説明

長期安定な油−PTFE分散液及びその製造方法

本発明は、化学の分野に関し、かつ、例えばギヤ又は軸受において使用されることができるような、長期安定な油−PTFE分散液、並びにそれらの製造方法に関する。本発明の課題は、故に、長期安定な油−PTFE分散液並びにそれらの単純かつ費用のかからない製造方法を記載することにある。前記課題は、PTFE粒子と、少なくとも1つのモノ又はポリオレフィン系不飽和油又は油混合物とからなる長期安定な油−PTFE分散液により解決され、その際にオレフィン系不飽和油の分子はPTFE(一次)粒子表面上で、ラジカル反応により共有結合/化学結合されており、かつその際にPTFE粒子表面と結合された油分子との間の永久的な電荷分離、及び油又は油混合物中でのPTFE粒子の微細分散が存在する。さらに、前記課題は、持続性のペルフルオロ(ペルオキシ)ラジカルを有する変性されたPTFE(エマルション)ポリマーが、少なくとも1つのオレフィン系不飽和油と一緒に、混合され、かつ次に変性されたPTFE(エマルション)ポリマーが機械的応力にかけられる方法により解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械工学及び化学の分野に関し、かつ、例えば滑り摩擦及び摩耗に関するトライボロジー要件を有する可動部において、例えばギヤ又は軸受において使用されることができるような、長期安定な油−PTFE分散液、並びにそれらの製造方法に関する。
【0002】
油−PTFE分散液は、非常に数多く記載されている。油中へのPTFEの分散は、添加剤を用いて並びに用いずに、短時間でPTFEの沈降をまねき、このPTFEは、ついでたいてい困難にのみ巻き上げられる/再分散されることができるに過ぎない。
極めて多くの刊行物は、しかし、分散液の組成に、もしくはより良好な分散安定化のための特別な添加剤の使用に取り組んでいるに過ぎず、その際に分散安定性は前景にない。
【0003】
FR 2857373 A1からは、家庭及び作業場(Werkstatt)用の分散液中の、鉱油80〜97(好ましくは95〜97)質量%及びサブミクロンPTFE 0.5〜1.5(好ましくは約1)質量%、並びに香気物質添加剤及び染料添加剤を有するPTFEを有する鉱油が、知られている。
【0004】
同様に、スチール・オン・スチール摩擦対合(Reibpaarung)における、油、PTFE及び超分散ダイヤモンドからなる潤滑剤のトライボロジー特性についてのM. G. Ivanov他, Ural. Gos. Tekh. Univ. UPI, Yekaterinburg, Russia, Trenie i Iznos (2004), 25(1), p. 99-103による研究が知られている。
【0005】
さらに、特開(JP-A)2003-113390号公報によれば、ディーゼルエンジンクランクシャフトケーシング用の潤滑油添加剤の製造のために、≦40゜で超過圧ホモジナイザー中で潤滑基油中のPTFE粉末(7μmの平均粒径)を分散させ、ついでボールミル中で平均粒度を≦1μmに減少させる方法が知られている。
【0006】
これらの刊行物は、分散安定性についての情報を与えていない。
【0007】
さらに、特開平(JP-A)11-021577号公報によれば、植物油、動物性脂肪、鉱油、エステル油、混合油及び変性油から選択される基油(1)と、基油中に溶解されている高級脂肪酸の多価金属塩の存在で基油中に分散されたPTFE粉末(2)とからなる潤滑剤が知られている。
【0008】
同様に、米国特許(US-A)第5846447号明細書によれば、有機キャリヤー流体(特に潤滑油)中でのPTFE分散液の形成方法が知られており、前記方法において(1)PTFE粒径<1μm(好ましくは<0.25μm)を≧4Mradの電子線又はγ線で雰囲気酸素及び水の存在で処理する、(2)照射された粒子を潤滑油及び≧1/少なくとも1つの分散剤と混合する、及び(3)PTFE粒子の解凝集及び安定化のためにこの混合物を、多数のノズルにより液体ノズル内で相互作用チャンバに≧1000psiの圧力で通過させる、ことが行われる。前記方法が安定で均一なPTFE分散液を供給し、かつ潤滑剤への望ましくない水の導入が回避されることが報告されている。
【0009】
米国特許(US-A)第5744539号明細書によれば、さらに、PTFE沈降の本質的にない、潤滑油中の微細分布したPTFE粒子及びポリマー分散剤の安定な分散液から本質的になるPTFE分散液が知られている。
【0010】
ポーランド国特許(PL-B1)第168489号明細書によれば、潤滑剤及び作動油用の添加剤として使用されるPTFE懸濁液の製造方法が記載されている。16質量%濃度の水性PTFE懸濁液(PTFE 60、過フルオロカプリル酸アンモニウム 0.02、非イオン界面活性剤 0.02等を含有する)が、潤滑油及び油圧作動液に添加される。別の製造方法において、さらに分散剤0.2〜4質量%、界面活性剤0.3〜4質量%及び増粘剤20質量%が油混合物に添加される。
【0011】
オランダ国特許出願公開(NL-A)第9300742号明細書からは、潤滑剤中でキャリヤー中に分散されている固体樹脂(テフロン/PTFE)をベースとする潤滑剤が知られている。キャリヤー物質は、シリコーン油であり;前記分散は、分散剤の存在で実施される。
【0012】
さらに、独国特許(DE-C1)第36 42 617号明細書からは、油中に潤滑油又はその添加剤として、その中でPTFEが粉末形で又は水性分散液として非イオン界面活性剤(帯電防止剤)の存在で市販の鉱油中に混合されることによるPTFE分散液の製造方法が知られている。
【0013】
東独国特許出願公告(DD-A1)第25 19 88号明細書によれば、0.1〜0.5μmの粒度を有する分散されたPTFE粉末の安定性を改善するポリフルオロカルボン酸及びそれらのエステルを分散剤として含有する含PTFE潤滑剤が知られている。
【0014】
H. Driescher他, Schmierungstechnik (1984), 15(7), 199-202には、高真空中での使用のための精密潤滑剤の有効な寿命が記載されており、その中でPTFE微細粉末と、PTFE分散液の安定化のためにペルフルオロアルケニル−アルキル−エーテル分散剤とを含有する微細油が使用される。
【0015】
米国特許(US-A)第3,933,656号明細書によれば、界面特性を有しかつ低下された放出を有するフルオロカーボン添加剤を含有する潤滑油が知られており、その中に、サブミクロンサイズのPTFE[9002-84-0]粉末300cm3及びシラン A 1100 [919-30-2]30cm3がエンジン油の同じ量で分散される。
【0016】
これら全ての開示からは、特定の分散安定性が、添加剤の添加によってはじめて、概して達成されることができるか又は高められることができることが知られている。
【0017】
さらに、ロシア国特許(RU-C1)第2212418号明細書によれば、PTFE酸化に熱力学的に適している含酸素化合物の存在で、ガス状分解生成物の雰囲気下での、480〜540℃でのPTFEの熱分解により製造される、超微細なPTFEの分散液が知られている。分解プロセスからの分解生成物(Abbau-/Zersetzungsprodukte)は、冷却され、かつ鉱油に導通させる際に凝縮され、それにより、PTFE分散液(1.7%の酸素含量を有する乾燥PTFE 12.9g)が形成される。形成された超微細なPTFEは、親油性であり、かつ安定剤又は界面活性剤を添加せずとも、安定な分散液を形成する。
その際に、PTFEの前記のガス状酸化分解生成物はもはや事実上PTFEではない、それというのも、これらはもはやPTFEの有利な性質を全面的に有しないからである。
【0018】
米国特許(US-A)第4,465,607号明細書からは、さらに、1〜200μmの粒度を有するPTFEが、潤滑基油中での超音波撹拌/処理により安定な分散液がもたらされることによる含PTFE潤滑剤組成物が知られている。
長期安定性については述べられていない。
【0019】
S. Palios他, Tribology Series (1996), 141-152. 発行者: Elsevierは、PTFE懸濁液(潤滑油中のPTFE)の挙動を、PTFE粒度に依存してころ−/滑り−接触において調べた。より大きなPTFE粒子は、摩擦及び摩耗を低下させるように思われる。前記粒子が、摩擦する側に著しく付着し、かつ永久的なコーティングを形成するかどうかは記載されなかった。完全に処方された油中の極めて小さいPTFE粒子は、摩擦−及び摩耗−減少への測定可能な貢献に寄与しないように思われる。
【0020】
PTFE−ナノ粉末粒子/ミクロ粉末粒子のオレフィン系不飽和モノマー/化合物での反応性カップリング/表面変性の原理は、独国特許出願公開(DE-A1)第103 51 812号明細書、独国特許出願公開(DE-A1)第103 51 813号明細書及び独国特許出願公開(DE-A1)第10 2004 016 876号明細書から既に知られている。
【0021】
知られた解決手段の欠点は、長期安定な油−PTFE分散液が知られていないことにある。
【0022】
本発明の課題は、故に、長期安定な油−PTFE分散液並びにそれらの単純かつ費用のかからない製造方法を記載することにある。
【0023】
前記課題は、特許請求の範囲に記載された発明により解決される。有利な態様は、従属請求項の対象である。
【0024】
本発明による長期安定な油−PTFE分散液は、PTFE粒子と、少なくとも1つのモノ又はポリオレフィン系不飽和油又は油混合物とからなり、その際にオレフィン系不飽和油又は油混合物のオレフィン系不飽和含分の分子はPTFE(一次)粒子表面上で、ラジカル反応により共有結合/化学結合されており、かつその際にPTFE粒子表面と結合された油分子との間の永久的な電荷分離が存在し、かつ油又は油混合物中でのPTFE粒子の微細分散が存在する。
【0025】
有利には、前記油又は油混合物は主に又は完全に、オレフィン系不飽和油又は油含分からなる。
【0026】
同様に有利には、油で変性されたPTFEは、濃縮されて90質量%まで又は希釈されて0.1質量%まで、さらに有利には60質量%まで又は希釈されて1.0質量%まで又は30質量%まで又は希釈されて3.0質量%まで、油−PTFE分散液中に存在しており、その際に有利には希釈された油−PTFE分散液が、油−PTFE分散液の同じ油又は油混合物で希釈されて存在するか、又は希釈された油−PTFE分散液が、使用されるものとは異なるが、しかし油−PTFE分散液と混和性の油又は油混合物で希釈されて存在する。
【0027】
さらに有利には、PTFE粒子(表面)と結合された油分子との間の永久的な電荷分離は、分散されたPTFE粒子が反撥されるようなオーダー(Groessenordnung)を有する。
【0028】
そしてまた有利には、永久的な電荷分離は、PTFE粒子表面と、結合された油分子との間の少なくとも1オーダーの電荷差である。
【0029】
PTFE粒子が本質的には一次粒子として、前記分散液中に存在する場合にも、有利である。
【0030】
長期安定な油−PTFE分散液の本発明による製造方法の場合に、持続性のペルフルオロ(ペルオキシ)ラジカルを有する変性されたPTFE(エマルション)ポリマーが、少なくとも1つのオレフィン系不飽和油又は少なくともオレフィン系不飽和油含分を有する油混合物と一緒に、混合され、かつ次に変性されたPTFE(エマルション)ポリマーが機械的応力にかけられ、それにより使用された変性されたPTFE(エマルション)ポリマーが解凝集され、かつ微細分散される。
【0031】
有利には、変性されたPTFE(エマルション)ポリマーとして、放射線化学的又はプラズマ化学的に処理されたPTFE(エマルション)ポリマー又は重合プロセスに由来するペルフルオロ(ペルオキシ)ラジカル中心を有するPTFE(エマルション)ポリマーが使用され、その際にさらに有利にはPTFE(エマルション)ポリマーの放射線化学的な処理が酸素の影響下に実施される。
【0032】
同様に有利には、油又は油混合物として、オレフィン系不飽和油又は油含分から主に又は完全になるものが使用される。
【0033】
さらに有利には、前記混合は、分散装置中で実施される。
【0034】
そしてまた有利には、機械的応力として剪断応力が適用される。
【0035】
機械的応力が、超音波処理により、Ultraturrax撹拌機により、歯車ディスク撹拌機(Zahnscheibenruehrer)により又は混合物のノズル噴霧により又は分散方法及び分散装置の組合せにより適用される場合も有利である。
【0036】
そしてまた、(1つ又は複数の)分散助剤及び分散安定剤が添加される場合にも有利である。
【0037】
本発明による油−PTFE分散液の場合に、モノ又はポリオレフィン系不飽和油又は油混合物の分子が、PTFE粒子の表面上へ、ラジカル反応により、共有結合/化学結合される。その際に、既に存在している凝集物は、機械的応力によより再びPTFE一次粒子へ戻されなければならず、かつラジカル反応の間にPTFE粒子の凝集は防止されなければならない。PTFE粒子の解凝集及びPTFE粒子表面への油分子の化学結合により、同時にPTFE粒子と油分子との間の永久的な電荷分離が達成され、このことは分散安定化の改善に寄与し、かつ本発明による長期安定な油−PTFE分散液をもたらす。
長期安定性は、その際に本発明の範囲内で、油−PTFE分散液の特記すべき分離が、数時間〜数日の範囲内で、又は数ヶ月まで、又はそれどころか数年まで生じないことを意味しうる。
【0038】
さらに、本発明によれば、(1つ又は複数の)分散助剤及び分散安定剤の添加が部分的に又はそれどころか完全に放棄されることができる。
同様に、油−PTFE分散液中の不飽和油又は油含分の後処理は、オレフィン系二重結合の水素化により可能である。
【0039】
本発明は、技術水準の解決手段とは、これまで、長期安定な油−PTFE分散液が製造可能ではなかったことにより相違する、それというのも、これまで、PTFE粒子との油分子の共有結合/化学結合/グラフト化は、知られていなかったか又は達成可能ではなかったからである。
油は、周知のようにモノマーではない、それというのも、オレフィン系不飽和油のアリル系二重結合は、ポリマー化学の意味でのラジカル又はイオン重合可能ではない、すなわちポリマーが連鎖反応により形成せず、かつ重合防止/中断する作用を有するからである。モノマーとの知られたPTFEの結合/グラフト化とは異なり、油ではグラフト(共)重合は不可能である。
故に、オレフィン系不飽和油の長年知られた反応機構に基づいて、PTFE粒子とオレフィン系不飽和油との間の決して反応が行われないことから出発されるべきであった。
【0040】
意外なことに、しかし変性PTFEポリマー及び好ましくは持続性のペルフルオロ(ペルオキシ)ラジカルを有するPTFE(エマルション)ポリマーの使用によりラジカル反応が、機械的応力と組み合わせてPTFE凝集物からPTFE一次粒子への解凝集のために、ラジカル反応及びそれにより油分子とPTFE粒子表面との間の共有結合/化学結合が行われる。
【0041】
さらに、PTFE粒子の機械的応力により、結合された油分子とPTFE粒子表面との間の明らかかつ永久的な電荷分離が明らかに達成され、それにより、一方では、別の油分子及び/又はPTFE粒子が、PTFE粒子表面上へ蓄積されず、かつ同時に既に結合された油分子とPTFE粒子表面とのさらなる結合も行われることができない。そのために、実際にそれぞれ個々のPTFE粒子が、結合された油分子により、かつ他のPTFE粒子の静電反撥により遠ざけられ、かつ凝集は、行われることができないか、又は少ない程度でのみ行われることができるに過ぎない。
【0042】
持続性のペルフルオロ(ペルオキシ)ラジカルを有するPTFEが、モノマー、マクロマー、オリゴマー及びポリマーのようなオレフィン系不飽和化合物との反応することができることは知られている。それにより、PTFE(ミクロ/ナノ)粒子の直接の表面変性が達成される。オレフィン系不飽和油との反応への、ミクロ粒子及び/又はナノ粒子からなる持続性のペルフルオロ(ペルオキシ)ラジカルを有する特別に(プラズマ及び/又は放射線)変性されたPTFEエマルションポリマーの本発明による使用の際に、機械的応力の使用下に、極めて微細分散され、長期安定な油−PTFE分散液が形成され、これらは不飽和及び/又は飽和の油での希釈の際にも又はオレフィン系不飽和二重結合の(その後の)水素化後にも沈降現象を有しないことが意外なことに突き止められた。この現象は、機械的応力下での分散の間の油−PTFE分散液粒子の静電帯電及び電荷分離に起因される。さもなければ不相溶性の成分 − PTFE粒子とPTFE粒子表面に結合された油分子との間のこの電荷分離は、意外であったものであり、かつ油−PTFE潤滑剤系における長期安定な分散の原因である。
【0043】
分散装置としてのUltra-Turrax撹拌機の剪断スリット中でのPTFEの分散にとって決定的であるのは、剪断勾配、及び剪断場もしくは剪断スリット中の粒子の滞留時間である。そのようなUltra-Turrax-撹拌機を用いて、本発明による機械的応力は、油又は油混合物中のPTFE粒子へ適用されることができる。PTFE粒子の半径方向の通過の際の大きな促進力によって、油中のPTFE粒子は、極めて著しい剪断力及び推力による応力を受ける。ローターとステーターとの間の剪断スリット中で、追加的な乱れ(Turbolenzen)が生じ、これらは油中でのPTFEの最適な細分及び分布(Zer- und Verteilung)をもたらす。分散作用度は、剪断勾配及び滞留時間の積から得られる。ローター−ステーター装置の回転速度のための最適な分散範囲は、10〜24m/sの範囲内であり、その際にこの範囲外で、時間に依存してさらに極めて良好な結果が得られる。
最適な範囲内では、たいてい数分(wenigen Minuten)の加工時間で十分である。
【0044】
PTFE粒子への機械的応力の適用のためのさらなる可能性は、硬い台(harte Unterlage)への油−PTFE混合物のノズル噴霧である。油−PTFE粒子混合物が、高速で(サーキュラー又はスロット)ノズルで又はアニュラーギャップから押しつけられ/ノズル噴霧され、かつじゃま板/硬い台へ衝突する場合には、微細分布した安定な油−PTFE分散液が得られる。この混合物が>25℃及び好ましくは>60℃の温度でノズル噴霧される場合が有利である。
【0045】
類似の効果は、1つのふるい又は多重に配置されたふるい/ふるいパケット[<50μm、好ましくは<25μmのメッシュサイズを有するふるい(ふるい円形物(Siebronden))、同じ又は可変のメッシュサイズを有する配置]により及び/又は焼結金属ふるいもしくは焼結金属ディスク/焼結金属フィルターふるいにより及び/又は相応して切断される混合装置/スタティックミキサーによってより高い圧力で油−PTFE混合物を導通させる際に、達成されることができる。
【0046】
別の、極めて巧みな分散方法は、超音波による油−PTFE混合物の処理である。混合物(できるだけ循環路中で)を直接、超音波プローブ上でそばを通過/導通され(vorbeigefuehrt/vorbeigeleitet)、かつこうして超音波場中で分散される場合に、有利であることが判明している。
【0047】
特定のPTFE−ナノ粉末又はミクロ粉末、好ましくはより高い照射線量でそのような変性されたPTFE粉末、例えば>100kGyでのPTFEナノ粉末及び>250kGyでのPTFEミクロ粉末のために、歯車ディスク撹拌機(例えばDispermat)も機械的応力の適用のために成果をあげて使用されることができる。前記剪断作用は、安定な分散液の製造にとって十分であることが判明している。
【0048】
本発明の重大な利点は、特別な潤滑剤系としての油−PTFE分散液の長期安定性である。この油−PTFE潤滑剤系は、さもなければ沈降するPTFEの再分散のための添加剤/添加剤及び補助装置なしでも、油潤滑された動力伝達装置中で安定である。とりわけゆっくりと動く凝集物の場合に、この系は有利に作用する。油が、凝集物成分の圧力によりスリットから押しのけられ、かつ成分が、互いに多少直接接触する場合には、それにより、高められた摩擦が発生/製造され、このことは(a)摩擦によるエネルギー損失を、及び(b)高められた摩耗を、まねく。長期安定な油−PTFE分散液は、そのような条件下で、確かに油がスリット中で押しのけられるが、しかしながら特別な抗付着特性を有するPTFEが、油−PTFE分散液中の固体外部潤滑剤成分として摩擦スリット中で有利に固体外部潤滑剤として作用することになり、かつ摩擦係数並びに摩耗を低下させることを保証する。酸素の存在での変性によりPTFE中で発生される(フッ化カルボニル及び/又はカルボン酸)基は、圧力/プレス力下に前記成分表面の間で有利に付着を媒介する作用を有するので、付着して滑り摩擦を媒介するPTFE膜が表面上で形成され、この膜はこれらの官能基なしで固定されずに存在し、かつ容易に分離されることができる。
この利点は、グリースへのそのような油−PTFE分散液の加工においても及び後でこれらのグリースの使用において有利でありうる、それというのも、PTFEはついでグリース中で凝集する傾向及びケーキングする(Verklumpen)傾向を有しないからである。
【0049】
オレフィン系不飽和油が、樹脂化する傾向にあることは知られている。このことは、工業用途において欠点でありうる。故に、本発明による解決手段の有利なさらなる変法は、PTFE(エマルション)ポリマーとオレフィン系不飽和油との反応変換後に、(a)濃縮された油−PTFE分散液が、飽和の/樹脂化しない油で希釈されるか、又は(b)油分子で変性された/グラフトされたPTFE粒子が、分散液から分離され、かつ飽和の/樹脂化しない油へ変換され、かつこの系中に再分散されることにある。油でグラフトされたこれらのPTFE生成物の分散安定性の有利な性質は、得られたままであり、かつそれゆえ、他の(基)油系へも変換可能であり、かつ最終的に、PTFEとオレフィン系不飽和油との間の反応結合が実施された油に制限されていない。
【0050】
長期安定な油−PTFE分散液は、とりわけ、機械工学の分野で及びここでは特別に滑り摩擦及び摩耗に関するトライボロジー要件を有する可動部において、例えばギヤ(制御ギヤ、動力伝達のためのギヤ)、軸受(ボール軸受、ころ軸受、滑り軸受及び静圧並びに油圧の滑り軸受)、ピストン機関等において必要とされる。さらに、そのような分散液は有利に、PTFEがもはや凝集せず、かつ相分離しないという性質を有するグリースへとさらに加工されることができる。長期安定な油−PTFE分散液は、数週後にも及び希釈の際にも沈降現象を示さない。
それにより、PTFEは、追加的な(分散助)剤又は追加的な再分散装置なしでも、潤滑剤系中で活性なままである。
【0051】
以下に、本発明は、複数の実施例に基づいてより詳細に説明される。
【0052】
比較例1
最も純粋な窒素(Reinststickstoff)ガス処理/ガス供給と、Ultraturrax撹拌機と、ブンゼン弁を備えた短い還流冷却器とを有する3つ口フラスコ250ml中に、エステル油135g(Priolube:オレフィン系不飽和二重結合を有しない/完全飽和)を装入し、窒素すすぎ下に30min撹拌する。引き続き、PTFEエマルションポリマー15g(酸素の存在で500kGyを電子線照射した)を添加し、撹拌しながら100℃に加熱し、100℃で2時間及び150℃でさらに2時間強力撹拌する。分散液を、撹拌せずに冷却する。既に冷却する際にPTFEは相対的に迅速に沈降し、かつ澄明な上澄みの油相と沈降されるPTFEとに分離する。
純粋なPriolube油が29MPaのBrugger値を有するのに対し、澄明な上澄みの油相中の油のBrugger値は33Mpaに非本質的にのみ高まる。
【0053】
例1
比較例1に類似して、最も純粋な窒素ガス処理/ガス供給と、歯車ディスク撹拌機と、ブンゼン弁を備えた短い還流冷却器とを有する3つ口フラスコ250ml中に、オレフィン系不飽和二重結合を有するエステル油135g(Synative:オレフィン系不飽和二重結合を有する)を装入し、窒素すすぎ下に30min撹拌する。引き続き、PTFEナノ粒子(酸素の存在で300kGyを電子線照射した、60〜80nmのPTFE一次粒度を有する)からなるPTFEエマルションポリマー15gを添加し、撹拌しながら100℃に加熱し、100℃で2時間及び140℃でさらに2時間強力撹拌する。分散液を、撹拌せずに冷却する。
冷却後に、長期安定な油−PTFE分散液が存在し、この分散液は、8週間後にも沈降現象を有さず、すなわちPTFEは沈殿しない。変性されたPTFEナノ粒子10質量%から3質量%への希釈の場合にも、沈降は観察されることができない。
純粋なSynative油が26MPaのBrugger値を有するのに対し、変性されたPTFEナノ粒子10質量%を有する油のBrugger値は160MPaに、及び変性されたPTFEナノ粒子3質量%のみを有する油は単に68MPaに、高まる。
【0054】
例2
比較例1に類似して、最も純粋な窒素ガス処理/ガス供給と、Ultraturrax撹拌機と、ブンゼン弁を備えた短い還流冷却器とを有する3つ口フラスコ250ml中に、不飽和エステル油120g(Synative:オレフィン系不飽和二重結合を有する)を装入し、窒素すすぎ下に30min撹拌する。引き続き、PTFEミクロ粒子(酸素の存在で500kGyを電子線照射した、200nmのPTFE一次粒度を有する)からなるPTFEエマルションポリマー30gを添加し、撹拌しながら100℃に加熱し、100℃で1時間及び150℃でさらに1時間強力撹拌する。分散液を、撹拌せずに冷却する。
冷却後に、長期安定な油−PTFE分散液が存在し、この分散液は、10週間後にも沈降現象を有さず、すなわちPTFEは沈殿しない。変性されたPTFEミクロ粒子20質量%から2.5質量%への希釈の場合にも、沈降は観察されることができない。
純粋なSynative油が26MPaのBrugger値を有するのに対し、変性されたPTFEミクロ粒子20質量%を有する油のBrugger値は210MPaに、及び変性されたPTFEミクロ粒子2.5質量%のみを有する油は単に96MPaに、高まる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PTFE粒子と、少なくとも1つのモノ又はポリオレフィン系不飽和油又は油混合物とからなる長期安定な油−PTFE分散液であって、
オレフィン系不飽和油又は油混合物のオレフィン系不飽和含分の分子が、PTFE(一次)粒子表面上で、ラジカル反応により共有結合/化学結合されており、かつPTFE粒子表面と結合された油分子との間の永久的な電荷分離が存在し、かつ油又は油混合物中でのPTFE粒子の微細分散が存在する、
長期安定な油−PTFE分散液。
【請求項2】
油又は油混合物がオレフィン系不飽和油又は油含分から主に又は完全になる、請求項1記載の長期安定な油−PTFE分散液。
【請求項3】
油で変性されたPTFEが、濃縮されて90質量%まで又は希釈されて0.1質量%まで、油−PTFE分散液中に存在している、請求項1記載の長期安定な油−PTFE分散液。
【請求項4】
油で変性されたPTFEが、濃縮されて60質量%まで又は希釈されて1.0質量%まで、油−PTFE分散液中に存在している、請求項3記載の長期安定な油−PTFE分散液。
【請求項5】
油で変性されたPTFEが、濃縮されて30質量%まで又は希釈されて3.0質量%まで、油−PTFE分散液中に存在している、請求項3記載の長期安定な油−PTFE分散液。
【請求項6】
希釈された油−PTFE分散液が、油−PTFE分散液の同じ油又は油混合物で希釈されて存在する、請求項3記載の長期安定な油−PTFE分散液。
【請求項7】
希釈された油−PTFE分散液が、使用される油又は油混合物とは異なるが、しかし油−PTFE分散液と混和性の油又は油混合物で希釈されて存在する、請求項3記載の長期安定な油−PTFE分散液。
【請求項8】
PTFE粒子(表面)と結合された油分子との間の永久的な電荷分離が、分散されたPTFE粒子が反撥されるオーダーを有する、請求項1記載の長期安定な油−PTFE分散液。
【請求項9】
永久的な電荷分離が、PTFE粒子表面と結合された油分子との間の少なくとも1オーダーの電荷差である、請求項1記載の長期安定な油−PTFE分散液。
【請求項10】
PTFE粒子が本質的には一次粒子として分散液中に存在する、請求項1記載の長期安定な油−PTFE分散液。
【請求項11】
長期安定な油−PTFE分散液の製造方法であって、
持続性のペルフルオロ(ペルオキシ)ラジカルを有する変性されたPTFE(エマルション)ポリマーを、少なくとも1つのオレフィン系不飽和油又は少なくともオレフィン系不飽和油含分を有する油混合物と一緒に、混合し、次に変性されたPTFE(エマルション)ポリマーを機械的応力にかけ、それにより、使用された変性されたPTFE(エマルション)ポリマーを解凝集させ、かつ微細分散させることを特徴とする、長期安定な油−PTFE分散液の製造方法。
【請求項12】
変性されたPTFE(エマルション)ポリマーとして、放射線化学的又はプラズマ化学的に処理されたPTFE(エマルション)ポリマー又は重合プロセスに由来するペルフルオロ(ペルオキシ)ラジカル中心を有するPTFE(エマルション)ポリマーを使用する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
PTFE(エマルション)ポリマーの放射線化学的な処理を酸素の影響下に実施する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
油又は油混合物として、オレフィン系不飽和油又は油含分から主に又は完全になるものを使用する、請求項11記載の方法。
【請求項15】
混合を分散装置中で実施する、請求項11記載の方法。
【請求項16】
機械的応力として剪断応力を適用する、請求項11記載の方法。
【請求項17】
機械的応力を、超音波処理により、Ultraturrax撹拌機により、歯車ディスク撹拌機により又は混合物のノズル噴霧により又は分散方法及び分散装置の組合せにより、適用する、請求項11記載の方法。
【請求項18】
分散助剤及び分散安定剤を添加する、請求項11記載の方法。

【公表番号】特表2011−509321(P2011−509321A)
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540093(P2010−540093)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067082
【国際公開番号】WO2009/080493
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(500525405)ライプニッツ−インスティチュート フュア ポリマーフォルシュング ドレスデン エーファウ (8)
【氏名又は名称原語表記】Leibniz−Institut fuer Polymerforschung Dresden e.V.
【住所又は居所原語表記】Hohe Strasse 6,D−01069 Dresden,Germany
【Fターム(参考)】