4の通板に追随して回転している。サポートロール3aは、無駆動の場合は特に、鋼帯4の通板に追随して回転しやすくするため、ロール内部を中空にする等の工夫をすることにより、ロールを軽量化していることが多い。その場合、図3(b)におけるサポートロールの自重による重力8はさほど大きくなく、そのため合成荷重6も大きくない。結果として、サポートロールは、必ずしも前述した安定位置にずっととどまって回転するわけではなく、回転しながら微妙に揺れ動き、それにつれて鋼帯のパスラインの振動を生じ、サポートロールの振動・脈動が発生する。
【0014】
特許文献1および特許文献2は、無駆動サポートロールを上下に位置変化させることを提案しているが、これはサポートロ−ルによる鋼帯のC反りを主に矯正しようとするものであって、サポートロール自体の振動については、何ら触れられていない。
【0015】
特許文献4は、無駆動ロールにおける摩擦によるロールの回転不良を避けるために、ロール軸に溝を形成して軸受との接触面積を減らすことにより接触抵抗を減らし、潤滑性をよくすることを開示している。この特許文献はまた、やはり軸受との接触抵抗を減らす目的で、軸受の軸線方向の断面を上部と片側の側面が開いているL型としてもよいこと、そしてその場合には、安定性を考慮して上部の開放部分の露出したロール軸部に押え部材を付設することを提案している。しかし、その押え方法については何ら開示がない。また、ロール軸部の押えの目的も、上部が開口したL型の軸受の場合のみにロール押えが適用されることから、ロールの振動防止ではなく、開口した軸受からのロールの脱落防止であると考えられる。
【0016】
本発明は、溶融亜鉛めっきをはじめとする溶融金属めっきにおいて、めっき浴中のサポートロール、特に無駆動ロールにおける振動を抑制することによって、めっき付着量の均一性を確保することができる溶融金属めっき鋼帯の製造方法および溶融めっき装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、金属めっき浴中のサポートロール(特に無駆動ロール)の振動を、サポートロールのロール軸を、上述した安定位置で安定するように適切な方向および荷重で外部から力を加えて押さえることにより、上記課題を解決することができる。
【0018】
1側面において、本発明は、めっき浴内に配置されたシンクロールと1または2以上のサポートロールとを順に介して鋼帯を通板させる溶融めっき鋼帯の製造方法において、少なくとも1つのサポートロールのロール軸に対して押え荷重を負荷し、該押え荷重の大きさおよび方向を制御して該サポートロールの振動を抑制することを特徴とする、溶融めっき鋼帯の製造方法である。
【0019】
この方法の好適態様は次の通りである:
・前記押え荷重の大きさおよび方向を、押え荷重を負荷しない時の最低の鋼帯張力およびそのときの該サポートロールの位置を基準にして制御する;および/または
・前記少なくとも1つのサポートロールが、駆動手段を有していない無駆動ロールであり、前記押え荷重の大きさが該サポートロールのスリップを引き起こさないように設定される。
【0020】
別の側面からは、本発明は、めっき浴内にシンクロールとその下流側の1または2以上のサポートロールとが配置された溶融めっき装置であって、少なくとも1つのサポートロールのロール軸に対して大きさおよび方向を制御可能に押え荷重を負荷することができるロール軸押え手段を備えることを特徴とする、溶融めっき装置である。
【0021】
この装置の好適態様は次の通りである:
・前記ロール軸押え手段が、方向を調節可能な棒、この棒の一端に取り付けられた、ロール軸の押えパッド、およびこの棒の他端に制御可能に押込み力を負荷できる押込み手段から構成される;
・前記少なくとも1つのサポートロールが無駆動ロールである。
【0022】
本発明の溶融めっき鋼帯の製造方法および溶融めっき装置は、溶融亜鉛めっき(めっき後に合金化熱処理を行う合金化溶融亜鉛めっきを含む)以外にも、錫、アルミニウム、錫−鉛合金(ターンメタル)などを含む各種の溶融めっき鋼帯の製造に適用できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の方法および/または本発明の装置を用いることにより、サポートロールの振動や回転不良、無駆動ロールの場合のスリップを発生させずに、表面疵がなく、めっき付着量の均一性に優れた良質の溶融めっき鋼帯を安価に量産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明を添付図面に示した態様に基づいて以下に説明する。但し、図面に示した例は例示にすぎず、本発明を制限するものではない。
図4において、1は溶融金属めっき浴、2はこのめっき浴の底部付近に設置されている、連続的に送られてくる鋼帯4の通板方向を変換するシンクロール、3a、3bは、シンクロール2の上方に設置された1対のサポートロールである。シンクロール2とサポートロール3a、3bはいずれも溶融金属めっき浴1の内部に位置する。以下では、下側サポートロール3aについて、本発明による振動抑制手段について説明するが、複数のサポートロールを使用する場合は、各サポートロールに同様の手段を採用することができる。全てのサポートロールに本発明に従って振動抑制策を講じても、一部のサポートロールだけに本発明に従ってロール押えを適用してもよい。一部のサポートロールだけの場合、下側のサポートロールのロール軸に押え荷重を付与することが好ましい。
【0025】
本発明では、サポートロール3aのロール軸5を、めっき浴1の外部に設置されたロール軸押え手段22により押えて振動を抑制する。ロール軸5に負荷する押え荷重および押え方向は、鋼帯4に加わる張力(図1に示す上方への引張力15)、シンクロール2及びサポートロール3aの位置等の要因に応じて変動させる。例えば、操業中に鋼帯厚や鋼帯幅の変化に対応して張力を変更すると、それに応じて押え手段や押え荷重を調整する必要がある。そのために、ロール軸押え手段22は、大きさと方向を制御可能に押え荷重をロール軸5に付与することができる
適正な押え方向、押え荷重は、操業の都度振動しないように随時調整すればよいが、押え手段を用いないで通板した時の最低の鋼帯張力及びその時のサポートロール位置を基準にして、この状態からの鋼帯張力およびロール位置の変動から必要最小程度の押え荷重およびその方向を把握しておくと、操業しやすい。
【0026】
なお、ロール軸にかける押え荷重が大きすぎると、サポートロールが回転しにくくなって、無駆動ロールによるスリップによる表面疵等が発生しやすくなるので、この意味からも前述したように必要最小程度の押え荷重を求めておき、それと同程度か少し上回る程度の押え荷重をかけて操業するのが好ましい。
【0027】
本発明で用いるロール軸押え手段は、ロール軸の押え方向と押え荷重の大きさが調整可能であれば、特に制限されるものではないが、その具体例をいくつか説明する。
図4および図5(a)に示したロール軸押え手段22は、押え棒23の一端に、ロール軸を押える円弧状断面(ロール軸の外径にほぼ等しい内径の円弧)の押えパッド16を備え、この押えパッド16をロール軸に当てることにより、パッド16を介して、サポートロール3aのロール軸5に押え荷重を負荷する。
【0028】
押え棒23の他端は、この押え棒23に制御可能な荷重を負荷できる押込み手段であるバネ21に連結されている。バネ21に連結される側の押え棒23の端部付近は、別の連結部材から構成することもできる。この押え棒23の手前側の部分は、末端が水平になるように折り曲げられており、この折り曲げ部のすぐ先の部分で、押え棒23は回転可能なピン20と長穴19を持った垂直プレート18とにより支持されている。この垂直プレート18とピン20は、前後に水平移動可能な水平台座(プラットフォーム)17に固定されている。この構造により、水平台座17の前後への移動につれて、押え棒23は、ピン20を支点として、その角度が変化する。こうして、ロール軸5の押え方向の制御が可能となる。ロール軸5の押え荷重は、バネ21により押え棒に負荷される荷重(押込み力)の調整により制御することができる。バネ21は、その長さを調整することにより、負荷する荷重を制御することができる。
【0029】
もちろん、サポートロール3aのロール胴部の両側のロール軸5に、鋼帯4をはさむように、それぞれ別々の押え棒23が配置される。ただし、ピン20より手前側(ピン20からバネ21まで)の押え手段22の部分は、両側で共通の1つの部材としてもよい。それにより、確実に同じ荷重および方向で両側の押え棒に押込み荷重を負荷することができる。或いは、この部分の部材もロール胴部の両側で別々に設置することもできる。
【0030】
押え棒23によるロール軸5の押え荷重および押え方向は、押え手段を用いずに通板した時の最低の鋼帯張力とその時のサポートロール位置を基準にする。この最低の鋼帯張力とは、図1に15で示した張力であり、その時のサポートロール位置とは、図3(b)に示した位置、すなわち、鋼帯の引張力(図1の15)とサポートロールの自重による重力8とサポートロールによる鋼帯の押込み量(図1の14)とを考慮した安定位置である。
【0031】
従って、押え棒23の方向は、サポートロールをこの安定位置にとどめておくような方向とする。具体的には、押え方向は、図5(a)に示すように、サポートロールのロール軸5に作用する押込み力9とサポートロールの自重による重力8との合成荷重ベクトル6の方向と同一の方向(あるいはこの方向に可及的に近い方向、例えば、同一方向から5°以内)とする。それにより、サポートロールが図3(b)に示した安定位置から動いて振動するのを抑制することができる。
【0032】
押え棒による押え荷重は、弱すぎると、サポートロールの振動抑制効果を十分に発揮することができない。一方、強すぎると、鋼帯に通板に付随する無駆動のサポートロールの回転が阻害され、鋼帯のスリップが発生して、めっき表面にスリップによる表面疵が発生する。従って、振動抑制に有効で、かつスリップ発生を生じない範囲で押え荷重を設定すればよい。振動有効に抑制な最低の押え荷重は、鋼帯4の通板速度、サポートロール3による鋼帯4の押込み量、サポートロール3の表面状態(あるいは溶融めっき浴中でのサポートロールと鋼帯との摩擦係数)によって変動し、押えがないめっき操業時のデータから算出することができる。この最低の押え荷重から、前述した合成ベクトルにより加わる荷重を差し引いた残りの荷重(あるいは、それよりやや大きい荷重)を押え棒23に負荷することにより、スリットを発生させずに、サポートロールの振動を効果的に抑制することができる。
【0033】
押えパッド16がロール軸5を押し込む位置は、例えば、図2(b)に示すように、サポートロール3のロール胴部と軸受11との間のロール軸5の位置(すなわち、軸受より内側のロール軸5の位置)とすることができる。この場合、図2(b)に示すように、ロール軸をはさんでパッド16と対向する側に、押え受け27を設けるのが好ましい。図示例では、押え受け27をチョック26で支持し、これを軸受支持体10に溶接して固定している。押えパッド16で押し込む位置は、軸受11より内側に限られるものではない。例えば、軸受11の外側でロール軸5を押えパッド16で押し込んでもよい。あるいは、軸受11を上部が開口した略半円形の形状とし、軸受11の内部においてロール軸5を押えパッド16で押し込むこともできる。さらには、ロール軸の2以上の位置に押えパッドを配置してもよい。
【0034】
押え手段22は、図5(b)に示すように、ロール軸5を軸方向には同位置で、ロール軸の周方向に異なる2箇所の位置で押えパッド16により押し込むように、2つの押え手段を備えていてもよい。この場合には、2つのパッドを介して負荷される押込み力の合成した力が押え方向となるので、この合成した押え方向が前述した合成荷重ベクトル6と一致するように2つの押えパッド16に押込み力を加える。
【0035】
さらに、図6に示すように、押え手段22は、鋼帯4のパスラインよりサポートロール3a側に設置することもできる。また、押え荷重は、シリンダ24を用いる方法(図7)やカウンターウェイト25を用いる方法(図8)により負荷することもできる。
【0036】
押えパッド16や押え棒23には、溶融めっき浴中で耐食性と耐磨耗性を示す材料を用いる。例えばWC等の炭化物、ZrB2等の硼化物、Co−Cr−W合金等を溶射あるいは肉盛したステンレス鋼材が挙げられる。
【0037】
一般に、押え棒23は、押え荷重が10〜100kgの範囲で調整可能で、押え方向は鉛直下方から約90°(ほぼ水平)までの範囲で調整可能となるように構成することが好ましい。
【0038】
以上には、主に無駆動ロールについて説明した。本発明は、このように無駆動ロールにおいて特に有効であるが、外部駆動方式のサポートロールにも適用可能である。その場合にもロール軸に適切な方向および大きさの押え荷重を負荷することにより、サポートロールの振動を抑制することができる。この場合、押さ荷重に対抗して外部駆動力をあげたり、またそのために強度の高い材質を各部材に用いたりする必要があることもあるが、その上でサポートロールの回転を阻害しないように、押え荷重の上限を設定すればよい。
【実施例】
【0039】
図1に示すロール配置を持つ、約500℃以下の温度のAl含有量が0.15質量%の溶融亜鉛めっき浴を用いた、本発明に従った溶融亜鉛めっき鋼帯の製造例について説明する。なお、図1には示していないが、図2(b)に示す押え受けも用いた。
【0040】
鋼帯の引張り張力は1400kgであり、サポートロール3a、3bは、浴内での質量が80kg、ロール径(胴部の直径)が300mm、ロール軸の径が65mmであった。以下では、単にサポートロールという場合、下側サポートロール3aを意味するものとする。
【0041】
サポートロール3aの押込み量14が、シンクロール2の外面の垂直延長線(図1の点線垂直線)からの距離で約6mm、ロール中心の高さがシンクロールの中心から約320mmであった時に、摩擦係数を0.1とした場合、サポートロール3aの自重8と反力9との合成荷重ベクトル6は約18kgとなり、鉛直線とのその角度12は約60°になると計算された。一方、本条件では、従来の操業時のデータから、ロール軸振動を抑制する最小程度の荷重は57kg、その角度は上と同じく60°であった。
【0042】
図4および図5(a)に示す押え手段を用いて、合成荷重6とロール軸振動を抑制する最小荷重との荷重差39kgを、バネ21の長さを調整することによって、押え棒23を介して、サポートロール3aのロール軸5に負荷した。なお、軸受、押え棒と押えパッド、押え受けはいずれも、WCを溶射して被覆したステンレス鋼材(SUS316L)を使用し、他のめっき浴中の部材は主としてSUS316Lを使用した。
【0043】
その結果、サポートロール3の回転不良やスリップによるめっき表面疵を発生させずに、図9に実線で示すように、めっきの付着量のバラツキが、押え手段22によりロール軸の押込みをしなかった場合(点線)と比較して、約47%も減少し、めっき付着量の均一性が著しく向上した。
【0044】
本例では、下側のサポートロール3aだけに押え荷重を負荷したが、上側のサポートロール3bにも同様に押え荷重を負荷すると、付着量のバラツキはさらに改善されることが予想される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】溶融めっき浴中のロール配置を示す図である。
【図2】図2(a)はサポートロールとそのロール軸および軸受の構成例を示す分解説明図であり、図2(b)は、本発明に従った押え棒および押えパッドの適用例を示す説明図である。
【図3】図3(a)および(b)は、それぞれ鋼帯と接触する前と、鋼帯を押し込んだ後のロール軸と軸受との位置関係を示す図である。
【図4】本発明に係るサポートロールのロール軸押え手段を備えた溶融めっき装置の概略図である。
【図5】図5(a)および(b)は、ロール軸を押える押えパッドの異なる配置を示す、サポートロール軸付近の説明図である。
【図6】本発明のサポートロール軸の押え手段の別の例を示す溶融めっき装置の概略図である。
【図7】本発明のサポートロール軸の押え手段のさらに別の例を示す溶融めっき装置の概略図である。
【図8】本発明のサポートロール軸の押え手段のさらに別の例を示す溶融めっき装置の概略図である。
【図9】本発明の実施例の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
1:溶融金属めっき浴;2:シンクロール;3、3a、3b:サポートロール;4:鋼帯
;5:ロール軸、6:合成荷重ベクトル;8:ロール重力;9:押込み力;10:軸受支持体;11:軸受;14:サポートロールによる押込み量;15:鋼帯引張力;16:押えパッド;17:水平台座;18:垂直プレート;19:長穴;20:ピン;21:バネ;22:ロール軸押え手段;23:押え棒;24:シリンダ;25:カウンターウェイト;26:チョック;27:押え受け

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき浴内に配置されたシンクロールと1または2以上のサポートロールとを順に介して鋼帯を通板させる溶融めっき鋼帯の製造方法において、少なくとも1つのサポートロールのロール軸に対して押え荷重を負荷し、該押え荷重の大きさおよび方向を制御して該サポートロールの振動を抑制することを特徴とする、溶融めっき鋼帯の製造方法。
【請求項2】
前記押え荷重の大きさおよび方向を、押え荷重を負荷しない時の最低の鋼帯張力およびそのときの該サポートロールの位置を基準にして制御する、請求項1に記載の溶融めっき鋼帯の製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのサポートロールが、駆動手段を有していない無駆動ロールであり、前記押え荷重の大きさが該サポートロールのスリップを引き起こさないように設定される、請求項1または2に記載の溶融めっき鋼帯の製造方法。
【請求項4】
めっき浴内にシンクロールとその下流側の1または2以上のサポートロールとが配置された溶融めっき装置であって、少なくとも1つのサポートロールのロール軸に対して大きさおよび方向を制御可能に押え荷重を負荷することができる、ロール軸押え手段を備えることを特徴とする、溶融めっき装置。
【請求項5】
前記ロール軸押え手段が、方向を調節可能な棒と、この棒の一端に取り付けられた、ロール軸の押えパッド、およびこの棒の他端に制御可能に押込み力を負荷できる押込み手段から構成される、請求項4記載の溶融めっき装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つのサポートロールが無駆動ロールである、請求項4または5に記載の溶融めっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−307266(P2006−307266A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129833(P2005−129833)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】