説明

長尺鋼材に対する防錆加工方法

【課題】ピンホールのない防錆被覆がなされ、鋼線、鋼棒及び鋼撚線の熱処理と同時に防錆加工ができ、鋼撚線にあっては単素線間の空隙、即ち鋼撚線内の内部空隙の充填が容易かつ確実におこなうことができる防錆被覆鋼撚線の製造方法の提供。
【解決手段】鋼線、鋼棒等の長尺鋼材にブルーイング処理及び/又はヒートストレッチング処理等の熱処理を施した後、その熱処理によって加熱状態にある該長尺鋼材にエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー樹脂、エチレンエチルアクリルレート等の極性基を有する熱可塑性の樹脂又はフッソ樹脂からなる粉末合成樹脂塗装原料を接触させることにより、塗装原料を長尺鋼材の前記熱処理の際の熱によって溶融させて外周面に被着させ、然る後冷却することにより前記長尺鋼材に溶融被着したに塗装原料を固化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート補強鋼材である鋼線、鋼棒や、主としてプレストレストコンクリート(以下PCと記す)の応力導入や斜張橋等の吊り材、更には張弦梁の引張材などに使用する内部空隙が合成樹脂防錆材にて充填されている防錆被覆鋼撚線などの長尺鋼材に対して防錆被覆を施す長尺鋼材に対する防錆加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート補強鋼材である鉄筋や棒鋼、PC鋼棒等の防錆処理としては、エポキシなどの熱硬化性樹脂を使用した静電粉体塗装が使用されている。
【0003】
また、PC線材や張弦梁用の緊張用弦材等に用いられる防錆被覆鋼撚線は、鋼製の単素線からなる芯線の周りに複数の鋼製の単素線からなる側線を配し、それを撚線機により撚り合せて鋼撚線となすか、心線の回りに多数の単素線からなる中層線を1又は複数層状に撚り合せ、その外側に複数の単素線からなる外層線を撚り合せて鋼撚線となし、その製造に際しては、各鋼素線を撚り合せた後、鋼撚線を300℃〜350℃に加熱してブルーイング処理を施して鋼撚線の引張強さ、弾性限、疲労限等を改善したり、鋼撚線を300℃〜350℃程度に加熱しながら引張荷重を加えるなどして一定の永久歪を与え、その後冷却すること(所謂、ヒートストレッチング処理又はホットストレッチング処理)によりレラクセーションの低下を図ったりしている。
【0004】
この鋼撚線の、防錆被覆処理においては、製造された鋼撚線を200℃〜300℃程度に予備加熱し、それをクロスヘッド型の合成樹脂押出成形機に通し、鋼撚線の各単素線間の空隙に熱可塑性の合成樹脂材を充填するとともに、鋼撚線の外周を合成樹脂材で被覆する方法がある。
【特許文献1】特開昭57−198211号公報
【特許文献2】特許第2537457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の如き従来の技術では、長尺鋼材のヒートストレッチングなどの熱処理と防錆被覆工程とを別の場所にて行う為、両作業場間で製品、即ち鋼撚線を輸送するのに費用がかかり、製品のコストアップの要因となっているという問題があり、また、作業するにあたり、鋼撚線のディスケール(錆落とし)処理を必ず施さなければならない等の問題があった。
【0006】
また、熱硬化性樹脂を使用して静電粉体塗装したものは、ピンホールが多く防錆処理が十分ではない場合が多く発生するという問題があった。
【0007】
また、鋼撚線の防錆処理にあっては、撚り加工後に単素線間の空隙内に防錆材を充填する作業を行っているため、十分な充填状態を得るには高度の技術を要し、完成品の歩留まりが悪くなって、コスト高とならざるを得ないという問題があった。
【0008】
本発明はこのような従来の問題に鑑み、熱可塑性樹脂によってピンホールのない防錆被覆がなされ、また、鋼線、鋼棒及び鋼撚線の熱処理と同時に防錆加工ができ、また、鋼撚線にあっては単素線間の空隙、即ち鋼撚線内の内部空隙の充填が容易かつ確実におこなうことができ、歩留まりが良く、低コストで製造できる防錆被覆鋼撚線の製造方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の如き従来の問題を解決し、初期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、鋼線、鋼棒等の長尺鋼材にブルーイング処理及び/又はヒートストレッチング処理等の熱処理を施した後、該熱処理によって加熱状態にある該長尺鋼材にエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー樹脂、エチレンエチルアクリルレート等の極性基を有する熱可塑性の樹脂又はフッソ樹脂からなる粉末合成樹脂塗装原料を接触させることにより、該塗装原料を長尺鋼材の前記熱処理の際の熱によって溶融させて外周面に被着させ、然る後冷却することにより前記長尺鋼材に溶融被着したに塗装原料を固化させることにある。
【0010】
請求項2に記載の発明の特徴は、前記請求項1の構成に加え、前記長尺鋼材が、PC鋼材であることにある。
【0011】
請求項3に記載の発明の特徴は、前記請求項1の構成に加え、前記長尺鋼材が、異型鋼棒であることにある。
【0012】
請求項4に記載の発明の特徴は、前記請求項1〜3のいずれか1の請求項の構成に加え、前記粉末合成樹脂塗装原料の長尺鋼材に対する接触は、空気によって粉末状の塗装原料を浮遊させた粉末塗装原料浮遊槽内に、前記長尺鋼材を連続して通過させることによって行わせることにある。
【0013】
請求項5に記載の発明の特徴は、前記請求項1〜3のいずれか1の請求項の構成に加え、前記粉末合成樹脂塗装原料の長尺鋼材に対する接触は、長尺鋼材をアースさせておき、これに静電気を帯電させた粉末状の塗装原料を吹き付けることにより静電引力により付着させることによって行わせることにある。
【0014】
請求項6に記載の発明の特徴は、心線の外周に側線を、又は心線の外周に1層又は複数層状に撚り合せ中層線の外側に外層線を拠り合せて鋼撚線となす撚り加工をなし、該鋼撚線に対してブルーイング処理及び/又はヒートストレッチング処理等の熱処理を施すとともに、前記鋼撚線を構成している各単素線間の空隙を防錆材で埋め、かつ前記鋼撚線の外周を防錆材で被覆する長尺鋼材に対する防錆加工方法において、前記該撚り加工時における撚り合せ位置に加熱溶融させた熱可塑性合成樹脂からなる防錆材を供給して該防錆材により前記鋼撚線の各単素線間の空隙を埋め、然る後該鋼撚線に対して前記熱処理を施した後、該熱処理によって加熱状態にある該鋼撚線にエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー樹脂、エチレンエチルアクリルレート等の極性基を有する熱可塑性の樹脂又はフッソ樹脂からなる粉末合成樹脂塗装原料を接触させることにより、該塗装原料を長尺鋼材の熱によって溶融させて外周面に被着させ、然る後冷却することにより前記長尺鋼材に溶融被着したに塗装原料を固化させることにある。
【発明の効果】
【0015】
上述の如く、本発明においては、鋼線、鋼棒等の長尺鋼材にブルーイング処理及び/又はヒートストレッチング処理等の熱処理を施した後、該熱処理によって加熱状態にある該長尺鋼材に、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー樹脂、エチレンエチルアクリルレート等の極性基を有する熱可塑性の樹脂又はフッソ樹脂からなる粉末合成樹脂塗装原料を接触させることにより、該塗装原料を長尺鋼材の前記熱処理の際の熱によって溶融させて外周面に被着させ、然る後冷却することにより前記長尺鋼材に溶融被着したに塗装原料を固化させるようにしたことにより、鋼材製造時の熱処理の熱を利用するため、経済的に、しかもさび落とし処理を施すことなく樹脂による防錆被覆ができ、また、長尺鋼材の外周に、曲げ加工やPC鋼材として設置した際においても、防錆に必要な厚さに塗装原料を溶融被着させることができ、より完全な防錆処理が歩留まりよくなされる。
【0016】
また、前記粉末合成樹脂塗装原料の長尺鋼材に対する接触は、空気によって粉末状の塗装原料を浮遊させた粉末塗装原料浮遊槽内に、前記長尺鋼材を連続して通過させることによって行わせることにより、連続して送られる熱処理後の長尺鋼材に対して効率よく樹脂層を被着させることができる。
【0017】
更に、鋼撚線の撚り加工時における撚り合せ位置に加熱溶融させた熱可塑性合成樹脂からなる防錆材を供給して該防錆材により前記鋼撚線の各単素線間の空隙を埋め、然る後該鋼撚線に対して前記熱処理を施した後、該鋼撚線の外周を熱可塑性合成樹脂からなる防錆材にて被覆することとしたことにより、鋼撚線への加工と同時に防錆加工ができ、また、単素線間の空隙、即ち鋼撚線内の内部空隙の充填が容易かつ確実におこなうことができ、歩留まりが良く、低コストで製造できる。
【0018】
また、前記撚り加工における単素線の撚り合せ位置の外周を熱可塑性樹脂が供給される容器にて囲み、該容器内に加熱溶融させた前記熱可塑性樹脂を供給することによって前記各単素線間の空隙を鋼撚線の撚り加工時に加熱溶融した熱可塑性合成樹脂からなる防錆材で埋めるようにすることにより、鋼撚線内部の空間を容易かつ的確に防錆材で埋めることができる。
【0019】
更に、熱処理の後に、該処理による鋼撚線の加熱状態が維持されている間に、該鋼撚線をクロスヘッド型の合成樹脂押出成形機に通してその外周を熱可塑性合成樹脂からなる防錆材にて被覆することにより、従来行っていた被覆工程の前処理としての加熱作業が不要になり、コストが削減される。
【0020】
また、前記熱処理後に、該熱処理による鋼撚線の加熱状態が維持されている間に、該鋼撚線を熱可塑性合成樹脂粉体層内に通すことによって該粉体を鋼撚線外周に被着させる粉体塗装方式によって鋼撚線外周を被覆することにより、塗装のための装置が簡略化される。
【0021】
更に、防錆材としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー樹脂、エチレンエチルアクリルレート等の極性基を有する熱可塑性の樹脂又はフッソ樹脂からなる粉末合成樹脂塗装原料を使用することにより、防錆材の固化後において鋼撚線の変形に対する追随性が良くなって剥れにくくなり、使用時における作業性がよく、耐久性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に本発明の実施の形態を図面について説明する。
【0023】
図1は本発明の第一実施例の概略構成を示しており、更に詳しくは、単素線である心線1の周囲に、同じく単素線である側線2を一重配置により合せた鋼撚線3、例えば通常の防錆を施さない7本撚り鋼撚線3に対して、図7に示すように、鋼撚線3内部単素線間の空隙(以下内部空隙)4を内部充填防錆材5によって埋めるとともに、外周を外部被覆防錆材6によって被覆した防錆被覆鋼撚線7を製造するための全体の概略構成を示している。
【0024】
この実施例において使用する防錆材は、外部被覆防錆材としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー樹脂、エチレンエチルアクリルレート等の極性基を有する熱可塑性の樹脂又はフッソ樹脂からなる粉末合成樹脂塗装原料を使用する。また、内部充填防錆材5としてはこの他にポリエチレンなども使用できる。
【0025】
図1において、符号10は鋼線撚り加工機である。この加工機は機台11の水平支軸12を中心に回転駆動される回転盤13を有し、この回転盤13の前面には撚り合せ本数分の撚り線用リール14が設けられ、これに予め側線2が巻き付けられている。また回転盤13の中心には貫通孔が開口されており、その中心部分に心線1が通されるようになっている。心線1は、心線用リール15に予め巻き付けられている。そして、心線1を中心線として移動させつつ回転盤13を旋回させることによって心線1の外周に側線2が螺旋状に撚り合せられるようになっている。
【0026】
機台11には、心線1からなる中心線を加熱する加熱器17が固定されている。尚、この加熱器17は、心線11のリール15からの繰り出し位置後部にて、該心線が予備加熱される位置にあればよい。この予備加熱は内部充填防錆材5を各単素線に接着させるためのものであり、約200℃程度に加熱するようになっている。加熱器17としては、電熱線式加熱器の他高周波誘導加熱器が使用できる。
【0027】
心線1に対する側線2の撚り合せ位置には、内部充填防錆材5が供給され、撚り合せ加工と同時に鋼撚線内の内部空隙が防錆材5によって埋められるようになっている。即ち、撚り合せ位置を囲む配置に防錆材供給用の容器20を有しており、この容器20内に加熱溶融させた内部充填防錆材5を加圧注入することによって前記撚り合せ位置に防錆材を充満させ、これが単素線撚り合せ時に鋼撚線3内に巻き込まれ、内部空隙を埋めるようになっている。
【0028】
この容器20は、図2に示すように、内周面21が側線2の繰り出し角度に合せてテーパ状に形成されており、その内周面に開口させた防錆材供給口22より樹脂加熱溶融押し出し機23から加熱溶融された防錆材5が容器20内に加圧注入されるようになっている。尚、容器20は全体が電熱器29によって樹脂の所定の溶融温度が維持させるようになっている。
【0029】
容器20の背面は回転する蓋体24によって閉鎖され、その蓋体24には心線1及び側線2が通過する導入口25,26が開口されているとともにテーパ状をした先細り側の端部に撚り加工後の鋼撚線が通過する撚線通過孔27が貫通開口されている。この通過孔27内に鋼撚線3の外周形状に対応させたダイス28が回転可能に嵌合されており、鋼撚線3の外周に付着した内部充填防錆材5の殆どが除去されるようになっている。
【0030】
このようにして図6に示すように内部空隙を防錆材5で満たした状態に撚り加工された鋼撚線3は、次に加工歪を除去するための熱処理であるブルーイング炉30に通し、撚り加工による残留応力を除去する。このブルーイング炉30には誘導加熱炉が使用でき、図には詳示してないが内部に高周波電流を流す誘導子を有し、その誘導子の中心を鋼撚線3が通過するようになっている。
【0031】
ブルーイング炉30を通過した鋼撚線3は、次いでレラクゼーションを低下させるための熱処理であるヒートストレッチング装置31に送られる。このヒートストレッチング装置31は、一例として加熱炉32とその前後にあって鋼撚線3に所定の張力を付加する送り機構33a,33bとからなり、所定の張力を付加させつつ加熱し、後述の冷却処理を施すことによってレラクゼーション性能を向上させる。
【0032】
ヒートストレッチング処理が施された鋼撚線3を必要に応じてディスケール装置34にかけて表面の錆落しを行った後、鋼撚線温度が樹脂の被着に必要な温度(例えば250℃程度)より低くなる前に、該鋼撚線3の外周に防錆被覆を施す。この防錆被覆処理は、ヒートストレッチング処理における加熱炉32による加熱を利用して鋼撚線3の外周面に合成樹脂被覆を施すものであり、一例として図3に示す如き、流動浸漬式の粉体塗装装置35を使用する。
【0033】
この粉体塗装装置35は、粉末合成樹脂塗装原料36を空気によって浮遊させる原料浮遊槽37を有している。この原料浮遊槽37は、底面に多数の噴気孔を有する底板38を有し、その底板下にエア導入室39を有し、該エア導入室39内にブロワー40からエアを導入させている。
【0034】
この原料浮遊槽37には、その中間高さ位置の互いに対向する壁面に、鋼撚線3を連続して通過させることができるように、長尺鋼材挿通孔41a,41bが開口されている。また、原料浮遊槽37の上部には、その内部に塗装原料36を供給するホッパー37aが備えられている。
【0035】
そして、原料浮遊槽37内にエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー樹脂、エチレンエチルアクリルレート等の極性基を有する熱可塑性の樹脂又はフッソ樹脂からなる粉末合成樹脂からなる塗装原料36を収容し、底板38の噴気孔から空気を噴出させることにより、塗装原料36が浮き上がる。この状態で、長尺鋼材挿通孔41a,41bに、前述した熱処理によって加熱された鋼撚線3を通過させる。これによって浮遊している塗装原料36が鋼撚線3に接触し、該鋼撚線3の熱によって溶融されて表面に被着させる。
【0036】
このようにして鋼撚線3の外周を外部被覆防錆材6で覆った後、冷却機42に通し、冷風によって全体を冷却し、防錆材5,6を固化させて防錆被覆鋼撚線となし、巻き取りリール43巻き取る。
【0037】
上述の実施例では、図6に示すように心線1の外周に一層の側線2を撚り合せた鋼撚線3からなる防錆被覆鋼撚線の製造について説明したが、例えば図8に示す如き、心線50の外側に中層線51を撚り合せ、その外周に外層線52を撚り合せ多層鋼撚線となし、各線材撚り加工毎に内部空隙を埋めるように内部充填防錆材5を充填し、その外周を図9に示すように外部被覆防錆材6で被覆した防錆被覆鋼撚線7を製造することができ、その製造に際しては、図4に示すように、中層線51、外層線52をそれぞれ撚り合せるための鋼線撚り加工機60,61に順次通して各層ごとに撚り合せと内部空隙への防錆材の充填とを前述と同様にして行うことにより多層鋼撚線からなる防錆被覆鋼撚線が成型できる。尚、各実施例を示す図において、同じ又は同等の部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0038】
この他、図には示してないが、心線50と外層線52の中層線51が複数層に分けてより合せた多層鋼撚線についても、各層ごとの撚り加工時に同様にして内部空隙を内部充填防錆材で埋めるようにすることにより多層の防錆被覆鋼撚線が製造できる。
【0039】
この場合、鋼線撚り加工機60は前述した図2と同じ構造のものであり、鋼線撚り加工機61は、図5に示すように、撚り加工された鋼撚線3の外周に中層線51及び/又は外層線52を撚り合せるものである他、その構造は撚り加工機60と同様である。尚、撚り加工機61は、単素線である心線50の外周に中層線50を撚り合せた鋼撚線3を中心線とし、その外周に外層線52をより合わせるものであり、その撚り合せ位置直前の加熱器17は、心線と中層線からなる鋼撚線3を予備加熱するものである。
【0040】
次に、本発明を異型鋼棒などの単鋼棒及び単鋼線(撚線ではないもの)などの長尺鋼材に実施する場合について説明する。この場合においては、図10に示すように長尺鋼材ヒートストレッチング装置31に通した後、ディスケール装置34に通し、しかる後、前述した原料浮遊槽37に通し、冷却機42に通す。各装置は前述と同様であるため重複説明を省略する。
【0041】
尚、長尺鋼材が容易に曲がらない鋼棒である場合は、所定長さに切断したものを使用し、リールによる巻取りが可能な鋼線の場合は、リールに巻いた状態(図示せず)のものを順次伸ばして供給し、被覆冷却後にリールに巻きとる。
【0042】
上述した各実施例においては、熱処理であるブルーイング処理の後、同じく熱処理であるヒートストレッチング処理を施す場合を示したが、ヒートストレッチング処理を施す必要がない場合には、ブルーイング処理におけるブルーイング炉による加熱を利用し、該加熱後、鋼線に対する樹脂被着に必要な温度まで温度が降下した時点で外部被覆防錆材による被覆処理を行う。また、熱処理としては、上述のほか、一様伸び率を改善するための熱処理等、鋼線の加工及び所望の品質を発現させるための各種の熱処理を含む。
【0043】
更に、上記ディスケール装置34による錆落しは、必要な際に行うものであり、必ずしも必要ではない。このディスケール装置は上記の他、サンドブラストやショットピーニング加工によっても良い。
【0044】
また、上述した実施例では、前記粉末合成樹脂塗装原料の長尺鋼材に対する接触を、空気によって粉末状の塗装原料を浮遊させた粉末塗装原料浮遊槽内に、前記長尺鋼材を連続して通過させる所謂流動浸漬法による場合を示しているがが、この他、長尺鋼材をアースさせておき、これに静電気を帯電させた粉末状の塗装原料を吹き付けることにより静電引力により付着させる所謂静電吸着法によってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第一実施例の加工工程図である。
【図2】図1の加工工程における撚り加工機部分を示す断面図である。
【図3】同、外周面の防錆被覆装置の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の第二実施例の加工工程図である。
【図5】同上の中層線又は外層線の撚り加工装置の一例を示す断面図である。
【図6】図1に示す例における内部空隙を防錆材で埋めた状態の鋼撚線を示す切断端面図である。
【図7】同上の外周面防錆被覆工程後の防錆被覆鋼撚線の一例を示す切断端面図である。
【図8】本発明の第二実施例における中層線及び外層線を撚り合せ加工した状態の鋼撚線の切断端面図である。
【図9】同上の外周面防錆被覆工程後の防錆被覆鋼撚線の一例を示す切断端面図である。
【図10】本発明の第三実施例を示す加工工程図である。
【符号の説明】
【0046】
1 心線
2 側線
3 鋼撚線
5 内部充填防錆材
6 外部被覆防錆材
7 防錆被覆鋼撚線
10 鋼線撚り加工機
11 機台
12 水平支軸
13 回転盤
14 撚り線用リール
15 心線用リール
17 加熱器
20 容器
21 内周面
22 防錆材供給口
23 樹脂加熱溶融押し出し機
24 蓋体
25.26 導入口
27 撚線通過孔
28 ダイス
29 電熱器
30 ブルーイング炉
31 ヒートストレッチング装置
32 加熱炉
33a,33b 送り機構
34 ディスケール装置
35 粉体塗装装置
36 粉末合成樹脂塗装原料
37 原料浮遊槽
38 底板
39 エア導入室
40 ブロワー
41a,41b 長尺鋼材挿通孔
42 冷却機
43 巻取りリール
50 心線
51 中層線
52 外層線
60,61 鋼線撚り加工機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼線、鋼棒等の長尺鋼材にブルーイング処理及び/又はヒートストレッチング処理等の熱処理を施した後、該熱処理によって加熱状態にある該長尺鋼材にエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー樹脂、エチレンエチルアクリルレート等の極性基を有する熱可塑性の樹脂又はフッソ樹脂からなる粉末合成樹脂塗装原料を接触させることにより、該塗装原料を長尺鋼材の前記熱処理の際の熱によって溶融させて外周面に被着させ、然る後冷却することにより前記長尺鋼材に溶融被着したに塗装原料を固化させることを特徴としてなる長尺鋼材に対する防錆加工方法。
【請求項2】
前記長尺鋼材が、PC鋼材である請求項1に記載の長尺鋼材に対する防錆加工方法。
【請求項3】
前記長尺鋼材が、異型鋼棒である請求項1に記載の長尺鋼材に対する防錆加工方法。
【請求項4】
前記粉末合成樹脂塗装原料の長尺鋼材に対する接触は、空気によって粉末状の塗装原料を浮遊させた粉末塗装原料浮遊槽内に、前記長尺鋼材を連続して通過させることによって行わせる請求項1〜3のいずれか1に記載の長尺鋼材に対する防錆加工方法。
【請求項5】
前記粉末合成樹脂塗装原料の長尺鋼材に対する接触は、長尺鋼材をアースさせておき、これに静電気を帯電させた粉末状の塗装原料を吹き付けることにより静電引力により付着させることによって行わせる請求項1〜3のいずれか1に記載の長尺鋼材に対する防錆加工方法。
【請求項6】
心線の外周に側線を、又は心線の外周に1層又は複数層状に撚り合せ中層線の外側に外層線を拠り合せて鋼撚線となす撚り加工をなし、該鋼撚線に対してブルーイング処理及び/又はヒートストレッチング処理等の熱処理を施すとともに、前記鋼撚線を構成している各単素線間の空隙を防錆材で埋め、かつ前記鋼撚線の外周を防錆材で被覆する長尺鋼材に対する防錆加工方法において、
前記該撚り加工時における撚り合せ位置に加熱溶融させた熱可塑性合成樹脂からなる防錆材を供給して該防錆材により前記鋼撚線の各単素線間の空隙を埋め、然る後該鋼撚線に対して前記熱処理を施した後、該熱処理によって加熱状態にある該鋼撚線にエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー樹脂、エチレンエチルアクリルレート等の極性基を有する熱可塑性の樹脂又はフッソ樹脂からなる粉末合成樹脂塗装原料を接触させることにより、該塗装原料を長尺鋼材の熱によって溶融させて外周面に被着させ、然る後冷却することにより前記長尺鋼材に溶融被着したに塗装原料を固化させることを特徴としてなる長尺鋼材に対する防錆加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−289972(P2008−289972A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136447(P2007−136447)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(000132873)株式会社タイムスエンジニアリング (7)
【Fターム(参考)】