説明

鋼板の製造方法および製造設備

【課題】鋼板の全長、全幅にわたり優れた化成処理性が得られる鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】直火加熱炉とこれに続く焼鈍炉を備えた連続焼鈍設備において鋼板を製造する方法であって、前記直火加熱炉では、燃焼ガスとは別に、酸化作用を有するガスを吹き込みながら鋼板を加熱した後、前記焼鈍炉で鋼板を焼鈍する。Siを含有する高強度冷延鋼板であっても酸化量を十分に確保することができ、また、鋼板のサイズ変更時の非定常部についても、酸化量を十分に確保し且つ均一な内部酸化層を生成させることができ、全長、全幅にわたり化成処理性の良好な鋼板を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直火加熱炉と焼鈍炉を備えた連続焼鈍設備を用いた鋼板の製造方法および製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、家電、建材等の分野において、構造物の軽量化等に寄与可能な高張力鋼(ハイテン材)の需要が高まっている。このハイテン技術では、鋼中にSiを添加すると穴広げ性の良好な高張力鋼板が製造できる可能性があり、また、SiやAlを含有すると残留γが形成されやすくなり、延性の良好な鋼板が提供できる可能性が示されている。
鋼板の連続焼鈍ラインでは、鋼板を横型若しくは竪型の連続焼鈍設備内を通板させて連続焼鈍した後、ガスジェット冷却若しくはウォータークエンチ冷却などを施し、鋼板に機械的特性を付与している。連続焼鈍ライン内を通板する鋼板は、例えば、予熱帯で約450℃程度に予熱された後、加熱帯で直火バーナーにより約680℃に加熱され、さらに還元帯で約800℃に加熱された後、冷却帯で500℃まで冷却されるという一連の工程を経て巻き取られる。
【0003】
高強度冷延鋼板は、鋼中元素としてSi、Mn等が添加された鋼板であり、特に焼鈍時に表面濃化するSi酸化物が化成処理を著しく劣化させることが従来から知られており、化成処理性に優れた高強度冷延鋼板の開発が従来から切望されていた。
高強度冷延鋼板の化成処理性を改善する技術として、例えば、特許文献1において、塩酸や硫酸などを用いた酸洗処理により鋼板表面に濃化したSi酸化物を特定の被覆率以下まで除去する技術が開示されている。しかしながら、Si酸化物は塩酸や硫酸などの一般的な酸には溶解しないため、この方法によるSi酸化物の除去は全く現実的ではない。また、特定の被覆率以下であってもSi酸化物の残存は化成処理性に甚大な悪影響を及ぼすため、例えば、厳しい条件下で化成処理を行った場合などにおいては、良好な化成処理性を確保することは極めて困難である。
【0004】
冷延鋼板の化成処理性と耐型かじり性の改善を目的とした技術として、例えば、特許文献2,3などが開示されている。
特許文献2は、Ni、Mn、Co、Mo、Cuの1種以上を冷延鋼板表面に不連続に析出させる技術である。しかしながら、この技術をSiを含有する冷延鋼板に適用したとしても、鋼板表面上にはSi酸化物がそのまま残存した状態であるため、化成処理性は不良である。さらに、MoやCuなどの元素は化成処理性に悪影響を及ぼすため、化成処理時の溶出により却って化成処理性が劣化するという問題がある。
特許文献3は、冷延鋼板の表面に、下層が0価亜鉛主体の極薄皮膜、上層が2価の亜鉛と第2元素群(P、B、Siの1種以上)の酸化物からなる非晶質皮膜で構成される複層皮膜を形成する技術である。しかしながら、この技術をSiを含有する冷延鋼板に適用したとしても、鋼板表面にはSi酸化物がそのまま残存した状態であるため、化成処理性は不良である。
【0005】
一方、焼鈍前の冷延鋼板に表面処理を施すことにより化成処理性や耐型かじり性を改善することを目的とした技術が、例えば、特許文献4,5などに開示されている。
特許文献4は、Ni、Co、Al、Zn、Cr、Ti、Sb、Biの1種以上を含む化合物を冷延鋼板表面に塗布した後、焼鈍を行うことにより、冷延鋼板表面に金属酸化化合物または金属を生成させ、これを化成処理反応時の結晶核とすることにより化成処理性を向上させることを狙いとする技術である。しかしながら、上記化合物を焼鈍前のSi含有冷延鋼板の表面に塗布したとしても、焼鈍時のSiの表面濃化を抑制することはできず、焼鈍後の鋼板表面にはSi酸化物が形成されるため、良好な化成処理性を得ることはできない。
【0006】
特許文献5は、水溶性非金属リン酸塩およびNa、Ca、Mg、Mn、Fe、Sn、Al、Co等の有機酸塩を冷延鋼板の表面に塗布した後、焼鈍を行うことにより、冷延鋼板表面にリン酸塩皮膜を形成して耐型かじり性を向上させることを狙いとする技術である。しかしながら、この技術では、耐型かじり性の多少の改善は認められるものの、良好な化成処理性の確保は全く考慮されておらず、形成されたリン酸塩皮膜の上層には化成処理皮膜はほとんど形成されない。さらに、上記化合物を焼鈍前のSi含有冷延鋼板の表面に塗布したとしても、焼鈍時のSiの表面濃化を抑制することはできず、焼鈍後の鋼板表面にはSi酸化物が形成されるため、化成処理性は不良である。
【0007】
また、直火加熱炉を用いたSi、Mn等の易酸化元素を有する鋼板の製造方法として、直火加熱炉出側の温度をSi量との関係で規定することで、溶融亜鉛めっき鋼板のメッキ性改善を図る技術が、特許文献6に開示されている。この技術は、比較的安価にメッキ性改善が実現できるため有効な手段ではあるが、鋼板酸化物が炉内ロールの表面に付着し、その付着物が再度鋼板に押し付けられて生じる欠陥(ピックアップ欠陥)が発生する場合があり、それにより生産性が阻害されるという問題がある。
【0008】
一方、直火加熱炉を用いて、Siを0.1mass%以上含有する冷延鋼板の化成処理性の劣化を防止する技術が特許文献7に開示されている。この特許文献7の技術は、直火加熱炉を通過する際の鋼板温度が400℃以上で、鉄の酸化雰囲気下で鋼板表面に酸化皮膜を形成させ、その後、鉄の還元雰囲気下で鋼板表面の酸化膜を還元するものである。具体的には、酸化膜を形成させる際の空気比を0.93以上、1.10以下として加熱し、その後、ラジアントチューブバーナーを備えた還元雰囲気下で酸化膜を還元するものである。直火加熱炉で鋼板を連続加熱するプロセスでは、例えば、鋼板の板厚が変化した場合、バーナー燃焼量やライン速度などを変更する必要があるが、この変更時、炉温が均一化するまでの間は、鋼板温度が鋼板長手方向で変動するため酸化量も変動してしまい、鋼板長手方向で均一な材質や性能が得られないという問題がある。この特許文献7の技術は、このような課題を解決できない。
【0009】
また、特許文献8には、直火加熱炉にて連続加熱を行う際に板幅方向の温度を均一化するために、鋼板に冷却ガスを噴射する技術が開示されているが、この技術は、主に鋼板エッジ部の過熱、過酸化に起因した板幅方向での品質のばらつきを解消するために、板幅方向での鋼板温度を均一化しようとするものであり、したがって、この特許文献8の技術でも、上述したような課題を解決できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−323969号公報
【特許文献2】特開平3−236491号公報
【特許文献3】特開平10−158858号公報
【特許文献4】特開昭55−14854号公報
【特許文献5】特開昭52−63831号公報
【特許文献6】特開平7−316762号公報
【特許文献7】特開2006−45615号公報
【特許文献8】特開平8−209251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように従来においては、Siを含有する冷延鋼板の化成処理性を十分に満足させる技術は確立されておらず、特にSiを含有する高強度冷延鋼板の化成処理性を満足させる技術は存在しなかった。
したがって本発明の目的は、Siを含有する鋼板(例えば、Si量が0.2mass%以上の高強度冷延鋼板)であっても、鋼板の全長、全幅にわたり優れた化成処理性が得られる鋼板の製造方法および製造設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
直火加熱炉プロセスは、直接鋼板に火炎雰囲気が作用するため、内部酸化層の生成が必要な高Si鋼の製造に適している特徴を持つ一方で、原理的に鋼板エッジ部が高温化しやすく、また、高温になると酸化速度が急激に高まるので酸化量を制御しにくいなどの問題がある。また、板厚などのサイズ変更時にライン速度やバーナー燃焼量を変更した場合、炉内温度が安定するまでの間、鋼板の温度が変動してしまうという問題も発生する。これらの問題により、鋼板の長手方向、幅方向の一部で酸化量が不足し、均一で良好な化成処理性を得ることができなくなる。そこで、本発明者らは、直火加熱炉において、火炎(燃焼ガス)とは別に、鋼板の酸化を促進させるガスを供給することで、上記問題を解決する方法を見出し、本発明を得るに至った。
すなわち、上記課題を解決する本発明の要旨は以下のとおりである。
【0013】
[1]直火加熱炉とこれに続く焼鈍炉を備えた連続焼鈍設備において鋼板を製造する方法であって、前記直火加熱炉では、燃焼ガスとは別に、酸化作用を有するガスを吹き込みながら鋼板を加熱した後、前記焼鈍炉で鋼板を焼鈍することを特徴とする鋼板の製造方法。
[2]上記[1]の製造方法において、酸化作用を有するガスの鋼板幅方向における吹き込み範囲および/または吹き込み量を調整してガス吹込みを行うことを特徴とする鋼板の製造方法。
[3]上記[1]または[2]の製造方法において、酸化作用を有するガスの吹込みを、直火加熱炉の少なくとも1つのゾーンで行うことを特徴とする鋼板の製造方法。
[4]上記[3]の製造方法において、酸化作用を有するガスの吹込みを、直火加熱炉の最終ゾーン以外のゾーンで行うことを特徴とする鋼板の製造方法。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの製造方法において、Si量が0.2mass%以上の鋼板を加熱・焼鈍することを特徴とする鋼板の製造方法。
【0014】
[6]直火加熱炉とこれに続く焼鈍炉を備えた連続焼鈍設備を用いた鋼板の製造設備であって、前記直火加熱炉は、燃焼ガスとは別に、酸化作用を有するガスを吹き込むためのガス吹き込み手段を有することを特徴とする鋼板の製造設備。
[7]上記[6]の製造設備において、ガス吹き込み手段は、酸化作用を有するガスの鋼板幅方向における吹き込み範囲および/または吹き込み量が調整可能であることを特徴とする鋼板の製造設備。
[8]上記[6]または[7]の製造設備において、ガス吹き込み手段は、直火加熱炉の少なくとも1つのゾーンに設けられることを特徴とする鋼板の製造設備。
[9]上記[8]の製造設備において、ガス吹き込み手段は、直火加熱炉の最終ゾーン以外のゾーンに設けられることを特徴とする鋼板の製造設備。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、直火加熱炉を備えた連続焼鈍設備において鋼板を製造する際に、直火加熱炉において、燃焼ガスとは別に、酸化作用を有するガスを吹き込みながら鋼板を加熱することにより、Siを含有する高強度冷延鋼板を製造する場合でも酸化量を十分に確保することができ、また、鋼板のサイズ変更時の非定常部についても、酸化量を十分に確保し且つ均一な内部酸化層を生成させることができ、全長、全幅にわたり化成処理性の良好な鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施に供される直火加熱炉を模式的に示す側面図
【図2】図1の直火加熱炉を模式的に示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1および図2は、本発明の実施に供される、鋼板の連続焼鈍設備(CAL)の直火加熱炉X(竪型炉)を模式的に示すもので、図1は側面図、図2は正面図である。この直火加熱炉Xの下流側には、図示しない焼鈍炉(均熱炉)が設置され、連続通板する鋼板は、直火加熱炉Xで加熱された後、引き続き焼鈍炉で焼鈍される。
前記直火加熱炉X内には、ライン方向および幅方向で適当な間隔をおいて直火バーナー1が設置されており、通板方向の最下流側を還元ゾーン3、その上流側を酸化ゾーン2としてある。前記直火バーナー1は、通板する鋼板Sの両側に設置されている。また、図において、6a〜6dは炉内ロール(搬送ロール)である。
【0018】
本発明では、直火加熱炉Xに、直火バーナー1の燃焼ガスとは別に、酸化作用を有するガス(以下、説明の便宜上「酸化性ガス」という)を吹き込むためのガス吹き込み手段Aを設け、このガス吹き込み手段Aを通じて炉内に酸化性ガスを吹き込みながら鋼板を加熱することにより、鋼板の酸化反応を調整できるようにしたものである。この酸化性ガスの吹き込みは、複数の加熱ゾーン(本実施形態では、酸化ゾーン2、還元ゾーン3)を有する直火加熱炉Xの少なくとも1つのゾーンで行う。
前記ガス吹き込み手段Aから炉内に導入される酸化性ガスとしては、例えば、酸素、酸素含有ガス(空気など)、オゾン、オゾン含有ガス、CO、CO含有ガスなどが挙げられ、これらの1種を単独で若しくは2種以上を混合して用いることができる。
また、ガス吹き込み手段Aから炉内に導入される酸化性ガスは、鋼板の酸化を促進するという観点からはあまり低温でない方がよく、一般には50℃以上が好ましい。
【0019】
本実施形態では、酸化ゾーン2のうちの下流側領域の2箇所にガス吹き込み手段A,Aが設置されている。各ガス吹き込み手段Aは、炉内において通板する鋼板Sの両側に設置されるガスノズル4a,4bと、これらガスノズル4a,4bに酸化性ガスを供給するガス供給管5などで構成されている。
各ガスノズル4a,4bは、鋼板全幅に亘って酸化性ガスを供給するため、鋼板幅方向に沿って配置され、ノズル幅方向で適当な間隔をおいて形成された複数のガス噴射孔40を有している。なお、ガスノズル4a,4bは、鋼板幅方向に沿ったノズルスリットを有するものであってもよい。
本発明においてガス吹き込み手段Aによる酸化性ガスの導入位置は、酸化ゾーン2が好ましいが、なかでも、鋼板の温度が高温となり、より酸化が促進される酸化ゾーン2の下流側領域、特に最下流側領域(最終酸化ゾーン)が好適である。ここで、酸化ゾーン2の下流側領域とは、酸化ゾーン2のうちの下流側半分の領域を指し、最下流側領域とは、前記下流側領域のうちのさらに下流側半分の領域(すなわち、酸化ゾーン2のうちの最下流側1/4の領域)を指す。本実施形態では、2つのガス吹き込み手段Aのうち、ガス吹き込み手段Aが酸化ゾーン2の最下流側領域に設置されている。
【0020】
一方、還元ゾーン3にガス吹き込み手段Aを設置し、酸化性ガスを吹き込んだ場合、還元ゾーン3での鋼板表面の還元が十分に行われなくなる。この結果、鋼板は表面に厚い酸化物を生成した状態で還元ゾーン出側の炉内ロール6dに接触し、炉内ロール6dに酸化物が堆積し、いわゆるピックアップが発生する。そして、このピックアップにより、炉内ロール6dに接触する鋼板面に押し疵が生じてしまう。したがって、このようなピックアップを防止するためには、直火加熱炉X内の最終ゾーン(還元ゾーン3)では、還元バーナーのみを設置すること、すなわち、ガス吹き込み手段Aは最終ゾーン(還元ゾーン)以外のゾーンに設置することが望ましい。
【0021】
ガス吹き込み手段Aは、酸化性ガスの鋼板幅方向における吹き込み範囲および/または吹き込み量を調整可能とすることが好ましく、これにより酸化性ガスの鋼板幅方向における吹き込み範囲および/または吹き込み量を調整しつつガス吹込みを行うことができ、板幅方向での鋼板の酸化量を自在に制御することができる。
ガス吹き込み手段Aによる酸化性ガスの吹き込み範囲および/または吹き込み量を鋼板幅方向で調整可能とするために、例えば、ガスノズル4a,4bが有する複数のガス噴射孔40に各々独立してガスを供給するガス供給管を接続し、この各ガス供給管にガス供給のON/OFFおよび/またはガス流量の調整を可能とするバルブを設ける。
【0022】
直火加熱炉では、例えば、以下のような問題を生じることがある。
(a)高張力鋼板を製造する際に、酸化ゾーンでの鋼板酸化量が不足した場合、化成処理性不良を起こす。
(b)鋼板の板厚変更時に非定常部発生に伴う温度変動を生じ、これにより酸化量不足が発生する。
本発明は、このような問題に対して特に有効な手段となる。
まず、上記(a)の問題に対しては、酸化ゾーン2においてガス吹き込み手段Aから炉内に酸化性ガスを導入することにより、高張力鋼板の酸化量を高めることができる。
【0023】
また、上記(b)の問題に対しては、連続焼鈍ラインで焼鈍される鋼板のサイズは常に一定である訳ではなく、接続される鋼板コイルによって板厚、板幅ともに変化する。特に板厚変更時には、ライン速度や直火バーナー燃焼量が変更されるため、板厚変更後の鋼板トップ部(先端部)では温度変動が発生しやすく、それに伴い酸化量が変動してしまう。例えば、板厚の薄い鋼板から板厚の厚い鋼板に変更される場合には、鋼板温度を確保するためにバーナー燃焼量を増加させるが、炉温が一定となるまでにはある程度の時間を要するために鋼板温度が低下してしまい、酸化量不足となる可能性が高い。そこで、そのような場合に、酸化ゾーン2の下流側領域に設置したガス吹き込み手段Aから酸化性ガスを吹き込むことにより鋼板表面の酸化を促進させ、酸化量を確保することが可能となる。
【0024】
また、鋼板の板幅が変更されると、鋼板エッジ部の温度低下を生じ、酸化量が少なくなるが、このような場合には、鋼板エッジ部に酸化性ガスを吹き込むことで酸化量を確保することが可能となる。
本発明は、直火加熱炉において鋼板を加熱するに際して、鋼板の全長、全幅に亘って酸化量を均一化できるので、内部酸化層を均一に生成させる必要がある鋼板、すなわちSi量が0.1mass%以上の冷延鋼板、特にSi量が0.2mass%以上の高強度冷延鋼板の製造に好適なものである。
【実施例】
【0025】
図1および図2に示すような直火加熱炉とこれに続く焼鈍炉(均熱炉)を有する連続焼鈍設備において、鋼板の製造を行った。酸化ゾーン2(下流側領域)に設置されたガス吹き込み手段A,Aを各々構成するガスノズル4a,4bは、鋼板幅方向に沿って間隔(250mm間隔)をおいて9個のガス噴射孔40(φ50mm)を有している。各ガス噴射孔40には、各々ガス供給管が接続され、この各ガス供給管はガス流量を調整でき且つガス供給をON/OFFできる流量調整バルブを有している。
表2に示す鋼成分を有し、板厚が1.0mm〜1.6mm、板幅が900〜1200mmの冷延鋼板を、ライン速度60〜120mpm、直火加熱炉出側目標温度720℃、焼鈍温度830℃で連続焼鈍した。直火バーナー1の燃焼用ガスには、表1の組成のガスを使用した。ガスノズル4a,4bが有する複数のガス噴射孔40については、前記流量調整バルブにより酸化性ガスの供給をON/OFFし、板幅方向でのガス吹き込み範囲を調整した。
【0026】
本発明例では、ガス吹き込み手段A,Aから吹き込む酸化性ガスとして空気を用いた。一方、比較のために、ガス吹き込み手段A,Aからのガス吹き込みを行わない比較例、ガス吹き込み手段A,Aから酸化性ガス以外のガス吹き込みを行う比較例を実施した。ガス吹き込み手段A,Aからガス吹き込みを行う本発明例、比較例では、ガスノズル(各ガスノズル4a,4b)1本当たりのガス流量を350Nm/hrとした。
【0027】
以上のようにして製造された鋼板(対象材)のトップ部の化成処理性を評価した結果を、製造条件(対象材とその先行材のサイズ、対象材の直火加熱炉出側温度、直火バーナーの空気比、酸化性ガスの吹き込み条件)とともに表3および表4に示す。
化成処理性の評価は、製造された鋼板(対象材)のトップ部から採取した試験片を、市販の化成処理薬剤(日本パーカライジング(株)製「パルボンドPB−L3020システム」)を用いて、浴温42℃、化成処理時間120秒の条件で化成処理し、乾燥後の試験片表面をSEMにより観察し、化成処理結晶の均一性を、以下の基準より評価した。
◎:化成処理結晶にスケ、ムラが全くない。
○:化成処理結晶にスケはないが、ムラが多少ある。
△:化成処理結晶に一部スケがある。
×:化成処理結晶のスケが著しい。
【0028】
表3および表4によれば、本発明例では、板厚が薄い鋼板(先行材)から厚い鋼板(対象材)に変更された場合、対象材のトップ部の直火加熱炉出側温度が低下するが、酸化性ガスを吹き込むことで鋼板表面の酸化が促進され、酸化量を確保することが可能となり、良好な化成処理性を得ることができた。また、先行材と対象材で板幅が変更された場合についても、板幅変更により鋼板エッジ部の温度低下が生じるが、エッジ部に対して酸化性ガスを吹き込むことで酸化量を確保することが可能となり、良好な化成処理性を得ることができた。
一方、板厚変更時に酸化性ガスを吹き込まない比較例では、直火加熱炉出側の温度低下により酸化量の確保が困難となり、良好な化成処理性を得ることができなかった。また、ガス吹き込み手段AからN、He、燃焼排ガスを吹き込んだ比較例では、各ガスとも非酸化性のガスであるため鋼板表面の酸化量の確保が困難となり、この場合も良好な化成処理性を得ることができなかった。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【符号の説明】
【0033】
1 直火バーナー
2 酸化ゾーン
3 還元ゾーン
4a,4b ガスノズル
5 ガス供給管
6a〜6d 炉内ロール
40 ガス噴射孔
,A ガス吹き込み手段
X 直火加熱炉
S 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直火加熱炉とこれに続く焼鈍炉を備えた連続焼鈍設備において鋼板を製造する方法であって、
前記直火加熱炉では、燃焼ガスとは別に、酸化作用を有するガスを吹き込みながら鋼板を加熱した後、前記焼鈍炉で鋼板を焼鈍することを特徴とする鋼板の製造方法。
【請求項2】
酸化作用を有するガスの鋼板幅方向における吹き込み範囲および/または吹き込み量を調整してガス吹込みを行うことを特徴とする請求項1に記載の鋼板の製造方法。
【請求項3】
酸化作用を有するガスの吹込みを、直火加熱炉の少なくとも1つのゾーンで行うことを特徴とする請求項1または2に記載の鋼板の製造方法。
【請求項4】
酸化作用を有するガスの吹込みを、直火加熱炉の最終ゾーン以外のゾーンで行うことを特徴とする請求項3に記載の鋼板の製造方法。
【請求項5】
Si量が0.2mass%以上の鋼板を加熱・焼鈍することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
【請求項6】
直火加熱炉とこれに続く焼鈍炉を備えた連続焼鈍設備を用いた鋼板の製造設備であって、
前記直火加熱炉は、燃焼ガスとは別に、酸化作用を有するガスを吹き込むためのガス吹き込み手段を有することを特徴とする鋼板の製造設備。
【請求項7】
ガス吹き込み手段は、酸化作用を有するガスの鋼板幅方向における吹き込み範囲および/または吹き込み量が調整可能であることを特徴とする請求項6に記載の鋼板の製造設備。
【請求項8】
ガス吹き込み手段は、直火加熱炉の少なくとも1つのゾーンに設けられることを特徴とする請求項6または7に記載の鋼板の製造設備。
【請求項9】
ガス吹き込み手段は、直火加熱炉の最終ゾーン以外のゾーンに設けられることを特徴とする請求項8に記載の鋼板の製造設備。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−6753(P2011−6753A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152839(P2009−152839)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】