鋼部材とコンクリート部材との接合構造及び接合方法
【課題】 鋼部材とコンクリート部材とを強固に一体化する。
【解決手段】コンクリートからなる上床版と下床版とを連結する鋼ウェブ13の上縁付近と下縁付近とをコンクリートに埋め込む埋め込み部13a,13bとし、それぞれに複数の貫通孔を設ける。予め形成されたずれ止め部材23をその両端を突出させて貫通孔のそれぞれに、貫通孔の内周面と接触して又はわずかの隙間をおいて挿通する。ずれ止め部材は、床版用のコンクリートよりも高強度の材料で形成される。例えば、高強度コンクリート(モルタル)又は繊維補強コンクリート(モルタル)からなるもの、高強度コンクリート(モルタル)で形成された円柱体の外周面を鋼管で被覆したもの等が採用される。また、これらのずれ止め部材には軸線方向にプレストレストを導入することができる。床版を形成するコンクリートはずれ止め部材及び鋼ウェブの埋め込み部を埋め込むように打設して一体化する。
【解決手段】コンクリートからなる上床版と下床版とを連結する鋼ウェブ13の上縁付近と下縁付近とをコンクリートに埋め込む埋め込み部13a,13bとし、それぞれに複数の貫通孔を設ける。予め形成されたずれ止め部材23をその両端を突出させて貫通孔のそれぞれに、貫通孔の内周面と接触して又はわずかの隙間をおいて挿通する。ずれ止め部材は、床版用のコンクリートよりも高強度の材料で形成される。例えば、高強度コンクリート(モルタル)又は繊維補強コンクリート(モルタル)からなるもの、高強度コンクリート(モルタル)で形成された円柱体の外周面を鋼管で被覆したもの等が採用される。また、これらのずれ止め部材には軸線方向にプレストレストを導入することができる。床版を形成するコンクリートはずれ止め部材及び鋼ウェブの埋め込み部を埋め込むように打設して一体化する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、土木構造物又は建築構造物等として構築される鋼とコンクリートの複合構造物における鋼部材とコンクリート部材との接合構造及び接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土木構造物又は建築構造物等の構造材料として、コンクリート又は鋼材が広く用いられている。コンクリートは施工現場で任意の形状の部材を形成することができ、維持管理が容易という利点を有しており、鋼材は軽量で強固な構造を構築することができるという利点を備えている。これらそれぞれの利点を生かした構造物としてコンクリート・鋼複合構造が採用されることがあり、例えばコンクリートの床版と鋼ウェブとを接合した複合桁が知られている。
このような複合桁では、桁重量を低減して橋の基礎・下部構造への負担を軽減することができるとともに、コンクリートの一般的な橋桁と比べて、ウェブの鉄筋組立、コンクリート打設等の作業を省略することができ、施工の省力化と工期の短縮を図ることも可能となる。
【0003】
従来、このような鋼板からなるウェブを有する橋桁では、図12に示すように、波形に形成された波形鋼板ウェブ100の上端にフランジプレート101を溶接し、このフランジプレート101の上に複数のスタッドジベル102を溶接によって取り付ける。そして、フランジプレート101の上にスタッドジベル102を埋め込むように床版のコンクリートを打設する。このような接合構造ではスタッドジベル102のせん断抵抗力によりコンクリート床版とウェブとが一体化されている。
【0004】
また、特許文献1には、図13に示すように、フランジプレート111の上部に複数の孔が開けられた鋼板(以下、「孔開きプレート」という)を溶接し、フランジプレート111の上に上記孔開きプレート112を埋め込むように床版のコンクリートを打設する技術が開示されている。この技術によれば、孔開きプレート112に開削された孔113に床版のコンクリートが充填され、コンクリート床版と鋼板からなる波形鋼板ウェブ110とが一体に接合される。
【0005】
特許文献2には、図14に示すように、フランジプレート121に溶接された孔開きプレート122の孔123にせん断補強筋124を挿通して床版のコンクリート内に埋設する技術が記載されている。このような構造では、孔開きプレート122に設けられた孔123の内周面とせん断補強筋124との間にコンクリートが入り込んで、コンクリート床版と波形鋼ウェブ120とが一体に形成されるとともに、せん断補強筋124が孔123付近のコンクリートを補強するものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−355906号公報
【特許文献2】特開2002−69931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようなコンクリート・鋼複合構造における接合では次のような問題がある。
スタッドジベルを用いる場合は、スタッドジベルの溶接量が多くなりコストが増大する。また、特許文献1に記載されているように、孔開きプレートに設けられた孔を床版のコンクリートで充填する接合構造では、孔の内部にコンクリートが隙間無く確実に充填されたか否かを視認することが困難であり、孔の中に空洞が生じた状態となることがある。このように孔の中に空洞が生じた場合、コンクリート部材と鋼部材との間のせん断耐力が大きく低減してしまう。また、孔内のコンクリートには大きな支圧力が集中して作用し、強度をあげるために高強度コンクリート等を使用した場合、コンクリート床版の全体に高強度コンクリートを使用せざるを得ず、製作費が多大となる。
特許文献2に記載の技術では、特許文献1に記載の技術と同様の問題点があるともに、孔開きプレートに複数段にわたって孔を配置する必要があると、せん断補強筋も複数段にわたって配置されることとなり、せん断補強筋の配置が難しくなる。
【0008】
本願発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、鋼部材とコンクリート部材とを強固に接合して一体化し、相互間で大きな力の伝達が可能となる鋼部材とコンクリート部材との接合構造及びその接合方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 鋼部材とコンクリート部材との接合構造であって、 前記鋼部材は複数の貫通孔が厚さ方向に形成された板状の部材を備え、 前記コンクリート部材より圧縮強度及び引張強度が大きいコンクリート又はモルタルで形成されたずれ止め部材が、前記板状の部材の面と平行な方向の力が前記鋼部材から伝達されるように前記貫通孔のそれぞれに嵌め入れられ、前記鋼部材から両側へ突き出しており、 前記ずれ止め部材及び前記鋼部材の該ずれ止め部材が嵌め入れられた部分を埋め込むようにコンクリートが打設されていることを特徴とする鋼部材とコンクリート部材との接合構造を提供する。
【0010】
この鋼部材とコンクリート部材との接合構造では、コンクリート部材を形成するコンクリートが打設される前にずれ止め部材が鋼部材の貫通孔に嵌め入れられるので、貫通孔内部とずれ止め部材との間に隙間が生じていない状態とし、これを確認してずれ止め部材及び鋼部材を埋め込むようにコンクリートを打設することができる。
また、ずれ止め部材は、工場等であらかじめ作成することができ、現場での作業工程を簡略化することができるとともに、コンクリート部材に使用されるコンクリートよりも高強度とすることが容易となる。したがって、貫通孔の内周面との間に大きな支圧力が作用しても大きな耐力を有し、コンクリート部材と鋼部材との相対的な変位を抑制して力の伝達が可能となる。さらに、ずれ止め部材からコンクリート部材へは、鋼部材の両側に突き出した周面から力が伝達され、コンクリート部材を構成するコンクリートの強度がずれ止め部材より小さくても、大きな力の伝達が可能となる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造において、 前記ずれ止め部材は、前記貫通孔の内周面と接触又はわずかの隙間を有するように嵌め入れられ、 前記貫通孔の内周面と該貫通孔に挿通された前記ずれ止め部材との隙間には、硬化したときの弾性係数が前記ずれ止め部材よりも小さい充填材が充填されているものとする。
【0012】
この鋼部材とコンクリート部材との接合構造では、充填材が孔の内周面とずれ止め部材との間に充填されるので、ずれ止め部材と鋼部材との間で相対的な変位を生じることなく相互間で力が伝達される。したがって、鋼部材とコンクリート部材との間の相対的な変位を抑制して一体化することができる。
また、充填材として、硬化した時の弾性係数がずれ止め部材よりも小さいものを採用すると、ずれ止め部材の外周面又は鋼部材に設けられた孔の内周面に凹凸があっても相互間で作用する支圧力が小さな範囲に集中するのが緩和される。これにより、ずれ止め部材が局部的に大きな支圧力によって破壊されるのを抑制することが可能となる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造において、 前記ずれ止め部材を形成するコンクリート又はモルタルは、繊維状材料を混入した繊維補強コンクリート又は繊維補強モルタルとする。
【0014】
この鋼部材とコンクリート部材との接合構造では、ずれ止め部材が繊維補強コンクリート又は繊維補強モルタルで形成されるので、ずれ止め部材の引張強度を大きなものとすることができ、ずれ止め部材の曲げモーメントやせん断力への耐力を増大することが可能となる。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造において、 前記ずれ止め部材のコンクリート又はモルタルには、軸線方向のプレストレスが導入されているものとする。
【0016】
この鋼部材とコンクリート部材との接合構造では、ずれ止め部材に軸線方向のプレストレスが導入されており、ずれ止め部材が曲げモーメント及びせん断力に対して補強される。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造において、 前記ずれ止め部材は、該ずれ止め部材を形成するコンクリート又はモルタルの外周面に鋼による被覆層を有するものとする。
【0018】
この鋼部材とコンクリート部材との接合構造では、ずれ止め部材は曲げに対して補強されるともに、ずれ止め部材のコンクリート又はモルタルが鋼による被覆層によって拘束され、割れるのを防止することができるともに、せん断力に対してもねばり強い部材となる。これによりコンクリート部材と鋼部材とを強固に一体化することができる。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5までのいずれかに記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造において、 コンクリート部材を構成するコンクリートが硬化するまで前記ずれ止め部材を前記貫通孔に挿通した状態に維持する固定具が、前記ずれ止め部材の前記貫通孔から突き出した部分に固定され、前記鋼部材の前記貫通孔の周辺部に当接するように装着されているものとする。
【0020】
この鋼部材とコンクリート部材との接合構造では、ずれ止め部材に固定具が装着されており、コンクリートが打設されるときの衝撃等によってずれ止め部材が孔から抜け出したり、脱落したりするのを防止することができる。
【0021】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造において、 前記固定具は、螺旋状に加工された鋼線とする。
【0022】
この鋼部材とコンクリート部材との接合構造で用いられる固定具は、貫通孔に挿通されたずれ止め部材を支持するとともに、ずれ止め部材の周囲に打設されて硬化したコンクリートが補強される。
【0023】
請求項8に係る発明は、請求項6に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造において、 前記固定具は、前記ずれ止め部材の前記鋼部材から突き出した部分に装着されたリング状部材とする。
【0024】
この鋼部材とコンクリート部材との接合構造で用いられる固定具は、ずれ止め部材の鋼部材から突き出した部分で、周囲に打設されたコンクリートに対する支圧面を拡大することができる。これにより、ずれ止め部材の周囲に打設されたコンクリートに作用する支圧力が緩和される。
【0025】
請求項9に係る発明は、 鋼部材とコンクリート部材との接合方法であって、 前記鋼部材は厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された鋼板を備え、 該鋼部材を所定の位置に配置し、 あらかじめコンクリート又はモルタルで製作されたずれ止め部材を、前記貫通孔の内周面と接触又はわずかの隙間を有するように該貫通孔に挿通し、該貫通孔の内周面と該ずれ止め部材の外周面との隙間には硬化する充填材を充填した状態で該ずれ止め部材を支持し、 前記ずれ止め部材及び前記鋼部材の該ずれ止め部材が挿通された部分を埋め込むようにコンクリートを打設することを特徴とする鋼部材とコンクリート部材との接合方法を提供する。
【0026】
この鋼部材とコンクリート部材との接合方法では、ずれ止め部材を工場等で製作することができるので、コンクリート部材よりも高強度の材料で容易に形成することができる。そして、このずれ止め部材が鋼板に設けた貫通孔内に嵌め入れられるので、鋼板から支圧力が作用する部分の強度を大きなものにすることができる。また、充填材によって貫通孔内部とずれ止め部材との間に隙間が生じるのを防止することができる。これにより、ずれ止め部材と鋼部材とを強固に接合することができるとともに、鋼部材とコンクリート部材間で相対的なずれが生じるのを防止し一体化することが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
このように、本願に係る発明の鋼部材とコンクリート部材との接合構造及び接合方法では、鋼部材とコンクリート部材とを相対的なずれの発生を抑制して強固に一体化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本願発明の一実施形態である接合構造が適用された橋桁の側面図及び断面図である。
【図2】図1に示す橋桁の下方からの概略斜視図である。
【図3】図1に示す橋桁の橋脚で支持される部分を示す概略側面図である。
【図4】図1に示す橋桁でウェブとして機能する鋼部材の概略斜視図である。
【図5】図4に示す鋼部材に設けられた貫通孔に挿入されたずれ止め部材の概略斜視図である。
【図6】図1に示す橋桁でウェブとして機能する鋼部材と上床版及び下床版のコンクリートとの接合部を示す拡大断面図である。
【図7】図1に示す橋桁の一構築方法で採用されるプレキャストセグメントの概略斜視図である。
【図8】図5に示すずれ止め部材を鋼部材の貫通孔に挿通し、固定具を装着した状態を示す概略側面図である。
【図9】本願発明の他の実施形態である接合構造で用いられる鋼部材の概略斜視部図及びこの鋼部材を用いた橋桁の断面図である。
【図10】本願発明の効果を確認するために行った実験に用いた供試体を示す概略斜視図である。
【図11】本願発明の効果を確認するために行った実験の結果を説明する図である。
【図12】従来の橋桁における鋼ウェブの上床版との接合部を示す概略斜視図である。
【図13】従来の橋桁における鋼ウェブの上床版との接合部を示す概略斜視図である。
【図14】従来の橋桁における鋼ウェブの上床版との接合部を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本願に係る発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本願発明の一実施形態である接合構造が適用された橋桁の側面図及び断面図であり、図2は、同じ橋桁の下方からの斜視図である。また、図3は、同じ橋桁の橋脚で支持される部分を示す側面図である。
この橋桁2は、複数の橋脚1a、1b及び橋台(図示しない)上に支持された連続桁となっており、コンクリートからなる上床版11と、この下方に支持されるコンクリートの下床版12と、上床版11と下床版12とを連結しウェブとして機能する鋼部材13と、で主要部が構成されている。
【0030】
上記上床版11は、橋桁2の軸線方向に連続しており、この上に路面が形成されるもので、軸線方向及びこれと直角方向にPC鋼材(図示しない)が配置されている。そして、これらのPC鋼材を緊張し、コンクリートに定着することによってプレストレスが導入されている。これにより、橋桁に負の曲げモーメントが作用したとき、及び上床版11上に車両等の荷重が作用したときに、有害なひび割れ等が生じないようになっている。一方、下床版12にも橋桁の軸線方向にプレストレスが導入され、正の曲げモーメントに基づく引張応力に対抗し得るものとなっている。
【0031】
また、コンクリート部材外であって箱型となった桁断面の内側に、橋桁2の軸線方向の緊張材を配置し、この緊張材の張力によって上床版11及び下床版12のコンクリートにプレストレスを導入することもできる。
【0032】
上記鋼部材13は、図4に示すように鋼平板からなり、該鋼平板の面が橋桁の軸線と平行に配置されて上床版11と下床版12とを接合し、ウェブとして機能するものである。
この鋼平板は、橋桁2の軸線方向に所定の長さに分割されており、複数が橋桁2の軸線方向に配列されている。分割されたそれぞれの鋼部材13は、上縁と下縁との中間位置で幅が最も小さく、上縁又は下縁に近づくに従って幅が直線的に拡大された形状となっている。そして、上縁付近と下縁付近とは幅が矩形状に拡大され、複数の貫通孔21が設けられており、この部分が上床版及び下床版のコンクリートに埋め込んで接合する埋め込み部13a,13bとなっている。また、鋼部材13の箱桁断面の内側となる面の一方の対角線上には、コンクリートリブ22が設けられており、この方向に作用する圧縮力の一部を負担するようになっている。
【0033】
上記鋼部材13の貫通孔21には、図5に示すように、円柱状に形成されたずれ止め部材23が挿通され、両端が鋼部材13の両側に突き出している。そして、図6に示すように上床版11及び下床版12のコンクリートは、鋼部材13の上側の埋め込み部13a及び下側の埋め込み部13bを、貫通孔21に挿通されたずれ止め部材23とともに埋め込むように打設されている。これにより、上床版11、鋼部材13及び下床版12が一体となっている。
【0034】
上記ずれ止め部材23は、円柱状となっており工場等で予め形成されるものである。そして、上床版11及び下床版12を形成するために使用されるコンクリートよりも高強度のコンクリート又はモルタル等で形成される。本実施の形態では、床版のコンクリートの設計基準強度が40N/mm2であるので、ずれ止め部材23は、40N/mm2 以上の強度を有するように設計される。
例えば、高強度コンクリート又は高強度モルタルで形成されたもの、高強度コンクリート又は高強度モルタルに繊維状材料を混入した繊維補強コンクリート又は繊維補強モルタルにより形成されたものを使用することができる。また、繊維補強ずれ止め部材、高強度コンクリート又は高強度モルタル等により形成された円柱体の外周面に鋼による被覆層が形成されたものでもよい。さらに、これらのずれ止め部材に軸線方向のプレストレスが導入されたものであってもよい。
なお、これらのずれ止め部材23は、独立して1本ずつ製作することも可能であるが、軸線方向に長く形成されたものを所定の長さに切断して製作することができる。本実施の形態では、長さを約200mmとし、径を約50mmとしたが、これらの寸法は、ずれ止め部材を形成する材料、その強度、又は鋼部材13の厚さ等を考慮して定めるのが望ましい。
【0035】
上記高強度コンクリート又は高強度モルタルで形成されたずれ止め部材23は、床版に使用されるコンクリートよりも高強度のコンクリート又はモルタルで形成され、床版コンクリートよりも圧縮強度と引張強度が高くなっている。例えば、床版コンクリートの設計基準強度が40N/mm2 であるときに、ずれ止め部材23は圧縮強度が120N/mm2 となるように形成することができる。
【0036】
上記繊維補強された高強度コンクリート又は高強度モルタルのずれ止め部材23は、炭素繊維、鋼繊維、アラミド繊維、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン繊維、又はビニロン繊維などの繊維状材料を高強度コンクリート又は高強度モルタルに混入して形成されたものである。
繊維状材料の繊維はランダムに混入されてもよいが、繊維の向き(繊維の配向)をずれ止め部材の軸線方向に沿わせるように混入するのが望ましい。これにより、鋼部材13の面に対して繊維の配向を直角にすることができ、繊維がランダムに混入されたコンクリート又はモルタルからなるずれ止め部材よりもせん断耐力を増強することができる。繊維の向きをずれ止め部材の軸線方向に沿わせる方法としては、ずれ止め部材の軸線方向に圧力を負荷しながら筒状の型枠に繊維を混入したコンクリート又はモルタルを流し込む方法を採用することができる。
繊維補強されたずれ止め部材23の圧縮強度は、例えば200N/mm2 とすることができる。
【0037】
上記鋼被覆を有するずれ止め部材23は、円柱状となった高強度モルタルや繊維補強コンクリート等の外周面に鋼の被覆層を有するものであり、円筒状に形成された鋼管の内部に高強度モルタル等を隙間なく充填して形成することができる。
例えば、鋼管内に設計強度120N/mm2 の高強度モルタルを充填したものを採用することができる。
このようなずれ止め部材23は、鋼被覆層によって高強度モルタル等の変形が拘束され、さらに高強度で破壊までの塑性変形が大きな部材となる。
【0038】
上記プレストレストが導入されたずれ止め部材23は、上記高強度コンクリート等で形成された円筒状部材の軸線方向に、異形PC鋼材または異形繊維強化プラスティック(異形FRP)などの緊張材でプレストレスが導入されたものである。このずれ止め部材23では、軸線方向のプレストレスによりせん断強度が増大する。
なお、このずれ止め部材23は、いわゆるプレテンション方式でプレストレスを導入することができる。つまり、円筒状の型枠内に挿通した緊張材を予め緊張した後、鋼強度コンクリート等を型枠内に隙間なく充填して硬化させる。また、鋼被覆を有するものでは、鋼管内に緊張材を挿通し、緊張力を導入した後に高強度コンクリート等を鋼管内に充填して製作することができる。プレテンション方式を採用したときのコンクリートやモルタル等には割裂等が生じやすくなるが、外周面を鋼管で被覆することによりコンクリート又はモルタルの割裂を防止してプレストレスを導入することが可能となる。
【0039】
緊張材として使用する上記アラミドロッドは、例えば直径3mmのアラミド繊維製棒材の表面に棒材とは別のアラミド繊維を巻き付けて表面に凹凸を設けたものを、1本又は複数本使用することができる。ずれ止め部材23は、本実施の形態では長さ約200mmに形成されるので、緊張材のモルタル等への付着長が十分ではなく緊張力が導入されにくい場合も想定されるが、アラミドロッドの径を細くすることにより付着長を短くしてずれ止め部材23にプレストレスを導入することができる。
【0040】
上記鋼部材13の内側面に形成されたコンクリートリブ22は、図4に示すように、鋼平板の内側の一方の対角線に沿って植設された複数のスタッドジベル24を埋め込むように打設したコンクリートで形成されたものである。コンクリートは、鋼平板に密接して打設されており、斜め方向の柱状となっている。
【0041】
このように形成された上記鋼部材13の埋め込み部13a,13bは、図6に示すように、貫通孔21に挿通されたずれ止め部材23とともに上床版11及び下床版12を形成するコンクリート中に埋め込まれ、一体となる。これにより、橋桁2の軸線とほぼ平行に配列された複数の鋼部材13と上床版11と下床版12とが箱状の断面を有する橋桁となる。
このような橋桁2に曲げモーメント及びせん断力が作用したときには、鋼部材13と床版11,12との接合部でずれようとする力が発生するが、鋼部材13に設けられた貫通孔21の内周面からずれ止め部材23に支圧力として力が伝達され、さらにずれ止め部材23から上床版11又は下床版12のコンクリートに伝達される。そして、大きな支圧力が作用するずれ止め部材23が高い強度を有することによって、床版11,12と鋼部材とのずれが抑制され一体となって抵抗するものとなる。
【0042】
また、このような橋桁2では、上記鋼部材13を構成する鋼平板は上下方向の中位部分で幅が狭く、蝶型となっているので、配列された鋼部材13間でほぼ菱形の開口16ができる。しかし、せん断力に対しては、図3に示すように、それぞれの鋼部材13内に作用する斜め方向の引張力Aと、これに交差する方向の圧縮力Bによって抵抗し得るものとなる。そして、斜め方向の圧縮力Bは、コンクリートリブ22によって一部が分担されるとともに、この圧縮力Bによる鋼平板の座屈は、コンクリートリブ22によって防止される。
【0043】
また、ウェブとなる鋼部材13は、橋桁2の軸線方向に分割され、上床版11又は下床版12の軸線方向の変形を拘束することが少なくなっている。したがって、上床版11又は下床版12には、少ない緊張材で有効にプレストレスを導入することができる。
【0044】
次に、上記橋桁2の構築方法の一例について説明する。
まず、図3に示すように、橋脚1上にコンクリートの横桁2aを含む柱頭部2bを形成し、橋脚1に仮固定する。そして、両側へ片持ち状態で張り出すように所定長の桁を順次増設してゆく。
一回に増設する長さは、橋桁の軸線方向に上記鋼部材13を配置する間隔と同じに設定し、この長さのプレキャストセグメント2cをあらかじめ形成しておき、これを順次接合する。
【0045】
上記プレキャストセグメント2cは、図7に示すように、橋桁の軸線方向に所定長さの上床版11と下床版12と一対の鋼部材13とで構成されている。
鋼部材13は工場等で製作するものであり、一方の対角線に沿って溶接された複数のスタッドジベル24を埋め込むようにコンクリートを打設し、鋼平板と密接した斜め方向の柱状のコンクリートリブ22を形成しておく。
一方、予め製作されたずれ止め部材23を上縁付近の埋め込み部13a及び下縁付近の埋め込み部13bに開削された貫通孔21に挿通する。このとき、ずれ止め部材23の径は、上記埋め込み部13a,13bに開削された貫通孔21の内径とほぼ同じ又はわずかに小さく形成されており、嵌め入れるように挿通する。このときエポキシ樹脂等の流動性を備えて後に硬化する充填材をずれ止め部材23の外周面に塗布した状態で貫通孔21に挿通するのが望ましい。これにより、ずれ止め部材23と貫通孔21の内周面との間に充填材が充填される。充填材は、ずれ止め部材23を貫通孔21に挿通した後、ずれ止め部材23と貫通孔21の内周面との隙間に充填してもよい。
なお、充填材は、硬化したときにずれ止め部材23よりも弾性係数の低い材料を用いるのが望ましい。
【0046】
このように、床版を形成するコンクリート11,12が埋め込み部13a,13bを埋め込むように打設される前にずれ止め部材23を貫通孔21に挿通し、ずれ止め部材23と貫通孔21との間の隙間が生じないように装着することができる。したがって、貫通孔21の内周面からずれ止め部材23に支圧力が確実に作用する状態としてコンクリート中に埋め込むことができる。
【0047】
ずれ止め部材23を装着した後、ずれ止め部材23の鋼部材13から突き出した両端部23aに固定具を取り付け、ずれ止め部材23が貫通孔21に対して直角に挿通された状態を維持する。
上記固定具は、図8に示すように、棒鋼を螺旋状に曲げ加工した螺旋状部材25や、ずれ止め部材23の外側に嵌め合わされるリング状部材26等を使用することができる。
上記螺旋状部材25は、螺旋状となった棒鋼の一方の端部を埋め込み部13a,13bの貫通孔21の周囲に当接するとともに、螺旋状となった部分がずれ止め部材23の外側に巻き回し、他方の端部をずれ止め部材23に巻き付けて固定する。これにより、貫通孔21に挿通された状態でずれ止め部材23を支持することができ、ずれ止め部材23を貫通孔21に挿通した後、床版のコンクリートを打設して硬化するまでの間、ずれ止め部材23が貫通孔21から抜け出したり、脱落したりするのを防止するものとなっている。
また、螺旋状部材25がずれ止め部材23の外周面に巻き回されることにより、ずれ止め部材23の周囲に打設されたコンクリートを補強することができ、ずれ止め部材23の周囲のコンクリートにひび割れが生じるのを抑制することが可能となる。
【0048】
一方、上記リング状部材26は、鋼、モルタル、コンクリート又は繊維補強コンクリート等で形成し、図8(b)に示すように、ずれ止め部材23の埋め込み部13aから突出した部分23aの外周面に密着するように嵌め合わす。そして、一方の端面は埋め込み部13aに設けられた貫通孔の周囲に当接するように装着する。また、ずれ止め部材23とリング状部材26の内面との間に隙間が生じるのを防止するために、ずれ止め部材23の外周面に充填材を塗布し、リング状部材26がずれ止め部材23の外周面に密接するように装着する。
このように、リング状部材26は、ずれ止め部材23の鋼部材13からの脱落等を防止するとともに、ずれ止め部材23のコンクリートに対する支圧面が拡張され、コンクリートに作用する応力を緩和することができる。
【0049】
上記ずれ止め部材23が埋め込み部13a,13bの貫通孔21に挿通された2枚の鋼部材13は、橋桁2の幅方向に所定の間隔をあけて配置し、下縁付近の埋め込み部13bをずれ止め部材23とともに埋め込むように下床版12を形成するコンクリートを打設する。また、ずれ止め部材23が装着された上縁付近の埋め込み部13aを埋め込むように上床版11を形成するコンクリートを打設する。これにより、鋼部材13は上床版11と下床版12とに接合されて一体となったプレキャストセグメント2cが形成される。
なお、上床版11又は下床版12には、緊張材を挿通するダクト(図示しない)を設けておく。
【0050】
このように一体となったプレキャストセグメント2cをクレーン等で吊り上げて、片持ち状となった架設中の橋桁先端に支持し、上記ダクトに挿通される緊張材によって、既に片持ち状に連結されたセグメントと緊結する。このようなセグメントの接合を順次に繰り返し、両側へバランスを維持しながら橋桁2を張り出すように形成する。
【0051】
次に、本発明を適用した橋桁の他の例を、図9に基づいて説明する。
この橋桁3は、図9(b)に示すようにウェブとして波形に曲げ加工された鋼板を用い、この波形鋼ウェブ30とコンクリートの上床版14及び下床版15とを結合して断面を箱形としたものである。
上記波形鋼ウェブ30は、図9(a)に示すように、構造用鋼板を鉛直方向の折り曲げ線によって折り曲げ、平断面の形状が波形となるように加工された本体部31がウェブとして機能するものである。そして、この本体部31は橋桁3の軸線方向に連続しており、上辺及び下辺に沿って上フランジ32及び下フランジ33がほぼ直角に添設されている。また、上フランジ32の上面及び下フランジ33の下面には、上側の孔開きプレート34及び下側の孔開きプレート35がほぼ直角に溶接されている。
【0052】
孔開きプレート34,35は、橋桁3の軸線方向に連続するものであり、それぞれには複数の貫通孔37が軸線方向に所定の間隔で開削されている。これらの貫通孔37には、図1から図4までに示す橋桁2で用いられたものと同様のずれ止め部材36が貫通孔37の内周面と密着又は充填材を介して密着するように挿通されている。そして、上床版14及び下床版15を形成するコンクリートが上フランジ32又は下フランジ33に密接し、上側の孔開きプレート34又は下側の孔開きプレート35をずれ止め部材36とともに埋め込むように打設される。これにより、上床版14、鋼部材である波形鋼ウェブ30及び下床版15が一体となって橋桁3として機能するものである。
なお、ずれ止め部材36、上床版14及び下床版15は、蝶型の鋼平板をウェブとして用いる上記橋桁2と同様であるので、説明を省略する。
【0053】
上記波形鋼ウェブ30を用いた橋桁3は、所定の長さに分割した複数のセグメントを工場等で製作し、現場でこれらを接合して架設するものであっても良いし、波形鋼ウェブ30を橋桁3の架設位置に設置した後、上床版14及び下床版15のコンクリートを現場で打設するものであっても良い。
また、図1等に示す蝶型の鋼部材をウェブとして用いた橋桁2も、予め製作されたセグメント2cを接合して架設するものに限定されるものではなく、現場で上床版11及び下床版12のコンクリートを打設するものであってもよい。
さらに、本発明に係る接合構造が適用される橋桁は鋼ウェブとコンクリートの上床版及び下床版とで箱形の断面を有するものに限定されず、鋼ウェブと上床版とが接合されたものであってもよいし、鋼ウェブが軸線方向に連続した平板で形成される鋼ガーダーであっても良い。また、架設方法も片持ち施工されるものに限定されず、支保工上で製作される橋桁、押し出し工法で架設される橋桁等、様々の工法で架設される橋桁に適用することができる。
【0054】
一方、以上に説明した実施の形態は、鋼ウェブとコンクリートの床版とで構成される橋桁に関するものであったが、本発明は、鋼部材とコンクリート部材とを一体となるように接合した構造物に広く採用することができる。例えば、斜張橋における斜張ケーブルを主塔に定着する部分に鋼構造を採用した場合の鋼部分と主塔を構成するコンクリートの接合等に採用することもできる。
【0055】
次に、本発明の効果を確認するために行った実験について説明する。
図10は、この実験に用いた供試体40を示す図である。
供試体40は、鋼部材41と、この鋼部材41を両側から挟み込むように設けられた2つのコンクリートブロック42と、で主要部が構成されている。
上記鋼部材41は、所定の長さに切断したH形鋼の2つのフランジ41aに、H形鋼の軸線方向に連続したプレート43をフランジ面とほぼ直角に溶接したものである。この鋼部材41の軸線方向をほぼ鉛直として両フランジ41aに密接するとともにプレート43を埋め込むようにコンクリートを打設して2つのコンクリートブロック42を一体に形成する。
【0056】
コンクリートブロック42は鋼部材を構成するH形鋼の下端より下方に突出するように形成しておき、2つのコンクリートブロック42で試験台の上に支持して鋼部材41に鉛直方向の荷重Pを作用させる。これにより鋼部材41とコンクリートブロック42との間にせん断力を作用させ、鋼部材41の変位量を測定した。
なお、鋼部材41に接合されたプレート43の下側端面には、柔軟に変形する発泡樹脂のブロック45が接触するように配置されており、プレート43の下側端面に作用する支圧力で鋼部材41の変位が拘束されないようにしている。
【0057】
上記供試体40のコンクリートブロック42と鋼部材41との接合構造は、次に示すように、本発明の実施の形態であるずれ止め部材44を用いた接合の他、比較例として従来のスタッドジベルを用いた接合及び異形鉄筋を挿通した孔開きプレートをコンクリートに埋め込んだ供試体について実験を行った。なお、コンクリートブロック42を形成するコンクリートの設計強度は40N/mm2 とする。
【0058】
実験に使用した供試体は次の通りである。
供試体1:従来のスタッドジベルを用いて接合したものである。H形鋼のフランジ41aに溶接接合したプレート43の両面にスタッドジベルを1本ずつ溶接する。そして、H形鋼のフランジ41aに密接させて打設したコンクリートブロック42にプレート43をスタッドジベルとともに埋め込んだものである。スタッドジベルは、軸径が16mm、高さが100mmとしている。
【0059】
供試体2:従来の孔開きプレートを用いて接合したものである。H形鋼のフランジ41aに溶接接合したプレート43に貫通孔を設け、この貫通孔に異形鉄筋を挿通する。そして、H形鋼のフランジ41aに密接してコンクリートを打設し、異形鉄筋及び孔開きプレート43を埋め込むようにコンクリートブロック42を形成したものである。貫通孔の内径は50mmとし、異形鋼棒は、径が10mmのものを使用した。
【0060】
供試体3:本発明の実施の形態であり、ずれ止め部材44を高強度モルタルで形成したものである。図10に示すように、H形鋼のフランジ41aに溶接接合したプレート43に貫通孔を設け、この貫通孔に高強度モルタルで形成されたずれ止め部材44を挿通し、両端部を突出させる。ずれ止め部材44の外周面にはエポキシ樹脂を塗布しておき、貫通孔の内周面とずれ止め部材44の外周面との間隙にエポキシ樹脂が充填されたものとする。このずれ止め部材44をプレート43ともにコンクリートブロック42に埋設する。なお、貫通孔の内径は50mmとし、ずれ止め部材44はこの貫通孔にできるだけ小さな間隙で嵌め入れることが可能な寸法とする。また、このずれ止め部材44は圧縮強度が120N/mm2 の高強度モルタルで形成している。
【0061】
供試体4:本発明の実施の形態であり、ずれ止め部材を高強度繊維補強コンクリートで形成したものである。このずれ止め部材44は、供試体3と同様にプレート43に設けられた貫通孔に挿通してコンクリートブロック42に埋め込むものであり、貫通孔の内径及びずれ止め部材44の径は供試体3と同じにしている。このずれ止め部材44の圧縮強度は200N/mm2 であり、高強度繊維補強コンクリートとしてサクセム(登録商標、商標権者:鹿島建設株式会社、電気化学工業株式会社)を使用した。
【0062】
供試体5:本発明の実施の形態であり、ずれ止め部材44として鋼管内に高強度モルタルを充填したものを用いている。ずれ止め部材44の外径及び貫通孔の内径は供試体3及び供試体4と同じである。鋼管は厚さが2mmのものを用い、充填する高強度モルタルの圧縮強度は120N/mm2 である。
【0063】
上記の供試体を使用して行った実験の結果を、図11に基づいて説明する。
図11(a)は、各供試体に鉛直荷重を負荷したときに鋼部材41とコンクリートブロック42との間に作用するせん断力と、鋼部材41のコンクリートブロック42に対するずれ変位量との関係を示す図である。また、図11(b)は、図11(a)から求められた各供試体のせん断耐力を示す図表である。
これらの図が示すように、従来の接合構造とした供試体1(スタッドジベルを使用)及び供試体2(孔あき鋼板に異形鉄筋を挿通)のせん断耐力は、ともに約200kNであったが、本発明の実施形態である供試体3(高強度モルタルのずれ止め部材を使用)、供試体4(高強度繊維補強コンクリートのずれ止め部材を使用)及び供試体5(鋼管に高強度モルタルを充填したずれ止め部材を使用)のせん断耐力は、それぞれ約230kN、330kN及び360kNであり、従来技術である供試体1及び供試体2よりも大きなせん断耐力を有することが分かる。
【0064】
また、1000kNのせん断耐力を備えた接合とするためには、従来技術である供試体1ではスタッドジベルの数が5組(10本)、供試体2では貫通孔46及び挿通する異型鉄筋が5組必要であるが、本実施の形態に係る供試体3は、貫通孔及びずれ止め部材が4.3組、供試体4は3組、供試体5は2.8組のずれ止め部材と貫通孔とを設ければよいことが分かる。
【符号の説明】
【0065】
1:橋脚、 2、3:橋桁、 11:上床版、 12:下床版、 13:鋼部材、 13a:上側の埋め込み部、 13b:下側の埋め込み部、 14:上床版、 15:下床版、 16:開口、
21:埋め込み部に設けられた貫通孔、 22:コンクリートリブ、 23:ずれ止め部材、 24:スタッドジベル、 25:螺旋状部材、 26:リング状部材、
30:波形鋼ウェブ、 31:本体部、 32:上フランジ、 33:下フランジ 34:上側の孔開きプレート、 35:下側の孔開きプレート、 36:ずれ止め部材、 37:貫通孔、
40:供試体、 41:鋼部材、 41a:H形鋼のフランジ、 42:コンクリートブロック、 43:孔開きプレート、 44:ずれ止め部材、 45:発泡樹脂のブロック、
100,110、120:波形鋼板ウェブ、 101、111、121:フランジプレート、 102:スタッドジベル、 112,122:孔開きプレート、 113、123:孔開きプレートに開削された孔、 124:せん断補強筋、
【技術分野】
【0001】
本願発明は、土木構造物又は建築構造物等として構築される鋼とコンクリートの複合構造物における鋼部材とコンクリート部材との接合構造及び接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土木構造物又は建築構造物等の構造材料として、コンクリート又は鋼材が広く用いられている。コンクリートは施工現場で任意の形状の部材を形成することができ、維持管理が容易という利点を有しており、鋼材は軽量で強固な構造を構築することができるという利点を備えている。これらそれぞれの利点を生かした構造物としてコンクリート・鋼複合構造が採用されることがあり、例えばコンクリートの床版と鋼ウェブとを接合した複合桁が知られている。
このような複合桁では、桁重量を低減して橋の基礎・下部構造への負担を軽減することができるとともに、コンクリートの一般的な橋桁と比べて、ウェブの鉄筋組立、コンクリート打設等の作業を省略することができ、施工の省力化と工期の短縮を図ることも可能となる。
【0003】
従来、このような鋼板からなるウェブを有する橋桁では、図12に示すように、波形に形成された波形鋼板ウェブ100の上端にフランジプレート101を溶接し、このフランジプレート101の上に複数のスタッドジベル102を溶接によって取り付ける。そして、フランジプレート101の上にスタッドジベル102を埋め込むように床版のコンクリートを打設する。このような接合構造ではスタッドジベル102のせん断抵抗力によりコンクリート床版とウェブとが一体化されている。
【0004】
また、特許文献1には、図13に示すように、フランジプレート111の上部に複数の孔が開けられた鋼板(以下、「孔開きプレート」という)を溶接し、フランジプレート111の上に上記孔開きプレート112を埋め込むように床版のコンクリートを打設する技術が開示されている。この技術によれば、孔開きプレート112に開削された孔113に床版のコンクリートが充填され、コンクリート床版と鋼板からなる波形鋼板ウェブ110とが一体に接合される。
【0005】
特許文献2には、図14に示すように、フランジプレート121に溶接された孔開きプレート122の孔123にせん断補強筋124を挿通して床版のコンクリート内に埋設する技術が記載されている。このような構造では、孔開きプレート122に設けられた孔123の内周面とせん断補強筋124との間にコンクリートが入り込んで、コンクリート床版と波形鋼ウェブ120とが一体に形成されるとともに、せん断補強筋124が孔123付近のコンクリートを補強するものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−355906号公報
【特許文献2】特開2002−69931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようなコンクリート・鋼複合構造における接合では次のような問題がある。
スタッドジベルを用いる場合は、スタッドジベルの溶接量が多くなりコストが増大する。また、特許文献1に記載されているように、孔開きプレートに設けられた孔を床版のコンクリートで充填する接合構造では、孔の内部にコンクリートが隙間無く確実に充填されたか否かを視認することが困難であり、孔の中に空洞が生じた状態となることがある。このように孔の中に空洞が生じた場合、コンクリート部材と鋼部材との間のせん断耐力が大きく低減してしまう。また、孔内のコンクリートには大きな支圧力が集中して作用し、強度をあげるために高強度コンクリート等を使用した場合、コンクリート床版の全体に高強度コンクリートを使用せざるを得ず、製作費が多大となる。
特許文献2に記載の技術では、特許文献1に記載の技術と同様の問題点があるともに、孔開きプレートに複数段にわたって孔を配置する必要があると、せん断補強筋も複数段にわたって配置されることとなり、せん断補強筋の配置が難しくなる。
【0008】
本願発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、鋼部材とコンクリート部材とを強固に接合して一体化し、相互間で大きな力の伝達が可能となる鋼部材とコンクリート部材との接合構造及びその接合方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 鋼部材とコンクリート部材との接合構造であって、 前記鋼部材は複数の貫通孔が厚さ方向に形成された板状の部材を備え、 前記コンクリート部材より圧縮強度及び引張強度が大きいコンクリート又はモルタルで形成されたずれ止め部材が、前記板状の部材の面と平行な方向の力が前記鋼部材から伝達されるように前記貫通孔のそれぞれに嵌め入れられ、前記鋼部材から両側へ突き出しており、 前記ずれ止め部材及び前記鋼部材の該ずれ止め部材が嵌め入れられた部分を埋め込むようにコンクリートが打設されていることを特徴とする鋼部材とコンクリート部材との接合構造を提供する。
【0010】
この鋼部材とコンクリート部材との接合構造では、コンクリート部材を形成するコンクリートが打設される前にずれ止め部材が鋼部材の貫通孔に嵌め入れられるので、貫通孔内部とずれ止め部材との間に隙間が生じていない状態とし、これを確認してずれ止め部材及び鋼部材を埋め込むようにコンクリートを打設することができる。
また、ずれ止め部材は、工場等であらかじめ作成することができ、現場での作業工程を簡略化することができるとともに、コンクリート部材に使用されるコンクリートよりも高強度とすることが容易となる。したがって、貫通孔の内周面との間に大きな支圧力が作用しても大きな耐力を有し、コンクリート部材と鋼部材との相対的な変位を抑制して力の伝達が可能となる。さらに、ずれ止め部材からコンクリート部材へは、鋼部材の両側に突き出した周面から力が伝達され、コンクリート部材を構成するコンクリートの強度がずれ止め部材より小さくても、大きな力の伝達が可能となる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造において、 前記ずれ止め部材は、前記貫通孔の内周面と接触又はわずかの隙間を有するように嵌め入れられ、 前記貫通孔の内周面と該貫通孔に挿通された前記ずれ止め部材との隙間には、硬化したときの弾性係数が前記ずれ止め部材よりも小さい充填材が充填されているものとする。
【0012】
この鋼部材とコンクリート部材との接合構造では、充填材が孔の内周面とずれ止め部材との間に充填されるので、ずれ止め部材と鋼部材との間で相対的な変位を生じることなく相互間で力が伝達される。したがって、鋼部材とコンクリート部材との間の相対的な変位を抑制して一体化することができる。
また、充填材として、硬化した時の弾性係数がずれ止め部材よりも小さいものを採用すると、ずれ止め部材の外周面又は鋼部材に設けられた孔の内周面に凹凸があっても相互間で作用する支圧力が小さな範囲に集中するのが緩和される。これにより、ずれ止め部材が局部的に大きな支圧力によって破壊されるのを抑制することが可能となる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造において、 前記ずれ止め部材を形成するコンクリート又はモルタルは、繊維状材料を混入した繊維補強コンクリート又は繊維補強モルタルとする。
【0014】
この鋼部材とコンクリート部材との接合構造では、ずれ止め部材が繊維補強コンクリート又は繊維補強モルタルで形成されるので、ずれ止め部材の引張強度を大きなものとすることができ、ずれ止め部材の曲げモーメントやせん断力への耐力を増大することが可能となる。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造において、 前記ずれ止め部材のコンクリート又はモルタルには、軸線方向のプレストレスが導入されているものとする。
【0016】
この鋼部材とコンクリート部材との接合構造では、ずれ止め部材に軸線方向のプレストレスが導入されており、ずれ止め部材が曲げモーメント及びせん断力に対して補強される。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造において、 前記ずれ止め部材は、該ずれ止め部材を形成するコンクリート又はモルタルの外周面に鋼による被覆層を有するものとする。
【0018】
この鋼部材とコンクリート部材との接合構造では、ずれ止め部材は曲げに対して補強されるともに、ずれ止め部材のコンクリート又はモルタルが鋼による被覆層によって拘束され、割れるのを防止することができるともに、せん断力に対してもねばり強い部材となる。これによりコンクリート部材と鋼部材とを強固に一体化することができる。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5までのいずれかに記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造において、 コンクリート部材を構成するコンクリートが硬化するまで前記ずれ止め部材を前記貫通孔に挿通した状態に維持する固定具が、前記ずれ止め部材の前記貫通孔から突き出した部分に固定され、前記鋼部材の前記貫通孔の周辺部に当接するように装着されているものとする。
【0020】
この鋼部材とコンクリート部材との接合構造では、ずれ止め部材に固定具が装着されており、コンクリートが打設されるときの衝撃等によってずれ止め部材が孔から抜け出したり、脱落したりするのを防止することができる。
【0021】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造において、 前記固定具は、螺旋状に加工された鋼線とする。
【0022】
この鋼部材とコンクリート部材との接合構造で用いられる固定具は、貫通孔に挿通されたずれ止め部材を支持するとともに、ずれ止め部材の周囲に打設されて硬化したコンクリートが補強される。
【0023】
請求項8に係る発明は、請求項6に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造において、 前記固定具は、前記ずれ止め部材の前記鋼部材から突き出した部分に装着されたリング状部材とする。
【0024】
この鋼部材とコンクリート部材との接合構造で用いられる固定具は、ずれ止め部材の鋼部材から突き出した部分で、周囲に打設されたコンクリートに対する支圧面を拡大することができる。これにより、ずれ止め部材の周囲に打設されたコンクリートに作用する支圧力が緩和される。
【0025】
請求項9に係る発明は、 鋼部材とコンクリート部材との接合方法であって、 前記鋼部材は厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された鋼板を備え、 該鋼部材を所定の位置に配置し、 あらかじめコンクリート又はモルタルで製作されたずれ止め部材を、前記貫通孔の内周面と接触又はわずかの隙間を有するように該貫通孔に挿通し、該貫通孔の内周面と該ずれ止め部材の外周面との隙間には硬化する充填材を充填した状態で該ずれ止め部材を支持し、 前記ずれ止め部材及び前記鋼部材の該ずれ止め部材が挿通された部分を埋め込むようにコンクリートを打設することを特徴とする鋼部材とコンクリート部材との接合方法を提供する。
【0026】
この鋼部材とコンクリート部材との接合方法では、ずれ止め部材を工場等で製作することができるので、コンクリート部材よりも高強度の材料で容易に形成することができる。そして、このずれ止め部材が鋼板に設けた貫通孔内に嵌め入れられるので、鋼板から支圧力が作用する部分の強度を大きなものにすることができる。また、充填材によって貫通孔内部とずれ止め部材との間に隙間が生じるのを防止することができる。これにより、ずれ止め部材と鋼部材とを強固に接合することができるとともに、鋼部材とコンクリート部材間で相対的なずれが生じるのを防止し一体化することが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
このように、本願に係る発明の鋼部材とコンクリート部材との接合構造及び接合方法では、鋼部材とコンクリート部材とを相対的なずれの発生を抑制して強固に一体化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本願発明の一実施形態である接合構造が適用された橋桁の側面図及び断面図である。
【図2】図1に示す橋桁の下方からの概略斜視図である。
【図3】図1に示す橋桁の橋脚で支持される部分を示す概略側面図である。
【図4】図1に示す橋桁でウェブとして機能する鋼部材の概略斜視図である。
【図5】図4に示す鋼部材に設けられた貫通孔に挿入されたずれ止め部材の概略斜視図である。
【図6】図1に示す橋桁でウェブとして機能する鋼部材と上床版及び下床版のコンクリートとの接合部を示す拡大断面図である。
【図7】図1に示す橋桁の一構築方法で採用されるプレキャストセグメントの概略斜視図である。
【図8】図5に示すずれ止め部材を鋼部材の貫通孔に挿通し、固定具を装着した状態を示す概略側面図である。
【図9】本願発明の他の実施形態である接合構造で用いられる鋼部材の概略斜視部図及びこの鋼部材を用いた橋桁の断面図である。
【図10】本願発明の効果を確認するために行った実験に用いた供試体を示す概略斜視図である。
【図11】本願発明の効果を確認するために行った実験の結果を説明する図である。
【図12】従来の橋桁における鋼ウェブの上床版との接合部を示す概略斜視図である。
【図13】従来の橋桁における鋼ウェブの上床版との接合部を示す概略斜視図である。
【図14】従来の橋桁における鋼ウェブの上床版との接合部を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本願に係る発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本願発明の一実施形態である接合構造が適用された橋桁の側面図及び断面図であり、図2は、同じ橋桁の下方からの斜視図である。また、図3は、同じ橋桁の橋脚で支持される部分を示す側面図である。
この橋桁2は、複数の橋脚1a、1b及び橋台(図示しない)上に支持された連続桁となっており、コンクリートからなる上床版11と、この下方に支持されるコンクリートの下床版12と、上床版11と下床版12とを連結しウェブとして機能する鋼部材13と、で主要部が構成されている。
【0030】
上記上床版11は、橋桁2の軸線方向に連続しており、この上に路面が形成されるもので、軸線方向及びこれと直角方向にPC鋼材(図示しない)が配置されている。そして、これらのPC鋼材を緊張し、コンクリートに定着することによってプレストレスが導入されている。これにより、橋桁に負の曲げモーメントが作用したとき、及び上床版11上に車両等の荷重が作用したときに、有害なひび割れ等が生じないようになっている。一方、下床版12にも橋桁の軸線方向にプレストレスが導入され、正の曲げモーメントに基づく引張応力に対抗し得るものとなっている。
【0031】
また、コンクリート部材外であって箱型となった桁断面の内側に、橋桁2の軸線方向の緊張材を配置し、この緊張材の張力によって上床版11及び下床版12のコンクリートにプレストレスを導入することもできる。
【0032】
上記鋼部材13は、図4に示すように鋼平板からなり、該鋼平板の面が橋桁の軸線と平行に配置されて上床版11と下床版12とを接合し、ウェブとして機能するものである。
この鋼平板は、橋桁2の軸線方向に所定の長さに分割されており、複数が橋桁2の軸線方向に配列されている。分割されたそれぞれの鋼部材13は、上縁と下縁との中間位置で幅が最も小さく、上縁又は下縁に近づくに従って幅が直線的に拡大された形状となっている。そして、上縁付近と下縁付近とは幅が矩形状に拡大され、複数の貫通孔21が設けられており、この部分が上床版及び下床版のコンクリートに埋め込んで接合する埋め込み部13a,13bとなっている。また、鋼部材13の箱桁断面の内側となる面の一方の対角線上には、コンクリートリブ22が設けられており、この方向に作用する圧縮力の一部を負担するようになっている。
【0033】
上記鋼部材13の貫通孔21には、図5に示すように、円柱状に形成されたずれ止め部材23が挿通され、両端が鋼部材13の両側に突き出している。そして、図6に示すように上床版11及び下床版12のコンクリートは、鋼部材13の上側の埋め込み部13a及び下側の埋め込み部13bを、貫通孔21に挿通されたずれ止め部材23とともに埋め込むように打設されている。これにより、上床版11、鋼部材13及び下床版12が一体となっている。
【0034】
上記ずれ止め部材23は、円柱状となっており工場等で予め形成されるものである。そして、上床版11及び下床版12を形成するために使用されるコンクリートよりも高強度のコンクリート又はモルタル等で形成される。本実施の形態では、床版のコンクリートの設計基準強度が40N/mm2であるので、ずれ止め部材23は、40N/mm2 以上の強度を有するように設計される。
例えば、高強度コンクリート又は高強度モルタルで形成されたもの、高強度コンクリート又は高強度モルタルに繊維状材料を混入した繊維補強コンクリート又は繊維補強モルタルにより形成されたものを使用することができる。また、繊維補強ずれ止め部材、高強度コンクリート又は高強度モルタル等により形成された円柱体の外周面に鋼による被覆層が形成されたものでもよい。さらに、これらのずれ止め部材に軸線方向のプレストレスが導入されたものであってもよい。
なお、これらのずれ止め部材23は、独立して1本ずつ製作することも可能であるが、軸線方向に長く形成されたものを所定の長さに切断して製作することができる。本実施の形態では、長さを約200mmとし、径を約50mmとしたが、これらの寸法は、ずれ止め部材を形成する材料、その強度、又は鋼部材13の厚さ等を考慮して定めるのが望ましい。
【0035】
上記高強度コンクリート又は高強度モルタルで形成されたずれ止め部材23は、床版に使用されるコンクリートよりも高強度のコンクリート又はモルタルで形成され、床版コンクリートよりも圧縮強度と引張強度が高くなっている。例えば、床版コンクリートの設計基準強度が40N/mm2 であるときに、ずれ止め部材23は圧縮強度が120N/mm2 となるように形成することができる。
【0036】
上記繊維補強された高強度コンクリート又は高強度モルタルのずれ止め部材23は、炭素繊維、鋼繊維、アラミド繊維、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン繊維、又はビニロン繊維などの繊維状材料を高強度コンクリート又は高強度モルタルに混入して形成されたものである。
繊維状材料の繊維はランダムに混入されてもよいが、繊維の向き(繊維の配向)をずれ止め部材の軸線方向に沿わせるように混入するのが望ましい。これにより、鋼部材13の面に対して繊維の配向を直角にすることができ、繊維がランダムに混入されたコンクリート又はモルタルからなるずれ止め部材よりもせん断耐力を増強することができる。繊維の向きをずれ止め部材の軸線方向に沿わせる方法としては、ずれ止め部材の軸線方向に圧力を負荷しながら筒状の型枠に繊維を混入したコンクリート又はモルタルを流し込む方法を採用することができる。
繊維補強されたずれ止め部材23の圧縮強度は、例えば200N/mm2 とすることができる。
【0037】
上記鋼被覆を有するずれ止め部材23は、円柱状となった高強度モルタルや繊維補強コンクリート等の外周面に鋼の被覆層を有するものであり、円筒状に形成された鋼管の内部に高強度モルタル等を隙間なく充填して形成することができる。
例えば、鋼管内に設計強度120N/mm2 の高強度モルタルを充填したものを採用することができる。
このようなずれ止め部材23は、鋼被覆層によって高強度モルタル等の変形が拘束され、さらに高強度で破壊までの塑性変形が大きな部材となる。
【0038】
上記プレストレストが導入されたずれ止め部材23は、上記高強度コンクリート等で形成された円筒状部材の軸線方向に、異形PC鋼材または異形繊維強化プラスティック(異形FRP)などの緊張材でプレストレスが導入されたものである。このずれ止め部材23では、軸線方向のプレストレスによりせん断強度が増大する。
なお、このずれ止め部材23は、いわゆるプレテンション方式でプレストレスを導入することができる。つまり、円筒状の型枠内に挿通した緊張材を予め緊張した後、鋼強度コンクリート等を型枠内に隙間なく充填して硬化させる。また、鋼被覆を有するものでは、鋼管内に緊張材を挿通し、緊張力を導入した後に高強度コンクリート等を鋼管内に充填して製作することができる。プレテンション方式を採用したときのコンクリートやモルタル等には割裂等が生じやすくなるが、外周面を鋼管で被覆することによりコンクリート又はモルタルの割裂を防止してプレストレスを導入することが可能となる。
【0039】
緊張材として使用する上記アラミドロッドは、例えば直径3mmのアラミド繊維製棒材の表面に棒材とは別のアラミド繊維を巻き付けて表面に凹凸を設けたものを、1本又は複数本使用することができる。ずれ止め部材23は、本実施の形態では長さ約200mmに形成されるので、緊張材のモルタル等への付着長が十分ではなく緊張力が導入されにくい場合も想定されるが、アラミドロッドの径を細くすることにより付着長を短くしてずれ止め部材23にプレストレスを導入することができる。
【0040】
上記鋼部材13の内側面に形成されたコンクリートリブ22は、図4に示すように、鋼平板の内側の一方の対角線に沿って植設された複数のスタッドジベル24を埋め込むように打設したコンクリートで形成されたものである。コンクリートは、鋼平板に密接して打設されており、斜め方向の柱状となっている。
【0041】
このように形成された上記鋼部材13の埋め込み部13a,13bは、図6に示すように、貫通孔21に挿通されたずれ止め部材23とともに上床版11及び下床版12を形成するコンクリート中に埋め込まれ、一体となる。これにより、橋桁2の軸線とほぼ平行に配列された複数の鋼部材13と上床版11と下床版12とが箱状の断面を有する橋桁となる。
このような橋桁2に曲げモーメント及びせん断力が作用したときには、鋼部材13と床版11,12との接合部でずれようとする力が発生するが、鋼部材13に設けられた貫通孔21の内周面からずれ止め部材23に支圧力として力が伝達され、さらにずれ止め部材23から上床版11又は下床版12のコンクリートに伝達される。そして、大きな支圧力が作用するずれ止め部材23が高い強度を有することによって、床版11,12と鋼部材とのずれが抑制され一体となって抵抗するものとなる。
【0042】
また、このような橋桁2では、上記鋼部材13を構成する鋼平板は上下方向の中位部分で幅が狭く、蝶型となっているので、配列された鋼部材13間でほぼ菱形の開口16ができる。しかし、せん断力に対しては、図3に示すように、それぞれの鋼部材13内に作用する斜め方向の引張力Aと、これに交差する方向の圧縮力Bによって抵抗し得るものとなる。そして、斜め方向の圧縮力Bは、コンクリートリブ22によって一部が分担されるとともに、この圧縮力Bによる鋼平板の座屈は、コンクリートリブ22によって防止される。
【0043】
また、ウェブとなる鋼部材13は、橋桁2の軸線方向に分割され、上床版11又は下床版12の軸線方向の変形を拘束することが少なくなっている。したがって、上床版11又は下床版12には、少ない緊張材で有効にプレストレスを導入することができる。
【0044】
次に、上記橋桁2の構築方法の一例について説明する。
まず、図3に示すように、橋脚1上にコンクリートの横桁2aを含む柱頭部2bを形成し、橋脚1に仮固定する。そして、両側へ片持ち状態で張り出すように所定長の桁を順次増設してゆく。
一回に増設する長さは、橋桁の軸線方向に上記鋼部材13を配置する間隔と同じに設定し、この長さのプレキャストセグメント2cをあらかじめ形成しておき、これを順次接合する。
【0045】
上記プレキャストセグメント2cは、図7に示すように、橋桁の軸線方向に所定長さの上床版11と下床版12と一対の鋼部材13とで構成されている。
鋼部材13は工場等で製作するものであり、一方の対角線に沿って溶接された複数のスタッドジベル24を埋め込むようにコンクリートを打設し、鋼平板と密接した斜め方向の柱状のコンクリートリブ22を形成しておく。
一方、予め製作されたずれ止め部材23を上縁付近の埋め込み部13a及び下縁付近の埋め込み部13bに開削された貫通孔21に挿通する。このとき、ずれ止め部材23の径は、上記埋め込み部13a,13bに開削された貫通孔21の内径とほぼ同じ又はわずかに小さく形成されており、嵌め入れるように挿通する。このときエポキシ樹脂等の流動性を備えて後に硬化する充填材をずれ止め部材23の外周面に塗布した状態で貫通孔21に挿通するのが望ましい。これにより、ずれ止め部材23と貫通孔21の内周面との間に充填材が充填される。充填材は、ずれ止め部材23を貫通孔21に挿通した後、ずれ止め部材23と貫通孔21の内周面との隙間に充填してもよい。
なお、充填材は、硬化したときにずれ止め部材23よりも弾性係数の低い材料を用いるのが望ましい。
【0046】
このように、床版を形成するコンクリート11,12が埋め込み部13a,13bを埋め込むように打設される前にずれ止め部材23を貫通孔21に挿通し、ずれ止め部材23と貫通孔21との間の隙間が生じないように装着することができる。したがって、貫通孔21の内周面からずれ止め部材23に支圧力が確実に作用する状態としてコンクリート中に埋め込むことができる。
【0047】
ずれ止め部材23を装着した後、ずれ止め部材23の鋼部材13から突き出した両端部23aに固定具を取り付け、ずれ止め部材23が貫通孔21に対して直角に挿通された状態を維持する。
上記固定具は、図8に示すように、棒鋼を螺旋状に曲げ加工した螺旋状部材25や、ずれ止め部材23の外側に嵌め合わされるリング状部材26等を使用することができる。
上記螺旋状部材25は、螺旋状となった棒鋼の一方の端部を埋め込み部13a,13bの貫通孔21の周囲に当接するとともに、螺旋状となった部分がずれ止め部材23の外側に巻き回し、他方の端部をずれ止め部材23に巻き付けて固定する。これにより、貫通孔21に挿通された状態でずれ止め部材23を支持することができ、ずれ止め部材23を貫通孔21に挿通した後、床版のコンクリートを打設して硬化するまでの間、ずれ止め部材23が貫通孔21から抜け出したり、脱落したりするのを防止するものとなっている。
また、螺旋状部材25がずれ止め部材23の外周面に巻き回されることにより、ずれ止め部材23の周囲に打設されたコンクリートを補強することができ、ずれ止め部材23の周囲のコンクリートにひび割れが生じるのを抑制することが可能となる。
【0048】
一方、上記リング状部材26は、鋼、モルタル、コンクリート又は繊維補強コンクリート等で形成し、図8(b)に示すように、ずれ止め部材23の埋め込み部13aから突出した部分23aの外周面に密着するように嵌め合わす。そして、一方の端面は埋め込み部13aに設けられた貫通孔の周囲に当接するように装着する。また、ずれ止め部材23とリング状部材26の内面との間に隙間が生じるのを防止するために、ずれ止め部材23の外周面に充填材を塗布し、リング状部材26がずれ止め部材23の外周面に密接するように装着する。
このように、リング状部材26は、ずれ止め部材23の鋼部材13からの脱落等を防止するとともに、ずれ止め部材23のコンクリートに対する支圧面が拡張され、コンクリートに作用する応力を緩和することができる。
【0049】
上記ずれ止め部材23が埋め込み部13a,13bの貫通孔21に挿通された2枚の鋼部材13は、橋桁2の幅方向に所定の間隔をあけて配置し、下縁付近の埋め込み部13bをずれ止め部材23とともに埋め込むように下床版12を形成するコンクリートを打設する。また、ずれ止め部材23が装着された上縁付近の埋め込み部13aを埋め込むように上床版11を形成するコンクリートを打設する。これにより、鋼部材13は上床版11と下床版12とに接合されて一体となったプレキャストセグメント2cが形成される。
なお、上床版11又は下床版12には、緊張材を挿通するダクト(図示しない)を設けておく。
【0050】
このように一体となったプレキャストセグメント2cをクレーン等で吊り上げて、片持ち状となった架設中の橋桁先端に支持し、上記ダクトに挿通される緊張材によって、既に片持ち状に連結されたセグメントと緊結する。このようなセグメントの接合を順次に繰り返し、両側へバランスを維持しながら橋桁2を張り出すように形成する。
【0051】
次に、本発明を適用した橋桁の他の例を、図9に基づいて説明する。
この橋桁3は、図9(b)に示すようにウェブとして波形に曲げ加工された鋼板を用い、この波形鋼ウェブ30とコンクリートの上床版14及び下床版15とを結合して断面を箱形としたものである。
上記波形鋼ウェブ30は、図9(a)に示すように、構造用鋼板を鉛直方向の折り曲げ線によって折り曲げ、平断面の形状が波形となるように加工された本体部31がウェブとして機能するものである。そして、この本体部31は橋桁3の軸線方向に連続しており、上辺及び下辺に沿って上フランジ32及び下フランジ33がほぼ直角に添設されている。また、上フランジ32の上面及び下フランジ33の下面には、上側の孔開きプレート34及び下側の孔開きプレート35がほぼ直角に溶接されている。
【0052】
孔開きプレート34,35は、橋桁3の軸線方向に連続するものであり、それぞれには複数の貫通孔37が軸線方向に所定の間隔で開削されている。これらの貫通孔37には、図1から図4までに示す橋桁2で用いられたものと同様のずれ止め部材36が貫通孔37の内周面と密着又は充填材を介して密着するように挿通されている。そして、上床版14及び下床版15を形成するコンクリートが上フランジ32又は下フランジ33に密接し、上側の孔開きプレート34又は下側の孔開きプレート35をずれ止め部材36とともに埋め込むように打設される。これにより、上床版14、鋼部材である波形鋼ウェブ30及び下床版15が一体となって橋桁3として機能するものである。
なお、ずれ止め部材36、上床版14及び下床版15は、蝶型の鋼平板をウェブとして用いる上記橋桁2と同様であるので、説明を省略する。
【0053】
上記波形鋼ウェブ30を用いた橋桁3は、所定の長さに分割した複数のセグメントを工場等で製作し、現場でこれらを接合して架設するものであっても良いし、波形鋼ウェブ30を橋桁3の架設位置に設置した後、上床版14及び下床版15のコンクリートを現場で打設するものであっても良い。
また、図1等に示す蝶型の鋼部材をウェブとして用いた橋桁2も、予め製作されたセグメント2cを接合して架設するものに限定されるものではなく、現場で上床版11及び下床版12のコンクリートを打設するものであってもよい。
さらに、本発明に係る接合構造が適用される橋桁は鋼ウェブとコンクリートの上床版及び下床版とで箱形の断面を有するものに限定されず、鋼ウェブと上床版とが接合されたものであってもよいし、鋼ウェブが軸線方向に連続した平板で形成される鋼ガーダーであっても良い。また、架設方法も片持ち施工されるものに限定されず、支保工上で製作される橋桁、押し出し工法で架設される橋桁等、様々の工法で架設される橋桁に適用することができる。
【0054】
一方、以上に説明した実施の形態は、鋼ウェブとコンクリートの床版とで構成される橋桁に関するものであったが、本発明は、鋼部材とコンクリート部材とを一体となるように接合した構造物に広く採用することができる。例えば、斜張橋における斜張ケーブルを主塔に定着する部分に鋼構造を採用した場合の鋼部分と主塔を構成するコンクリートの接合等に採用することもできる。
【0055】
次に、本発明の効果を確認するために行った実験について説明する。
図10は、この実験に用いた供試体40を示す図である。
供試体40は、鋼部材41と、この鋼部材41を両側から挟み込むように設けられた2つのコンクリートブロック42と、で主要部が構成されている。
上記鋼部材41は、所定の長さに切断したH形鋼の2つのフランジ41aに、H形鋼の軸線方向に連続したプレート43をフランジ面とほぼ直角に溶接したものである。この鋼部材41の軸線方向をほぼ鉛直として両フランジ41aに密接するとともにプレート43を埋め込むようにコンクリートを打設して2つのコンクリートブロック42を一体に形成する。
【0056】
コンクリートブロック42は鋼部材を構成するH形鋼の下端より下方に突出するように形成しておき、2つのコンクリートブロック42で試験台の上に支持して鋼部材41に鉛直方向の荷重Pを作用させる。これにより鋼部材41とコンクリートブロック42との間にせん断力を作用させ、鋼部材41の変位量を測定した。
なお、鋼部材41に接合されたプレート43の下側端面には、柔軟に変形する発泡樹脂のブロック45が接触するように配置されており、プレート43の下側端面に作用する支圧力で鋼部材41の変位が拘束されないようにしている。
【0057】
上記供試体40のコンクリートブロック42と鋼部材41との接合構造は、次に示すように、本発明の実施の形態であるずれ止め部材44を用いた接合の他、比較例として従来のスタッドジベルを用いた接合及び異形鉄筋を挿通した孔開きプレートをコンクリートに埋め込んだ供試体について実験を行った。なお、コンクリートブロック42を形成するコンクリートの設計強度は40N/mm2 とする。
【0058】
実験に使用した供試体は次の通りである。
供試体1:従来のスタッドジベルを用いて接合したものである。H形鋼のフランジ41aに溶接接合したプレート43の両面にスタッドジベルを1本ずつ溶接する。そして、H形鋼のフランジ41aに密接させて打設したコンクリートブロック42にプレート43をスタッドジベルとともに埋め込んだものである。スタッドジベルは、軸径が16mm、高さが100mmとしている。
【0059】
供試体2:従来の孔開きプレートを用いて接合したものである。H形鋼のフランジ41aに溶接接合したプレート43に貫通孔を設け、この貫通孔に異形鉄筋を挿通する。そして、H形鋼のフランジ41aに密接してコンクリートを打設し、異形鉄筋及び孔開きプレート43を埋め込むようにコンクリートブロック42を形成したものである。貫通孔の内径は50mmとし、異形鋼棒は、径が10mmのものを使用した。
【0060】
供試体3:本発明の実施の形態であり、ずれ止め部材44を高強度モルタルで形成したものである。図10に示すように、H形鋼のフランジ41aに溶接接合したプレート43に貫通孔を設け、この貫通孔に高強度モルタルで形成されたずれ止め部材44を挿通し、両端部を突出させる。ずれ止め部材44の外周面にはエポキシ樹脂を塗布しておき、貫通孔の内周面とずれ止め部材44の外周面との間隙にエポキシ樹脂が充填されたものとする。このずれ止め部材44をプレート43ともにコンクリートブロック42に埋設する。なお、貫通孔の内径は50mmとし、ずれ止め部材44はこの貫通孔にできるだけ小さな間隙で嵌め入れることが可能な寸法とする。また、このずれ止め部材44は圧縮強度が120N/mm2 の高強度モルタルで形成している。
【0061】
供試体4:本発明の実施の形態であり、ずれ止め部材を高強度繊維補強コンクリートで形成したものである。このずれ止め部材44は、供試体3と同様にプレート43に設けられた貫通孔に挿通してコンクリートブロック42に埋め込むものであり、貫通孔の内径及びずれ止め部材44の径は供試体3と同じにしている。このずれ止め部材44の圧縮強度は200N/mm2 であり、高強度繊維補強コンクリートとしてサクセム(登録商標、商標権者:鹿島建設株式会社、電気化学工業株式会社)を使用した。
【0062】
供試体5:本発明の実施の形態であり、ずれ止め部材44として鋼管内に高強度モルタルを充填したものを用いている。ずれ止め部材44の外径及び貫通孔の内径は供試体3及び供試体4と同じである。鋼管は厚さが2mmのものを用い、充填する高強度モルタルの圧縮強度は120N/mm2 である。
【0063】
上記の供試体を使用して行った実験の結果を、図11に基づいて説明する。
図11(a)は、各供試体に鉛直荷重を負荷したときに鋼部材41とコンクリートブロック42との間に作用するせん断力と、鋼部材41のコンクリートブロック42に対するずれ変位量との関係を示す図である。また、図11(b)は、図11(a)から求められた各供試体のせん断耐力を示す図表である。
これらの図が示すように、従来の接合構造とした供試体1(スタッドジベルを使用)及び供試体2(孔あき鋼板に異形鉄筋を挿通)のせん断耐力は、ともに約200kNであったが、本発明の実施形態である供試体3(高強度モルタルのずれ止め部材を使用)、供試体4(高強度繊維補強コンクリートのずれ止め部材を使用)及び供試体5(鋼管に高強度モルタルを充填したずれ止め部材を使用)のせん断耐力は、それぞれ約230kN、330kN及び360kNであり、従来技術である供試体1及び供試体2よりも大きなせん断耐力を有することが分かる。
【0064】
また、1000kNのせん断耐力を備えた接合とするためには、従来技術である供試体1ではスタッドジベルの数が5組(10本)、供試体2では貫通孔46及び挿通する異型鉄筋が5組必要であるが、本実施の形態に係る供試体3は、貫通孔及びずれ止め部材が4.3組、供試体4は3組、供試体5は2.8組のずれ止め部材と貫通孔とを設ければよいことが分かる。
【符号の説明】
【0065】
1:橋脚、 2、3:橋桁、 11:上床版、 12:下床版、 13:鋼部材、 13a:上側の埋め込み部、 13b:下側の埋め込み部、 14:上床版、 15:下床版、 16:開口、
21:埋め込み部に設けられた貫通孔、 22:コンクリートリブ、 23:ずれ止め部材、 24:スタッドジベル、 25:螺旋状部材、 26:リング状部材、
30:波形鋼ウェブ、 31:本体部、 32:上フランジ、 33:下フランジ 34:上側の孔開きプレート、 35:下側の孔開きプレート、 36:ずれ止め部材、 37:貫通孔、
40:供試体、 41:鋼部材、 41a:H形鋼のフランジ、 42:コンクリートブロック、 43:孔開きプレート、 44:ずれ止め部材、 45:発泡樹脂のブロック、
100,110、120:波形鋼板ウェブ、 101、111、121:フランジプレート、 102:スタッドジベル、 112,122:孔開きプレート、 113、123:孔開きプレートに開削された孔、 124:せん断補強筋、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼部材とコンクリート部材との接合構造であって、
前記鋼部材は複数の貫通孔が厚さ方向に形成された板状の部材を備え、
前記コンクリート部材より圧縮強度及び引張強度が大きいコンクリート又はモルタルで形成されたずれ止め部材が、前記板状の部材の面と平行な方向の力が前記鋼部材から伝達されるように前記貫通孔のそれぞれに嵌め入れられ、前記鋼部材から両側へ突き出しており、
前記ずれ止め部材及び前記鋼部材の該ずれ止め部材が嵌め入れられた部分を埋め込むようにコンクリートが打設されていることを特徴とする鋼部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項2】
前記ずれ止め部材は、前記貫通孔の内周面と接触又はわずかの隙間を有するように嵌め入れられ、
前記貫通孔の内周面と該貫通孔に挿通された前記ずれ止め部材との隙間には、硬化したときの弾性係数が前記ずれ止め部材よりも小さい充填材が充填されていることを特徴とする請求項1に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項3】
前記ずれ止め部材を形成するコンクリート又はモルタルは、繊維状材料を混入した繊維補強コンクリート又は繊維補強モルタルであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項4】
前記ずれ止め部材のコンクリート又はモルタルには、軸線方向のプレストレスが導入されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項5】
前記ずれ止め部材は、該ずれ止め部材を形成するコンクリート又はモルタルの外周面に鋼による被覆層を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項6】
コンクリート部材を構成するコンクリートが硬化するまで前記ずれ止め部材を前記貫通孔に挿通した状態に維持する固定具が、前記ずれ止め部材の前記貫通孔から突き出した部分に固定され、前記鋼部材の前記貫通孔の周辺部に当接するように装着されていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項7】
前記固定具は、螺旋状に加工された鋼線であることを特徴とする請求項6に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項8】
前記固定具は、前記ずれ止め部材の前記鋼部材から突き出した部分に装着されたリング状部材であることを特徴とする請求項6に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項9】
鋼部材とコンクリート部材との接合方法であって、
前記鋼部材は厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された鋼板を備え、
該鋼部材を所定の位置に配置し、
あらかじめコンクリート又はモルタルで製作されたずれ止め部材を、前記貫通孔の内周面と接触又はわずかの隙間を有するように該貫通孔に挿通し、該貫通孔の内周面と該ずれ止め部材の外周面との隙間には硬化する充填材を充填した状態で該ずれ止め部材を支持し、
前記ずれ止め部材及び前記鋼部材の該ずれ止め部材が挿通された部分を埋め込むようにコンクリートを打設することを特徴とする鋼部材とコンクリート部材との接合方法。
【請求項1】
鋼部材とコンクリート部材との接合構造であって、
前記鋼部材は複数の貫通孔が厚さ方向に形成された板状の部材を備え、
前記コンクリート部材より圧縮強度及び引張強度が大きいコンクリート又はモルタルで形成されたずれ止め部材が、前記板状の部材の面と平行な方向の力が前記鋼部材から伝達されるように前記貫通孔のそれぞれに嵌め入れられ、前記鋼部材から両側へ突き出しており、
前記ずれ止め部材及び前記鋼部材の該ずれ止め部材が嵌め入れられた部分を埋め込むようにコンクリートが打設されていることを特徴とする鋼部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項2】
前記ずれ止め部材は、前記貫通孔の内周面と接触又はわずかの隙間を有するように嵌め入れられ、
前記貫通孔の内周面と該貫通孔に挿通された前記ずれ止め部材との隙間には、硬化したときの弾性係数が前記ずれ止め部材よりも小さい充填材が充填されていることを特徴とする請求項1に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項3】
前記ずれ止め部材を形成するコンクリート又はモルタルは、繊維状材料を混入した繊維補強コンクリート又は繊維補強モルタルであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項4】
前記ずれ止め部材のコンクリート又はモルタルには、軸線方向のプレストレスが導入されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項5】
前記ずれ止め部材は、該ずれ止め部材を形成するコンクリート又はモルタルの外周面に鋼による被覆層を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項6】
コンクリート部材を構成するコンクリートが硬化するまで前記ずれ止め部材を前記貫通孔に挿通した状態に維持する固定具が、前記ずれ止め部材の前記貫通孔から突き出した部分に固定され、前記鋼部材の前記貫通孔の周辺部に当接するように装着されていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項7】
前記固定具は、螺旋状に加工された鋼線であることを特徴とする請求項6に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項8】
前記固定具は、前記ずれ止め部材の前記鋼部材から突き出した部分に装着されたリング状部材であることを特徴とする請求項6に記載の鋼部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項9】
鋼部材とコンクリート部材との接合方法であって、
前記鋼部材は厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された鋼板を備え、
該鋼部材を所定の位置に配置し、
あらかじめコンクリート又はモルタルで製作されたずれ止め部材を、前記貫通孔の内周面と接触又はわずかの隙間を有するように該貫通孔に挿通し、該貫通孔の内周面と該ずれ止め部材の外周面との隙間には硬化する充填材を充填した状態で該ずれ止め部材を支持し、
前記ずれ止め部材及び前記鋼部材の該ずれ止め部材が挿通された部分を埋め込むようにコンクリートを打設することを特徴とする鋼部材とコンクリート部材との接合方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−190608(P2011−190608A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57598(P2010−57598)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【Fターム(参考)】
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