説明

鍛造装置

【課題】ワークの飛び跳ねを防止して、生産性の向上を図り得るようにした鍛造装置を提供する。
【解決手段】鍛造装置は、成形凹部11を有するダイ10と、成形凹部11内に配置されたワーク押圧するパンチとを備える。鍛造装置は、成形凹部11に鍛造工程中の温度で水分が蒸発する水溶性潤滑剤を塗布した後、成形凹部11内に配置されたワーク温間鍛造または熱間鍛造により成形する。成形凹部11に、水溶性潤滑剤の水分の水蒸気化によって発生するワーク飛び跳ねを規制するようにアンダカット凹部15を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両に装備される等速ジョイントの外輪やクランクシャフト、ベアリング、ハブ等の製造に好適に採用される鍛造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鍛造を行って、車両に装備される等速ジョイントの外輪を製造する装置として、例えば特許文献1に記載されているものが知られている。この特許文献1に記載された装置は、成形凹部を有するダイとパンチとを備え、ダイの成形凹部内に配置されたワーク(成形素材)をパンチで押圧することにより、前方押出し加工や据込み加工、後方押出し加工などを行って鍛造成形するものである。
【0003】
そして、上記の鍛造成形を温間鍛造で行う場合には、上記の各加工工程では、図4に示すように、(a)水溶性潤滑剤30をダイ10の成形凹部11およびパンチ20に塗布する潤滑剤塗布工程、(b)ダイ10の成形凹部11にワークWを配置するワーク配置工程、(c)パンチ20をワークWに押圧して成形する成形工程、(d)ノックアウトピン40でワークWを突き出す突き出し工程、(e)ワークWを次工程へ搬送する搬送工程、というサイクルが繰り返される。なお、図4は、後方押出し加工の場合を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−188633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように温間鍛造を行う場合、(d)突き出し工程において、成形が完了したワークWをノックアウトピン40で突き出す前に、ワークWの飛び跳ねが発生することがある。ワークWの飛び跳ねが発生すると、製造ライン上の把持装置によりワークWを所定の位置で把持することができなくなるため、ワークWの搬送異常となり、生産性を悪化させる。
【0006】
なお、ワークWの飛び跳ね発生は、(a)潤滑剤塗布工程において、油性潤滑剤を用いると鍛造工程中の温度で燃える可能性があるため、水溶性潤滑剤30を用いていることが原因と推定される。即ち、水溶性潤滑剤30を用いた場合には、水溶性潤滑剤30の水分が鍛造工程中の温度で蒸発して水蒸気が発生する。この水蒸気は、成形凹部11とワークWの間の密閉状の空間内に発生し、且つ、その空間は、ワークWがパンチ20で押圧されることにより高温・高圧になる。そのため、水溶性潤滑剤30の水分が水蒸気化したときには、その空間内に、ワークWを飛び跳ねさせる極めて大きな力が発生するからである。そこで、ダイ10やノックアウトピン40に、その水蒸気を逃がす溝や穴を設けることが考えられるが、ワークWの飛び跳ねは、ノックアウトピン40でワークWを突き出す前に発生するため、完全には対策できない。
【0007】
なお、温間鍛造よりも高温となる熱間鍛造を行う場合には、水蒸気の圧力がより高まるため、上記のようなワークWの飛び跳ねの発生頻度が高くなる。また、等速ジョイントの外輪の製造を行う場合に限らず、クランクシャフトやベアリング、ハブ等の製造を行う場合にも同様の問題が発生する。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ワークの飛び跳ねを防止して、生産性の向上を図り得るようにした鍛造装置を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する請求項1に係る発明の構成上の特徴は、成形凹部を有するダイと、前記成形凹部内に配置されたワークを押圧するパンチと、を備え、前記成形凹部に鍛造工程中の温度で水分が蒸発する水溶性潤滑剤を塗布した後、前記成形凹部内に配置された前記ワークを温間鍛造または熱間鍛造により成形する鍛造装置において、前記成形凹部には、前記ワークの飛び跳ねを規制するアンダカット凹部が設けられていることである。
【0010】
本発明において、アンダカット凹部のワーク挿入方向および抜き方向両側の端部は、段付き形状にするとダイおよびワークの双方にダメージが発生し易いので、テーパ状などの滑らかに傾斜する状態にするのが好ましい。即ち、段付き形状にすると、ワークの素材がパンチの押圧により流動変形する際に、円滑に流動し難くなるため、成形後のワークに表面欠陥が発生し易くなる。一方、ダイは、その段付き形状のエッジ部分が破損し易いので、寿命が短くなる。
【0011】
また、アンダカット凹部の深さは、ワークの大きさや重量、水溶性潤滑剤から発生する水蒸気の圧力の大きさ等を考慮して、適宜設定することができる。なお、アンダカット凹部の深さを小さくし過ぎると、ワークの飛び跳ね防止効果が得られなくなる。逆に、アンダカット凹部の深さを大きくし過ぎると、成形後のワークをノックアウトピン等で突き出す際に突き出せなくなったり、アンダカット凹部に張り出した部位の表面に傷やしわとして残ったりする。よって、アンダカット凹部の深さは、成形後のワークがノックアウトピン等で成形凹部から突き出されるときに、アンダカット凹部に張り出した部位がダイによりしごかれて、形状として残らない程度にすることを基準に設定すればよい。このようにすれば、精度への悪影響も少なくすることができる。
【0012】
また、アンダカット凹部の長さ(ワークの抜き方向)は、成形凹部の深さやアンダカット凹部が設けられる部位等を考慮して、適宜設定することができる。この場合、成形後のワークをノックアウトピン等で成形凹部から突き出す際には、水溶性潤滑剤から発生した水蒸気の圧力がワークの移動に伴って低減するので、ワークのアンダカット凹部に張り出した部位とアンダカット凹部との係合状態(引っ掛かり状態)を、ワークの飛び跳ねが発生しなくなる所まで維持できるようにすればよい。即ち、アンダカット凹部の長さは、ワークのアンダカット凹部に張り出した部位とアンダカット凹部との係合状態(引っ掛かり状態)を維持可能な、ワークの移動距離を考慮して設定することができる。なお、アンダカット凹部は、成形凹部の周方向の少なくとも一部に設けられていればよい。
【0013】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1に記載の鍛造装置において、前記成形凹部は、前記ワークの軸部となる部位を成形する軸部成形面と、前記軸部よりも大径となる部位を成形する大径部成形面とを有し、前記アンダカット凹部は、前記大径部成形面に設けられていることである。
【0014】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または2に記載の鍛造装置において、前記アンダカット凹部は、前記成形凹部の周方向全周にわたって連続して設けられていることである。
【0015】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の鍛造装置において、前記アンダカット凹部は、成形後の前記ワークを前記成形凹部から抜く方向側に、該抜く方向に向かって徐々に小径となる第1テーパ面を有することである。
【0016】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の鍛造装置において、前記アンダカット凹部は、成形後の前記ワークを前記成形凹部から抜く方向と反対方向側に、該抜く方向と反対方向に向かって徐々に小径となる第2テーパ面を有することである。
【0017】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の鍛造装置において、成形後の前記ワークを前記成形凹部から突き出すノックアウトピンまたは前記ダイには、前記鍛造工程中に前記水溶性潤滑剤より発生した水蒸気を逃がす逃がし通路が設けられていることである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、ダイの成形凹部には、ワークの飛び跳ねを規制するアンダカット凹部が設けられている。これにより、ワークが鍛造成形される際に、ワークの一部がアンダカット凹部へ張り出すことによって張出部が形成される。そのため、水溶性潤滑剤の水分が水蒸気化することによってワークを飛び跳ねさせる力が発生したときには、ワークに形成された張出部とダイのアンダカット凹部との間に発生する引っ掛かり力によって、ワークの飛び跳ねが規制される。これにより、成形後のワークをノックアウトピン等で突き出す前に発生するワークの飛び跳ねを確実に防止することができるので、ワークの搬送異常を回避し、生産性の向上を図ることができる。
【0019】
請求項2に係る発明によれば、成形凹部は、ワークの軸部となる部位を成形する軸部成形面と、軸部よりも大径となる部位を成形する大径部成形面とを有し、アンダカット凹部は、大径部成形面に設けられている。即ち、アンダカット凹部は、軸部成形面よりも大径の大径部成形面に設けられている。これにより、アンダカット凹部が軸部成形面に設けられた場合に比べて、鍛造成形を行う際に、ワーク素材が径方向外方に流動し易く、アンダカット凹部への張り出しが良好となるので、表面欠陥の発生を抑制することができる。また、アンダカット凹部が軸部成形面に設けられた場合に比べて、アンダカット凹部の径が大きいので、アンダカット凹部とワークとの引っ掛かり力を大きくすることができる。そのため、ワークの飛び跳ねをより確実に防止することが可能となる。
【0020】
また、成形凹部に軸部成形面と大径部成形面が設けられる場合には、成形後のワークを成形凹部から抜く方向側に、大径部成形面が設けられる。そのため、成形後のワークをノックアウトピン等で突き出す際には、成形凹部とワークとの対向面に塗布された水溶性潤滑剤から発生する水蒸気は、ノックアウトピン等の挿入方向と反対側(軸部成形面側)に流動するので、アンダカット凹部を大径部成形面に設けることによって、水蒸気の逃げ道を塞がないようにすることができる。
【0021】
請求項3に係る発明によれば、アンダカット凹部は、成形凹部の周方向全周にわたって連続して設けられている。これにより、ワークの飛び跳ねをより確実に防止することが可能となる。
【0022】
請求項4に係る発明によれば、アンダカット凹部は、成形後のワークを成形凹部から抜く方向側に、該抜く方向に向かって徐々に小径となる第1テーパ面を有する。これにより、成形後のワークをノックアウトピン等で突き出す際に、ワークを円滑に突き出すことができる。また、ダイの成形凹部の壁面と第1テーパ面が交わる角部の角度が大きくなる(鈍角)になるので、角部の破損が抑制され、耐久性が向上する。
【0023】
請求項5に係る発明によれば、アンダカット凹部は、成形後のワークを成形凹部から抜く方向と反対方向側に、該抜く方向と反対方向に向かって徐々に小径となる第2テーパ面を有する。これにより、鍛造成形を行う際に、ワークを成形凹部から抜く方向と反対方向に、ワーク素材が円滑に流動し易くなるので、ワークの表面欠陥の発生を抑制することができる。本発明の効果は、ワークに軸出し加工を施す場合に特に有効となる。
【0024】
請求項6に係る発明によれば、成形後のワークを係合凹部から突き出すノックアウトピンまたはダイには、鍛造工程中に水溶性潤滑剤より発生した水蒸気を逃がす逃がし通路が設けられている。これにより、水溶性潤滑剤より発生した水蒸気の圧力を低減することができるので、ノックアウトピンで突き出されるワークを、所定位置まで円滑に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態に係る鍛造装置のダイの要部を示す断面図である。
【図2】図1のA部を拡大して示す拡大断面図である。
【図3】実施形態に係る鍛造装置のノックアウトピンを示す図であって、(a)は軸方向に沿う断面図であり、(b)は先端側から見た正面図である。
【図4】温間鍛造を行う場合の各工程を示す模式図であって、(a)は潤滑剤塗布工程、(b)はワーク配置工程、(c)は成形工程、(d)は突出し工程、(e)は搬送工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の鍛造装置を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態の鍛造装置は、軸部およびカップ部が一体に形成された等速ジョイント用外輪の製造に用いられるものであって、前方押出し加工(軸出し工程)用のものである。この鍛造装置は、図4(a)〜(e)に示す鍛造装置と同様に、成形凹部11を有するダイ10と、成形凹部11内に配置されたワークWを押圧するパンチ20と、成形後のワークWを係合凹部11から突き出すノックアウトピン40とを備えるものであるが、ダイ10およびノックアウトピン40の構成が異なる。よって、先ず本実施形態の鍛造装置全体の概略構成について、図4を参照して簡単に説明する。
【0027】
ダイ10は、成形凹部11の開口が上方を向いた状態でベース10aに固定されている。成形凹部11は、ワークWの軸部となる部位を成形する軸部成形面12と、軸部よりも大径となる部位を成形する中径部成形面13と、中径部成形面13よりも大径となる部位を成形する大径部成形面14とを有する(図4(a)参照)。軸部成形面12は、成形凹部11の最も底部側に位置し、大径部成形面14は、成形凹部11の最も開口側に位置している。軸部成形面12と中径部成形面13、および中径部成形面13と大径部成形面は、それぞれテーパ面で接続されている。成形凹部11には、ノズル31から噴射される水溶性潤滑剤30が塗布されるようになっている。また、ダイ10の底部には、成形後のワークWを成形凹部11から突き上げるノックアウトピン40が配設されている(図4(d)参照)。このノックアウトピン40については、後で詳述する。
【0028】
パンチ20は、ダイ10の上方に、上下方向に昇降可能に設けられた可動ベース20aに固定されている。このパンチ20は、可動ベース20aが下降したときに、先端部がダイ10の成形凹部11内に軸合わせした状態で挿入するようになっている。パンチ20の先端部には、ノズル32から噴射される水溶性潤滑剤30が塗布されるようになっている。
【0029】
なお、成形凹部11内に配置されるワークWは、製造ライン上に設けられた把持装置(図示せず)により把持されて搬送されるようになっている。
【0030】
次に、本実施形態のダイ10の構成について、図1および図2を参照して説明する。図1は、実施形態に係る鍛造装置のダイ10の要部を示す断面図である。図2は、図1のA部を拡大して示す拡大断面図である。なお、図1および図2において、成形後のワークWを成形凹部11から抜く方向(ノックアウトピン40で突き出す方向)は、矢印X方向(図1、図2の左方向)となっている。
【0031】
本実施形態のダイ10の成形凹部11は、上記のように、軸部成形面12と、中径部成形面13と、大径部成形面14とを有する。そして、大径部成形面14の軸方向略中央部には、図1および図2に示すように、ワークWの飛び跳ねを規制するアンダカット凹部15が設けられている。このアンダカット凹部15は、大径部成形面14の周方向全周にわたって連続するようにリング状に形成されている。このアンダカット凹部15は、軸方向中央部に位置するストレート部15aと、ストレート部15aの軸方向一端側(矢印X方向側)に位置し一端側に向かって徐々に小径となる第1テーパ面15bと、ストレート部15aの軸方向他端側(矢印Y方向側)に位置し他端側に向かって徐々に小径となる第2テーパ面15cとからなる。これらストレート部15a、第1テーパ面15bおよび第2テーパ面15cは、それぞれ一定幅で周方向に延びるように形成されている。
【0032】
また、ダイ10の底部には、ノックアウトピン40が挿通される挿通孔16が設けられている。この挿通孔16は、成形凹部11と同軸状に形成され、成形凹部11の底部と連通している。
【0033】
次に、ノックアウトピン40について、図3を参照して説明する。図3(a)はノックアウトピン40の軸方向に沿う断面図であり、(b)はノックアウトピン40の先端側から見た正面図である。ノックアウトピン40は、長尺な棒状に形成されたものであり、一端側に位置しアクチュエータ(図示せず)に固定される基部41と、基部41から他端側に延出する円柱状の支持部42とからなる。支持部42の外周面には、軸方向に延びる複数の逃がし溝43が周方向に等間隔に設けられている。
【0034】
このノックアウトピン40は、ダイ10の底部に設けられた挿通孔16(図1参照)に本体部42が挿通配置され、アクチュエータの作動により、成形後のワークWを係合凹部11から突き出すように構成されている。なお、ノックアウトピン40の支持部42が挿通孔16に挿通されたときには、支持部42の外周面に設けられた逃がし溝43と挿通孔16の壁面との間に、水溶性潤滑剤30の水分の蒸発により成形凹部11内に発生した水蒸気の逃がし通路が形成される。
【0035】
以上のように構成された本実施形態の鍛造装置は、図4に示すように、(a)潤滑剤塗布工程と、(b)ワーク配置工程と、(c)成形工程と、(d)ワーク突き出し工程と、(e)ワーク搬送工程とを順番に実施することによって、ワークWの鍛造成形(前方押出し加工)を行う。即ち、(a)潤滑剤塗布工程では、成形凹部11およびパンチ20の先端部には、各ノズル31、32から噴射される水溶性潤滑剤30が塗布される。次の(b)ワーク配置工程では、把持装置により把持されて搬送されるワークWが、ダイ10の成形凹部11内に投入配置される。
【0036】
そして、次の(c)成形工程では、可動ベース20aの下降によって、パンチ20の先端部がダイ10の成形凹部11内に挿入し、ワークWを所定圧力で押圧する。これにより、成形凹部11内に配置されたワークWは、パンチ20の前方(下方)に押し出され、軸部成形面12により軸部が成形される。また、これと同時に、成形凹部11の大径部成形面14に設けられたアンダカット凹部15へ、ワークWの大径部の一部が張り出すことによって張出部が形成される。このとき、アンダカット凹部15の軸方向他端部には、軸方向他端側(矢印Y方向側)に向かって徐々に小径となる第2テーパ面15cが設けられているので、ワーク素材が円滑に流動し、ワークWの表面欠陥の発生が抑制される。その後、可動ベース20aの上昇によって、パンチ20が上昇する。
【0037】
このとき、成形凹部11とワークWの対向面間には、成形凹部11に塗布された水溶性潤滑剤30の水分が鍛造工程中の温度で蒸発することによって高圧な水蒸気が発生しており、この高圧な水蒸気によりワークWを飛び跳ねさせる力が作用する。しかし、本実施形態では、ワークWの大径部に形成された張出部と、成形凹部11の大径部成形面14に設けられたアンダカット凹部15との間に発生した係合力(引っ掛かり力)により、ワークWの飛び跳ねが確実に防止される。
【0038】
その後、(d)ワーク突き出し工程では、アクチュエータの作動によりノックアウトピン40が上昇して、成形後のワークWを係合凹部11から上方へ突き出す。これにより、上方へ突き出されるワークWは、大径部に形成された張出部が成形凹部11の大径部成形面14を通過するときにしごかれて消滅する。このとき、アンダカット凹部15の軸方向一端部には、軸方向一端側(矢印X方向側)に向かって徐々に小径となる第1テーパ面15bが設けられているので、ワークWはノックアウトピン40により円滑に突き出される。また、成形凹部11の壁面と第1テーパ面15bが交わる角部の破損も抑制される。
【0039】
そして、ノックアウトピン40が上昇する際には、ノックアウトピン40の支持部42に設けられた逃がし溝43(逃がし通路)を介して、成形凹部11内の高圧な水蒸気が外部へ逃がされるので、成形凹部11内が減圧される。これにより、ノックアウトピン40で突き出されるワークWは、所定位置まで円滑に移動する。
【0040】
その後、鍛造装置による鍛造成形(前方押出し加工)を完了して所定位置まで移動したワークWは、把持装置により把持されて次工程に搬送される((e)搬送工程)。
【0041】
以上のように、本実施形態の鍛造装置によれば、ダイ10の成形凹部11にアンダカット凹部15が設けられているので、ワークWが鍛造成形される際に、水溶性潤滑剤30の水分が水蒸気化することにより発生するワークWの飛び跳ねを、確実に防止することができる。これにより、ワークWの搬送異常を回避し、生産性の向上を図ることができる。本実施形態のアンダカット凹部15は、成形凹部11の周方向全周にわたって連続して設けられているので、ワークWの飛び跳ねをより確実に防止することが可能となる。
【0042】
そして、本実施形態のアンダカット凹部15は、成形凹部11の大径部成形面14に設けられているので、鍛造成形を行う際に、ワーク素材が径方向外方に流動し易く、アンダカット凹部15への張り出しが良好となるので、表面欠陥の発生を抑制することができる。また、アンダカット凹部15の径を大きくすることができ、アンダカット凹部15とワークWとの係合力(引っ掛かり力)を大きくすることができるので、ワークWの飛び跳ねをより確実に防止することが可能となる。さらに、アンダカット凹部15は、軸部成形面12と反対側に位置する大径部成形面14に設けられているので、ノックアウトピン40の逃がし溝43と軸部成形面12との間に形成される水蒸気の逃がし通路を塞がないようにすることができる。
【0043】
また、本実施形態のアンダカット凹部15は、第1テーパ面15bを有することから、成形後のワークWをノックアウトピン40で突き出す際に、ワークWを円滑に突き出すことができる。さらに、成形凹部11の壁面と第1テーパ面15bが交わる角部の角度が大きくなる(鈍角)になるので、角部の破損を抑制することができ、耐久性が向上する。
【0044】
また、本実施形態のアンダカット凹部15は、第2テーパ面15cを有することから、鍛造成形を行う際に、ワークWを成形凹部11から抜く方向と反対方向に、ワーク素材が円滑に流動し易くなるので、ワークWの表面欠陥の発生を抑制することができる。この効果は、本実施形態のように、ワークWに軸出し加工を施す場合に特に有効となる。
【0045】
そして、本実施形態では、ノックアウトピン40に逃がし溝43が設けられることにより、鍛造工程中に水溶性潤滑剤30より発生した水蒸気の逃がし通路が設けられている。これにより、水溶性潤滑剤30より発生した水蒸気の圧力を低減することができるので、ノックアウトピン40で突き出されるワークWを、所定位置まで円滑に移動させることができる。
【0046】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。
【0047】
例えば、上記実施形態では、アンダカット凹部15は、成形凹部11の周方向全周にわたって連続して設けられているが、成形凹部11の周方向の一部(1箇所)にのみアンダカット凹部を設けるようにしたり、成形凹部11の周方向の複数箇所にアンダカット凹部を設けたりしてもよい。
【0048】
また、上記実施形態の鍛造装置は、ワークWに前方押出し加工を施して軸部を成形する軸出し工程用のものであるが、その他、据込み加工を施して大径部を成形する大径部成形工程用の鍛造装置や、後方押出し加工を施してカップ部を成形するカップ部成形用の鍛造装置にも、本発明を適用することができる。
【0049】
また、上記実施形態では、等速ジョイントの外輪の製造に用いる鍛造装置を例示したが、その他、例えば車両に装備される機器のクランクシャフトやベアリング、ハブ等の製造に用いる鍛造装置にも、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
10…ダイ、 11…成形凹部、 12…軸部成形面、 13…中径部成形面、 14…大径部成形面、 15…アンダカット凹部、 15a…ストレート部、 15b…第1テーパ面、 15c…第2テーパ面、 20…パンチ、 30…水溶性潤滑剤、 40…ノックアウトピン、 41…基部、 42…支持部、 43…逃がし溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形凹部を有するダイと、前記成形凹部内に配置されたワークを押圧するパンチと、を備え、前記成形凹部に鍛造工程中の温度で水分が蒸発する水溶性潤滑剤を塗布した後、前記成形凹部内に配置された前記ワークを温間鍛造または熱間鍛造により成形する鍛造装置において、
前記成形凹部には、前記ワークの飛び跳ねを規制するアンダカット凹部が設けられていることを特徴とする鍛造装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記成形凹部は、前記ワークの軸部となる部位を成形する軸部成形面と、前記軸部よりも大径となる部位を成形する大径部成形面とを有し、
前記アンダカット凹部は、前記大径部成形面に設けられていることを特徴とする鍛造装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記アンダカット凹部は、前記成形凹部の周方向全周にわたって連続して設けられていることを特徴とする鍛造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、
前記アンダカット凹部は、成形後の前記ワークを前記成形凹部から抜く方向側に、該抜く方向に向かって徐々に小径となる第1テーパ面を有することを特徴とする鍛造装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、
前記アンダカット凹部は、成形後の前記ワークを前記成形凹部から抜く方向と反対方向側に、該抜く方向と反対方向に向かって徐々に小径となる第2テーパ面を有することを特徴とする鍛造装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、
成形後の前記ワークを前記成形凹部から突き出すノックアウトピンまたは前記ダイには、前記鍛造工程中に前記水溶性潤滑剤より発生した水蒸気を逃がす逃がし通路が設けられていることを特徴とする鍛造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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