説明

鋼板用横型ラインタンクの取替方法

【課題】鋼板の製造ラインに設置されている既設の横型ラインタンクを短期間で取り替えることができる鋼板用横型ラインタンクの取替方法を提供する。
【解決手段】製作した新設の横型ラインタンク10を既設の横型ラインタンクに横並びする製造ライン外の位置に配置し、既設の横型ラインタンクを撤去した後、新設する横型ラインタンク10を一体のままで製造ラインの方向に牽引して、当該製造ライン上の所定位置に設置することを特徴とする鋼板用横型ラインタンクの取替方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の製造ラインに設置されている既設の横型ラインタンクを取り替える方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板の製造ラインには、鋼板を通過させながら鋼板の表面洗浄や表面処理を行うためのタンク(ラインタンク)が設置されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ラインタンクは、全体の形状が略直方体で、長手方向(ライン進行方向)の長さの方が高さよりも長い横型ラインタンクと、高さの方がライン進行方向の長さより長い縦型ラインタンクがあるが、ここでは、横型ラインタンクを対象としている。
【0004】
図3は、一般的な横型ラインタンクを示す斜視図である。図3に示すように、横型ラインタンク10は、鉄皮11と、鉄皮11の内面にライニングされたレンガ12とを備えている。横型ラインタンク10は、例えば、幅が5m、長さが20m、重量が50トンといった巨大重量物である。この横型ラインタンク10には、鋼板の表面洗浄や表面処理を行うための酸やアルカリ等の薬液が満たされている。
【0005】
そして、このような巨大重量物である横型ラインタンクが老朽化して、新しい横型ラインタンクに取り替えることが必要になった場合、従来は、以下の(1)〜(4)のような手順で取り替えていた。
(1)まず、既設の横型ラインタンクを解体して撤去する。
(2)次に、図4(a)に斜視図を示すように、鉄皮11をハンドリング可能なサイズの鉄皮11aに分割し(ここでは3分割)、その分割した鉄皮11aを順次製造ライン上に設置する。
(3)次に、分割した鉄皮11aを溶接で一体化して鉄皮11を作製する。
(4)そして、図4(b)に横断面図を示すように、鉄皮11の内面にレンガ12をライニング施工する。
【特許文献1】特開2008−214716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したような従来の横型ラインタンクの取替方法では、分割した鉄皮の一体化溶接やレンガのライニング施工といった製造ライン上での作業に多大な時間を要するため、製造ラインを長時間停止する必要があり、生産能率を低下させていた。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、鋼板の製造ラインに設置されている既設の横型ラインタンクを短期間で取り替えることができる鋼板用横型ラインタンクの取替方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0009】
[1]鋼板の製造ラインに設置されている既設の横型ラインタンクの取替方法であって、
製作した新設の横型ラインタンクを既設の横型ラインタンクに横並びする製造ライン外の位置に配置し、既設の横型ラインタンクを撤去した後、前記新設する横型ラインタンクを一体のままで製造ラインの方向に牽引して、当該製造ライン上の所定位置に設置することを特徴とする鋼板用横型ラインタンクの取替方法。
【0010】
[2]既設の横型ラインタンクに横並びする位置に配置した新設する横型ラインタンクの配置位置から、当該製造ライン上の新設する横型ラインタンクを設置する所定位置までレールを敷設し、該レール上を新設する横型ラインタンクを一体のままで移動させることを特徴とする前記[1]に記載の鋼板用横型ラインタンクの取替方法。
【0011】
[3]新設する横型ラインタンクを一体のままで製造ラインの方向に牽引する際に、新設する横型ラインタンクの長手方向長さLに対する新設する横型ラインタンクの最大たわみ量δmaxの比δmax/Lが1/1000以下となるように牽引することを特徴とする前記[1]または[2]に記載の鋼板用横型ラインタンクの取替方法。
【0012】
[4]新設する横型ラインタンクを一体のままで製造ライン幅方向に牽引する際に、牽引する作用点を3個所以上とし、前記作用点それぞれの間での新設する横型ラインタンクの移動量の差が10mm以下となるように牽引することを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の鋼板用横型ラインタンクの取替方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、鋼板の製造ラインに設置されている既設の横型ラインタンクを短期間で取り替えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1、図2は、本発明の一実施形態に係る鋼板用横型ラインタンクの取替方法を示す図であり、図1は正面図(ライン進行方向から見た図)、図2は平面図である。
【0016】
図1、図2に示すように、この実施形態においては、鋼板の製造ラインに設置されている既設の横型ラインタンクを取り替えるに際して、製作した新設の横型ラインタンク10を既設の横型ラインタンクに横並びする製造ライン外(オフライン)の位置に配置し、既設の横型ラインタンクを撤去した後、新設する横型ラインタンク10を一体のままで製造ラインの方向に牽引して、製造ライン上(オンライン)の所定位置に設置するようにしている。
【0017】
その際に、新設する横型ラインタンク10の下部にチルタンク(循環式テーブルローラ)22a、22bを取り付けておくとともに、製作した新設の横型ラインタンク10のオフラインでの配置位置からオンラインの設置位置までレール21を所定本数(図2では7本)敷設する。そして、所定個所(図2では3個所)のチルタンク22aにワイア23を繋ぎ、アンカー25で固定されたチルホール(手動ウインチ)24によってワイア23を巻き上げることで、新設する横型ラインタンク10を製造ラインの方向に牽引する。これにより、レール21上をチルタンク22a、22bによって新設する横型ラインタンク10が製造ライン上の設置位置に向かって移動する。
【0018】
なお、ここでは、ライン最上流側のレールとライン最下流側のレールに、チルタンク22a、22b用の案内ガイド(図示せず)を取り付けている。また、チルタンク22bにワイア26を繋ぎ、アンカー28で固定されたチルホール27によってワイア26を保持することで、チルタンク22a、22bが逸走することを防止している。
【0019】
そして、上記のように、新設する横型ラインタンク10の所定個所(牽引の作用点)にワイア23を繋いで製造ラインの方向に牽引する場合、牽引される横型ラインタンク10にたわみが生じ、内部のレンガ12に不要な負荷が作用して、レンガ12の圧壊や目地の破壊といった損傷が発生する懸念がある。
【0020】
そこで、横型ラインタンク10の有限要素法による構造解析やレンガ12の耐久試験等を行い、その結果から、新設する横型ラインタンク10を製造ラインの方向に牽引する際に、横型ラインタンク10の長手方向長さLに対する横型ラインタンク10の最大たわみ量δmaxの比δmax/Lが1/1000以下であれば、レンガ12の損傷を防止できることを見出した。例えば、横型ラインタンク10の長さLが10m(10000mm)であれば、最大たわみ量δmaxを10mm以下にすればよい。
【0021】
したがって、この実施形態においては、新設する横型ラインタンク10を製造ラインの方向に牽引する際に、最大たわみ量δmaxと横型ラインタンク10の長さLとの比δmax/Lが1/1000以下になるように、横型ラインタンク10をリブ等によって補強して剛性を向上させたり、横型ラインタンク10の牽引作用点の数(3個所以上)やその位置を適切に選定するようにしている。
【0022】
さらに、実際に新設する横型ラインタンク10を製造ラインの方向に牽引する際には、図2に示すように、牽引作用点(図2では3個所)のレール21に目盛り21aを取り付けておき、それぞれの牽引作用点における横型ラインタンク10の移動量を目盛り21aで測定・確認して、牽引作用点間での移動量の差が10mm以下になるようにしている。
【0023】
このようにして、この実施形態においては、既設の横型ラインタンクを取り替えるに際して、製作した新設の横型ラインタンク10を既設の横型ラインタンクに横並びする製造ライン外(オフライン)の位置に配置し、既設の横型ラインタンクを撤去した後、新設する横型ラインタンク10を一体のままで製造ラインの方向に牽引して、製造ライン上(オンライン)の所定位置に設置するようにしているので、従来の横型ラインタンクの取替方法のような、分割した鉄皮の一体化溶接やレンガのライニング施工といった製造ライン上での多大な時間を要する作業が不要となり、製造ラインを長時間停止することなく、短期間で既設の横型ラインタンクを取り替えることができる。
【0024】
例えば、この実施形態を適用することによって、熱延ステンレス鋼板の酸洗用ラインタンクの取替工事においては、工期を約65%に短縮することができた。また、連続焼鈍ラインの表面洗浄用ラインタンク2基の取替工事においては、工期をほぼ50%に短縮することができた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態を示す正面図である。
【図2】本発明の一実施形態を示す平面図である。
【図3】横型ラインタンクを示す斜視図である。
【図4】従来技術を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
10 横型ラインタンク
11 鉄皮
12 レンガ
21 レール
21a 目盛り
22a、22b チルタンク
23 ワイア
24 チルホール
25 アンカー
26 ワイア
27 チルホール
28 アンカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の製造ラインに設置されている既設の横型ラインタンクの取替方法であって、
製作した新設の横型ラインタンクを既設の横型ラインタンクに横並びする製造ライン外の位置に配置し、既設の横型ラインタンクを撤去した後、前記新設する横型ラインタンクを一体のままで製造ラインの方向に牽引して、当該製造ライン上の所定位置に設置することを特徴とする鋼板用横型ラインタンクの取替方法。
【請求項2】
既設の横型ラインタンクに横並びする位置に配置した新設する横型ラインタンクの配置位置から、当該製造ライン上の新設する横型ラインタンクを設置する所定位置までレールを敷設し、該レール上を新設する横型ラインタンクを一体のままで移動させることを特徴とする請求項1に記載の鋼板用横型ラインタンクの取替方法。
【請求項3】
新設する横型ラインタンクを一体のままで製造ラインの方向に牽引する際に、新設する横型ラインタンクの長手方向長さLに対する新設する横型ラインタンクの最大たわみ量δmaxの比δmax/Lが1/1000以下となるように牽引することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼板用横型ラインタンクの取替方法。
【請求項4】
新設する横型ラインタンクを一体のままで製造ライン幅方向に牽引する際に、牽引する作用点を3個所以上とし、前記作用点それぞれの間での新設する横型ラインタンクの移動量の差が10mm以下となるように牽引することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼板用横型ラインタンクの取替方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−111404(P2010−111404A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283800(P2008−283800)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】