説明

鋼材の接合構造

【課題】施工時の誤差の吸収代を確保しつつ、初期滑りを小さくして支圧を効果的に付与する。
【解決手段】ボルト80A,80Bとボルト80A,80Bと第一大孔114B、214B及び第二大孔124A、224Aとのクリアランスを大きくすることで施工時の誤差の吸収代を確保しつつ、ボルト80A,80Bと第一小孔112A,212A及び第二小孔122B,222Bとのクリアランスを小さくすることで初期滑りを小さくして支圧を効果的に付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材を用いて構築する構造物における鋼材の端部同士の接合において、添板を接合される二つの鋼材の端部の両側面に配設して挟み、鋼材の端部と添板とをボルトによって締結する接合構造が知られている。
【0003】
特許文献1には、高力ボルトで一対の被接合部材と添板とを締め付けると共に、座金部材が添板の支圧部を押圧し、この支圧部が被接合部材の支圧孔部の孔面に押圧されることにより、高力ボルトの締め付けと同時に、被接合部材に作用した荷重が座金部材と添板の支圧部を介して支圧伝達されるように高力ボルトと一対の被接合部材を繋げて、被接合部材同士を接合することが可能とした高力ボルト接合構造が提案されている(特許文献1を参照)。
【0004】
ここで、支圧接合とは、ボルトで結合することで、ボルトの軸方向と直角方向の力を、支圧孔に挿入されたボルトの支圧面に生じる力により接合する接合方法とされている。このような支圧接合は、初期滑りが生じている間は、支圧抵抗が発揮されない。よって、支圧孔とボルトとのクリアランスを小さくすることで、初期滑りを小さくすることが考えられる。しかし、支圧孔とボルトとのクリアランスを小さくすると、施工時の誤差の吸収が困難となり、この結果、施工効率が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−53956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、施工時の誤差の吸収代を確保しつつ、初期滑りを小さくして支圧を効果的に付与することが望まれている。
【0007】
本発明は、上記を考慮し、施工時の誤差の吸収代を確保しつつ、初期滑りを小さくして支圧を効果的に付与することができる鋼材の接合構造を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、複数の鋼材の端部の両側から添板で挟みボルトで締結することで、一方の鋼材と他方の鋼材とを接合する鋼材の接合構造であって、前記一方の鋼材の端部及び前記他方の鋼材の端部には、前記ボルトが挿入されるボルト孔が形成され、前記添板は第一板及び第二板で構成され、前記第一板は、前記一方の鋼材の端部及び前記他方の鋼材の端部を両側から挟み、前記一方の鋼材側に形成され一方側の前記ボルトが挿入された第一小孔と、前記他方の鋼材側に形成され前記一方側のボルトと前記第一小孔とのクリアランスよりも他方側のボルトとのクリアランスが大きくなるように構成され前記他方側のボルトが挿入された前記第一大孔と、を有し、前記第二板は、前記第一板の外側に配置され、前記他方の鋼材側に形成され前記他方側のボルトが挿入され前記第一大孔よりも小さい第二小孔と、前記一方の鋼材側に形成され前記一方側のボルトが挿入され前記第一小孔よりも大きい第二大孔と、を有し、前記第一小孔、前記第一大孔、前記第二小孔、前記第二大孔、及び前記ボルト孔に前記ボルトを挿入して、一方の鋼材と他方の鋼材とを接合した鋼材の接合構造。
【0009】
請求項1の発明では、ボルトと第一大孔及び第二大孔とのクリアランス分、第一板と第二板とをずらすことができると共に、接合される一方の鋼材と他方の鋼材とをずらすことができる。つまり、ボルトと第一大孔及び第二大孔とのクリアランス分が、施工時の誤差の吸収代となる。
【0010】
一方、ボルトと第一小孔及び第二小孔とのクリアランス及びボルトとボルト孔とのクリアランスを小さくすることで、初期滑りを小さくし効果的に支圧を付与することできる。
【0011】
したがって、ボルトと第一大孔及び第二大孔とのクリアランスで、施工時の誤差の吸収代を確保しつつ、ボルトと第一小孔及び第二小孔とのクリアランス及びボルトとボルト孔とのクリアランスを小さくすることで、初期滑りを小さくして支圧を効果的に付与することができる。
【0012】
請求項2の発明は、複数の鋼材の端部の両側から添板で挟みボルトで締結することで、一方の鋼材と他方の鋼材とを接合する鋼材の接合構造であって、前記一方の鋼材の端部及び前記他方の鋼材の端部と、前記添板と、には、前記ボルトが挿入されるボルト孔が形成され、前記一方の鋼材の端部及び前記他方の鋼材の端部には、ピンが挿入されるピン孔が形成され、前記添板は第一板及び第二板で構成され、前記第一板は、前記一方の鋼材の端部及び前記他方の鋼材の端部を両側から挟み、前記一方の鋼材側に形成され前記一方側のピンが挿入された第一小孔と、前記他方の鋼材側に形成され前記一方側のピンと前記第一小孔とのクリアランスよりも他方側のピンとのクリアランスが大きくなるように構成され前記他方側のピンが挿入された前記第一大孔と、を有し、前記第二板は、前記第一板の外側に配置され、前記他方の鋼材側に形成され前記他方側のピンが挿入され前記第一大孔よりも小さい第二小孔と、前記一方の鋼材側に形成され前記一方側のピンが挿入され前記第一孔よりも大きい第二大孔と、を有し、前記添板に形成された前記ボルト孔と前記ボルトとのクリアランスが、前記第一小孔と前記一方側のピンとのクリアランス及び前記第二小孔と前記他方側のピンとのクリアランスのいずれよりも大きくなるように設定され、前記第一小孔、前記第一大孔、前記第二小孔、前記第二大孔、及び前記ピン孔に前記ピンを挿入する共に、前記ボルト孔に前記ボルトを挿入し、一方の鋼材と他方の鋼材とを接合した鋼材の接合構造。
【0013】
請求項2の発明では、ボルトとボルト孔とのクリアランスやピンと第一大孔及び第二大孔とのクリアランスに応じて、第一板と第二板とをずらすことができると共に、接合される一方の鋼材と他方の鋼材とをずらすことができる。つまり、ボルトとボルト孔とのクリアランスやピンと第一大孔及び第二大孔とのクリアランスに応じた施工時の誤差の吸収代がある。
【0014】
一方、ピンと第一小孔及び第二小孔とのクリアランス及びボルトとボルト孔とのクリアランスを小さくすることで、初期滑りを小さくし効果的に支圧を付与することできる。
【0015】
したがって、施工時の誤差の吸収代を確保しつつ、ピンと第一小孔及び第二小孔とのクリアランス及びボルトとボルト孔とのクリアランスを小さくすることで、初期滑りを小さくして支圧を効果的に付与することができる。
【0016】
請求項3の発明は、前記第一板及び前記第二板よりも剛性が低い材料で構成された低剛性層が、前記第一板と前記第二板との間に設けられている。
【0017】
請求項3の発明では、添板を構成する第一板と第二板との間に低剛性層を形成することで、鋼材の端部と添板との間の面圧が低下すると共に、面圧が生じる領域が広くなる。これにより、鋼材の端部と添板の間との摩擦抵抗が向上し、この結果、鋼材の端部と添板との初期すべり時における耐力変動が抑制される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、施工時の誤差の吸収代を確保しつつ、初期滑りを小さくして支圧を効果的に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一実施形態に係る鋼材の接合構造が適用されて接合された鉄骨梁の端部同士の接合部位を示す斜視図である
【図2】本発明の第一実施形態に係る鋼材の接合構造が適用されて接合された鉄骨梁の端部のフランジ同士の接合部位を示す斜視図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る鋼材の接合構造が適用されて接合された鉄骨梁の端部のフランジ同士の接合部位を示す縦断面図である。
【図4】図3に示す接合部位における(A)は支圧力を説明するための説明図であり、(B)は摩擦力を説明するための説明図である。
【図5】(A)は図3の説明図における荷重変形関係を説明するグラフであり、(B)は第一板と第二板との間の摩擦力を説明するための説明図である。
【図6】変形例を示す縦断面図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係る鋼材の接合構造が適用されて接合された鉄骨梁の端部のフランジ同士の接合部位を示す斜視図である。
【図8】本発明の第二実施形態に係る鋼材の接合構造が適用されて接合された鉄骨梁の端部のフランジ同士の接合部位を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第一実施形態]
図1〜図5を用いて、本発明の第一実施形態に係る鋼材の接合構造が適用された鉄骨梁の端部同士の接合について説明する。なお、各図において、鉄骨梁の長手方向をX方向として、鉛直方向をZ方向とする。また、X方向とZ方向と直交する方向をY方向とする。
【0021】
<鉄骨梁の端部同士の接合部位の全体構造>
まず、本発明に係る鋼材の接合構造によって接合された鉄骨梁同士が接合された接合部位の全体構造について説明する。
【0022】
図1に示すように、鋼材の一例としての鉄骨梁10Aの端部10ATと、鋼材の一例としての鉄骨梁10Bの端部10BTと、が添板100、200、300を介して接合されている。なお、以降、鉄骨梁10Aと鉄骨梁10Bとを区別する必要がない場合は、A,Bを省略することがある。また、他の部材や部位についても、鉄骨梁10A側に設けられている場合には、符号の後にAを付し、鉄骨梁10B側に設けられている場合には、符号の後にBを付す。
【0023】
本施形態では、鉄骨梁10は、フランジ12、14とウエブ16とで構成されたH形鋼とされている。鉄骨梁10Aのフランジ12A、14Bの夫々の両側面に添板100、200が配設され、鉄骨梁10Bのフランジ12B、14Bの両側面に添板100、200が配設されている。つまり、鉄骨梁10Aの端部10ATと鉄骨梁10Bの端部10BTとに跨って添板100、200が配設されている。更に、鉄骨梁10のウエブ16の両側面に添板300が配設されている。
【0024】
そして、添板100、200間と、添板300間と、を夫々ボルト80及びナット82で締め付けることで、鉄骨梁10Aの端部10ATと鉄骨梁10Bの端部10BTとが接合されている。なお、本実施形態においては、溶融亜鉛めっきしたボルト80とされると共に、高力ボルト接合(高力ボルト摩擦接合)とされている。
【0025】
本実施形態においては、添板100、200、300によって挟まれてボルト締結された部位は、鉄骨梁10の端部10Tにおけるフランジ12の接合部位、フランジ14の接合部位、及びウエブ16の接合部位の3つの接合部位がある。そして、鉄骨梁10の端部10Tにおけるフランジ12の接合部位とフランジ14の接合部位とが、本発明が適用された接合部位である。また、以降の説明では、鉄骨梁10の端部10Tにおけるフランジ12の接合部位を代表して説明する。
【0026】
<鉄骨梁の端部同士の接合構造>
つぎに、本発明の鋼材の接合構造によって接合された鉄骨梁10の端部10Tのフランジ12の接合部位の接合構造について説明する。
【0027】
図1〜図3に示すように、添板100は、第一板110と第二板120とが重ねられた構成となっている。同様に、添板200は、第一板210と第二板220とが重ねられた構成となっている。また、鉄骨梁10の端部10T側に添板100を構成する第一板110及び添板200を構成する第一板210が配置され、第一板110、210の外側に第二板120、220が配置されていている。なお、本実施形態では、ボルト80及びナット82と、添板100(第一板110)、添板200(第一板210)と、の間にはワッシャー83が挟まれて締結されている。
【0028】
なお、本実施形態においては、鉄骨梁10の端部10Tにおける添板100、200との接触面、第一板110と第二板120との接触面、第一板210と第二板220との接触面は、それぞれ摩擦接合用の表面処理(赤錆処理やブラスト処理)が行われ粗化されている。
【0029】
図2及び図3に示すように、鉄骨梁10A,10Bのフランジ12A,12Bには、ボルト80A,80Bが挿入されるボルト孔13A,13Bが形成されている。前述したように、添板100、200は、対をなす第一板110、210と対をなす第二板120、220で構成されている。そして、第一板110、210及び第二板120、220のそれぞれに形成されたボルトが挿入されるボルト孔は、大きさが異なっている。
【0030】
第一板110、210における鉄骨梁10A側にはボルト80Aが挿入可能な径の大きさの第一小孔112A,212Aが形成され、鉄骨梁10B側には第一小孔112A,212Aよりも大きい径の第一大孔114B,214Bが形成されている。
【0031】
第一板110、210の外側に配置された第二板120、220における鉄骨梁10B側にはボルト80Bが挿入可能且つ第一大孔114B,214Bよりも小さい径の第二小孔122B,222Bが形成され、鉄骨梁10A側には第一小孔112A,212A及び二小孔122B,222Bよりも大きい径の第二大孔124A,224Aが形成されている。
【0032】
そして、鉄骨梁10Aのフランジ12Aのボルト孔13A、添板100、200を構成する第一板110、210の第一小孔112A,212A、第二板120、220の第二大孔124A、224Aにボルト80Aを挿入し、鉄骨梁10Bのフランジ12Bのボルト孔13B、第一板110、210の第一大孔114B、214B、第二板120、220の第二小孔122B,222Bにボルト80Bを挿入し、ボルト締結されている。
【0033】
なお、本実施形態では、鉄骨梁10のウエブ16の両側面に配設された添板300に形成されたボルト孔は、第一大孔114B、214B、第二大孔124A、224Aのいずれの径よりも大きい径とされている。
【0034】
<作用及び効果>
つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0035】
図3に示すように、鉄骨梁10Aのボルト孔13Aに挿入されたボルト80Aに対して、添板100、200を構成する第二板120、220をボルト80Aと第二大孔124A、224Aとのクリアランス分移動することができる。また、鉄骨梁10Bのボルト孔13Bに挿入されたボルト80Bに対して、添板100、200を構成する第一板110、210をボルト80Bと第一大孔114B、214Bとのクリアランス分移動することができる。
【0036】
よって、ボルト80A,80Bと第一大孔114B、214B及び第二大孔124A、224Aとのクリアランス分、第一板110、210と第二板120、220とをずらすことができると共に、接合される鉄骨梁10Aと鉄骨梁10Bとをずらすことができる。つまり、ボルト80A,80Bと第一大孔114B、214B及び第二大孔124A、224Aとのクリアランスが、施工時の誤差の吸収代となる。
【0037】
また、図4(A)に示すように、鉄骨梁10Aと添板100、200との初期滑りによって、鉄骨梁10Aに挿入されたボルト80Aは第一板110、210の第一小孔112A,212Aとのクリアランスが解消されると第一板110、210の支圧を受ける。同様に、鉄骨梁10Bに挿入されたボルト80Bは第二板120、220の第二小孔122B,222Bとのクリアランスが解消されると第二板120、220の支圧を受ける。
【0038】
よって、ボルト80A,80Bと第一小孔112A,212A及び第二小孔122B,222Bとのクリアランスを小さくすることで、初期滑りを小さくし効果的に支圧を付与することできる(支圧抵抗Pb)。
【0039】
したがって、ボルト80A,80Bとボルト80A,80Bと第一大孔114B、214B及び第二大孔124A、224Aとのクリアランスを大きくすることで施工時の誤差の吸収代を確保しつつ、ボルト80A,80Bと第一小孔112A,212A及び第二小孔122B,222Bとのクリアランスを小さくすることで初期滑りを小さくして支圧を効果的に付与することができる。
【0040】
別の観点から説明すると、従来は支圧抵抗と施工誤差吸収とを一つのボルト孔で機能させていた。これに対して、本実施形態では、第一小孔112A,212A及び第二小孔122B,222Bは支圧抵抗用の孔として機能させ、第一大孔114B、214B及び第二大孔124A、224Aは施工誤差吸収用の孔として機能されている。つまり、機能分離させた構成となっている。
【0041】
なお、このように支圧を効果的に付与するために、本実施形態のように複数の第一小孔112A,212A及び第二小孔122B,222Bと複数のボルト80A,80Bとのクリアランスを小さくしても、容易に組み立てることができる。別の観点から説明すると、第一板110,210とにそれぞれ高精度で複数の第一小孔112A,212A及び第二小孔122B,222Bを形成しても、容易に組み立てることができる。
【0042】
また、図4(B)に示すように、鉄骨梁10の端部10Tに作用する力は、添板100、200を介して摩擦力によっても鉄骨梁10の端部10Tに伝達される(摩擦抵抗Pf)。
【0043】
よって、図5(A)に示すように、添板100、200と鉄骨梁10との間に、支圧抵抗Pb(支圧力)と摩擦抵抗Pf(摩擦力)との両方を作用させることで、どちらか一方の力を作用させる構成と比較し、耐力が向上する。
【0044】
なお、図5(B)に示すように、添板100、200を構成する第一板110、210と第二板120、220との間に摩擦抵抗Pcが生じる。そして、この摩擦抵抗Pcによって、第一板110、210と第二板120、220とが一体化される。
【0045】
なお、初期滑りをできるだけ少なくするために、ボルト80A,80Bと第一小孔112A,212A及び第二小孔122B,222Bとのクリアランスを、できるだけ小さくすることが望ましい。よって、第一小孔112A,212A及び第二小孔122B,222Bの径の大きさは、ボルト80A,80Bの外径よりも僅かに大きい径の大きさに設定することが望ましい。
【0046】
また、鉄骨梁10のフランジ12に形成されたボルト孔13の径の大きさは特に限定されないが、初期滑りを小さくする観点から、第一小孔112A,212A及び第二小孔122B,222Bと同様にできるだけ小さな径とすることが望ましい。
【0047】
なお、添板100の第一板110の第一小孔112A、第二板120の第二小孔122B、添板200の第一板210の第一小孔212A、第二板220の第二小孔222Bの径の大きさが夫々異なっていてもよい。同様に、添板100の第一板110の第一大孔114B、第二板120の第二大孔124A、添板200の第一板210の第一大孔214B、第二板220の第二大孔224Aの径の大きさが夫々異なっていてもよい。また、鉄骨梁10の各ボルト孔13も夫々径が異なっていてもよい。
【0048】
<変形例>
つぎに、本実施形態の変形例について説明うる。
【0049】
図6に示すように、添板100、200を構成する第一板110、210及び第二板120、220よりも剛性が低い材料で構成された低剛性層150が、第一板110、210と第二板120、220との間に設けられている。本実施形態では、低剛性層150は、ゴム板によって構成されている。つまり、第一板110、210と第二板120、220との間にゴム板(低剛性層150)を挟んだ状態でボルト締結されている。
【0050】
ここで、面圧が生じる領域が広範囲で低圧力である方が、狭い範囲で高圧力であるよりも、摩擦抵抗が大きくなることが知られている。
【0051】
よって、本変形例のように、添板100、200を構成する第一板110、210と第二板120、220との間に低剛性層150を設けることで、鉄骨梁10のフランジ12と添板100、200との間の面圧が低下すると共に、面圧が生じる領域が広くなる。
【0052】
図6における矢印E1が、低剛性層150が設けられていない場合の面圧を示し、矢印E2が低剛性層150が設けられている場合の面圧を示している。なお、この矢印E1,E2は面圧の大きさと範囲とを説明するためのものであり、実際の面圧の大きさと範囲とが正確に表現されたものではない。
【0053】
このように面圧が生じる領域が広くなることにより、鉄骨梁10の端部10Tと添板100、300の間との摩擦抵抗が向上し、この結果、鉄骨梁10の端部10Tと添板100、200との初期すべり時における耐力変動を抑制することができる。
【0054】
なお、低剛性層150は、ゴム板に限定されない。例えば、ジェル状の板(例えば、耐震ジェルマット)であってもよい。或いは、第二板120、220よりも強度(硬度)が小さい金属を溶射することで形成される金属溶射層であってもよい。
【0055】
[第二実施形態]
図8〜図9を用いて、本発明の第二実施形態に係る鋼材の接合構造が適用された鉄骨梁の端部同士の接合について説明する。なお、第一実施形態と同一の部材には同一の符号を付す。また、また、第一実施形態と同様に、本発明が適用された添板100によって挟まれてボルト締結された部位は、鉄骨梁10の端部10Tにおけるフランジ12の接合部位、フランジ14の接合部位の接合部位がある。以降の説明では、鉄骨梁10の端部10Tにおけるフランジ12の接合部位を代表して説明する。
【0056】
<鉄骨梁の端部同士の接合構造>
つぎに、本発明の第二実施形態に係る鋼材の接合構造によって接合された鉄骨梁10、20の端部10Tのフランジ12の接合構造について説明する
【0057】
図7及び図8に示すように、添板300は、第一板310と第二板320とが重ねられた構成となっている。同様に、添板400は、第一板410と第二板420とが重ねられた構成となっている。また、鉄骨梁10の端部10T側に添板300を構成する第一板310及び添板400を構成する第一板310が配置され、第一板310、410の外側に第二板320、420が配置されている。
【0058】
なお、本実施形態においては、鉄骨梁10の端部10Tにおける添板200、300との接触面、第一板310と第二板320との接触面、第一板410と第二板420とのる接触面に、それぞれ摩擦接合用の表面処理(赤錆処理やブラスト処理)を行っている。
【0059】
鉄骨梁10のフランジ12には、ボルト80が挿入されるボルト孔15が形成されている。更に、鉄骨梁10の端部10Tのフランジ12には円柱状のシアピン(せん断ピン)500が挿入されるピン孔17が形成されている。前述したように、添板300、400は、対をなす第一板310、410と対をなす第二板320、420とで構成されている。そして、第一板310、410及び第二板320、420のそれぞれにボルト80が挿入されるボルト孔313、323、413、423が形成されている。
【0060】
第一板310、410における鉄骨梁10A側にはボルト500Aが挿入可能な径の大きさの第一小孔312A,412Aが形成され、鉄骨梁10B側には第一小孔312A,412Aよりも大きい径の第一大孔314B,414Bが形成されている。
【0061】
第一板310、410の外側に配置された第二板320、420における鉄骨梁10B側にはシアピン500Bが挿入可能且つ第一大孔314B,414Bよりも小さい径の第二小孔322B,422Bが形成され、鉄骨梁10A側には第一小孔312A,412A及び第二小孔322B,422Bよりも大きい径の第二大孔324B,424Bが形成されている。
【0062】
鉄骨梁10Aのフランジ12Aのピン孔17A、添板300、400を構成する第一板310、410の第一小孔312A,412A、第二板320、420の第二大孔324A、424Aにシアピン500Aが挿入されると共に、鉄骨梁10Bのフランジ12Bのピン孔17B、第一板310、410の第一大孔314B、414B、第二板320、420の第二小孔322B,422Bにシアピン500Bが挿入されている。
【0063】
そして、鉄骨梁10のフランジ12のボルト孔15、添板300、400を構成する第一板310、410のボルト孔313、413、第二板320、420のボルト孔323、423にボルト80を挿入しボルト締結されている。
【0064】
なお、鉄骨梁10のフランジ12のボルト孔15、添板300、400を構成する第一板310、410のボルト孔313、413、第二板320、420のボルト孔323、423の、それぞれにおけるボルト80とのクリアランスは、添板300、400を構成する第一板310、410の第一小孔312A,412A、第二板320、420の第二小孔322B,422Bとシアピン500とのクリアランスよりも、大きくなるように設定されている。
【0065】
更に、本実施形態では、各ボルト孔15、313、413、323、423とボルト80とのクリアランスは、添板300、400を構成する第一板310、410の第一大孔314B,414B、第二板320、420の第二大孔324A,424Aとシアピン500とのクリアランスよりも、大きくなるように設定されている。
【0066】
また、シアピン500が脱落しないように脱落防止手段が設けられている。脱落防止手段は、どのようなものであってもよい。例えば、シアピン500を第二板320、420から突出させ突出部分にピンやキャップなど設けてもよい。或いは、第二板320、340の更に外側にピン孔を塞ぐ外側板(図示略)を設けてもよい。
【0067】
<作用及び効果>
つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0068】
第一実施形態と同様に、鉄骨梁10Aのピン孔17Aに挿入されたシアピン500Aに対して、添板300、400を構成する第二板320、420をシアピン500Aと第二大孔324A、424Aとのクリアランス分移動することができる。また、鉄骨梁10Bのピン孔17Bに挿入されたシアピン500Bに対して、添板300、400を構成する第一板310、410をシアピン500Bと第一大孔314B、414Bとのクリアランス分移動することができる。
【0069】
よって、シアピン500A,500Bと第一大孔314B、414B及び第二大孔324A、424Aとのクリアランス分、第一板310、410と第二板320、420とをずらすことができると共に、接合される鉄骨梁10Aと鉄骨梁10Bとをずらすことができる。つまり、シアピン500A,500Bと第一大孔314B、414B及び第二大孔324A、424Aとのクリアランスが、施工時の誤差の吸収代となる。
【0070】
また、鉄骨梁10Aと添板300、400との初期滑りによって、鉄骨梁10Aに挿入されたシアピン500Aは第一板310、410の第一小孔312A,412Aとのクリアランスが解消されると第一板310、410の支圧を受ける。同様に、鉄骨梁10Bに挿入されたシアピン500Bは第二板320、420の第二小孔322B,422Bとのクリアランスが解消されると第二板320、420の支圧を受ける。
【0071】
よって、シアピン500A,500Bと第一小孔312A,412A及び第二小孔322B,422Bとのクリアランスを小さくすることで、初期滑りを小さくし効果的に支圧を付与することできる。
【0072】
したがって、シアピン500A,500Bと第一大孔314B、414B及び第二大孔324A、424Aとのクリアランスを大きくすることで施工時の誤差の吸収代を確保しつつ、シアピン500A,500Bと第一小孔312A,412A及び第二小孔322B,422Bとのクリアランスを小さくすることで初期滑りを小さくして支圧を効果的に付与することができる(支圧抵抗Pb)。
【0073】
別の観点から説明すると、従来は支圧抵抗と施工誤差吸収とを一つのピン孔で機能させていた。これに対して、本実施形態では、第一小孔312A,3412A及び第二小孔322B,422Bは支圧抵抗用の孔として機能させ、第一大孔314B、414B及び第二大孔324A、424Aは施工誤差吸収用の孔として機能されている。つまり、機能分離させた構成となっている。
【0074】
また、鉄骨梁10の端部10Tに作用する力は、添板300、400を介して摩擦力によっても鉄骨梁10の端部10Tに伝達される(摩擦抵抗Pf)。
【0075】
よって、支圧抵抗Pb(支圧力)と摩擦抵抗Pf(摩擦力)との両方を作用させることで、どちらか一方の力を作用させる構成と比較し、耐力が向上する(図5を参照)。
【0076】
なお、鉄骨梁10のフランジ12に形成されたピン孔17の径の大きさは特に限定されないが、初期滑りを小さくする観点から、第一小孔312A,412A及び第二小孔322B,422Bと同様にできるだけ小さい径であることが望ましい。
【0077】
なお、添板300の第一板310の第一小孔312A、第二板320の第二小孔322B、添板400の第一板410の第一小孔412A、第二板420の第二小孔422Bの径の大きさが夫々異なっていてもよい。同様に、添板300の第一板310の第一大孔114B、第二板320の第二大孔324A、添板400の第一板410の第一大孔414B、第二板420の第二大孔424Aの径の大きさが夫々異なっていてもよい。また、鉄骨梁10の各ボルト孔15も径が異なっていてもよい。
【0078】
ここで、前述したように、本実施形態では、各ボルト孔15、313、413、323、423とボルト80とのクリアランスは、添板300、400を構成する第一板310、410の第一大孔314B,414B、第二板320、420の第二大孔324A,424Aとシアピン500とのクリアランスよりも、大きくなるように設定されている。
【0079】
しかし、各ボルト孔15、313、413、323、423におけるそれぞれのボルト80とのクリアランスは、第一板310、410の第一大孔314B,414B、第二板320、420の第二大孔324A,424Aとシアピン500とのクリアランスよりも、小さくてもよい。
【0080】
そして、第一板310、410におけるボルト孔15とボルト80とのクリアランスが第一大孔314B,414Bとシアピン500Bのクリアランスよりも小さい場合は、第一板310、410をボルト80とボルト孔15とのクリアランス分移動することができる。同様に、第二板320、420におけるボルト孔15とボルト80とのクリアランスが第二大孔324A,424Aとシアピン500Bのクリアランスよりも小さい場合は、第二板320、420をボルト80とボルト孔15とのクリアランス分移動することができる。
【0081】
なお、本実施形態ではシアピン500は断面形状が円形の円柱であったが、これに限定されない。断面形状が、円形以外、例えば六角形、四角形、或いは楕円等であってもよい。なお、円形以外の場合は、ピン孔、第一小孔、第二小孔、第一大孔、第二大孔の形状は、シアピンの形状に応じた形状に適宜設定する。そして、シアピン500の断面形状が、六角形、四角形、楕円形等は、円形に比べてシアピンと孔壁との相互に加わる単位面積あたりの支圧力が小さくなるように設定することができるので、支圧力によるシアピンや孔壁の塑性変形を抑えるのに有効である。
【0082】
また、本実施形態においても、第一実施形態の変形例と同様に、第一板310、410と第二板320、420との間に低剛性層150(図6を参照)を設けてもよい。
【0083】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0084】
添板300によって接合されている部位は、本発明が適用されていなかったが、添添板300で接合されているウエブ16間の接合部位にも、本発明を適用してもよい。
【0085】
また、複数の実施形態及び変形例は、適宜、組み合わされて実施可能である。例えば、鉄骨梁10A側に第一実施形態の接合構造を適用し、鉄骨梁10B側に第二実施形態の接合構造を適用してもよい。或いは、フランジ12側に第一実施形態の接合構造を適用し、フランジ14側に第二実施形態の接合構造を適用してもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、鉄骨梁の端部同士の接合部位に本発明の接合構造を適用したが、これに限定されない。
【0087】
例えば、H形鋼以外の形鋼(例えば、溝形鋼や鋼管等)や他の鋼材の接合部位に本発明の接合構造を適用してもよい。また、梁以外の接合部位にも本発明を適用することができる。例えば、鉄骨柱の外周に上下2枚のダイアフラムを溶接し、このダイアフラムに鉄骨梁の端部を接合する外ダイアフラム構造にも本発明を適用することができる。
【0088】
また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【0089】
以下のような鋼材の接合構造であってもよい。
複数の鋼材の端部の両側から添板で挟みボルトで締結することで、一方の鋼材と他方の鋼材とを接合する鋼材の接合構造であって、
一方の前記鋼材の端部を貫通する第一ピン部材と、
他方の鋼材の端部を貫通する第二ピン部材と、
を有し、
前記添板は第一板及び第二板で構成され、
前記第一板は、前記一方の鋼材の端部及び前記他方の鋼材の端部を両側から挟み、前記一方の鋼材側に形成され前記第一ピン部材が挿入した第一小孔と、前記他方の鋼材側に形成され前記第一ピン部材と前記第一小孔とのクリアランスよりも前記第二ピン部材とのクリアランスが大きくなるように構成され前記第二ピン部材が挿入した第一大孔と、を有し、
前記第二板は、前記第一板の外側に配置され、前記他方の鋼材側に形成され前記第二ピン部材が挿入し且つ前記第一大孔よりも小さい第二小孔と、前記一方の鋼材側に形成され前記第一ピン部材が挿入し前記第一小孔よりも大きい第二大孔と、を有する、
一方の鋼材と他方の鋼材とを接合する鋼材の接合構造。
更に、前記第一ピン部材及び前記第二ピン部材の少なくとも一方が、前記ボルトである、鋼材の接合構造。
【符号の説明】
【0090】
10A 鉄骨梁(一方の鋼材)
10B 鉄骨梁(他方の鋼材)
10T 端部
13 ボルト孔
14 ボルト孔
16 ピン孔
80A ボルト(一方側のボルト)
80B ボルト(他方側のボルト)
100 添板
110 第一板
112A 第一小孔
114B 第一大孔
120 第二板
122B 第二小孔
124A 第二大孔
200 添板
210 第一板
212A 第一小孔
214B 第一大孔
220 第二板
222B 第二小孔
224A 第二大孔
300 添板
310 第一板
312A 第一小孔
313 ボルト孔
314B 第一大孔
320 第二板
322B 第二小孔
323 ボルト孔
324A 第二大孔
400 添板
410 第一板
412A 第一小孔
413 ボルト孔
414B 第一大孔
420 第二板
422B 第二小孔
423 ボルト孔
424A 第二大孔
500A シアピン(一方側のピン)
500B シアピン(他方側のピン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼材の端部の両側から添板で挟みボルトで締結することで、一方の鋼材と他方の鋼材とを接合する鋼材の接合構造であって、
前記一方の鋼材の端部及び前記他方の鋼材の端部には、前記ボルトが挿入されるボルト孔が形成され、
前記添板は第一板及び第二板で構成され、
前記第一板は、前記一方の鋼材の端部及び前記他方の鋼材の端部を両側から挟み、前記一方の鋼材側に形成され一方側の前記ボルトが挿入された第一小孔と、前記他方の鋼材側に形成され前記一方側のボルトと前記第一小孔とのクリアランスよりも他方側のボルトとのクリアランスが大きくなるように構成され前記他方側のボルトが挿入された前記第一大孔と、を有し、
前記第二板は、前記第一板の外側に配置され、前記他方の鋼材側に形成され前記他方側のボルトが挿入され前記第一大孔よりも小さい第二小孔と、前記一方の鋼材側に形成され前記一方側のボルトが挿入され前記第一小孔よりも大きい第二大孔と、を有し、
前記第一小孔、前記第一大孔、前記第二小孔、前記第二大孔、及び前記ボルト孔に前記ボルトを挿入して、一方の鋼材と他方の鋼材とを接合した鋼材の接合構造。
【請求項2】
複数の鋼材の端部の両側から添板で挟みボルトで締結することで、一方の鋼材と他方の鋼材とを接合する鋼材の接合構造であって、
前記一方の鋼材の端部及び前記他方の鋼材の端部と、前記添板と、には、前記ボルトが挿入されるボルト孔が形成され、
前記一方の鋼材の端部及び前記他方の鋼材の端部には、ピンが挿入されるピン孔が形成され、
前記添板は第一板及び第二板で構成され、
前記第一板は、前記一方の鋼材の端部及び前記他方の鋼材の端部を両側から挟み、前記一方の鋼材側に形成され前記一方側のピンが挿入された第一小孔と、前記他方の鋼材側に形成され前記一方側のピンと前記第一小孔とのクリアランスよりも他方側のピンとのクリアランスが大きくなるように構成され前記他方側のピンが挿入された前記第一大孔と、を有し、
前記第二板は、前記第一板の外側に配置され、前記他方の鋼材側に形成され前記他方側のピンが挿入され前記第一大孔よりも小さい第二小孔と、前記一方の鋼材側に形成され前記一方側のピンが挿入され前記第一孔よりも大きい第二大孔と、を有し、
前記添板に形成された前記ボルト孔と前記ボルトとのクリアランスが、前記第一小孔と前記一方側のピンとのクリアランス及び前記第二小孔と前記他方側のピンとのクリアランスのいずれよりも大きくなるように設定され、
前記第一小孔、前記第一大孔、前記第二小孔、前記第二大孔、及び前記ピン孔に前記ピンを挿入する共に、前記ボルト孔に前記ボルトを挿入し、一方の鋼材と他方の鋼材とを接合した鋼材の接合構造。
【請求項3】
前記第一板及び前記第二板よりも剛性が低い材料で構成された低剛性層が、前記第一板と前記第二板との間に設けられている請求項1又は請求項2に記載の鋼材の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−127165(P2012−127165A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282181(P2010−282181)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】