説明

錫またはその合金の表面処理を行うための水性処理液および表面処理方法

【課題】 錫やその合金の無鉛のはんだ付け性の劣化を防止することができる水性処理液および表面処理方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の水性処理液は、下記の一般式(1)で表されるトリアジンチオール化合物と、一般式:NRで表されるアミン化合物(式中、R,R,Rは同一または異なって水素原子または水酸基を有していてもよいアルキル基を示す)と、脂肪酸エステル化合物および/またはアルキル硫酸エステル化合物を少なくとも含有することを特徴とする。
【化1】



(式中、R,Rは同一または異なって水素原子,アルキル基,アリール基のいずれかを示す。Rはアルキル基または−SXを示す。X,Xは同一または異なって水素原子またはアルカリ金属を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫やその合金のはんだ付け性の劣化を防止するための水性処理液および表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属などの基材の表面に錫やその合金のめっきが施された材料は、低価格であり、電子機器分野で幅広く利用されている。このような材料を電子機器に用いる場合、はんだ付けによる接合が必須となることから、かかる材料には長期にわたって優れたはんだ付け性が要求される。従って、錫やその合金のはんだ付け性の劣化を防止するためのいくつかの方法がこれまでに提案されており、例えば、特許文献1〜3では、特定のベンゾトリアゾール化合物、特定のメルカプトベンゾチアゾール化合物、特定のトリアジン化合物からなる群から選ばれる1種以上を含有する水性処理液を用いた方法が提案されている。
【特許文献1】特開平7−173675号公報
【特許文献2】特開平7−173676号公報
【特許文献3】特開平7−173677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年、環境対策としてはんだの無鉛化が加速しているが、本発明者らによる研究で、錫やその合金の無鉛のはんだ付け性は経時的に顕著に劣化すること、特許文献1〜3に記載の方法では、無鉛のはんだ付け性の劣化を効果的に防止できないことが明らかになった。
【0004】
そこで本発明は、錫やその合金の無鉛のはんだ付け性の劣化を防止することができる水性処理液および表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の点に鑑みてなされた本発明は、請求項1記載の通り、錫またはその合金の表面処理を行うための水性処理液であって、下記の一般式(1)で表されるトリアジンチオール化合物と、一般式:NRで表されるアミン化合物(式中、R,R,Rは同一または異なって水素原子または水酸基を有していてもよいアルキル基を示す)と、脂肪酸エステル化合物および/またはアルキル硫酸エステル化合物を少なくとも含有することを特徴とする。
【0006】
【化1】


【0007】
(式中、R,Rは同一または異なって水素原子,アルキル基,アリール基のいずれかを示す。Rはアルキル基または−SXを示す。X,Xは同一または異なって水素原子またはアルカリ金属を示す)
また、請求項2記載の水性処理液は、請求項1記載の水性処理液において、トリアジンチオール化合物の含有量が0.001〜10wt%であることを特徴とする。
また、請求項3記載の水性処理液は、請求項1または2記載の水性処理液において、さらにノニオン系界面活性剤を含有することを特徴とする。
また、請求項4記載の水性処理液は、請求項3記載の水性処理液において、ノニオン系界面活性剤の含有量が0.001〜1wt%であることを特徴とする。
また、本発明は、請求項5記載の通り、錫またはその合金の表面処理を行う方法であって、請求項1乃至4のいずれかに記載の水性処理液中でアノード電解またはカソード電解することにより行うことを特徴とする。
また、請求項6記載の方法は、請求項5記載の方法において、電解電流密度を0.01〜30mA/dmで行うことを特徴とする。
また、本発明は、請求項7記載の通り、錫またはその合金の表面処理を行う方法であって、請求項1乃至4のいずれかに記載の水性処理液に錫またはその合金を浸漬するか、または、請求項1乃至4のいずれかに記載の水性処理液を錫またはその合金の表面に塗布することにより行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、錫やその合金の無鉛のはんだ付け性の劣化を防止することができる水性処理液および表面処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、錫またはその合金の表面処理を行うための水性処理液であって、下記の一般式(1)で表されるトリアジンチオール化合物と、一般式:NRで表されるアミン化合物(式中、R,R,Rは同一または異なって水素原子または水酸基を有していてもよいアルキル基を示す)と、脂肪酸エステル化合物および/またはアルキル硫酸エステル化合物を少なくとも含有することを特徴とするものである。
【0010】
【化2】


【0011】
(式中、R,Rは同一または異なって水素原子,アルキル基,アリール基のいずれかを示す。Rはアルキル基または−SXを示す。X,Xは同一または異なって水素原子またはアルカリ金属を示す)
【0012】
一般式(1)で表されるトリアジンチオール化合物において、R,R,Rのアルキル基としては、炭素数が1〜20の直鎖状や分岐鎖状や環状のものが例示され、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−オクタデシル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基やナフチル基などが挙げられる。X,Xのアルカリ金属としては、ナトリウムやカリウムなどが挙げられる。トリアジンチオール化合物の具体例としては、n−ジオクチルアミノトリアジンジチオールモノソーダ塩、6−(ジブチルアミノ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール、2−アニリノ−4,6−ジメルカプト−1,3,5−トリアジンモノナトリウムなどが挙げられる。水性処理液のトリアジンチオール化合物の含有量は0.001〜10wt%であることが無鉛のはんだ付け性の劣化を効果的に防止することができる点において望ましい。
【0013】
一般式:NRで表されるアミン化合物において、R,R,Rの水酸基を有していてもよいアルキル基におけるアルキル基としては、R,R,Rのアルキル基と同様のものが例示される。アミン化合物の具体例としては、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、オクタデシルアミンなどが挙げられる。水性処理液のアミン化合物の含有量は0.01〜10wt%であることが無鉛のはんだ付け性の劣化を効果的に防止することができる点において望ましい。
【0014】
脂肪酸エステル化合物としては、ソルビタンモノラウレート、トリメチロールプロパントリオレート、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどが例示される。アルキル硫酸エステル化合物としては、ラウリル硫酸やポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸の塩(ナトリウム塩やトリエタノールアミン塩)などが例示される。水性処理液の脂肪酸エステル化合物および/またはアルキル硫酸エステル化合物の含有量は0.001〜30wt%であることが無鉛のはんだ付け性の劣化を効果的に防止することができる点において望ましい。
【0015】
本発明の水性処理液は、所定量のトリアジンチオール化合物、アミン化合物、脂肪酸エステル化合物および/またはアルキル硫酸エステル化合物を水に溶解乃至分散させることで調製することができる。なお、水性処理液を調製する際、ノニオン系界面活性剤を添加することで、これらの成分を液中に均一に溶解乃至分散させることができる。水性処理液のノニオン系界面活性剤の含有量は0.001〜1wt%であることが望ましい。ノニオン系界面活性剤は市販のもの、例えば、日本油脂株式会社のニッサンノニオンEH−208(商品名)や同、ユニルーブ75DE−2620(商品名)や日本乳化剤株式会社のニューコールB13(商品名)などを使用することができる。また、水性処理液を調製する際、必要に応じてアルコールやアセトンの有機溶媒を添加したり、乳化剤を添加して乳化したりしてもよい。
【0016】
なお、本発明の水溶液には、はんだ付け性の劣化を防止するための成分として知られている2−メルカプトベンゾチアゾールナトリウムなどのベンゾチアゾール化合物などをさらに添加してもよい。
【0017】
本発明の水性処理液を用いた錫やその合金の無鉛のはんだ付け性の劣化を防止するための表面処理方法としては、アノード電解やカソード電解による方法が挙げられる。アノード電解とは被処理物を陽極として電解処理することを、カソード電解とは被処理物を陰極として電解処理することを意味する。これらの方法による場合、電解電流密度を0.01〜30mA/dmで行うことが効果的な表面処理を効率的に行うことができる点において望ましい。
【0018】
また、水性処理液に錫またはその合金を浸漬したり、水性処理液を錫またはその合金の表面に塗布したりしてもよい。
【実施例】
【0019】
(事前実験)
20mm×20mm×0.2mm寸法のりん青銅(C5210R−1/2H)の表面に厚みが3.8μmの無光沢錫めっきを施したテストピースに対してエージングを行う前の無鉛のはんだ付け性をウェッティングバランス法にてゼロクロスタイムで評価したところ1.41秒であった。これに対し、105℃×飽和湿度で8時間のエージングを行った後、25℃×75%RHで1時間保存してから評価したところ、ゼロクロスタイムは8.00秒になり、大幅な劣化が認められた。なお、無鉛はんだ条件は、はんだ温度:235℃,はんだ:Sn−Ag−Cu系,フラックス:タムラ化研株式会社のNA−200とした。
【0020】
(本実験)
表1に記載の本発明の各種の水性処理液と比較例の各種の水性処理液を調製し(単位:wt%)、表1に記載の方法でテストピースの表面処理を行った後、105℃×飽和湿度で8時間のエージングを行い、さらに25℃×75%RHで1時間保存してから無鉛のはんだ付け性をゼロクロスタイムで評価した。結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
(表の注記)
A1〜A3・・・トリアジンチオール化合物
・A1:n−ジオクチルアミノトリアジンジチオールモノソーダ塩
・A2:6−(ジブチルアミノ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール
・A3:2−アニリノ−4,6−ジメルカプト−1,3,5−トリアジンモノナトリウム
B・・・アミン化合物:トリエタノールアミン
C・・・アルキル硫酸エステル化合物:ラウリル硫酸トリエタノールアミン
D1〜D2・・・ノニオン系界面活性剤
・D1:日本油脂株式会社のニッサンノニオンEH−208(商品名)
・D2:日本乳化剤株式会社のニューコールB13(商品名)
E:ベンゾチアゾール化合物:2−メルカプトベンゾチアゾールナトリウム
【0023】
表1から明らかなように、本発明の水性処理液を用いることで、テストピースの無鉛のはんだ付け性の劣化を効果的に防止することができることがわかった。また、本発明の水性処理液を用いて表面処理を行ったテストピースは、優れた耐食性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、錫やその合金の無鉛のはんだ付け性の劣化を防止することができる水性処理液および表面処理方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錫またはその合金の表面処理を行うための水性処理液であって、下記の一般式(1)で表されるトリアジンチオール化合物と、一般式:NRで表されるアミン化合物(式中、R,R,Rは同一または異なって水素原子または水酸基を有していてもよいアルキル基を示す)と、脂肪酸エステル化合物および/またはアルキル硫酸エステル化合物を少なくとも含有することを特徴とする水性処理液。
【化1】



(式中、R,Rは同一または異なって水素原子,アルキル基,アリール基のいずれかを示す。Rはアルキル基または−SXを示す。X,Xは同一または異なって水素原子またはアルカリ金属を示す)
【請求項2】
トリアジンチオール化合物の含有量が0.001〜10wt%であることを特徴とする請求項1記載の水性処理液。
【請求項3】
さらにノニオン系界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1または2記載の水性処理液。
【請求項4】
ノニオン系界面活性剤の含有量が0.001〜1wt%であることを特徴とする請求項3記載の水性処理液。
【請求項5】
錫またはその合金の表面処理を行う方法であって、請求項1乃至4のいずれかに記載の水性処理液中でアノード電解またはカソード電解することにより行うことを特徴とする方法。
【請求項6】
電解電流密度を0.01〜30mA/dmで行うことを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
錫またはその合金の表面処理を行う方法であって、請求項1乃至4のいずれかに記載の水性処理液に錫またはその合金を浸漬するか、または、請求項1乃至4のいずれかに記載の水性処理液を錫またはその合金の表面に塗布することにより行うことを特徴とする方法。

【公開番号】特開2007−277596(P2007−277596A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101832(P2006−101832)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(300067893)有限会社ケミカル電子 (3)
【Fターム(参考)】