鋼片の品質評価方法及び装置
【課題】高周波化することなく表面不感帯を小さくし、深さ方向の探傷範囲を大にして、一度に広い範囲を探傷できるようにする。
【解決手段】連続鋳造された鋼片を超音波で探傷し、その探傷結果に基づいて鋼片の品質を評価する際に、水を介して被検査材8の表層部の探傷を行うラインフォーカス状の超音波ビームを送信可能な第一の圧電型振動子20と、ラインフォーカス状の視野を持つ第二の圧電型振動子30とを、前記第一の圧電型振動子20から送信される超音波ビーム21と前記第二の圧電型振動子30で受信するための超音波ビーム範囲(受信信号視野31)の焦点が所定の鋼中深さFで交差するように、音響隔離板40を挟んで対向させて配置して、超音波探傷を行う。
【解決手段】連続鋳造された鋼片を超音波で探傷し、その探傷結果に基づいて鋼片の品質を評価する際に、水を介して被検査材8の表層部の探傷を行うラインフォーカス状の超音波ビームを送信可能な第一の圧電型振動子20と、ラインフォーカス状の視野を持つ第二の圧電型振動子30とを、前記第一の圧電型振動子20から送信される超音波ビーム21と前記第二の圧電型振動子30で受信するための超音波ビーム範囲(受信信号視野31)の焦点が所定の鋼中深さFで交差するように、音響隔離板40を挟んで対向させて配置して、超音波探傷を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造された鋼片を超音波で探傷し、その探傷結果に基づいて鋼片の品質を評価するための鋼片の品質評価方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薄板鋼材は連続鋳造、熱延、酸洗、冷延、亜鉛メッキといった各工程を経て製造される。最終製品で問題となる欠陥は、外観上問題となる表面欠陥や、プレスで顕在化する表層直下の欠陥である。欠陥の発生は前述の各工程のそれぞれで可能性があり、例えば、鋳造性の欠陥としては、アルミナ性介在物、パウダー性介在物がある。また、スラブ表層下の気泡が、熱延の加熱炉でスケールオフされる際に表面に現われ、その穴の中にスケールが詰まることも表面欠陥の原因の一つと言われている。通常、これら介在物や気泡は連続鋳造された鋼片の表面直下に多いため、連続鋳造での鋳型内での電磁攪拌・ブレーキ技術などで、できる限り連続鋳造された鋼片の表面直下に欠陥が発生しないような取り組みが実施されている。
【0003】
連続鋳造の鋳造条件が適切かどうか、連続鋳造された鋼片の品質を評価する手法の一つとして、連続鋳造された鋼片から被検査体を抜き取り、このサンプルの表面を数ミリ程度研削して平滑にして、これを超音波で探傷し、気泡や介在物の分布を統計的に調べて品質を評価する方法がある。
【0004】
超音波探傷方法は、鉄鋼製品(棒、板、管など)内部の欠陥の探傷に使われている。一般的に良く知られている超音波探傷方法は垂直パルスエコー法で、超音波探触子と被検査材とを油や水で音響結合して、超音波探触子から被検査材に垂直に超音波を送信し、内部に存在する欠陥で反射したエコーを超音波探触子で受信する方法である。この方法は被検査材の肉厚の中央部は十分に探傷することができるが、極表層部(表面下数ミリ)については送信パルスや表面エコーが不感帯(探傷不可能な領域)となって、探傷することができない。
【0005】
そこで、被検査材表層部の欠陥を探傷する方法として、一般的には超音波の周波数を高周波化(例えば50MHz)する方法が実施されている。
【0006】
(1)超音波を高周波化する方法
水を介して垂直パルスエコー法で探傷する方法において、図1(A)に示すように、圧電型振動子10から被検査材(鋼片)8に対して送信する超音波ビーム11の周波数を高周波化し、更に、振動径を大きくし、かつ、音響レンズなどにより超音波ビーム11を集束することで、焦点近傍にある欠陥8Fから強い反射波(Fエコー)が得られるようにし、かつ、図1(B)に示す如く、高周波化により受信される被検査材表面8Sからの反射波(Sエコー)の時間幅を短くして、できる限り不感帯を少なくする。表面エコーによる不感帯域が完全になくなるわけではないが、例えば、周波数が5MHzの場合には4〜6mm程度ある不感帯が、周波数を10倍の50MHzにすると1〜2mm程度にすることが可能である。
【0007】
しかし、超音波の周波数を高周波化し、超音波ビームを集束すると、深さ方向に探傷可能な範囲も非常に限定された範囲となってしまうため、探傷可能な範囲を測定した後に、被検査体を深さ方向に削り込みながら探傷を繰り返す方法が実施されている。この方法では、例えば5mmの深さ範囲を測定するだけでも、探傷、被検査体の加工を繰り返す為、探傷結果が得られるまでに数日かかってしまう。不感帯を小さくする為に周波数を高くするほど、探傷可能な深さ範囲が狭くなるため、被検査体の加工回数と探傷回数が多く必要となり、時間を要することになる。
【0008】
(2)特許文献1に記載の方法
そこで、特許文献1では、超音波の周波数を高周波化した手法において、極表層部にある欠陥から発生する多重反射エコーを検出することで、従来、不感帯に隠れてしまい検出できなかった欠陥を検出できるようにしている。
【0009】
しかしながら、欠陥形状(斜めや三角に尖った物等)の影響で、多重反射エコーが起きにくく、未検出となる欠陥が生じやすい。更に多重反射エコーを使うために、欠陥の深さを正確に知ることができないといった問題や、正確な深さがわからないため、DGS特性(距離−信号振幅特性)をもとに信号振幅から欠陥サイズをより正確に推定できないといった問題がある。更にこの方法も、高周波の超音波を送受信するために、(1)で記載した問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平1−237449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来実施されている、連続鋳造された鋼片を超音波で探傷し、その探傷結果に基づいて鋼片の品質を評価する方法では、深さ方向の探傷範囲が狭いため、深さ方向の探傷領域が広いほど、欠陥の品質を評価するのに探傷回数とサンプルの加工回数が多く必要となり、結果が得られるまでに時間がかかるといった問題があった。
【0012】
本発明では、前記問題を解決するべくなされたもので、連続鋳造された鋼片の、超音波を用いた評価を迅速に行えるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、連続鋳造された鋼片を超音波で探傷し、その探傷結果に基づいて鋼片の品質を評価する際に、水を介して被検査材の表層部の探傷を行うラインフォーカス状の超音波ビームを送信可能な第一の圧電型振動子と、ラインフォーカス状の視野を持つ第二の圧電型振動子とを、前記第一の圧電型振動子から送信される超音波ビームと前記第二の圧電型振動子で受信するための超音波ビーム範囲の焦点が所定の鋼中深さで交差するように、音響隔離板を挟んで対向させて配置して、超音波探傷を行うことにより、前記課題を解決したものである。
【0014】
ここで、前記第一、第二の圧電型振動子の長辺方向に超音波を集束させ、かつ、短辺方向に超音波を拡散させることができる。
【0015】
又、欠陥の深さと前記第一の圧電型振動子および前記第二の圧電型振動子との配置から超音波の伝播経路を計算し、該計算した伝播経路に基づいて欠陥の深さ位置を補正することができる。
【0016】
又、前記所定の鋼中深さを複数とし、各鋼中深さに対して、それぞれ前記第一及び第二の圧電型振動子を配設することができる。
【0017】
本発明は、又、連続鋳造された鋼片を超音波で探傷し、その探傷結果に基づいて鋼片の品質を評価するための鋼片の品質評価装置において、水を介して被検査材の表層部の探傷を行うラインフォーカス状の超音波ビームを送信可能な第一の圧電型振動子と、ラインフォーカス状の視野を持つ第二の圧電型振動子とを、前記第一の圧電型振動子から送信される超音波ビームと前記第二の圧電型振動子で受信するための超音波ビーム範囲の焦点が所定の鋼中深さで交差するように、音響隔離板を挟んで対向されて配置してなる超音波探傷手段を備えたことにより、同様に前記課題を解決したものである。
【0018】
ここで、前記第一、第二の圧電型振動子は、その長辺方向に超音波を集束し、かつ、短辺方向に超音波を拡散するようにすることができる。
【0019】
又、欠陥の深さと前記第一の圧電型振動子および前記第二の圧電型振動子との配置から超音波の伝播経路を計算し、該計算した伝播経路に基づいて欠陥の深さ位置を補正する手段を備えることができる。
【0020】
又、前記所定の鋼中深さを複数とし、各鋼中深さに対して、それぞれ前記第一及び第二の圧電型振動子を配設することができる。
【発明の効果】
【0021】
連続鋳造された鋼片から抜き取った被検査体を、従来技術よりも不感帯を少なく、深さ方向の探傷範囲を大にして一度に広い範囲を探傷することができるようになったので、被検査体の品質評価に要する時間が大幅に短縮され、連続鋳造鋼片の製造条件への迅速なフィードバックが可能となり、より高い品質の鋼片を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来の問題点を説明するための断面図及び波形イメージ図
【図2】本発明の実施形態の基本的な構成を示す(A)断面図及び(B)上面図
【図3】本発明で使用可能な圧電型振動子の一例を示す斜視図
【図4】前記実施形態における配置を示す断面図
【図5】同じく欠陥の鋼中深さ毎の入射位置P1−P2間距離(入射角度)とS/Nの関係の例を示す図
【図6】本発明の原理を説明する断面図
【図7】本発明の第1実施例の全体構成を示すブロック図
【図8】同じく探傷状況を示す斜視図
【図9】同じくセンサヘッドの断面図
【図10】同じく処理手順を示す流れ図
【図11】同じく計算方法を示す(A)断面図及び(B)相関図
【図12】(A)従来法と(B)本発明法による相関を示す図
【図13】従来法と第1実施例による探傷範囲を比較して示す図
【図14】本発明の第2実施例の要部構成を示す断面図
【図15】従来法と第2実施例による探傷範囲を比較して示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
図2(A)は、本実施形態の基本的な構成を示す断面図、図2(B)は同じく上面図である。図中20は第一の圧電型振動子、21は該第一の圧電型振動子20から送信される超音波ビーム、30は第二の圧電型振動子、31は該第二の圧電型振動子30の受信信号視野、40は音響隔離板、φ1は第一の圧電型振動子20の被検査材表面8Sの法線に対する角度、φ2は第二の圧電型振動子30の被検査材表面8Sの法線に対する角度、Dcは測定深さ範囲、Fは鋼中焦点深さである。
【0025】
本実施形態では音響結合方法を水浸法として、超音波の送信と受信を第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30とに分割して行う。第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30は、図2(A)に示す断面図、図2(B)に示す上面図に示したように、ラインフォーカス状に超音波を送受信可能な形状とし、第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30が対向する面に対して垂直な方向については超音波が非集束となり拡散し、平行な面については超音波が集束するように振動子の形状を決定する。例えば、長方形の圧電型振動子を用意して、図3に示すように長辺側には集束するように曲率をつけ、短辺側は集束しないように平坦なままにする。または、平坦な圧電型振動子にラインフォーカス状のビームが得られるように音響レンズを取り付けても良い。ここで長辺側で集束させるのは、超音波が拡散しすぎて、小欠陥が検出できなくなるのを防ぐためである。
【0026】
前記第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30、音響隔離板40の配置について図4を用いて詳細に説明する。図4中、P1は第一の圧電型振動子20の音圧中心軸と被検査材表面8Sとの交差位置、P2は第二の圧電型振動子30の音圧中心軸と被検査材表面8Sとの交差位置、Wdは位置P1とP2間の距離、Pcは被検査材(鋼)8中における焦点位置、d1は位置PcとP1間の距離、d2は位置PcとP2間の距離である。
【0027】
前記距離d1とd2、角度φ1とφ2は、異なる値としてもかまわないが、焦点位置Pcで理想的な超音波の反射がおきると仮定すると、距離d1とd2、角度φ1とφ2は各々同じ値にして、線対称に第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30を配置することが好ましい。線対称となるように第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30を配置したときは、線対称の中心軸に音響隔離板40を配置する。
【0028】
探傷作業前に探傷したい鋼中深さFを予め設定すれば、位置P1とP2から位置Pcに対して超音波が最短で伝播する経路が求まり、角度θ1および角度θ2が計算できる。角度θ1とθ2から、次式で示されるスネルの法則を用いて、各位置P1、P2毎に角度φ1と角度φ2を計算させることになる。
【0029】
【数1】
【0030】
ここで、φ:入射角度
θ:屈折角度
Vw:水中音速
Vs:鋼中音速
【0031】
ある鋼中深さFに対して、最もS/Nが取れる位置P1と位置P2を図表にして整理しておくことが好ましい。図表の作成は、深さF毎に横穴人工疵や平底穴人工疵を加工し、これをもとに最適な条件を調査して、たとえば図5に示すように整理しておく。整理した結果をもとに、深さF毎に最適な条件を選択して探傷を行う。
【0032】
なお、位置P1とP2、Pcは同一直線状とすることが配置を容易にする上で適当であるが、これに限定されない。
【0033】
図4の配置とすることで、第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30は、正反射方向とは異なる方向を向くことになる。従って、図6に示すように、第一の圧電型振動子20から送信され、被検査材8の表面8Sで反射された信号が、第二の圧電型振動子30で受信されにくくなり、表面反射波(Sエコー)の振幅が小さくなる。更に音響隔離板40を設けて、被検査材表面8Sで反射し、第二の圧電型振動子30に漏れこんでくる散乱波を遮ることで、表面反射波の振幅を更に小さくし、表面不感帯を限りなく低減させることが可能となる。
【0034】
また、ラインフォーカス状のビームの拡散する側が深さ方向に対して交差するように配置することで、交差範囲、すなわち図2の測定深さ範囲Dcに在る欠陥からの反射波を受信することができる。
【0035】
従来の技術では、Sエコーの不感帯域を狭めるために、高周波化し、かつ欠陥からの反射波をS/N良く受信できるようにするために、超音波を集束させている。不感帯を短くしようとするほど、高周波化と超音波の集束化が必要となる一方で探傷可能な深さ範囲が狭くなるという相反関係の課題があった。
【0036】
本発明により、この相反関係にある課題を解決し、高周波化せずとも、表面不感帯を小さくし、かつ深さ方向の広い範囲を探傷することが可能となった。
【実施例】
【0037】
[第一の実施例]
本発明の第一の実施例を図7乃至図13を用いて説明する。
【0038】
図7中において、50はセンサヘッド、52は超音波送信部、54は超音波受信部、56はA/D変換部、60は、信号処理部64、超音波送受信制御部66及びスキャナー制御部68を含む超音波探傷制御ソフト62を備えた計算機、70はスキャナー機構部、72は出力部である。
【0039】
連続鋳造された鋼片(幅Sc[m]×長さSl[m]×厚みSt[mm])から切り出した被検査材8(幅Sc/2[m]×長さSl[m]×厚みSt[mm])を、図8に示すように、大型の水槽80に設置し、センサヘッド50を、図7に示したスキャナー機構部70によりXY方向にスキャンして超音波探傷を行う。
【0040】
前記センサヘッド50について図9および図4を用いて説明する。図9中、52は被検査材8と接触するシューである。センサヘッド50は図9に示すように外部から給水し局部水浸法で音響結合できる構造としている。被検査材が大型である為、全没水浸法は背の高い大きな水槽に被検査材を沈めることになる。従って、リフティングマグネット(リフマグ)やクレーンで被検査材の設置、取り出しを行う度に水槽内の水の入れ替えも必要となり作業効率が悪くなる。本実施例では図9に示す局部水浸可能なセンサヘッド50とし、図8に示した如く、音響結合に使用した水を水槽80で受けて、ポンプPで循環させることで最小限の水で探傷できるようにした。全没水浸法で水の入れ替えに要する時間が、ほぼゼロとなり全没水浸法と比べて探傷作業の効率が改善する。なお、ポンプPによる循環を行わず、垂れ流しとすることも可能である。
【0041】
前記センサヘッド50には第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30が図4に示したように深さF[mm]で焦点が合うように設置している。第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30の入射角度φ1、φ2、および入射点の位置P1、P2は、事前に深さF[mm]にあけた直径2mmの横穴人工疵を用いてS/Nを調査し、その調査結果から求めた最適値(最もS/Nが良かった条件)を採用した。
【0042】
前記超音波送信部52は、超音波送受信制御部66で事前に任意に設定された周波数f[MHz]と波数K[波数]、送信電圧Vt[V]で、センサヘッド50にある第一の圧電型振動子20を駆動して超音波を送信する。被検査材8からの反射波は、センサヘッド50内にある第二の圧電型振動子30で受信して、超音波受信部54でフィルター処理、信号増幅され、A/D変換部56でA/D変換されて、計算機60に取り込まれる。
【0043】
本実施例では、周波数を5[MHz]、波数を1[波数]とし、送信電圧は100[V]として、超音波受信部54では3MHz〜5MHzのアナログバンドパスフィルタを用いた。
【0044】
前記スキャナー制御部68は、スキャナー機構部70を制御して、XY走査を行う。このとき、スキャナー機構部70に設置されているエンコーダーや、駆動パルス信号を基に、設定された任意の探傷密度毎にタイミング信号を出力する。このタイミング信号を同期信号として、超音波送信部52は第一の圧電型振動子20を駆動させ、超音波受信部54は第二の圧電型振動子30で被検査材8からの反射波を受信して、超音波受信部54でフィルター処理、増幅処理を実施し、A/D変換部56でA/D変換を行う。
【0045】
該A/D変換部56でA/D変換され計算機60に取り込まれた反射波に、信号処理部64で図10に示す処理を施す。
【0046】
まず、スキャン探傷(ステップ100)で、座標(x,y)ごとに波形がメモリ(図示省略)に記憶され、各座標における波形に対して、同期加算信号処理(開口合成計算)およびデジタルフィルター処理、全波整流を施し、任意に設定したゲート内における最大値Pxyを算出し、最大値Pxyを輝度変換し、二次元にマッピングしてCスコープ像を作成する(ステップ110)。このCスコープ像に対して一次判定処理(ステップ120)を行い、任意に設定した閾値θ1より大きな振幅を箇所における、最大振幅Pxy、疵エコーの伝播時間Txyを算出する。本実施例では疵エコーの最大値振幅位置の−9dBレベルの位置を読み取るようにした。伝播時間の読み取り方法は、本実施例における方法にのみ限定されるものではない。
【0047】
一次処理で判定された座標(x,y)における最大振幅Pxy、伝播時間Ptを基に、推定深さの算出と、推定径の算出を行う(ステップ130)。
【0048】
深さDxy[mm]を計算するとき、単純には超音波が屈折せずに直進すると仮定し、鋼中音速をVs[m/sec]として、伝播時間Txyから次式で算出する方法がある。
Dxy=Txy×Vs/2 (2)
【0049】
しかし、本実施例では屈折を考慮して、図11に示すように深さ毎のスネル法則を満たすように実伝播経路(伝播時間)との関係式を予め作成しておき、この関係式をもとに伝播時間から深さを計算する。
【0050】
図12(A)は超音波の実伝播経路を考慮せずに(2)式で算出したときの推定深さと実際の深さの比較であり、図12(B)は超音波の実伝播経路を考慮した本実施例による推定深さと実際の深さの比較である。図12(A)では浅い位置にある欠陥ほど実深さよりも深い位置に在るように推定される。しかし、本実施例では、図12(B)に示したように、(2)式で算出した場合よりも精度良く深さを推定することができていることがわかる。
【0051】
深さDxyを算出した後、深さDxyをもとに振幅Pxyの値に補正を行う。本実施例の場合、焦点深さF近傍以外では探傷感度が落ちてくることから、予め人工疵を用いて、振幅の距離伝播特性を算出しておき、この特性をもとに振幅Pxyに補正を行い、事前に調査しておいた振幅と欠陥径の換算式を用いて、推定欠陥径Fxyを算出する。
【0052】
超音波指示の二次判定処理(ステップ140)で、予め任意に設定しておいた閾値S[mm]以上を欠陥指示として抽出し、その欠陥個数および、各欠陥指示の座標(X,Y)、推定欠陥径Fxy、推定深さDxyを出力する(ステップ150)。
【0053】
図13は推定径φ0.5mm以上の欠陥を探傷したときの本発明の効果を示す。図13中、探傷範囲の例は50MHzで探傷したときの探傷可能な深さ範囲の一例を示している。本実施例を用いることで、従来法よりもより浅い側から、そしてより広い側まで探傷可能であることがわかる。
【0054】
[第二の実施例]
第二の実施例を図14を用いて説明する。第一の実施例では、センサヘッド一つで実施したが、探傷したい範囲ごとに最適化したセンサヘッドを複合して、探傷範囲をさらに拡張することも可能である。
【0055】
第二の実施例は図14に示すように、焦点深さF1[mm]で焦点が交わるように第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30を配置し、焦点深さF2[mm](F1<F2)で焦点が交わるように第三の圧電型振動子22と第四の圧電型振動子32を配置した。焦点深さF1[mm]に対して配置した第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30を第一のセンサヘッドとし、焦点深さF2[mm]に対して配置した第三の圧電型振動子22と第四の圧電型振動子32を第二のセンサヘッドとして、同時に二つのセンサヘッドで被検査材8を走査して探傷を行う。
【0056】
図15に第二の実施例による推定径φ0.5mm以上の探傷範囲の実績を示す。図15から、本実施例により第一の実施例よりもさらに広範囲の探傷が可能であることがわかる。
【0057】
なお、センサヘッドを三つ以上設けることも可能である。
【符号の説明】
【0058】
8…被検査材
8F…欠陥
20、22、30、32…圧電型振動子
21…超音波ビーム
31…受信信号視野
40…音響隔離板
50…センサヘッド
F、F1、F2…焦点深さ
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造された鋼片を超音波で探傷し、その探傷結果に基づいて鋼片の品質を評価するための鋼片の品質評価方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薄板鋼材は連続鋳造、熱延、酸洗、冷延、亜鉛メッキといった各工程を経て製造される。最終製品で問題となる欠陥は、外観上問題となる表面欠陥や、プレスで顕在化する表層直下の欠陥である。欠陥の発生は前述の各工程のそれぞれで可能性があり、例えば、鋳造性の欠陥としては、アルミナ性介在物、パウダー性介在物がある。また、スラブ表層下の気泡が、熱延の加熱炉でスケールオフされる際に表面に現われ、その穴の中にスケールが詰まることも表面欠陥の原因の一つと言われている。通常、これら介在物や気泡は連続鋳造された鋼片の表面直下に多いため、連続鋳造での鋳型内での電磁攪拌・ブレーキ技術などで、できる限り連続鋳造された鋼片の表面直下に欠陥が発生しないような取り組みが実施されている。
【0003】
連続鋳造の鋳造条件が適切かどうか、連続鋳造された鋼片の品質を評価する手法の一つとして、連続鋳造された鋼片から被検査体を抜き取り、このサンプルの表面を数ミリ程度研削して平滑にして、これを超音波で探傷し、気泡や介在物の分布を統計的に調べて品質を評価する方法がある。
【0004】
超音波探傷方法は、鉄鋼製品(棒、板、管など)内部の欠陥の探傷に使われている。一般的に良く知られている超音波探傷方法は垂直パルスエコー法で、超音波探触子と被検査材とを油や水で音響結合して、超音波探触子から被検査材に垂直に超音波を送信し、内部に存在する欠陥で反射したエコーを超音波探触子で受信する方法である。この方法は被検査材の肉厚の中央部は十分に探傷することができるが、極表層部(表面下数ミリ)については送信パルスや表面エコーが不感帯(探傷不可能な領域)となって、探傷することができない。
【0005】
そこで、被検査材表層部の欠陥を探傷する方法として、一般的には超音波の周波数を高周波化(例えば50MHz)する方法が実施されている。
【0006】
(1)超音波を高周波化する方法
水を介して垂直パルスエコー法で探傷する方法において、図1(A)に示すように、圧電型振動子10から被検査材(鋼片)8に対して送信する超音波ビーム11の周波数を高周波化し、更に、振動径を大きくし、かつ、音響レンズなどにより超音波ビーム11を集束することで、焦点近傍にある欠陥8Fから強い反射波(Fエコー)が得られるようにし、かつ、図1(B)に示す如く、高周波化により受信される被検査材表面8Sからの反射波(Sエコー)の時間幅を短くして、できる限り不感帯を少なくする。表面エコーによる不感帯域が完全になくなるわけではないが、例えば、周波数が5MHzの場合には4〜6mm程度ある不感帯が、周波数を10倍の50MHzにすると1〜2mm程度にすることが可能である。
【0007】
しかし、超音波の周波数を高周波化し、超音波ビームを集束すると、深さ方向に探傷可能な範囲も非常に限定された範囲となってしまうため、探傷可能な範囲を測定した後に、被検査体を深さ方向に削り込みながら探傷を繰り返す方法が実施されている。この方法では、例えば5mmの深さ範囲を測定するだけでも、探傷、被検査体の加工を繰り返す為、探傷結果が得られるまでに数日かかってしまう。不感帯を小さくする為に周波数を高くするほど、探傷可能な深さ範囲が狭くなるため、被検査体の加工回数と探傷回数が多く必要となり、時間を要することになる。
【0008】
(2)特許文献1に記載の方法
そこで、特許文献1では、超音波の周波数を高周波化した手法において、極表層部にある欠陥から発生する多重反射エコーを検出することで、従来、不感帯に隠れてしまい検出できなかった欠陥を検出できるようにしている。
【0009】
しかしながら、欠陥形状(斜めや三角に尖った物等)の影響で、多重反射エコーが起きにくく、未検出となる欠陥が生じやすい。更に多重反射エコーを使うために、欠陥の深さを正確に知ることができないといった問題や、正確な深さがわからないため、DGS特性(距離−信号振幅特性)をもとに信号振幅から欠陥サイズをより正確に推定できないといった問題がある。更にこの方法も、高周波の超音波を送受信するために、(1)で記載した問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平1−237449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来実施されている、連続鋳造された鋼片を超音波で探傷し、その探傷結果に基づいて鋼片の品質を評価する方法では、深さ方向の探傷範囲が狭いため、深さ方向の探傷領域が広いほど、欠陥の品質を評価するのに探傷回数とサンプルの加工回数が多く必要となり、結果が得られるまでに時間がかかるといった問題があった。
【0012】
本発明では、前記問題を解決するべくなされたもので、連続鋳造された鋼片の、超音波を用いた評価を迅速に行えるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、連続鋳造された鋼片を超音波で探傷し、その探傷結果に基づいて鋼片の品質を評価する際に、水を介して被検査材の表層部の探傷を行うラインフォーカス状の超音波ビームを送信可能な第一の圧電型振動子と、ラインフォーカス状の視野を持つ第二の圧電型振動子とを、前記第一の圧電型振動子から送信される超音波ビームと前記第二の圧電型振動子で受信するための超音波ビーム範囲の焦点が所定の鋼中深さで交差するように、音響隔離板を挟んで対向させて配置して、超音波探傷を行うことにより、前記課題を解決したものである。
【0014】
ここで、前記第一、第二の圧電型振動子の長辺方向に超音波を集束させ、かつ、短辺方向に超音波を拡散させることができる。
【0015】
又、欠陥の深さと前記第一の圧電型振動子および前記第二の圧電型振動子との配置から超音波の伝播経路を計算し、該計算した伝播経路に基づいて欠陥の深さ位置を補正することができる。
【0016】
又、前記所定の鋼中深さを複数とし、各鋼中深さに対して、それぞれ前記第一及び第二の圧電型振動子を配設することができる。
【0017】
本発明は、又、連続鋳造された鋼片を超音波で探傷し、その探傷結果に基づいて鋼片の品質を評価するための鋼片の品質評価装置において、水を介して被検査材の表層部の探傷を行うラインフォーカス状の超音波ビームを送信可能な第一の圧電型振動子と、ラインフォーカス状の視野を持つ第二の圧電型振動子とを、前記第一の圧電型振動子から送信される超音波ビームと前記第二の圧電型振動子で受信するための超音波ビーム範囲の焦点が所定の鋼中深さで交差するように、音響隔離板を挟んで対向されて配置してなる超音波探傷手段を備えたことにより、同様に前記課題を解決したものである。
【0018】
ここで、前記第一、第二の圧電型振動子は、その長辺方向に超音波を集束し、かつ、短辺方向に超音波を拡散するようにすることができる。
【0019】
又、欠陥の深さと前記第一の圧電型振動子および前記第二の圧電型振動子との配置から超音波の伝播経路を計算し、該計算した伝播経路に基づいて欠陥の深さ位置を補正する手段を備えることができる。
【0020】
又、前記所定の鋼中深さを複数とし、各鋼中深さに対して、それぞれ前記第一及び第二の圧電型振動子を配設することができる。
【発明の効果】
【0021】
連続鋳造された鋼片から抜き取った被検査体を、従来技術よりも不感帯を少なく、深さ方向の探傷範囲を大にして一度に広い範囲を探傷することができるようになったので、被検査体の品質評価に要する時間が大幅に短縮され、連続鋳造鋼片の製造条件への迅速なフィードバックが可能となり、より高い品質の鋼片を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来の問題点を説明するための断面図及び波形イメージ図
【図2】本発明の実施形態の基本的な構成を示す(A)断面図及び(B)上面図
【図3】本発明で使用可能な圧電型振動子の一例を示す斜視図
【図4】前記実施形態における配置を示す断面図
【図5】同じく欠陥の鋼中深さ毎の入射位置P1−P2間距離(入射角度)とS/Nの関係の例を示す図
【図6】本発明の原理を説明する断面図
【図7】本発明の第1実施例の全体構成を示すブロック図
【図8】同じく探傷状況を示す斜視図
【図9】同じくセンサヘッドの断面図
【図10】同じく処理手順を示す流れ図
【図11】同じく計算方法を示す(A)断面図及び(B)相関図
【図12】(A)従来法と(B)本発明法による相関を示す図
【図13】従来法と第1実施例による探傷範囲を比較して示す図
【図14】本発明の第2実施例の要部構成を示す断面図
【図15】従来法と第2実施例による探傷範囲を比較して示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
図2(A)は、本実施形態の基本的な構成を示す断面図、図2(B)は同じく上面図である。図中20は第一の圧電型振動子、21は該第一の圧電型振動子20から送信される超音波ビーム、30は第二の圧電型振動子、31は該第二の圧電型振動子30の受信信号視野、40は音響隔離板、φ1は第一の圧電型振動子20の被検査材表面8Sの法線に対する角度、φ2は第二の圧電型振動子30の被検査材表面8Sの法線に対する角度、Dcは測定深さ範囲、Fは鋼中焦点深さである。
【0025】
本実施形態では音響結合方法を水浸法として、超音波の送信と受信を第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30とに分割して行う。第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30は、図2(A)に示す断面図、図2(B)に示す上面図に示したように、ラインフォーカス状に超音波を送受信可能な形状とし、第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30が対向する面に対して垂直な方向については超音波が非集束となり拡散し、平行な面については超音波が集束するように振動子の形状を決定する。例えば、長方形の圧電型振動子を用意して、図3に示すように長辺側には集束するように曲率をつけ、短辺側は集束しないように平坦なままにする。または、平坦な圧電型振動子にラインフォーカス状のビームが得られるように音響レンズを取り付けても良い。ここで長辺側で集束させるのは、超音波が拡散しすぎて、小欠陥が検出できなくなるのを防ぐためである。
【0026】
前記第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30、音響隔離板40の配置について図4を用いて詳細に説明する。図4中、P1は第一の圧電型振動子20の音圧中心軸と被検査材表面8Sとの交差位置、P2は第二の圧電型振動子30の音圧中心軸と被検査材表面8Sとの交差位置、Wdは位置P1とP2間の距離、Pcは被検査材(鋼)8中における焦点位置、d1は位置PcとP1間の距離、d2は位置PcとP2間の距離である。
【0027】
前記距離d1とd2、角度φ1とφ2は、異なる値としてもかまわないが、焦点位置Pcで理想的な超音波の反射がおきると仮定すると、距離d1とd2、角度φ1とφ2は各々同じ値にして、線対称に第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30を配置することが好ましい。線対称となるように第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30を配置したときは、線対称の中心軸に音響隔離板40を配置する。
【0028】
探傷作業前に探傷したい鋼中深さFを予め設定すれば、位置P1とP2から位置Pcに対して超音波が最短で伝播する経路が求まり、角度θ1および角度θ2が計算できる。角度θ1とθ2から、次式で示されるスネルの法則を用いて、各位置P1、P2毎に角度φ1と角度φ2を計算させることになる。
【0029】
【数1】
【0030】
ここで、φ:入射角度
θ:屈折角度
Vw:水中音速
Vs:鋼中音速
【0031】
ある鋼中深さFに対して、最もS/Nが取れる位置P1と位置P2を図表にして整理しておくことが好ましい。図表の作成は、深さF毎に横穴人工疵や平底穴人工疵を加工し、これをもとに最適な条件を調査して、たとえば図5に示すように整理しておく。整理した結果をもとに、深さF毎に最適な条件を選択して探傷を行う。
【0032】
なお、位置P1とP2、Pcは同一直線状とすることが配置を容易にする上で適当であるが、これに限定されない。
【0033】
図4の配置とすることで、第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30は、正反射方向とは異なる方向を向くことになる。従って、図6に示すように、第一の圧電型振動子20から送信され、被検査材8の表面8Sで反射された信号が、第二の圧電型振動子30で受信されにくくなり、表面反射波(Sエコー)の振幅が小さくなる。更に音響隔離板40を設けて、被検査材表面8Sで反射し、第二の圧電型振動子30に漏れこんでくる散乱波を遮ることで、表面反射波の振幅を更に小さくし、表面不感帯を限りなく低減させることが可能となる。
【0034】
また、ラインフォーカス状のビームの拡散する側が深さ方向に対して交差するように配置することで、交差範囲、すなわち図2の測定深さ範囲Dcに在る欠陥からの反射波を受信することができる。
【0035】
従来の技術では、Sエコーの不感帯域を狭めるために、高周波化し、かつ欠陥からの反射波をS/N良く受信できるようにするために、超音波を集束させている。不感帯を短くしようとするほど、高周波化と超音波の集束化が必要となる一方で探傷可能な深さ範囲が狭くなるという相反関係の課題があった。
【0036】
本発明により、この相反関係にある課題を解決し、高周波化せずとも、表面不感帯を小さくし、かつ深さ方向の広い範囲を探傷することが可能となった。
【実施例】
【0037】
[第一の実施例]
本発明の第一の実施例を図7乃至図13を用いて説明する。
【0038】
図7中において、50はセンサヘッド、52は超音波送信部、54は超音波受信部、56はA/D変換部、60は、信号処理部64、超音波送受信制御部66及びスキャナー制御部68を含む超音波探傷制御ソフト62を備えた計算機、70はスキャナー機構部、72は出力部である。
【0039】
連続鋳造された鋼片(幅Sc[m]×長さSl[m]×厚みSt[mm])から切り出した被検査材8(幅Sc/2[m]×長さSl[m]×厚みSt[mm])を、図8に示すように、大型の水槽80に設置し、センサヘッド50を、図7に示したスキャナー機構部70によりXY方向にスキャンして超音波探傷を行う。
【0040】
前記センサヘッド50について図9および図4を用いて説明する。図9中、52は被検査材8と接触するシューである。センサヘッド50は図9に示すように外部から給水し局部水浸法で音響結合できる構造としている。被検査材が大型である為、全没水浸法は背の高い大きな水槽に被検査材を沈めることになる。従って、リフティングマグネット(リフマグ)やクレーンで被検査材の設置、取り出しを行う度に水槽内の水の入れ替えも必要となり作業効率が悪くなる。本実施例では図9に示す局部水浸可能なセンサヘッド50とし、図8に示した如く、音響結合に使用した水を水槽80で受けて、ポンプPで循環させることで最小限の水で探傷できるようにした。全没水浸法で水の入れ替えに要する時間が、ほぼゼロとなり全没水浸法と比べて探傷作業の効率が改善する。なお、ポンプPによる循環を行わず、垂れ流しとすることも可能である。
【0041】
前記センサヘッド50には第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30が図4に示したように深さF[mm]で焦点が合うように設置している。第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30の入射角度φ1、φ2、および入射点の位置P1、P2は、事前に深さF[mm]にあけた直径2mmの横穴人工疵を用いてS/Nを調査し、その調査結果から求めた最適値(最もS/Nが良かった条件)を採用した。
【0042】
前記超音波送信部52は、超音波送受信制御部66で事前に任意に設定された周波数f[MHz]と波数K[波数]、送信電圧Vt[V]で、センサヘッド50にある第一の圧電型振動子20を駆動して超音波を送信する。被検査材8からの反射波は、センサヘッド50内にある第二の圧電型振動子30で受信して、超音波受信部54でフィルター処理、信号増幅され、A/D変換部56でA/D変換されて、計算機60に取り込まれる。
【0043】
本実施例では、周波数を5[MHz]、波数を1[波数]とし、送信電圧は100[V]として、超音波受信部54では3MHz〜5MHzのアナログバンドパスフィルタを用いた。
【0044】
前記スキャナー制御部68は、スキャナー機構部70を制御して、XY走査を行う。このとき、スキャナー機構部70に設置されているエンコーダーや、駆動パルス信号を基に、設定された任意の探傷密度毎にタイミング信号を出力する。このタイミング信号を同期信号として、超音波送信部52は第一の圧電型振動子20を駆動させ、超音波受信部54は第二の圧電型振動子30で被検査材8からの反射波を受信して、超音波受信部54でフィルター処理、増幅処理を実施し、A/D変換部56でA/D変換を行う。
【0045】
該A/D変換部56でA/D変換され計算機60に取り込まれた反射波に、信号処理部64で図10に示す処理を施す。
【0046】
まず、スキャン探傷(ステップ100)で、座標(x,y)ごとに波形がメモリ(図示省略)に記憶され、各座標における波形に対して、同期加算信号処理(開口合成計算)およびデジタルフィルター処理、全波整流を施し、任意に設定したゲート内における最大値Pxyを算出し、最大値Pxyを輝度変換し、二次元にマッピングしてCスコープ像を作成する(ステップ110)。このCスコープ像に対して一次判定処理(ステップ120)を行い、任意に設定した閾値θ1より大きな振幅を箇所における、最大振幅Pxy、疵エコーの伝播時間Txyを算出する。本実施例では疵エコーの最大値振幅位置の−9dBレベルの位置を読み取るようにした。伝播時間の読み取り方法は、本実施例における方法にのみ限定されるものではない。
【0047】
一次処理で判定された座標(x,y)における最大振幅Pxy、伝播時間Ptを基に、推定深さの算出と、推定径の算出を行う(ステップ130)。
【0048】
深さDxy[mm]を計算するとき、単純には超音波が屈折せずに直進すると仮定し、鋼中音速をVs[m/sec]として、伝播時間Txyから次式で算出する方法がある。
Dxy=Txy×Vs/2 (2)
【0049】
しかし、本実施例では屈折を考慮して、図11に示すように深さ毎のスネル法則を満たすように実伝播経路(伝播時間)との関係式を予め作成しておき、この関係式をもとに伝播時間から深さを計算する。
【0050】
図12(A)は超音波の実伝播経路を考慮せずに(2)式で算出したときの推定深さと実際の深さの比較であり、図12(B)は超音波の実伝播経路を考慮した本実施例による推定深さと実際の深さの比較である。図12(A)では浅い位置にある欠陥ほど実深さよりも深い位置に在るように推定される。しかし、本実施例では、図12(B)に示したように、(2)式で算出した場合よりも精度良く深さを推定することができていることがわかる。
【0051】
深さDxyを算出した後、深さDxyをもとに振幅Pxyの値に補正を行う。本実施例の場合、焦点深さF近傍以外では探傷感度が落ちてくることから、予め人工疵を用いて、振幅の距離伝播特性を算出しておき、この特性をもとに振幅Pxyに補正を行い、事前に調査しておいた振幅と欠陥径の換算式を用いて、推定欠陥径Fxyを算出する。
【0052】
超音波指示の二次判定処理(ステップ140)で、予め任意に設定しておいた閾値S[mm]以上を欠陥指示として抽出し、その欠陥個数および、各欠陥指示の座標(X,Y)、推定欠陥径Fxy、推定深さDxyを出力する(ステップ150)。
【0053】
図13は推定径φ0.5mm以上の欠陥を探傷したときの本発明の効果を示す。図13中、探傷範囲の例は50MHzで探傷したときの探傷可能な深さ範囲の一例を示している。本実施例を用いることで、従来法よりもより浅い側から、そしてより広い側まで探傷可能であることがわかる。
【0054】
[第二の実施例]
第二の実施例を図14を用いて説明する。第一の実施例では、センサヘッド一つで実施したが、探傷したい範囲ごとに最適化したセンサヘッドを複合して、探傷範囲をさらに拡張することも可能である。
【0055】
第二の実施例は図14に示すように、焦点深さF1[mm]で焦点が交わるように第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30を配置し、焦点深さF2[mm](F1<F2)で焦点が交わるように第三の圧電型振動子22と第四の圧電型振動子32を配置した。焦点深さF1[mm]に対して配置した第一の圧電型振動子20と第二の圧電型振動子30を第一のセンサヘッドとし、焦点深さF2[mm]に対して配置した第三の圧電型振動子22と第四の圧電型振動子32を第二のセンサヘッドとして、同時に二つのセンサヘッドで被検査材8を走査して探傷を行う。
【0056】
図15に第二の実施例による推定径φ0.5mm以上の探傷範囲の実績を示す。図15から、本実施例により第一の実施例よりもさらに広範囲の探傷が可能であることがわかる。
【0057】
なお、センサヘッドを三つ以上設けることも可能である。
【符号の説明】
【0058】
8…被検査材
8F…欠陥
20、22、30、32…圧電型振動子
21…超音波ビーム
31…受信信号視野
40…音響隔離板
50…センサヘッド
F、F1、F2…焦点深さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造された鋼片を超音波で探傷し、その探傷結果に基づいて鋼片の品質を評価する際に、
水を介して被検査材の表層部の探傷を行うラインフォーカス状の超音波ビームを送信可能な第一の圧電型振動子と、ラインフォーカス状の視野を持つ第二の圧電型振動子とを、前記第一の圧電型振動子から送信される超音波ビームと前記第二の圧電型振動子で受信するための超音波ビーム範囲の焦点が所定の鋼中深さで交差するように、音響隔離板を挟んで対向させて配置して、超音波探傷を行うことを特徴とする鋼片の品質評価方法。
【請求項2】
請求項1において、前記第一、第二の圧電型振動子の長辺方向に超音波を集束させ、かつ、短辺方向に超音波を拡散させることを特徴とする鋼片の品質評価方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、欠陥の深さと前記第一の圧電型振動子および前記第二の圧電型振動子との配置から超音波の伝播経路を計算し、該計算した伝播経路に基づいて欠陥の深さ位置を補正することを特徴とする鋼片の品質評価方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記所定の鋼中深さを複数とし、各鋼中深さに対して、それぞれ前記第一及び第二の圧電型振動子を配設することを特徴とする特徴とする鋼片の品質評価方法。
【請求項5】
連続鋳造された鋼片を超音波で探傷し、その探傷結果に基づいて鋼片の品質を評価するための鋼片の品質評価装置において、
水を介して被検査材の表層部の探傷を行うラインフォーカス状の超音波ビームを送信可能な第一の圧電型振動子と、ラインフォーカス状の視野を持つ第二の圧電型振動子とを、前記第一の圧電型振動子から送信される超音波ビームと前記第二の圧電型振動子で受信するための超音波ビーム範囲の焦点が所定の鋼中深さで交差するように、音響隔離板を挟んで対向されて配置してなる超音波探傷手段を備えたことを特徴とする鋼片の品質評価装置。
【請求項6】
請求項5において、前記第一、第二の圧電型振動子が、その長辺方向に超音波を集束し、かつ、短辺方向に超音波を拡散するようにされていることを特徴とする鋼片の品質評価装置。
【請求項7】
請求項5又は6において、欠陥の深さと前記第一の圧電型振動子および前記第二の圧電型振動子との配置から超音波の伝播経路を計算し、該計算した伝播経路に基づいて欠陥の深さ位置を補正する手段を備えたことを特徴とする鋼片の品質評価装置。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかにおいて、前記所定の鋼中深さを複数とし、各鋼中深さに対して、それぞれ前記第一及び第二の圧電型振動子を配設したことを特徴とする鋼片の品質評価装置。
【請求項1】
連続鋳造された鋼片を超音波で探傷し、その探傷結果に基づいて鋼片の品質を評価する際に、
水を介して被検査材の表層部の探傷を行うラインフォーカス状の超音波ビームを送信可能な第一の圧電型振動子と、ラインフォーカス状の視野を持つ第二の圧電型振動子とを、前記第一の圧電型振動子から送信される超音波ビームと前記第二の圧電型振動子で受信するための超音波ビーム範囲の焦点が所定の鋼中深さで交差するように、音響隔離板を挟んで対向させて配置して、超音波探傷を行うことを特徴とする鋼片の品質評価方法。
【請求項2】
請求項1において、前記第一、第二の圧電型振動子の長辺方向に超音波を集束させ、かつ、短辺方向に超音波を拡散させることを特徴とする鋼片の品質評価方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、欠陥の深さと前記第一の圧電型振動子および前記第二の圧電型振動子との配置から超音波の伝播経路を計算し、該計算した伝播経路に基づいて欠陥の深さ位置を補正することを特徴とする鋼片の品質評価方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記所定の鋼中深さを複数とし、各鋼中深さに対して、それぞれ前記第一及び第二の圧電型振動子を配設することを特徴とする特徴とする鋼片の品質評価方法。
【請求項5】
連続鋳造された鋼片を超音波で探傷し、その探傷結果に基づいて鋼片の品質を評価するための鋼片の品質評価装置において、
水を介して被検査材の表層部の探傷を行うラインフォーカス状の超音波ビームを送信可能な第一の圧電型振動子と、ラインフォーカス状の視野を持つ第二の圧電型振動子とを、前記第一の圧電型振動子から送信される超音波ビームと前記第二の圧電型振動子で受信するための超音波ビーム範囲の焦点が所定の鋼中深さで交差するように、音響隔離板を挟んで対向されて配置してなる超音波探傷手段を備えたことを特徴とする鋼片の品質評価装置。
【請求項6】
請求項5において、前記第一、第二の圧電型振動子が、その長辺方向に超音波を集束し、かつ、短辺方向に超音波を拡散するようにされていることを特徴とする鋼片の品質評価装置。
【請求項7】
請求項5又は6において、欠陥の深さと前記第一の圧電型振動子および前記第二の圧電型振動子との配置から超音波の伝播経路を計算し、該計算した伝播経路に基づいて欠陥の深さ位置を補正する手段を備えたことを特徴とする鋼片の品質評価装置。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかにおいて、前記所定の鋼中深さを複数とし、各鋼中深さに対して、それぞれ前記第一及び第二の圧電型振動子を配設したことを特徴とする鋼片の品質評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図9】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図9】
【図11】
【公開番号】特開2012−127812(P2012−127812A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279687(P2010−279687)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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