説明

錫めっき鉄系金属材料

【課題】電子部品に施されている錫めっき皮膜の変色や、電子部品を電子機器に組立る時に発生する錫めっき皮膜の変色を防止できる、耐変色特性及び耐凝集特性に優れた鉄系金属材料を提供すること。
【解決手段】中間層として、リンを5重量%〜15重量%の割合で含有しかつ厚さが0.05μm〜2μmのニッケルめっき皮膜を有するところに構成特徴があり、前記リン−ニッケルめっき皮膜は、その下地めっきとして、厚さが0.05μm〜1.0μmの純ニッケルめっきまたは、厚さが0.1μm〜1.0μmの純銅めっきのいずれかを有するもの、前記錫めっき鉄系金属材料が、錫めっき付き鉄系リードフレームまたは鉄系連続端子のいずれかであるものを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は錫めっき鉄系金属材料に関し、より詳しくは、電子部品に施されている錫めっき皮膜の変色や、電子部品を電子機器に組立る時に発生する錫めっき皮膜の変色などを防止できる錫めっき鉄系金属材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属素材面上に錫、半田めっきを施す場合、下地を付けないで直接錫めっきされることもあるが一般的ではなく、通常、金属素材面上に、下地として、ニッケルめっきまたは銅めっきが鍍設され、この下地面に、仕上げ錫、半田めっきされるのが一般的である。下地めっきの鍍設目的は、仕上げ錫、半田めっきに、金属素材の影響を受けないようにするところにある。
【0003】
電子部品を電子機器に組立てる場合、例えば部品端子やリード線などを半田付け接続する工程が不可避である。そのため従来、錫めっき鉄系金属材料として、めっき浴の中に大量の界面活性剤及び光沢剤を含有するめっき浴を使用して、電気錫、電気半田めっき加工を施してなる、電気錫、電気半田めっき皮膜を有するものが一般に使用されてきた。
【0004】
耐熱特性、特に耐変色特性を改善するため、光沢剤を改良して製造したもの、めっき後に皮膜表面のリン化合物による処理したもの、さらに、電気めっき加工時に変調波形の電流を使用することにより、めっき皮膜への有機物の取り込みを低減させたものが提案されている。
【0005】
近時、廃電子機器環境汚染防止(とりわけ鉛汚染防止)という社会ニーズの観点から、鉛を含まない半田の使用が義務付けされてきた。鉛含有量の低い半田や、鉛を含まない半田を使用すると、半田自体の融点が必然的に上昇するため、従来よりも高い温度に曝して半田付けされ、錫めっき皮膜もまた260℃程度の高い温度に曝されるため、耐熱特性、耐変色特性の向上が期待されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の錫めっき、半田めっき皮膜にあっては、上述したとおり、耐熱特性、耐熱変色特性、特には、230°以上の熱が加わると、めっき皮膜が凝集したり、電気錫、電気半田めっき皮膜の中に、界面活性剤及び光沢剤由来の有機物が混在することになるため、半田付け組立時にめっき皮膜が紫色に変色するという課題があった。
【0007】
現在の電子部品は、端子部分以外を樹脂でモールドを行う。その際、端子部分からはみ出したバリ部分を、ショットブラストで除去することが一般的である。錫、めっき皮膜の表面をリン化合物にて処理する方法は、電子部品を組立る時にショットプラスト処理が施されると、リン化合物処理された皮膜が剥離、除去されるために変色するばかりか、ショットプラスト処理された皮膜部分の耐熱変性が酷くなるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑み鋭意検討されたものであり、その目的とするところは、電子部品に施されている錫めっき皮膜の変色や、電子部品を電子機器に組立る時に発生する錫めっき皮膜の変色を防止できる、耐変色特性及び耐凝集特性に優れた鉄系金属材料の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、錫めっき電気部品において、めっき皮膜の耐変色特性及び耐凝集特性を改善するためには、錫めっき皮膜の改善もさることながら、下地めっき皮膜の改善をさせることが重要であるとの観点から鋭意検討した結果、つぎの1)および2)なる知見を見出し、本発明を完成したものである。
(1)錫めっきの下地として、リンを5重量%〜15重量%の割合で含有しかつ厚さが0.05μm〜2μmのリン−ニッケルめっき皮膜を備えることにより、皮膜の耐熱特性が改良できること。
(2)リン−ニッケル合金めっきは一般に硬度が高いため、曲げ、抜き等の後工程がある場合にはそのめっき厚が問題となる。この場合には、下地めっきとして、厚さが0.1μm〜1.0μmの純ニッケルめっきまたは厚さが0.1μm〜1.0μmの純銅めっきを形成させ、さらに、その上にリンを5重量%〜15重量%の割合で含有しかつ厚さが0.05μm〜1.0μmのリン−ニッケルめっき皮膜を備えることにより、皮膜の耐熱特性が改良できること。
【0010】
すなわち、上記課題を解決するために本発明が採用した手段は、請求項1の発明は、中間層として、リンを5重量%〜15重量%の割合で含有しかつ厚さが0.05μm〜2μmのニッケルめっき皮膜を有するところに特徴を有する錫めっき鉄系金属材料を、その要旨とする。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1記載の錫めっき鉄系金属材料において、前記リン−ニッケルめっき皮膜は、その下地めっきとして、厚さが0.05μm〜1.0μmの純ニッケルめっきまたは、厚さが0.1μm〜1.0μmの純銅めっきのいずれかを有するものであるところに特徴がある。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2記載の錫めっき鉄系金属材料において、前記錫めっき鉄系金属材料が、錫めっき付き鉄系リードフレームまたは、鉄系連続端子のいずれかであるところに特徴がある。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る錫めっき鉄系金属材料によると、経時的な接触特性、半田つけ特性、耐熱変色特性に優れており、さらに、電子部品に施されている錫めっき皮膜の変色や、電子部品を電子機器に組立る時、錫めっき皮膜が変色し難く(半田付け不良を起こし難い)、実効性に優れた作用効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の錫めっき鉄系金属材料を具体的な実施例に基いて説明するが、これら実施例はその代表例を示したにすぎず、本発明を限定するものではない。なお本明細書において、鉄系金属材料とは、42アロイや50アロイなどに代表される鉄−ニッケル合金、洋白、ニッケル、および、鉄を含むものとする。
【0015】
まず、本発明に係る錫めっき鉄系金属材料を製造するために使用しためっき浴の組成などについて説明する。
【0016】
A:下地めっき(リン−ニッケルめっき)用の浴組成物
1)浴組成例1(以下、A1という)
浴組成例1(A1)は、その1L当たりに、硫酸ニッケルが250g、塩化ニッケルが45g、ホウ酸が35g、亜リン酸が5gの割合で含まれている。
めっき条件;温度条件:50℃、pH:4.0、電流密度:4A/dm2
【0017】
2)浴組成例2(以下、A2という)
比較浴組成例2(A2)は、その1L当たりに、スルファミン酸ニッケルが450g、塩化ニッケルが45g、ホウ酸が35g、亜リン酸が5gの割合で含まれているものである。
めっき条件;温度条件:50℃、pH:4.0、電流密度:4A/dm2
【0018】
3)比較浴組成例1(以下、B1という)
比較浴組成例1(B1)は、その1L当たりに、スルファミン酸ニッケルが450g、塩化ニッケルが45g、ホウ酸が35g割合で含まれているものである。
めっき条件;温度条件:50℃、pH:4.0、電流密度:4A/dm2
【0019】
4)比較浴組成例2(以下、B2という)
比較浴組成例2(B2)は、その1L当たりに、硫酸ニッケルが250g、塩化ニッケルが45g、ホウ酸が35gの割合で含まれているものである。
めっき条件;温度条件:50℃、pH:4.0、電流密度:4A/dm2
【0020】
5)比較浴組成例3(以下、B3という)
比較浴組成例1(B3)は、その1L当たりに、硫酸ニッケルが250g、塩化ニッケルが45g、ホウ酸が35g、前田化学(株)製で商品名を「フレックスコートSC」とする1次光沢剤が15mLの割合で含まれているものである。
めっき条件;温度条件:50℃、pH:4.0、電流密度:4A/dm2
【0021】
6)比較浴組成例4(以下、B4という)
比較浴組成例4(B4)は、その1L当たりに、硫酸ニッケルが250g、塩化ニッケルが45g、ホウ酸が35g、硫酸コバルトが10gの割合で含まれているものである。
めっき条件;温度条件:50℃、pH:4.0、電流密度:4A/dm2
【0022】
7)比較浴組成例5(以下、B5という)
浴組成例4(B4)は、その1L当たりに、シアン化第1銅が60g、シアン化カリが110g、苛性カリが30gの割合で含まれているものである。
めっき条件;温度条件:60℃、電流密度:4A/dm2
【0023】
B:仕上げめっき(錫めっき)用の浴組成物
1)改良光沢錫めっき浴(以下、C1という)
改良光沢錫めっき浴(C1)は、その1L当たりに、メタンスルフォ酸錫が330mL、メタンスルフォン酸が100mL、界面活性剤である「ユンコンチンブライト095SA(石原薬品(株)製)」が50mL、光沢剤として2,4−ジクロロベンズアルデヒドが0.3g錫が40gの割合で含まれているものである。
めっき条件;温度条件:30℃、電流密度:5A/dm2
【0024】
2)光沢剤を含む市販の光沢錫めっき浴(以下、C2という)
この光沢錫めっき浴(C2)は、その1L当たりに、硫酸第1錫が80g、硫酸が60mL、界面活性剤である「ユニコンチンブライト514H(石原薬品(株)製)」が20mL、光沢剤である「ユニコンチンブライト No.2(石原薬品(株)製)」が10mL、補助光沢剤である「ユニコンチンブライト No.3(石原薬品(株)製)」が0.5mL、ホルマリンが2mL、錫が40gの割合で含まれているものである。
めっき条件;温度条件:17℃、電流密度:5A/dm2
【0025】
3)光沢剤を含む市販の半光沢錫めっき浴(以下、C3という)
この光沢錫めっき浴(C3)は、その1L当たりに、メタンスルフォン酸錫が330mL、メタンスルフォン酸が250mL、光沢剤である「ソルダロン 8T−200 アディティブ(ローム・アンド・ハース電子材料(株)製)」が80mL、錫が50gの割合で含まれているものである。
めっき条件;温度条件:30℃、電流密度:5A/dm2
【0026】
つぎに、錫めっき皮膜に及ぼす各種錫めっき浴の影響について検討した。実験番号5および6の仕上げめっきは、上記改良光沢錫めっき浴(以下、C1という)を使用し波形変調電流によって光沢錫めっきを施したものである。仕上げ錫めっき皮膜の耐熱特性評価は、270℃の熱鉄板上に、30秒、60秒、120秒間それぞれ載置し、皮膜の変色状況および凝集状況を目視評価した。表1に得られた結果を示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1から、下地めっきとして銅めっきまたはニッケルめっきを施した鉄系金属材料に、仕上げ錫めっきとして市販の半光沢錫めっきを鍍着させた場合には、錫皮膜の凝集を防止できるものの、120秒間、270℃で熱処理されると、紫色に変色することが解る。また、本発明に係わる改良光沢錫めっき浴(以下、C1という)を使用しても、これと同様の結果が得られた。
【0029】
つぎに、錫めっき皮膜に及ぼす下地めっき皮膜の影響について検討した。本発明に係わる仕上げめっきは上記改良光沢錫めっき浴(以下、C1という)を使用し波形変調電流によって光沢錫めっきを施したものである。なお、実験番号7〜12,14〜18の仕上げめっきは、0.1μm〜0.7μmの下地リン−ニッケルめっきを施した後、この下地リン−ニッケルめっきに対してさらに、上記改良光沢錫めっき浴(以下、C1という)を使用し波形変調電流によって光沢錫めっきを施したものであり。また、実験番号8の仕上げめっきは、0.5μmの下地ニッケルめっきを施した後、この下地ニッケルめっきに対してさらに、厚さが0.1μmのリン−ニッケルめっきを施したものであり、下地めっき皮膜(中間層)は、ニッケルめっきとリン−ニッケルからなる2層のめっき皮膜から構成されているものである。
【0030】
錫めっき皮膜の耐熱特性評価は、ショットブラスト処理(直径50μmのガラスビーズを、0.6Mpで、5秒間吹き付け処理)した後、255℃の熱鉄板上に、30秒、60秒、120秒間それぞれ載置し、冷却した後、皮膜の変色状況および凝集状況を目視評価した。表2に得られた結果を示す。
【0031】
【表2】

【0032】
表2において、中間層(下地めっき)として、リン−ニッケル皮膜を有するもの(実験番号7乃至13)は、優れた耐熱変色特性及び耐凝集特性を有することが明らかになった。また、実験番号8に示すように、鉄系素材と仕上げ錫めっきのバリアーとして使用する場合、下地めっきとして現在汎用されている通常のニッケルを施し、その上に薄いリン−ニッケルめっきを鍍着させても良いことが解る。
【0033】
また、中間層(下地めっき)としてニッケル皮膜を有するもの(実験番号14乃至17)は、優れた耐凝集特性を有するものの、耐熱変色特性という点において難点があることなどが明らかになった。
【0034】
なお、中間層(下地めっき)の厚さが0.05μm以下である充分な耐熱変色特性が得られない傾向があり、その厚さが2μm以上であると、端子全体が硬くなり電子部品として使用するのが困難になる傾向がある(実験データは示されていない)。また、中間層のリン含有量が5重量%以下であると、、充分な耐熱変色特性が得られない傾向があり、リン含有量が15重量%以上であると、リン化合物の添加量が多くなりコスト高になることに加えて、電流効率が低下するという不具合が認められた。ニツケル皮膜中のリン含有量としては8重量%〜12重量%が好適であると思われる。
【0035】
リン−ニッケル下地めっきは硬度が高く、プレス加工時における成形金型の摩耗発生が懸念されるところ、皮膜の厚さが0.05μm程度で耐熱変色防止効果が得られることを考慮すると、この点はさほど大きな問題にはならないものと考えられる。
【0036】
リン−ニッケル合金めっき皮膜により得られる優れた耐変色特性並びに耐凝集特性の作用機構については明かではないが、つぎの作用機構により、優れた耐熱変色特性並びに耐凝集特性を具有するようになったものと考えられる。
【0037】
第1番目の作用機構は、一般に下地ニッケルめっきは被メッキ素材の結晶特性を受け継ぎ、素材の具有する負の結晶特性を発現し易いが、しかし、リン−ニッケル合金めっきは、被メッキ素材の負の結晶性をかなりの程度で消失させることができる。そのため、被メッキ素材の結晶特性の影響を受け難くなり、より緻密なめっき皮膜として鍍設できるというものである。
【0038】
第2番目の作用機構は、リン自体に還元特性がある。そのため、下地めっき被膜に含まれるリンが一種の還元剤として作用し、仕上げ錫めっき皮膜の特には表面部分の錫が酸化されることを防止することができ、結果として、耐変色特性を奏するというものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間層として、リンを5重量%〜15重量%の割合で含有しかつ厚さが0.05μm〜2μmのリン−ニッケルめっき皮膜を有することを特徴とする錫めっき鉄系金属材料。
【請求項2】
前記リン−ニッケルめっき皮膜は、その下地めっきとして、厚さが0.05μm〜1.0μmの純ニッケルめっきまたは、厚さが0.1μm〜1.0μmの純銅めっきのいずれかを有することを特徴とする請求項1記載の錫めっき鉄系金属材料。
【請求項3】
前記錫めっき鉄系金属材料が、錫めっき付き鉄系リードフレームまたは、鉄系連続端子のいずれかであることを特徴とする請求項1または2記載の錫めっき鉄系金属材料。

【公開番号】特開2006−312762(P2006−312762A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135507(P2005−135507)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(591104697)株式会社平井精密 (3)
【Fターム(参考)】