説明

長尺状ワークピースの研削方法

【課題】 長さが5〜10mのT−ダイを真直度1.0μm以下の精度に加工したい。
【解決手段】 平面研削装置の機枠6の前後に取り付けた一対のワーク表面クーラント液供給管20a,20bよりクーラント液を常時ワークw表面に供給してワーク表面全域にクーラント液膜を形成させてワーク全域温度を一定に保ち、砥石車3による研削加工を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム成形用T−ダイ、溶工用T―ダイ、液体カーテン幕形成T−ダイなどの長さが5〜10mと長い長尺状ワークピースを砥石車、平研削砥石(PCD砥石、カップホイール砥石、ピッチポリィシャーなどの研削(研磨)工具を用い、平坦で反りの小さい長尺状ワークピースに研削加工する方法に係る。
【背景技術】
【0002】
長尺状ワークピースの表面をピッチポリィシャーで一方向研削加工して工具軌跡島模様の無いT−ダイに機械加工することは知られている。
【0003】
例えば、特開2006−7373号公報(特許文献1)は、図2に示すフレーム6上に設けられたワークテーブル4、研磨ヘッド10のスピンドル軸の下端に軸承された研磨工具保持板、該研磨工具保持板表面に貼付されたピッチ研磨工具3、該ピッチ研磨工具を軸承する前記スピンドル軸の回転駆動装置、左右移動駆動装置ならびに昇降装置、および、前記ワークテーブル上に載置されたワーク面とこれに対向する前記ピッチ研磨工具面間に研磨剤を供給する研磨剤供給ノズル、ドレッサ12、数値制御装置8を備えるピッチ研磨装置100を提案する。
【0004】
このピッチ研磨装置を用い、フレーム6上に設けられたワークテーブル6に固定された金属メッキブロック材(ワーク)表面に、スピンドル軸の下端に軸承された研磨工具保持板に貼付されたピッチ研磨工具3のピッチ面を押圧し、ワーク表面とこれに対向する前記ピッチ研磨工具面間に研磨剤を供給しながらピッチ研磨工具を回転させながら一方向に移動させ、ワークの一方向ピッチ研磨を行い、ワークに残っていた砥石車縞跡を消滅させるとともに、砥石車を利用した精密研削装置を用いて精密研磨されたワークと比較して表面粗さの値が1/4〜1/6倍と小さくなったより優れた研磨鏡面を呈現させることができる。
【0005】
また、上記ピッチ研磨工具に代えて、特開2006−315088号公報(特許文献2)は、円盤状基台の一方の表面に、直径5〜20mm、高さ1〜10mmの円板状ダイヤモンド焼結体ペレットの複数を隣接するペレット間の距離を少なくとも3mm以上離して同心円上に等間隔に複数設けたディスク状研削砥石であって、前記円板状ダイヤモンド焼結体ペレットは、平均粒径1〜6μm、JIS粒度2,500〜8,000番のダイヤモンド粒子を樹脂バインダーで結合し、ペレット状に成型したものを焼結して得たダイヤモンド焼結体ペレットで形成されているPCDペレット研削砥石を用い、これをスピンドル軸にPCDペレット層が下面を向くように取り付け、研削装置のワークテーブル上に載置された超硬合金製ワークの表面に研削剤を供給しつつ、前記スピンドル軸回りに回転するPCDペレット研削砥石のPCDペレットをワーク表面に押圧し、PCDペレットの一方向への送りをかけながらワークを切り込むことにより超硬合金ワーク表面を研削加工する方法を提案する。
【0006】
本願特許出願人は、特開2006−102867号公報(特許文献3)にて図3に示すフレーム(機枠)6上に左右方向に往復移動可能に設けられたワークテーブル4を案内するスライド本体とガイド本体よりなる油静圧直動案内装置、前記ワークテーブル4に直交して設けられた前後方向に往復移動可能なサドル7を案内する油静圧直動案内装置、数値制御装置8、前記サドル7上に起立して固定されたコラム9、該コラムに砥石車3を軸承する砥石軸を備える砥石ヘッド10を固定した滑走体を上下方向に昇降させる油静圧直動案内装置、および、砥石車回転駆動機構を備える精密平面研削装置100を提案した。
【0007】
上記特許文献3に記載の超精密平面研削装置100を用いて左右長さ4250mm、前後幅800mm寸法のワークを平面研削加工したワークの前後方向の真直度は0.3μm、左右方向の真直度は1.3μmと小さいもので、長尺状ワークピースの精密研削加工に適する超精密平面研削装置と言える。
【0008】
2010年12月に、超精密平面研削盤“UPG”(商品名)(株式会社岡本工作機械製作所のカタログ「超精密平面研削盤“UPG Series”」、2007年4月印刷)を購入したT−ダイ製造機メーカーより、左右幅10mのT−ダイを機械加工するに、左右方向の加工ワークピースの真直度が2.5μm以下となる超精密平面研削盤の製作依頼があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−7373号公報
【特許文献2】特開2006−315088号公報
【特許文献3】特開2006−102867号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】岡本工作機械製作所のカタログ「超精密平面研削盤“UPG Series”」、2007年4月頒布
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願発明者らは、上記特許文献1に記載のピッチ研磨装置、特許文献2に記載の平面研磨装置および特許文献3に記載の平面記載装置は、長尺状ワークピースの左右方向の長さが5000mm程度のものなら反りのない鏡面を有する研削(研磨)加工されたワークピースを与えるが、長さが7000〜12000mmと長尺のワークピースでは、ワークに反りが生じ、左右の長手方向の真直度が1.3〜2.5μmと前後方向の真直度0.1〜0.3μmと比較して大きい値を示す原因は、工具直径が250〜360mm径、または砥石車の直径が200〜360mm径、砥石車幅が25〜60mm幅では、工具とワークピースが接する加工点に供給される研削液の量では、研削作用点から遠く離れているワークピース部分の表面がワークテーブルの左右往復反転移動する間に乾燥してしまうことが原因で機械加工中のワークピースの表面温度が一定していないことに起因すると推量した。
【0012】
ワークピースの電磁チャックの温度管理のみでは、かかるユーザーの希望を解決することが出来ないので、ワークピースの研削(研磨)加工中においてもワークピースおよび電磁チャックの温度が一定(プラスマイナス1.0℃以内)に保たてるように、ワークテーブル前後の機枠にクーラント液供給管1対を研削(研磨)装置に取り付け、温度管理が為されたクーラント液をワークピースの表面に常時供給してワークピース表面に常時クーラント液膜が形成されることによりワークピースおよび電磁チャックの温度を一定に保つことができることを実験し、本願発明に想到した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1は、
a)機枠上に左右方向に設けられた案内レール上を左右方向に往復移動できるように設けられたワークテーブル、
b)噴出口を多数設けたクーラント液供給管1対を前記ワークテーブルの前後の機枠に取り付けたワーク表面クーラント液供給機構、
c)コラムに上下昇降可能に取り付けた工具軸に軸承された研削(研磨)工具、
d)前記研削工具の近傍に設けられ、研削工具とワークとが接する加工点に研削液を供給する研削液供給ノズル、
を備える研削装置を用い、
前記ワークテーブル上にワークを固定し、ワークテーブルを左右方向に往復反転移動させ
前記一対のワーク表面クーラント液供給機構よりクーラント液を前記ワーク表面に供給してワーク表面全域にクーラント液膜を形成させるとともに、前記研削液供給ノズルより前記研削工具に向けて研削液を供給し、
回転する前記研削工具を下降させて前記左右方向に往復反転移動するワークテーブル上に固定されたワーク表面に当接させてワーク表面の研削加工を開始し、
前記ワークと研削工具の相対的な動きにより研削工具でワーク表面を研削加工する
ことを特徴とする長尺状ワークピースの研削方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
研削加工中において、常時、ワーク表面全域にクーラント液膜が形成され、ワークの温度を一定に保つことができるので、反りの小さい、真直度のバラツキが小さい研削加工ワークを製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1はワーク表面全域にクーラント液膜を形成させている状態を示す斜視図である。
【図2】図2はピッチ研磨装置の正面図である。
【図3】図3は超精密平面研削装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施する研削装置は、研削装置が噴出口を多数設けたクーラント液供給管1対20a,20bを前記ワークテーブルの前後の機枠に取り付けたワーク表面クーラント液供給機構20を備える点を除いては、前記特許文献1、特許文献2、特許文献3記載および既知のコラム式、サドル式、門型の平面(研磨)研削装置100が使用できる。
【0017】
研削工具3としては、砥石車、カップホイール型ダイヤモンド砥石、平砥石、ピッチポリシャ、PCD研削砥石などを使用することができる。
【0018】
図1において、ワーク表面クーラント液供給機構20は、孔径2〜5mmの噴出口20dを30cm間隔に多数設けた口径8〜15mmのクーラント液供給管一対20a,20bを前記ワークテーブル4の前後の機枠2に取り付けており、クーラント液供給管20a,20bの長さは、ワークテーブル4の左右移動幅より10〜20cm若干長い長さとなっている。前記クーラント液供給管一対20a,20bの先端は分岐管20cに結合され、この分岐管にクーラント液タンクからポンプでクーラント液が供給され、噴出口20dより噴流20eがワークw上面に供給される。この噴出口20dのクーラント液供給管上での穿孔位置は、噴出口より10〜250リットル/分の割合で噴流されるクーラント液がワーク上表面に届くように設けられ、供給されたクーラント液がワークテーブル4の左右移動によりワーク上表面に液膜を形成するとともに、電磁チャック13にも垂下、もしくは電磁チャック13にもクーラント液の噴流20eがかかって電磁チャックを冷却する。更に、ワークテーブル4をも冷却する。
【0019】
研削工具(砥石車)3の近傍には、研削工具3とワークwとが接する加工点に研削液を供給する研削液供給ノズル11が設けられ、研削液(クーラント液)が2〜30リットル/分の割合で供給される。
【0020】
クーラント液、研削液はそれぞれ別のクーラント液タンクに貯蔵され、それらの保管温度は、コラム9やワークテーブル4、電磁チャックを冷却するクーラント液と略同一温度に保たてられる。
【実施例】
【0021】
実施例
コラム型超精密平面研削盤“UPG12000”(商品名)のワークテーブル4の前後の機枠6に、孔径4mmの噴出口を30cm間隔に多数設けた口径12mm、長さ12050mmのクーラント液供給管一対20a,20bを取り付け、これらクーラント液供給管の一方の端を分岐管に連結し、分岐管の先をクーラント液タンクに臨ませ、ポンプによりクーラント液を分岐管に供給できる構造とした。
【0022】
研削工具3として、砥石径300mm、砥石幅50mmの砥石車を用い、前後幅4800mm、左右長さ12000mm寸法のワークテーブル4上にワークwを電磁チャックを介して固定した。
【0023】
前記ワークテーブル4を左右方向に往復反転移動させ、前記一対のワーク表面クーラント液供給機構20よりクーラント液を1つの噴出孔より40リットル/分の割合で前記ワーク表面上に供給してワーク表面全域にクーラント液膜を形成させるとともに、前記研削液供給ノズル11より前記砥石車3に向けて10リットル/分量の研削液を供給した。
【0024】
回転する前記砥石車3を下降させて前記左右方向に往復反転移動するワークテーブル4上に固定されたワーク表面に当接させてワーク表面の研削加工を開始した。
【0025】
前記ワークwと砥石車3の相対的な動き(前後、左右、上下)により砥石車3でワーク表面を研削加工し、ワークの前後方向の真直度が0.3μm、ワークの左右方向の真直度が0.6μmの研削加工ワークを得た。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の長尺状ワークピースの研削方法は、反りが小さく、鏡面研磨された真直度が0.3〜1.0μmのT−ダイを製造できる。
【符号の説明】
【0027】
100 平面研削装置
w ワーク
3 研削工具
4 ワークテーブル
5 作業ステージ
6 機枠
7 サドル
9 コラム
10 研削ヘッド
11 研削液供給ノズル
20a,20b クーラント液供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)機枠上に左右方向に設けられた案内レール上を左右方向に往復移動できるように設けられたワークテーブル、
b)噴出口を多数設けたクーラント液供給管1対を前記ワークテーブルの前後の機枠に取り付けたワーク表面クーラント液供給機構、
c)コラムに上下昇降可能に取り付けた工具軸に軸承された研削(研磨)工具、
d)前記研削工具の近傍に設けられ、研削工具とワークとが接する加工点に研削液を供給する研削液供給ノズル、
を備える研削装置を用い、
前記ワークテーブル上にワークを固定し、ワークテーブルを左右方向に往復反転移動させ
前記一対のワーク表面クーラント液供給機構よりクーラント液を前記ワーク表面に供給してワーク表面全域にクーラント液膜を形成させるとともに、前記研削液供給ノズルより前記研削工具に向けて研削液を供給し、
回転する前記研削工具を下降させて前記左右方向に往復反転移動するワークテーブル上に固定されたワーク表面に当接させてワーク表面の研削加工を開始し、
前記ワークと研削工具の相対的な動きにより研削工具でワーク表面を研削加工する
ことを特徴とする長尺状ワークピースの研削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−166317(P2012−166317A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30387(P2011−30387)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(391011102)株式会社岡本工作機械製作所 (161)
【Fターム(参考)】