説明

鋼線への銅−亜鉛合金めっき方法

【課題】めっき処理効率およびめっき層の均一性に優れ、かつ、省スペース性に優れた鋼線への銅−亜鉛合金めっき方法を提供する。
【解決手段】めっき槽4中のめっき液に鋼線wを通線することにより、鋼線wに銅−亜鉛合金めっき層を形成する鋼線wへの銅−亜鉛合金めっき方法である。めっき槽4中で鋼線wの走行方向の反対方向にめっき液を流す。めっき槽4は複数であることが好ましく、また、めっき槽4は並列に配置されていることが好ましく、アノードとしては、銅−亜鉛合金アノードを用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼線への銅−亜鉛合金めっき方法に関し、詳しくは、めっき処理効率およびめっき層の均一性に優れ、かつ、省スペース性に優れた鋼線への銅−亜鉛合金めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム物品の補強用に用いられる鋼線は、ゴム中に埋め込まれて使用されるため、ゴムとの接着性が重要である。鋼線とゴムとの接着性を向上させるために、通常、鋼線の表面に銅−亜鉛合金めっきが施されている。一般的な銅−亜鉛合金めっき方法においては、銅めっき層および亜鉛めっき層が別浴でそれぞれ電気めっきされ、その後、加熱処理をして銅と亜鉛を熱拡散させることにより、銅−亜鉛合金めっき層を形成する(例えば、特許文献1)。
【0003】
このような逐次めっき処理にあっては、銅めっき層形成工程、亜鉛めっき層形成工程および熱拡散工程を有するため、めっき処理効率が悪いという欠点がある。また、各工程ごとに作業スペースが必要となるため、めっき処理設備が大規模なものとなってしまうという問題も有していた。
【0004】
このような問題を解消するために、例えば、特許文献2には、銅塩と、亜鉛塩と、ピロリン酸アルカリ金属塩と、アミノ酸またはその塩から選ばれた少なくとも一種とを含有し、アミノ酸またはその塩の濃度を所定の範囲としためっき槽が提案されている。これによれば、1回のめっき処理により、銅−亜鉛合金めっき層を形成することができるため、めっき処理効率がよく、また、めっき設備を小型化することができる。また、特許文献2に記載のめっき浴を用いれば、均一な銅−亜鉛合金めっき層を幅広い電流密度で形成可能であると報告されている。その他にも、特許文献3には、高電流密度、かつ、低電解電圧の電気めっき操業を可能とした線材電気めっき用電解セルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−11593号公報
【特許文献2】特開2009−127097号公報
【特許文献3】特開昭61−136698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、特許文献2記載のめっき槽を用いることにより、均一な組成の銅−亜鉛合金めっき層を得ることができる。しかしながら、このようなめっき液を用いた場合であっても、工業的に使用するにあたっては、めっき処理条件等の検討が必要である。また、特許文献3に記載の線材電気めっき用電解セルにおいては、めっき層の均一性については十分に検討されていない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、めっき処理効率およびめっき層の均一性に優れ、かつ、省スペース性に優れた鋼線への銅−亜鉛合金めっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、下記構成とすることにより、上記課題を解消することができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の鋼線への銅−亜鉛合金めっき方法は、めっき槽中のめっき液に鋼線を通線することにより、該鋼線に銅−亜鉛合金めっき層を形成する鋼線の銅−亜鉛合金めっき方法において、
前記めっき槽中で前記鋼線の走行方向の反対方向にめっき液を流すことを特徴とするものである。
【0010】
本発明においては、前記めっき槽が複数であることが好ましく、また、本発明においては、前記めっき槽が並列に配置されていることが好ましく、さらに、本発明においては、銅−亜鉛合金アノードを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、めっき処理効率およびめっき層の均一性に優れ、かつ、省スペース性に優れた鋼線の銅−亜鉛合金めっき方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の鋼線への銅−亜鉛合金めっき方法の一好適な実施の形態の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の鋼線への銅−亜鉛合金めっき方法の一好適な実施の形態の概略説明図である。図示するように、まず、巻き出し装置1から巻き出された鋼線wは、酸処理装置2および水洗装置3aにおいて、それぞれ酸洗浄および水洗浄がなされる。次いで、鋼線wはめっき槽4中に導かれ、電気めっきにより鋼線wの表面にめっき層が形成される。その後、鋼線wは水洗装置3bにて水洗浄され、エアナイフ5にて乾燥させられ、巻取り装置6に巻き取られる。なお、図中の7はキャプスタン、8はガイドロールをそれぞれ示す。
【0014】
本発明においては、めっき液として、銅−亜鉛合金めっき液を用いている。そのため、従来行われていた、銅めっき層形成工程、亜鉛めっき層形成工程および熱拡散工程を省略することができるため、めっき処理効率を向上させることができる。また、銅−亜鉛合金めっき層を一度に形成するため、めっき処理設備を小型化することができる。
【0015】
本発明においては、めっき槽4中のめっき液の流れが鋼線の走行方向に対して反対方向(以下、「対向流」と称す)であることが重要である。ここで、図1中のめっき槽4中の矢印は、めっき液の流れ方向を示す。一般に、めっき処理においては、めっき液の相対流速の変動に伴い、めっき層中の合金組成も変動する。そのため、めっき槽中に並行流(鋼線の走行方向と同一方向の流れ)と対向流が混在する場合、均一な組成のめっき層を効率よく形成することが困難であった。本発明においては、鋼線に対してめっき液の対向流を流すことにより、均一な組成のめっき層を効率よく形成することができる。
【0016】
本発明においては、めっき液の対向流を発生させる手段としては、特に制限はなく、各種のポンプや攪拌機を使用することができる。また、対向流の流速は、5〜50m/min.であることが好ましい。対向流の流速が5m/min.未満では、並行流と対向流の混在を十分に解消することができない場合があり、好ましくない。一方、対向流の流速が50m/min.より大きくなると、めっき槽内のめっき液の流れが大きく乱れてしまい、均一な組成のめっき層の形成が困難になる場合がある。
【0017】
本発明においては、めっき槽は複数とすることが好ましい。めっき槽を複数配置することによって、鋼線とめっき液との接触時間を大きくすることができ、めっき処理効率をさらに向上させることができる。この場合、図1に示す様に、めっき槽4は並列に配置されていることが好ましい(図示例においては2列、6槽)。めっき槽4を並列に配置することによって、鋼線wを往復させ、めっき槽4を複数回通線させることが可能となる。これにより、めっき処理効率をさらに向上させることができる。また、めっき槽を直列に配置するとめっき装置が大型化してしまうが、めっき槽を並列に配置することにより、かかる問題を解消することができる。
【0018】
本発明においては、アノードとしては銅−亜鉛合金めっき処理に用いられるものであればいずれでも使用可能であるが、銅−亜鉛合金アノードを用いることが好ましい。これにより、めっき槽4中の銅イオンおよび亜鉛イオンの濃度を一定に保つことができ、めっき層の均一性を向上させることができる。また、定期的にめっき液を補充する手間が省けて、作業性に優れている。
【0019】
本発明に用いるめっき液としては、特に制限はないが、銅塩と、亜鉛塩と、ピロリン酸アルカリ金属塩と、アミノ酸またはその塩から選ばれた少なくとも一種とを含有し、pHが10〜12である銅−亜鉛合金めっき液を好適に用いることができる。
【0020】
銅塩としては、めっき液の銅イオン源として公知のものであればいずれも使用可能であり、例えば、ピロリン酸銅、硫酸銅、塩化第2銅、スルファミン酸銅、酢酸第2銅、塩基性炭酸銅、臭化第2銅、ギ酸銅、水酸化銅、酸化第2銅、リン酸銅、ケイフッ化銅、ステアリン酸銅、クエン酸第2銅等を挙げることができ、これらのうち1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0021】
亜鉛塩としては、めっき槽の亜鉛イオン源として公知のものであればいずれも使用可能であり、例えば、ピロリン酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、スルファミン酸亜鉛、酸化亜鉛、酢酸亜鉛、臭化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、リン酸亜鉛、ケイフッ化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、乳酸亜鉛等を挙げることができ、これらのうち1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0022】
ピロリン酸アルカリ金属塩としては、公知のものであればいずれでも使用可能であり、例えば、そのナトリウム塩、カリウム塩等を挙げることができる。
【0023】
めっき液のpHは10〜12であり、好ましくは10.5〜11.8の範囲である。pHが10未満であると、高電流密度とした場合、均一な組成のめっき層を得ることが困難になる。一方、pHが12を超えると析出物が生じるため、やはり均一な組成のめっき層を得ることが困難になる。pH調整には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物および水酸化カルシウムのようなアルカリ土類金属水酸化物を好適に用いることができ、好ましくは水酸化カリウムである。
【0024】
アミノ酸としては、公知のものであればいずれでも使用可能であり、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、トレオニン、セリン、プロリン、トリプトファン、ヒスチジン等のα−アミノ酸若しくはその塩酸塩、ナトリウム塩等を挙げることができ、好ましくはヒスチジンである。なお、これらのうち1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。これらの添加量としては、0.08mol/L〜0.22mol/Lが好ましい。
【0025】
本発明においては、めっき液の上記各成分の配合量は特に制限されず、適宜選択することができるが、工業的な取扱いを考慮すると、銅塩を銅換算で2〜40g/L、亜鉛塩を亜鉛換算で0.5〜30g/L、ピロリン酸アルカリ金属塩150〜400g/L、アミノ酸又はその塩を0.2〜50g/L程度とすることが好ましい。
【0026】
本発明の鋼線への銅−亜鉛合金めっき方法は、めっき液の流れが鋼線の走行方向に対して反対方向であることのみが重要であり、その他の条件等については従来の条件を用いることができる。例えば、めっき処理の際の電流密度は5〜20A/dmとすることができる。また、めっき槽の温度は、30〜50℃程度とすることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例1:ラボ実験>
線径1.5mmの鋼線に酸洗浄、水洗浄を施し、次いで下記の組成を有する銅−亜鉛合金めっき液を用いて、下記条件にてめっき処理を行った。その後、水洗浄を行い、乾燥させて銅−亜鉛合金めっき付き鋼線を得た。めっき処理の際の対向流の流速は10m/min.とした。得られた銅−亜鉛合金めっき付き鋼線について、めっき層厚を測定し、単位時間当たりに形成されるめっき層厚(μm/mm.)を算出し、めっき処理効率として評価した。得られた結果を表1に示す。
【0028】
<銅−亜鉛合金めっき浴>
硫酸銅 27g/L
硫酸亜鉛 18g/L
ピロリン酸カリウム 350g/L
L−ヒスチジン 15g/L
pH 11.5
陰極電流密度 18A/dm
めっき槽温度 40℃
【0029】
<比較例:ラボ実験>
対向流を流さなかったこと以外は実施例1と同様の手順で、めっき処理効率について評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
めっき処理の際に対向流を流すことにより、実施例1の鋼線は組成が均一なめっき層が得られた。また、表1より、めっき処理の際に対向流を流すことにより、めっき処理効率が向上していることが確かめられた。
【0032】
<実施例2:実機試験>
図1に示すタイプの6槽のめっき浴を有するめっき装置を用いて、めっき処理効率の評価を行った。線径1.5mmの鋼線に酸処理装置2にて酸洗浄、水洗装置3aにて水洗浄を施した。6層のめっき層4にて、めっき処理を行った。めっき液の組成は、実施例1で用いたものと同一とし、めっき層4中での鋼線の線速は30m/min.、めっき浴の通線回数を(15回)とした。めっき処理後、水洗装置3bにて水洗浄、エアナイフ5で鋼線を乾燥させて銅−亜鉛合金めっき付き鋼線を得た。めっき処理に際して、対向流の流速は10m/min.とした。得られた銅−亜鉛合金めっき付き鋼線について、めっき層厚を測定し、単位時間当たりに形成されるめっき層厚(μm/min.)を算出し、めっき処理効率として評価した。得られた結果を表1に示す。
【0033】
<従来例:実機試験>
線径1.5mmの鋼線に酸洗浄、水洗浄を施し、次いで下記の組成を有する硫酸銅めっき浴および硫酸亜鉛めっき槽を用いて、下記条件に従ってめっき処理を行った。その後、水洗浄を行い、乾燥させて銅めっき層および亜鉛めっき層を有する鋼線を得た。めっき処理に際して、めっき槽中の鋼線の線速は30m/min.とした。次いで通電加熱装置により400℃で拡散させて、銅−亜鉛合金めっき層付き鋼線を得た。得られた銅−亜鉛合金めっき付き鋼線について、実施例2と同様の手法によりめっき処理効率算出し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0034】
<ピロリン酸銅めっき浴>
ピロリン酸銅 65g/L
ピロリン酸 12g/L
pH 9
陰極電流密度 10A/dm
めっき槽温度 50℃
【0035】
<硫酸亜鉛めっき浴>
硫酸亜鉛 350g/L
硫酸 1g/L
pH 2
陰極電流密度 30A/dm
めっき槽温度 30℃
【0036】
【表2】

※:銅−亜鉛合金めっき装置の設備長を指数として表したものである。
【0037】
表2より、本発明のめっき方法は、従来のめっき処理と比較してめっき処理効率および省スペース性に優れていることがわかる。なお、実施例2により得られた鋼線のめっき層の組成は均一であった。
【符号の説明】
【0038】
1 巻出し装置
2 酸処理装置
3a,3b 水洗装置
4 めっき槽
5 エアナイフ
6 巻取り装置
7 キャプスタン
8 ガイドロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき槽中のめっき液に鋼線を通線することにより、該鋼線に銅−亜鉛合金めっき層を形成する鋼線の銅−亜鉛合金めっき方法において、
前記めっき槽中で前記鋼線の走行方向の反対方向にめっき液を流すことを特徴とする鋼線への銅−亜鉛合金めっき方法。
【請求項2】
前記めっき槽が複数である請求項1記載の鋼線への銅−亜鉛合金めっき方法。
【請求項3】
前記めっき槽が並列に配置されている請求項2記載の鋼線への銅−亜鉛合金めっき方法。
【請求項4】
銅−亜鉛合金アノードを用いる請求項1〜3のうちいずれか一項記載の鋼線への銅−亜鉛合金めっき方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−172231(P2012−172231A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37483(P2011−37483)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】