説明

鋼管引抜装置、及び鋼管引抜方法

【課題】素材鋼管を引き抜くときにプラグに連結された芯吊りボルトに過大な引っ張り応力がかからないようにし、当該芯吊りボルトが切断されないようにする。
【解決手段】鋼管引抜工程において、ワーク43は、フローティングダイス41に当接して外形が制限され、同時にプラグ42のフローティング部42aに当接して肉厚が制限される。このとき、プラグ42のフローティング部42aがワーク43から受ける反力PNは、垂直ベクトル成分反力PSと水平ベクトル成分反力PHとに分解され、水平ベクトル成分反力PHのみがプラグ42の引抜方向に寄与する力の成分となる。ここで、水平ベクトル成分反力PHとプラグ42の右方向先端部の芯吊りボルト(図示せず)が引抜方向に引き込まれる力PZとが釣り合う点でプラグ42は停止する。よって、芯吊りボルトに加わる引っ張り力はPH−PZであってほぼゼロになり、切断されるおそれはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管引抜装置及び鋼管引抜方法に関するものであり、特に、ダイスとプラグとを鋼管引抜方向に対して正逆方向に相対移動させて引抜鋼管を製造する鋼管引抜装置、及び鋼管引抜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、資源開発用のボーリングロッドや自動車のシャフトなどは、軽量化及び材料コストを削減する観点から、所望の肉厚を有した中空のシャフトが好んで用いられている。これらの用途に供される中空のシャフトは、長手方向に複数の外径と複数の内径とを有する段付きの引抜鋼管で形成されている。このような引抜鋼管は、一般的にはダイスとプラグとを用いて素材鋼管を冷間引抜することによって製造される(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。また、軸方向に突起を有するダイスとプラグとを用いて、素材鋼管からプロフィルスリットの形成された引抜鋼管を製造する技術も開示されている(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。この技術によれば、素材鋼管に切削加工を施すことなく、該素材鋼管の引抜工程において自動的にプロフィルスリットが形成されるので、工程数の削減によって引抜鋼管の加工コストをさらに低減させることができる。
【0003】
このような引抜鋼管の製造方法によれば、鋼管引抜装置を用いて素材鋼管がダイスとプラグとの間で狭圧されながら引き抜かれることにより、所望のサイズの引抜鋼管が製造される。このとき、素材鋼管の引抜位置に応じてダイスのベアリング径とタップのベアリング径とを適宜に変えることにより、長手方向に複数の外径と複数の内径とを有する段付き引抜鋼管を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−73113号公報
【特許文献2】特開昭59−73115号公報
【特許文献3】特開平10−249431号公報
【特許文献4】特開平11−221612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の鋼管引抜装置は、鋼管引抜時において、素材鋼管を引抜くためにプラグに連結された芯吊りボルトに過剰な応力(引っ張り応力)が加わり、当該芯吊りボルトが切断させるおそれがある。すなわち、鋼管引抜装置によって素材鋼管を引き抜くとき、鋼管の厚肉部から薄肉部へ移行する過程において過大な引っ張り応力が加わるので、芯吊りボルトがプラグから切断してしまうおそれがある。特に、径の小さい引抜鋼管を製造する場合は、必然的にプラグ及び芯吊りボルトの径が小さくなるので芯吊りボルトが切断されやすくなる。
【0006】
そこで、素材鋼管を引き抜くときにプラグに連結された芯吊りボルトに過大な引っ張り応力がかからないようにし、当該芯吊りボルトが切断されないようにするために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、フローティングダイスと、該フローティングダイスに対応したフローティング角度を有するフローティング領域を小径領域と大径領域との間に形成したプラグとを備え、前記フローティングダイスと前記プラグとを素材鋼管の引抜方向に対して正逆方向に相対移動させて段付きの引抜鋼管を製造することを特徴とする鋼管引抜装置を提供する。
【0008】
この構成によれば、プラグの小径領域によって形成される引抜鋼管の厚肉部からプラグの大径領域によって形成される引抜鋼管の薄肉部へ移行する過程において、フローティング領域においてプラグが素材鋼管から受ける反力の水平方向ベクトルとプラグの引っ張り力とが釣り合う点において該プラグが停止する。よって、鋼管引抜時にプラグを引っ張る芯吊りボルトの引っ張り力をほぼゼロにすることができる。その結果、鋼管引抜時に芯吊りボルトにかかる引っ張り力によって該芯吊りボルトがプラグから切断されるおそれはなくなる。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記フローティング角度が、前記プラグにおける大径領域の半径と小径領域の半径との差分によって決定されることを特徴とする請求項1記載の鋼管引抜装置を提供する。
【0010】
この構成によれば、プラグのフローティング領域に形成されるフローティング角度は、該プラグの小径領域で形成される引抜鋼管の厚肉部と該プラグの大径領域で形成される引抜鋼管の薄肉部との肉厚差によって最適に決定される。従って、厚肉部と薄肉部の肉厚差が大きい引抜鋼管であっても、芯吊りボルトに加わる引っ張り力をほぼゼロに軽減することができるので、鋼管引抜時において芯吊りボルトがプラグから切断されるおそれはなくなる。また、小径の引抜鋼管を形成する場合であっても、細い芯吊りボルトに加わる引っ張り力をほぼゼロにすることができるので、細い芯吊りボルトがプラグから切断されるおそれはない。
【0011】
請求項3記載の発明は、フローティングダイスと、該フローティングダイスに対応したフローティング角度のフローティング領域を小径領域と大径領域との間に形成したプラグとを備えて成る鋼管引抜装置による鋼管引抜方法であって、前記フローティングダイスと前記プラグとを素材鋼管の引抜方向に対して正逆方向に相対移動させて該素材鋼管から段付きの引抜鋼管を生成するとき、前記プラグの小径領域の相対移動によって前記引抜鋼管の厚肉部を形成する第1のステップと、前記プラグのフローティング領域の相対移動によって、該フローティング領域が前記素材鋼管から受ける反力の水平方向ベクトル成分と前記プラグの引抜方向への引っ張り力とを釣り合せる第2のステップと、前記プラグの大径領域の相対移動によって前記引抜鋼管の薄肉部を形成する第3のステップとを実行することを特徴とする鋼管引抜方法を提供する。
【0012】
この方法によれば、素材鋼管を引き抜くとき、厚肉部から薄肉部へ移行する過程においてフローティングダイスとプラグのフローティング領域との相互作用によって、プラグを引っ張る芯吊りボルトの引っ張り力をほぼゼロにすることができる。その結果、鋼管引抜時において芯吊りボルトがプラグから切断されるおそれはなくなる。
【0013】
請求項4記載の発明は、前記フローティング角度が前記厚肉部と前記薄肉部との肉厚差によって決定されることを特徴とする請求項3記載の鋼管引抜方法を提供する。
【0014】
この方法によれば、プラグのフローティング領域のフローティング角は、引抜鋼管の厚肉部と薄肉部との肉厚差によって最適に決定される。従って、厚肉部と薄肉部との肉厚差が大きく異なる引抜鋼管であっても、極めて細い引抜鋼管であっても、芯吊りボルトがプラグから切断されるおそれはなくなる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明は、フローティングダイスと、フローティング領域を有するプラグとを対向させて、両者を相対移動させて引抜鋼管を形成しているので、鋼管引抜時にプラグを引っ張る芯吊りボルトの引っ張り力をほぼゼロにすることができる。従って、鋼管引抜時におけるプラグの引っ張り力によって芯吊りボルトがプラグから切断されるおそれはなくなる。
【0016】
請求項2記載の発明は、プラグのフローティング角度は、引抜鋼管の厚肉部と薄肉部との肉厚差によって最適に決定されるので、請求項1記載の発明の効果に加えて、厚肉部と薄肉部の肉厚差が大きい引抜鋼管を形成する場合であっても、小径の引抜鋼管を形成する場合であっても、芯吊りボルトがプラグから切断されるおそれはない。
【0017】
請求項3記載の発明は、素材鋼管を引き抜くとき、フローティングダイスとプラグのフローティング領域との相互作用によって、プラグを引っ張る芯吊りボルトの引っ張り力をほぼゼロにすることができる。その結果、鋼管引抜時において芯吊りボルトがプラグから切断されるおそれはなくなる。
【0018】
請求項4記載の発明は、プラグのフローティング角度は引抜鋼管の厚肉部と薄肉部との肉厚差によって最適に決定されるので、請求項3記載の発明の効果に加えて、如何なる肉厚形状の引抜鋼管を形成する場合であっても、芯吊りボルトがプラグから切断されるおそれはなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一般的な鋼管引抜装置の側面図。
【図2】図1のA部の詳細を示す縦断面図。
【図3】本発明の鋼管引抜装置に適用されるダイス支持台の側面図。
【図4】図3B部の詳細を示す縦断面図。
【図5】本発明の鋼管引抜装置に適用されるプラグ支持台の横断面図。
【図6】(a)、(b)、(c)は、本発明の鋼管引抜装置に適用されるダイスとプラグによる引抜状態を示す縦断面図。
【図7】(a)、(b)、(c)は、本発明の鋼管引抜装置で製造された引抜鋼管を例示する縦断面図。
【図8】一般的な鋼管引抜装置を用いてダイスとプラグにより素材鋼管(ワーク)を引き抜く状態を示す要部断面図。
【図9】本発明の鋼管引抜装置においてフローティングダイスを用いてワークを引き抜く状態を示す要部断面図。
【図10】本発明の鋼管引抜装置に適用されるフローティングダイスと共に用いられるプラグの長手方向を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、素材鋼管を引き抜くときにプラグに連結された芯吊りボルトに過大な引っ張り応力がかからないようにし、当該芯吊りボルトが切断されないようにするという目的を達成するために、フローティングダイスと、該フローティングダイスに対応したフローティング角度を有するフローティング領域を小径領域と大径領域との間に形成したプラグとを備え、前記フローティングダイスと前記プラグとを素材鋼管の引抜方向に対して正逆方向に相対移動させて段付きの引抜鋼管を製造する鋼管引抜装置を構成することによって実現した。
【0021】
以下、本発明の好適な実施例を図1乃至図10に従って詳細に説明する。尚、以下に説明する実施例に用いる各図面については同一の構成要素は原則として同一の符合を付し、且つ重複する説明は省略する。
【実施例】
【0022】
先ず、中空の引抜鋼管を製造する鋼管引抜装置の一般的な構成について説明する。図1は、一般的な鋼管引抜装置の側面図であり、図2は、図1のA部の詳細を示す縦断面図である。図1及び図2に示すように、床に固定したフレーム1のほぼ中央部にダイス2を固定するダイス支持台3が設けられている。さらに、プラグ4と該プラグ4を支えるプラグ支持棒5を備え、該プラグ支持棒5は、プラグ支持台6に図示しない油圧シリンダ等を介して固定されている。また、素材鋼管7は、プラグ4及びプラグ支持棒5の外径側に嵌入され、該素材鋼管7の先端部は引抜車9に設けられたハサミ8で狭持されている。さらに、該引抜車9のツメ10が、図示しない強力な駆動源により駆動されたチェーン11によって強力に引張られることにより、素材鋼管7は、ダイス2とプラグ4との間で狭圧されて引き抜かれ、引抜鋼管7bが製造される。
【0023】
本発明の鋼管引抜装置では、複数の内径及び外径を有する段付きの引抜鋼管7bを製造する場合において、複数箇のベアリング面を持つダイス2と複数箇のベアリング面を持つプラグ4とを組合せ、該ダイス2及び該プラグ4を引抜方向に対して相対的に正逆方向に移動できるように構成されている。これによって、引抜鋼管7bが小内径管であっても内部に皺が発生することはなくなり、且つ、強靭で寸法精度の高い引抜鋼管を製造することができる。
【0024】
このような鋼管引抜装置を実現するためには、ダイス2とプラグ4の関連保持の仕方が従来と異なるので、先ずこれらの構成について説明する。図3は、本発明の鋼管引抜装置に適用されるダイス支持台の側面図であり、図4は、図3B部の詳細を示す縦断面図である。
【0025】
図3に示すように、フレーム1にストッパ16を強力に固定して設け、補強部材17で補強する。一方、ダイス2を駆動する第1油圧シリンダ20を装着したダイス支持台30は、台車12に移動可能に装架されていて、台車12はレール12a上を移動する。また、ダイス支持台固定ラム15は、その一端がストッパ16に固定されている。具体的には、図4に示すように、ダイス支持台30における円筒形凹部30cの底部30aに、ダイス支持台固定ラム15の一端の大径フランジ部15bの面15aを、ピストンロッド23とビン25とで結合されたダイス支持台固定ラム15より突出した耳金24を介して、第1油圧シリンダ20の圧力で押圧する。
【0026】
このとき、第1油圧シリンダ20に発生する押圧力(押付け力)は管引抜力に対抗する力であり、第1油圧シリンダ20の押圧力は管引抜力(例えば、150〜200t)より強力でなければならない。このような強力な力で空間上の存在する点に固定するには、ストッパ16に押付けて固定する方法が最も簡便な方法である。
【0027】
また、ダイス2はダイス支持台30に取付けられている。従って、ダイス2の固定位置は、ダイス支持台30の右側の固定位置とストツバ16の16d面に、ダイス支持台30の面30bが当接した位置が、左側の固定位置に対応した位置となる。
【0028】
図5は、本発明の鋼管引抜装置に適用されるプラグ支持台の横断面図である。図5に示すように、ストッパ16aはフレーム1に強固に固定して設けられ、更に、ストッパ16aは補強部材17aで補強されている。また、中空調節ねじ軸18にはプラグ支持棒5が嵌入され、該プラグ支持棒5の端部のつば部5aを係止して支持する中空調節ねじ軸18は、外周にねじを切りナット式ストッパ19がねじ込まれている。ナット式ストッパ19は、引抜鋼管の要求寸法に合せられるようにねじ調整することができる。
【0029】
左側のナット式ストッパ19が、ストッパ16aの面16bに当接する位置が右側固定位置であり、ストツバ16aの面16cに右側のナット式ストッパ19が当接する位置が左側固定位置である。また、フレーム1に固定されたプラグ駆動用の第2油圧シリンダ20aの押し或いは引き圧力は、当然、管引抜き圧力より強い圧力を発生する。また、ラム21は中空調節ねじ軸18端に嵌入し、該ラム21の先端の雄ねじにラム固定ナット22をねじ込み、中空調節ねじ軸18に固定してある。
【0030】
尚、ダイス2又はプラグ4の固定或いは管引抜き中の移動については、図3に示すように、第1油圧ユニット13からの油圧が配管14を通じて第1油圧シリンダ20に供給され、該第1油圧シリンダ20によってダイス2が駆動される。また、図5に示すように、第2油圧ユニット13aからの油圧が配管14aを通じて第2油圧シリンダ20aに供給さ、該第2油圧シリンダ20aによってプラグ4が駆動される。即ち、図3の第1油圧シリンダ20はダイス駆動用の油圧シリンダであり、図5の第2油圧シリンダ20aはプラグ駆動用の油圧シリンダである。尚、プラグ4はプラグ支持棒5の先端に装着されているため、図5では図示されていない。
【0031】
ここで、本実施例における鋼管引抜装置の特徴とする点は、図5に示すように、プラグ駆動用の第2油圧シリンダ20aに位置検出センサ20bが付設されている点である。具体的には、位置検出センサ20bは第2油圧シリンダ20aとラム21との間に付設することができる。そして、該位置検出センサ20bは、制御系のフィードバックループを構成し、第2油圧シリンダ20aのストローク位置を検出して位置検出信号をコンピュータにフィードバックして、第2油圧シリンダ20aのストローク位置に対応して移動速度の制御を行うように構成されている。
【0032】
このとき、引抜鋼管の引抜速度と第2油圧シリンダ20aの移動速度には互換性(即ち、1対1の対応関係)が設けられているので、結果的には、第2油圧シリンダ20aのストローク位置に応じて引抜鋼管の引抜速度が制御されることになる。尚、位置検出センサ20bは、例えばエンコーダなどによって容易に実現することができる。
【0033】
図6(a)、(b)、(c)は、本発明の鋼管引抜装置に適用されるダイスとプラグによる引抜状態を示す縦断面図であり、図7(a)、(b)、(c)は、本発明の鋼管引抜装置で製造された引抜鋼管を例示する縦断面図である。図6(a)、(b)、(c)に示すように、本発明に係るプラグ4とダイス2は夫々二段の径を有している。フラグ4の先端は小径のベアリング径d3に続いて根本側に大径のベアリング径d4を有しており、ダイス2はプラグ4の各ベアリング径d3、d4に対向して素材鋼管7を狭圧する小径のベアリング径d2をプラグ4の根本方向の側に形成し、プラグ4の大径のベアリング径d4に対向して素材鋼管7を狭圧する大径のベアリング径d1をプラグ4の先端方向側に形成している。
【0034】
従って、引抜鋼管7bの内外径は、プラグ4のベアリング径d3(小径)とダイス2のベアリング径d2(小径)によって決定される図6(a)に示す状態と、プラグ4のベアリング径d4(大径)とダイス2のベアリング径d2(小径)によって決定される図6(b)に示す状態と、プラグ4のベアリング径d4(大径)とダイス2のベアリング径d1(大径)とによって決定される図6(c)に示す状態とを形成することができる。
【0035】
次に、前述の鋼管引抜装置を使用してダイス2とプラグ4を用いて実施する鋼管引抜作業について説明する。図7は鋼管引抜き状態を示す縦断面図であって、同図(a)は、ダイス支持台30を図3で説明した左側固定位置、プラグ4の支持については図5で説明した右側固定位置に固定して引き抜いている状態を示し、ダイス2のベアリング径d2(小径)、プラグ4のベアリング径d3(小径)によって素材鋼管7が寸法規正されて成形される状態を示している。
【0036】
図6(b)は、ダイス支持台30は図3で説明した左側固定位置、プラグ4の支持については図5で説明した左側固定拉置に固定して引き抜いている状態を示し、ダイス2のベアリング径d2(小径)、プラグ4のベアリング径d4(大径)によって素材鋼管7が寸法規正されて成形される状態を示している。
【0037】
図6(c)は、ダイス支持台30は図3で説明した右側固定位置、プラグ4の支持については図5で説明した左側固定位置に固定して引き抜いている状態を示し、ダイス2のベアリング径d1(大径)、プラグ4のベアリング径d4(大径)によって素材鋼管7が寸法規正されて成形される状態を示している。
【0038】
即ち、図6(a)、(b)、(c)の作業をこの順で続けると、図7(b)に示す引抜鋼管7bが製造され、図6(a)、(b)、(a)の順に作業を続けると図7(a)に示す引抜鋼管が製造され、図6(c)、(b)、(c)の順に作業を続けると図7(c)に示す引抜鋼管が製造される。尚、引抜き作業中にダイス支持台30又はプラグ4の支持位置を移動するには、鋼管の引抜速度とダイス2又はプラグ4の移動速度の関係を考慮して、内部に組込まれた第1油圧ユニット13によって駆動される第1油圧シリンダ20、及び第2油圧ユニット13aによって駆動される第2油圧シリンダ20aによって行われる。
【0039】
ところで、素材鋼管を引き抜くときにプラグに連結された芯吊りボルトに過大な引っ張り力が加わり、当該芯吊りボルトがプラグから切断するおそれがある。すなわち、鋼管引抜装置によって素材鋼管を引き抜くとき、鋼管の厚肉部から薄肉部へ移行する過程において過大な引っ張り力が加わるので、芯吊りボルト(図1に示すプラグ支持棒5)がプラグから切断してしまうおそれがある。このような芯吊りボルトの切断現象について、以下、図面を用いて詳細に説明する。
【0040】
図8は、一般的な鋼管引抜装置を用いてダイスとプラグにより素材鋼管(ワーク)を引き抜く状態を示す要部断面図である。図8に示すように、ダイス2とプラグ4に狭圧された素材鋼管(ワーク)31に対して、プラグ4を図の右方向(矢印Fの方向)へ引っ張ると、図の左方が固定部材(図示せず)で固定されている芯吊りボルト(プラグ支持棒)5にF(例えば、100トン)の引っ張り力が加わる。このとき、鋼管の厚肉部と薄肉部との肉厚差が大きいほど(即ち、図7(a)におけるd3とd4の差が大きいほど)芯吊りボルト5に加わる引っ張り力Fが大きくなる。特に、直径の小さい素材鋼管を引き抜くほど芯吊りボルト5も細くなるので、鋼管引抜時において芯吊りボルト5が切断されやすくなる。
【0041】
図8を用いてさらに詳しく説明すると、引抜鋼管を生成するためにワーク31を所定の速度で引き抜くとき、厚肉部から薄肉部へ移行する過程においてワーク31とプラグ4との間に隙間32が生じるので、芯吊りボルト5には大きな引っ張り力Fが加わる。その結果、芯吊りボルト5がプラグ4から切断されてしまうおそれがある。
【0042】
そこで、本発明では、フローティングダイスを用いることによって、ワークの引抜時に芯吊りボルトにかかる引っ張り力を軽減させている。尚、フローティングダイスとは、ダイスの内部にスプリング機構が設けられていて、ダイスに所定値以上の押圧力が加わると、その反力によってスプリング機構が押圧されてダイスの押圧力が軽減されるように構成されたものである。このようなフローティングダイスは両押ダイスとも呼ばれている。
【0043】
図9は、本発明の鋼管引抜装置においてフローティングダイスを用いてワークを引き抜く状態を示す断面図である。即ち、図9は、フローティングダイス41と多段のプラグ42とによってワーク43の引抜作業を行う状態を示す要部断面図である。図9に示すように、鋼管引抜工程において、ワーク43はフローティングダイス41に当接して外形が制限されるが、このとき、同時に、ワーク43はプラグ42のフローティング部42aに当接して肉厚が制限される。そして、最後に、ワーク43は強く折り曲げられて引抜鋼管としての成形が完了する。
【0044】
このようなフローティングダイス41を用いた方式の鋼管引抜装置では、プラグ42のフローティング部42aがワーク43から受ける反力PNは、垂直ベクトル成分反力PSと水平ベクトル成分反力PHとに分解することができる。即ち、フローティング部42aがワーク43から受ける反力PNは、その水平ベクトル成分反力PHのみがプラグ42の引抜方向に寄与する力の成分となる。言い換えると、フローティング部42aがワーク43から受ける水平ベクトル成分反力PHと、プラグ42の右方向先端部の芯吊りボルト(図示せず)が引抜方向に引き込まれる力PZとが釣り合う点でプラグ42は停止することができる。その結果、プラグ42の先端部の芯吊りボルトに加わる引っ張り力は、PH−PZであってほぼゼロになる。従って、鋼管引抜工程において、鋼管の厚肉部から薄肉部に移動する過程で芯吊りボルトがプラグから切断されるおそれはなくなる。
【0045】
また、このようなフローティングダイス41とプラグ42とを用いた方式の鋼管引抜装置では、ワーク43の外径と肉厚を同時に制限する(即ち、フローティングダイス41とプラグ42とによって外径と肉厚を同時に押圧する)ことができるので、鋼管の厚肉部から薄肉部への断面減少率(リダクション)を大きく取ることができる。さらに、芯吊りボルトは、鋼管引抜時にプラグ42を挿入するときにのみ使用するだけであるので、鋼管引抜中に芯吊りボルトに大きな引張り力が加わるおそれはなくなる。その結果、芯吊りボルトの径を小さくすることができるので、小径の引抜鋼管を形成することもできる。また、引抜鋼管の厚肉部と薄肉部との肉厚差(例えば、図7(a)のd3とd4との差)を大きく取ることができるので、肉厚の変化範囲が大きな段付き引抜鋼管を形成することもできる。言い換えると、鋼管引抜時に芯吊りボルトを切断させることなく、鋼管の両端部分の肉厚を厚くし、中間部分の肉厚を可能な限り薄くした引抜鋼管を容易に形成することができる。
【0046】
図10は、本発明の鋼管引抜装置に適用されるフローティングダイスと共に用いられるプラグの長手方向を示す断面図である。図10に示すように、このプラグは、所定の厚肉部内径D1を有して引抜鋼管の肉厚が例えば8.5mmとなる厚肉部Aと、所定のテーパ角度θ1が形成されたテーパ部Bと、所定の薄肉部内径D2を有して肉厚が例えば6mmとなる薄肉部Cと、所定のフローティング角度θ2を有するフローティング部Dとによって形成され、その先端部分には所定の有効長L1を有するネジ50が形成された芯吊りボルト部Eが設けられている。すなわち、プラグの部分は薄肉部Cとフローティング部Dと材料管内径部Gとによってフローティングタイプ部Hが形成されている。
【0047】
通常のプラグの形状では薄肉部Cの部分で芯吊りボルト部Eにかかる引っ張り力が最大となる。そこで、図10に示すように、薄肉部Cの終端部分から所定のフローティング角度θ2を有するフローティング部Dを形成する。このとき、厚肉部Aと薄肉部Cとの肉厚差に応じて計算した最適なフローティング角度θ2となるようなフローティング部Dを設けることによって、厚肉部Aから薄肉部Cへの鋼管引抜時において芯吊りボルト部Eにかかる引っ張り力をほぼゼロにすることができる。これによって、鋼管引抜時において、芯吊りボルト部Eがネジ50の接続部分で切断されるおそれはなくなる。
【0048】
尚、ここでは、肉厚が2段の引抜鋼管について説明したが、これに限ることはなく肉厚が多段の引抜鋼管についても本発明が適用されることは言うまでもない。さらに本発明は、具体的な一例として上記の実施例について説明したが、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の鋼管引抜装置は、鋼管引抜時に芯吊りボルトがプラグから切断するおそれがないので、厚肉部と薄肉部との肉厚差が大きい引抜鋼管や外径の細い引抜鋼管を安定的かつ安価に生産することができるので、自動車産業や建設機械産業などに有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 フレーム
2 ダイス
3 ダイス支持台
4 プラグ
5 プラグ支持棒(芯吊りボルト)
5a つば部
6 プラグ支持台
7 素材鋼管
7a 先端部
7b 引抜鋼管
8 ハサミ
9 引抜車
10 ツメ
11 チェーン
12 台車
12a レール
13 第1油圧ユニット
13a 第2油圧ユニット
14、14a 配管
15 ダイス支持台固定ラム
15b 大径フランジ部
16、16a ストッパ
17 補強材
17a 補強部材
18 中空調節ねじ軸
19 ナット式ストッパ
20 第1油圧シリンダ
20a 第2油圧シリンダ
20b 位置検出センサ
21 ラム
22 ラム固定ナット
23 プストンロッド
24 耳金
25 ピン
30 ダイス支持台
32 隙間
41 フローティングダイス
42 プラグ
42a フローティング部
43 ワーク
50 ネジ
d1 ダイスの大径ベアリング
d2 ダイスの小径ベアリング
d3 プラグの小径ベアリング
d4 プラグの大径ベアリング
A 厚肉部
B テーパ部
C 薄肉部
D フローティング部
E 芯吊りボルト部
G 材料管内径部
H フローティングタイプ部
L 全長
L1 有効長
D1 厚肉部内径
D2 薄肉部内径
θ1 テーパ角度
θ2 フローティング角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローティングダイスと、該フローティングダイスに対応したフローティング角度を有するフローティング領域を小径領域と大径領域との間に形成したプラグとを備え、
前記フローティングダイスと前記プラグとを素材鋼管の引抜方向に対して正逆方向に相対移動させて段付きの引抜鋼管を製造することを特徴とする鋼管引抜装置。
【請求項2】
前記フローティング角度は、前記プラグにおける前記大径領域の半径と前記小径領域の半径との差分によって決定されることを特徴とする請求項1記載の鋼管引抜装置。
【請求項3】
フローティングダイスと、該フローティングダイスに対応したフローティング角度のフローティング領域を小径領域と大径領域との間に形成したプラグとを備えて成る鋼管引抜装置による鋼管引抜方法であって、
前記フローティングダイスと前記プラグとを素材鋼管の引抜方向に対して正逆方向に相対移動させて該素材鋼管から段付きの引抜鋼管を生成するとき、
前記プラグの小径領域の相対移動によって前記引抜鋼管の厚肉部を形成する第1のステップと、
前記プラグのフローティング領域の相対移動によって、該フローティング領域が前記素材鋼管から受ける反力の水平方向ベクトル成分と前記プラグの引抜方向への引っ張り力とを釣り合せる第2のステップと、
前記プラグの大径領域の相対移動によって前記引抜鋼管の薄肉部を形成する第3のステップと
を実行することを特徴とする鋼管引抜方法。
【請求項4】
前記フローティング角度は、前記厚肉部と前記薄肉部との肉厚差によって決定されることを特徴とする請求項3記載の鋼管引抜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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