説明

鋼矢板及び該鋼矢板によって形成された鋼矢板壁

【課題】圧延成形による製造に適しており、2枚を連結する連結作業が容易にできる鋼矢板を得る。
【解決手段】本発明の鋼矢板1は、ウェブ部3と、ウェブ部3の両端にフランジ部5を有するU形鋼矢板であって、一方のフランジ部の先端に形成された嵌合継手部7と、他方のフランジ部5の先端に形成されて、隣接するU形鋼矢板と連結するための接合部9とを備え、接合部9は、フランジ部5の先端をウェブ部3に平行な方向に屈曲してウェブ部3に平行な方向に延びる平板形状からなり、接合部9におけるウェブ部3に直交する方向の位置が嵌合継手部7の高さの範囲内に設定されていることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼矢板及び該鋼矢板によって形成された鋼矢板壁に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なU形鋼矢板は、両端部に嵌合継手部を有している。このようなU形鋼矢板は、嵌合継手部を連結させながら一枚ずつ打設して、鋼矢板壁を形成する。この場合、鋼矢板壁に荷重が作用した場合に嵌合継手部のずれにより中立軸が変化し、断面剛性や断面耐力が低下することが知られている。
【0003】
これを改善する手法として、予め2枚の鋼矢板を嵌合してかしめまたは溶接などで連結固定して2枚一組からなる1ユニットとして打設する方法がある。
この場合において、従来のU形鋼矢板を用いた場合、継手部を連結するために、鋼矢板長手方向の端部から挿入しなければならず、作業がスムーズではないため製造効率の低下やコスト負担増などに繋がることがあった。
【0004】
これを改善する方法として、特許文献1では、「ウェブ部とその両端に配置されるフランジ部を有するU形鋼矢板であって、一方のフランジ部のみに他の鋼矢板と連結するための嵌合用継手を有し、他方のフランジ部には嵌合用継手を有せず、且つ、前記嵌合用継手を有しないフランジ部の先端部が、ウェブ部とフランジ部が交わる角部から、前記の嵌合継手を有するフランジ部の嵌合継手中心部を通りウェブ部と平行する直線上に配置され、又は当該直線を跨いで配置されることを特徴とする鋼矢板。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−121279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の鋼矢板では、嵌合用継手はフランジの先端にウェブと平行になるように屈曲されて形成され、他方、嵌合用継手を有しない側は、フランジ部が屈曲されることなく途中で切断されたような形状となっている。
したがって、嵌合用継手を有している側とそうでない側とで、長さや角度が異なっており、左右の非対称性が強くなっている。
このような形状の鋼矢板を圧延にて製造しようとすると、圧延成形過程において、両継手部に作用する圧下力が異なるため、矢板形状全体の反りや曲がり等の不具合が発生する可能性が高い。
したがって、このような形状の鋼矢板では、圧延によって形成することが非常に困難であり、形成方法が限定されてしまうという問題がある。
【0007】
また、2枚の鋼矢板を連結する際、嵌合用継手を有しないフランジ部を重ね合せるようにして2枚の鋼矢板を仮組みし、水平に設置した状態で、重ね合わせた部位をかしめや接着剤等で連結固定することになる。
この場合、連結固定方向がウェブ部と平行な直線(水平方向)に対して斜めになることから、かしめを行う載荷方向や接着を行う際の圧加方向を斜めしなければならず、斜めの状態で載荷したり接着をしたりするための工夫が必要となり、製造難度が著しく増大することが懸念される。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、圧延成形による製造に適しており、2枚を連結する連結作業が容易にできる鋼矢板及び該鋼矢板によって形成された鋼矢板壁を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る鋼矢板は、ウェブ部と、該ウェブ部の両端にフランジ部を有するU形鋼矢板であって、一方のフランジ部の先端に形成された嵌合継手部と、他方のフランジ部の先端に形成されて、隣接するU形鋼矢板と連結するための接合部とを備え、該接合部は、前記フランジ部の先端をウェブ部に平行な方向に屈曲して前記ウェブ部に平行な方向に延びる平板形状からなり、前記接合部における前記ウェブ部に直交する方向の位置が前記嵌合継手部の高さの範囲内に設定されていることを特徴とするものである。
【0010】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記接合部のフランジ側の面が、前記の嵌合継手部の中心部を通りウェブ部と平行する直線上に配置されていることを特徴とするものである。
【0011】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記接合部におけるフランジ側の面に、凹凸部を設けたことを特徴とするものである。
【0012】
(4)また、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の鋼矢板であって、圧延によって製造されていることを特徴とするものである。
【0013】
(5)本発明に係る鋼矢板壁は、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の鋼矢板2枚を、前記接合部におけるフランジ側面を当接させるように重ね合わせて連結し、該連結したものを地中に打設することによって形成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る鋼矢板は、一方のフランジ部の先端に形成された嵌合継手部と、他方のフランジ部の先端に形成されて、隣接するU形鋼矢板と連結するための接合部とを備え、該接合部は、前記フランジ部の先端をウェブ部に平行な方向に屈曲して前記ウェブ部に平行な方向に延びる平板形状からなり、前記接合部における前記ウェブ部に直交する方向の位置が前記嵌合継手部の高さの範囲内に設定されているので、左右対称断面に近づくことから、圧延成形した場合において、圧延成形過程において、両継手部で圧下力が均一となり、矢板形状全体の反り、曲がり等の不具合の発生を著しく低減できるので、圧延成形によって製造するのに好適である。
また、2枚の鋼矢板の接合部を重ね合わせて接合するに際して、かしめを行う載荷方向や接着を行う際の圧加方向がウェブ部と平行する直線(水平方向)に対して直交方向になることから、連結固定作業が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係る鋼矢板の断面形状を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る鋼矢板を2枚連結する際の態様の説明図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る鋼矢板の接合部の詳細説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る鋼矢板の接合部の他の態様の詳細説明図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る鋼矢板の接合部の他の態様の詳細説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態に係る鋼矢板1は、ウェブ部3と、該ウェブ部3の両端にフランジ部5を有するU形鋼矢板であって、一方のフランジ部5の先端に形成された嵌合継手部7と、他方のフランジ部5の先端に形成されて、他のU形鋼矢板と接合するための平板形状の接合部9とを備えてなるものである。
以下、各部を詳細に説明する。
【0017】
<嵌合継手部>
嵌合継手部7は、図1に示すように、フランジ部5の先端がウェブ部3に平行で、外方向に屈曲され、さらに先端部に爪部7aを有するラルゼン型の嵌合継手部である。
なお、図1に示したものはラルゼン型の嵌合継手部であるが、本発明の鋼矢板1の嵌合継手部7はこれに限られるものではなく、例えばラカワナ型などがある。
なお、図1において、嵌合継手部7の幅をXで、嵌合継手部7の高さをYで、さらに嵌合継手部7の中心をPで示している。
【0018】
<接合部>
接合部9は、フランジ部5の先端をウェブ部3に平行で外方向に屈曲して前記ウェブ部3に平行な方向に延びる平板形状に形成した部位である。
接合部9は、図1に示すように、接合部9におけるフランジ側面9aが、嵌合継手部7の中心部Pを通りウェブ部3と平行する直線11上になるように設定されている。
接合部9をこのように設定することで、左右の対称性が高くなり、圧延によって製造するのに適した形状となる。
また、接合部9を上記のように設定することで、図2に示すように、2枚の鋼矢板1を、接合部9におけるフランジ側面9a同士を当接させるように重ね合わせて接合したとき(図2に示すように2枚の鋼矢板1を接合したものを「組合せ鋼矢板」という)に、前記直線11に対して線対称となり、2枚の連結された鋼矢板1の打設がやり易いという効果もある。
【0019】
なお、接合部9を嵌合継手部7の位置に対してどのような配置とするかに関し、上記の例では、フランジ側面9aが、嵌合継手部7の中心部Pを通りウェブ部3と平行する直線11上になるようにしたが、本発明はこれに限られず、接合部9におけるフランジ側面9aの位置が、嵌合継手部7の高さYの範囲内になるように配置すればよい。接合部9におけるフランジ側面9aの位置が、嵌合継手部7の高さYの範囲内になるとは、より詳細に説明すると、図1に示す断面において、嵌合継手部7の上下面に接し、ウェブ部3に平行な2直線を接合部9側に延長したときにその2本の延長線の間にフランジ側面9aが配置されるという意味である。
このような配置であれば、圧延での製造や、2枚の鋼矢板1を連結したものの打設における施工性は許容できる範囲となる。
【0020】
また、接合部9の幅Wは、嵌合継手部7の幅Xに対して、0.5X〜1.5Xにするのが好ましく、0.8X〜1.2Xにするのがより好ましい。
接合部9の幅Wを上記の範囲にするのは、鋼矢板1の左右のバランスをとりつつ、かつ連結を確実に行い、かつ無駄な鋼重を増やさないためである。
接合部9の幅Wが0.5X未満であると、2枚の鋼矢板1の接合を確実に行なうのが難しくなり、また圧延製造時において左右のバランスが崩れ、製造上の不具合が生じる。
他方、接合部9の幅Wが1.5Xを越えると、左右のバランスが崩れ、製造上の不具合が生じやすくなる恐れがある。また、連結部は2枚の鋼矢板1を連結した壁体の中心にあるため鋼矢板壁断面に作用する曲げモーメントに対しては寄与しないので、接合部9の幅Wの長さが長くなることは単位長さあたりの耐力、剛性が低下することになり、好ましくない。
【0021】
接合部9におけるフランジ側面9aには、図3に示すような、位置決め用の凸部13、凹部15を設けるようにするのが好ましい。
図3に示すような凹凸部を設けることで、位置決めが容易になるという効果に加えて、かしめ(圧加)た際、連結固定をより強固に行えるという効果が期待できる。
2枚の鋼矢板1を連結するに際して、接合部9をかしめ(圧加)により連結固定する場合は、凸部13の高さを、相手側の凹部15の深さよりも高く設定するのが好ましい。このようにすることで、かしめによる連結を強固にすることができる。
なお、位置決め用の凹凸部は、図4、図5に示すような、段形状であってもよい。なお、図4に示す鋼矢板1の接合部9が図5に示す鋼矢板1の接合部9に接合されるようになっており、図4の鋼矢板1における接合部9の凸部13の位置に図5の鋼矢板1における接合部9の凹部15が配置され、図4の鋼矢板1の凹部15の位置に図5の鋼矢板1における接合部9の凸部13が配置されるという関係になっている。
【0022】
上記のように構成された鋼矢板1は、圧延による成形によって形成するのに好適な形状である。
つまり、図1に示すような断面形状とすることにより、両フランジ先端部の長さ、および角度が同程度となり、左右対称断面に近づくことから、圧延成形過程において、両継手部での圧下力が均一に近くなり、矢板形状全体の反り、曲がり等の不具合の発生を著しく低減できる。
また、両側に嵌合継手部7を有する従来の鋼矢板1は圧延設備で製造されるが、本実施の形態の鋼矢板1であれば、このような従来の鋼矢板1の製造に使用される既存の鋼矢板用圧延設備を流用することで製造でき、製造コストを軽減できる。
【0023】
上記のように構成された鋼矢板1は、図2に示すように、2枚の鋼矢板1を、接合部9におけるフランジ側面9a同士を重ねるように当接させて連結する。連結に際しては、接合部9を重ね合わせて2枚の鋼矢板1を仮組みし、水平に設置した状態において、かしめや接着剤等で連結固定を行う。このとき、かしめを行う載荷方向や接着を行う際の圧加方向がウェブ部3と平行する直線11(水平方向)に対して垂直となることから、連結固定作業が容易となる。
なお、鋼矢板1を2枚連結固定する際は鋼矢板全長にわたってかしめてもよいし、たとえば1mピッチあるいは3mピッチなど飛ばしてかしめてもよく、連結部に生じるせん断力に応じて適宜決めればよい。
【0024】
連結された2枚の鋼矢板1からなる組合せ鋼矢板をバイブロハンマー等によって地中に打設する。
図2に示すように、連結部は、ウェブ部3と平行な方向に延出していることから、特許文献1のように全体の幅が短くなることはないので、別の部材を用いて増幅する必要もない。
組合せ鋼矢板が打設されると、その隣には、嵌合継手部7を嵌合させるようにして別の組合せ鋼矢板を打設し、これを連続して行うことで鋼矢板壁を形成する。
【0025】
なお、上記の実施の形態では、接合部9の連結固定方法として、かしめと接着剤による方法を示したが、接合部9に予めボルト穴を設け、ボルト接合するようにしてもよい。
なお、本発明のU形鋼矢板は、その基本形体となる鋼矢板1の高さや幅が特に限定されることなく、従来の種々の形体のものと同様の基本形体のものに適用できる。
【符号の説明】
【0026】
1 鋼矢板
3 ウェブ部
5 フランジ部
7 嵌合継手部
7a 爪部
9 接合部
9a フランジ側面
11 直線
13 凸部
15 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブ部と、該ウェブ部の両端にフランジ部を有するU形鋼矢板であって、
一方のフランジ部の先端に形成された嵌合継手部と、
他方のフランジ部の先端に形成されて、隣接するU形鋼矢板と連結するための接合部とを備え、
該接合部は、前記フランジ部の先端をウェブ部に平行な方向に屈曲して前記ウェブ部に平行な方向に延びる平板形状からなり、前記接合部における前記ウェブ部に直交する方向の位置が前記嵌合継手部の高さの範囲内に設定されていることを特徴とする鋼矢板。
【請求項2】
前記接合部のフランジ側の面が、前記の嵌合継手部の中心部を通りウェブ部と平行する直線上に配置されていることを特徴とする請求項1記載の鋼矢板。
【請求項3】
前記接合部におけるフランジ側の面に、凹凸部を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の鋼矢板。
【請求項4】
圧延によって製造されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋼矢板。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の鋼矢板2枚を、前記接合部におけるフランジ側面を当接させるように重ね合わせて連結し、該連結したものを地中に打設することによって形成したことを特徴とする鋼矢板壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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