鋼構造物の接合方法及び装置
【課題】 鋼構造物としての板材同士の接合部を片面からの操作で簡単にボルトで締結できるようにする。
【解決手段】 鋼構造物としての弦材2の各面の板材2aの外側に当て板としての板材4を重ねるように配置し、接合部にボルト挿通孔24を設ける。ボルト挿通孔24の内径よりも小さい外径の頭部25aを有する高力ボルト25と、該高力ボルト25に嵌める座金26とを、板材4の外側からボルト挿通孔24内を通すようにする。そのために、座金26は、高力ボルト25に対して直角の状態と斜めにした状態との間で変位できるように孔26aを設け、高力ボルト25に斜めにした姿勢でボルト挿通孔24内を通過させるようにする。板材2aの内側へ挿入された座金26は、高力ボルト25に対して直角の状態にして板材2aに係止させ、高力ボルト25を板材2aの内側から外向きに挿入させた状態とし、板材4の外側でナット28を締結できるようにする。
【解決手段】 鋼構造物としての弦材2の各面の板材2aの外側に当て板としての板材4を重ねるように配置し、接合部にボルト挿通孔24を設ける。ボルト挿通孔24の内径よりも小さい外径の頭部25aを有する高力ボルト25と、該高力ボルト25に嵌める座金26とを、板材4の外側からボルト挿通孔24内を通すようにする。そのために、座金26は、高力ボルト25に対して直角の状態と斜めにした状態との間で変位できるように孔26aを設け、高力ボルト25に斜めにした姿勢でボルト挿通孔24内を通過させるようにする。板材2aの内側へ挿入された座金26は、高力ボルト25に対して直角の状態にして板材2aに係止させ、高力ボルト25を板材2aの内側から外向きに挿入させた状態とし、板材4の外側でナット28を締結できるようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、トラス梁の弦材の如き箱形断面を有する鋼構造物の外側面に当て板をして補強するときに当て板の接合を片面から施工するような場合に用いる鋼構造物の接合方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁等に用いられているトラス構造の梁は、図7に示す如く、上部の弦材1と、下部の弦材2と腹材3とから構成されている。
【0003】
近年、橋梁等の建造物の耐震性が問題とされ、耐震性向上を図る構造とすることが求められ、そのための補強工事が施されてきている。
【0004】
上記図7に示すようなトラス梁のうち、下部の弦材2についてみると、図7のC部拡大である図8、及び該図8のD−D断面である図9に示す如く、弦材2は、断面形状がボックス形状としてあり、図示してあるように、4つの各面の外側に当て板4をし、この当て板4を多数のボルト(主として高力ボルト)5で取り付けて補強することが行われている。
【0005】
上記ボックス断面形状の弦材2の補強を行う場合に、ボックス形の弦材2の内側に作業員が入るスペースがあれば、当て板4に予め設けてあるボルト挿通孔に合わせて現場で弦材2にボルト挿通孔を穿設した後、ボックスの内側にいる作業員がボルト5を弦材2のボルト挿通孔、当て板4のボルト挿通孔の順に通して、該ボルト5の先端を当て板4の外側へ突出させると、当て板4の外側にいる別の作業員がそのボルト5に座金を介してナットを螺合させて当て板4をボルト止めし、補強を行わせることが可能である。
【0006】
しかしながら、上記弦材2の内側に人が入れないような狭い状況の場合には、ボックスの内側からボルト5を外向きに通すことができないため、当て板4を弦材2の外側にボルト止めして補強を行う場合、当て板4のボルト挿通孔と弦材2のボルト挿通孔に外側からボルト5を挿入して弦材2の内側にボルトの頭部を係止させ、しかる後、当て板4の外側でナットを締め付けるという片面施工となる。
【0007】
このような片面施工の補強工事に用いられるようなボルトとしては、次のようなワンサイドボルトが提案されている。
【0008】
図10(イ)(ロ)は従来のワンサイドボルトの一例による片面施工方法を示すもので、角パイプ状の鋼管からなる鉄骨柱6とH型鋼からなる鉄骨梁7との接合部に、長孔8が設けてある。係止ボルト9は、上記長孔8に挿入できるようにボルト頭10を上記長孔8に対応する扁平形状とした構成としてある。係止ボルト9を、鉄骨梁7側からボルト頭10を長孔8に通して鉄骨柱6内に挿入させた後、該係止ボルト9を90度回転させて、長孔8が設けてある接合部にボルト頭10を係止させるようにし、しかる後、係止ボルト9に鉄骨梁7側からナット11を螺合させて締め付けることにより、鉄骨柱6と鉄骨梁7との接合部をボルト止めするようにしてある(たとえば、特許文献1参照)。
【0009】
図11(イ)(ロ)は従来の別のワンサイドボルトによる片面施工方法を示すもので、ヘッド部13aを有する軸部13b、螺子部13c、縮径部13d、ピンテール13eからなるコアピン(ボルト部材)13と、そのコアピン13に被嵌されるバルブスリーブ(拡径スリーブ)14、グリップスリーブ15、シェアワッシャー16及びベアリングワッシャー17と、コアピン13の螺子部13cに螺合するナット部材18とで構成されるワンサイドボルト12を用いるものである。図11(イ)に示す如く、コンクリート19に沿って取り付けられている板部材20に、別の板部材21を当てて補強する場合に、先ず、板部材20と21に形成された孔部22から、コンクリート19に形成された拡径された穴部23に、板部材21の外側から上記ワンサイドボルト12をヘッド部13aを先にして挿入する。次に、図11(ロ)に示す如く、専用の電動工具を使用して、外側からナット部材18を締結する。これによりコアピン13が引き上げられてバルブスリーブ14が、拡径された穴部23内で変形し、裏側の板部材20の裏面側にバルブ頭14aが形成され、更に締め付けが進むと、バルブ頭14aが裏側の板部材20に当り締め付け力が増すことから、シェアワッシャー16が剪断されて軸力導入が開始され、所定の軸力が出たところで縮径部13dからピンテール13eが破断され締結が完了するようにしたものである(たとえば、特許文献2参照)。
【0010】
【特許文献1】特開平5−287807号公報
【特許文献2】特許第3840474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、図10に示すような片面施工に用いられているワンサイドボルトの場合は、係止ボルト9が高力ボルトではなく、締付力が弱く、図7乃至図9に示すような鋼構造物としての弦材の補強に用いるボルトとしては適用できないものである。
【0012】
又、接合部に長孔をあけなければならず、長孔をあけるのに多大な工数がかかること、係止ボルトのボルト頭を扁平させるという特殊なものであるため、製作費が嵩むこと、等の問題がある。
【0013】
一方、図11(イ)(ロ)に示すバルブスリーブ14を備えたワンサイドボルトの場合は、特殊なボルトとなるため、製作に多くの手数と費用を要するという問題のほかに、ナット部材による締結時に、バルブスリーブ14を変形させてバルブ頭14aを形成させるようにするものであるため、1次締めしてから100%の本締めをするという手順をとることができず、いきなり本締めとなるものである。そのため、古い板部材20に新しい板部材21を締め付けるとき、この2つの板部材20,21同士の肌隙きがあると、或る間隔を置いた2個所で締め付けを行うときに、一方を本締めした後、他方を本締めするとき当該一方の締付部が緩んでくるという所定の軸力が入らないという問題があり、板部材同士の肌が合うように加工を施す必要がある。又、現場で古い板部材20に孔部を外側からドリル等で形成した場合に、板部材20の裏面側にバリが残ることがあり、このバリが残ると、バルブスリーブ14が変形してバルブ頭14aを形成し、このバルブ頭14aが板部材20の裏面に係止するときにバリのために密着できないことになり、所定の軸力が入らないこと、ナット部材18の締結に専用の電動工具が必要であること、バルブスリーブ14を変形させるものであるため、締結完了までに多くの時間を要すること、バルブスリーブ14が変形してバルブ頭14aが形成されるが、このバルブ頭14aは地金が剥き出しになることから、防錆上問題となること、等の問題がある。
【0014】
そこで、本発明は、かかる従来提案されているようなワンサイドボルトを用いているような種々の問題をなくすため、特殊ボルトとすることなく容易に接合部の内側から外側へボルトを挿入できて、1次締め→本締めの手順で締め付けることができ、且つバリの影響も受けることがなく、締付時間を短縮できるようなボルトを使用した鋼構造物接合部の片面施工用ボルト装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために、鋼構造物を構成する板材に鋼製の板材を重ねて接合する接合部にボルト接合用のボルト挿通孔を貫通させて設け、高力ボルトの頭部と該高力ボルトに嵌めて斜めの状態にした座金とを、板材接合部の一側面から上記ボルト挿通孔内を通して上記板材接合部の他側面へ位置させ、しかる後、上記高力ボルトを板材接合部の一側面へ引張りながら上記座金を該高力ボルトに対して直角の状態にし、該座金を介して高力ボルトの頭部を板材接合部の他側面に係止させるようにし、高力ボルトの軸部にナットを締結させて接合するようにする鋼構造物の接合方法、及び鋼構造物を構成する板材に鋼製の板材を重ねて接合する接合部にボルト接合用のボルト挿通孔を貫通させて設け、該ボルト挿通孔の内径よりも小さい頭部を有する高力ボルトと、該高力ボルトに対して直角の状態と斜めの状態との間で変位させられるようにした座金とを備え、且つ上記座金の大きさを、高力ボルトに対して斜めの状態にしたときに、上記ボルト挿通孔を通過できると共に高力ボルトに対して直角の状態にしたときに上記ボルト挿通孔を通過できない大きさとしてなり、上記高力ボルトの頭部と該高力ボルトに嵌めた上記座金とを板材接合部の一側面よりボルト挿通孔に挿入して板材接合部の他側面に位置させるようにし、該ボルトの頭部を板材接合部の他面側に座金を介して係止させるようにした構成を有することを特徴とする鋼構造物の接合装置とする。
【0016】
上記装置において、高力ボルトの軸部に嵌合させて該高力ボルトの頭部を板材の裏面側に係止させるようにする座金に、該板材接合部のボルト挿通孔に沿うようにするガイド部材を設けた構成とする。
【0017】
又、上記構成において、外径をボルト挿通孔の内径に対応させた大きさとし且つ内径を高力ボルトの軸部の外径に対応させた大きさとしてあるリング状のガイド部材を、上記ボルト挿通孔に挿入した高力ボルトの軸部に嵌合させてボルト挿通孔内に備えるようにした構成とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下の如き優れた効果を発揮する。
(1)鋼構造物を構成する板材に鋼製の板材を重ねて接合する接合部にボルト接合用のボルト挿通孔を貫通させて設け、高力ボルトの頭部と該高力ボルトに嵌めて斜めの状態にした座金とを、板材接合部の一側面から上記ボルト挿通孔内を通して上記板材接合部の他側面へ位置させ、しかる後、上記高力ボルトを板材接合部の一側面へ引張りながら上記座金を該高力ボルトに対して直角の状態にし、該座金を介して高力ボルトの頭部を板材接合部の他側面に係止させるようにし、高力ボルトの軸部にナットを締結させて接合するようにする鋼構造物の接合方法及び装置としてあるので、汎用の高力ボルトを簡単に一面側から挿入して該高力ボルトの頭部を接合する板材接合部の他面側に係止させることができる。これにより、特殊なボルトとすることなく容易に且つ堅固に板材同士の接合部を接合させることができる。
(2)上記(1)により、接合時に1次締めをしてから本締めをする手順が可能となって、板材同士の肌隙きが多少あっても、十分に締結させることができる。
(3)座金を斜めにしてボルトと一緒にボルト挿通孔に通すだけでボルトの頭部を板材接合部の他面側に係止させられることから、ワンタッチ操作でボルトをセットでき、片面からナットを締結させるだけですむため、短時間に締結作業を行うことができる。
(4)板材にボルト挿通孔を設けるときに、板材の裏側にバリが生じても、座金を介してボルトの頭部を板材の裏面側に係止させる際、バリをボルト挿通孔とボルトとの間へ押し込むことができて、バリの影響を受けることがない。
(5)座金に、板材接合部のボルト挿通孔に沿うようにするガイド部材を設けた構成とすることにより、座金を板材に沿わせるようにするときにボルト挿通孔にガイド部材を介して位置決めすることができて、該座金に挿通してある高力ボルトのボルト挿通孔内での位置決めを確実に行わせることができる。
(6)外径をボルト挿通孔の内径に対応させた大きさとし且つ内径を高力ボルトの軸部の外径に対応させた大きさとしてあるリング状のガイド部材を、上記ボルト挿通孔に挿入した高力ボルトの軸部に嵌合させてボルト挿通孔内に備えるようにした構成とすることにより、高力ボルトの位置決めを簡単に行わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0020】
図1乃至図5は本発明の実施の一形態を示すもので、図8及び図9に示したトラス梁の補強対象となる鋼構造物としての弦材2の各面の板材に鋼製の板材としての当て板4を当ててボルト接合して補強するようにしてある場合と同様に、鋼構造物としてのボックス形状の弦材2の各面の板材に鋼製の当て板4を重ねて配置し、当て板4を弦材2の板材に、表面側となる一側面からボルトを挿通させてナットを締結させるようにしたものに用いるようにした場合について説明する。
【0021】
すなわち、図1に示す如く、断面がボックス形状をなし且つ内部空間に人が入ることができない大きさとしてある鋼構造物としての弦材2の各面の板材2aの外側面に、補強用の板材(当て板)4を重ねるように当接させ、当て板としての板材4と被補強材としての板材2aとを接合する複数個所の板材接合部に、ボルトとナットで締結するためのボルト挿通孔24を、締結に用いるボルトの頭部を挿通させることができる大きさとして設け、該ボルト挿通孔24を利用して表面となる片面側からボルトの頭部を通し、該ボルトの頭部を座金を介して反対側の面となる裏面側に係止させて表面側でナットを締結させるようにする。
【0022】
そのために、図2乃至図5に示す如く、上記ボルト挿通孔24の内径よりも小さい外径の頭部25aを有する高力ボルト25と、該高力ボルト25とともにボルト挿通孔24内を通して通過後はボルト挿通孔24の裏側で板材接合部における板材2aに引掛って係止できるようにしてある特殊な孔形状の座金26とを有し、上記座金26がボルト挿通孔24の裏側に係止させられて高力ボルト25がボルト挿通孔24に片面側から挿入させられた状態になると、締付け用の座金27とナット28とを片面側から高力ボルト25に取り付けることができるようにしてある。
【0023】
詳述すると、上記特殊孔形状の座金26は、十分な強度を有するように所要の厚み寸法としてあると共に、中央部に上記高力ボルト25の軸部を通す孔部と、高力ボルト25の軸部を斜めに通す孔部とを連通させた孔26aを有し、高力ボルト25の軸部に対して、座金26が直角の状態と斜めの状態との間で自由に姿勢を変えることができるようにしてある。
【0024】
更に、上記座金26は、上記ボルト挿通孔24を通り得る幅寸法と、ボルト挿通孔24の内径よりも大きい長さ寸法を有する楕円形状としてある。
【0025】
板材2aに板材4を重ね合わせて接合しようとする板材接合部を片面となる一側面から接合させる片面施工を行う場合は、先ず、接合に使用する高力ボルト25の軸部に、特殊孔形状の座金26の孔26aを通した後、図5に示す如く、座金26を高力ボルト25の軸部に斜めの姿勢となるようにする。
【0026】
次いで、図5に示すように座金26を斜めにした状態のまま高力ボルト25の頭部25aを内側、すなわち、先端側にして、板材4の外側から、該板材4と板材2aを貫通するボルト挿通孔24内に通して行く。この際、座金26は、ボルト挿通孔24の内径寸法よりも幅寸法が等しいか、やや小さい幅寸法としてあり、しかも、高力ボルト25の頭部25aは、ボルト挿通孔24よりも小さい外径寸法としてあるので、高力ボルト25と座金26は、支障なくボルト挿通孔24内を通過することができる。
【0027】
上記高力ボルト25の頭部25aと斜めにした座金26がボルト挿通孔24内を、板材4の外側から板材2aの内側まで通過させられると、板材4の外側に出ている高力ボルト25の軸部を把持して該高力ボルト25を動かしながら、板材2aの内側に斜めの状態で入った座金26を板材2aに沿うように(図5では垂直状態になるように)変位させるようにする。
【0028】
このようにして、座金26が板材2aの内側面に沿わされてボルト挿通孔24の裏側、すなわち、板材2aのボルト挿通孔24部に係止させられると、高力ボルト25を板材2aの外側へ引張っても抜けないように保持されるので、板材4の外側である片面側から座金27を、該高力ボルト25の軸部に嵌めた後、ナット28を該高力ボルト25の軸部に螺合させ、該ナット28を締め付けるようにする。これにより、板材2aに板材4をボルト挿通孔24の位置で接合させることができる。
【0029】
各ボルト挿通孔24ごとに、図5に示すようにして高力ボルト25の頭部25aと座金26とを、板材4の外側である片面側から板材2aの内側順次通過させた後、座金26を板材2aの裏面側に係合させるようにし、この状態で上記片面側からの操作で高力ボルト25の軸部へ座金27とナット28を取り付けることにより、板材2aと4を片面側からの操作で容易に接合させることができる。
【0030】
本発明においては、上記したように、片面側から斜めにした状態で座金26を反対側へ通して該座金26を係止させることにより高力ボルト25の頭部を、簡単に板材2aの内側である裏面側に引掛けて保持させることができるので、現場で板材2aに板材4の方向からボルト挿通孔24がドリル等で形成されることにより、板材2aの裏面側にバリが生じたとしても、上記座金26でバリを押圧してバリをボルト挿通孔24と高力ボルト25との隙間で吸収することができるので、締結に支障を来たすおそれを少なくすることができる。又、片面側である板材4の外側面には、高力ボルト25の軸部に通した座金27が当接させられ、ナット28で締結されることにより、ボルト挿通孔24は閉塞され、気密性を保つことができる。
【0031】
なお、本発明は、上記実施の形態のみに限定されるものではなく、たとえば、図1に示す如く、鋼構造物としてのボックス形状の弦材2の補強として当て板4を弦材2に片面から接合するものに適用した場合を例示したが、鋼構造物接合部において、反対側に手を入れることができないようなところで片面施工をするところにはすべて適用できること、特に径の大きい孔を有する接合部に適用できること、高力ボルト25に対して座金26が直角の状態におかれると、該座金26の中央部の孔に高力ボルト25の軸部に嵌合されることから、座金26と高力ボルト25の位置関係は決められており、該座金26の中心部に高力ボルト25の軸部が位置させられるようになっている。そのため、前記実施の形態において、高力ボルト25の軸部をボルト挿通孔24の中心部に位置させるようにすることにより、座金26を板材2aのボルト挿通孔24に正しく位置決めさせることができるものであるが、座金26の片面にガイド部材を設けておくことにより、より確実に座金26の板材2a裏面への位置決めを行わせることができる。図6(イ)はその一例として、座金26の片面に、周方向に点在するように局部的に突起を設けてガイド部材29とするようにしたものである。又、図6(ロ)は他の例として、突起を周方向に或る程度の長さに亘り連続させるようにしてガイド部材30とするようにしたものである。このようにすれば、各ガイド部材29,30がボルト挿通孔24の縁に沿い係合することにより、円滑にボルト挿通孔24への位置決めを行わせることができ、これにより高力ボルト25の位置決めを容易に行わせることができる。更に、図6(ハ)に示す如く、高力ボルト25の頭部25aと座金26をボルト挿通孔24内を通して板材2aの裏面側へ位置させた状態のとき、高力ボルト25の軸部に、外径をボルト挿通孔24の内径に対応させた大きさとし且つ内径を高力ボルト25の軸部の外径に対応させた大きさとしたリング状(又はドーナツ形状)のガイド部材31を嵌合させて、ボルト挿通孔24内へ挿入させることにより、高力ボルト25の位置決めのガイドをさせることができ、図6(イ)(ロ)で用いるような座金26にガイド部材29,30を設けることなく、簡単にガイドさせることができること、ボルトとして高力ボルト25について説明したが、板材同士の接合部の締結部の状況に応じて六角ボルトを使用するようにしてもよいこと、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の鋼構造物の接合方法及び装置の実施の一形態を示す概略図である。
【図2】図1のA部の拡大図である。
【図3】図2のB−B矢視図である。
【図4】本発明に用いる座金を示すもので、(イ)は平面図、(ロ)は(イ)の切断側面図である。
【図5】本発明による接合時の状態を示す図である。
【図6】本発明の他の形態を示すもので、(イ)は座金の片面に、板材のボルト挿通孔に位置決めするガイド部材を局部的に設けた例を示す図、(ロ)はガイド部材を周方向に沿うように設けた例を示す図、(ハ)は高力ボルトの軸部に嵌めて高力ボルトの位置決めをガイドさせるようにした例を示す図である。
【図7】橋梁等で用いられているトラス梁の概略図である。
【図8】図7のC部の拡大図である。
【図9】図8のD−D拡大断面図である。
【図10】従来の鉄骨柱と鉄骨梁の接合部をワンサイドボルトで締結するようにした例を示すもので、(イ)はボルトを長孔に挿入した状態を示す図、(ロ)はボルトを90度回転させてナットで締結する状態を示す図である。
【図11】従来の別のワンサイドボルトにより板部材に板部材を接合する例を示すもので、(イ)は締結前の状態図、(ロ)は締結後の状態図である。
【符号の説明】
【0033】
2 弦材
2a 板材
4 当て板(板材)
24 ボルト挿通孔
25 高力ボルト
25a 頭部
26 座金
26a 孔
29 ガイド部材
30 ガイド部材
31 ガイド部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、トラス梁の弦材の如き箱形断面を有する鋼構造物の外側面に当て板をして補強するときに当て板の接合を片面から施工するような場合に用いる鋼構造物の接合方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁等に用いられているトラス構造の梁は、図7に示す如く、上部の弦材1と、下部の弦材2と腹材3とから構成されている。
【0003】
近年、橋梁等の建造物の耐震性が問題とされ、耐震性向上を図る構造とすることが求められ、そのための補強工事が施されてきている。
【0004】
上記図7に示すようなトラス梁のうち、下部の弦材2についてみると、図7のC部拡大である図8、及び該図8のD−D断面である図9に示す如く、弦材2は、断面形状がボックス形状としてあり、図示してあるように、4つの各面の外側に当て板4をし、この当て板4を多数のボルト(主として高力ボルト)5で取り付けて補強することが行われている。
【0005】
上記ボックス断面形状の弦材2の補強を行う場合に、ボックス形の弦材2の内側に作業員が入るスペースがあれば、当て板4に予め設けてあるボルト挿通孔に合わせて現場で弦材2にボルト挿通孔を穿設した後、ボックスの内側にいる作業員がボルト5を弦材2のボルト挿通孔、当て板4のボルト挿通孔の順に通して、該ボルト5の先端を当て板4の外側へ突出させると、当て板4の外側にいる別の作業員がそのボルト5に座金を介してナットを螺合させて当て板4をボルト止めし、補強を行わせることが可能である。
【0006】
しかしながら、上記弦材2の内側に人が入れないような狭い状況の場合には、ボックスの内側からボルト5を外向きに通すことができないため、当て板4を弦材2の外側にボルト止めして補強を行う場合、当て板4のボルト挿通孔と弦材2のボルト挿通孔に外側からボルト5を挿入して弦材2の内側にボルトの頭部を係止させ、しかる後、当て板4の外側でナットを締め付けるという片面施工となる。
【0007】
このような片面施工の補強工事に用いられるようなボルトとしては、次のようなワンサイドボルトが提案されている。
【0008】
図10(イ)(ロ)は従来のワンサイドボルトの一例による片面施工方法を示すもので、角パイプ状の鋼管からなる鉄骨柱6とH型鋼からなる鉄骨梁7との接合部に、長孔8が設けてある。係止ボルト9は、上記長孔8に挿入できるようにボルト頭10を上記長孔8に対応する扁平形状とした構成としてある。係止ボルト9を、鉄骨梁7側からボルト頭10を長孔8に通して鉄骨柱6内に挿入させた後、該係止ボルト9を90度回転させて、長孔8が設けてある接合部にボルト頭10を係止させるようにし、しかる後、係止ボルト9に鉄骨梁7側からナット11を螺合させて締め付けることにより、鉄骨柱6と鉄骨梁7との接合部をボルト止めするようにしてある(たとえば、特許文献1参照)。
【0009】
図11(イ)(ロ)は従来の別のワンサイドボルトによる片面施工方法を示すもので、ヘッド部13aを有する軸部13b、螺子部13c、縮径部13d、ピンテール13eからなるコアピン(ボルト部材)13と、そのコアピン13に被嵌されるバルブスリーブ(拡径スリーブ)14、グリップスリーブ15、シェアワッシャー16及びベアリングワッシャー17と、コアピン13の螺子部13cに螺合するナット部材18とで構成されるワンサイドボルト12を用いるものである。図11(イ)に示す如く、コンクリート19に沿って取り付けられている板部材20に、別の板部材21を当てて補強する場合に、先ず、板部材20と21に形成された孔部22から、コンクリート19に形成された拡径された穴部23に、板部材21の外側から上記ワンサイドボルト12をヘッド部13aを先にして挿入する。次に、図11(ロ)に示す如く、専用の電動工具を使用して、外側からナット部材18を締結する。これによりコアピン13が引き上げられてバルブスリーブ14が、拡径された穴部23内で変形し、裏側の板部材20の裏面側にバルブ頭14aが形成され、更に締め付けが進むと、バルブ頭14aが裏側の板部材20に当り締め付け力が増すことから、シェアワッシャー16が剪断されて軸力導入が開始され、所定の軸力が出たところで縮径部13dからピンテール13eが破断され締結が完了するようにしたものである(たとえば、特許文献2参照)。
【0010】
【特許文献1】特開平5−287807号公報
【特許文献2】特許第3840474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、図10に示すような片面施工に用いられているワンサイドボルトの場合は、係止ボルト9が高力ボルトではなく、締付力が弱く、図7乃至図9に示すような鋼構造物としての弦材の補強に用いるボルトとしては適用できないものである。
【0012】
又、接合部に長孔をあけなければならず、長孔をあけるのに多大な工数がかかること、係止ボルトのボルト頭を扁平させるという特殊なものであるため、製作費が嵩むこと、等の問題がある。
【0013】
一方、図11(イ)(ロ)に示すバルブスリーブ14を備えたワンサイドボルトの場合は、特殊なボルトとなるため、製作に多くの手数と費用を要するという問題のほかに、ナット部材による締結時に、バルブスリーブ14を変形させてバルブ頭14aを形成させるようにするものであるため、1次締めしてから100%の本締めをするという手順をとることができず、いきなり本締めとなるものである。そのため、古い板部材20に新しい板部材21を締め付けるとき、この2つの板部材20,21同士の肌隙きがあると、或る間隔を置いた2個所で締め付けを行うときに、一方を本締めした後、他方を本締めするとき当該一方の締付部が緩んでくるという所定の軸力が入らないという問題があり、板部材同士の肌が合うように加工を施す必要がある。又、現場で古い板部材20に孔部を外側からドリル等で形成した場合に、板部材20の裏面側にバリが残ることがあり、このバリが残ると、バルブスリーブ14が変形してバルブ頭14aを形成し、このバルブ頭14aが板部材20の裏面に係止するときにバリのために密着できないことになり、所定の軸力が入らないこと、ナット部材18の締結に専用の電動工具が必要であること、バルブスリーブ14を変形させるものであるため、締結完了までに多くの時間を要すること、バルブスリーブ14が変形してバルブ頭14aが形成されるが、このバルブ頭14aは地金が剥き出しになることから、防錆上問題となること、等の問題がある。
【0014】
そこで、本発明は、かかる従来提案されているようなワンサイドボルトを用いているような種々の問題をなくすため、特殊ボルトとすることなく容易に接合部の内側から外側へボルトを挿入できて、1次締め→本締めの手順で締め付けることができ、且つバリの影響も受けることがなく、締付時間を短縮できるようなボルトを使用した鋼構造物接合部の片面施工用ボルト装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために、鋼構造物を構成する板材に鋼製の板材を重ねて接合する接合部にボルト接合用のボルト挿通孔を貫通させて設け、高力ボルトの頭部と該高力ボルトに嵌めて斜めの状態にした座金とを、板材接合部の一側面から上記ボルト挿通孔内を通して上記板材接合部の他側面へ位置させ、しかる後、上記高力ボルトを板材接合部の一側面へ引張りながら上記座金を該高力ボルトに対して直角の状態にし、該座金を介して高力ボルトの頭部を板材接合部の他側面に係止させるようにし、高力ボルトの軸部にナットを締結させて接合するようにする鋼構造物の接合方法、及び鋼構造物を構成する板材に鋼製の板材を重ねて接合する接合部にボルト接合用のボルト挿通孔を貫通させて設け、該ボルト挿通孔の内径よりも小さい頭部を有する高力ボルトと、該高力ボルトに対して直角の状態と斜めの状態との間で変位させられるようにした座金とを備え、且つ上記座金の大きさを、高力ボルトに対して斜めの状態にしたときに、上記ボルト挿通孔を通過できると共に高力ボルトに対して直角の状態にしたときに上記ボルト挿通孔を通過できない大きさとしてなり、上記高力ボルトの頭部と該高力ボルトに嵌めた上記座金とを板材接合部の一側面よりボルト挿通孔に挿入して板材接合部の他側面に位置させるようにし、該ボルトの頭部を板材接合部の他面側に座金を介して係止させるようにした構成を有することを特徴とする鋼構造物の接合装置とする。
【0016】
上記装置において、高力ボルトの軸部に嵌合させて該高力ボルトの頭部を板材の裏面側に係止させるようにする座金に、該板材接合部のボルト挿通孔に沿うようにするガイド部材を設けた構成とする。
【0017】
又、上記構成において、外径をボルト挿通孔の内径に対応させた大きさとし且つ内径を高力ボルトの軸部の外径に対応させた大きさとしてあるリング状のガイド部材を、上記ボルト挿通孔に挿入した高力ボルトの軸部に嵌合させてボルト挿通孔内に備えるようにした構成とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下の如き優れた効果を発揮する。
(1)鋼構造物を構成する板材に鋼製の板材を重ねて接合する接合部にボルト接合用のボルト挿通孔を貫通させて設け、高力ボルトの頭部と該高力ボルトに嵌めて斜めの状態にした座金とを、板材接合部の一側面から上記ボルト挿通孔内を通して上記板材接合部の他側面へ位置させ、しかる後、上記高力ボルトを板材接合部の一側面へ引張りながら上記座金を該高力ボルトに対して直角の状態にし、該座金を介して高力ボルトの頭部を板材接合部の他側面に係止させるようにし、高力ボルトの軸部にナットを締結させて接合するようにする鋼構造物の接合方法及び装置としてあるので、汎用の高力ボルトを簡単に一面側から挿入して該高力ボルトの頭部を接合する板材接合部の他面側に係止させることができる。これにより、特殊なボルトとすることなく容易に且つ堅固に板材同士の接合部を接合させることができる。
(2)上記(1)により、接合時に1次締めをしてから本締めをする手順が可能となって、板材同士の肌隙きが多少あっても、十分に締結させることができる。
(3)座金を斜めにしてボルトと一緒にボルト挿通孔に通すだけでボルトの頭部を板材接合部の他面側に係止させられることから、ワンタッチ操作でボルトをセットでき、片面からナットを締結させるだけですむため、短時間に締結作業を行うことができる。
(4)板材にボルト挿通孔を設けるときに、板材の裏側にバリが生じても、座金を介してボルトの頭部を板材の裏面側に係止させる際、バリをボルト挿通孔とボルトとの間へ押し込むことができて、バリの影響を受けることがない。
(5)座金に、板材接合部のボルト挿通孔に沿うようにするガイド部材を設けた構成とすることにより、座金を板材に沿わせるようにするときにボルト挿通孔にガイド部材を介して位置決めすることができて、該座金に挿通してある高力ボルトのボルト挿通孔内での位置決めを確実に行わせることができる。
(6)外径をボルト挿通孔の内径に対応させた大きさとし且つ内径を高力ボルトの軸部の外径に対応させた大きさとしてあるリング状のガイド部材を、上記ボルト挿通孔に挿入した高力ボルトの軸部に嵌合させてボルト挿通孔内に備えるようにした構成とすることにより、高力ボルトの位置決めを簡単に行わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0020】
図1乃至図5は本発明の実施の一形態を示すもので、図8及び図9に示したトラス梁の補強対象となる鋼構造物としての弦材2の各面の板材に鋼製の板材としての当て板4を当ててボルト接合して補強するようにしてある場合と同様に、鋼構造物としてのボックス形状の弦材2の各面の板材に鋼製の当て板4を重ねて配置し、当て板4を弦材2の板材に、表面側となる一側面からボルトを挿通させてナットを締結させるようにしたものに用いるようにした場合について説明する。
【0021】
すなわち、図1に示す如く、断面がボックス形状をなし且つ内部空間に人が入ることができない大きさとしてある鋼構造物としての弦材2の各面の板材2aの外側面に、補強用の板材(当て板)4を重ねるように当接させ、当て板としての板材4と被補強材としての板材2aとを接合する複数個所の板材接合部に、ボルトとナットで締結するためのボルト挿通孔24を、締結に用いるボルトの頭部を挿通させることができる大きさとして設け、該ボルト挿通孔24を利用して表面となる片面側からボルトの頭部を通し、該ボルトの頭部を座金を介して反対側の面となる裏面側に係止させて表面側でナットを締結させるようにする。
【0022】
そのために、図2乃至図5に示す如く、上記ボルト挿通孔24の内径よりも小さい外径の頭部25aを有する高力ボルト25と、該高力ボルト25とともにボルト挿通孔24内を通して通過後はボルト挿通孔24の裏側で板材接合部における板材2aに引掛って係止できるようにしてある特殊な孔形状の座金26とを有し、上記座金26がボルト挿通孔24の裏側に係止させられて高力ボルト25がボルト挿通孔24に片面側から挿入させられた状態になると、締付け用の座金27とナット28とを片面側から高力ボルト25に取り付けることができるようにしてある。
【0023】
詳述すると、上記特殊孔形状の座金26は、十分な強度を有するように所要の厚み寸法としてあると共に、中央部に上記高力ボルト25の軸部を通す孔部と、高力ボルト25の軸部を斜めに通す孔部とを連通させた孔26aを有し、高力ボルト25の軸部に対して、座金26が直角の状態と斜めの状態との間で自由に姿勢を変えることができるようにしてある。
【0024】
更に、上記座金26は、上記ボルト挿通孔24を通り得る幅寸法と、ボルト挿通孔24の内径よりも大きい長さ寸法を有する楕円形状としてある。
【0025】
板材2aに板材4を重ね合わせて接合しようとする板材接合部を片面となる一側面から接合させる片面施工を行う場合は、先ず、接合に使用する高力ボルト25の軸部に、特殊孔形状の座金26の孔26aを通した後、図5に示す如く、座金26を高力ボルト25の軸部に斜めの姿勢となるようにする。
【0026】
次いで、図5に示すように座金26を斜めにした状態のまま高力ボルト25の頭部25aを内側、すなわち、先端側にして、板材4の外側から、該板材4と板材2aを貫通するボルト挿通孔24内に通して行く。この際、座金26は、ボルト挿通孔24の内径寸法よりも幅寸法が等しいか、やや小さい幅寸法としてあり、しかも、高力ボルト25の頭部25aは、ボルト挿通孔24よりも小さい外径寸法としてあるので、高力ボルト25と座金26は、支障なくボルト挿通孔24内を通過することができる。
【0027】
上記高力ボルト25の頭部25aと斜めにした座金26がボルト挿通孔24内を、板材4の外側から板材2aの内側まで通過させられると、板材4の外側に出ている高力ボルト25の軸部を把持して該高力ボルト25を動かしながら、板材2aの内側に斜めの状態で入った座金26を板材2aに沿うように(図5では垂直状態になるように)変位させるようにする。
【0028】
このようにして、座金26が板材2aの内側面に沿わされてボルト挿通孔24の裏側、すなわち、板材2aのボルト挿通孔24部に係止させられると、高力ボルト25を板材2aの外側へ引張っても抜けないように保持されるので、板材4の外側である片面側から座金27を、該高力ボルト25の軸部に嵌めた後、ナット28を該高力ボルト25の軸部に螺合させ、該ナット28を締め付けるようにする。これにより、板材2aに板材4をボルト挿通孔24の位置で接合させることができる。
【0029】
各ボルト挿通孔24ごとに、図5に示すようにして高力ボルト25の頭部25aと座金26とを、板材4の外側である片面側から板材2aの内側順次通過させた後、座金26を板材2aの裏面側に係合させるようにし、この状態で上記片面側からの操作で高力ボルト25の軸部へ座金27とナット28を取り付けることにより、板材2aと4を片面側からの操作で容易に接合させることができる。
【0030】
本発明においては、上記したように、片面側から斜めにした状態で座金26を反対側へ通して該座金26を係止させることにより高力ボルト25の頭部を、簡単に板材2aの内側である裏面側に引掛けて保持させることができるので、現場で板材2aに板材4の方向からボルト挿通孔24がドリル等で形成されることにより、板材2aの裏面側にバリが生じたとしても、上記座金26でバリを押圧してバリをボルト挿通孔24と高力ボルト25との隙間で吸収することができるので、締結に支障を来たすおそれを少なくすることができる。又、片面側である板材4の外側面には、高力ボルト25の軸部に通した座金27が当接させられ、ナット28で締結されることにより、ボルト挿通孔24は閉塞され、気密性を保つことができる。
【0031】
なお、本発明は、上記実施の形態のみに限定されるものではなく、たとえば、図1に示す如く、鋼構造物としてのボックス形状の弦材2の補強として当て板4を弦材2に片面から接合するものに適用した場合を例示したが、鋼構造物接合部において、反対側に手を入れることができないようなところで片面施工をするところにはすべて適用できること、特に径の大きい孔を有する接合部に適用できること、高力ボルト25に対して座金26が直角の状態におかれると、該座金26の中央部の孔に高力ボルト25の軸部に嵌合されることから、座金26と高力ボルト25の位置関係は決められており、該座金26の中心部に高力ボルト25の軸部が位置させられるようになっている。そのため、前記実施の形態において、高力ボルト25の軸部をボルト挿通孔24の中心部に位置させるようにすることにより、座金26を板材2aのボルト挿通孔24に正しく位置決めさせることができるものであるが、座金26の片面にガイド部材を設けておくことにより、より確実に座金26の板材2a裏面への位置決めを行わせることができる。図6(イ)はその一例として、座金26の片面に、周方向に点在するように局部的に突起を設けてガイド部材29とするようにしたものである。又、図6(ロ)は他の例として、突起を周方向に或る程度の長さに亘り連続させるようにしてガイド部材30とするようにしたものである。このようにすれば、各ガイド部材29,30がボルト挿通孔24の縁に沿い係合することにより、円滑にボルト挿通孔24への位置決めを行わせることができ、これにより高力ボルト25の位置決めを容易に行わせることができる。更に、図6(ハ)に示す如く、高力ボルト25の頭部25aと座金26をボルト挿通孔24内を通して板材2aの裏面側へ位置させた状態のとき、高力ボルト25の軸部に、外径をボルト挿通孔24の内径に対応させた大きさとし且つ内径を高力ボルト25の軸部の外径に対応させた大きさとしたリング状(又はドーナツ形状)のガイド部材31を嵌合させて、ボルト挿通孔24内へ挿入させることにより、高力ボルト25の位置決めのガイドをさせることができ、図6(イ)(ロ)で用いるような座金26にガイド部材29,30を設けることなく、簡単にガイドさせることができること、ボルトとして高力ボルト25について説明したが、板材同士の接合部の締結部の状況に応じて六角ボルトを使用するようにしてもよいこと、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の鋼構造物の接合方法及び装置の実施の一形態を示す概略図である。
【図2】図1のA部の拡大図である。
【図3】図2のB−B矢視図である。
【図4】本発明に用いる座金を示すもので、(イ)は平面図、(ロ)は(イ)の切断側面図である。
【図5】本発明による接合時の状態を示す図である。
【図6】本発明の他の形態を示すもので、(イ)は座金の片面に、板材のボルト挿通孔に位置決めするガイド部材を局部的に設けた例を示す図、(ロ)はガイド部材を周方向に沿うように設けた例を示す図、(ハ)は高力ボルトの軸部に嵌めて高力ボルトの位置決めをガイドさせるようにした例を示す図である。
【図7】橋梁等で用いられているトラス梁の概略図である。
【図8】図7のC部の拡大図である。
【図9】図8のD−D拡大断面図である。
【図10】従来の鉄骨柱と鉄骨梁の接合部をワンサイドボルトで締結するようにした例を示すもので、(イ)はボルトを長孔に挿入した状態を示す図、(ロ)はボルトを90度回転させてナットで締結する状態を示す図である。
【図11】従来の別のワンサイドボルトにより板部材に板部材を接合する例を示すもので、(イ)は締結前の状態図、(ロ)は締結後の状態図である。
【符号の説明】
【0033】
2 弦材
2a 板材
4 当て板(板材)
24 ボルト挿通孔
25 高力ボルト
25a 頭部
26 座金
26a 孔
29 ガイド部材
30 ガイド部材
31 ガイド部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造物を構成する板材に鋼製の板材を重ねて接合する接合部にボルト接合用のボルト挿通孔を貫通させて設け、高力ボルトの頭部と該高力ボルトに嵌めて斜めの状態にした座金とを、板材接合部の一側面から上記ボルト挿通孔内を通して上記板材接合部の他側面へ位置させ、しかる後、上記高力ボルトを板材接合部の一側面へ引張りながら上記座金を該高力ボルトに対して直角の状態にし、該座金を介して高力ボルトの頭部を板材接合部の他側面に係止させるようにし、高力ボルトの軸部にナットを締結させて接合するようにする鋼構造物の接合方法。
【請求項2】
鋼構造物を構成する板材に鋼製の板材を重ねて接合する接合部にボルト接合用のボルト挿通孔を貫通させて設け、該ボルト挿通孔の内径よりも小さい頭部を有する高力ボルトと、該高力ボルトに対して直角の状態と斜めの状態との間で変位させられるようにした座金とを備え、且つ上記座金の大きさを、高力ボルトに対して斜めの状態にしたときに、上記ボルト挿通孔を通過できると共に高力ボルトに対して直角の状態にしたときに上記ボルト挿通孔を通過できない大きさとしてなり、上記高力ボルトの頭部と該高力ボルトに嵌めた上記座金とを板材接合部の一側面よりボルト挿通孔に挿入して板材接合部の他側面に位置させるようにし、該ボルトの頭部を板材接合部の他面側に座金を介して係止させるようにした構成を有することを特徴とする鋼構造物の接合装置。
【請求項3】
高力ボルトの軸部に嵌合させて該高力ボルトの頭部を板材の裏面側に係止させるようにする座金に、該板材接合部のボルト挿通孔に沿うようにするガイド部材を設けた請求項2記載の鋼構造物の接合装置。
【請求項4】
外径をボルト挿通孔の内径に対応させた大きさとし且つ内径を高力ボルトの軸部の外径に対応させた大きさとしてあるリング状のガイド部材を、上記ボルト挿通孔に挿入した高力ボルトの軸部に嵌合させてボルト挿通孔内に備えるようにした請求項2記載の鋼構造物の接合装置。
【請求項1】
鋼構造物を構成する板材に鋼製の板材を重ねて接合する接合部にボルト接合用のボルト挿通孔を貫通させて設け、高力ボルトの頭部と該高力ボルトに嵌めて斜めの状態にした座金とを、板材接合部の一側面から上記ボルト挿通孔内を通して上記板材接合部の他側面へ位置させ、しかる後、上記高力ボルトを板材接合部の一側面へ引張りながら上記座金を該高力ボルトに対して直角の状態にし、該座金を介して高力ボルトの頭部を板材接合部の他側面に係止させるようにし、高力ボルトの軸部にナットを締結させて接合するようにする鋼構造物の接合方法。
【請求項2】
鋼構造物を構成する板材に鋼製の板材を重ねて接合する接合部にボルト接合用のボルト挿通孔を貫通させて設け、該ボルト挿通孔の内径よりも小さい頭部を有する高力ボルトと、該高力ボルトに対して直角の状態と斜めの状態との間で変位させられるようにした座金とを備え、且つ上記座金の大きさを、高力ボルトに対して斜めの状態にしたときに、上記ボルト挿通孔を通過できると共に高力ボルトに対して直角の状態にしたときに上記ボルト挿通孔を通過できない大きさとしてなり、上記高力ボルトの頭部と該高力ボルトに嵌めた上記座金とを板材接合部の一側面よりボルト挿通孔に挿入して板材接合部の他側面に位置させるようにし、該ボルトの頭部を板材接合部の他面側に座金を介して係止させるようにした構成を有することを特徴とする鋼構造物の接合装置。
【請求項3】
高力ボルトの軸部に嵌合させて該高力ボルトの頭部を板材の裏面側に係止させるようにする座金に、該板材接合部のボルト挿通孔に沿うようにするガイド部材を設けた請求項2記載の鋼構造物の接合装置。
【請求項4】
外径をボルト挿通孔の内径に対応させた大きさとし且つ内径を高力ボルトの軸部の外径に対応させた大きさとしてあるリング状のガイド部材を、上記ボルト挿通孔に挿入した高力ボルトの軸部に嵌合させてボルト挿通孔内に備えるようにした請求項2記載の鋼構造物の接合装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−47944(P2010−47944A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212144(P2008−212144)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
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