説明

鍵盤楽器の蓋体構造

【課題】演奏するに際し、奏者側に対して楽器内部の遮蔽/開放を選択できるようにする。
【解決手段】鍵盤蓋60の第1端部60aは、前板部65の第1端部65aに、鍵盤蓋用回動軸63を中心に回動自在に支持される。前板部65は、スライドアーム42に、前板部用回動軸67を中心に回動自在に支持される。鍵盤蓋60を開蓋して開閉蓋ユニットUNTを半開状態とし、前板部65の左右端部に設けた係合部69をガイド溝45の円弧状部分45aに沿って移動させると、鍵盤蓋60と一緒に前板部65が前板部用回動軸67を中心に回動し、開閉蓋ユニットUNTが全開状態となって、鍵盤部KBの後部KBa上方が奏者側に対して開放される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤部を覆う鍵盤蓋と、鍵盤部の後部上方を奏者側に対して遮蔽する前板部とを有する鍵盤楽器の蓋体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓋体構造に工夫を凝らしたピアノ系電子鍵盤楽器が知られている(下記特許文献1、2)。また、一部のピアノ系電子鍵盤楽器においては、外観及び演奏感覚を、アコースティックピアノ(以下「生ピアノ」とも称する)のそれに近づけるための努力が広く行われてきた。その工夫は、音源システム、鍵盤機構、外装機構等の各部においてなされ、蓋体機構においてもなされてきている。
【0003】
ところで、生ピアノの歴史は古く、その概念は、固定的なものとなっている。例えば、生ピアノでは、鍵後部の上方にピアノアクションがある。そして、鍵盤部後方上部には前板があり、この前板によって、楽器本体内部のピアノアクション等が隠されている。また、鍵盤蓋は、鍵盤部だけを覆い隠すために設けられ、開蓋時には起立して、前板と対向して重なる。
【特許文献1】実公平7−49511号公報
【特許文献2】特開2004−302419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ピアノ系電子鍵盤楽器において、上記のような生ピアノ特有の外観的特徴や構造を有しない場合は、もはや擬似的にも生ピアノとして認識されない。
【0005】
例えば、上記特許文献1の鍵盤楽器は、鍵盤部を覆う鍵盤蓋を、前後方向にスライドさせることで開閉可能であるが、鍵盤蓋の動きや開蓋後の外観は、生ピアノとは全く異なる。また、上記特許文献2の鍵盤楽器は、鍵盤蓋の裏面に操作パネルが設けられている。演奏操作時には、鍵盤蓋を開蓋状態とすると操作パネルが現れて操作できるようになるが、そのため、外観上は生ピアノとは異なるものとなる。
【0006】
ところで、生ピアノにおいても、鍵盤後方の弦や響板等の楽音発生部を、上方だけでなく、奏者側にも開放することができれば、効率よい放音が期待できる。
【0007】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、演奏するに際し、奏者側に対して楽器内部の遮蔽/開放を選択することができる鍵盤楽器の蓋体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明の請求項1の鍵盤楽器の蓋体構造は、楽器本体(101)の棚板(21)に対して固定的であって前記棚板の両側部に位置する支持部(23、22)と、閉蓋状態で鍵盤部(KB)を覆うと共に開蓋状態では前記鍵盤部の演奏操作を可能とする鍵盤蓋(60)と、少なくとも前記鍵盤部の幅を有し、少なくとも第1状態と第2状態の姿勢をとり得る前板部であって、回動軸(63)を中心に前記鍵盤蓋を開閉方向に回動自在に保持すると共に、前記第1状態では、前記鍵盤部の後部(KBa)上方を奏者側に対して遮蔽する前板部(65)と、前記前板部の両側部に設けられた係合部(69)と、前記係合部に対応して前記支持部の各内側に設けられた変位ガイド部(45)とを有し、前記鍵盤蓋を開蓋状態として、前記前板部の前記係合部を前記変位ガイド部に沿って移動させると、前記鍵盤蓋と一緒に前記前板部が移動して前記前板部が前記第1状態から前記第2状態へと姿勢を変え、それによって、前記鍵盤部の後部上方が奏者側に対して開放されるように構成されたことを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するために本発明の請求項2の鍵盤楽器の蓋体構造は、閉蓋状態で鍵盤部を覆うと共に開蓋状態では前記鍵盤部の演奏操作を可能とする鍵盤蓋と、少なくとも前記鍵盤部の幅を有し、少なくとも第1状態と第2状態の姿勢をとり得る前板部であって、前記第1状態における下端部に位置する第1回動軸(63)を中心に前記鍵盤蓋を開閉方向に回動自在に保持すると共に、前記第1状態では、前記鍵盤部の後部上方を奏者側に対して遮蔽する前板部と、楽器本体に設けられ、前記前板部の前記第1状態において前記第1回動軸より上方に位置する第2回動軸(67)を中心に前記前板部を回動自在に保持する回動保持部材(42)とを有し、前記鍵盤蓋を開蓋状態として、前記前板部を前記第2回動軸を中心に回動させると、前記鍵盤蓋と一緒に前記前板部が回動して前記前板部が前記第1状態から前記第2状態へと姿勢を変え、それによって、前記鍵盤部の後部上方が奏者側に対して開放されるように構成されたことを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成するために本発明の請求項3の鍵盤楽器の蓋体構造は、楽器本体の棚板に対して固定的であって前記棚板の両側部に位置する支持部と、
閉蓋状態で鍵盤部を覆うと共に開蓋状態では前記鍵盤部の演奏操作を可能とする鍵盤蓋と、
少なくとも前記鍵盤部の幅を有し、少なくとも第1状態と第2状態の姿勢をとり得る前板部であって、前記第1状態における下端部に位置する第1回動軸を中心に前記鍵盤蓋を開閉方向に回動自在に保持すると共に、前記第1状態では、前記鍵盤部の後部上方を奏者側に対して遮蔽する前板部と、前記支持部に設けられ、前記前板部の前記第1状態において前記第1回動軸より上方に位置する第2回動軸を中心に前記前板部を回動自在に保持する回動保持部材と、前記前板部の両側部に設けられた係合部と、前記係合部に対応して前記支持部の各内側に設けられ、前記第2回動軸を中心とした円弧状部分(45a)を有する変位ガイド部とを有し、前記鍵盤蓋を開蓋状態として、前記前板部を前記第2回動軸を中心に回動させると、前記係合部が前記変位ガイド部に沿って移動すると共に、前記鍵盤蓋と一緒に前記前板部が移動して前記前板部が前記第1状態から前記第2状態へと姿勢を変え、それによって、前記鍵盤部の後部上方が奏者側に対して開放されるように構成されたことを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記前板部を前記第2状態に維持する維持手段(45b、46)を設ける(請求項4)。また、好ましくは、前記鍵盤部の後部(KBa)上方において、前記前板部の前記第2状態において奏者側に対して開放される部分に、電子楽器としての機能要素(11、12、13)が配設される(請求項5)。さらに好ましくは、前記鍵盤蓋の開蓋状態では、前記鍵盤蓋と前記前板部とは面対向して折り畳み状態となり、前記鍵盤蓋が開蓋状態で且つ前記前板部が前記第2状態である場合に、これらを後方にスライド移動させることで、前記鍵盤蓋が前記前板部と一緒に前記楽器本体に収容可能に構成されている(請求項6)。
【0012】
なお、上記括弧内の符号は例示である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1、2、3によれば、演奏するに際し、奏者側に対して楽器内部の遮蔽/開放を選択することができる。
【0014】
請求項4によれば、鍵盤部の後部上方が奏者側に対して開放された状態を維持することができる。
【0015】
請求項5によれば、例えば、奏者側に対して開放される部分に、楽音制御用の操作子等を配設すれば、第2状態では電子楽器としての演奏を行うことができ、スピーカ等の音響発生部を配設すれば、放音効率が向上する。
【0016】
請求項6によれば、鍵盤蓋及び前板部が収容された状態で演奏でき、目障りとならず、見栄えがよい。また、演奏するに際し、鍵盤部の後方且つ上方の空間に干渉しないように鍵盤蓋を鍵盤部の後方上方に収容可能にして、鍵盤部の後方且つ上方の空間に部品の配置スペースを確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態に係る蓋体構造が適用される鍵盤楽器の平面図である。本鍵盤楽器100は、電子鍵盤楽器として構成され、楽器本体101が不図示の脚部に支持されてなる。以降、楽器本体101の左右方向は、奏者からみた方向を基準とし、前後方向については、楽器本体101の奏者側を「前方」とする。
【0019】
図2は、同鍵盤楽器100の楽器本体101の内部を透視する右側面図である。図3は、図1のA部の拡大図である。図4は、楽器本体101の右側部の正面図である。図5は、蓋体構造を示す右側面図である。
【0020】
図2に示すように、楽器本体101には、開閉蓋ユニットUNTが設けられる。開閉蓋ユニットUNTは、詳細は後述するが、主として蓋前部62、鍵盤蓋60及び前板部65から構成される。
【0021】
図1では、譜面受け17(図2参照)等が外された状態が示されており、パネル部10(図2参照)が見えている。また、図2では、左右対称の要素については、右側面に位置する右側の側板23(図3参照)に対して直接または間接に取り付けられている要素が表されている。以降、蓋体構造に関し、左右対称の構成要素については、符号も区別することなく、右側の構成要素を代表して説明する。
【0022】
図1、図3、図5では、開閉蓋ユニットUNTが完全に閉じた状態が示され、図4では、開閉蓋ユニットUNTが完全に開いた状態が示されている。さらに、図2では、鍵盤蓋60が開蓋状態で且つ前板部65が閉蓋状態である状態が示されている。
【0023】
開閉蓋ユニットUNTは、開閉操作行程において、大きく分けて4段階の姿勢(状態)をとることができる。以降、開閉蓋ユニットUNTが完全に閉じた状態(図1、図3、図5参照)を「全閉状態」、鍵盤蓋60が開蓋状態で且つ前板部65が閉蓋状態である状態(図2、図6参照)を「半開状態(第1状態)」、開閉蓋ユニットUNTが完全に開いた状態(図4、図7参照)を「全開状態(第2状態)」と呼称する。このほか、全開状態のまま開閉蓋ユニットUNTが楽器本体101に収容された「収容完了状態」がある(図8で後述)。
【0024】
図2、図4に示すように、楽器本体101の底部には、楽器本体101の全幅に亘って棚板21が配設される。楽器本体101の左右両側部には、側板23が棚板21に対して固定され(図3参照)、棚板21の前部内側には腕木22が固定されている(図3、図4参照)。また、図2、図4に示すように、棚板21の前部上部には、それぞれ複数の白鍵24、黒鍵25からなる鍵盤部KBが配設されている。
【0025】
また、図2に示すように、棚板21において、鍵盤部KBの後方には、パネル取付部14を介してパネル部10が配設されている。パネル部10は、その後部が起きあがって斜めに傾斜しており、その前面には、電気的に音響を発生させる左右一対のスピーカ12、機器設定や楽音制御等のための各種操作子群11、各種情報を表示する表示部13等、電子楽器としての機能要素が多数配設されている(図1参照)。さらに、楽器本体101の後半部であって、パネル部10よりも後方には、スピーカボックスを含む音響発生部15、16が配設される。スピーカ12、及び音響発生部15、16からの音響は、大屋根18(図1参照)を開けて放音させることができる。後述するように、スピーカ12の音響は、開閉蓋ユニットUNTを全開状態にして、奏者側(前方)へ放音させることも可能である。
【0026】
まず、開閉蓋ユニットUNTを説明する。開閉蓋ユニットUNTの姿勢が変化することに鑑み、以降、図5に示す全閉状態において、鍵盤蓋60の後端部を第1端部60a、前端部を第2端部60bと称する。また、同じ状態で、前板部65の下端部を第1端部65a、上端部を第2端部65bと称する。
【0027】
図2、図5に示すように、蓋前部62は、鍵盤蓋60の第2端部60bに、蓋前部用回動軸61を介して回動自在に支持される。蓋前部62は、鍵盤蓋60に対して略直角をなす状態(図5参照)と、鍵盤蓋60に対向する状態(図2参照)とをとることができる。蓋前部62、鍵盤蓋60及び前板部65は、左右の腕木22間に亘って設けられ、鍵盤部KBの左右方向の幅よりやや大きい幅を有する。開閉蓋ユニットUNTの全閉状態においては、蓋前部62は、鍵盤部KBの前方を覆う。
【0028】
鍵盤蓋60の第1端部60aは、前板部65の第1端部65aに、鍵盤蓋用回動軸63を中心に回動自在に支持される。ここで、鍵盤蓋60の表面及び前板部65の表面は、アコースティックグランドピアノ(以下、単に「生ピアノ」と称する)と同様の木質材で構成され、外観上も生ピアノのものと同じにされている。一方、鍵盤蓋60の第1端部60a、及び前板部65の第1端部65aのうち回動機構に関わる部分は、いずれもそれぞれの左右両端部だけであり、且つ、少なくともその部分は、金属製の部材で構成される。
【0029】
鍵盤蓋60の第1端部60aには不図示のトルクダンパユニットが設けられる。鍵盤蓋用回動軸63は、トルクダンパユニットから突出しており、前板部65の第1端部65aに設けられた穴に嵌合している。このトルクダンパユニットは、ワンウェイトルク型であり、鍵盤蓋60が開蓋方向(図2の時計方向)に回動する際にはトルクを発生させず、鍵盤蓋60が閉蓋方向(反時計方向)に回動する際にだけ所定のトルクを発生させる。これにより、鍵盤蓋60が軽い力で開けられると共に、閉蓋操作時には、鍵盤蓋60がその自重で緩やかに閉まるようになっている。
【0030】
前板部65の裏面側において、第1端部65aと第2端部65bの中間位置よりやや第2端部65b寄りには、トルクダンパユニット66が設けられる(図2、図3参照)。ここで、少なくとも、トルクダンパユニット66が設けられる前板部65の裏面部分は、金属製部材で構成される。一方、後述するスライドアーム42の前側アーム43には、ダンパシャフト保持具68が設けられる(図3参照)。トルクダンパユニット66から突出するダンパシャフトである前板部用回動軸67が、ダンパシャフト保持具68の穴に嵌合している。これにより、前板部65は、スライドアーム42に、前板部用回動軸67を中心に回動自在に支持されている。このトルクダンパユニット66もワンウェイトルク型であり、前板部65が閉蓋方向(図2の反時計方向)に回動する際にだけ所定のトルクを発生させる。これにより、前板部65が軽い力で開けられると共に、閉蓋操作時には、前板部65がその自重で緩やかに閉まるようになっている。
【0031】
なお、鍵盤蓋60の回動機構において、トルクを発生させるダンパ機構は、鍵盤蓋60と前板部65のいずれに設けてもよく、前板部65の回動機構においても、前板部65とスライドアーム42のいずれに設けてもよい。図2に示すように、前板部65の第2端部65bの左右両端部には、係合ピン69が左右に突出して設けられている。また、鍵盤蓋60の第1端部60aには、手掛け用凹部64が設けられている。手掛け用凹部64は、第1端部60aにおける、左右の回動機構より内側において形成される。手掛け用凹部64は、半開状態にある開閉蓋ユニットUNTを全開状態にする際に手を掛ける部分である。なお、手掛け用凹部64は、鍵盤部KBに全幅に亘って設けてもよいし、第1端部60aにおける左右の所定箇所の各一部に設けてもよい。
【0032】
開閉蓋ユニットUNTの全閉状態では、鍵盤蓋60によって鍵盤部KBが覆われる。半開状態または全開状態では、鍵盤部KBが開放され、演奏操作が可能となる。すなわち、鍵盤蓋60及び前板部65を開蓋状態にした場合はもちろんのこと、鍵盤蓋60のみが開き前板部65が閉まっている状態でも鍵盤演奏が可能なようになっている。
【0033】
前板部65は、閉蓋状態では、鍵盤部KBの後部KBa上方を奏者側に対して遮蔽する一方、開蓋状態では、後部KBa上方を奏者側に対して開放する。後部KBa上方が開放されると、パネル部10が奏者からみえ、且つその操作が可能となる。特に、スピーカ12の音響は、後部KBa上方の開放部分から前方へ放音され、効率よい放音が可能となる。
【0034】
図2、図5に示すように、スライドアーム42は、前側アーム43、後側アーム44及びラック部材40からなる。前側アーム43と後側アーム44とは金属で一体に形成されるが、それぞれ別体に構成し、両者を固着して一体的に構成してもよい。ラック部材40は、前側アーム43から後側アーム44にかけて、スライドアーム42の下面に固着されている。ラック部材40の下面にはラックギヤ41が全長に亘って形成されている。
【0035】
図3に示すように、側板23の腕木22より後方の内側面には、ガイド取り付け用部材30が固定されている。そして、ガイド取り付け用部材30に、スライドガイド本体31(図2、図5も参照)が取り付けられている。図2、図5に示すように、スライドガイド本体31には、前後方向に沿った上下一対のガイドレール36が互いに平行に設けられている。ガイドレール36に対して、中間ガイド部材32が、不図示の多数の円柱状ベアリングを介して摺動自在に係合している。ここで、本実施の形態では、スライドガイド本体31に中間ガイド部材32が組み付けられたものとして、市販のもの(例えば、THK社製のリニアスライド0045F)を採用している。
【0036】
一方、スライドアーム42の後側アーム44は、中間ガイド部材32に対して摺動自在に係合しており、スライドアーム42が前後方向にスライドする行程において、中間ガイド部材32がその約半分の距離をスライド移動することで、スライドアーム42がスライドガイド本体31に対して滑らかにスライド移動できるようになっている。
【0037】
図2、図5に示すように、スライドガイド本体31の後部には、ストッパ部材34が取り付けられ、ストッパ部材34の前部に緩衝部材35が取り付けられている。後側アーム44の後端が緩衝部材35に当接することで、スライドアーム42のスライド行程の後端位置が規制される(図8参照)。また、スライドアーム42のスライド行程の前端位置を規制する不図示のストッパ部材も設けられている。図2、図5では、スライドアーム42が前端位置にある状態が示されている。スライドアーム42及びそれに関連する要素は、楽器本体101の左側においても左右対称に設けられる。
【0038】
また、図2、図3、図5に示すように、側板23には連動棒保持具37が固定され、連動棒保持具37に、連動棒38の端部が回転自在に保持されている。連動棒38の端部には、ラック部材40のラックギヤ41と噛み合うピニオンギヤ39が回転一体に取り付けられている。左側の側板においてもこれと同じ機構が左右対称に設けられる。従って、左右のピニオンギヤ39は連動棒38と一体に回転するようになっている。すなわち、スライドアーム42は、ガイドレール36にガイドされて前後方向にスライドするが、その際、左右のピニオンギヤ39と、対応するラックギヤ41との噛み合いによって、左右のスライドアーム42の移動量が常に同じになるようになっている。これにより、スライドアーム42が水平方向にローリングしてがたつくようなことがなく、常に安定した姿勢を保って円滑に前後方向にスライド移動する。
【0039】
図2、図3に示すように、腕木22の内側には、ガイド溝45が設けられる。ガイド溝45は、別体で構成した金属製等の溝付きの部材を腕木22に固着して設けられるが、腕木22に直接刻設してもよい。図2に示すように、ガイド溝45は、円弧状部分45aとストレート部分45bとが連続して形成されてなる。円弧状部分45aは、前板部用回動軸67を中心とした円上に形成される。ストレート部分45bは前後方向に沿って形成される。一方、図2、図5に示すように、棚板21の内側には、ガイド溝45のストレート部分45bに連接するガイド部材33が固定されている。ガイド溝45とガイド部材33は、楽器本体101の左側においても左右対称に設けられる。
【0040】
ガイド溝45には、前板部65の係合ピン69が摺動可能に係合している。前板部65の閉蓋状態においては、係合ピン69が円弧状部分45aの前端部に係合している(図2参照)。前板部65が前板部用回動軸67を中心に回動するとき、左右の係合ピン69が、対応するガイド溝45の円弧状部分45aに案内されて、前板部65が安定して回動する。前板部65が開蓋状態となった時点においては、係合ピン69が円弧状部分45aの後端部であってストレート部分45bとの接続部分に位置する。
【0041】
ガイド溝45のストレート部分45bは、その上側の面がスライドアーム42のスライド移動時において係合ピン69と係合し、前板部65が閉蓋方向に回動することを阻止して前板部65を開蓋状態に維持する役割を果たす。また、ガイド部材33の下面33aも、係合ピン69と係合して同様の役割を果たす。ガイド部材33の下面33aの上下方向の位置は、ストレート部分45bの上側の面とほぼ同じであり、スライドアーム42のスライド移動時において、係合ピン69がストレート部分45bとガイド部材33の下面33aとの間で円滑に受け渡されるようになっている。
【0042】
ところで、本鍵盤楽器100は、開閉蓋ユニットUNTの全閉状態ではまったく生ピアノのような外観に構成されている。また、半開状態においても、生ピアノにおいて鍵盤蓋を開けたのと同じような外観に仕上げられている。一方、パネル部10は、閉蓋状態にある前板部65の下半部の後方において、前板部65の下半部とほぼ同じ高さに位置する。従って、開閉蓋ユニットUNTを全開状態にしたときは、奏者からみるとパネル部10が現れて操作可能となり、外観も電子鍵盤楽器らしくなる。ちなみに、図2のP2は、パネル部10の最上位置を示す。また、開閉蓋ユニットUNTの半開状態においては、メインスイッチを入れると、デフォルトで生ピアノの音が発音されるようになっていて、他の操作子の操作を必要とすることなく、生ピアノと同じ感覚で演奏を開始することができるようになっている。なお、鍵盤蓋60を開けただけでメインスイッチが自動的に入って、生ピアノの音での演奏が直ちに開始できるように構成してもよい。
【0043】
次に、開閉蓋ユニットUNTの開閉及び収容動作を説明する。
【0044】
図6は、開閉蓋ユニットUNTの半開状態を示す蓋体構造の右側面図である。図7は、開閉蓋ユニットUNTの全開状態であって楽器本体101への収容途中の状態を示す蓋体構造の右側面図である。図8は、開閉蓋ユニットUNTの楽器本体101への収容完了状態を示す蓋体構造の右側面図である。
【0045】
まず、図5に示す全閉状態において、蓋前部62の不図示の把持部を持って持ち上げると、鍵盤蓋60が鍵盤蓋用回動軸63を中心に開蓋方向に回動し、図6に示すように、鍵盤蓋60が前板部65に面対向する折り畳み状態となる。さらに、蓋前部62を折りたたんで、図2に示すような、蓋前部62、鍵盤蓋60及び前板部65が折り畳み状態となった半開状態とする。この状態で鍵盤部KBを演奏してもよい。
【0046】
ここで、前板部65は、単独でも、その自重バランスによって、閉蓋状態において前板部用回動軸67を中心として図2の反時計方向に付勢されている。しかも、鍵盤蓋60と連結されていることで、鍵盤蓋60の重さが第1端部65aにかかり、それにより前板部65に与えられる前板部用回動軸67の回りの回転モーメントの方向も、図2の反時計方向である。これらにより、前板部65は、閉蓋状態から開蓋状態に遷移することに抗する方向に付勢されている。従って、蓋前部62を持って鍵盤蓋60を普通に持ち上げる程度の操作では、鍵盤蓋60のみが回動し、前板部65は回動することがない。従って、鍵盤蓋60の開蓋操作が円滑である。
【0047】
次に、鍵盤蓋60の第1端部60aの手掛け用凹部64(図2参照)に手を掛けて持ち上げると、前板部用回動軸67を中心に、鍵盤蓋60と一緒に前板部65が開蓋方向に回動する。その際、係合ピン69がガイド溝45の円弧状部分45aを摺動する。すると、開閉蓋ユニットUNTは、図7に示すような全開状態となる。すなわち、開閉蓋ユニットUNTが折り畳み状態で且つ水平に近い「跳ね上げ状態」となる。この状態で鍵盤部KBを演奏してもよい。
【0048】
ここで、前板部65の回動途中においては、係合ピン69がガイド溝45の円弧状部分45aに係合しており、円弧状部分45aによって係合ピン69の前後方向の動きが規制されている。そのため、前板部65の回動途中においては、スライドアーム42は後方への移動を阻止されていて、前端位置でとどまるから、前板部65の開蓋操作が円滑に行える。
【0049】
また、開閉蓋ユニットUNTを跳ね上げた直後は、手掛け用凹部64にかけた力がわずかに開閉蓋ユニットUNTに対して後方にかかるのが通常である。その力によって、係合ピン69は、ガイド溝45の円弧状部分45aとの係合からストレート部分45bとの係合に遷移する。ストレート部分45bに係合ピン69が係合すると、開閉蓋ユニットUNTは、閉まることがないので、未だ不安定ではあるものの、全開状態が一応維持される。なお、ストレート部分45bに係合ピン69が係合しなかったとしても、上記したトルクダンパユニット66の存在により、開閉蓋ユニットUNTが急激に閉まることは回避される。
【0050】
次に、開閉蓋ユニットUNTを後方に軽く押すと、ガイド本体31のガイドレール36に対して、中間ガイド部材32を介して、スライドアーム42が後方にスライド移動していく。開閉蓋ユニットUNTも、係合ピン69がストレート部分45bと係合することで、跳ね上げ状態を維持したまま後方に移動していく。また、スライドの途中で、係合ピン69がストレート部分45bを外れてガイド部材33の下面33aと係合するが、依然として跳ね上げ状態を維持したまま移動する。
【0051】
スライド移動時においては、上述したように、左右のピニオンギヤ39とラックギヤ41との噛み合いによって、左右のスライドアーム42が円滑にスライド移動する。そして、後側アーム44の後端が緩衝部材35に当接するまでスライドアーム42をスライドさせると、スライドアーム42と共に開閉蓋ユニットUNTが楽器本体101内に収容された状態となる(図8参照)。図7に示す状態から図8に示す状態の間のいずれにおいても、鍵盤部KBの演奏は可能である。
【0052】
開閉蓋ユニットUNTを閉じる場合は、図8に示す収容完了状態から、開閉蓋ユニットUNTを前方にスライドさせて引っ張り出す。そして、前端位置までスライドさせて、係合ピン69がガイド溝45の円弧状部分45aに係合すると、開閉蓋ユニットUNTが自重でゆっくり閉蓋方向に回動し、半開状態となる。その後、蓋前部62を開くのと並行して鍵盤蓋60を閉じれば、全閉状態に復帰する。
【0053】
ここで、開閉蓋ユニットUNTの全開状態(跳ね上げ状態)においては、開閉蓋ユニットUNTの最下端位置(図7において鍵盤蓋60の第1端部60aのP1で示す位置)は、パネル部10の最上位置P2(図2参照)よりも高く、半開状態における開閉蓋ユニットUNTの最下端位置(図2における鍵盤蓋60の第1端部60aの上記P1と同じ位置)と比べても、はるかに高い位置に位置する。従って、跳ね上げ状態のまま前後に移動する開閉蓋ユニットUNTが、パネル部10に対して干渉することがない。
【0054】
次に、パネル部10の前部の構成を説明する。図9は、パネル部10の前部の拡大断面図である。パネル部10の前部には、カバー体70が鍵盤部KBの幅に亘って設けられる。図10は、カバー体70の部分平面図である。
【0055】
図9に示すように、パネル部10の前部でもある下端部には、支持部材74が固定され、カバー体70のカバー本体71が、支持部材74とパネル部10の下端部上部とに固定されている。カバー本体71の前端部は、下方に屈曲して、鍵盤部KBの後方を目隠ししている。カバー体70は、鍵盤部KBの後部KBaの直ぐ上方に配置され、詳細には、前後方向における、黒鍵25の上部後端25aから白鍵24の上部後端24aまでの間に位置する。開閉蓋ユニットUNTの全開状態では、カバー体70の上面が奏者から完全に見える。また、開閉蓋ユニットUNTの半開状態においても、開閉蓋ユニットUNTの下端部と黒鍵25の上部後端25aとの隙間からカバー体70の大部分が見える。特に、開閉蓋ユニットUNTには手掛け用凹部64が設けられているため、手掛け用凹部64が設けられている範囲では、カバー体70がよく見える。
【0056】
図9、図10に示すように、カバー本体71の内側には、各白鍵24、黒鍵25に対応して、透明樹脂等でなるレンズ体72が設けられる。レンズ体72は、後端面72cと、前部において下方を向いた斜面72bと、斜面72bの上方における放光面である上面72aとを有する。一方、カバー本体71の上面には、レンズ体72に対応して透孔71aが形成されている。レンズ体72の上面72aが、透孔71a内に位置している。また、カバー本体71において、透孔71aを覆うように、カバー本体71の全幅に亘ってシート部材73が貼着されており、シート部材73に、レンズ体72の上面72aが近接対向している。さらに、パネル部10の下端部においては、レンズ体72の後端面72cに近接して、LED75が、各レンズ体72に対応して配設されている。
【0057】
LED75は所定の明るさで発光する。LED75が発光すると、その光が、図9に矢印76で示すように、対応するレンズ体72の後端面72cから入射し、レンズ体72の内部を経て斜面72bで内面反射して、上面72aから放光される。
【0058】
ここで、シート部材73は、半透明材で構成され、LED75が発光しているときはシート部材73を通過する光(レンズ体72の上面72aからの放光)が視認でき、且つ、LED75が発光していないときは、レンズ体72やLED75自体の存在がシート部材73で隠れて視認できないような材料で構成される。具体的には、特許第3149107号で示されるような、鍵の素材に用いられる材料を採用することができる。例えば、透明性を有するベース樹脂に、黒色等の着色のための顔料と、光拡散性を有する光拡散剤とを含有させた材料でシート部材73を構成する。シート部材73の色は限定されない。LED75の発光強度との兼ね合いを考慮して、シート部材73が上記のような性質を満たすように、その材料に含有される顔料と光拡散剤との配合によって、表面色、光透過性、光拡散性を調節すればよい。
【0059】
図示はしないが、本鍵盤楽器100には、各白鍵24、黒鍵25の個々の操作を検出する押鍵センサ、自動演奏データを記憶する記憶部、音源回路、鍵盤楽器100全体の制御を司るCPU等が備えられる。LED75は、演奏練習等に用いられる。例えば、マニュアル演奏モードでは、各LED75は、対応する鍵24、25が所定以上の強さで押鍵されたときに発光する。自動演奏モードでは、自動演奏データに従って、各LED75が発光し、いわゆる演奏支援が可能である。
【0060】
カバー体70は、演奏可能時には常に奏者から見える。しかし、LED75が発光していないときは、カバー体70は単なる装飾用等のカバーとしてしか認識されず、レンズ体72乃至LED75の存在が意識されることがない。特に、開閉蓋ユニットUNTを半開状態として演奏するときでも、レンズ体72の存在が意識されないので、生ピアノのような外観のまま演奏ができる。
【0061】
一方、レンズ体72乃至LED75を演奏支援等に用いる場合は、開閉蓋ユニットUNTを全開状態とすれば、レンズ体72からの放光が、シート部材73の透孔71aに対応する部分から支障なく視認される。しかもその際には、鍵盤部KBの後部KBa上方において、奏者側に対して開放される部分に、パネル部10が現れるので、電子鍵盤楽器としての演奏も支障なく行うことができる。
【0062】
なお、開閉蓋ユニットUNTの開閉状態を検出する検出部を設け、半開状態では、LED75の発光が一律に禁止されるように構成してもよい。すなわち、全開状態のときにのみLED75の発光機能が許容されるようにしてもよい。そのようにすれば、仮に押鍵に連動して発光するようなモードに設定されていたとしても、開閉蓋ユニットUNTを半開状態にするだけで、発光機能停止の操作等を行う必要なく、生ピアノとしての演奏を自然に行うことができる。
【0063】
本実施の形態によれば、開閉蓋ユニットUNTにおいて、鍵盤蓋60のみを開蓋して半開状態とすれば、生ピアノのような外観のまま演奏ができる。また、鍵盤蓋60と一緒に前板部65を開蓋して全開状態とすれば、鍵盤部KBの後部KBa上方を開放した状態でも演奏することができる。しかも、全開状態としたときに奏者側に対して開放される部分に、電子楽器としての機能要素を配設したパネル部10が配設され、操作も可能となるので、スピーカ12(図2参照)の放音効率が向上すると共に、電子楽器としての演奏も支障なく行うことができる。すなわち、演奏するに際し、奏者側に対して楽器本体101の内部の遮蔽/開放を選択することができ、生ピアノのような外観での演奏と、電子楽器としての演奏を選択することができる。
【0064】
本実施の形態によればまた、開閉蓋ユニットUNTにおいて、鍵盤蓋60及び前板部65を跳ね上げ状態としたままスライドアーム42(図2参照)を後方にスライド移動させることで、開閉蓋ユニットUNTが楽器本体101に収容されるので、演奏するに際し、開閉蓋ユニットUNTを、鍵盤部KBの後方且つ上方の空間に干渉しないように楽器本体101に収容でき、当該空間に部品の配置スペースを確保することができる。その結果、開閉蓋ユニットUNTの開閉動作に支障を与えることにない配置スペースに、楽器としての機能要素を配設したパネル部10を配置することが可能となった。従って、生ピアノのような外観での演奏と、電子楽器としての演奏を可能としつつも、楽器本体101の省スペースを図ることができる。また、開閉蓋ユニットUNTが収容された状態で演奏でき、目障りとならず、見栄えもよい。
【0065】
また、前板部65は、前板部用回動軸67を中心として回動する際、係合部69がガイド溝45の円弧状部分45aに案内されるので(図2参照)、前板部65の回動動作が安定する。しかも、前板部65の回動途中においては、係合ピン69がガイド溝45の円弧状部分45aに係合していることで、スライドアーム42(図2参照)が後方へ移動できないので、前板部65の開蓋操作乃至開閉蓋ユニットUNTの跳ね上げ動作を安定的に行うことができる。
【0066】
また、開閉蓋ユニットUNTを全開状態にしたとき、ガイド溝45のストレート部分45bに係合ピン69を係合させれば、開閉蓋ユニットUNTの全開状態が維持されるので、鍵盤部KBの後部KBa上方が奏者側に対して開放された状態を容易に維持することができる。しかも、開閉蓋ユニットUNTをスライドアーム42と共に前後方向に移動させる際にも、全開状態が維持されるので、スライド移動操作時に開閉蓋ユニットUNTを支えなくてもよく、移動操作が容易である。
【0067】
しかも、ガイド溝45の円弧状部分45aとストレート部分45bとは連接して形成されているので、開閉蓋ユニットUNTの跳ね上げ動作とスライド動作とが連続して円滑に行え、開蓋及び蓋収容の操作性が高い。
【0068】
また、開閉蓋ユニットUNTの半開状態において、前板部65の自重及び鍵盤蓋60の重さがかかることによる、前板部65に与えられる前板部用回動軸67の回りの回転モーメントの方向が、図2の反時計方向であって、前板部65が、閉蓋状態から開蓋状態に遷移することに抗する方向に付勢されている。これにより、開閉蓋ユニットUNTの半開状態から鍵盤蓋60を開蓋操作するとき、その操作に伴って前板部65が開蓋方向に回動してしまうことを抑制し、鍵盤蓋60だけを円滑に開蓋操作することが容易である。
【0069】
本実施の形態によればまた、LED75が発光しているときにのみ、カバー体70のシート部材73を介して奏者にその光が視認されるように構成したので、演奏するに際し、発光機能の存在を意識させることのない演奏と、発光を視認させる演奏とを選択することができる。しかも、開閉蓋ユニットUNTを半開状態として演奏する際に、LED75を発光させなければ、発光機構の存在が意識されないので、生ピアノのような外観のまま演奏することができる。
【0070】
また、レンズ体72から発した光を透過させる半透明材として、カバー本体71の透孔71aを覆うシート部材73を採用したので、上述の特殊な条件で製造される素材であるシート部材73を、各透孔71a毎に個別に多数製造することに比し、製造が容易で、コストも低く抑えることができる。
【0071】
なお、本実施の形態においては、ガイド溝45のストレート部分45bと前板部65の係合ピン69との係合により、開閉蓋ユニットUNTが半開状態に維持されるとした。しかし、これに限るものではない。図11(a)は、ガイド溝45の変形例を示す部分側面図である。例えば、図11(a)に示すように、ガイド溝45の円弧状部分45aのうちストレート部分45bとの接続部近傍において、上側の面に、金属等の弾性片46を設けてもよい。
【0072】
弾性片46は、円弧状部分45a内に出没可能に設けられ、自由状態では同図(a)に示すように円弧状部分45aの内側に突出し、一方、円弧状部分45aの内側から押圧されると外側に引っ込むようになっている。前板部65が開蓋状態となって、係合ピン69が円弧状部分45aの後部に到達し、弾性片46を乗り越えると、弾性片46に係合ピン69が引っ掛かり、手を離しても、前板部65が閉蓋方向に回動しないようになる。これにより、開閉蓋ユニットUNTが半開状態に維持される。
【0073】
なお、本実施の形態において、構成を簡単にする観点で、スライドアーム42がスライドする機構を設けることなく、単に、開閉蓋ユニットUNTを全閉状態から全開状態まで遷移させることができるだけの構成としてもよい。その場合は、前板部65を開蓋状態に遷移させる機構としては、前板部用回動軸67による回動支持か、または係合ピン69とガイド溝45の円弧状部分45aとの係合の、いずれか一方のみを採用してもよい。前板部用回動軸67を採用しない場合は、ガイド溝45の円弧状部分45aは、必ずしも円弧状でなくてもよく、前板部65を最終的に開蓋状態に導くような形状であればよい。また、このように、前板部用回動軸67か円弧状部分45aのいずれかを廃止する場合であっても、上記した弾性片46のような、開閉蓋ユニットUNTを全開状態に維持する機構を設けるのが望ましい。前板部用回動軸67によってのみ前板部65を回動支持する場合は、前板部65を開蓋状態で維持するための係止部等を、楽器本体101の適所に設けるのが望ましい。
【0074】
なお、本実施の形態では、カバー体70のシート部材73を半透明材としたが、これに限るものではない。すなわち、LED75が発光しているときにのみ、カバー体70の一部を介して奏者にその光が視認されるように構成すればよい。図11(b)は、カバー体の変形例を示す断面図である。
【0075】
例えば、図11(b)に示すように、保持部81とレンズ体82とを、樹脂で2色成形により形成して、一体のカバー体80を構成してもよい。保持部81の材料は、上記したシート部材73と同様の半透明材である。レンズ体82は、レンズ体72と同様の透明樹脂でなり、レンズ体72の上面72a、斜面72b、後端面72cと同様の上面82a、斜面82b、後端面82cを有する。レンズ体82の上面82aと保持部81のレンズ対向部81aとは当接対向しており、レンズ対向部81aはシート部材73と同程度に薄く形成されている。
【0076】
保持部81の後部下部には取り付け用穴83が形成され、この取り付け用穴83にて、パネル部10にカバー体80が取り付けられる。LED75の配置は、図示はしないが、図9に示したのと同様である。レンズ対向部81aが、シート部材73と同様の機能を果たし、LED75が発光しているときにのみ、レンズ体82の上面82aから放光される光が、レンズ対向部81aを介して視認される。このような構成を採用しても、構成が簡単で、製造も容易である。
【0077】
なお、本実施の形態において、前板部65を回動支持する機構、及びスライドアーム42をスライドさせる機構(スライドガイド本体31、連動棒保持具37等)は、左右の側板23乃至腕木22に設けられた。しかし、これに限るものでなく、これらを支持する支持部としては、棚板21に対して固定的な部分乃至部材であって、互いに左右方向に離間した少なくとも2箇所の部分乃至部材であればよい。
【0078】
なお、ガイド溝45の円弧状部分45aは、連続的な溝として構成したが、係合ピン69との係合が適切になされ、係合ピン69を案内できるるような構成であればよく、例えば、一部が断続している間欠的な溝として構成してもよい。
【0079】
なお、開閉蓋ユニットUNTを折り畳み状態で跳ね上げるように構成する観点からは、係合ピン69と前板部用回動軸67の上下位置関係を逆にしてもよい。その場合は、前板部65は、図2の反時計方向が開蓋方向になる。ガイド溝45の円弧状部分45aとスライドアーム42等のスライド機構との上下関係も逆にする。ガイド溝45の円弧状部分45aは、側面視において、図2に示した前方上方に凸の形状ではなく、後方下方に凸の形状となる。
【0080】
なお、パネル部10に配設された音響発生部は、スピーカ12であるとしたが、開閉蓋ユニットUNTを全開状態としたときに奏者側に対して開放される部分に配設される音響発生部は、このような電気的に音響を発生させるものに限定されず、弦、響板等の、アコースティックな音響を発生させるものであってもよい。特に、奏者側に開放して放音効率を高めるという観点に限って言えば、本鍵盤楽器100は、電子楽器に限定されず、アコースティックな鍵盤楽器であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施の形態に係る蓋体構造が適用される鍵盤楽器の平面図である。
【図2】同鍵盤楽器の楽器本体の内部を透視する右側面図である。
【図3】図1のA部の拡大図である。
【図4】楽器本体の右側部の正面図である。
【図5】蓋体構造を示す右側面図である。
【図6】開閉蓋ユニットの半開状態を示す蓋体構造の右側面図である。
【図7】開閉蓋ユニットの全開状態であって楽器本体への収容途中の状態を示す蓋体構造の右側面図である。
【図8】開閉蓋ユニットの楽器本体への収容完了状態を示す蓋体構造の右側面図である。
【図9】パネル部の前部の拡大断面図である。
【図10】カバー体の部分平面図である。
【図11】ガイド溝の変形例を示す部分側面図(図(a))、及びカバー体の変形例を示す断面図(図(b))である。
【符号の説明】
【0082】
10 パネル部、 11 各種操作子群(機能要素)、 12 スピーカ(機能要素)、 13 表示部(機能要素)、 21 棚板、 22 腕木(支持部)、 23 側板(支持部)、 45 ガイド溝(変位ガイド部)、 45a 円弧状部分、 45b ストレート部分(維持手段)、 42 スライドアーム(回動保持部材)、 46 弾性片(維持手段)、 60 鍵盤蓋、 63 鍵盤蓋用回動軸(回動軸、第1回動軸)、 65 前板部、 67 前板部用回動軸(第2回動軸)、 69 係合ピン(係合部)、 100 鍵盤楽器、 101 楽器本体、 KB 鍵盤部、 KBa 後部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽器本体の棚板に対して固定的であって前記棚板の両側部に位置する支持部と、
閉蓋状態で鍵盤部を覆うと共に開蓋状態では前記鍵盤部の演奏操作を可能とする鍵盤蓋と、
少なくとも前記鍵盤部の幅を有し、少なくとも第1状態と第2状態の姿勢をとり得る前板部であって、回動軸を中心に前記鍵盤蓋を開閉方向に回動自在に保持すると共に、前記第1状態では、前記鍵盤部の後部上方を奏者側に対して遮蔽する前板部と、
前記前板部の両側部に設けられた係合部と、
前記係合部に対応して前記支持部の各内側に設けられた変位ガイド部とを有し、
前記鍵盤蓋を開蓋状態として、前記前板部の前記係合部を前記変位ガイド部に沿って移動させると、前記鍵盤蓋と一緒に前記前板部が移動して前記前板部が前記第1状態から前記第2状態へと姿勢を変え、それによって、前記鍵盤部の後部上方が奏者側に対して開放されるように構成されたことを特徴とする鍵盤楽器の蓋体構造。
【請求項2】
閉蓋状態で鍵盤部を覆うと共に開蓋状態では前記鍵盤部の演奏操作を可能とする鍵盤蓋と、
少なくとも前記鍵盤部の幅を有し、少なくとも第1状態と第2状態の姿勢をとり得る前板部であって、前記第1状態における下端部に位置する第1回動軸を中心に前記鍵盤蓋を開閉方向に回動自在に保持すると共に、前記第1状態では、前記鍵盤部の後部上方を奏者側に対して遮蔽する前板部と、
楽器本体に設けられ、前記前板部の前記第1状態において前記第1回動軸より上方に位置する第2回動軸を中心に前記前板部を回動自在に保持する回動保持部材とを有し、
前記鍵盤蓋を開蓋状態として、前記前板部を前記第2回動軸を中心に回動させると、前記鍵盤蓋と一緒に前記前板部が回動して前記前板部が前記第1状態から前記第2状態へと姿勢を変え、それによって、前記鍵盤部の後部上方が奏者側に対して開放されるように構成されたことを特徴とする鍵盤楽器の蓋体構造。
【請求項3】
楽器本体の棚板に対して固定的であって前記棚板の両側部に位置する支持部と、
閉蓋状態で鍵盤部を覆うと共に開蓋状態では前記鍵盤部の演奏操作を可能とする鍵盤蓋と、
少なくとも前記鍵盤部の幅を有し、少なくとも第1状態と第2状態の姿勢をとり得る前板部であって、前記第1状態における下端部に位置する第1回動軸を中心に前記鍵盤蓋を開閉方向に回動自在に保持すると共に、前記第1状態では、前記鍵盤部の後部上方を奏者側に対して遮蔽する前板部と、
前記支持部に設けられ、前記前板部の前記第1状態において前記第1回動軸より上方に位置する第2回動軸を中心に前記前板部を回動自在に保持する回動保持部材と、
前記前板部の両側部に設けられた係合部と、
前記係合部に対応して前記支持部の各内側に設けられ、前記第2回動軸を中心とした円弧状部分を有する変位ガイド部とを有し、
前記鍵盤蓋を開蓋状態として、前記前板部を前記第2回動軸を中心に回動させると、前記係合部が前記変位ガイド部に沿って移動すると共に、前記鍵盤蓋と一緒に前記前板部が移動して前記前板部が前記第1状態から前記第2状態へと姿勢を変え、それによって、前記鍵盤部の後部上方が奏者側に対して開放されるように構成されたことを特徴とする鍵盤楽器の蓋体構造。
【請求項4】
前記前板部を前記第2状態に維持する維持手段を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の鍵盤楽器の蓋体構造。
【請求項5】
前記鍵盤部の後部上方において、前記前板部の前記第2状態において奏者側に対して開放される部分に、電子楽器としての機能要素が配設されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の鍵盤楽器の蓋体構造。
【請求項6】
前記鍵盤蓋の開蓋状態では、前記鍵盤蓋と前記前板部とは面対向して折り畳み状態となり、前記鍵盤蓋が開蓋状態で且つ前記前板部が前記第2状態である場合に、これらを後方にスライド移動させることで、前記鍵盤蓋が前記前板部と一緒に前記楽器本体に収容可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の鍵盤楽器の蓋体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−188019(P2007−188019A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7908(P2006−7908)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】