説明

鋼矢板および鋼矢板壁構造

【課題】接続用部材同士を縦継ぎ溶接しない場合であっても鋼矢板との溶接部を起点としたひび割れ等を防止して品質を確保することができる鋼矢板および鋼矢板壁構造を提供すること。
【解決手段】接続用部材4は、鋼矢板本体20の長手方向に沿った少なくとも1箇所の縦継ぎ部6を挟んで上下に並設される上側接続用部材4Aと下側接続用部材4Bとを有して構成され、上側接続用部材4Aの最も下端の溶接止端部7Aが縦継ぎ部6から離間されるとともに、下側接続用部材4Bの最も上端の溶接止端部7Bが縦継ぎ部6から離間された状態で、断続溶接または連続溶接により接続用部材4が鋼矢板本体20に溶接固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築分野において構造部材として用いられる鋼矢板および鋼矢板壁構造に係り、特に、接続用部材を取り付けた鋼矢板、および隣り合う鋼矢板同士を接続用部材を介して接続した鋼矢板壁構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、異なる継手断面形状の鋼矢板間または鋼矢板継手部で嵌合可能な回転角度以上の接続角度を形成して構築される壁体においては、接続用部材を介して鋼矢板が接続される(例えば、非特許文献1、2参照)。このような接続用部材は、一方の鋼矢板の側端縁または側面に沿って上下方向に溶接により取り付けておき、接続部材の接続用の継ぎ手に対して他方の鋼矢板の継ぎ手を、上方向から下方向に向かってスライドさせて嵌合させることで、一方および他方の鋼矢板同士を連結させる機能を備えている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Arcelor社、「Arcelor−Steel Sheet Piling HZ Steel Wall System−」(ルクセンブルク)2007年、p.28
【非特許文献2】丸藤シートパイル株式会社、「MARUFUJI−ピースコーナー FSP-5L専用コーナー−」、p.2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、接続用部材の取り付け方法によっては、溶接不足による打設時の離脱や溶接過剰による熱変形が従来指摘されているが、推奨される取り付け方法として、例えば、非特許文献1においては、杭頭および杭先端の上下端500mmに渡って連続溶接して取り付けることなどが示されている。しかしながら、施工方法に応じた取り付け方法は示されておらず、特に振動や衝撃を受ける施工において接続用部材の溶接箇所が耐力不足に陥ることもある。
また、接続用部材が上下に並設される場合、接続用部材の上下端を開先加工すると、溶接により接続用部材を上下方向に縦継ぎすることになるので、開先加工費用が発生する問題があった。一方、接続用部材を開先加工せずに、接続用部材の縦継ぎ位置を溶接せずに接続用部材を鋼矢板の側端縁または側面に溶接して取り付けることも一般的に行われているが、鋼矢板を振動工法で打設している最中に接続用部材の縦継ぎ位置の溶接部を起点として溶接部にひび割れが発生して、縦継ぎ箇所を有する接続用部材が鋼矢板より離脱し、打設不能となる可能性がある。さらに、打設荷重によって、縦継ぎ位置の溶接部に集中的に引張荷重が作用することにより、その引張荷重が鋼矢板にまで伝達し、鋼矢板の母材に亀裂を生じさせて品質を低下させることもある。
【0005】
本発明の目的は、接続用部材同士を縦継ぎ溶接しない場合であっても打設の際に鋼矢板との溶接部を起点としたひび割れ等を防止して品質を確保することができる鋼矢板および鋼矢板壁構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本件出願人は、接続用部材を取り付けた鋼矢板の打設試験を実施し、この打設試験から以下の知見を得た。
すなわち、接続用部材を開先加工せずに、縦継ぎ位置を含めて接続用部材を溶接により鋼矢板に取り付ける場合は、打設時における接続用部材の慣性力が、溶接部の縦継ぎ位置に集中的に作用することで応力集中を起こし、縦継ぎ位置の溶接部にひび割れが発生することが、接続用部材が鋼矢板から離脱する主な原因であることが判明した。
さらに、打設時における接続用部材の慣性力が、集中的に作用することで応力集中を起こし、溶接部を介して鋼矢板に伝達し、その引張荷重が溶接の熱影響で亀裂強度が低下した鋼矢板母材強度を上回るために、鋼矢板母材に亀裂が生じることも明らかになった。
【0007】
具体的には、図6に示すように、接続用部材400を開先加工せずに、縦継ぎ位置600を含めて鋼矢板200の側面に溶接部700により取り付け、この接続用部材400を取り付けた鋼矢板200を振動工法で打設した際に、接続用部材400の溶接部700および鋼矢板200の母材の状態を検証した。図6は、振動工法による打設時の状況および接続用部材400の力のつり合い関係の模式図を示している。
接続用部材400について、力のつり合い関係に着目すると、振動工法により、上下方向に振幅A(mm)、振動角速度ω(rad/s )にて、接続用部材400が繰返し振動を行うことにより、発生する最大慣性力Fは以下のとおりである。
F=mAω2(N)
ここで、
F:前記接続用部材に発生する最大慣性力(N)
m:前記接続用部材の質量(kg)
A:前記接続用部材の振幅(mm)
ω:前記接続用部材の角速度(rad/s )
【0008】
最大慣性力Fは、図6(B)に示すように、接続用部材400と鋼矢板200を接合する溶接部700の一点Pに集中的に作用することで溶接部700のひび割れC1の発生につながる。さらに、最大慣性力Fにより、溶接部700に集中応力が発生すると、図6(C)に示すように、溶接部700と一体化している鋼矢板200の母材にも引張荷重が働く。 このような応力集中は、溶接部700を亀裂させるほどの大きさであることが打設試験の知見により明らかになっており、従って、溶接部700よりも引張強度が弱い鋼矢板200の母材の場合は、母材の亀裂C2が生じることとなる。
本発明は、以上のように振動工法による打設時の慣性力Fに着目することによって考案されたものであり、その構成を以下に示す。
【0009】
本発明の鋼矢板は、鋼矢板本体と、この鋼矢板本体の側端縁または側面に溶接により取り付けられる接続用部材とを有した鋼矢板であって、前記接続用部材は、前記鋼矢板本体の長手方向に沿った少なくとも1箇所の縦継ぎ部を挟んで上下に並設される上側接続用部材と下側接続用部材とを有して構成され、前記上側接続用部材の最も下端の溶接止端部が前記縦継ぎ部から離間されるとともに、前記下側接続用部材の最も上端の溶接止端部が前記縦継ぎ部から離間された状態で、断続溶接または連続溶接により前記接続用部材が前記鋼矢板本体に溶接固定されていることを特徴とする。
【0010】
以上の本発明によれば、上側接続用部材の最も下端の溶接止端部および下側接続用部材の最も上端の溶接止端部がそれぞれ縦継ぎ部から離間された状態で、断続溶接または連続溶接により接続用部材を鋼矢板本体に溶接固定することで、接続用部材の慣性力が溶接部の一点に集中的に作用することなく、応力集中を避けることができる。さらに、上側接続用部材に発生する慣性力に対して、溶接部が一点ではなく上下方向に線状態で負担するために応力集中することなく、上側接続用部材が離脱することが防止でき、これと同様に下側接続用部材の離脱も防止することができる。
また、応力集中による溶接部にひび割れを発生させるような引張荷重が生じないため、鋼矢板本体の母材に伝達する引張荷重が抑制でき、母材における亀裂の発生を防止することができる。
【0011】
この際、本発明の鋼矢板では、前記鋼矢板本体は、上下に並設される少なくとも一対で構成され、これら上下一対の鋼矢板本体同士が本体縦継ぎ部で溶接接合されており、前記接続用部材の縦継ぎ部は、前記本体縦継ぎ部と上下いずれかに所定距離だけ離間されて設けられていることが好ましい。
ここで、鋼矢板本体における上下一対の継手部同士は溶接接合されていないため、本体縦継ぎ部は上下振動が溶接接合により拘束されているが、継手部24は溶接による拘束がないので、自由に上下振動をおこなう。
図7に打設の際の不具合のある場合の例を示すが、本体縦継ぎ部250および継手部の縦継ぎ部260と接続用部材の縦継ぎ位置の上下位置が近接して所定の距離だけ離間されていない場合は、継手部の縦継ぎ部260と接続用部材400の縦継ぎ部600の両者が上下に振動することで、溶接部700に過大の力が作用することになるため溶接破断する危険性がある。
したがって、接続用部材400の縦継ぎ部600は、本体縦継ぎ部250および継手部の縦継ぎ部260と上下いずれかに所定距離だけ離間されて設けられていることが好ましい。
継手部の縦継ぎ部260の上下振動の振幅の範囲の外側に縦継ぎ部600が存在すれば、継手部の縦継ぎ部260と縦継ぎ部600の両者が上下に振動して溶接部700に過大の力が作用することはなくなる。すなわち、継手部の縦継ぎ部260の上下振動の振幅以上とした所定距離だけ離間されていればよい。この継手部の縦継ぎ部260の上下振動の振幅とは、打設の際の鋼矢板の振幅の範囲内であるため、鋼矢板の振幅とすればよい。一方、縦継ぎ部600も打設の際に鋼矢板の振幅の範囲内で上下振動するため、所定距離のなかに縦継ぎ部600の上下振動の振幅が含まれた方がよい。
つまり、この所定距離とは鋼矢板の振幅の2倍以上とすればよく、10mm以上である。一方、所定距離の上限値は特に限定されず、打設に支障がなければよい。
また、所定距離は1m程度離すのが好ましい。その根拠は、隣り合う複数の鋼矢板同士を互いに連結して構成される一般的な鋼矢板壁構造において、鋼矢板本体の溶接接合による縦継ぎ位置が溶接の熱影響により強度が弱くなるため、隣り合う複数の鋼矢板同士の各々の縦継ぎ位置の上下位置を合わせないように千鳥配置で互いちがいに1m程度離すことで、鋼矢板壁構造の強度上の弱点が形成されることを防止している実績を踏まえている。
このような構成によれば、上下の鋼矢板本体同士が本体縦継ぎ部で溶接接合され、継手部240は溶接接合されていない場合であっても、本体縦継ぎ部250および継手部の縦継ぎ部260から所定距離だけ離間させて接続用部材400の縦継ぎ部600を設けることで、本体縦継ぎ部および継手部の縦継ぎ部の位置で、上下に自由に振動するのは継手部240のみとなるために、溶接部700に過大の力が作用することが防止でき、溶接部の品質を確保することができる。
【0012】
さらに、本発明の鋼矢板では、前記上側接続用部材の最も下端の溶接止端部と前記縦継ぎ部との離間距離、および前記下側接続用部材の最も上端の溶接止端部と前記縦継ぎ部との離間距離は、前記接続用部材と前記鋼矢板本体とを溶接する溶接部の脚長以上に設定されていることが好ましい。
このような構成によれば、上側接続用部材および下側接続用部材の各溶接止端部と縦継ぎ部との離間距離を溶接部の脚長以上に設定することで、通常の溶接作業によって接続用部材を鋼矢板本体に溶接した場合でも、その溶接部が縦継ぎ部に重なってしまうことがなく、溶接部を起点としたひび割れの発生を確実に防止することができる。
【0013】
一方、本発明の鋼矢板壁構造は、隣り合う複数の鋼矢板同士を互いに連結して構成される鋼矢板壁構造であって、前記複数の鋼矢板には、前記いずれかの鋼矢板と、この鋼矢板に取り付けられた接続用部材に嵌合して接続される他の鋼矢板とが含まれていることを特徴とする。
このような構成によれば、前述と同様に、接続用部材の縦継ぎ部における溶接部の一点に慣性力が集中的に作用することがないため、応力集中を避けることができ、溶接部を起点としたひび割れの発生を確実に防止することができ、鋼矢板および鋼矢板壁構造の品質を確保することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のような本発明の鋼矢板および鋼矢板壁構造によれば、鋼矢板の打設の際に接続用部材の溶接部を起点としてひび割れが発生して接続用部材が離脱することがないため、施工効率が向上し、工期を短縮させることが可能となる。
また、接続用部材を開先加工して溶接にて接続用部材同士を上下方向に縦継ぎすることを必要としないために、工費が大幅に縮減させることが可能である。
さらには、鋼矢板母材の亀裂の発生を抑止することができるため、鋼矢板の部材品質および鋼矢板壁構造の構造性能を良好に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る鋼矢板壁構造の一部を示す断面図である。
【図2】前記鋼矢板壁構造に用いる鋼矢板を示す断面図および正面図である。
【図3】前記鋼矢板の要部を拡大して示す正面図である。
【図4】前記鋼矢板の変形例を示す正面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る鋼矢板壁構造の一部を示す断面図である。
【図6】従来の不具合例を示す模式図である。
【図7】従来の他の不具合例を示す鋼矢板の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、第2実施形態以降において、次の第1実施形態で説明する構成部材と同じ構成部材、および同様な機能を有する構成部材には、第1実施形態の構成部材と同じ符号を付し、それらの説明を省略または簡略化する。
【0017】
〔第1実施形態〕
図1、図2において、鋼矢板壁1は、地盤に打設される複数の鋼矢板2,3を互いに接続して構築されている。一方の鋼矢板2は、鋼矢板3と同一のハット形鋼矢板からなる鋼矢板本体20と、この鋼矢板本体20の側端縁である継手部24に溶接により取り付けられる接続用部材4とを備えて構成される。他方の鋼矢板3および鋼矢板本体20は、それぞれ熱間圧延で製造され、断面中央に位置する第1フランジ21,31と、この第1フランジ21,31の両側端縁に連続する一対のウェブ22,32と、これら一対のウェブ22,32の先端縁から第1フランジ21,31の外方に延びる一対の第2フランジ23,33と、これら一対の第2フランジ23,33の先端縁に設けられる一対の継手部24,34とを有して形成されている。そして、鋼矢板3は、その継手部34を接続用部材4に嵌合させることで鋼矢板2と接続されている。
【0018】
接続用部材4は、熱間圧延で製造され、複数の鋼矢板(鋼矢板本体20および鋼矢板3)を接続するための継手部41,42を有して形成され、図2(B)に示すように、鋼矢板本体20の長さよりも短く形成されたものが鋼矢板本体20の長手方向に沿って複数取り付けられ、接続用部材4同士が縦継ぎ部6を挟んで上下に並設されている。
そして、接続用部材4は、その継手部41が鋼矢板本体20の継手部24に嵌合されるとともに、これらの継手部24,41同士を跨ぐように形成される溶接部7によって鋼矢板本体20に固定されている。この溶接部7は、鋼矢板本体20および接続用部材4の上下方向に断続的に形成され、各溶接部7は、所定長さ(例えば、40mm)の溶接長を有して形成されている。
【0019】
そして、図3に示すように、接続用部材4の縦継ぎ部6近傍において、縦継ぎ部6の上側に位置する上側接続用部材4Aの溶接部7は、その下端の溶接止端部7Aが縦継ぎ部6から離間されて設けられている。一方、縦継ぎ部6の下側に位置する下側接続用部材4Bの溶接部7は、その上端の溶接止端部7Bが縦継ぎ部6から離間されて設けられている。さらに詳しく説明すると、溶接部7の溶接止端部7A,7Bと縦継ぎ部6との間には、所定の離間距離Lが確保されており、この離間距離Lとしては、可能な限り短い長さとすることが望ましいものの、溶接部7を形成するための溶接技量上の制約を受けることから、溶接部7の脚長L1以上に設定され、かつ離間距離Lの下限値が5mmに設定されていることが好ましい。すなわち、離間距離Lを5mm未満にまで短くすると、溶接技量上、離間距離Lを確保しつつ溶接部7を形成することが困難になってしまうことから、離間距離Lの下限値が設定されている。一方、離間距離Lの上限値は、特に限定されず、接続用部材4の固定強度を得るのに十分な溶接部7の溶接長が確保されるものであればよい。また、縦継ぎ部6の上下に位置する溶接部7では、応力集中を避けるために一層盛りとし、その他の位置の溶接部7は多層盛りとしてもよい。
【0020】
また、図4に示すように、鋼矢板2Aの鋼矢板本体20同士が本体縦継ぎ部25で上下に溶接接合されるとともに、この本体縦継ぎ部25を跨いで接続用部材4が取り付けられる場合には、本体縦継ぎ部25と接続用部材4の縦継ぎ部6とが上下方向に所定の距離だけ離間されて設けられるとともに、本体縦継ぎ部25と接続用部材4の縦継ぎ部6とが上下方向にずれて設けられるとともに、鋼矢板本体20と接続用部材4とを溶接する溶接部7が本体縦継ぎ部25から所定の離間距離L2,L3だけ離間された状態で形成されるように構成されている。
すなわち、振動工法で打設する際に、継手部24の縦継ぎ位置を含めて接続用部材4を鋼矢板本体20の側縁端に溶接して取り付けた場合、慣性力が溶接部の一点に集中的に作用することで、溶接部のひび割れの発生につながる危険性があるので、本体縦継ぎ部25から溶接部7を離間距離L2,L3だけ離間させることで、溶接部のひび割れを防止することができる。
なお、継手部24の縦継ぎ部26を含めて接続用部材4を鋼矢板本体20の側縁端に溶接して取り付けた場合に溶接部7にひび割れが発生するメカニズムは、接続用部材4を縦継ぎ位置を含めて鋼矢板本体20の側縁端に溶接した場合に溶接部7にひび割れが発生するメカニズムと本質的に同じであるため、対策として設ける離間距離L2,L3としては、前記離間距離L以上に設定されていればよい。
【0021】
以上の本実施形態によれば、以下のような効果が得られる。
すなわち、溶接部7を縦継ぎ部6から離間させて形成したことで、振動工法で鋼矢板2を地盤に貫入する際の慣性力が溶接部7の一点に集中的に作用することなく、応力集中が避けられる。そして、接続用部材4に発生する慣性力に対して、溶接部7が一点ではなく長手方向に線状態で負担するために応力集中することなく、溶接部7を起点としてひび割れが発生して接続用部材4が外れることがないため、施工を中断して再度取り付けなおす作業が発生しないために、施工効率が向上して工期の短縮を図ることができる。さらに、溶接部7の一点への応力集中が避けられることから、溶接部7を起点としたひび割れの発生を防止することができ、鋼矢板2における鋼矢板本体20の母材への亀裂の進展を抑止することができるため、鋼矢板壁1の品質を低下させることがなく品質を確保することができる。
【0022】
また、溶接部7と縦継ぎ部6との離間距離Lをできるだけ小さく設定することで、振動工法で鋼矢板2を地盤に貫入する際に、その振動で上側接続用部材4Aと下側接続用部材4Bの間にずれが生じることを抑制することができる。従って、地盤に貫入した鋼矢板2の接続用部材4の継手部42に鋼矢板3の継手部34を上方向から下方向に向かってスライドさせて嵌合させる際に、継手部34,42同士が干渉することを防止して、打設抵抗を抑制することができる。
さらに、上下に並設する接続用部材4同士を縦継ぎ溶接で接合する必要がないために、接続用部材4の縦継ぎ部6に開先加工を伴う工程が発生しないために、工費を大幅に縮減させることが可能となる。
【0023】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態の鋼矢板壁1Aを図5に基づいて説明する。
図5において、鋼矢板壁1Aは、鋼矢板2,3同士の接続方向と、接続用部材8の形態および取付位置とが前記第1実施形態と相違するものの、その他の構成は第1実施形態と略同様である。以下、相違点について詳しく説明する。
鋼矢板2は、鋼矢板本体20と、この鋼矢板本体20の側面である第1フランジ21に溶接により取り付けられる接続用部材8とを備えて構成される。そして、鋼矢板3は、その継手部34を接続用部材8に嵌合させることで鋼矢板2と接続されている。
【0024】
接続用部材8は、第1フランジ21と略直交して延びる脚部81と、この脚部81先端から左右に延びる一対の継手部82,83とを有して断面略T字形に形成されている。そして、接続用部材8は、その脚部81が溶接部7によって第1フランジ21に固定され、一方の継手部82に鋼矢板3の継手部34が嵌合して接続されるようになっている。この接続用部材8は、前記第1実施形態の接続用部材4と同様に縦継ぎ部を有し、溶接部7は、前記第1実施形態と同様に縦継ぎ部から所定距離だけ離間して形成されている。従って、第2実施形態の鋼矢板壁1Aにおいても第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【実施例】
【0025】
本発明の効果を検証するために、以下の打設試験を行った。
すなわち、振動工法の最大起振力が473kNである施工重機を用いて、溶接部7の鋼矢板本体20の長手方向に1m当たりの必要長さを40mm/mとし、のど厚を10mmとし、離間距離Lを5mmとした鋼矢板2に対して、現場打設試験を実施したところ、大きいほど接続用部材4に作用する慣性力が大きくなる値である振幅、振動周波数、振動回数が、それぞれ、2mm、60Hz、繰返し打設回数3回に相当する468,000回と極めて厳しい施工条件であっても、打設中に接続用部材4が離脱することがなかったうえに、鋼矢板本体20の母材へ亀裂が発生せずに施工状態は良好であった。
【0026】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
例えば、前記実施形態の接続用部材4,8は、接続用部材の例示に過ぎず、その断面形状や継手部の数などは特に限定されず、少なくとも1つの継手部を有して隣り合う鋼矢板と嵌合によって接続されるものであればよい。
また、前記実施形態では、鋼矢板本体20および鋼矢板3をハット形鋼矢板で構成したが、本発明の鋼矢板本体や接続対象の鋼矢板としては、ハット形鋼矢板に限らず、U形鋼矢板やZ形鋼矢板など他の形態の鋼矢板も利用可能である。
また、鋼矢板本体に対する接続用部材の取付位置としては、第1実施形態のように、鋼矢板本体20の側端縁である継手部24や、第2実施形態のように、鋼矢板本体20の側面である第1フランジ21に限らず、ウェブ22や第2フランジ23であってもよいし、1本の鋼矢板本体に複数の接続用部材を取り付けてもよい。
【0027】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0028】
1,1A…鋼矢板壁、2,2A…鋼矢板、3…鋼矢板(他の鋼矢板)、4,8…接続用部材、4A…上側接続用部材、4B…下側接続用部材、6…縦継ぎ部、7…溶接部、7A,7B…溶接止端部、20…鋼矢板本体、21…第1フランジ(側面)、24…継手部(側端縁)、25…本体縦継ぎ部、L…離間距離、L1…脚長。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼矢板本体と、この鋼矢板本体の側端縁または側面に溶接により取り付けられる接続用部材とを有した鋼矢板であって、
前記接続用部材は、前記鋼矢板本体の長手方向に沿った少なくとも1箇所の縦継ぎ部を挟んで上下に並設される上側接続用部材と下側接続用部材とを有して構成され、
前記上側接続用部材の最も下端の溶接止端部が前記縦継ぎ部から離間されるとともに、前記下側接続用部材の最も上端の溶接止端部が前記縦継ぎ部から離間された状態で、断続溶接または連続溶接により前記接続用部材が前記鋼矢板本体に溶接固定されていることを特徴とする鋼矢板。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼矢板において、
前記鋼矢板本体は、上下に並設される少なくとも一対で構成され、これら上下一対の鋼矢板本体同士が本体縦継ぎ部で溶接接合されており、
前記接続用部材の縦継ぎ部は、前記本体縦継ぎ部と上下いずれかに所定距離だけ離間されて設けられていることを特徴とする鋼矢板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の鋼矢板において、
前記上側接続用部材の最も下端の溶接止端部と前記縦継ぎ部との離間距離、および前記下側接続用部材の最も上端の溶接止端部と前記縦継ぎ部との離間距離は、前記接続用部材と前記鋼矢板本体とを溶接する溶接部の脚長以上に設定されていることを特徴とする鋼矢板。
【請求項4】
隣り合う複数の鋼矢板同士を互いに連結して構成される鋼矢板壁構造であって、
前記複数の鋼矢板には、請求項1から請求項3のいずれかに記載の鋼矢板と、この鋼矢板に取り付けられた接続用部材に嵌合して接続される他の鋼矢板とが含まれていることを特徴とする鋼矢板壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−190636(P2011−190636A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58939(P2010−58939)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】