鎖状分子の操作方法
【課題】核酸、タンパク質、糖鎖、または高分子などの鎖状分子と、固体とを所望の数、所望の形態、または所望の位置で固定し、また前記固定された分子を前記固体から切断できる操作方法を提供する。
【解決手段】溶媒中で少なくとも一つの固定端部および自由端部を有する鎖状分子の近傍にレーザーを照射すると、レーザー照射点に向かって前記鎖状分子が延伸し、かつ赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記自由端部との接触により前記自由端部が固定される段階(1)、および溶媒中で固定された前記自由端部に前記気泡を接触させると、少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になる段階(2)を含み、前記レーザー照射により前記段階(1)と前記段階(2)とが可逆的に行われる、鎖状分子の操作方法である。
【解決手段】溶媒中で少なくとも一つの固定端部および自由端部を有する鎖状分子の近傍にレーザーを照射すると、レーザー照射点に向かって前記鎖状分子が延伸し、かつ赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記自由端部との接触により前記自由端部が固定される段階(1)、および溶媒中で固定された前記自由端部に前記気泡を接触させると、少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になる段階(2)を含み、前記レーザー照射により前記段階(1)と前記段階(2)とが可逆的に行われる、鎖状分子の操作方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鎖状分子の操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の機能や構造の作動原理に啓発され、生体が本来有する構造・機能を創り込んだナノマシンや、生体分子・細胞等の生体の構成要素を制御した状態でナノスケールのデバイス内に抽出する方法といった、生物工学、最先端医学およびナノテクノロジーを融合させたバイオナノ融合領域が近年注目を浴びている。特に、生物は、マイクロメータサイズの細胞から構成されており、さらに前記細胞はタンパク質、脂質、核酸などのナノメータサイズの構造の集合体であるため、生物を対象としたナノテクノロジーの研究は活発に行われている。なかでも、生体分子・細胞・組織の持つ多様な性質・機能と、金属、高分子、半導体などの材料と組み合わせたハイブリッド材料は、生体分子の高感度検出技術やバイオマテリアルを利用した再生医療技術などに応用されている。
【0003】
生体分子の高感度検出技術の一つであるマイクロアレイ法と呼ばれる分析法としては、マイクロアレイまたはDNAチップと呼ばれる基板上に多数のDNA断片、タンパク質、または糖鎖を高密度に整列固定化されたものを使用して、タンパク質間、糖鎖間、糖鎖−タンパク質間の特異的な反応に基づく検出・定量方法だけでなく、多数の遺伝子発現を一度に解析する手法であるDNAマイクロアレイ法などがある。このDNAマイクロアレイ法では、対象細胞の発現遺伝子等を蛍光色素等で標識したサンプルを基板上でハイブリダイズさせて相互に相補的核酸同士を結合させた後、その結合をシグナルとして検出する表面プラズモン共鳴(SPR)や水晶振動子(QCM)を用いたバイオセンサー、またはその結合を高速に読み取る方法が広く用いられている。
【0004】
そして、なかでも金属のコロイド粒子は、表面シグナル増感効果によって共鳴ラマン散乱を増大させることが知られることから、標識試薬として使用することで、生体内の被験物質を高感度に検出、定量する手段として用いられている。例えば、特許文献1に示されるように、前記金属コロイド粒子として金コロイド粒子を用い、ハイブリダイゼーションによる金コロイド粒子の凝集に伴うプラズモン吸収の変化を指標とする技術が開示されている。これらの方法により、例えば、便潜血検査による大腸がん検診等に用いられ、目視判定、あるいは専用の計測機器との組合せで検出することができると考えられる。
【0005】
また、人工血管、人工心肺などのバイオマテリアルの分野では、人工材料などの外的なものと接触すると、血栓形成、免疫反応、炎症反応などの異物反応が引き起こされるため、「生体適合性」を有することが必要であり、特にタンパク質の吸着が少ないことが求められる。そのため、基材に対するタンパク質の非特異的吸着を抑制・防止するための技術として、多数の種々の高分子を基材の表面に固定化する方法があり、例えば、かかる技術として、特許文献2のように、L−リジンの一方のアミノ基とカルボキシル基とがイオン化されている両性電解質の人工高分子をポリウレタンやポリ塩化ビニル製でできたカテーテルの表面に固定化することによって、基材に対してタンパク質の非特異的吸着を抑制・防止する技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1および2の技術を使用するには、基板や材料といった固体の表面に多数のDNA断片、タンパク質、糖鎖、または高分子などを高密度に整列固定化させる技術が不可欠となる。
【0007】
そこで、核酸等の選択結合性物質を基材上に固定化する技術としては、例えば、特許文献3のような、スライドガラス等の平坦な基材の上に、ポリ−L−リシン、アミノシラン等をコーティングして、スポッターと呼ばれる点着装置を用い、各核酸を固定化する方法などが開発されている。具体的には、担体表面をカルボキシル化させた後、DNAの末端のアミノ基と縮合反応により固定化している。
【0008】
また、エーテル結合を介して糖鎖などの糖類が担体表面に固定化する方法としては、特許文献4が挙げられる。前記特許文献4では、ポリオレフィン板上に、Ni/Crからなる合金を蒸着させた上に、金をさらに蒸着させた後、前記金表面をメルカプトヘキサデカン酸で処理し、Au−S結合を形成させて表面をカルボキシル化し、かつ前記カルボン酸に対してヒドロキシコハク酸イミドを結合させて、所定の糖化合物を導入している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−275187号公報
【特許文献2】特開2001−108683号公報
【特許文献3】特表平10−503841号公報
【特許文献4】特開2007−298334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3および特許文献4のように、核酸や糖鎖などを基材上に固定化する場合、有機合成などの化学的手法によって、基材などの固体表面に核酸や糖鎖を結合させるものであり、この点については、特許文献1や2でも同様であり、金コロイド粒子や基材に所望の核酸や高分子を合成により固定化している。
【0011】
そのため、特許文献1〜4のいずれにおいても、固体と、核酸、タンパク質、糖鎖、または高分子と結合させる方法は、核酸や糖鎖などの片末端に所定の官能基を導入した後、必要により固体表面の表面処理を行い、最後にこれらを化学反応させるといった有機合成の手法を利用している。したがって、これら有機合成の手法の化学反応は、一般に選択的または特異的に進行するものではないため、所望の数、所望の位置、所望の形態で固体と核酸、タンパク質、糖鎖、または高分子と結合させることは困難である。
【0012】
また、特許文献1〜4などの従来の表面修飾法により固体表面に核酸、タンパク質、糖鎖、または高分子と一度結合させると、結合させた物質を固体表面から切断させることは極めて困難であり、ましてや所望の数や位置の結合だけを選択的に切断させることは至難である。
【0013】
そこで、本発明は、核酸、タンパク質、糖鎖、または高分子などの分子と、固体とを所望の数、所望の形態、または所望の位置で固定し、また、核酸、タンパク質、糖鎖、または高分子などの分子を操作する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題に鑑み、新規な操作自在の方法を鋭意検討した結果、溶媒中で少なくとも一つの固定端部および自由端部を有する鎖状分子の近傍にレーザーを照射すると、レーザー照射点に向かって前記鎖状分子が延伸し、かつ赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記自由端部との接触により前記自由端部が固定される段階(1)、および
溶媒中で固定された前記自由端部および前記少なくとも一つの固定端部の間に、前記気泡を接触させると、少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になる段階(2)を含み、
前記レーザー照射により前記段階(1)と前記段階(2)とが可逆的に行われる、鎖状分子の操作方法により、本発明の目的を達成する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、所望の位置、所望の数、所望の方法、および所望の形状で鎖状高分子を固体に固定し、かつ当該固体に固定された鎖状高分子を所望の位置で切断することができ、さらに鎖状高分子の固定と、固定された鎖状高分子の切断とを可逆的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、レーザー集束領域に発生した気泡に引き込まれる片側固定DNAの蛍光顕微鏡像である。
【図2−1】図2−1は、a)レーザーをあてたとき(ON)と、b)レーザーを切ったとき(OFF)のDNAの挙動を示す蛍光顕微鏡像である。
【図2−2】図2−2は、a)レーザーをあてたとき(ON)と、b)レーザーを切ったとき(OFF)のDNAの挙動を示す蛍光顕微鏡像である。
【図3】図3は、それぞれ金薄膜表面と石英表面にレーザーをあてた場合の比較実験を示す模式図である。
【図4】図4は、幅2μm金電極上で出力100mWレーザーをあてた時に発生する気泡を観察した光学顕微鏡像である。
【図5】図5は、本発明において使用する光ピンセットの光学系の模式図である。
【図6】図6は、本発明において使用する溶液セルの構造を示す模式図である。
【図7】図7は、DNA修飾ビーズを蛍光染色し、蛍光観察した像である。
【図8】図8は、DNAがレーザー照射点に向かって延伸する様子を経時的に示す像とその時間スケールと移動速度の像である。
【図9】図9は、レーザー集束領域に発した気泡でDNAを固定した状態を観察した蛍光顕微鏡像である。
【図10】図10は、DNAの種々の延伸固定の一例を示す像である。
【図11】図11は、DNAを切断する状態を経時的に観察した像である。
【図12】図12は、本発明の実施例の実験工程を示す模式図である。
【図13】図13は、本発明の実施例における一例の任意の位置に、任意の方向で、任意の本数のDNAを伸張固定させた蛍光顕微鏡像である。
【図14】図14は、本発明の実施例の実験工程を示す模式図である。
【図15】図15は、本発明の実施例のくし型電極間へDNA伸張固定した蛍光顕微鏡像である。
【図16】図16は、本発明に係る参考実験の気泡界面に温度勾配をつけたときの引き込みを示す図である。
【図17】図17は、本発明に係るレーザーを赤外光を被覆面に照射した際に、鎖状分子が引き込まれる範囲の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第一は、溶媒中で少なくとも一つの固定端部および自由端部を有する鎖状分子の近傍にレーザーを照射すると、レーザー照射点に向かって前記鎖状分子が延伸し、かつ赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記自由端部との接触により前記自由端部が固定される段階(1)、および溶媒中で固定された前記自由端部および前記少なくとも一つの固定端部の間に、前記気泡を接触させると、少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になる段階(2)を含み、前記レーザー照射により前記段階(1)と前記段階(2)とが可逆的に行われる、鎖状分子の操作方法である。
【0018】
すなわち、以下、本願発明の方法をより詳細に説明する。液相下において一般に高分子などの鎖状分子は、常態である縮れたような巻縮状態であるランダムコイル状態で存在しているが、少なくとも一つの固定端部および少なくとも一つの自由端部を有する鎖状分子の近傍であって、かつ赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面にレーザー照射した場合、前記レーザーの照射点に向かって前記鎖状分子の自由端が移動することにより前記鎖状分子が延伸し、いわば前記鎖状分子がピンと張った状態になる。そして、前記鎖状分子の自由端部が、赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面の近傍に存在し、かつ前記自由端部が前記被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡に引きこまれると(または気泡と前記自由端部とを接触させると)、当該鎖状分子の自由端部が前記被覆面に固定される(段階(1))。次いで、少なくとも一つの固定端部と、基板の表面の赤外光吸収材料の被覆面に固定された前記自由端部(基板上に固定されるため固定端になる)との間の任意の位置にレーザー照射点を移動して、当該鎖状分子を前記気泡に引き込むと(または前記気泡を前記被覆面に固定された自由端部に接触させると)、少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になる(段階(2))。さらに、これら段階(1)と段階(2)とは可逆的に行うことができる。
【0019】
また、ここでいう「鎖状分子常態」とは、いわゆるランダムコイルをいい、液相下における鎖状分子の形状であり、分子鎖が溶媒和し、ある程度縮れたような巻縮状態をいう。
【0020】
これにより、赤外光吸収材料の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と自由端部とを接触させることで何度でも所望の位置に鎖状分子の自由端部を固定することができ、また当該固定された鎖状分子の自由端部に前記気泡を接触させると、何度でも少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態にすることができる鎖状分子の操作方法である。
【0021】
本発明に係る段階(2)は、溶媒中で固定された前記自由端部に前記気泡を接触させると、前記鎖状分子が切断されることにより少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になることが好ましい。
【0022】
すなわち、本発明に係る段階(1)のように、溶媒中で少なくとも一つの固定端部および自由端部を有する鎖状分子の近傍かつ赤外光吸収材料の被覆面にレーザーを照射すると、当該被覆面におけるレーザー照射点に向かって前記鎖状分子が延伸され、かつ赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記自由端部とが接触すると、当該被覆面に直接または間接的に前記自由端部が固定された後(段階1)、鎖状分子が既に有する固定端部および基板の表面の赤外光吸収材料の被覆面に固定された前記自由端部(基板上に固定されるため固定端になる)の間に、レーザー照射点を移動して、鎖状分子を前記気泡に引き込むと(または前記気泡を前記鎖状分子に接触させると)、前記鎖状分子が切断されることにより、前記鎖状分子が、少なくとも一端が自由端のランダムコイル状態になる。
【0023】
すなわち、本発明に係る段階(1)で赤外光吸収材料の被覆面に直接または間接的に固定された鎖状分子は、レーザー集束領域に生じた気泡と接触すると、鎖状分子が当該気泡により切断され、1つの鎖状分子が2つの鎖状分子に別れることで、各々の鎖状分子がランダムコイル状態に復帰すると考えられる。
【0024】
本発明に係る鎖状分子の操作方法において、段階(1)における基板表面に形成された赤外光吸収材料の層に鎖状分子の自由端部が固定される条件(a)と、段階(2)における基板表面に形成された赤外光吸収材料の層に自由端部が固定された鎖状分子が、少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になる条件(b)と、基板表面に形成された赤外光吸収材料の層に自由端部が固定された鎖状分子が切断される条件(c)の3つは、すべて同一の条件であっても、すべて異なる条件であってもよいが、すべて同一条件であることが好ましい。したがって、以下詳細に説明するレーザーの物性(出力、波長など)、温度、溶媒条件は、前記3つのいずれの場合でも同一の条件で適用することができる。さらに、前記条件(a)〜段階(c)および後述の段階(3)は、レーザー照射により気泡ができる条件であればよい。
【0025】
また、段階(2)における基板表面に形成された赤外光吸収材料の層に自由端部が固定された鎖状分子が、少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になることは、後述する実施例などで確認されており、現状では実施例などから鎖状分子の切断によるものであると考えられる。
【0026】
図1は、鎖状分子として例えば片末端にビオチンを導入したDNAを、ビオチン−アビジン結合により赤外線吸収材料の層を表面に有する基板に固定したサンプルで実験を行った様子である。この図1をみると、レーザー照射点に向かってDNAが延伸されながら、レーザー照射点に向かって延伸している(または、引き込まれている)ことが観測できる。また、後述の実施例においても詳細に説明するが、この引き込みは、図2−1、図2−2で示すように、レーザーのON/OFFに瞬時に応答し、ONのときは数十ミリ秒の間に延伸され、レーザーをOFFにするとDNAが折りたたまれて常態に復帰し固定端に向かって収縮することが確認されている。
【0027】
本発明の鎖状分子の操作方法において、鎖状分子がレーザー照射点に向かって延伸され、かつ基板に固定、鎖状分子の切断される理由のうち、当該鎖状分子がレーザー照射点に向かって延伸される理由は、マランゴニ対流で説明でき、基板に固定、鎖状分子の切断されることに関しては明確な理由がわかっていない。
【0028】
そこで、鎖状分子がレーザー照射点に向かって延伸される理由については、以下、図3を参照しながら説明する。図3は、比較実験の模式図であり、より詳細には、鎖状分子として例えば片末端にビオチンを導入したDNAを、ビオチン−アビジン結合により赤外線吸収材料の層の表面上および前記DNAを石英基板に直接固定したサンプルに対して、基板上の赤外線吸収材料の層上にした場合(図3(a))と、レーザー照射点を石英基板に直接した場合(図3(b))との比較実験を示す概略図である。レーザー照射点を赤外線吸収材料の層の表面にあてると、DNAが延伸され引き込まれる現象が確認されたが、石英基板表面にレーザーをあてても何もおこらなかった。しかし、油性マジックを塗布したガラス基板でもDNAが延伸され引き込まれる現象がみられたため、吸収された赤外光は局所的に熱に変換したものであると考えられる。また、DNA以外の物質、例えば、石英基板の表面に金層を形成させた後、ポリスチレンビーズを金層表面に配置して、レーザーを金層に照射するとポリスチレンビーズがレーザー照射点に引き込まれる現象も確認された。
【0029】
さらに、レーザーの出力には閾値(Nd:YAG LASER(1064nm)レーザー出力20mW以上である。なお、Nd:YAG LASER(1064nm)レーザー出力20mW未満ではDNAが延伸され引き込まれる現象が確認できなかった)が存在すること、溶媒に関して水以外にもエチレングリコール、グリセロール、赤外光を吸収しない重水でもDNAが延伸され引き込まれる現象が確認されたこと、および金細線上にレーザーをあてると気泡(マイクロバブルとも称する)が発生することが確認されており(図4参照)、レーザーを赤外光吸収材料の層(図1〜3では、赤外光吸収材料の層として金層を使用)にあてると、吸収された赤外光が局所的に熱に変換されることにより、前記金層におけるレーザー照射点の近傍の液体が気体へと急激に相転移するためマイクロバブルが発生し、このマイクロバブルの発生により、マイクロバブル内の飽和水蒸気が逐次液体となるため、気液界面を通過する溶媒の流れが生じ、かつ金層の局所的加熱により気液界面には大きな温度勾配があるため表面張力に差が生じ、この表面張力差により生じるマラゴンニ対流によってDNAの自由端が引き込まれているものと考えられる。
【0030】
これらの結果から、レーザーが照射される対象は赤外光を吸収するものであり、レーザー照射点に引き込まれることが可能な物質は、自由端部を有しているものであれば分子単体でもよいと考えられる。また、鎖状分子が赤外光吸収材料の層の表面に固定や、鎖状分子が切断される理由については、当該層に吸収された赤外光が局所的に熱に変換されることで発生するマイクロバブルのマラゴンニ対流や、当該層の急激な局所的加熱により、当該層の表面の原子が活性化することに起因して、鎖状分子が赤外光吸収材料の層上に化学結合または吸着しているなど種々の理由が現段階では考えられるが、現在においてはそれを測定する術がない。
【0031】
したがって、本発明に係る方法に使用できる赤外光吸収材料は、赤外光を吸収するものであれば特に制限されるものではなく、より具体的には、1000〜5000nmの赤外光を吸収できる材料であることが好ましく、1064nmの赤外光を吸収できる材料であることがより好ましい。
【0032】
前記赤外光吸収材料の具体的な例示としては、無機系赤外線吸収材料と有機系赤外線吸収材料に大別することができ、無機系赤外線吸収材料としては、従来公知のもの、例えば、酸化亜鉛、酸化錫、ATO(アンチモンドープ酸化錫)、酸化インジウム、ITO(インジウムドープ酸化錫)、硫化亜鉛などの金属酸化物、または金などが挙げられ、有機系赤外線吸収材料としては、従来公知のもの、例えば、黒鉛、グラッシーカーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレンなどのカーボン材料や、油性マジックや、赤外光を吸収する染料または顔料を用いることができる。前記染料としては、アゾ染料、ニトロ染料、ニトソロ染料、スチルベンアゾ染料、ケトイミン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料、キノリン染料、メチン・ポリメチン染料、チアゾール染料、インダミン・インドフェノール染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン染料、オキシケトン染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、フタロシアニン染料などを挙げることができる。また、前記顔料としては、金属酸化物や塩類などの化合物からなる無機顔料や、ニトソロ顔料、染付けレーキ顔料、アゾレーキ、不溶性アゾ、モノアゾ、ジスアゾ、縮合アゾ、ベンズイミダゾロンなどのアゾ系顔料、フタロシアニン、アントラキノン、ペリレン、キナクリドン、ジオキサジン、イソインドリノン、キノフタロン、イソインドリン、アゾメチン、ピロロピロールなどの有機顔料を挙げることができる。
【0033】
これら無機系赤外線吸収材料と有機系赤外線吸収材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
本発明に係る基板は、赤外光吸収材料の層を支持できれば特に制限されることはなく、シリコン、石英、ガラスなど公知の材料を使用することができ、また、前記基板の形状は、平面状が好ましい。また、当該基板の厚さは特に制限されることはないが、0.001〜1000μmが好ましく、100〜500μmがより好ましい。また、本発明に係る基板自体が、赤外光吸収材料であってもよい。
【0035】
本発明に係る赤外光吸収材料の層(被膜)の厚さは、選択する赤外光吸収材料によって適宜選択されるものであり、赤外光を反射することなく赤外光を吸収できる厚さであれば特に制限されることはないが、1nm〜10cmであることが好ましい。
【0036】
特に熱伝導性の良い金を赤外光吸収材料に使用した場合は、30nm以下の厚さが好ましく、10〜20nmがより好ましい。当該層の厚さは、薄い方が赤外吸収率が高く、かつ熱伝導率が小さく、さらに熱を局所に留める効果を有する。また、30nm超になると、赤外光をほとんど吸収せず、反射するためである。10nm未満では均一な膜ができづらい。
【0037】
一方、熱伝導性の悪いグラッシーカーボン等の炭素材料の場合、厚くても良く、例えば、1cm以上であっても良い。
【0038】
また、本発明に係る赤外光吸収材料の層を基板に被覆させる方法としては、特に制限されることはなく、真空蒸着法などの一般的な被膜形成方法を採用することができる。
【0039】
なお、本発明において「赤外光吸収材料が被覆された被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記自由端部との接触により前記自由端部が固定される段階」における、「赤外光吸収材料が被覆された被覆面に前記自由端部が固定される」とは、基板の表面に形成された赤外光吸収材料の層である赤外光吸収材料が被覆された被覆面に直接接触している場合だけではなく、前記赤外光吸収材料の層の表面であってかつ直接当該層と接触していない場合も含む概念である。そのため、赤外光吸収材料の層に、SAM膜やその他バインダーを有していてもよい。
【0040】
また、レーザー照射点に引き込まれることが可能な物質は、上記の理由から分子単体でもよいが、所望の位置に鎖状分子の操作を自在にする点を考慮すると、ある程度の長さをもった鎖状分子である必要がある。そのため、本発明に係る鎖状分子は、分子内に鎖状構造を一部でも有するものであれば鎖状高分子の形状は特に制限されることはなく、前記分子内に環状構造、分枝構造を有してもよい。そのため、本発明に係る鎖状分子は、分子の種類よりむしろ分子の長さの方が、所望の位置への固定等の操作を自在にする点では重要であると考えられる。
【0041】
本発明に係る鎖状分子の長さは、0.1μm〜50μmが好ましく、3〜30μmがより好ましく、5〜15μmがさらに好ましい。
【0042】
当該鎖状分子の長さ0.1μm未満であると気泡をコントロールすることが難しく、またそれの観察が難しい。50μm超であると引き込みが不安定になり、操作しにくい(例えば、図17参照)。
【0043】
本発明に係る鎖状分子の具体例としては、核酸、高分子、ペプチド、および糖鎖からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0044】
前記核酸としては特に制限されるものではなく、本発明に係る鎖状分子として核酸を使用する場合の核酸の長さは、100〜1000万bp(またはb)の範囲であることが好ましく、5千〜100万bp(またはb)の範囲であることがより好ましく、9千〜10万bp(またはb)の範囲であることがさらに好ましい。
【0045】
上記核酸としては、DNA(一本鎖および二本鎖を含む)、RNA、またはPNAでよく、特に制限されるものではなく、生細胞等の天然物由来のものであってもよく、また公知の核酸合成装置により合成されたものであってもよい。さらに、生細胞からのDNAまたはRNAの調製は、公知の方法により行うことができる(例えば、DNAの抽出については、Blin et al., Nucleic Acids Res. 3: 2303 (1976)、RNAの抽出については、Favaloro et al., Methods Enzymol.65: 718 (1980))。本発明の方法に使用できる核酸としては、更に、鎖状若しくは環状のプラスミドDNAや染色体DNA、これらを制限酵素により若しくは化学的に切断したDNA断片、試験管内で酵素等により合成されたDNA、または化学合成したオリゴヌクレオチド等を用いることもできる。
【0046】
前記糖鎖としては、特に制限されるものではなく、本発明に係る鎖状分子として糖鎖を使用する場合の糖鎖の長さは、単糖類が100〜1000万個以上結合、オリゴ糖が5千〜100万個以上結合、多糖類が9千〜10万個以上結合してなるものであればよく、また、多糖を構成する単糖類の種類や数に特に制限はなく、各単糖類間のグリコシド結合の種類も特に制限されず、α結合、β結合のいずれであってもよい。
【0047】
上記単糖類としては、単糖としては、例えば、三炭糖(例えば、D−グリセリルアルデヒド、ジヒドロキシアセトン等);四炭糖(例えば、D−エリトロース、D−エリトルロース、D−トレオース、エリスリトール等);五炭糖(例えば、L−アラビノース、D−キシロース、L−リキソース、D−アラビノース、D−リボース、D−リブロース、D−キシルロース、L−キシルロース等);六炭糖(例えば、D−グルコース、D−タロース、D−ブシコース、D−ガラクトース、D−フルクトース、L−ガラクトース、L−マンノース、D−タガトース等);七炭糖(例えば、アルドヘプトース、ヘプロース等);八炭糖(例えば、オクツロース等);デオキシ糖(例えば、2−デオキシ−D−リボース、6−デオキシ−L−ガラクトース、6−デオキシ−L−マンノース等);アミノ糖(例えば、D−グルコサミン、D−ガラクトサミン、シアル酸、アミノウロン酸、ムラミン酸等);ウロン酸(例えば、D−グルクロン酸、D−マンヌロン酸、L−グルロン酸、D−ガラクツロン酸、L−イズロン酸等)等が挙げられる。
【0048】
上記オリゴ糖としては、例えば、ショ糖、グンチアノース、ウンベリフェロース、ラクトース、プランテオース、イソリクノース類、α,α−トレハロース、ラフィノース、リクノース類、ウンビリシン、スタキオースベルバスコース類等が挙げられる。
【0049】
上記多糖としては、例えば、セルロース、クインスシード、デンプン、ガラクタン、デルマタン硫酸、グリコーゲン、アラビアガム、ヘパラン硫酸、トラガントガム、ケラタン硫酸、コンドロイチン、キサンタンガム、グアガム、デキストラン、ケラト硫酸、ローカストビーンガム、サクシノグルカン等が挙げられる。
【0050】
また、前記糖鎖の具体例としては、糖鎖あるいは複合糖質でもよく、特に制限されることなく、前記糖鎖としては、例えば、糖タンパク質系糖鎖(N−結合型糖鎖とO−結合型糖鎖)、糖脂質系糖鎖、グリコサミノグリカン系糖鎖、又は多糖類由来オリゴ糖鎖などが挙げられる。また、1)N−結合型糖鎖としては、高マンノース型・混成型・複合型からなるN−結合型糖鎖など、2)O−結合型糖鎖としては、ムチン型(O−GalNAc)・O−Fuc型・O−Man型・O−Glc型などからなるO−結合型糖鎖など、3)糖脂質系糖鎖としては、ガングリオ系列・グロボ系列・ラクト・ネオラクト系列糖鎖など、4)グリコサミノグリカン系糖鎖としては、ヒアルロン酸・ケラタン硫酸・ヘパリン・ヘパラン硫酸・コンドロイチン硫酸・デルマタン硫酸など、5)多糖類由来オリゴ糖鎖としては、キチン、セルロース、カードラン、ラミナリン、デキストラン、デンプン、グリコーゲン、アラビノガラクタン、アルギン酸、フルクタン、フコイダン、キシランなどに由来するオリゴ糖鎖などが挙げられる。
【0051】
また、上記複合糖質とは、糖鎖を持つ生体内高分子の総称であり、本発明の複合糖質としては、アスパラギン結合型糖鎖やムチン型糖鎖などの糖タンパク質(糖ペプチドも含む)、プロテオグリカン、糖脂質が挙げられる。
【0052】
前記ペプチドとしては、特に制限されるものではなく、本発明に係る鎖状分子としてペプチドを使用する場合のペプチドの長さは、100〜1000000アミノ酸残基の範囲であることが好ましく、500〜1000000アミノ酸残基の範囲であることがより好ましく、1000〜500000アミノ酸残基の範囲であることがさらに好ましい。
【0053】
また、アミノ酸残基の種類は、特に限定されず、通常は、天然に存在するアミノ酸のアミノ酸残基、具体的には、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、プロリン残基、ヒドロキシプロリン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基、メチオニン残基、セリン残基、トレオニン残基、システイン残基、グルタミン残基、グリシン残基、アスパラギン残基、チロシン残基、リシン残基、アルギニン残基、ヒスチジン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基のいずれのアミノ酸残基をも採ることができる。また、本明細書における「ペプチド」とはタンパク質を含む概念であり、本発明に係る鎖状分子としてタンパク質を使用する場合のタンパク質の大きさは、10〜10000kDaの範囲であることが好ましく、100〜1000kDaの範囲であることがより好ましく、1000〜100kDaの範囲であることがさらに好ましい。
【0054】
また、上記タンパク質は、公知のものであれば本発明に使用することができる。
【0055】
前記高分子としては、特に制限されるものではなく、本発明に係る鎖状分子として高分子を使用する場合の高分子の分子量は、10〜1000万Mwの範囲であることが好ましく、100〜100万Mwの範囲であることがより好ましく、1000〜10万Mwの範囲であることがさらに好ましい。
【0056】
また、上記高分子の種類は特に限定されるものではなく、公知の高分子であれば本発明に使用することができる。具体的には、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリル酸(メチル)等の付加重合型高分子、ナイロンなどのポリアミド、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリウレタン、ポリフェノール、ポリメラミン、ポリイミド、ポリアラミド、(ホモ)またはヘテロ二官能性ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどの有機高分子だけではなく、シロキサン結合を有するシリコーン系樹脂であってもよい。
【0057】
本発明に係る鎖状分子の固定端部は、基板に直接またはバインダーを介して連結していることが好ましい。
【0058】
すなわち、本発明に係る鎖状分子は、分子内に鎖状構造を一部でも有するものであれば鎖状高分子の形状は特に制限されることはなく、前記分子内に環状構造、分枝構造を有してもよいが、少なくとも一つの固定端部および少なくとも一つの自由端部を有する必要があり、仮に鎖状分子が一本の直線状である場合、片側が基板に直接またはバインダーを介して連結していることが好ましい。尚、この場合の自由端部は他方の端である。
【0059】
また、前記鎖状分子が、環状の分子である場合、この環状の分子の任意の位置で基板に直接またはバインダーを介して連結することで固定端部を有していることが好ましい。尚、この場合の自由端部は、前記固定端以外の環状の分子内の任意の位置をいう。
【0060】
さらに、「前記鎖状分子が基板にバインダーを介して連結している」ということは、基板の表面に形成された赤外光吸収材料の層であってもよく、また、当該赤外光吸収材料の層の表面をさらに別途の材料で被覆した層の表面に連結してもよいということである。例えば、前者の場合、バインダーは赤外光吸収材料の層に相当し、後者の場合、赤外光吸収材料の層および別途の材料で被覆した層に相当する。
【0061】
また、本発明に係る鎖状分子が基板にバインダーを介して連結する方法は、使用する鎖状分子などによって適宜選択できるものであって、特に制限されるものではなく、主に化学的手法(表面処理などの化学合成)によって鎖状分子が基板にバインダーを介して連結できるものが好ましく、例えば、鎖状分子として、特開平9−302048号に記載のヘテロ二官能性ポリマーであるヘテロテレケリックポリマーを使用する場合は、シランカップリング剤などを使用して公知の方法で基板表面に直接当該鎖状分子をはやすことができる。また、例えば、鎖状分子として、特開平7−48449号記載の一般式(1)の末端がメルカプト基であるポリアルキレンオキシド誘導体などを使用する場合は、基板表面に赤外光吸収材料としてAuを使用し、Au層を基板表面に形成させた後、公知の方法で金表面にポリアルキレンオキシド誘導体のSH基を修飾させることができる。さらに、鎖状分子として、DNAなどを使用する場合、基板表面に赤外光吸収材料としてAuを使用し、Au層を基板表面に形成させた後、このAu層表面にビオチン付BSAを吸着させ、さらにこのビオチンにアビジンを特異結合させて、最後にビオチン付DNAをこのアビジンに結合させることで鎖状分子であるDNAが基板にバインダーを介して連結することができる。
【0062】
本発明に係る鎖状分子の鎖状分子の固定端部は、ビーズと直接またはバインダーを介して連結していることが好ましい。
【0063】
すなわち、本発明に係る鎖状分子は、上記と同様に、分子内に鎖状構造を一部でも有するものであれば鎖状高分子の形状は特に制限されることはなく、前記分子内に環状構造、分枝構造を有してもよく、固定端部または自由端部も上記と同様の定義であるためここでは省略する。
【0064】
また、「前記鎖状分子がビーズに直接またはバインダーを介して連結している」ということは、ビーズに直接鎖状分子を修飾したもの導入させても、ビーズに形成された赤外光吸収材料の層の表面であってもよく、また、当該赤外光吸収材料の層の表面をさらに別途の材料で被覆した層の表面に連結してもよいということである。
【0065】
本明細書の「ビーズ」とは、塊状の固体をいい、1次粒子であっても、2次粒子あってもよく、シリカビーズ、ポリスチレンビーズ、ガラスビーズ、フラーレン、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0066】
当該ビーズの大きさ、形状は特に制限されるものではないが、粒状、棒状の形状が好ましく、最大粒子径が0.1〜5μmのものが好ましく、最大粒子径が1〜2μmのものがより好ましい。
【0067】
さらに、本発明に本発明に係る鎖状分子がビーズにバインダーを介して連結する方法は、使用する鎖状分子やビーズの種類によって適宜選択できるものであって、特に制限されるものではなく、上記の基板に連結する方法や公知の方法で鎖状分子をビーズにバインダーを介して連結させることができる。例えば、ビーズをフラーレン、鎖状分子をペプチドや片末端がカルボキシル基を有するポリエチレングリコールを選択した場合、フラーレンを予め酸処理すると、フラーレン表面が水酸基に被覆されるため(Chem.Rev.; 1992; 92(7); 1487−1508)、このフラーレン表面の水酸基とペプチドやポリエチレングリコールのカルボキシル基との縮合反応により、フラーレンの表面に鎖状分子が結合させることで、鎖状分子がビーズにバインダーを介して連結することができる。また、例えば、ビーズをポリスチレンビーズ、鎖状分子にDNAを選択した場合、アビジン付ポリスチレンビーズにビオチン付DNAを混合するとアビジン―ビオチン結合により容易に鎖状分子の片末端をビーズに連結することができる。
【0068】
上述したように、水以外にもエチレングリコール、グリセロール、赤外光を吸収しない重水でもDNAが延伸され引き込まれる現象が確認されているため、本発明に係る方法において使用される溶媒は、特に制限されることなく、使用する鎖状分子の性質に合わせて、水溶液や有機溶媒を適宜選択することができる。また、後述する実施例において水系溶媒を選択する場合、前記溶媒に適宜塩を添加してもよく、pHの調整も使用する鎖状分子の性質に合わせて緩衝溶液などを用いることができる。
【0069】
本発明に係る方法に使用されるレーザーは、特に制限されることはないが、赤外レーザーを用いることが好ましく、レーザーは対象物にそのまま照射してもよいし、レンズ等を用いて対象物に集光するように照射してもよい。
【0070】
本発明に係るレーザーの波長は、1000〜5000nmが好ましく、1064nmがより好ましい。また、前記赤外レーザーとしては、YAGレーザー(Nd−YAGレーザー)、Nd:YVO4レーザー、CO2レーザー、ルビーレーザーなどいかなるものを用いてもよく、かかる赤外レーザーを照射する装置として光ピンセットなどが好適に使用することができる。
【0071】
前記光ピンセットとは、レーザー光を操作して集光照射することで生じる光放射圧を利用して溶媒中の微細物を捕捉するものである。この光ピンセットは、レーザー光を水等の媒質を通して微細物に照射した場合に、媒質と微細物の屈折率の違いからレーザー光が屈折し、それに伴う光運動量変化に対する反作用によって微細物を焦点にトラップするものである。そして、微細物を捕捉した状態で、操作により微細物を含む試料ステージ側を相対移動させて微細物を移動・搬送することができる。このような光ピンセットを用いて微細物を操作・採取する技術としては、例えば、特開2001−71300号公報、特開2001−211875号公報に記載の技術がある。
【0072】
しかしながら、本発明では、光ピンセットを微細物の捕捉に使用するのではなく、上記に説明したように、レーザー光を任意の位置に動かして、溶媒中で赤外光を吸収する材料からなる層に照射することで、局所的加熱により発生するマイクロバブルを制御するものである。したがって、本発明に係る方法では、光ピンセット装置ではなく、所定の波長を有するレーザーを任意の場所に操作して集中照射することで発生するマイクロバブルを制御するものであれば特に制限されることはない。
【0073】
本発明に係る方法において、レーザー出力は、使用するレーザー赤外光吸収材料や光ピンセット装置によって適宜選択されるものであるが、例えばYAGレーザー(Nd−YAGレーザー 1064nm)の光ピンセットを使用する場合のレーザー出力は、20mW以上であることが好ましく、20mW〜70mWの範囲であることがより好ましく、50mW〜70mWであることがさらに好ましい。
【0074】
レーザーが100mw以上の場合、照射時間が長くなるため、気泡が成長しすぎて、引き込みが弱くなるが、20mw〜70mwの範囲ではそのような事が観測されていないため、レーザー照射時間内は常に引き込まれる流れが観測できる。
【0075】
また、本発明において赤外光吸収材料の被膜にレーザーを照射した際に、吸収した光を熱に変換して気泡が発生することで、鎖状分子を引き込み当該鎖状分子が延伸されるが、この場合の引き込み範囲は、使用する赤外光吸収材料、レーザー出力などにより適宜選択されるものである。例えば、後述する実施例において、当該引き込み範囲とレーザー出力との関係の実験を行っている。
【0076】
なお、本明細書における「レーザー照射点」とは、文字通り、対象におけるレーザーを照射した位置をいい、「レーザー集束領域」とは、レーザー光が集まる領域であり、「レーザー照射点」を中心とした近傍の領域であって、照射するレーザーや照射される対象の物性によって変化し、「レーザー照射点」と一体となって移動するものである。また、対象物にレーザーが照射されると、レーザー照射点を中心に、対象物にレーザー光が集まり、レーザー光が例えば赤外光吸収材料に吸収されて熱に変換されて気泡(マイクロバブル)が生じると考えられる。
【0077】
また、本発明に係る照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡の大きさは、使用するレーザーやレーザー出力、レーザーを照射する対象物などによって適宜変化するものであるため特に制限されるものでない。
【0078】
本発明の第二は、溶媒中で鎖状分子の二つの固定端間で赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記鎖状分子とを接触させると前記鎖状分子が切断される段階(3)を含む、鎖状分子の切断方法である。
【0079】
すなわち、溶媒中で、鎖状分子が二つの固定端を有していればよく、本発明に係る方法(段階(1))により2つの固定端を形成させても、公知の方法で2つの固定端を形成させてもよく、より好ましくは、予め、上述した公知の化学修飾法で少なくとも1つの固定端を有する鎖状分子を、本発明に係る段階(1)により、2つの固定端を形成させた後、この二つの固定端間で赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記鎖状分子とを接触させて前記鎖状分子が切断する方法である。これにより、鎖状分子を任意の位置で切断することができる。
【0080】
また、本発明に係る段階(3)の鎖状分子の切断条件は、気泡が発生していれば切断が確認されるため、上記の条件(a)〜(c)と同一の条件でも異なる条件でもよいが、好ましくは同一条件である。また、鎖状分子にDNAを使用する場合は、確実に確認できるという点では、DNAの長さが5μm以上であることが好ましい。顕微鏡により、視認すながら任意の位置で鎖状分子を切断することができるからである。
【0081】
本発明の第3は、本発明に係る段階(1)および(2)、ならびに段階(3)からなる群から選択される少なくとも一つの段階を備える鎖状分子の操作・切断装置である。
【0082】
後述する実施例におけるような、赤外光吸収材料を有する層を含む基板、溶液セル、溶媒、およびレーザー照射装置を有し、かつ本発明に係る段階(1)〜(3)を備える装置であれば鎖状分子の操作・切断できる。
【実施例】
【0083】
1.実施例で使用した主要な測定機器および装置
以下、実施例で使用した主要な測定装置は以下の通りである。
【0084】
紫外・可視分光光度計(UV−vis spetrum scopy)
日立社製のU−4000 およびagilent 社製の型自記分光光度計を使用した。試料はベースラインをとった溶媒に溶解して光路長1 cmの石英セル、またはブラックセルで測定した。
【0085】
超純水製造機
セナー株式会社のエルガスタット超純水製造装置UHQ−PS(Ultra High Quality PolishingSystem)を用いた。4種類の純水化技術(有機物吸着、イオン除去、超微粒子ろ過、光酸化)を組み合わせて、18MEcmの超純水を調整して用いた。
【0086】
UV−O3−クリーナー
日本レーザー電子社製のNL−UV253を使用した。本装置は、極短波長の光(約185nm)と酸素との反応によるオゾン発生と、短波長の光(254nm)のもつ化学結合解離効果とを組み合わせた光化学的酸化プロセスにより湿式洗浄では除去できない基板表面に残った有機物を取り除くと同時に、基板表面の親水処理のために利用した。30分間で約10nmの有機物を分解する。
【0087】
SEM(走査型電子顕微鏡)
日本電子社製のJSM−5600LVBを使用した。試料はカーボンテープ、あるいは両面テープでステージに固定した。高真空下で測定を行い、焼き付けを最低限に抑える為、印加電圧は5kV,スポットサイズ18〜25で行った。
【0088】
光学および蛍光イメージング測定
Nikon社製の蛍光顕微鏡ECLIPSF 80iを用い、照射波長504nmで観察を行った。光学イメージはハロゲンランプによる光源を用いた。
【0089】
超音波洗浄機
ヤマト科学社製のyamato BRANSON 2510を使用した。
【0090】
ホットプレート
AS ONE社製のHOT PLATE TRIPLET TH−500を使用した。
【0091】
コンタクト型マスクアライナー
ズース・マイクロテック(Suss)社製のKarl Suss MA 6/BA6をいた。4インチSiウェハに5インチフォトマスクをハードコンタクトモードでアライメントし、1000W電圧,405nmの光源を用いて、100〜110mJ/cm2の露光を行った。
【0092】
光学顕微鏡
OLYMPUS社製のMX50を使用した。
【0093】
プラズマリアクター
ヤマト科学社製のyamato PR 500を使用した。高真空下(10Pa程度)で酸素を流し、30Paの真空度で空焼きをして炉内を十分温めたうえで、基板上の不純物あるいはレジストの残りなどをアッシング除去した。
【0094】
EB(電子ビーム)蒸着装置
ULVAC社製のEBX−6Dを使用した。高真空下(5×10−4Torr)において固形金属の入ったるつぼに電子ビームをあてることにより、昇華、または液化した金属を常時回転させた基板に蒸着させる。一度に4種のるつぼが設置でき、連続して違う種類の金属を蒸着ができる。
【0095】
ダイシングソウ(基板切断装置)
disco社製のDAD 321 AUTOMATIC DICING SAWを使用した。
【0096】
光ピンセット
中央大学理工学部物理学科 生物物理研究室(宗行研究室)の所有する自家製の装置を使用した。かかる、光ピンセット装置の光学系の模式図を図5に示す。
【0097】
2.試料の作製および測定
(1)「基板の作製」
4インチ石英ウェハにヘキサメチルジシラザン(HMDS)を4000rpmで5秒間スピンコートした後、次いで、ポリメチルグルタルイミドSF−3(PMGI SF−3)を500rpm、5秒、3000rpm、30秒の条件でスピンコートした。その後、基板をホットプレート上で180℃、5分間ベイクし放冷した。TSMR−V90−7cpを500rpm、5秒、2000rpm、30秒でスピンコートし、100℃で90秒ベイクした。フォトマスクにHAGA−ver2を用い、光照射エネルギーが55、60、65mJ/cm2になるようにそれぞれ露光した。以降の工程は既知の作製法で行い、くし型電極の幅が2μm、電極間が4μm、金電極の厚みが10 nmのものを用いた。
【0098】
(2)「溶液セルの作製」
上記の方法で作製した石英基板と、スペーサーと、カバーガラスとを使ってサンドイッチ構造を作ることにより、図5で示すような、上面に(石英)基板1、下面にカバーガラス3とした溶液セル1を作製した。スペーサーには両面テープ、ルミラー、パラフィルムを用いた。両面テープを用いた場合、テープの粘着性により石英基板とカバーガラスとを固定した。ルミラーの場合、グリスを塗ることで基板とガラスとの密着性を上げ、セルを作製した。パラフィルムを用いた場合、サンドイッチ構造を作った後、60℃に設定したホットプレートでベイクし密着させた。
【0099】
また、図5では、くし型電極1が蒸着された(石英)基板2を、溶液セルの上面に設置させた。この理由は重力によって沈殿してくる粒子等が基板に付着し、基板が汚れる事を避けるためである。そのため溶液セルの厚みは出来る限り薄い方が光ピンセットの捕捉力が強くなり、実験系に適している。そこで厚みの薄いスペーサーを探索した。
【0100】
両面テープをスペーサーに用いた場合ではセルの厚みが数100μm程度であり、セルの上面である石英基板付近ではレーザーによるビーズをトラップする力が弱くなり、実験系に不適と判断した。
【0101】
ルミラーを用いた場合のセルの厚みは100μm程度であった。ルミラー自身の厚みは20μmのものを用いたが、グリスを使用してガラス基板と密着させるため、実際のセルの厚みは大きくなった。ポリスチレンビーズの操作を評価すると、上面でのトラップ力は両面テープの時よりも向上したが、トラップ力の低下が見られた。薄さに限界があるためスペーサーにルミラーを用いるのは不適であると判断した。
【0102】
パラフィルムをスペーサーに用いると実験系に適した溶液セルを作製できた。パラフィルムはそのまま使用するとミリメートルオーダーの厚みであるが、延伸(または伸張とも称する)すると数十マイクロメートルの薄膜になった。さらにパラフィルムを(石英)基板2とカバーガラス3で挟んだ後、ホットプレートでベイクすると密着性が上がり、約40μmの厚みの理想的な溶液セルが作成できた。上面でのポリスチレンビーズの操作は滞り無く行えたため、本研究において溶液セルのスペーサーには伸張したパラフィルムを用いることにした。
【0103】
(3)「ビオチン付λDNAの調製」
0.38mg/mLλDNA(48,502kbp,Takara)(配列番号1,2)TE緩衝溶液3μL(3.6×10−14mol)と、前記λDNAのcos部位と相補的な塩基配列を設計した1μMビオチン付オリゴマー(つくばオリゴサービス、以下の化学反応1の(1)、配列番号1−ビオチンおよび配列番号2)TE緩衝溶液3.46μL(3.5×10−12mol)と、TE緩衝溶液16.6μLとを300μLエッペンにとり混合し、70℃で10分間加熱した(化学反応1)。その後、室温にて3時間ローテーターで回転させた後、さらにTE緩衝溶液を47μL加え、濃度を5.1×10−10Mに調整し、スピカラム(クローンテック)を使い過剰のプライマーを除去した。これを5μLずつ分注し、−20℃で保存した。
【0104】
【化1】
【0105】
(4)「チオール付λDNAの調整」
上記λDNAのcos部位と相補的な塩基配列を設計したビオチン付オリゴマーを、
チオール付λDNA(48,502kbp,Takara)(配列番号1,2、配列番号1の末端をチオール基修飾したものと配列番号2とのコンプレックス)にした以外は上記の方法と同様の方法で、以下の化学反応2を経てチオール付λDNAを調製した。
【0106】
【化2】
【0107】
(5)「ビオチン付λDNA及びチオール付λDNAによる修飾ビーズの調製」
エッペンにアビジン付ポリスチレンビーズの原液10μlとり、990μlのTEバッファーを加え希釈した。これを5分間遠心分離にかけ、上澄み液を棄て、1mlのTEバッファーを加えたあと、指で弾き、ビーズを分散させた。この操作を3回繰り返し、ビーズ原液に含まれる還元剤のアジドを除くための洗浄を行った。洗浄済みアビジン付ビーズをビオチン付DNAと混合した。
【0108】
また、ビオチン付λDNAのラベリングが合成されているかを評価するため、前記洗浄済みアビジン付ビーズをビオチン付DNAと混合し、10分間インキュベートした後、YOYO‐1またはSYBR Goldで染色し、相互作用の様子を蛍光顕微鏡により観察することで、アビジン付ビーズとビオチン付DNAとの相互作用を調べた(図7参照)。
【0109】
(6)「基板−金薄膜−BSA−ビオチン−アビジン−ビオチン−DNAサンプルの作製」
2mg/mLビオチン付BSA溶液(TE 緩衝溶液)を3μL溶液セルに流し込み、5分間静置させ、上記(1)で作成した金薄膜を有する基板の表面に非特異的に吸着させた。その後、10μLの溶媒を流し、洗浄したあと、1mg/mLアビジン溶液(TE緩衝溶液)3μLを流し込み、10分間静置させ表面にアビジンを結合させた。10μLの溶媒で洗浄し、ビオチン付λDNA(配列番号1−ビオチンおよび配列番号2)溶液を3μL流し込み10分間静置させた。1000倍希釈したSYBR Gold 溶液を10μL流し、蛍光観察を行った。
【0110】
(7)「DNA引き込み現象の観測」
上記(6)の欄の方法で作製した基板−金薄膜−BSA−ビオチン−アビジン−ビオチン−DNAサンプルを溶液セルに装着した場合、出力50mWのレーザーの焦点をくし型金電極の表面にあてるとDNAがレーザー照射点方向に引き込まれる現象が観察された(図1参照)。しかしながら、石英表面にレーザーをあてると、何も起こらなかった。また、レーザーの出力を変化させると、50mW未満の出力の場合は金表面でも引き込み現象が起こらなかった。
【0111】
次にDNAの片側末端を基板表面に固定した場合、どのように引き込まれるかを観察するため、ビオチン付DNAを基板に固定させたサンプルで実験を行うと、レーザー照射点に向かってDNAが伸張されながら引き込まれることが観察された(図3(a)、(b))。
【0112】
この引き込みは、レーザーのON/OFFに瞬時に応答し、ONのときは数十ミリ秒の間に伸張され、レーザーをOFFにするとDNAが折りたたまれて固定端に向かって収縮することが確認された(図2−1、図2−2参照)。また、DNAが引き込まれる範囲は出力が50mWの時、レーザー集束領域から半径20μm程度の距離であった。レーザー出力を20mW上げると引き込まれる範囲は拡大した。
【0113】
図8にDNAが引き込まれる瞬間とその移動速度を示す。レーザー集束領域とDNAまでの距離が20μm以下になると、DNAは急激に引き込まれ、その移動速度(DNAの先頭)を計算すると、レーザー集束領域に引き込まれるに伴って、移動速度は増加した。引き込まれ始めの速度は40μm/s程度であるが、レーザー集束領域付近では200μm/sを超えていた。この速度の値について考察すると、今回用いたDNAの凝縮した塊の直径を1μmとして、ブラウン運動のみの移動を仮定した場合に、DNAの移動速度は1.0×10−3μm/sと推定できる。この値と比較すると引き込み速度は1万〜10万倍と非常に速い事がわかった(図8参照)。
(8)「片側チオール修飾DNAを金薄膜表面上に固定したサンプルの作製」
0.38mg/mLλDNA(48,502kbp,Takara)(配列番号1,2)TE緩衝溶液3μL(3.6×10−14mol)と、λDNAのcos部位と相補的な塩基配列を設計した1μMチオール付オリゴマー(つくばオリゴサービス)(配列番号1の末端をチオール基修飾したもの)TE緩衝溶液3.46μL(3.5×10−12mol)と、TE緩衝溶液16.6μLとを300μLエッペンにとり混合し、70℃で10分間加熱した(化学反応1−(2))。その後、室温にて3時間ローテーターで回転させた後、さらにTE緩衝溶液を47μL加え、濃度を5.1×10−10Mに調整し、スピカラム(クローンテック)を使い、過剰のプライマーを除去した。
【0114】
このように作製した片側チオール修飾DNA溶液を、上記(1)で作製した金薄膜を表面に被覆した石英基板を装着した溶液セルに加えながら、溶液セル内に液の流れをつけるため、適宜、溶液セルが乾かないように濾紙で吸い取る作業を10分間行い、上片側チオール修飾DNAを金薄膜表面上に固定したサンプルを作製した。
【0115】
(9)「表面がSAM修飾された金薄膜基板の作製」
1mMのメルカプトヘキサノール、ヘキサンチオール、またはヘキサデカンチオールのエタノール溶液それぞれ3つに上記(1)で作製した金薄膜を表面に被覆した石英基板を2時間浸漬させ、エタノールで洗浄することで、3種類の表面がSAM修飾された金薄膜基板サンプルを得た。
【0116】
(10)「表面がBSA修飾された金薄膜基板の作製」
溶液セルに濃度10nMのBSA溶液を流し込み、10分間静置させた。その後、溶液セルに流したBSA溶液の液量の3倍量の溶媒を流し、洗浄した。
【0117】
(11)「DNAの操作の評価」
レーザーの出力は50mWに固定し、金薄膜基板およびSAMで表面修飾した金薄膜基板に対してDNAの操作を行った。
【0118】
(11−1)
前記片側チオール修飾DNA溶液を溶液セル流し入れ、金薄膜表面上に金―チオール結合によりDNAの片側を固定させ、光ピンセット装置でレーザーを照射して、DNAの延伸固定を測定した。その結果、DNA(片末端がチオール基を介して金薄膜に固定しているため、他方の端)を気泡に引き込むと、DNAは気泡に接触した位置で固定された。その様子を図9に示す。また、レーザー集束領域近傍まで伸びなかったDNAは固定されずに元の位置に戻ったことから、DNAの固定はマイクロバブルの気体と液体と固体の界面で固定されていると考えられる。また、固定されたDNAはブラウン運動をほとんど示さないことから、DNAの限界付近まで伸張され固定されていることが示された。
【0119】
この延伸固定法を用いると、片側固定されている3本のDNAを一点に結び、ジャンクションを作ることや(図10 a)参照)、1本のDNAをまず伸張し、さらにもう1本のDNAを交差させて固定すること(図10 b)参照)等が可能であり、任意の位置にDNA延伸固定が可能である事が確認された。
【0120】
(11−2)
前記3種の表面がSAM修飾された金薄膜基板サンプルを溶液セルに装着し、前記ビオチン付λDNA及びチオール付λDNAによる修飾ビーズ含む溶液を溶液セルに加えて、上記方法と同様に、光ピンセット装置でレーザーを照射して、DNAの延伸固定を測定した。その結果、メチル基DNAの付き難い水酸基表面に変えてもDNAが固定されることが確認された。そのため、(11−1)の実験結果と比較すると、DNAの固定には、SAMの表面状態に左右されず、DNA捕捉分子無しでも固定可能な方法であり、終点を任意に決めることができると考えられる。
【0121】
より具体的には、ヘキサンチオールまたはヘキサデカンチオールで修飾した基板表面はメチル基(−CH3)で疎水性になっている。レーザーによる延伸固定(または伸張固定)を行うと、固定される結果を得た。この点を考察すると、レーザー照射による熱により二重螺旋が解け、内側の塩基が基板表面に吸着したことが考えられる。また、メルカプトヘキサノールで修飾した場合、基板表面は水酸基(−OH)になり、アニオン性であるDNAとの静電反発によりDNAが吸着しない表面状態になっているが、レーザーによる延伸固定法を行ったところ、固定される結果を得た。吸着しない表面であることが知られているが、吸着してしまう結果を得たため、SAMで表面修飾した膜がレーザーの熱で壊れたことが考えられる。
【0122】
(11−2)
前記基板−金薄膜−BSA−ビオチン−アビジン−ビオチン−DNAサンプルのように金薄膜表面をBSAで覆い、ビオチンーアビジン相互作用で片側固定したDNAはレーザーにより伸張されたが、表面に固定され無い結果であった。BSAは固体表面に非特異的に吸着し膜を形成し、DNAが固体表面に吸着するのを防ぐために用いられるものであり、また、BSAは大きさが約10nmのタンパク質であるため、固体表面に形成する膜は10nm以上であると推測される。
【0123】
以下表1に金薄膜の表面の組成を変えたときのDNAの固定結果を示す。また、表中のRは、C6〜16のアルキル鎖である。
【0124】
【表1】
【0125】
(12)「マイクロバブルによるDNAの切断」
上記方法により金薄膜上に延伸固定したDNAの上にレーザー照射点を横断またはレーザー照射により発生する気泡に接触させると、DNAが切断されて、両固定末端に向かってDNAが収縮する様子が確認された(図11)。この切断は石英上では確認されず、気泡が生成する出力以下ではDNAの切断が確認されなかった事から、マイクロバブルによる切断だと考えられる。切断機構は解明されていないが、マイクロバブル周辺は水が気化する程の温度であること、熱勾配のある気液界面に活性があることが原因でDNAが切断されたと考えられる。また、DNAが収縮する様子が観察されたことから、DNAの固定はレーザー集束領域の先端のみでピン止めされていることが確認された。
【0126】
(13)「DNA修飾ビーズと光ピンセットを用いて位置・本数を制御したDNAナノワイヤーの調製」
(13−1)
前記アビジン付ポリスチレンビーズ(直径1.87μm)1μlと、前記片側末端ビオチン付λDNA1μlを混合し、ローテーターで10分回転させた。その後、この混合液を100倍に希釈し、蛍光染色液のSYBR Goldを1000倍希釈の濃度になるように混合させ、溶液セルに流した。DNA修飾ビーズを溶液セルから見つけ、レーザー(出力 50mW)でビーズを捕捉した。捕捉したビーズを操作し金薄膜近傍の石英表面に移動させ、約10秒間レーザー光で押し付ける用に石英表面に固定した。その後、金薄膜表面にレーザーをあて、気泡と接触させることでビーズに固定されているDNAの延伸固定を行った。
【0127】
その工程を図13を参照して説明すると、図12(a)では、溶液セル内でDNA修飾ビーズを光ピンセットによりトラップし、ビーズを金薄膜近傍の石英表面に移動させ、10秒以上表面に押し付ける事で、石英表面上に物理吸着させた。次いで、図12(b)では、金薄膜上にレーザーをあて、気泡と接触させることでビーズに固定されているDNAを延伸固定した。図12(c)。同様に2つ目のビーズも基板表面上に移動させた。図12(d)では、これら2つのビーズに固定されているDNAをマイクロバブルを操作することでDNAを交差させて延伸固定させる工程である。その結果を図14に示す。
【0128】
(13−2)
くし型電極を使用した以外上記(13−1)と同様の方法でDNAナノワイヤーの調製を行った。図15を参照して説明すると、溶液セル内でDNA修飾ビーズを光ピンセットによりトラップし(図14(a))、石英表面上に物理吸着させた後(図14(b))、電極表面上のレーザー集束領域(気泡と接触により)にDNAを延伸固定した(図15(c))。くし型電極間へDNA延伸固定した結果を、図15に示す。これにより、くし型電極間にも延伸固定は応用できることがわかった。
【0129】
(14)参考実験1「マイクロバブルの気液界面の影響」
レーザーの出力を100mWにすると、直径10μm程度の気泡が顕微鏡で観察可能であった。気泡の気液界面が引き込みに関与するかを確かめるため、局所加熱ポイントであるレーザー照射点の位置を左右に動かし、気泡界面の左右に温度勾配をつけ、上記(6(6)で作製したDNAの片側をビオチン‐アビジン相互作用で金表面に固定したサンプルを溶液セルに装着して、引き込み現象を調べた。気泡の右側にレーザーの焦点をあてると、DNAは右側から瞬時に引き込まれ、円を描くように焦点に引き込まれていった。また、レーザー照射点を左側に移動させると、同様にDNAは左側から引き込まれた(図16)。この対流について考察すると、まず、気液界面にレーザー照射点をあてるとで温度勾配が生じ、その温度勾配が表面張力の勾配をつくると考えられる。一般に表面張力は高温になると張力は減少し、低温になると張力は増加することが知られている。つぎに、この表面張力差で対流が生じていると考えられる。表面張力の差に伴う対流はマランゴニ対流として知られている。DNAは焦点の位置に最短距離で引き込まれず、円を描くように引き込まれた事は、気泡界面で起こるマランゴニ対流の流線を示していると考えられる。
【0130】
(15)実験「引き込み範囲とレーザー出力との関係の実験」
前述のセルおよびDNA試料を用いてレーザー出力を0mWから70mWまで変化させていった時、レーザー集束領域に引き込まれるDNAの有効引き込み距離を焦点
からの半径として計測し、平均引き込み範囲とした。
【産業上の利用分野】
【0131】
本発明の鎖状分子の操作方法を使用すると、マイクロアレイ法だけではなく、例えば、DNA塩基配列のベクトルを制御できることから、医学的なDNA単分子解析へ貢献できる技術である。また、所定の基板上に所望の鎖状分子を自在に固定や切断等できることから、種々の細胞を活性化させる分子を配列したチップを作製できるため、再生医療工学などの分野にも貢献することができる。
【符号の説明】
【0132】
1 溶液セル
1 くし型電極
2 基板
3 カバーガラス。
【技術分野】
【0001】
本発明は、鎖状分子の操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の機能や構造の作動原理に啓発され、生体が本来有する構造・機能を創り込んだナノマシンや、生体分子・細胞等の生体の構成要素を制御した状態でナノスケールのデバイス内に抽出する方法といった、生物工学、最先端医学およびナノテクノロジーを融合させたバイオナノ融合領域が近年注目を浴びている。特に、生物は、マイクロメータサイズの細胞から構成されており、さらに前記細胞はタンパク質、脂質、核酸などのナノメータサイズの構造の集合体であるため、生物を対象としたナノテクノロジーの研究は活発に行われている。なかでも、生体分子・細胞・組織の持つ多様な性質・機能と、金属、高分子、半導体などの材料と組み合わせたハイブリッド材料は、生体分子の高感度検出技術やバイオマテリアルを利用した再生医療技術などに応用されている。
【0003】
生体分子の高感度検出技術の一つであるマイクロアレイ法と呼ばれる分析法としては、マイクロアレイまたはDNAチップと呼ばれる基板上に多数のDNA断片、タンパク質、または糖鎖を高密度に整列固定化されたものを使用して、タンパク質間、糖鎖間、糖鎖−タンパク質間の特異的な反応に基づく検出・定量方法だけでなく、多数の遺伝子発現を一度に解析する手法であるDNAマイクロアレイ法などがある。このDNAマイクロアレイ法では、対象細胞の発現遺伝子等を蛍光色素等で標識したサンプルを基板上でハイブリダイズさせて相互に相補的核酸同士を結合させた後、その結合をシグナルとして検出する表面プラズモン共鳴(SPR)や水晶振動子(QCM)を用いたバイオセンサー、またはその結合を高速に読み取る方法が広く用いられている。
【0004】
そして、なかでも金属のコロイド粒子は、表面シグナル増感効果によって共鳴ラマン散乱を増大させることが知られることから、標識試薬として使用することで、生体内の被験物質を高感度に検出、定量する手段として用いられている。例えば、特許文献1に示されるように、前記金属コロイド粒子として金コロイド粒子を用い、ハイブリダイゼーションによる金コロイド粒子の凝集に伴うプラズモン吸収の変化を指標とする技術が開示されている。これらの方法により、例えば、便潜血検査による大腸がん検診等に用いられ、目視判定、あるいは専用の計測機器との組合せで検出することができると考えられる。
【0005】
また、人工血管、人工心肺などのバイオマテリアルの分野では、人工材料などの外的なものと接触すると、血栓形成、免疫反応、炎症反応などの異物反応が引き起こされるため、「生体適合性」を有することが必要であり、特にタンパク質の吸着が少ないことが求められる。そのため、基材に対するタンパク質の非特異的吸着を抑制・防止するための技術として、多数の種々の高分子を基材の表面に固定化する方法があり、例えば、かかる技術として、特許文献2のように、L−リジンの一方のアミノ基とカルボキシル基とがイオン化されている両性電解質の人工高分子をポリウレタンやポリ塩化ビニル製でできたカテーテルの表面に固定化することによって、基材に対してタンパク質の非特異的吸着を抑制・防止する技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1および2の技術を使用するには、基板や材料といった固体の表面に多数のDNA断片、タンパク質、糖鎖、または高分子などを高密度に整列固定化させる技術が不可欠となる。
【0007】
そこで、核酸等の選択結合性物質を基材上に固定化する技術としては、例えば、特許文献3のような、スライドガラス等の平坦な基材の上に、ポリ−L−リシン、アミノシラン等をコーティングして、スポッターと呼ばれる点着装置を用い、各核酸を固定化する方法などが開発されている。具体的には、担体表面をカルボキシル化させた後、DNAの末端のアミノ基と縮合反応により固定化している。
【0008】
また、エーテル結合を介して糖鎖などの糖類が担体表面に固定化する方法としては、特許文献4が挙げられる。前記特許文献4では、ポリオレフィン板上に、Ni/Crからなる合金を蒸着させた上に、金をさらに蒸着させた後、前記金表面をメルカプトヘキサデカン酸で処理し、Au−S結合を形成させて表面をカルボキシル化し、かつ前記カルボン酸に対してヒドロキシコハク酸イミドを結合させて、所定の糖化合物を導入している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−275187号公報
【特許文献2】特開2001−108683号公報
【特許文献3】特表平10−503841号公報
【特許文献4】特開2007−298334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3および特許文献4のように、核酸や糖鎖などを基材上に固定化する場合、有機合成などの化学的手法によって、基材などの固体表面に核酸や糖鎖を結合させるものであり、この点については、特許文献1や2でも同様であり、金コロイド粒子や基材に所望の核酸や高分子を合成により固定化している。
【0011】
そのため、特許文献1〜4のいずれにおいても、固体と、核酸、タンパク質、糖鎖、または高分子と結合させる方法は、核酸や糖鎖などの片末端に所定の官能基を導入した後、必要により固体表面の表面処理を行い、最後にこれらを化学反応させるといった有機合成の手法を利用している。したがって、これら有機合成の手法の化学反応は、一般に選択的または特異的に進行するものではないため、所望の数、所望の位置、所望の形態で固体と核酸、タンパク質、糖鎖、または高分子と結合させることは困難である。
【0012】
また、特許文献1〜4などの従来の表面修飾法により固体表面に核酸、タンパク質、糖鎖、または高分子と一度結合させると、結合させた物質を固体表面から切断させることは極めて困難であり、ましてや所望の数や位置の結合だけを選択的に切断させることは至難である。
【0013】
そこで、本発明は、核酸、タンパク質、糖鎖、または高分子などの分子と、固体とを所望の数、所望の形態、または所望の位置で固定し、また、核酸、タンパク質、糖鎖、または高分子などの分子を操作する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題に鑑み、新規な操作自在の方法を鋭意検討した結果、溶媒中で少なくとも一つの固定端部および自由端部を有する鎖状分子の近傍にレーザーを照射すると、レーザー照射点に向かって前記鎖状分子が延伸し、かつ赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記自由端部との接触により前記自由端部が固定される段階(1)、および
溶媒中で固定された前記自由端部および前記少なくとも一つの固定端部の間に、前記気泡を接触させると、少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になる段階(2)を含み、
前記レーザー照射により前記段階(1)と前記段階(2)とが可逆的に行われる、鎖状分子の操作方法により、本発明の目的を達成する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、所望の位置、所望の数、所望の方法、および所望の形状で鎖状高分子を固体に固定し、かつ当該固体に固定された鎖状高分子を所望の位置で切断することができ、さらに鎖状高分子の固定と、固定された鎖状高分子の切断とを可逆的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、レーザー集束領域に発生した気泡に引き込まれる片側固定DNAの蛍光顕微鏡像である。
【図2−1】図2−1は、a)レーザーをあてたとき(ON)と、b)レーザーを切ったとき(OFF)のDNAの挙動を示す蛍光顕微鏡像である。
【図2−2】図2−2は、a)レーザーをあてたとき(ON)と、b)レーザーを切ったとき(OFF)のDNAの挙動を示す蛍光顕微鏡像である。
【図3】図3は、それぞれ金薄膜表面と石英表面にレーザーをあてた場合の比較実験を示す模式図である。
【図4】図4は、幅2μm金電極上で出力100mWレーザーをあてた時に発生する気泡を観察した光学顕微鏡像である。
【図5】図5は、本発明において使用する光ピンセットの光学系の模式図である。
【図6】図6は、本発明において使用する溶液セルの構造を示す模式図である。
【図7】図7は、DNA修飾ビーズを蛍光染色し、蛍光観察した像である。
【図8】図8は、DNAがレーザー照射点に向かって延伸する様子を経時的に示す像とその時間スケールと移動速度の像である。
【図9】図9は、レーザー集束領域に発した気泡でDNAを固定した状態を観察した蛍光顕微鏡像である。
【図10】図10は、DNAの種々の延伸固定の一例を示す像である。
【図11】図11は、DNAを切断する状態を経時的に観察した像である。
【図12】図12は、本発明の実施例の実験工程を示す模式図である。
【図13】図13は、本発明の実施例における一例の任意の位置に、任意の方向で、任意の本数のDNAを伸張固定させた蛍光顕微鏡像である。
【図14】図14は、本発明の実施例の実験工程を示す模式図である。
【図15】図15は、本発明の実施例のくし型電極間へDNA伸張固定した蛍光顕微鏡像である。
【図16】図16は、本発明に係る参考実験の気泡界面に温度勾配をつけたときの引き込みを示す図である。
【図17】図17は、本発明に係るレーザーを赤外光を被覆面に照射した際に、鎖状分子が引き込まれる範囲の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第一は、溶媒中で少なくとも一つの固定端部および自由端部を有する鎖状分子の近傍にレーザーを照射すると、レーザー照射点に向かって前記鎖状分子が延伸し、かつ赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記自由端部との接触により前記自由端部が固定される段階(1)、および溶媒中で固定された前記自由端部および前記少なくとも一つの固定端部の間に、前記気泡を接触させると、少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になる段階(2)を含み、前記レーザー照射により前記段階(1)と前記段階(2)とが可逆的に行われる、鎖状分子の操作方法である。
【0018】
すなわち、以下、本願発明の方法をより詳細に説明する。液相下において一般に高分子などの鎖状分子は、常態である縮れたような巻縮状態であるランダムコイル状態で存在しているが、少なくとも一つの固定端部および少なくとも一つの自由端部を有する鎖状分子の近傍であって、かつ赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面にレーザー照射した場合、前記レーザーの照射点に向かって前記鎖状分子の自由端が移動することにより前記鎖状分子が延伸し、いわば前記鎖状分子がピンと張った状態になる。そして、前記鎖状分子の自由端部が、赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面の近傍に存在し、かつ前記自由端部が前記被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡に引きこまれると(または気泡と前記自由端部とを接触させると)、当該鎖状分子の自由端部が前記被覆面に固定される(段階(1))。次いで、少なくとも一つの固定端部と、基板の表面の赤外光吸収材料の被覆面に固定された前記自由端部(基板上に固定されるため固定端になる)との間の任意の位置にレーザー照射点を移動して、当該鎖状分子を前記気泡に引き込むと(または前記気泡を前記被覆面に固定された自由端部に接触させると)、少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になる(段階(2))。さらに、これら段階(1)と段階(2)とは可逆的に行うことができる。
【0019】
また、ここでいう「鎖状分子常態」とは、いわゆるランダムコイルをいい、液相下における鎖状分子の形状であり、分子鎖が溶媒和し、ある程度縮れたような巻縮状態をいう。
【0020】
これにより、赤外光吸収材料の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と自由端部とを接触させることで何度でも所望の位置に鎖状分子の自由端部を固定することができ、また当該固定された鎖状分子の自由端部に前記気泡を接触させると、何度でも少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態にすることができる鎖状分子の操作方法である。
【0021】
本発明に係る段階(2)は、溶媒中で固定された前記自由端部に前記気泡を接触させると、前記鎖状分子が切断されることにより少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になることが好ましい。
【0022】
すなわち、本発明に係る段階(1)のように、溶媒中で少なくとも一つの固定端部および自由端部を有する鎖状分子の近傍かつ赤外光吸収材料の被覆面にレーザーを照射すると、当該被覆面におけるレーザー照射点に向かって前記鎖状分子が延伸され、かつ赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記自由端部とが接触すると、当該被覆面に直接または間接的に前記自由端部が固定された後(段階1)、鎖状分子が既に有する固定端部および基板の表面の赤外光吸収材料の被覆面に固定された前記自由端部(基板上に固定されるため固定端になる)の間に、レーザー照射点を移動して、鎖状分子を前記気泡に引き込むと(または前記気泡を前記鎖状分子に接触させると)、前記鎖状分子が切断されることにより、前記鎖状分子が、少なくとも一端が自由端のランダムコイル状態になる。
【0023】
すなわち、本発明に係る段階(1)で赤外光吸収材料の被覆面に直接または間接的に固定された鎖状分子は、レーザー集束領域に生じた気泡と接触すると、鎖状分子が当該気泡により切断され、1つの鎖状分子が2つの鎖状分子に別れることで、各々の鎖状分子がランダムコイル状態に復帰すると考えられる。
【0024】
本発明に係る鎖状分子の操作方法において、段階(1)における基板表面に形成された赤外光吸収材料の層に鎖状分子の自由端部が固定される条件(a)と、段階(2)における基板表面に形成された赤外光吸収材料の層に自由端部が固定された鎖状分子が、少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になる条件(b)と、基板表面に形成された赤外光吸収材料の層に自由端部が固定された鎖状分子が切断される条件(c)の3つは、すべて同一の条件であっても、すべて異なる条件であってもよいが、すべて同一条件であることが好ましい。したがって、以下詳細に説明するレーザーの物性(出力、波長など)、温度、溶媒条件は、前記3つのいずれの場合でも同一の条件で適用することができる。さらに、前記条件(a)〜段階(c)および後述の段階(3)は、レーザー照射により気泡ができる条件であればよい。
【0025】
また、段階(2)における基板表面に形成された赤外光吸収材料の層に自由端部が固定された鎖状分子が、少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になることは、後述する実施例などで確認されており、現状では実施例などから鎖状分子の切断によるものであると考えられる。
【0026】
図1は、鎖状分子として例えば片末端にビオチンを導入したDNAを、ビオチン−アビジン結合により赤外線吸収材料の層を表面に有する基板に固定したサンプルで実験を行った様子である。この図1をみると、レーザー照射点に向かってDNAが延伸されながら、レーザー照射点に向かって延伸している(または、引き込まれている)ことが観測できる。また、後述の実施例においても詳細に説明するが、この引き込みは、図2−1、図2−2で示すように、レーザーのON/OFFに瞬時に応答し、ONのときは数十ミリ秒の間に延伸され、レーザーをOFFにするとDNAが折りたたまれて常態に復帰し固定端に向かって収縮することが確認されている。
【0027】
本発明の鎖状分子の操作方法において、鎖状分子がレーザー照射点に向かって延伸され、かつ基板に固定、鎖状分子の切断される理由のうち、当該鎖状分子がレーザー照射点に向かって延伸される理由は、マランゴニ対流で説明でき、基板に固定、鎖状分子の切断されることに関しては明確な理由がわかっていない。
【0028】
そこで、鎖状分子がレーザー照射点に向かって延伸される理由については、以下、図3を参照しながら説明する。図3は、比較実験の模式図であり、より詳細には、鎖状分子として例えば片末端にビオチンを導入したDNAを、ビオチン−アビジン結合により赤外線吸収材料の層の表面上および前記DNAを石英基板に直接固定したサンプルに対して、基板上の赤外線吸収材料の層上にした場合(図3(a))と、レーザー照射点を石英基板に直接した場合(図3(b))との比較実験を示す概略図である。レーザー照射点を赤外線吸収材料の層の表面にあてると、DNAが延伸され引き込まれる現象が確認されたが、石英基板表面にレーザーをあてても何もおこらなかった。しかし、油性マジックを塗布したガラス基板でもDNAが延伸され引き込まれる現象がみられたため、吸収された赤外光は局所的に熱に変換したものであると考えられる。また、DNA以外の物質、例えば、石英基板の表面に金層を形成させた後、ポリスチレンビーズを金層表面に配置して、レーザーを金層に照射するとポリスチレンビーズがレーザー照射点に引き込まれる現象も確認された。
【0029】
さらに、レーザーの出力には閾値(Nd:YAG LASER(1064nm)レーザー出力20mW以上である。なお、Nd:YAG LASER(1064nm)レーザー出力20mW未満ではDNAが延伸され引き込まれる現象が確認できなかった)が存在すること、溶媒に関して水以外にもエチレングリコール、グリセロール、赤外光を吸収しない重水でもDNAが延伸され引き込まれる現象が確認されたこと、および金細線上にレーザーをあてると気泡(マイクロバブルとも称する)が発生することが確認されており(図4参照)、レーザーを赤外光吸収材料の層(図1〜3では、赤外光吸収材料の層として金層を使用)にあてると、吸収された赤外光が局所的に熱に変換されることにより、前記金層におけるレーザー照射点の近傍の液体が気体へと急激に相転移するためマイクロバブルが発生し、このマイクロバブルの発生により、マイクロバブル内の飽和水蒸気が逐次液体となるため、気液界面を通過する溶媒の流れが生じ、かつ金層の局所的加熱により気液界面には大きな温度勾配があるため表面張力に差が生じ、この表面張力差により生じるマラゴンニ対流によってDNAの自由端が引き込まれているものと考えられる。
【0030】
これらの結果から、レーザーが照射される対象は赤外光を吸収するものであり、レーザー照射点に引き込まれることが可能な物質は、自由端部を有しているものであれば分子単体でもよいと考えられる。また、鎖状分子が赤外光吸収材料の層の表面に固定や、鎖状分子が切断される理由については、当該層に吸収された赤外光が局所的に熱に変換されることで発生するマイクロバブルのマラゴンニ対流や、当該層の急激な局所的加熱により、当該層の表面の原子が活性化することに起因して、鎖状分子が赤外光吸収材料の層上に化学結合または吸着しているなど種々の理由が現段階では考えられるが、現在においてはそれを測定する術がない。
【0031】
したがって、本発明に係る方法に使用できる赤外光吸収材料は、赤外光を吸収するものであれば特に制限されるものではなく、より具体的には、1000〜5000nmの赤外光を吸収できる材料であることが好ましく、1064nmの赤外光を吸収できる材料であることがより好ましい。
【0032】
前記赤外光吸収材料の具体的な例示としては、無機系赤外線吸収材料と有機系赤外線吸収材料に大別することができ、無機系赤外線吸収材料としては、従来公知のもの、例えば、酸化亜鉛、酸化錫、ATO(アンチモンドープ酸化錫)、酸化インジウム、ITO(インジウムドープ酸化錫)、硫化亜鉛などの金属酸化物、または金などが挙げられ、有機系赤外線吸収材料としては、従来公知のもの、例えば、黒鉛、グラッシーカーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレンなどのカーボン材料や、油性マジックや、赤外光を吸収する染料または顔料を用いることができる。前記染料としては、アゾ染料、ニトロ染料、ニトソロ染料、スチルベンアゾ染料、ケトイミン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料、キノリン染料、メチン・ポリメチン染料、チアゾール染料、インダミン・インドフェノール染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン染料、オキシケトン染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、フタロシアニン染料などを挙げることができる。また、前記顔料としては、金属酸化物や塩類などの化合物からなる無機顔料や、ニトソロ顔料、染付けレーキ顔料、アゾレーキ、不溶性アゾ、モノアゾ、ジスアゾ、縮合アゾ、ベンズイミダゾロンなどのアゾ系顔料、フタロシアニン、アントラキノン、ペリレン、キナクリドン、ジオキサジン、イソインドリノン、キノフタロン、イソインドリン、アゾメチン、ピロロピロールなどの有機顔料を挙げることができる。
【0033】
これら無機系赤外線吸収材料と有機系赤外線吸収材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
本発明に係る基板は、赤外光吸収材料の層を支持できれば特に制限されることはなく、シリコン、石英、ガラスなど公知の材料を使用することができ、また、前記基板の形状は、平面状が好ましい。また、当該基板の厚さは特に制限されることはないが、0.001〜1000μmが好ましく、100〜500μmがより好ましい。また、本発明に係る基板自体が、赤外光吸収材料であってもよい。
【0035】
本発明に係る赤外光吸収材料の層(被膜)の厚さは、選択する赤外光吸収材料によって適宜選択されるものであり、赤外光を反射することなく赤外光を吸収できる厚さであれば特に制限されることはないが、1nm〜10cmであることが好ましい。
【0036】
特に熱伝導性の良い金を赤外光吸収材料に使用した場合は、30nm以下の厚さが好ましく、10〜20nmがより好ましい。当該層の厚さは、薄い方が赤外吸収率が高く、かつ熱伝導率が小さく、さらに熱を局所に留める効果を有する。また、30nm超になると、赤外光をほとんど吸収せず、反射するためである。10nm未満では均一な膜ができづらい。
【0037】
一方、熱伝導性の悪いグラッシーカーボン等の炭素材料の場合、厚くても良く、例えば、1cm以上であっても良い。
【0038】
また、本発明に係る赤外光吸収材料の層を基板に被覆させる方法としては、特に制限されることはなく、真空蒸着法などの一般的な被膜形成方法を採用することができる。
【0039】
なお、本発明において「赤外光吸収材料が被覆された被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記自由端部との接触により前記自由端部が固定される段階」における、「赤外光吸収材料が被覆された被覆面に前記自由端部が固定される」とは、基板の表面に形成された赤外光吸収材料の層である赤外光吸収材料が被覆された被覆面に直接接触している場合だけではなく、前記赤外光吸収材料の層の表面であってかつ直接当該層と接触していない場合も含む概念である。そのため、赤外光吸収材料の層に、SAM膜やその他バインダーを有していてもよい。
【0040】
また、レーザー照射点に引き込まれることが可能な物質は、上記の理由から分子単体でもよいが、所望の位置に鎖状分子の操作を自在にする点を考慮すると、ある程度の長さをもった鎖状分子である必要がある。そのため、本発明に係る鎖状分子は、分子内に鎖状構造を一部でも有するものであれば鎖状高分子の形状は特に制限されることはなく、前記分子内に環状構造、分枝構造を有してもよい。そのため、本発明に係る鎖状分子は、分子の種類よりむしろ分子の長さの方が、所望の位置への固定等の操作を自在にする点では重要であると考えられる。
【0041】
本発明に係る鎖状分子の長さは、0.1μm〜50μmが好ましく、3〜30μmがより好ましく、5〜15μmがさらに好ましい。
【0042】
当該鎖状分子の長さ0.1μm未満であると気泡をコントロールすることが難しく、またそれの観察が難しい。50μm超であると引き込みが不安定になり、操作しにくい(例えば、図17参照)。
【0043】
本発明に係る鎖状分子の具体例としては、核酸、高分子、ペプチド、および糖鎖からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0044】
前記核酸としては特に制限されるものではなく、本発明に係る鎖状分子として核酸を使用する場合の核酸の長さは、100〜1000万bp(またはb)の範囲であることが好ましく、5千〜100万bp(またはb)の範囲であることがより好ましく、9千〜10万bp(またはb)の範囲であることがさらに好ましい。
【0045】
上記核酸としては、DNA(一本鎖および二本鎖を含む)、RNA、またはPNAでよく、特に制限されるものではなく、生細胞等の天然物由来のものであってもよく、また公知の核酸合成装置により合成されたものであってもよい。さらに、生細胞からのDNAまたはRNAの調製は、公知の方法により行うことができる(例えば、DNAの抽出については、Blin et al., Nucleic Acids Res. 3: 2303 (1976)、RNAの抽出については、Favaloro et al., Methods Enzymol.65: 718 (1980))。本発明の方法に使用できる核酸としては、更に、鎖状若しくは環状のプラスミドDNAや染色体DNA、これらを制限酵素により若しくは化学的に切断したDNA断片、試験管内で酵素等により合成されたDNA、または化学合成したオリゴヌクレオチド等を用いることもできる。
【0046】
前記糖鎖としては、特に制限されるものではなく、本発明に係る鎖状分子として糖鎖を使用する場合の糖鎖の長さは、単糖類が100〜1000万個以上結合、オリゴ糖が5千〜100万個以上結合、多糖類が9千〜10万個以上結合してなるものであればよく、また、多糖を構成する単糖類の種類や数に特に制限はなく、各単糖類間のグリコシド結合の種類も特に制限されず、α結合、β結合のいずれであってもよい。
【0047】
上記単糖類としては、単糖としては、例えば、三炭糖(例えば、D−グリセリルアルデヒド、ジヒドロキシアセトン等);四炭糖(例えば、D−エリトロース、D−エリトルロース、D−トレオース、エリスリトール等);五炭糖(例えば、L−アラビノース、D−キシロース、L−リキソース、D−アラビノース、D−リボース、D−リブロース、D−キシルロース、L−キシルロース等);六炭糖(例えば、D−グルコース、D−タロース、D−ブシコース、D−ガラクトース、D−フルクトース、L−ガラクトース、L−マンノース、D−タガトース等);七炭糖(例えば、アルドヘプトース、ヘプロース等);八炭糖(例えば、オクツロース等);デオキシ糖(例えば、2−デオキシ−D−リボース、6−デオキシ−L−ガラクトース、6−デオキシ−L−マンノース等);アミノ糖(例えば、D−グルコサミン、D−ガラクトサミン、シアル酸、アミノウロン酸、ムラミン酸等);ウロン酸(例えば、D−グルクロン酸、D−マンヌロン酸、L−グルロン酸、D−ガラクツロン酸、L−イズロン酸等)等が挙げられる。
【0048】
上記オリゴ糖としては、例えば、ショ糖、グンチアノース、ウンベリフェロース、ラクトース、プランテオース、イソリクノース類、α,α−トレハロース、ラフィノース、リクノース類、ウンビリシン、スタキオースベルバスコース類等が挙げられる。
【0049】
上記多糖としては、例えば、セルロース、クインスシード、デンプン、ガラクタン、デルマタン硫酸、グリコーゲン、アラビアガム、ヘパラン硫酸、トラガントガム、ケラタン硫酸、コンドロイチン、キサンタンガム、グアガム、デキストラン、ケラト硫酸、ローカストビーンガム、サクシノグルカン等が挙げられる。
【0050】
また、前記糖鎖の具体例としては、糖鎖あるいは複合糖質でもよく、特に制限されることなく、前記糖鎖としては、例えば、糖タンパク質系糖鎖(N−結合型糖鎖とO−結合型糖鎖)、糖脂質系糖鎖、グリコサミノグリカン系糖鎖、又は多糖類由来オリゴ糖鎖などが挙げられる。また、1)N−結合型糖鎖としては、高マンノース型・混成型・複合型からなるN−結合型糖鎖など、2)O−結合型糖鎖としては、ムチン型(O−GalNAc)・O−Fuc型・O−Man型・O−Glc型などからなるO−結合型糖鎖など、3)糖脂質系糖鎖としては、ガングリオ系列・グロボ系列・ラクト・ネオラクト系列糖鎖など、4)グリコサミノグリカン系糖鎖としては、ヒアルロン酸・ケラタン硫酸・ヘパリン・ヘパラン硫酸・コンドロイチン硫酸・デルマタン硫酸など、5)多糖類由来オリゴ糖鎖としては、キチン、セルロース、カードラン、ラミナリン、デキストラン、デンプン、グリコーゲン、アラビノガラクタン、アルギン酸、フルクタン、フコイダン、キシランなどに由来するオリゴ糖鎖などが挙げられる。
【0051】
また、上記複合糖質とは、糖鎖を持つ生体内高分子の総称であり、本発明の複合糖質としては、アスパラギン結合型糖鎖やムチン型糖鎖などの糖タンパク質(糖ペプチドも含む)、プロテオグリカン、糖脂質が挙げられる。
【0052】
前記ペプチドとしては、特に制限されるものではなく、本発明に係る鎖状分子としてペプチドを使用する場合のペプチドの長さは、100〜1000000アミノ酸残基の範囲であることが好ましく、500〜1000000アミノ酸残基の範囲であることがより好ましく、1000〜500000アミノ酸残基の範囲であることがさらに好ましい。
【0053】
また、アミノ酸残基の種類は、特に限定されず、通常は、天然に存在するアミノ酸のアミノ酸残基、具体的には、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、プロリン残基、ヒドロキシプロリン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基、メチオニン残基、セリン残基、トレオニン残基、システイン残基、グルタミン残基、グリシン残基、アスパラギン残基、チロシン残基、リシン残基、アルギニン残基、ヒスチジン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基のいずれのアミノ酸残基をも採ることができる。また、本明細書における「ペプチド」とはタンパク質を含む概念であり、本発明に係る鎖状分子としてタンパク質を使用する場合のタンパク質の大きさは、10〜10000kDaの範囲であることが好ましく、100〜1000kDaの範囲であることがより好ましく、1000〜100kDaの範囲であることがさらに好ましい。
【0054】
また、上記タンパク質は、公知のものであれば本発明に使用することができる。
【0055】
前記高分子としては、特に制限されるものではなく、本発明に係る鎖状分子として高分子を使用する場合の高分子の分子量は、10〜1000万Mwの範囲であることが好ましく、100〜100万Mwの範囲であることがより好ましく、1000〜10万Mwの範囲であることがさらに好ましい。
【0056】
また、上記高分子の種類は特に限定されるものではなく、公知の高分子であれば本発明に使用することができる。具体的には、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリル酸(メチル)等の付加重合型高分子、ナイロンなどのポリアミド、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリウレタン、ポリフェノール、ポリメラミン、ポリイミド、ポリアラミド、(ホモ)またはヘテロ二官能性ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどの有機高分子だけではなく、シロキサン結合を有するシリコーン系樹脂であってもよい。
【0057】
本発明に係る鎖状分子の固定端部は、基板に直接またはバインダーを介して連結していることが好ましい。
【0058】
すなわち、本発明に係る鎖状分子は、分子内に鎖状構造を一部でも有するものであれば鎖状高分子の形状は特に制限されることはなく、前記分子内に環状構造、分枝構造を有してもよいが、少なくとも一つの固定端部および少なくとも一つの自由端部を有する必要があり、仮に鎖状分子が一本の直線状である場合、片側が基板に直接またはバインダーを介して連結していることが好ましい。尚、この場合の自由端部は他方の端である。
【0059】
また、前記鎖状分子が、環状の分子である場合、この環状の分子の任意の位置で基板に直接またはバインダーを介して連結することで固定端部を有していることが好ましい。尚、この場合の自由端部は、前記固定端以外の環状の分子内の任意の位置をいう。
【0060】
さらに、「前記鎖状分子が基板にバインダーを介して連結している」ということは、基板の表面に形成された赤外光吸収材料の層であってもよく、また、当該赤外光吸収材料の層の表面をさらに別途の材料で被覆した層の表面に連結してもよいということである。例えば、前者の場合、バインダーは赤外光吸収材料の層に相当し、後者の場合、赤外光吸収材料の層および別途の材料で被覆した層に相当する。
【0061】
また、本発明に係る鎖状分子が基板にバインダーを介して連結する方法は、使用する鎖状分子などによって適宜選択できるものであって、特に制限されるものではなく、主に化学的手法(表面処理などの化学合成)によって鎖状分子が基板にバインダーを介して連結できるものが好ましく、例えば、鎖状分子として、特開平9−302048号に記載のヘテロ二官能性ポリマーであるヘテロテレケリックポリマーを使用する場合は、シランカップリング剤などを使用して公知の方法で基板表面に直接当該鎖状分子をはやすことができる。また、例えば、鎖状分子として、特開平7−48449号記載の一般式(1)の末端がメルカプト基であるポリアルキレンオキシド誘導体などを使用する場合は、基板表面に赤外光吸収材料としてAuを使用し、Au層を基板表面に形成させた後、公知の方法で金表面にポリアルキレンオキシド誘導体のSH基を修飾させることができる。さらに、鎖状分子として、DNAなどを使用する場合、基板表面に赤外光吸収材料としてAuを使用し、Au層を基板表面に形成させた後、このAu層表面にビオチン付BSAを吸着させ、さらにこのビオチンにアビジンを特異結合させて、最後にビオチン付DNAをこのアビジンに結合させることで鎖状分子であるDNAが基板にバインダーを介して連結することができる。
【0062】
本発明に係る鎖状分子の鎖状分子の固定端部は、ビーズと直接またはバインダーを介して連結していることが好ましい。
【0063】
すなわち、本発明に係る鎖状分子は、上記と同様に、分子内に鎖状構造を一部でも有するものであれば鎖状高分子の形状は特に制限されることはなく、前記分子内に環状構造、分枝構造を有してもよく、固定端部または自由端部も上記と同様の定義であるためここでは省略する。
【0064】
また、「前記鎖状分子がビーズに直接またはバインダーを介して連結している」ということは、ビーズに直接鎖状分子を修飾したもの導入させても、ビーズに形成された赤外光吸収材料の層の表面であってもよく、また、当該赤外光吸収材料の層の表面をさらに別途の材料で被覆した層の表面に連結してもよいということである。
【0065】
本明細書の「ビーズ」とは、塊状の固体をいい、1次粒子であっても、2次粒子あってもよく、シリカビーズ、ポリスチレンビーズ、ガラスビーズ、フラーレン、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0066】
当該ビーズの大きさ、形状は特に制限されるものではないが、粒状、棒状の形状が好ましく、最大粒子径が0.1〜5μmのものが好ましく、最大粒子径が1〜2μmのものがより好ましい。
【0067】
さらに、本発明に本発明に係る鎖状分子がビーズにバインダーを介して連結する方法は、使用する鎖状分子やビーズの種類によって適宜選択できるものであって、特に制限されるものではなく、上記の基板に連結する方法や公知の方法で鎖状分子をビーズにバインダーを介して連結させることができる。例えば、ビーズをフラーレン、鎖状分子をペプチドや片末端がカルボキシル基を有するポリエチレングリコールを選択した場合、フラーレンを予め酸処理すると、フラーレン表面が水酸基に被覆されるため(Chem.Rev.; 1992; 92(7); 1487−1508)、このフラーレン表面の水酸基とペプチドやポリエチレングリコールのカルボキシル基との縮合反応により、フラーレンの表面に鎖状分子が結合させることで、鎖状分子がビーズにバインダーを介して連結することができる。また、例えば、ビーズをポリスチレンビーズ、鎖状分子にDNAを選択した場合、アビジン付ポリスチレンビーズにビオチン付DNAを混合するとアビジン―ビオチン結合により容易に鎖状分子の片末端をビーズに連結することができる。
【0068】
上述したように、水以外にもエチレングリコール、グリセロール、赤外光を吸収しない重水でもDNAが延伸され引き込まれる現象が確認されているため、本発明に係る方法において使用される溶媒は、特に制限されることなく、使用する鎖状分子の性質に合わせて、水溶液や有機溶媒を適宜選択することができる。また、後述する実施例において水系溶媒を選択する場合、前記溶媒に適宜塩を添加してもよく、pHの調整も使用する鎖状分子の性質に合わせて緩衝溶液などを用いることができる。
【0069】
本発明に係る方法に使用されるレーザーは、特に制限されることはないが、赤外レーザーを用いることが好ましく、レーザーは対象物にそのまま照射してもよいし、レンズ等を用いて対象物に集光するように照射してもよい。
【0070】
本発明に係るレーザーの波長は、1000〜5000nmが好ましく、1064nmがより好ましい。また、前記赤外レーザーとしては、YAGレーザー(Nd−YAGレーザー)、Nd:YVO4レーザー、CO2レーザー、ルビーレーザーなどいかなるものを用いてもよく、かかる赤外レーザーを照射する装置として光ピンセットなどが好適に使用することができる。
【0071】
前記光ピンセットとは、レーザー光を操作して集光照射することで生じる光放射圧を利用して溶媒中の微細物を捕捉するものである。この光ピンセットは、レーザー光を水等の媒質を通して微細物に照射した場合に、媒質と微細物の屈折率の違いからレーザー光が屈折し、それに伴う光運動量変化に対する反作用によって微細物を焦点にトラップするものである。そして、微細物を捕捉した状態で、操作により微細物を含む試料ステージ側を相対移動させて微細物を移動・搬送することができる。このような光ピンセットを用いて微細物を操作・採取する技術としては、例えば、特開2001−71300号公報、特開2001−211875号公報に記載の技術がある。
【0072】
しかしながら、本発明では、光ピンセットを微細物の捕捉に使用するのではなく、上記に説明したように、レーザー光を任意の位置に動かして、溶媒中で赤外光を吸収する材料からなる層に照射することで、局所的加熱により発生するマイクロバブルを制御するものである。したがって、本発明に係る方法では、光ピンセット装置ではなく、所定の波長を有するレーザーを任意の場所に操作して集中照射することで発生するマイクロバブルを制御するものであれば特に制限されることはない。
【0073】
本発明に係る方法において、レーザー出力は、使用するレーザー赤外光吸収材料や光ピンセット装置によって適宜選択されるものであるが、例えばYAGレーザー(Nd−YAGレーザー 1064nm)の光ピンセットを使用する場合のレーザー出力は、20mW以上であることが好ましく、20mW〜70mWの範囲であることがより好ましく、50mW〜70mWであることがさらに好ましい。
【0074】
レーザーが100mw以上の場合、照射時間が長くなるため、気泡が成長しすぎて、引き込みが弱くなるが、20mw〜70mwの範囲ではそのような事が観測されていないため、レーザー照射時間内は常に引き込まれる流れが観測できる。
【0075】
また、本発明において赤外光吸収材料の被膜にレーザーを照射した際に、吸収した光を熱に変換して気泡が発生することで、鎖状分子を引き込み当該鎖状分子が延伸されるが、この場合の引き込み範囲は、使用する赤外光吸収材料、レーザー出力などにより適宜選択されるものである。例えば、後述する実施例において、当該引き込み範囲とレーザー出力との関係の実験を行っている。
【0076】
なお、本明細書における「レーザー照射点」とは、文字通り、対象におけるレーザーを照射した位置をいい、「レーザー集束領域」とは、レーザー光が集まる領域であり、「レーザー照射点」を中心とした近傍の領域であって、照射するレーザーや照射される対象の物性によって変化し、「レーザー照射点」と一体となって移動するものである。また、対象物にレーザーが照射されると、レーザー照射点を中心に、対象物にレーザー光が集まり、レーザー光が例えば赤外光吸収材料に吸収されて熱に変換されて気泡(マイクロバブル)が生じると考えられる。
【0077】
また、本発明に係る照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡の大きさは、使用するレーザーやレーザー出力、レーザーを照射する対象物などによって適宜変化するものであるため特に制限されるものでない。
【0078】
本発明の第二は、溶媒中で鎖状分子の二つの固定端間で赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記鎖状分子とを接触させると前記鎖状分子が切断される段階(3)を含む、鎖状分子の切断方法である。
【0079】
すなわち、溶媒中で、鎖状分子が二つの固定端を有していればよく、本発明に係る方法(段階(1))により2つの固定端を形成させても、公知の方法で2つの固定端を形成させてもよく、より好ましくは、予め、上述した公知の化学修飾法で少なくとも1つの固定端を有する鎖状分子を、本発明に係る段階(1)により、2つの固定端を形成させた後、この二つの固定端間で赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記鎖状分子とを接触させて前記鎖状分子が切断する方法である。これにより、鎖状分子を任意の位置で切断することができる。
【0080】
また、本発明に係る段階(3)の鎖状分子の切断条件は、気泡が発生していれば切断が確認されるため、上記の条件(a)〜(c)と同一の条件でも異なる条件でもよいが、好ましくは同一条件である。また、鎖状分子にDNAを使用する場合は、確実に確認できるという点では、DNAの長さが5μm以上であることが好ましい。顕微鏡により、視認すながら任意の位置で鎖状分子を切断することができるからである。
【0081】
本発明の第3は、本発明に係る段階(1)および(2)、ならびに段階(3)からなる群から選択される少なくとも一つの段階を備える鎖状分子の操作・切断装置である。
【0082】
後述する実施例におけるような、赤外光吸収材料を有する層を含む基板、溶液セル、溶媒、およびレーザー照射装置を有し、かつ本発明に係る段階(1)〜(3)を備える装置であれば鎖状分子の操作・切断できる。
【実施例】
【0083】
1.実施例で使用した主要な測定機器および装置
以下、実施例で使用した主要な測定装置は以下の通りである。
【0084】
紫外・可視分光光度計(UV−vis spetrum scopy)
日立社製のU−4000 およびagilent 社製の型自記分光光度計を使用した。試料はベースラインをとった溶媒に溶解して光路長1 cmの石英セル、またはブラックセルで測定した。
【0085】
超純水製造機
セナー株式会社のエルガスタット超純水製造装置UHQ−PS(Ultra High Quality PolishingSystem)を用いた。4種類の純水化技術(有機物吸着、イオン除去、超微粒子ろ過、光酸化)を組み合わせて、18MEcmの超純水を調整して用いた。
【0086】
UV−O3−クリーナー
日本レーザー電子社製のNL−UV253を使用した。本装置は、極短波長の光(約185nm)と酸素との反応によるオゾン発生と、短波長の光(254nm)のもつ化学結合解離効果とを組み合わせた光化学的酸化プロセスにより湿式洗浄では除去できない基板表面に残った有機物を取り除くと同時に、基板表面の親水処理のために利用した。30分間で約10nmの有機物を分解する。
【0087】
SEM(走査型電子顕微鏡)
日本電子社製のJSM−5600LVBを使用した。試料はカーボンテープ、あるいは両面テープでステージに固定した。高真空下で測定を行い、焼き付けを最低限に抑える為、印加電圧は5kV,スポットサイズ18〜25で行った。
【0088】
光学および蛍光イメージング測定
Nikon社製の蛍光顕微鏡ECLIPSF 80iを用い、照射波長504nmで観察を行った。光学イメージはハロゲンランプによる光源を用いた。
【0089】
超音波洗浄機
ヤマト科学社製のyamato BRANSON 2510を使用した。
【0090】
ホットプレート
AS ONE社製のHOT PLATE TRIPLET TH−500を使用した。
【0091】
コンタクト型マスクアライナー
ズース・マイクロテック(Suss)社製のKarl Suss MA 6/BA6をいた。4インチSiウェハに5インチフォトマスクをハードコンタクトモードでアライメントし、1000W電圧,405nmの光源を用いて、100〜110mJ/cm2の露光を行った。
【0092】
光学顕微鏡
OLYMPUS社製のMX50を使用した。
【0093】
プラズマリアクター
ヤマト科学社製のyamato PR 500を使用した。高真空下(10Pa程度)で酸素を流し、30Paの真空度で空焼きをして炉内を十分温めたうえで、基板上の不純物あるいはレジストの残りなどをアッシング除去した。
【0094】
EB(電子ビーム)蒸着装置
ULVAC社製のEBX−6Dを使用した。高真空下(5×10−4Torr)において固形金属の入ったるつぼに電子ビームをあてることにより、昇華、または液化した金属を常時回転させた基板に蒸着させる。一度に4種のるつぼが設置でき、連続して違う種類の金属を蒸着ができる。
【0095】
ダイシングソウ(基板切断装置)
disco社製のDAD 321 AUTOMATIC DICING SAWを使用した。
【0096】
光ピンセット
中央大学理工学部物理学科 生物物理研究室(宗行研究室)の所有する自家製の装置を使用した。かかる、光ピンセット装置の光学系の模式図を図5に示す。
【0097】
2.試料の作製および測定
(1)「基板の作製」
4インチ石英ウェハにヘキサメチルジシラザン(HMDS)を4000rpmで5秒間スピンコートした後、次いで、ポリメチルグルタルイミドSF−3(PMGI SF−3)を500rpm、5秒、3000rpm、30秒の条件でスピンコートした。その後、基板をホットプレート上で180℃、5分間ベイクし放冷した。TSMR−V90−7cpを500rpm、5秒、2000rpm、30秒でスピンコートし、100℃で90秒ベイクした。フォトマスクにHAGA−ver2を用い、光照射エネルギーが55、60、65mJ/cm2になるようにそれぞれ露光した。以降の工程は既知の作製法で行い、くし型電極の幅が2μm、電極間が4μm、金電極の厚みが10 nmのものを用いた。
【0098】
(2)「溶液セルの作製」
上記の方法で作製した石英基板と、スペーサーと、カバーガラスとを使ってサンドイッチ構造を作ることにより、図5で示すような、上面に(石英)基板1、下面にカバーガラス3とした溶液セル1を作製した。スペーサーには両面テープ、ルミラー、パラフィルムを用いた。両面テープを用いた場合、テープの粘着性により石英基板とカバーガラスとを固定した。ルミラーの場合、グリスを塗ることで基板とガラスとの密着性を上げ、セルを作製した。パラフィルムを用いた場合、サンドイッチ構造を作った後、60℃に設定したホットプレートでベイクし密着させた。
【0099】
また、図5では、くし型電極1が蒸着された(石英)基板2を、溶液セルの上面に設置させた。この理由は重力によって沈殿してくる粒子等が基板に付着し、基板が汚れる事を避けるためである。そのため溶液セルの厚みは出来る限り薄い方が光ピンセットの捕捉力が強くなり、実験系に適している。そこで厚みの薄いスペーサーを探索した。
【0100】
両面テープをスペーサーに用いた場合ではセルの厚みが数100μm程度であり、セルの上面である石英基板付近ではレーザーによるビーズをトラップする力が弱くなり、実験系に不適と判断した。
【0101】
ルミラーを用いた場合のセルの厚みは100μm程度であった。ルミラー自身の厚みは20μmのものを用いたが、グリスを使用してガラス基板と密着させるため、実際のセルの厚みは大きくなった。ポリスチレンビーズの操作を評価すると、上面でのトラップ力は両面テープの時よりも向上したが、トラップ力の低下が見られた。薄さに限界があるためスペーサーにルミラーを用いるのは不適であると判断した。
【0102】
パラフィルムをスペーサーに用いると実験系に適した溶液セルを作製できた。パラフィルムはそのまま使用するとミリメートルオーダーの厚みであるが、延伸(または伸張とも称する)すると数十マイクロメートルの薄膜になった。さらにパラフィルムを(石英)基板2とカバーガラス3で挟んだ後、ホットプレートでベイクすると密着性が上がり、約40μmの厚みの理想的な溶液セルが作成できた。上面でのポリスチレンビーズの操作は滞り無く行えたため、本研究において溶液セルのスペーサーには伸張したパラフィルムを用いることにした。
【0103】
(3)「ビオチン付λDNAの調製」
0.38mg/mLλDNA(48,502kbp,Takara)(配列番号1,2)TE緩衝溶液3μL(3.6×10−14mol)と、前記λDNAのcos部位と相補的な塩基配列を設計した1μMビオチン付オリゴマー(つくばオリゴサービス、以下の化学反応1の(1)、配列番号1−ビオチンおよび配列番号2)TE緩衝溶液3.46μL(3.5×10−12mol)と、TE緩衝溶液16.6μLとを300μLエッペンにとり混合し、70℃で10分間加熱した(化学反応1)。その後、室温にて3時間ローテーターで回転させた後、さらにTE緩衝溶液を47μL加え、濃度を5.1×10−10Mに調整し、スピカラム(クローンテック)を使い過剰のプライマーを除去した。これを5μLずつ分注し、−20℃で保存した。
【0104】
【化1】
【0105】
(4)「チオール付λDNAの調整」
上記λDNAのcos部位と相補的な塩基配列を設計したビオチン付オリゴマーを、
チオール付λDNA(48,502kbp,Takara)(配列番号1,2、配列番号1の末端をチオール基修飾したものと配列番号2とのコンプレックス)にした以外は上記の方法と同様の方法で、以下の化学反応2を経てチオール付λDNAを調製した。
【0106】
【化2】
【0107】
(5)「ビオチン付λDNA及びチオール付λDNAによる修飾ビーズの調製」
エッペンにアビジン付ポリスチレンビーズの原液10μlとり、990μlのTEバッファーを加え希釈した。これを5分間遠心分離にかけ、上澄み液を棄て、1mlのTEバッファーを加えたあと、指で弾き、ビーズを分散させた。この操作を3回繰り返し、ビーズ原液に含まれる還元剤のアジドを除くための洗浄を行った。洗浄済みアビジン付ビーズをビオチン付DNAと混合した。
【0108】
また、ビオチン付λDNAのラベリングが合成されているかを評価するため、前記洗浄済みアビジン付ビーズをビオチン付DNAと混合し、10分間インキュベートした後、YOYO‐1またはSYBR Goldで染色し、相互作用の様子を蛍光顕微鏡により観察することで、アビジン付ビーズとビオチン付DNAとの相互作用を調べた(図7参照)。
【0109】
(6)「基板−金薄膜−BSA−ビオチン−アビジン−ビオチン−DNAサンプルの作製」
2mg/mLビオチン付BSA溶液(TE 緩衝溶液)を3μL溶液セルに流し込み、5分間静置させ、上記(1)で作成した金薄膜を有する基板の表面に非特異的に吸着させた。その後、10μLの溶媒を流し、洗浄したあと、1mg/mLアビジン溶液(TE緩衝溶液)3μLを流し込み、10分間静置させ表面にアビジンを結合させた。10μLの溶媒で洗浄し、ビオチン付λDNA(配列番号1−ビオチンおよび配列番号2)溶液を3μL流し込み10分間静置させた。1000倍希釈したSYBR Gold 溶液を10μL流し、蛍光観察を行った。
【0110】
(7)「DNA引き込み現象の観測」
上記(6)の欄の方法で作製した基板−金薄膜−BSA−ビオチン−アビジン−ビオチン−DNAサンプルを溶液セルに装着した場合、出力50mWのレーザーの焦点をくし型金電極の表面にあてるとDNAがレーザー照射点方向に引き込まれる現象が観察された(図1参照)。しかしながら、石英表面にレーザーをあてると、何も起こらなかった。また、レーザーの出力を変化させると、50mW未満の出力の場合は金表面でも引き込み現象が起こらなかった。
【0111】
次にDNAの片側末端を基板表面に固定した場合、どのように引き込まれるかを観察するため、ビオチン付DNAを基板に固定させたサンプルで実験を行うと、レーザー照射点に向かってDNAが伸張されながら引き込まれることが観察された(図3(a)、(b))。
【0112】
この引き込みは、レーザーのON/OFFに瞬時に応答し、ONのときは数十ミリ秒の間に伸張され、レーザーをOFFにするとDNAが折りたたまれて固定端に向かって収縮することが確認された(図2−1、図2−2参照)。また、DNAが引き込まれる範囲は出力が50mWの時、レーザー集束領域から半径20μm程度の距離であった。レーザー出力を20mW上げると引き込まれる範囲は拡大した。
【0113】
図8にDNAが引き込まれる瞬間とその移動速度を示す。レーザー集束領域とDNAまでの距離が20μm以下になると、DNAは急激に引き込まれ、その移動速度(DNAの先頭)を計算すると、レーザー集束領域に引き込まれるに伴って、移動速度は増加した。引き込まれ始めの速度は40μm/s程度であるが、レーザー集束領域付近では200μm/sを超えていた。この速度の値について考察すると、今回用いたDNAの凝縮した塊の直径を1μmとして、ブラウン運動のみの移動を仮定した場合に、DNAの移動速度は1.0×10−3μm/sと推定できる。この値と比較すると引き込み速度は1万〜10万倍と非常に速い事がわかった(図8参照)。
(8)「片側チオール修飾DNAを金薄膜表面上に固定したサンプルの作製」
0.38mg/mLλDNA(48,502kbp,Takara)(配列番号1,2)TE緩衝溶液3μL(3.6×10−14mol)と、λDNAのcos部位と相補的な塩基配列を設計した1μMチオール付オリゴマー(つくばオリゴサービス)(配列番号1の末端をチオール基修飾したもの)TE緩衝溶液3.46μL(3.5×10−12mol)と、TE緩衝溶液16.6μLとを300μLエッペンにとり混合し、70℃で10分間加熱した(化学反応1−(2))。その後、室温にて3時間ローテーターで回転させた後、さらにTE緩衝溶液を47μL加え、濃度を5.1×10−10Mに調整し、スピカラム(クローンテック)を使い、過剰のプライマーを除去した。
【0114】
このように作製した片側チオール修飾DNA溶液を、上記(1)で作製した金薄膜を表面に被覆した石英基板を装着した溶液セルに加えながら、溶液セル内に液の流れをつけるため、適宜、溶液セルが乾かないように濾紙で吸い取る作業を10分間行い、上片側チオール修飾DNAを金薄膜表面上に固定したサンプルを作製した。
【0115】
(9)「表面がSAM修飾された金薄膜基板の作製」
1mMのメルカプトヘキサノール、ヘキサンチオール、またはヘキサデカンチオールのエタノール溶液それぞれ3つに上記(1)で作製した金薄膜を表面に被覆した石英基板を2時間浸漬させ、エタノールで洗浄することで、3種類の表面がSAM修飾された金薄膜基板サンプルを得た。
【0116】
(10)「表面がBSA修飾された金薄膜基板の作製」
溶液セルに濃度10nMのBSA溶液を流し込み、10分間静置させた。その後、溶液セルに流したBSA溶液の液量の3倍量の溶媒を流し、洗浄した。
【0117】
(11)「DNAの操作の評価」
レーザーの出力は50mWに固定し、金薄膜基板およびSAMで表面修飾した金薄膜基板に対してDNAの操作を行った。
【0118】
(11−1)
前記片側チオール修飾DNA溶液を溶液セル流し入れ、金薄膜表面上に金―チオール結合によりDNAの片側を固定させ、光ピンセット装置でレーザーを照射して、DNAの延伸固定を測定した。その結果、DNA(片末端がチオール基を介して金薄膜に固定しているため、他方の端)を気泡に引き込むと、DNAは気泡に接触した位置で固定された。その様子を図9に示す。また、レーザー集束領域近傍まで伸びなかったDNAは固定されずに元の位置に戻ったことから、DNAの固定はマイクロバブルの気体と液体と固体の界面で固定されていると考えられる。また、固定されたDNAはブラウン運動をほとんど示さないことから、DNAの限界付近まで伸張され固定されていることが示された。
【0119】
この延伸固定法を用いると、片側固定されている3本のDNAを一点に結び、ジャンクションを作ることや(図10 a)参照)、1本のDNAをまず伸張し、さらにもう1本のDNAを交差させて固定すること(図10 b)参照)等が可能であり、任意の位置にDNA延伸固定が可能である事が確認された。
【0120】
(11−2)
前記3種の表面がSAM修飾された金薄膜基板サンプルを溶液セルに装着し、前記ビオチン付λDNA及びチオール付λDNAによる修飾ビーズ含む溶液を溶液セルに加えて、上記方法と同様に、光ピンセット装置でレーザーを照射して、DNAの延伸固定を測定した。その結果、メチル基DNAの付き難い水酸基表面に変えてもDNAが固定されることが確認された。そのため、(11−1)の実験結果と比較すると、DNAの固定には、SAMの表面状態に左右されず、DNA捕捉分子無しでも固定可能な方法であり、終点を任意に決めることができると考えられる。
【0121】
より具体的には、ヘキサンチオールまたはヘキサデカンチオールで修飾した基板表面はメチル基(−CH3)で疎水性になっている。レーザーによる延伸固定(または伸張固定)を行うと、固定される結果を得た。この点を考察すると、レーザー照射による熱により二重螺旋が解け、内側の塩基が基板表面に吸着したことが考えられる。また、メルカプトヘキサノールで修飾した場合、基板表面は水酸基(−OH)になり、アニオン性であるDNAとの静電反発によりDNAが吸着しない表面状態になっているが、レーザーによる延伸固定法を行ったところ、固定される結果を得た。吸着しない表面であることが知られているが、吸着してしまう結果を得たため、SAMで表面修飾した膜がレーザーの熱で壊れたことが考えられる。
【0122】
(11−2)
前記基板−金薄膜−BSA−ビオチン−アビジン−ビオチン−DNAサンプルのように金薄膜表面をBSAで覆い、ビオチンーアビジン相互作用で片側固定したDNAはレーザーにより伸張されたが、表面に固定され無い結果であった。BSAは固体表面に非特異的に吸着し膜を形成し、DNAが固体表面に吸着するのを防ぐために用いられるものであり、また、BSAは大きさが約10nmのタンパク質であるため、固体表面に形成する膜は10nm以上であると推測される。
【0123】
以下表1に金薄膜の表面の組成を変えたときのDNAの固定結果を示す。また、表中のRは、C6〜16のアルキル鎖である。
【0124】
【表1】
【0125】
(12)「マイクロバブルによるDNAの切断」
上記方法により金薄膜上に延伸固定したDNAの上にレーザー照射点を横断またはレーザー照射により発生する気泡に接触させると、DNAが切断されて、両固定末端に向かってDNAが収縮する様子が確認された(図11)。この切断は石英上では確認されず、気泡が生成する出力以下ではDNAの切断が確認されなかった事から、マイクロバブルによる切断だと考えられる。切断機構は解明されていないが、マイクロバブル周辺は水が気化する程の温度であること、熱勾配のある気液界面に活性があることが原因でDNAが切断されたと考えられる。また、DNAが収縮する様子が観察されたことから、DNAの固定はレーザー集束領域の先端のみでピン止めされていることが確認された。
【0126】
(13)「DNA修飾ビーズと光ピンセットを用いて位置・本数を制御したDNAナノワイヤーの調製」
(13−1)
前記アビジン付ポリスチレンビーズ(直径1.87μm)1μlと、前記片側末端ビオチン付λDNA1μlを混合し、ローテーターで10分回転させた。その後、この混合液を100倍に希釈し、蛍光染色液のSYBR Goldを1000倍希釈の濃度になるように混合させ、溶液セルに流した。DNA修飾ビーズを溶液セルから見つけ、レーザー(出力 50mW)でビーズを捕捉した。捕捉したビーズを操作し金薄膜近傍の石英表面に移動させ、約10秒間レーザー光で押し付ける用に石英表面に固定した。その後、金薄膜表面にレーザーをあて、気泡と接触させることでビーズに固定されているDNAの延伸固定を行った。
【0127】
その工程を図13を参照して説明すると、図12(a)では、溶液セル内でDNA修飾ビーズを光ピンセットによりトラップし、ビーズを金薄膜近傍の石英表面に移動させ、10秒以上表面に押し付ける事で、石英表面上に物理吸着させた。次いで、図12(b)では、金薄膜上にレーザーをあて、気泡と接触させることでビーズに固定されているDNAを延伸固定した。図12(c)。同様に2つ目のビーズも基板表面上に移動させた。図12(d)では、これら2つのビーズに固定されているDNAをマイクロバブルを操作することでDNAを交差させて延伸固定させる工程である。その結果を図14に示す。
【0128】
(13−2)
くし型電極を使用した以外上記(13−1)と同様の方法でDNAナノワイヤーの調製を行った。図15を参照して説明すると、溶液セル内でDNA修飾ビーズを光ピンセットによりトラップし(図14(a))、石英表面上に物理吸着させた後(図14(b))、電極表面上のレーザー集束領域(気泡と接触により)にDNAを延伸固定した(図15(c))。くし型電極間へDNA延伸固定した結果を、図15に示す。これにより、くし型電極間にも延伸固定は応用できることがわかった。
【0129】
(14)参考実験1「マイクロバブルの気液界面の影響」
レーザーの出力を100mWにすると、直径10μm程度の気泡が顕微鏡で観察可能であった。気泡の気液界面が引き込みに関与するかを確かめるため、局所加熱ポイントであるレーザー照射点の位置を左右に動かし、気泡界面の左右に温度勾配をつけ、上記(6(6)で作製したDNAの片側をビオチン‐アビジン相互作用で金表面に固定したサンプルを溶液セルに装着して、引き込み現象を調べた。気泡の右側にレーザーの焦点をあてると、DNAは右側から瞬時に引き込まれ、円を描くように焦点に引き込まれていった。また、レーザー照射点を左側に移動させると、同様にDNAは左側から引き込まれた(図16)。この対流について考察すると、まず、気液界面にレーザー照射点をあてるとで温度勾配が生じ、その温度勾配が表面張力の勾配をつくると考えられる。一般に表面張力は高温になると張力は減少し、低温になると張力は増加することが知られている。つぎに、この表面張力差で対流が生じていると考えられる。表面張力の差に伴う対流はマランゴニ対流として知られている。DNAは焦点の位置に最短距離で引き込まれず、円を描くように引き込まれた事は、気泡界面で起こるマランゴニ対流の流線を示していると考えられる。
【0130】
(15)実験「引き込み範囲とレーザー出力との関係の実験」
前述のセルおよびDNA試料を用いてレーザー出力を0mWから70mWまで変化させていった時、レーザー集束領域に引き込まれるDNAの有効引き込み距離を焦点
からの半径として計測し、平均引き込み範囲とした。
【産業上の利用分野】
【0131】
本発明の鎖状分子の操作方法を使用すると、マイクロアレイ法だけではなく、例えば、DNA塩基配列のベクトルを制御できることから、医学的なDNA単分子解析へ貢献できる技術である。また、所定の基板上に所望の鎖状分子を自在に固定や切断等できることから、種々の細胞を活性化させる分子を配列したチップを作製できるため、再生医療工学などの分野にも貢献することができる。
【符号の説明】
【0132】
1 溶液セル
1 くし型電極
2 基板
3 カバーガラス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中で少なくとも一つの固定端部および自由端部を有する鎖状分子の近傍にレーザーを照射すると、レーザー照射点に向かって前記鎖状分子が延伸し、かつ赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記自由端部との接触により前記自由端部が固定される段階(1)、および
溶媒中で固定された前記自由端部および前記少なくとも一つの固定端部の間に、前記気泡を接触させると、少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になる段階(2)を含み、
前記レーザー照射により前記段階(1)と前記段階(2)とが可逆的に行われる、鎖状分子の操作方法。
【請求項2】
前記段階(2)は、溶媒中で固定された前記自由端部に前記気泡を接触させると、前記鎖状分子が切断されることにより少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶媒中で鎖状分子の二つの固定端間で赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記鎖状分子とを接触させると前記鎖状分子が切断される段階(3)を含む、鎖状分子を切断する鎖状分子の操作方法。
【請求項4】
前記基板における赤外光吸収材料が表面に被覆された層の厚さは、1nm〜10cmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記鎖状分子は、核酸、高分子、ペプチド、および糖鎖からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記鎖状分子の固定端部は、基板に直接またはバインダーを介して連結している、請求項1〜5のいずれか1項に記載する方法。
【請求項7】
前記鎖状分子の固定端部は、ビーズと直接またはバインダーを介して連結している、請求項1〜5のいずれか1項に記載する方法。
【請求項1】
溶媒中で少なくとも一つの固定端部および自由端部を有する鎖状分子の近傍にレーザーを照射すると、レーザー照射点に向かって前記鎖状分子が延伸し、かつ赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記自由端部との接触により前記自由端部が固定される段階(1)、および
溶媒中で固定された前記自由端部および前記少なくとも一つの固定端部の間に、前記気泡を接触させると、少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になる段階(2)を含み、
前記レーザー照射により前記段階(1)と前記段階(2)とが可逆的に行われる、鎖状分子の操作方法。
【請求項2】
前記段階(2)は、溶媒中で固定された前記自由端部に前記気泡を接触させると、前記鎖状分子が切断されることにより少なくとも一端が自由端の鎖状分子常態になる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶媒中で鎖状分子の二つの固定端間で赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面に照射したレーザーのレーザー集束領域に生じた気泡と、前記鎖状分子とを接触させると前記鎖状分子が切断される段階(3)を含む、鎖状分子を切断する鎖状分子の操作方法。
【請求項4】
前記基板における赤外光吸収材料が表面に被覆された層の厚さは、1nm〜10cmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記鎖状分子は、核酸、高分子、ペプチド、および糖鎖からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記鎖状分子の固定端部は、基板に直接またはバインダーを介して連結している、請求項1〜5のいずれか1項に記載する方法。
【請求項7】
前記鎖状分子の固定端部は、ビーズと直接またはバインダーを介して連結している、請求項1〜5のいずれか1項に記載する方法。
【図1】
【図2−1】
【図2−2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2−1】
【図2−2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−56337(P2011−56337A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206143(P2009−206143)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【Fターム(参考)】
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