説明

錠剤の粉砕方法およびこれをもちいた錠剤成分の分析方法

【課題】 医薬品製剤の品質評価試験等において、通常の方法では溶媒に溶解あるいは分散しにくく、試験の精度が低下しやすい錠剤に含まれる各種成分を溶媒中に均一に溶解または分散させるための粉砕方法を提供する。
【解決手段】 錠剤、溶媒及びビーズを含む容器に容器を振とうさせるなどの方法を行って物理的衝撃を加え、錠剤とビーズを物理的に接触させることによる錠剤の粉砕方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤に含まれる各種成分を溶媒中に均一に溶解または分散させるための粉砕方法に関する。具体的には、例えば医薬品製剤の品質評価試験等において、通常の方法では溶媒に溶解あるいは分散しにくく、試験の精度が低下しやすい錠剤(例えば超高圧下で成型した素錠やフィルムコート錠等の錠剤)において、ビーズを作用させることによって効率的に錠剤を崩壊させ、錠剤中の成分を変質させることなく、かつ均一に溶解または分散することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や健康食品などにおいては、経口的な服用を容易にするため、少量の主成分を賦形剤など複数の成分を用いて超高圧下で成型した素錠のほか、主成分の味のマスキングや、安定性を向上させることなどを目的に、素錠表面を糖類で被覆した糖衣錠や、ポリマーなどにより被覆コーティングしたフィルムコート錠等の各種錠剤が広く使われている。
このような錠剤(例えば、素錠、糖衣錠、フィルムコート錠等)の品質評価試験においては、錠剤中に含まれる主成分の含有量や主成分が変化して生成した類縁物質及び錠剤中の水分等の測定を実施することが一般的であり、それらの測定に際しては、通常、溶媒等に錠剤を溶解あるいは分散させた液(以下、一律して「試料溶液」と称す)を調製する。その際、試料溶液が不均一であったり、変質した場合には、測定結果に悪影響を及ぼすことから、各種測定において適切な試料溶液の調製方法を設定する必要がある。
試料溶液の調製方法には、一般的に、以下に示す湿式法と乾式法のいずれかが採用されている。「湿式法」とは、測定前に容器に錠剤をとり、溶媒を加えた後、均一な試料溶液を調製する方法である。錠剤が容易に崩壊せず、均一な試料溶液を調製できない場合、溶媒を加えた後に超音波を照射するかもしくはタッチミキサーや振とう器などにより振動を与えて錠剤を崩壊させ、溶解又は分散させ、試料溶液を調製する。
一方、湿式法での調製が困難な場合、乾式法を採用する。「乾式法」とは、溶媒を加える前に錠剤をあらかじめ乳鉢などで磨りつぶす方法や、試料粉砕機を用い、容器に錠剤と粉砕用のハンマーを入れて振動させて粉砕させ、その粉砕物を溶媒に溶解又は分散させて試料溶液を調製する方法である。
【0003】
ところで、錠剤以外の粉砕技術において、微生物を破砕して核酸などの成分を抽出するための細胞破砕処理法として、特許文献1において、界面活性剤及びフェノール/クロロホルム混液中でジルコニウム、ジルコニア等の0.2〜5mm径ビーズを用い、毎分数千回転で約1分間回転させることで物理的に細胞を破壊する方法が開示されている。また、薬剤物質の連続粉砕方法として、特許文献2において、薬品及びポリマー樹脂製の硬質ビーズ(平均粒子径1000μm以下)を粉砕室に連続的に導入し、粉砕室中の回転体を高速で回転(毎分数千回転)させながら約1時間循環させることで、試料を粉砕する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2006−141292公報
【特許文献2】特開平7−530317公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
錠剤のような医薬品等を分析評価するには、錠剤の成分や物性、表面皮膜の有無などによらず、錠剤中の成分を熱、圧力等の物理的な要因や化学的な要因で変質させることなく、かつ均一な試料溶液を調製できる手法が要求される。しかしながら、前述した一般的に錠剤で用いられる湿式法では、錠剤が溶液中で完全に崩壊せず、均一にならないこともある。そのような場合、錠剤中の測定対象の成分を完全に溶媒に抽出することができず、正確に測定することができない。また、長時間処理して(数時間を要することもある)溶液中で崩壊したとしても、非効率である以外に、長時間の処理により、試料または溶媒そのものが変質する可能性がある。一方、乾式法では、錠剤中に吸湿する成分が含まれる場合、水分等が正確に測定できない問題がある他、吸湿等により試料が変質する可能性がある。さらに、乾式法では、一般的に粉砕機や乳鉢を使用するが、残存した別の試料が混入する可能性がある他、粉砕時の圧力や熱によって、試料が変質(化合物物性の変化、結晶多型の生成、類縁物質の増加等)する可能性がある。
このように、従来の湿式法及び乾式法では、種々の問題が起こり得ることがあるため、錠剤の成分や物性、表面皮膜の有無などによらず、錠剤中の成分を熱、圧力等の物理的な要因や化学的な要因で変質させることなく、かつ均一な試料溶液を簡便に調製できる手法が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、これまで、細胞や薬物原末等の非常に微細な試料に対して粉砕化のために用いられていたビーズに着目した。従来、これらビーズはビーズに比して非常に微細なもの、あるいは比較的やわらかい試料の粉砕に用いられていたが、錠剤のようにビーズより大きく且つ比較的硬いものに用いるという着想は従来知られていなかった。本発明者は、ビーズに比して大きく、また試料として硬い錠剤に直接溶媒(水を含む)と市販のジルコニアビーズを容器内に加え、振とう器を用いて攪拌することによって、意外にも上記の課題を解決することが可能となることを見出し、発明を完成させるに至った。
【0006】
項1:錠剤、溶媒及びビーズを含む容器に物理的衝撃を加え、錠剤とビーズを物理的に接触させることによる錠剤の粉砕方法。
項2:該ビーズの径が、錠剤の長径に対して、0.05〜1の割合である項1に記載の錠剤粉砕方法。
項3:錠剤1重量部に対して、ビーズが2〜200重量部の割合で配合される項1または2に記載の錠剤粉砕方法。
項4:錠剤1重量部に対して、溶媒が10〜500容量部の割合で配合される項1〜3のいずれかに記載の錠剤粉砕方法。
項5:容器の全容量に対して、溶媒が1/10〜1/2容量の割合で配合される項1〜4のいずれかに記載の錠剤粉砕方法。
項6:物理的衝撃が、容器を振とうさせる方法または容器を超音波処理する方法である項1〜5のいずれかに記載の錠剤粉砕方法。
項7:物理的衝撃が、振とう方向の容器の長さ(L)に対して0.2〜4程度の割合の振とう距離(D)で毎分80回以上振とうさせる方法である項6に記載の錠剤粉砕方法。
項8:振とう方向が、設置面に対し、垂直、水平又は傾斜のある方向で直線状若しくは曲線状である項7に記載の錠剤粉砕方法。
項9:項1〜8のいずれかの方法を用いる錠剤に含まれる成分の分析方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、錠剤のような医薬品等を分析評価する際、被検物質となる錠剤の成分や物性、表面皮膜の有無などによらず、均一な試料溶液を簡便に調製できる。さらに、物理的衝撃方法として、振とう方法を採用すれば、ビーズ及び試料振とう時の摩擦による圧力や熱が発生しにくく、試料中の成分や溶媒を変質させにくいという大きな利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明における「錠剤」とは、特に限定されず、例えば、素錠、糖衣錠、フィルムコーティング錠、口腔内崩壊錠等が例示できる。さらに、その錠剤の大きさも円形であれば、通常の大きさ、例えば、直径(長径)5〜11mm程度、さらに楕円形であれば、長径22mm程度までのものであれば特に限定されない。また、錠剤の形状としても、特に限定されず、円形錠、平錠、丸錠、R錠、楕円錠、割線入り錠剤など例示される。本発明における「錠剤の長径」とは、錠剤の投影像に接する長方形の最も長くなる辺を意味するものとする。
【0009】
本発明で使用する「ビーズ」とは、その材質も特に限定されず、溶媒に対する耐性があり、錠剤を粉砕するのに必要な硬さを有していれば、いずれのビーズも使用することができる。例えば、その材質としては、ガラス、ジルコニア、ステンレス、プラスチック、砂、ケイ酸塩等のものを使用することができるが、好ましくは、ガラス、ジルコニア、ステンレスである。また、その形状は特に限定されず、球状、オブロング状、突起の付いた球状、錐体上、直方体状等あげられるが、粉砕効率の点で球状もしくは球状に近い塊状のものがよい。
【0010】
ビーズの硬度においても、錠剤を粉砕するのに必要な硬さを有していればよいが、具体的には、500kg/mm程度以上のものが好ましい。混合する容器がガラス製である場合、安全性を考慮し、硬度が500〜1200kg/mm程度であるガラスもしくはジルコニアビーズを用いることが好ましい。さらに、ビーズの密度が2g/cm程度以上であるものが好ましく、ガラスに比べ密度の大きいジルコニアを用いる方が、振とう操作での粉砕力が大きく、効率的に粉砕することが可能である。
【0011】
ビーズの径に関しては特に限定されないが、錠剤の長径に対して、0.05〜1程度の径、好ましくは、0.08〜1程度の径を有するビーズを用いることが好ましい。ここにおいて、「ビーズの径」とは、投影像に接する長方形の最も長くなる辺を意味し、その形状は特に限定されず、球状、オブロング状、突起の付いた球状、錐体上、直方体状等あげられるが、球状もしくは球状に近い塊状のものがよい。
ビーズの配合量としては、錠剤1重量部に対して、ビーズを2〜200重量部、好ましくは、2〜25重量部程度がよい。
【0012】
本発明で使用する「容器」は、材質に制約を受けるものではなく、ビーズ等の衝撃及び使用する溶媒に耐えうるものであればよく、用途に応じてガラスの他、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリプロピレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、フッ化エチレンプロピレン、エチレンテトラフルオロエチレン、ポリサルフォン、ポリカーボネートといった樹脂でも可能である。また、容器の形状としては、丸底、平底、スピッチ(先端が細くなった形状)等が使用でき、好ましくは丸底がよい。
【0013】
本発明で使用する「溶媒」は、錠剤中の試料及び容器に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されず、例えば、水、有機溶媒(メタノール、アセトニトリル、クロロホルムなど)を用いることが可能であり、錠剤中の成分や分析の目的に応じて適宜選択することができる。これら溶媒を1種または2種以上混合して用いてもよい。例えば、水溶性の添加剤を多く含む錠剤で、有機溶媒で崩壊しにくい場合、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。錠剤に対する溶媒の使用割合は、通常、錠剤1重量部に対して溶媒10〜500容量部程度使用する。または、溶媒の量としては、容器の全容量に対して、溶媒が1/10〜1/2容量の割合で配合してもよい。
【0014】
錠剤を粉砕する方法としては、例えば、まず、容器に、錠剤、溶媒、ビーズを加える。加える順序は特に限定されず、例えば、錠剤を入れた容器に、ビーズおよび溶媒を添加後、混合する。
【0015】
その後、該容器に物理的衝撃を加える。錠剤とビーズを物理的に接触させる該方法としては、容器を振とうさせる方法、容器を超音波処理する方法等挙げられるが、本発明の方法によれば、容器を振とうさせる方法で、簡便に錠剤を粉砕することができる。
【0016】
該振とう方法としては、振とう器を用いる方法が例示でき、振とう器としては例えば、栓付のガラス等の容器を固定して振とうできる装置をあげることができる。その振とう条件は例えば、振とう方向の容器の長さに対して0.2〜4程度の振とう距離を、振とう方向としては、設置面に対して垂直、水平又は傾斜のある方向で直線状あるいは曲線状に、毎分80回以上振とうさせる。好ましくは、振とう方向の容器の長さに対して0.3〜0.4程度の振とう距離を、垂直方向で直線状に毎分250回以上振とうする。ここにおいて、振とう方向の容器の長さ(L)と振とう距離(D)と振とう方向との関係は図1に示すとおりである。左から、設置面に対して、垂直、水平、傾斜方向に振とうさせる図を示す。曲線状に容器を振とうする場合には、容器の長さ(L)はその動きによって、ビーズ等が容器内を移動する方向における長さとし、(D)は、その曲線の移動距離を示す(図1の最右図)。また、振とう回数は、往復で2回と定義する。また、振とう時間は特に限定されないが、本発明の方法によれば、崩壊時間の短縮化をはかることができる。例えば、ビーズを使用しなければ完全に崩壊させるのに60分以上かかる錠剤に対し、5〜30分程度で実施することが可能である。
【0017】
上記方法を実施することによって、容器内にて、錠剤が粉砕され、また錠剤中の試料が均等に溶解または分散することができる。得られた試料溶液を用いて錠剤中の成分を分析することができる。例えば、主薬、添加剤、水分、類縁物質、残留溶媒、重金属、微生物、異物等の分析を行うことができる。
【実施例】
【0018】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されない。
比較例1 従来の錠剤粉砕方法
主薬を5mg含有するフィルムコーティング錠(コーティング成分としてヒプロメロース、酸化チタン、マクロゴール、カルナウバロウを含む、直径が5.5mm、重量が62mgの円形錠、(以下、錠剤Aという))を用いて乾式法による錠剤粉砕を行った後、粉砕による吸湿性について測定した。乾式法による錠剤粉砕は、メノウ製乳鉢に、錠剤Aを5個入れ、メノウ製の乳棒で粉砕処理を約30秒間おこなった。
その後、錠剤A 1錠分の未粉砕品及び上記粉砕品を用い、温度25℃/60%RH中で0〜30分保存した場合の重量の変化を測定した。その結果を図2に示す。錠剤Aの場合、粉砕品の重量増加傾向は、未粉砕品に比して高く、最大で1%程度増加した。このような吸湿による重量の変化は、検体の採取精度や検体中の水分の測定精度を悪くする原因となる。
【0019】
実施例1及び2並びに比較例2及び3 本発明及び従来の錠剤粉砕方法
錠剤Aについて、本発明の方法及び従来の方法を用いて錠剤を粉砕した。使用したビーズは以下の三種類である。
・球状ジルコニアビーズ 粒径2mm(外径許容範囲±0.2mm)(硬度 約1200kg/mm、密度 約6.0g/cm
・球状ジルコニアビーズ 粒径3mm(外径許容範囲±0.3mm)(硬度 約1200kg/mm、密度 約6.0g/cm
・球状ジルコニアビーズ 粒径5mm(外径許容範囲±0.5mm)(硬度 約1200kg/mm、密度 約6.0g/cm
具体的には、50mL容の共栓付ガラス管(容器の振とう方向の長さ約12cm)に、錠剤A 約500mg(8錠)、及び各ビーズを4、8または12g添加し、次にメタノール20mLを加え、密閉後、振とう器(TAITEC社製型番SR−2W)を用いて、振とう距離40mmで振とう速度300回/分(実施例1)及び250回/分(実施例2)の条件で垂直方向に振とうし、錠剤が完全に崩壊するまでの振とう時間について評価した。なお、比較例としてビーズなしの状態でも評価した(比較例2及び3)。
結果を表1及び表2に示す。ビーズを加えない場合、錠剤は60分振とうしても完全に崩壊しなかったのに対し、ジルコニアビーズを用いることで、錠剤を完全に崩壊させることができ、また、振とう時間を短縮できることができた。
なお、粒径2mmのジルコニアビーズでは30分で完全に崩壊したが、粒径3mm及び5mmのジルコニアビーズでは10〜30分で完全に崩壊したことから、ビーズの粒径が大きいほど、効果が向上する傾向にあった。また、振とう速度が大きいほど効果が向上する傾向があった。さらに、振とう速度が300回/分の場合、粒径3mm及び5mmのジルコニアビーズについては4gに比べ8、12gのとき振とう時間が短縮したことから、使用量がある一定以上存在すると、効果が向上する傾向にあった。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
実施例3及び比較例4 本発明及び従来法による粉砕処理後の試料中の水分値の対比
従来の乾式法及び本発明の方法を用いて、錠剤Aを粉砕し、得られたそれぞれ試料溶液中水分値を比較した。
乾式法においては、錠剤A 約300mg(5錠)を比較例1に記載と同様にして乳鉢により粉砕し、その約0.2gを精密に量りとり、カールフィッシャー法(容量滴定)により水分の測定を実施した。また、本発明の方法として50mL容の共栓付ガラス管(容器の振とう方向の長さ約12cm)に錠剤A 約500mg(8錠)、及び実施例1に記載の粒径2mmのジルコニアビーズ4gを加え、メタノール20mLを加えた後、密閉後、振とう器(TAITEC社製型番SR−2W)を用いて振とうした。振とう条件は、振とう距離40mm、速度300回/分で垂直方向に40分間とし、水分の定量は、カールフィッシャー法(電量滴定)により実施した。その結果、本発明の錠剤粉砕法での水分値は5.3%であり、従来の乾式法で粉砕した場合の値は5.6%と、本発明の方法で粉砕し、分析した結果のほうが低くかったことから、調製時の吸湿の影響が改善されたものと考えられる。
【0023】
実施例4及び比較例5
主薬を40mg含有するフィルムコーティング錠(コーティング成分としてヒプロメロース、酸化チタン、マクロゴール、カルナウバロウを含む、直径が9mm、重量が約245mgの円形錠(以下、錠剤Bという)及びガラスビーズを用い、実施例1と同様の方法に従って、錠剤を粉砕した。使用したビーズは、以下の二種類である。
・球状ガラスビーズ 粒径1mm(外径許容範囲±0.2mm)(硬度 約690kg/mm、密度 約2.4g/cm
・球状ガラスビーズ 粒径2mm(外径許容範囲±0.2mm)(硬度 約690kg/mm、密度 約2.4g/cm
具体的には、50mL容の共栓付ガラス管(容器の振とう方向の長さ約12cm)に、錠剤B 約500mg(2錠)及び各ビーズ1、2または4gを添加し、メタノール20mLを加えた後、密閉し、振とう器(TAITEC社製型番SR−2W)を用いて、振とう距離40mmで振とう速度300回/分の条件で垂直方向に振とうし、錠剤が完全に崩壊するまでの振とう時間について評価した。なお、比較例としてビーズなしの状態でも評価した(比較例5)。
結果を表3に示す。ビーズを加えない場合、錠剤は60分振とうしても完全に崩壊しなかったのに対し、ガラスビーズを用いることで錠剤を完全に崩壊することができ、また、振とう時間を短縮できることができた。なお、粒径2mmのガラスビーズについては4gのとき崩壊時間が短縮したことから、実施例1でのジルコニアビーズと同様に、ビーズの粒径が大きく、使用量が多いほど効果が向上する傾向にあった。
【0024】
【表3】

【0025】
実施例5〜7及び比較例6〜8
主薬を200mg含有する口腔内崩壊錠(マンニトール、トウモロコシデンプン、アルファー化デンプン、アスパルテーム、ステアリン酸マグネシウムを含む、直径が10mm、重量が400mgの円形錠、(以下、口腔内崩壊錠Cという))及び主薬を100mg含有する口腔内崩壊錠(マンニトール、トウモロコシデンプン、アルファー化デンプン、アスパルテーム、ステアリン酸マグネシウムを含む、直径が8mm、重量が200mgの円形錠、(以下、口腔内崩壊錠Dという))を用いて、下記のような実験を行った。即ち、該2種類の錠剤は、メタノール中で容易に崩壊するが、高温多湿条件下(例えば温度50℃/湿度85%で1箇月以上など)で保存することで、メタノール中で容易に崩壊しない傾向が認められた。
具体的には、温度50℃/湿度85%で2箇月間保存した口腔内崩壊錠C及びD各1錠に、球状ジルコニアビーズ粒径5mm(外径許容範囲±0.5mm、硬度 約1200kg/mm、密度 約6.0g/cm)1又は10gを、15mL容の共栓付ガラス管(容器の振とう方向の長さ約12cm)に量りいれ、メタノール5mLを加えた後、密閉し、振とう距離40mmで振とう速度280又は300回/分の条件で垂直方向に振とうし、錠剤が完全に崩壊するまでの振とう時間を測定した。なお、比較例としてビーズなしの状態でも評価した(比較例6)。
結果を表4及び5に示す。口腔内崩壊錠Cについては振とう速度280回/分において、ビーズを加えない場合には錠剤は完全に崩壊しなかったのに対し、粒径5mmのジルコニアビーズを用いることで効果が認められた。また、大きさの異なる口腔内崩壊錠Dに対しても、300回/分でビーズを加えることでいずれも効果が認められた。
【0026】
【表4】

【0027】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の方法を用いることにより、溶解・分散し難い試料(例えば錠剤やフィルムコーティング剤及び保存などで変質してしまったサンプル等)でも、試料を吸湿・変質させることなくかつ簡便に試料内の成分を均一に溶解・分散させることができることから、各種試験の前処理法として応用が可能である。また、成型したタブレットであれば、本発明は医薬品だけでなく、製菓、健康食品といった分野にも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明における物理的衝撃において、振とう方向の容器の長さと振とう距離との関係の例を示す図である。
【図2】錠剤A 1錠分の未粉砕品及び粉砕品を用い、温度25℃/60%RH中で0〜30分保存した場合の重量の変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錠剤、溶媒及びビーズを含む容器に物理的衝撃を加え、錠剤とビーズを物理的に接触させることによる錠剤の粉砕方法。
【請求項2】
該ビーズの径が、錠剤の長径に対して、0.05〜1の割合である請求項1に記載の錠剤粉砕方法。
【請求項3】
錠剤1重量部に対して、ビーズが2〜200重量部の割合で配合される請求項1または2に記載の錠剤粉砕方法。
【請求項4】
錠剤1重量部に対して、溶媒が10〜500容量部の割合で配合される請求項1〜3のいずれかに記載の錠剤粉砕方法。
【請求項5】
容器の全容量に対して、溶媒が1/10〜1/2容量の割合で配合される請求項1〜4のいずれかに記載の錠剤粉砕方法。
【請求項6】
物理的衝撃が、容器を振とうさせる方法または容器を超音波処理する方法である請求項1〜5のいずれかに記載の錠剤粉砕方法。
【請求項7】
物理的衝撃が、振とう方向の容器の長さ(L)に対して0.2〜4程度の割合の振とう距離(D)で毎分80回以上振とうさせる方法である請求項6に記載の錠剤粉砕方法。
【請求項8】
振とう方向が、垂直、水平又は傾斜のある方向で直線状若しくは曲線状である請求項7に記載の錠剤粉砕方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかの方法を用いる錠剤に含まれる成分の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−133807(P2010−133807A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309154(P2008−309154)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】