説明

鋼板用冷間圧延油組成物および冷間圧延方法

【課題】長期循環使用時において乳化安定性や潤滑性に優れ、かつ圧延材の表面品質および作業環境に向上の寄与することが可能な冷間圧延油組成物を提供すること。
【解決手段】1)動植物油脂、鉱油および合成エステルから選ばれる少なくとも1種類以上の基油と、2)ノニオン性界面活性剤と、3)エチレンオキシドの平均付加モル数が2以上のポリエチレンオキシド鎖を分子内に有するアニオン界面活性剤を含有する鋼板用冷間圧延油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、普通鋼、ステンレス鋼、珪素鋼をはじめとする金属の冷間圧延時に使用するエマルション型の冷間圧延油組成物に関する。更に詳しくは、乳化安定性や潤滑性に優れ、かつ圧延材の表面品質および作業環境に向上の寄与することが可能な冷間圧延油組成物とその使用方法並びに鋼板用冷間圧延油用添加剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延に用いられるエマルションタイプの圧延油は、動植物油脂、鉱油および合成エステル等の基油を1種類または2種類以上に、界面活性剤、油性向上剤、極圧添加剤、酸化防止剤、防錆剤等の各種添加剤を便宜組み合わせ、これを水で通常0.2〜20体積%程度に希釈して、エマルションとして使用するのが主流であり、これら圧延油エマルションを加工部に供給することで圧延加工がなされる。その供給方式としては、掛け捨て方式と循環方式が挙げられる。そのうち、循環方式の圧延機においては、圧延油エマルションは加工部の潤滑と加工時に発生する熱の冷却を目的に、フィルター類による清浄化を図りながら使用されている。
【0003】
圧延油エマルションに要求される性能としては、被圧延材や圧延ロールに対する潤滑油分付着性、すなわちプレートアウト性が良好であると同時に、安定した操業を行うためには長期の循環使用においても乳化性が低下しないことが挙げられる。これらは一般的に相反する傾向があり、圧延油エマルションの乳化安定性を高めれば被圧延材表面へのプレートアウト性が低下し、良好な潤滑性が得られなくなる。一方、乳化安定性を低下させればプレートアウト性は高くなるが、その結果潤滑過多によるスリップ発生、あるいは油原単位増加を招く恐れがある。
【0004】
また、近年の圧延設備および技術の向上により、圧延速度の高速化、生産効率の向上が図られる一方で、圧延油に対する要求性能もより一層厳しくなってきており、上述の乳化安定性とプレートアウト性の両立はもちろん、あらゆる環境変化に対しても安定的に乳化性、潤滑性を維持し、長期にわたる循環使用に耐えうる圧延油の開発が望まれている。
【0005】
ところで、長期循環使用において乳化性を阻害する主な要因のひとつとしてスカムの堆積が挙げられる。スカムは加工時に発生する疎水性の金属磨耗粉に油粒子が覆われることで油粒子の合一が促進されることで生成する。生成されたスカムは、設備等に固着し堆積することにより、酸価が上昇し、それらが長期循環使用において圧延油エマルション中に蓄積されていく。その結果圧延油エマルションのpH低下あるいは電気伝導度上昇を招き乳化を不安定にする。
【0006】
また、長期循環使用においてスカム以外の圧延油エマルションの性状変化を招く要因として、例えば酸洗液あるいは異種油の混入、圧延油エマルションの腐敗等が挙げられる。これらの要因により、特に圧延油エマルションのpHが低下したり、電気伝導度が上昇したりした時に乳化が不安定になりやすい。
【0007】
そこで、これら事情に対応すべく乳化安定性と潤滑性を両立させ、かつ鉄粉やスカム等の混入による悪影響を抑えた圧延油が現在まで種々提唱されている。(特許文献1〜4)
【0008】
例えば、特許文献1ではHLBと分子量を特定したノニオン性界面活性剤を用いて良好な潤滑性と乳化安定性の両立を図っている。
【0009】
また、特許文献2〜4では特定構造の高分子ノニオン性界面活性剤を使用して潤滑性と乳化安定性の両立を図っている。
【0010】
これらは、いずれもノニオン性界面活性剤の親水作用により乳化安定性を付与した技術であり、親水作用をより効果的に発現するために種々検討がなされたものである。ノニオン性界面活性剤はその構造中に有する親水基部分に水が水和した形で水和層を形成し、この水和層が保護コロイドとして作用することで優れた乳化安定性を発現している。特許文献1〜4は、このノニオン性界面活性剤の特性を応用して潤滑性と乳化性の両立を図っている。
【0011】
しかし、圧延油エマルションの長期循環使用においては、上述のとおり多量の鉄粉、スカム、電解質成分等の混入により、pH低下、電気伝導度上昇等の厳しい環境に変化していくため、水和層の効果が失われやすい。そこで、「水和層をより厚くする」という手段が有効であると考えられるが、異物混入がさらに増加した場合は、いずれ効果が消失してしまう。つまり、「水和層をより厚くする」という手段だけでは乳化を維持するには限界がある、すなわちノニオン性界面活性剤の単独使用では、特に圧延油エマルションのpH低下、電気伝導度上昇という厳しい条件下で乳化性を維持するには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平02−305894号公報
【特許文献2】特開2001−254092号公報
【特許文献3】特開2008−7544号公報
【特許文献4】特開2004−18610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の工業的事情に鑑み、長期循環使用時において乳化安定性や潤滑性に優れ、かつ圧延材の表面品質および作業環境に向上の寄与することが可能な冷間圧延油組成物とその使用方法を提供することを目的とする。
本発明は、又、上記冷間圧延油組成物を調製するのに好適な鋼板用冷間圧延油用添加剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決する手段について鋭意検討した結果、基油およびノニオン性界面活性剤を含む圧延油組成物に特定構造のアニオン界面活性剤を併用することにより解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明の鋼板用冷間圧延油組成物は、1)動植物油脂、鉱油および合成エステルから選ばれる少なくとも1種類以上の基油と、2)ノニオン性界面活性剤と、3)エチレンオキシドの平均付加モル数が2以上のポリエチレンオキシド鎖を分子内に有するアニオン界面活性剤を含有することを特徴とするものである。
【0016】
アニオン界面活性剤の疎水基部分の炭素数は2〜50が好ましく、より好ましくは3〜40、さらに好ましくは4〜30、特に好ましくは10〜30である。
【0017】
アニオン界面活性剤は、疎水基部分中に1分子当たり少なくとも1個の炭素二重結合(C=C)を有するアニオン界面活性剤であってもよい。
【0018】
アニオン界面活性剤中のポリエチレンオキシド鎖のエチレンオキシド平均付加モル数が2〜30であるのが好ましく、より好ましくは3〜20、特に好ましくは5〜15である。
【0019】
アニオン界面活性剤のアニオン部分は、硫酸エステル(−OSO3H)、スルホン酸(−SO3H)、リン酸エステル(−OPO3H)、カルボン酸(−COOH)、あるいはこれらの塩であることが好ましい。
【0020】
アニオン界面活性剤の含有量は0.0001〜1.0重量%であるのが好ましく、より好ましくは0.005〜0.8重量%、さらに好ましくは0.01〜0.5重量%である。
【0021】
ノニオン性界面活性剤は、1分子当たり少なくとも1個以上のエステル結合(−COO−)を有するものであるのが好ましい。
【0022】
ノニオン性界面活性剤の含有量は0.1〜5.0重量%であるのが好ましい。
ノニオン性界面活性剤とアニオン界面活性剤との重量比(ノニオン/アニオン)が0.1/1〜50000/1の範囲であるのが好ましく、特に好ましくは5/1〜500/1である。
【0023】
本発明に関わる冷間圧延方法は、圧延機にて本発明の鋼板用冷間圧延油組成物を水で0.2〜20体積%に希釈した水性エマルションを循環方式で使用することを特徴とするものである。
本発明に関わる鋼板用冷間圧延油用添加剤組成物は、ノニオン性界面活性剤と、エチレンオキシドの平均付加モル数が2以上のポリエチレンオキシド鎖を分子内に有するアニオン界面活性剤を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
圧延油組成物を水で希釈して形成される圧延油エマルションは、長期循環使用により、種々のコンタミ等、低pHあるいは高電気伝導度という過酷変化を受け、圧延油エマルションにおける乳化が劣化してくる。特にエステル結合(−COO−)を含むタイプのノニオン性界面活性剤を用いる場合、エマルションのpHが5.5ぐらいまでは良好な乳化性を維持しているが、pHが5.0より低くなると、乳化性低下が顕著に現れるが、本発明の圧延油組成物を用いると、このような場合にも優れた乳化性を維持することができる。特に、本発明では、特定の構造のアニオン界面活性剤を用いることによって、低pH領域であってもノニオン性界面活性剤と共に優れた乳化性を維持でき、このような優れた効果は、特定の構造のアニオン界面活性剤のごく微量の添加量で十分な効果を示すという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0025】
下記に本発明の内容を詳細に説明する。
本発明に用いられる冷間圧延油組成物に含有される基油としては、動植物油脂、鉱油および合成エステルから選ばれるものであり、従来から冷間圧延油に用いられているものを使用できる。具体的には、例えば動植物油脂としては牛脂、パーム油、パーム核油、ナタネ油、ヤシ油等が、鉱油としてはマシン油、スピンドル油、タービン油等が挙げられる。また、合成エステルとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、オクチルアルコール、ラウリルアルコール、イソブチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール等の一価アルコールまたはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の多価アルコールとラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の一価脂肪酸またはアクリル酸、メタクリル酸、コハク酸、炭素数12のアルケニルコハク酸、炭素数36のダイマー酸、炭素数54のトリマー酸等の多価脂肪酸との合成エステル化物が使用できる。これらの群から選ばれる1種または2種以上を選ぶことができる。ただし、特に温度が低い時期に起こりやすい圧延油の固化および圧延加工によって発生した金属粉と圧延油の混和による圧延機廻り堆積スカムの生成を防止するには、流動点が20℃以下の基油を使用することが好ましい。流動点より高い動植物油脂や合成エステル等を用いる場合は、流動点が低い別の基油との組み合わせで構成し、圧延油自体の流動点を好ましくは20℃以下に、より好ましくは10℃以下にすることにより、圧延材の表面品質および作業環境を大幅に向上することが可能になる。
【0026】
本発明に用いられるアニオン界面活性剤は、エチレンオキシドの平均付加モル数が2以上のポリエチレンオキシド鎖を分子内に有するアニオン界面活性剤である。
【0027】
本発明に用いられるアニオン界面活性剤は、ポリエチレンオキシド鎖が疎水基部分にエステル結合とは異なる結合方式、例えば、エーテル結合などで結合していることが好ましい。
【0028】
本発明に用いられるアニオン界面活性剤の疎水基部分の炭素数が2〜50であるのが好ましく、より好ましくは3〜40、さらに好ましくは4〜30である。このような炭素数の疎水基を有するアニオン界面活性剤を用いると油への溶解性が良好となり、かつ水で希釈し、冷間圧延方法で用いるときに、安定なエマルジョンが得られるとの利点がある。
【0029】
本発明に用いられるアニオン界面活性剤の疎水基部分の原料となる化合物は炭素数が2〜50であれば特に限定されるものではない。疎水基部分の原料として例えば、(1)高級アルコール、多価アルコール脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール、(2)フェノール、アルキルフェノール、スチレン化フェノール、多核芳香族化合物(ナフタレン、アントラセン等)および(3)多核芳香族化合物、スチレン化フェノール化合物、ポリビニルフェノール化合物、およびフェノール化合物とアルデヒド化合物(フェノールアルデヒド、アセトアルデヒド)またはケトン化合物(アセトン、メチルエチルケトン)との縮合物、等が挙げられる。
【0030】
本発明に用いられるアニオン界面活性剤としては、例えば上述の疎水基部分の原料として挙げた化合物のエチレンオキシド付加物であるノニオン性界面活性剤に硫酸、リン酸、炭酸等の酸を付加結合させたもの、およびそれらの塩が挙げられる。これらのうち高級アルコールエチレンオキシド付加物は工業的に入手しやすいので、これを用いるのが好ましい。
【0031】
上記のようなノニオン性親水基を有する界面活性化合物に硫酸、リン酸、炭酸等の親水性酸を付加反応させてアニオン性を示す硫酸エステル(−OSO3H)、スルホン酸(−SO3H)、リン酸エステル(−OPO3H)、カルボン酸(−COOH)、あるいはこれらの塩とすることにより、本発明に有用なアニオン界面活性剤が得られる。
【0032】
本発明においては、前記アニオン界面活性剤が、疎水基部分中に1分子当たり少なくとも1個、好ましくは1〜2個の炭素二重結合(C=C)を有するアニオン界面活性剤であってもよい。このような界面活性剤の例としては、アルキルエーテルのエチレンオキサイド付加物に−CH=CHCH3、またはCH=CH2等の二重結合を有する基を付加したもの等が挙げられる。このような界面活性剤は、不飽和結合を有する基油に添加した場合に、より乳化安定性に効果的に作用する。
【0033】
本発明においては、前記アニオン界面活性剤中のポリエチレンオキシド鎖のエチレンオキシド平均付加モル数は、2〜30であるのが好ましく、より好ましくは3〜20である。この範囲のエチレンオキシド平均付加モル数のアニオン界面活性剤を用いると、水で希釈し、冷間圧延方法で用いるときに、乳化が良好となり、プレートアウト性の低下を招くことがなく、また低pH、高電気伝導度環境における乳化性も十分となる。
【0034】
本発明に用いられる前記アニオン界面活性剤の含有量は0.0001〜1.0重量%であるのが好ましく、より好ましくは0.005〜0.8重量%、さらに好ましくは0.01〜0.5重量%である。
【0035】
本発明に用いられるノニオン性界面活性剤は、1分子当たり少なくとも1個以上のエステル結合(−COO−)を有するものであるのが好ましく、より好ましくは2〜20個、さらに好ましくは6〜16個である。このようなタイプのノニオン性界面活性剤として例えば、脂肪酸アルキレンオキシド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキシド付加物、等が挙げられる。
【0036】
本発明に用いられるノニオン性界面活性剤の含有量は0.1〜5.0重量%であるのが好ましく、より好ましくは0.3〜2.0重量%である。この範囲の量で用いると、水で希釈し、冷間圧延方法で用いるときに、良好な乳化安定性を得ることができる。
【0037】
本発明に用いられるノニオン性界面活性剤のHLBは1〜14であるのが好ましく、より好ましくは3〜12、さらに好ましくは5〜10である。この範囲のHLBのノニオン性界面活性剤を用いると、特に低pH領域における乳化性が良好になり、又、乳化過剰によるプレートアウト性の低下を招くことがなく、優れた潤滑性を得ることもできる。
【0038】
本発明に用いられるアニオン界面活性剤とノニオン性界面活性剤の重量比(ノニオン/アニオン)は、0.1/1〜50000/1の範囲が好ましく、より好ましくは0.5/1〜5000/1で、さらに好ましくは1/1〜500/1である。この範囲で用いると、乳化過剰によるプレートアウト性の低下を招く恐れがなく、水で希釈し、冷間圧延方法で用いるときに、低pH領域(好ましくはpH5.5以下、より好ましくはpH3.5〜5)における乳化性が良好となる。
【0039】
本発明の冷間圧延油組成物は、上記ノニオン性界面活性剤およびアニオン界面活性剤の残部と基油とすることができるが、これらの成分以外にも、本発明の効果が損なわれない範囲内であれば、必要に応じて各種油性向上剤、極圧添加剤、酸化防止剤等の各種添加剤を含有してもよい。油性向上剤としては炭素数12〜18の1価脂肪酸、炭素数36のダイマー酸、炭素数54のトリマー酸等が挙げられ、極圧添加剤としては、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステル、硫化エステル、硫化オレフィン、ポリサルファイド等が挙げられる。また、酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、α−ナフチルアミン等が挙げられる。以上の各成分を混合して本発明の冷間圧延油組成物を製造する際の混合の仕方については、特に制限はない。通常は、基油を40〜80℃に加温、攪拌しながらノニオン性界面活性剤、アニオン界面活性剤、および必要に応じて前記の各種添加剤を添加して製造するのがよいが、ノニオン性界面活性剤、アニオン界面活性剤、および各種添加剤はいずれを先に添加してもよいし、同時に添加してもよい。
【0040】
本発明の冷間圧延油組成物の使用方法であるが、通常は水により0.2〜20体積%のエマルションに希釈したものをクーラント液として圧延加工部へ供給するのがよい。希釈に使用する水は、脱イオン水、水道水、工業用水のいずれでもよく、エマルションの作製方法に特に制限はない。特に、水により希釈して得たエマルションのpHが使用中に5以下になるような冷間圧延方法において本発明は優れた効果を奏するものである。
【実施例】
【0041】
下記に実施例を比較例と共に挙げ、本発明をより具体的に説明するが、これら実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0042】
実施例1〜8および比較例1〜5
(1)供試圧延油内容および調整方法
1)表1に基油の種類を示す。
2)表2にノニオン性界面活性剤の内容を示す。
3)表3に添加剤の種類を示す。
4)表4に供試圧延油組成を示す。
供試圧延油組成物は、それぞれ100gずつ作製した。まず基油を50℃に加温、攪拌し、50℃に到達したら、ノニオン性界面活性剤を添加し、溶解確認後5分間攪拌した。次いで添加剤を添加する場合は添加し、さらに溶解確認後5分間攪拌した。
【0043】
表1 基油の種類

【0044】
表2 ノニオン性界面活性剤

【0045】
表3 添加剤の種類

※EO ;エチレンオキシド、EO数は平均付加モル数を表す
疎水基部分炭素数は平均値を表す
【0046】
(2)性能試験
(A)乳化性試験
表4に示す各供試圧延油を下記の条件でエマルション建浴し、攪拌後直後のエマルション平均粒径(新油および鉄粉500ppm混入時)から以下の評価基準に基づき乳化性を評価した。なお、平均粒径測定に際しては、粒度分布測定装置(Multisizer III,ベックマン・コールター(株)製)を使用した。
【0047】
<乳化性試験用エマルション作製条件>
圧延油濃度;3体積%
建浴量;1L
使用水;脱イオン水(硫酸にてpH4.5に調整)
浴温度;60℃
攪拌条件;ホモミキサー7000rpm×30min
鉄粉混入量;エマルションに対して0ppm(新油)および500ppm
使用鉄粉;市販酸化鉄粉(Fe34,平均粒径1μm以下)
【0048】
<乳化性評価基準>
◎;10μm以下
○;10〜12μm
△;12〜15μm
×;15μm以上
【0049】
(B)プレートアウト性試験
表4に示す各供試圧延油を下記の条件でエマルション建浴し、新油エマルション中にテストピースを浸漬し、引き上げてからテストピース上の余剰エマルションを湯洗後、表面炭素分析装置(LECO)にてテストピース上の付着油分量を測定した。付着油分量から下記の評価基準に基づきプレートアウト性を評価した。本試験では付着油分量が多いほどプレートアウト性が良好なため、潤滑性に優れるといえる。
【0050】
<プレートアウト性試験用エマルション作製条件>
圧延油濃度;3体積%
建浴量;1L
使用水;脱イオン水
浴温度;60℃
攪拌条件;ホモミキサー7000rpm×30min
【0051】
<プレートアウト性試験条件>
供試液;プレートアウト性試験用エマルション
テストピース;SPCC−SB(0.3mm×30mm×100mm)
浸漬時間;1sec
湯洗条件;50℃の湯槽に浸漬1sec
付着油分量測定;表面炭素分析装置(LECO)にて500℃×5minでテストピース上の付着炭素量測定後、付着炭素量を1.3倍することで付着油分量に換算
【0052】
<プレートアウト性評価基準>
◎;付着油分量が400mg/m2以上
○;付着油分量が300mg/m2以上、400mg/m2未満
△;付着油分量が200mg/m2以上、300mg/m2未満
×;付着油分量が200mg/m2未満
【0053】
(C)圧延潤滑性試験
表4に示す各供試圧延油を高速短冊圧延試験機にて下記条件で圧延潤滑試験を行い、圧延荷重で比較評価した。圧延荷重が低いほど圧延潤滑性が良好であるといえる。
【0054】
<圧延潤滑性試験条件>
テストピース;SPCC−SB(1.2mm×30mm×500mm)
圧延ロール;500mmφ(エメリー紙#80研磨;表面粗度Ra0.3μm)
圧延速度;500m/min
圧下率;30%
圧延油濃度;3体積%
建浴量;10L
浴濃度;50℃
スプレー量:ベースレスポンプにて1L/minを上下のロールに供給
【0055】
<圧延潤滑性評価基準>
◎;圧延荷重が250N未満
○;圧延荷重が250N以上、270N未満
△;圧延荷重が270N以上、300N未満
×;圧延荷重が300N以上
【0056】
表4 供試圧延油組成および評価結果

(表4続き)

表中、各成分の量は重量%である。
【0057】
表4から明らかなように、本発明の圧延油組成物を用いた実施例1〜8において、使用水pHが4.5とかなり低いpH領域においても新油および鉄粉500ppm添加いずれも優れた乳化性を示し、かつプレートアウト性、潤滑性に対しても優れた性能を有していた。
【0058】
これに対して、本発明に該当しない圧延油組成物を用いた比較例1〜5において、乳化性、プレートアウト性、潤滑性を同時に満足するものはひとつもなかった。例えば、添加剤を配合していない比較例1および2では、乳化性が著しく劣っており、比較例3〜5においても全ての性能を同時に満足することは出来なかった。添加剤がノニオン界面活性剤だけを2種類用いる比較例3では乳化性が著しく劣っていた。添加剤がポリオキシエチレン鎖を有するものでもカチオン界面活性剤である比較例4でも同様に乳化性が著しく劣っていた。また、添加剤が特定のアニオン界面活性剤でない比較例5では、乳化性は優れているもののプレートアウト性、潤滑性が不十分であった。
【0059】
このように、本発明の鋼板用冷間圧延油組成物、およびそれを用いた冷間圧延方法は、長期にわたる循環使用時の乳化安定性および潤滑性に優れると同時に、圧延材の表面品質および作業環境の向上が可能であり、さらには圧延油原単位の低減にも寄与できるものであるため、実用上大きな効果を奏するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)動植物油脂、鉱油および合成エステルから選ばれる少なくとも1種類以上の基油と、2)ノニオン性界面活性剤と、3)エチレンオキシドの平均付加モル数が2以上のポリエチレンオキシド鎖を分子内に有するアニオン界面活性剤を含有することを特徴とする鋼板用冷間圧延油組成物。
【請求項2】
アニオン界面活性剤が、炭素数2〜50の疎水基部分を分子内に含む請求項1に記載の鋼板用冷間圧延油組成物。
【請求項3】
アニオン界面活性剤が、疎水基部分中に1分子当たり少なくとも1個の炭素二重結合(C=C)を有する請求項1または2に記載の鋼板用冷間圧延油組成物。
【請求項4】
アニオン界面活性剤中のポリエチレンオキシド鎖のエチレンオキシド平均付加モル数が2〜30である請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼板用冷間圧延油組成物。
【請求項5】
アニオン界面活性剤のアニオン部分が、硫酸エステル(−OSO3H)、スルホン酸(−SO3H)、リン酸エステル(−OPO3H)、カルボン酸(−COOH)、あるいはこれらの塩である請求項1〜4のいずれか1項に記載の鋼板用冷間圧延油組成物。
【請求項6】
アニオン界面活性剤の含有量が0.0001〜1.0重量%である請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋼板用冷間圧延油組成物。
【請求項7】
ノニオン性界面活性剤が、1分子当たり少なくとも1個以上のエステル結合(−COO−)を有するものである請求項1〜6のいずれか1項に記載の鋼板用冷間圧延油組成物。
【請求項8】
ノニオン性界面活性剤の含有量が0.1〜5.0重量%である請求項1〜7のいずれか1項に記載の鋼板用冷間圧延油組成物。
【請求項9】
ノニオン性界面活性剤とアニオン界面活性剤との重量比(ノニオン/アニオン)が0.1/1〜50000/1の範囲である請求項1〜8のいずれか1項に記載の鋼板用冷間圧延油組成物。
【請求項10】
圧延機にて、請求項1〜9のいずれか1項に記載の鋼板用冷間圧延油組成物を水で0.2〜20体積%に希釈した水性エマルションを循環方式で使用することを特徴とする冷間圧延方法。
【請求項11】
ノニオン性界面活性剤と、エチレンオキサイドの平均付加モル数が2以上のポリエチレンオキシド鎖を分子内に有するアニオン界面活性剤を含有することを特徴とする鋼板用冷間圧延油用添加剤組成物。

【公開番号】特開2010−260970(P2010−260970A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113342(P2009−113342)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】