説明

錫めっき鋼板

【課題】錫めっき層の上層に形成される皮膜中に、その皮膜特性を向上させる作用を有するものの環境上の問題から望ましくないとされるCrを含有させることなく、錫めっき層の表層の錫酸化物の成長に由来する耐黄変性と塗料密着性の双方を高いレベルで有効に向上させることができる、錫めっき鋼板を提供する。
【解決手段】鋼板表面に形成した錫めっき層上に、りん酸塩を含有する下層皮膜を有し、該下層皮膜の付着量をP付着量にして0.5〜100mg/m2の範囲とし、さらに、前記下層皮膜上に、珪酸塩を含有する上層皮膜を有し、該上層皮膜中の珪酸塩の付着量をSi付着量にして0.1〜250mg/m2の範囲とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、DI缶、食缶、飲料缶などに使用される錫めっき鋼板に関し、特に、耐黄変性と耐錆性に優れ、加工性と塗料密着性を確保できる錫めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
缶用表面処理鋼板として、従来からぶりきと称される錫めっき鋼板が広く用いられており、かかる錫めっき鋼板は、通常、ぶりき原板に錫めっきを施した後に、重クロム酸溶液中に浸漬もしくはこの溶液中で電解することによって化成処理するのが一般的である。この化成処理によって錫めっき層の上層に形成されたクロム酸化膜は、Sn酸化物の成長を防止するとともに、錫めっき鋼板表面がSnの酸化皮膜によって黄色に変化する、いわゆる黄変を抑制したり(耐黄変性)、塗料との密着性及び耐錆性を向上させる作用を有する。
【0003】
しかし、昨今の環境問題から、クロムを規制する動きが各分野で進行しており、缶用表面処理鋼板に対してもクロムフリー化の要請が日増しに強まっている。
【0004】
缶用表面処理鋼板のクロムフリー化に関する技術としては、例えば、特許文献1に、リン酸系溶液中で錫めっき鋼板を陰極として直流電解することにより、錫めっき鋼板上にCrを含有しない化成皮膜を形成した錫めっき鋼板の表面処理法が開示されており、また、特許文献2には、化成皮膜中にPもしくはPとAlを含有させて、Crを含有しない化成皮膜を錫めっき層表面に施したシームレス缶用電気めっきぶりきが開示されている。
【特許文献1】特公昭55−24516号公報
【特許文献2】特公平1-32308号公報
【0005】
しかしながら、塗料密着性、耐黄変性、耐錆性などの性能を総合的に見た場合、上掲公報に記載された化成皮膜はいずれも、従来の重クロム酸溶液によって形成した化成皮膜に比べると上記性能が十分に得られているとはいえない。特に、耐黄変性や塗料密着性が不足しており、錫酸化膜の成長抑制性も低い。
【0006】
また、本発明者らのうちの一人は、P及びSnを含有する化成皮膜を下層、シランカップリング層を上層とする錫めっき鋼板を特許文献3で提案した。かかる錫めっき鋼板は、従来の重クロム酸溶液による浸漬処理や電解処理材とほぼ同等の優れた、塗料密着性、耐黄変性、耐錆性、加工性を有する。しかしながら、高耐食性タイプの金属クロム付着量の多いクロム酸電解処理材の性能レベルに達しているとは言えず、耐黄変性に対する要求度の高い製品には使用できないという問題があった。
【特許文献3】特開2001−316851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の目的は、錫めっき層の上層に形成される皮膜中に、その皮膜特性を向上させる作用を有するものの環境上の問題から望ましくないとされるCrを含有させることなく、錫めっき層の表層の錫酸化物の成長に由来する耐黄変性を高いレベルで有効に向上させることができ、耐錆性に優れ、加工性と塗料密着性を確保できる錫めっき鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するための手段について鋭意検討を重ねた結果、錫めっき層上にりん酸塩を含有する下層皮膜を形成した後、珪酸塩を含有する上層皮膜を形成することにより、優れた酸素と水分の遮蔽性を有するバリヤ層を有することになり、高いレベルの耐黄変性と耐錆性が得られことを見出したものである。
【0009】
本発明は、このような知見に基づいてなされたもので、その要旨構成は以下の通りである。
【0010】
(1)鋼板表面に形成した錫めっき層上に、りん酸塩を含有する下層皮膜を有し、該下層皮膜の付着量をP付着量にして0.5〜100mg/m2の範囲とし、さらに、前記下層皮膜上に、珪酸塩を含有する上層皮膜を有し、該上層皮膜中の珪酸塩の付着量をSi付着量にして0.1〜250mg/m2の範囲とすることを特徴とする錫めっき鋼板。
【0011】
(2)前記珪酸塩含有皮膜は、平均粒子径が0.1〜2.5μmである有機樹脂粒子をさらに含有することを特徴とする上記(1)に記載の錫めっき鋼板。
【0012】
(3)前記りん酸塩は、Zn、Al、Sn、Mg、Mn、Ca、Fe、Ni、Mo、SrおよびCeの中から選ばれる1種または2種以上の金属元素を含む第一リン酸塩からなることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の錫めっき鋼板。
【0013】
(4)前記珪酸塩は、Li、Na、CaおよびKの中から選ばれる1種または2種以上の金属塩であることを特徴とする上記(1)、(2)または(3)に記載の錫めっき鋼板。
【0014】
(5)前記珪酸塩に含まれる、SiO2のモル数の、金属Mの合計モル数(Li、NaおよびKの場合はMOとして、また、Caの場合はMOとして換算)に対する比(SiOモル数/MOまたはMO換算合計モル数)が2以上8以下であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の錫めっき鋼板。
【0015】
(6)前記有機樹脂粒子が、エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂およびシリコン系樹脂の中から選ばれる1種または2種以上からなり、その配合量は、珪酸塩の固形成分の合計100質量部に対し、樹脂固形分の合計で100質量部以下であることを特徴とする、上記(2)〜(5)のいずれか1項に記載の錫めっき鋼板。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、錫めっき層上に形成される下層皮膜中に、その皮膜特性を向上させる作用を有するものの環境上の問題から望ましくないとされるCrを含有させることなく、錫めっき層の表層の錫酸化物の成長に由来する耐黄変性を高いレベルで有効に向上させることができ、耐錆性に優れ、加工性と塗料密着性を確保できる錫めっき鋼板の提供が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下にこの発明の構成を詳細に説明する。
この発明でいう「錫めっき鋼板」とは、錫めっきが施されたすべての鋼板に適用できる。特に好ましい「錫めっき鋼板」は、Fe−Sn−Ni合金層もしくはFe−Sn合金層の単一層からなる中間層、又は最下層にFe−Ni合金層、その上面にFe−Sn−Ni合金層の複合層からなる中間層を形成し、さらにその上面に形成した金属Sn層である錫めっき層とを有する鋼板である。錫めっき層の付着量は0.05〜20g/m2であることがより好適である。前記付着量が0.05 g/m2未満だと耐錆性に劣る傾向があるからであり、一方、20g/m2超えではめっき層が厚くなりすぎるため、コスト的なメリットがなくなるからである。尚、Sn付着量は、電量法又は蛍光X線による表面分析により測定できる。
【0018】
錫めっき層の上には、りん酸塩を含有する下層皮膜の層が存在する。下層皮膜の付着量としては、蛍光X線法により得られるP付着量(換算値)で、0.5〜100mg/m2であることが必要である。前記P付着量が0.5mg/m2未満では、加工性、塗料密着性及び耐黄変性が十分に得られない。また、100mg/m2超えでは、下層皮膜にクラックなど欠陥が生じやすくなり、塗料密着性や加工性が劣化する。
【0019】
前記下層皮膜とは、具体的には、第一りん酸塩、第二りん酸塩、第三りん酸塩、ピロリン酸塩、トリポリりん酸塩、ヘキサメタリン酸塩、さらに重合度の高い縮合りん酸塩などの無機りん酸塩、フィチン酸塩、ホスホン酸塩などの有機りん酸塩、さらに上記の複数からなる化合物(りん酸塩)を含有する皮膜のことである。
【0020】
下層皮膜中に金属イオン成分を導入するためには、特に限定されないが、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物などとして皮膜処理液中に添加すればよい。
【0021】
そして、本発明は、前記下層皮膜上に、さらに珪酸塩を含有する上層皮膜を有し、該上層皮膜中の珪酸塩の付着量をSi付着量にして0.1〜250mg/m2の範囲とする処理を施すことにより、錫酸化膜の成長抑制効果を飛躍的に向上させることができる。上層皮膜中の珪酸塩の付着量を、Si付着量が0.1mg/m2未満だと、耐黄変性を充分に抑制することができなくなり、また、250mg/m2超えだと、上層皮膜にクラックが入りやすくなり、耐黄変性と耐錆性が低下する。
【0022】
錫めっき層上に形成された、りん酸塩を含有する下層皮膜は、緻密な構造を有するため、錫酸化膜成長の促進因子となる酸素や水分を遮蔽する効果がある。
【0023】
しかし、上記下層皮膜は、それ自体の吸湿性が高いため、40℃以上で相対湿度80%以上の環境下に長期間保管される場合、吸着水によって錫酸化膜成長が助長され、錫めっき表面が黄変したり、脆弱な酸化物層によって塗料密着性が低下するなどの劣化が発生する傾向がある。さらに、下層皮膜の厚みが不均一な部分では、バリヤ性が劣るため、錫酸化膜成長が進行しやすくなる。
【0024】
一方、珪酸塩を含有する上層皮膜はガラス質であり、有機樹脂などと比べてはるかに緻密な皮膜を形成し、その結果、酸素や水などの錫酸化膜成長の促進因子に対するバリヤ性が非常に優れる。
【0025】
このため、本発明では、下地であるめっき層表面と反応することにより、優れた皮膜密着性を実現することができるりん酸塩を含有する下層皮膜と、前記下層皮膜との密着性が良好で層間剥離を発生させない強固な皮膜となり、かつ酸素や水などの遮蔽効果を有するバリヤ性の高い上層皮膜とを錫めっき層上に順次設けることで、特に、錫めっき層の表層の錫酸化物の成長に由来する耐黄変性と塗料密着性の双方を高いレベルで有効に向上させることを見出し、本発明を完成させるに至ったのである。
【0026】
また、本発明では、DI缶のような絞りしごき加工を伴う場合、特に優れた加工性を付与させるため、上層皮膜である珪酸塩含有皮膜は、平均粒子径が0.1〜2.5μmである有機樹脂粒子をさらに含有することが好ましい。上層皮膜中に有機樹脂粒子を含有させることによって、金型との摩擦係数を低下させる効果があること、及び脆性材である珪酸塩含有皮膜に可撓性を与えることで、金型への皮膜の追従性を向上させることなどによって、DI加工性が向上する。また、前記有機樹脂粒子の平均粒子径は、0.1μm未満だと、充分な加工性が得られなくなるおそれがあり、2.5μmm超えだと、耐黄変性が劣る傾向がある。平均粒子径は、皮膜断面を観察し、観察した断面の有機樹脂粒子の長径とそれに直交する径の平均を粒子径としたときの50個の粒子の粒子径の平均値である。
【0027】
有機樹脂粒子は、エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂の中から選ばれる1種または2種以上から選ばれる少なくとも1種以上が好ましく、また、上層皮膜形成用処理液中の有機樹脂粒子の配合量は、珪酸塩の固形成分の合計100質量部に対して樹脂固形分の合計で100質量部以下とすることが好ましい。前記配合量が100質量部を超えると耐錆性が劣化する傾向があるため好ましくない。
【0028】
さらに、前記下層皮膜は、処理液の安定性の点から、無機りん酸塩を含有する皮膜であることが好ましく、無機リン酸塩としては、Zn、Al、Sn、Mg、Mn、Ca、Fe、Ni、Mo、SrおよびCeの中から選ばれる1種または2種以上の金属元素を含む第一リン酸塩を用いることが好ましい。
【0029】
上層皮膜に含有する珪酸塩としては、Li、Na、CaおよびKの中から選ばれる1種または2種以上の金属塩であることが好ましく、上層皮膜形成用処理液としては、例えば、市販のリチウムシリケートや水ガラスと呼ばれるケイ酸ソーダ、ケイ酸カリウム、ケイ酸カルシウム等の珪酸塩水溶液を用いればよい。これらの珪酸塩水溶液の中でも、特に、リチウムシリケートは皮膜外観が白色化しにくく、耐食性にも優れるため好ましい。
【0030】
珪酸塩を含有する上層皮膜は、珪酸塩水溶液を塗布して焼付を行えばよく、これによってガラス質の皮膜を表面に形成することができる。
【0031】
前記珪酸塩に含まれる、SiO2のモル数の、金属Mの合計モル数(Li、NaおよびKの場合はMOとして、また、Caの場合はMOとして換算)に対する比(SiOモル数/MOまたはMO換算合計モル数)が2以上8以下であることが好ましい。前記モル比が2未満では、皮膜中に含まれる金属が多いため、吸湿しやすく、耐錆性に劣る傾向にあり、さらに、皮膜表面が白色化しやすくなるため好ましくない。また前記モル比が8超では、塗料密着性に劣る傾向にあるため好ましくない。
【0032】
次に、本発明に従う錫めっき鋼板の製造方法の一例を説明する。
本発明の錫めっき鋼板は、鋼板表面に錫めっき層を形成し、この錫めっき層上に、下層皮膜を、第1層として、りん酸塩を含有する処理液中で浸漬処理や電解処理によって形成する。続いて、上層皮膜を、第2層として、珪酸塩を含有する処理液を塗布後、焼付を行うことにより形成する。なお、上層皮膜を焼き付ける場合の温度は65〜150℃であることが好ましい。65℃よりも低いと、脱水反応が不充分で皮膜中に水分が残留し、耐黄変性を劣化させる傾向があり、150℃よりも高いと、錫酸化膜の成長が助長され、塗料密着性を低下させる傾向があるからである。
【0033】
尚、上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0034】
次に、この発明の実施例について以下で詳細に説明する。
(実施例1〜29)
電解脱脂をした板厚0.2mmのT4原板の両面に、錫めっき浴を用い、錫めっき層を片面当り2.8g/mの付着量で電気めっきする。さらに、錫の融点(231.9℃)以上で加熱溶融(リフロー)処理を行い、Fe−Sn合金層(中間層)と金属Sn層(上層)の2層からなる錫系めっき層を形成させる。次にリフロー処理後に表面に生成した錫酸化物を除去するため、浴温50℃、10g/Lの炭酸ナトリウム水溶液中で1C/dmの陰極処理を行った。その後、水洗し、表1および表2に示すような処理液と処理条件で浸漬処理を行い、下層皮膜を形成した。水洗乾燥後、表1および表3に示すような処理液および処理条件でロ−ルコ−ターによる塗布を実施した後、熱風乾燥炉を用い100℃で乾燥させ、上層皮膜を形成し、本発明の錫めっき鋼板を得た。
【0035】
(比較例1〜7)
比較例1および2は、上層皮膜中の珪酸塩の付着量が適正外である錫めっき鋼板、比較例3および4は、上層皮膜中の付着量が適正外である錫めっき鋼板、比較例5は、従来の重クロム酸電解処理錫めっき鋼板、比較例6は、高耐食性タイプの従来のクロム酸電解処理錫めっき鋼板、そして、比較例7は特許文献3の実施例1に基づく錫めっき鋼板で、下層皮膜の処理液として、りん酸5.78g/l、塩化第一錫0.55g/l、塩素酸ナトリウム0.57g/l、上層皮膜の処理液として、γグリシドキシプロピルトリメトキシシラン3mass%、エタノール96mass%、水1mass%を使用した。
【0036】
(性能評価)
上記各錫めっき鋼板について、耐黄変性、塗料密着性、耐錆性及び加工性について性能評価した。
【0037】
1.耐黄変性(錫酸化膜量で評価)
恒温試験室の雰囲気を40℃、相対湿度80%に設定し、無塗装の錫めっき鋼板を10日間放置した後、錫酸化膜量を測定し、初期の錫酸化膜量との差を錫酸化膜量変化値として算出し、この算出値から耐黄変性を評価した。錫酸化膜量は、0.001NのHBr水溶液(pH2.8)中で電流密度25μA/cm2の測定条件にて、還元に要した電気量として求め、耐黄変性は、電気量が0.7mC/cm2以下の場合を「◎」、0.7mC/cm2超え2.0mC/cm2以下を「○」、2.0mC/cm2超え5.0mC/cm2以下を「△」、そして5.0mC/cm2超えを「×」と評価した。評価結果を表1に示す。
【0038】
2.塗料密着性
前記各錫めっき鋼板の表面に、付着量50mg/dm2となる様にエポキシフェノール系塗料を塗布した後、210℃で10分間の焼付を行った。次いで、上記塗布・焼付を行った2枚の錫めっき鋼板を、塗装面がナイロン接着フィルムを挟んで向かい合わせになるように積層した後、圧力2.94×105Pa,温度190℃,圧着時間30秒の圧着条件下で貼り合わせ、その後、これを5mm幅の試験片に分割し、この試験片を引張試験機を用いて強度測定を行い、この測定結果から1次塗料密着性を評価した。また、別の試験片は、55℃の1.5質量%NaCl水溶液と1.5質量%クエン酸水溶液を同量ずつ混合した試験液に4日間浸漬し、その後、同様に引張試験機を用いて行った強度測定結果から、2次塗料密着性を評価した。その評価結果を表1に示す。尚、表1では、試験片幅5mmあたりの測定強度が、14.71N(1.5kgf)以上の場合を「○」、14.71N(1.5kgf)未満、4.90N(0.5kgf)以上の場合を「△」、4.90N(0.5kgf)未満の場合を「×」として示してある。
【0039】
3.耐錆性
上記各錫めっき鋼板に対し、温度50℃、相対湿度98%の高湿状態と、温度25℃、相対湿度60%の乾燥状態とを30分ごとに交互に繰り返す環境下に曝し、表面に錆が発生するまでの日数を調べ、これによって耐錆性を評価した。その評価結果を表1に示す。錆の発生が30日間以上認められない場合を「○」、30日未満の間で認められた場合を「×」として示してある。
【0040】
4.加工性
加工性については、絞りしごき加工後に外観観察を行い、しわやかじり等の欠陥の発生の有無によって評価した。表1にその評価結果を示す。尚、表1では、しわやかじり等の欠陥が認められない場合を「○」、前記欠陥が認められた場合を「×」として示してある。絞りしごき加工は下記に示す測定条件で行った。

(測定条件)
ブランク径:170mmφ、絞り条件:1段絞り比1.8、2段絞り比1.3、絞りしごき径:3段アイアニング60mmφ
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
表1の評価結果から明らかなように、実施例1〜29はいずれも、耐黄変性、塗料密着性、耐錆性及び加工性の性能の全てが、クロム酸電解処理錫めっき鋼板である比較例6と同等レベルで優れていた。一方、比較例1〜5および7はいずれも、耐黄変性、塗料密着性、耐食性及び加工性のいずれかの性能が悪く、実用レベルにないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
この発明によれば、錫めっき層の上層に形成される下層皮膜中に、その皮膜特性を向上させる作用を有するものの環境上の問題から望ましくないとされるCrを含有させることなく、錫めっき層の表層の錫酸化物の成長に由来する耐黄変性を高いレベルで有効に向上させ、耐錆精に優れ、加工性と塗料密着性を確保できる、錫めっき鋼板の提供が可能になった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板表面に形成した錫めっき層上に、りん酸塩を含有する下層皮膜を有し、該下層皮膜の付着量をP付着量にして0.5〜100mg/m2の範囲とし、さらに、前記下層皮膜上に、珪酸塩を含有する上層皮膜を有し、該上層皮膜中の珪酸塩の付着量をSi付着量にして0.1〜250mg/m2の範囲とすることを特徴とする錫めっき鋼板。
【請求項2】
前記珪酸塩含有皮膜は、平均粒子径が0.1〜2.5μmである有機樹脂粒子をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の錫めっき鋼板。
【請求項3】
前記りん酸塩は、Zn、Al、Sn、Mg、Mn、Ca、Fe、Ni、Mo、SrおよびCeの中から選ばれる1種または2種以上の金属元素を含む第一リン酸塩からなることを特徴とする請求項1または2に記載の錫めっき鋼板。
【請求項4】
前記珪酸塩は、Li、Na、CaおよびKの中から選ばれる1種または2種以上の金属塩であることを特徴とする請求項1、2または3に記載の錫めっき鋼板。
【請求項5】
前記珪酸塩に含まれる、SiO2のモル数の、金属Mの合計モル数(Li、NaおよびKの場合はMOとして、また、Caの場合はMOとして換算)に対する比(SiOモル数/MOまたはMO換算合計モル数)が2以上8以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の錫めっき鋼板。
【請求項6】
前記有機樹脂粒子が、エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂およびシリコン系樹脂の中から選ばれる1種または2種以上からなり、その配合量は、珪酸塩の固形成分の合計100質量部に対し、樹脂固形分の合計で100質量部以下であることを特徴とする、請求項2〜5のいずれか1項に記載の錫めっき鋼板。


【公開番号】特開2007−224361(P2007−224361A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46859(P2006−46859)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】