説明

閉鎖型貯血槽およびそれを用いた体外血液循環装置

【課題】隔壁によって血液の流路が閉塞されることが抑制された構造を有する閉鎖型貯血槽およびそれを用いた体外血液循環装置を提供する。
【解決手段】閉鎖型貯血槽は、内部に空間を形成する外殻1と、貯血室シェル11aと容量調節室シェル11bとの間に介在する隔壁と、貯血室と連通するように貯血室シェルに設けられた血液流入ポート4、血液流出ポート5および貯血室排気ポート9と、容量調節室と連通するように容量調節シェルに設けられた、容量調節液を容量調節室へ注入排出するための容量調節液ポート10とを備え、血液流入ポートおよび血液流出ポートは、血液流入ポートから貯血室内に流入する血液が貯血室シェルの内面に沿って旋回可能なようにそれぞれ貯血室シェルの内面の接線方向に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外血液循環を伴う血管系手術において一時的に血液を貯留するために用いる閉鎖型貯血槽、およびそれを用いた体外血液循環装置に関する。
【背景技術】
【0002】
体外血液循環を伴う心血管系手術では、良好な術視野を得て手術操作を簡便に行うことを目的として、一般に、体外血液循環回路中に一時的に体内の血液を貯留する貯血槽が用いられる。近年、低侵襲手術の認識が高まり、生体および血液への侵襲が少ない体外血液循環システムが求められている。
【0003】
貯血槽には一般に大別して、ハードシェル外郭を有する開放型貯血槽と、貯血室を囲う外郭の一部が柔軟な材料からなる閉鎖型貯血槽とがある。開放型貯血槽の特徴は、血液中に混入した気泡の除去機能が優れ、且つ、貯血容量を正確に把握できることである。その反面、開放型貯血槽では、血液が外気に接触するため、血液凝固などの血液への悪影響が懸念される。一方、閉鎖型貯血槽では、基本的に血液が外気に接触することがないので、血液へおよぶ悪影響が少ない。その反面、閉鎖型貯血槽には、貯血容量が把握し難く、気泡除去能が開放型貯血槽ほど良くないという欠点がある。
【0004】
この欠点を補う手段を有する閉鎖型貯血槽の一例が、特許文献1に開示されている。図23に示すように、特許文献1に記載の閉鎖型貯血槽では、ハウジング111内に、例えば、回転楕円体状の空間が形成されている。ハウジング111内には柔軟な材質からなる隔壁103が配置されており、上記空間が、この隔壁103により貯血室101と容量調節室102とに区画されている。ハウジング111の貯血室101を覆う部分には、貯血室1内に血液を導入するための血液流入ポート104と、貯血室101内に導入された血液を貯血室101外に排出させるための血液流出ポート105とが設けられている。ハウジング111の容量調節室102を覆う部分には、容量調節用の流体を注入排出するための容量調節液ポート108が設けられている。
【0005】
容量調節室102内には、容量調節液ポート108を通じて、ポンプあるいは落差圧等(図示せず)により、容量調節用の流体が注入排出される。ポンプを駆動し、容量調節室102に貯留される容量調節用の流体の量を変化させて、隔壁103を移動させることにより、容量調節室102の容量および貯血室101の容量を変化させることができる。容量調節室102の容量は、容量調節用流体の移動量を測定することにより把握できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
隔壁103は、柔軟なため、貯血室101および容量調節室102に流体を流し続けた場合、流れに押され自由に変形する。その際、図24に示すように、陰圧により流出ポート105が隔壁103により閉塞される場合がある。
【0008】
本発明は、隔壁によって血液の流路が閉塞されることが抑制された構造を有する閉鎖型貯血槽およびそれを用いた体外血液循環装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の閉鎖型貯血槽は、外方に凸となった曲面形状を有する貯血室シェルと容量調節室シェルが結合され、内部に空間を形成する外殻と、前記貯血室シェルと前記容量調節室シェルとの間に介在し、前記空間を、血液を貯留するための貯血室と容量調節液を貯留するための容量調節室とに区画する可撓性を有する隔壁と、前記貯血室と連通するように前記貯血室シェルに設けられた血液流入ポート、血液流出ポートおよび貯血室排気ポートと、前記容量調節室と連通するように前記容量調節室シェルに設けられた、前記容量調節液を前記容量調節室へ注入排出するための容量調節液ポートとを備え、前記血液流入ポートおよび前記血液流出ポートは、前記血液流入ポートから前記貯血室内に流入する血液が前記貯血室シェルの内面に沿って旋回可能なように、それぞれ前記貯血室シェルの内面の接線方向に設けられており、前記閉鎖型貯血槽は、前記貯血室シェルの内面が外方に窪むことによって形成され、前記血液流出ポートと連通し、少なくとも一部が前記血液流出ポートの延長方向に沿って形成された第1血液流路を、前記貯血室内に備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明の第1の体外血液循環装置は、上記本発明の閉鎖型貯血槽と、前記容量調節室に対して注入排出される前記容量調節液を貯液するための調節液槽と、前記容量調節液ポートと前記容量調節液槽とを接続し、流量を調節可能な管路部材と、前記血液流出ポートに接続された血液ポンプとを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の閉鎖型貯血槽は、外方に凸となった曲面形状を有する、貯血室シェルと容量調節室シェルが結合され、内部に空間を形成する外殻と、前記貯血室シェルと前記容量調節室シェルの間に介在し、前記空間を、血液を貯留するための貯血室と容量調節液を貯留するための容量調節室とに区画する可撓性を有する隔壁と、前記貯血室シェルに設けられた、血液流入ポート、血液流出ポートおよび貯血室排気ポートと、前記容量調節室シェルに設けられた、前記容量調節液を注入排出するための容量調節液ポートおよび容量調節室排気ポートとを備え、前記隔壁における、前記貯血室シェルの外周縁に沿った内側周辺部の一部領域が実質的に平坦な平坦部を形成し、前記平坦部の内側領域は前記貯血室シェル側または前記容量調節室シェル側に曲面状に突出可能に成形されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の第2の体外血液循環装置は、上記本発明の閉鎖型貯血槽と、前記容量調節室に対して注入排出される前記容量調節液を貯液するための調節液槽と、前記容量調節液ポートと前記容量調節液槽とを接続し、流量を調節可能な管路部材と、前記血液流出ポートに接続された血液ポンプとを備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明の第3の閉鎖型貯血槽は、外方に凸となった曲面形状を有する、貯血室シェルと容量調節室シェルが結合され、内部に空間を形成する外殻と、前記貯血室シェルと前記容量調節室シェルの間に介在し、前記空間を、血液を貯留するための貯血室と容量調節液を貯留するための容量調節室とに区画する可撓性を有する隔壁と、前記貯血室シェルに設けられた、血液流入ポート、血液流出ポートおよび貯血室排気ポートと、前記容量調節室シェルに設けられた、前記容量調節液を注入排出するための容量調節液ポートおよび容量調節室排気ポートとを備え、前記貯血室シェルの内面は回転円弧面の形状を有し、前記隔壁は、少なくともその中央部領域が前記貯血室シェル側または前記容量調節室シェル側に曲面状に突出可能に成形された成形部であり、前記成形部の成形形状における曲率が、前記貯血室シェル内面の曲率よりも小さいことを特徴とする。
【0014】
本発明の第3の体外血液循環装置は、上記本発明の閉鎖型貯血槽と、前記容量調節室に対して注入排出される前記容量調節液を貯液するための調節液槽と、前記容量調節液ポートと前記容量調節液槽とを接続し、流量を調節可能な管路部材と、前記血液流出ポートに
接続された血液ポンプとを備えたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態1の閉鎖型貯血槽の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示した閉鎖型貯血槽の他の斜視図である。
【図3A】図2におけるA−A線に沿った断面図である。
【図3B】図2におけるB−B線に沿った断面図である。
【図4A】閉鎖型貯血槽の動作を示す断面図である。
【図4B】閉鎖型貯血槽の動作を示す断面図である。
【図4C】閉鎖型貯血槽の動作を示す断面図である。
【図5】実施形態1の閉鎖型貯血槽の他の例を示す概念図である。
【図6】実施形態2の閉鎖型貯血槽の一例を示す斜視図である。
【図7】実施形態3の閉鎖型貯血槽の一例を示す断面図である。
【図8】実施形態4の体外血液循環装置の一例を示す模式図である。
【図9】実施形態4の体外血液循環装置の体外血液循環開始前の動作を示す模式図である。
【図10】実施形態4の体外血液循環装置の体外血液循環開始時の動作を示す模式図である。
【図11】実施形態4の体外血液循環装置の脱血開始および脱血中の動作を示す模式図である。
【図12A】実施形態4の体外血液循環装置の心臓の血液量を増大させる際の操作の一例を示す模式図である。
【図12B】実施形態4の体外血液循環装置の心臓の血液量を増大させる際の操作の他の例を示す模式図である。
【図13】実施形態4の体外血液循環装置を用いた体外血液循環を終了させる際の操作を示す模式図である。
【図14】実施形態4の体外血液循環装置の他の一例を示す模式図である。
【図15】実施例において用いた実験系の模式図である。
【図16】実施形態5の閉鎖型貯血槽の一例を示す斜視図である。
【図17】図16に示した閉鎖型貯血槽の断面図である。
【図18】図16に示した閉鎖型貯血槽を用いた体外血液循環装置の一例を示す斜視図である。
【図19】実施形態6の閉鎖型貯血槽の一例を示す斜視図である。
【図20】図19に示した閉鎖型貯血槽の断面図である。
【図21】図19に示した閉鎖型貯血槽を用いた体外血液循環装置の一例を示す斜視図である。
【図22】図19に示した体外血液循環装置のプライミング時における状態を示す断面図である。
【図23】従来の閉鎖型貯血槽の一例を示す断面図である。
【図24】従来の閉鎖型貯血槽の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記本発明の第1の閉鎖型貯血槽によれば、例えば、陰圧により隔壁が血液流出ポートに吸寄せられても、貯血室に面するハウジングの内面が外方に窪むことによって形成され、血液流出ポートと連通し、少なくとも一部が血液流出ポートの延長方向に沿って形成された第1血液流路の存在により、隔壁による血液流出ポートの閉塞が抑制される。その結果、本発明は、血液流路の閉塞が抑制された、閉鎖型貯血槽およびそれを用いた体外血液循環装置を提供できる。
【0017】
上記本発明の第1の閉鎖型貯血槽の好ましい一例では、閉鎖型貯血槽は、貯血室シェル
の内面が外方に窪むことによって形成され、血液流入ポートと連通し、少なくとも一部が血液流入ポートの延長方向に形成された第2血液流路を、前記貯血室内に備えている
【0018】
第1血液流路と第2血液流路とは互いに連絡されて、連続した1つの血液流路を成していてもよい。
【0019】
本発明の第1の閉鎖型貯血槽の好ましい一例では、血液流入ポートと血液流出ポートとが、同じ方向に開口し、互いの中心軸が平行となる関係で貯血室シェルに設けられている。
【0020】
本発明の第1の閉鎖型貯血槽の好ましい一例では、貯血室シェルの内面の、周方向に沿った前記第1血液流路と前記第2血液流路との間に位置する部分は、前記内面のうちの周縁部から中央部に向かって連続した曲面の一部を成している。
【0021】
本発明の第1の閉鎖型貯血槽の一例を用いて体外血液循環装置を提供することもできる。この体外血液循環装置は、本発明の閉鎖型貯血槽の一例を用いているので、血液流路の閉塞が抑制されている。
【0022】
本発明の第2の閉鎖型貯血槽では、隔壁の周辺部が平坦部を形成していることにより、貯血室シェルの周辺部において貯血室シェル内面と隔壁との間に、所定の大きさの隙間が確保されるので、血液流出ポートが隔壁によって閉塞されることが防止される。それにより、使用準備段階におけるプライミング液の充填作業に際して、貯血室の周辺部における残存気泡の除去を簡便に行うことができる。
【0023】
本発明の第3の閉鎖型貯血槽では、貯血室シェルと隔壁の間隔が、中央部で最大となり周辺部に近づくにつれて小さくなる寸法関係が得られる。それにより、貯血室シェル内面と隔壁との間に、所定の大きさの隙間が確保され、血液流出ポートが隔壁によって閉塞されることが防止される。また、貯血容量の変動に伴って隔壁が移動する際に、貯血室シェルと隔壁の近接が、周辺部から始まって中央部に向かって進行する状態が得られる。それにより、貯血室の周辺部における残存気泡の除去を簡便に行うことができる。この閉鎖型貯血槽の好ましい一例では、隔壁の周辺部において、貯血室シェルの外周縁に沿った内側の一部領域が実質的に平坦な平坦部を形成している。
【0024】
本発明の第4の閉鎖型貯血槽は、外方に凸となった貯血室シェルと容量調節室シェルが結合され、内部に空間を形成する外殻と、前記貯血室シェルと前記容量調節室シェルの間に介在し、前記空間を、血液を貯留するための貯血室と容量調節液を貯留するための容量調節室とに区画する可撓性を有する隔壁と、前記貯血室シェルに設けられた、血液流入ポート、血液流出ポートおよび貯血室排気ポートと、前記容量調節室シェルに設けられた、前記容量調節液を注入排出するための容量調節液ポートおよび容量調節室排気ポートとを備え、前記容量調節室シェルは、その中央部を頂点とする形状を有し、前記容量調節室シェルの中央部に前記容量調節液ポートが設けられるとともに、前記容量調節液ポートに隣接して前記容量調節室排気ポートが設けられている。
【0025】
本発明の第4の閉鎖型貯血槽では、容量調節室シェルの頂点である中央部に、容量調節液ポートに隣接して容量調節室排気ポートが設けられているので、プライミング時に姿勢を操作して、容量調節室排気ポートを容量調節室の最も高い位置に容易に保持することができる。それにより、プライミング時に、容量調節室内に残存する空気を容量調節室排気ポートの近傍に集めて迅速な排気を行い、プライミング作業を効率的に行うことが可能である。
【0026】
本発明の第4の閉鎖型貯血槽の好ましい一例では、容量調節室排気ポートが設けられることにより容量調節室シェルに形成された排気ポート開口部は、容量調節室シェルの内壁面から外方に向かって設けられた窪みの中に配置されている。
【0027】
本発明の第4の閉鎖型貯血槽の好ましい一例を用いて体外血液循環装置を提供することもできる。この体外血液循環装置は、例えば、本発明の第4の閉鎖型貯血槽の一例と、容量調節室に対して注入排出される前記容量調節液を貯液するための調節液槽と、容量調節液ポートと容量調節液槽とを接続し、流量を調節可能な管路部材と、血液流出ポートに接続された血液ポンプとを備えている。
【0028】
(実施形態1)
実施形態1では、本発明の第1の閉鎖型貯血槽(以下、単に「貯血槽」とも呼ぶ。)の一例について、図面を参照しながら説明する。図1および図2は、本実施形態の閉鎖型貯血槽の一例を示す斜視図である。
【0029】
図1および図2に示すように、本実施形態の閉鎖型貯血槽は、外方に凸となった曲面形状を有する貯血室シェル11aの第1結合部6aと、同じく外方に凸となった曲面形状を有する容量調節室シェル11bの第2結合部6bとが結合されてなる外殻1を備えている。外殻1内には、略回転楕円体状の空間が存在している。貯血室シェル11aには、血液流入用の血液流入ポート4と、血液流出用の血液流出ポート5と、貯血室排気ポート9が設けられている。これらは、後述する貯血室1に連通している。容量調節室シェル11bには、容量調節液を注入排出するための容量調節液ポート8と、容量調節室排気ポート10とが設けられている。これらは、後述する容量調節室2に連通している。
【0030】
図3Aは、図2におけるA−A線に沿った断面図である。図3Aに示すように、外殻11内の空間には、柔軟な材質からなる可撓性を有する隔壁3が設けられ、外殻11内は、貯血室1と容量調節室2とに分画されている。貯血室1は、血液を一時的に貯留するために用いられ、容量調節室2は、容量調節用の流体を貯留するために用いられる。貯血室1と容量調節室2は、隔壁3により互いに接触することなく隔てられている。
【0031】
図1および図2に示すように、閉鎖型貯血槽を貯血室側から平面視したときに見える外殻11の形状は略円形状である。血液流入ポート4および血液流出ポート5については、それぞれ貯血室1に面するハウジング11の内面(貯血室シェル11aの内面)の接線方向に沿って、貯血室シェル11aの外方に凸となった曲面形状部分の例えば周縁部に設けられている。そのため、血液流入ポート4から貯血室1内に流入した血液は、貯血室1内を旋回して、血液流出ポート5から排出される。血液流入ポート4から貯血室1内に流入した血液に混入した気泡は、流路断面積の急激な増大と、旋回流による遠心力の作用により、貯血室1の中央上部(頂部)に集まり血液から分離される。集った気泡は、気泡を排出するために設けられた貯血室排気ポート9から排出できる。このようにして、閉鎖型貯血槽により気泡が捕捉され、体外血液循環の安全性が確保される。また、プライミングを行う際においては、貯血室1内の気泡が効率的に除去されるので、体外血液循環の準備に必要な時間が短縮される。
【0032】
図1および図2に示すように、血液流入ポート4と血液流出ポート5は、同じ方向に開口し、互いの中心軸が平行となる関係で貯血室シェル11aに設けられていると好ましい。比較的長い血液の旋回距離を確保でき、また、血液流入ポート4および血液流出ポート5へのチューブ等の接続が行い易いからである。また、上記チューブ等が接続された状態の貯血槽の取り扱い性が良く、かつ貯血槽の製造も容易だからである。
【0033】
ここで、「旋回距離」は、血液流入ポート4の貯血室1側開口から、血液流出ポート5
の貯血室1側開口までの距離であって、貯血室1に面する外殻11の内面(貯血室シェル11aの内面)に沿った距離である。
【0034】
図3Bは、図2におけるB−B線に沿った断面図である。図2および図3Bに示すように、閉鎖型貯血槽は、貯血室シェル11aの内面が外方に窪むことによって形成された第1血液流路115を、貯血室1内に備えている。第1血液流路115は、血液流出ポート5と連通しており、その一部が血液流出ポート5の延長方向に沿って存在し、さらにハウジング11の内面に沿って存在しているので、第1血液流路115の少なくとも一部の長手方向は、血液流出ポート5の長手方向と一致している。そのため、陰圧により隔壁3が血液流出ポート5に吸寄せられても、第1血液流路115の存在により、隔壁3による血液流出ポート5の閉塞が抑制される。
【0035】
すなわち、隔壁3が血液流出ポート5側に吸い込まれた際に、図3Aに示すように、隔壁3は第1血液流路115の周囲の貯血室シェル11aの内面に支持される。従って、隔壁3が貯血室シェル11aの内面に近接した場合でも、第1血液流路115により血液流出ポート5の貯血室1側開口の周囲の空間が確保されて、血液の流路が確保される。その結果、体外血液循環流路の閉塞が抑制される。
【0036】
図2及び図3Bに示した例では、血液流出ポート5は、貯血室シェル11aの周縁部に設けられているので、第1血液流路115は、貯血室シェル11aの周縁部に沿って、貯血室1内に存在している。また、貯血室シェル11aの内面の外方に窪んだ部分と、血液流出ポート5の内周面とは、ほぼ段差無く繋がっている。
【0037】
図1〜図3Aに示すように、本実施形態の閉鎖型貯血槽は、貯血室シェル11aの内面が外方に窪むことによって形成された第2血液流路114を、貯血室1内に備えている。第2血液流路114は、血液流入ポート4と連通しており、一部が血液流入ポート4の延長方向に沿って存在し、さらに貯血室シェル11aの内面に沿って存在しているので、第2血液流路114の少なくとも一部の長手方向(血液の進行方向と同方向)は、血液流入ポート4の長手方向と同方向である。
【0038】
貯血室1が第2血液流路114を備えていなくても、血液流入ポート4から貯血室1内に流入する血液による陽圧によって、血液は貯血室1内へ流入できる。しかし、貯血室1が第2血液流路114を備えていると、貯血槽1内への血液の流入が円滑に行われ、血液の損傷や圧力損失等を抑制でき好ましい。
【0039】
図2に示すように、第1血液流路115と第2血液流路114は、繋がっていない。そして、貯血室シェル11aの内面のうちの周方向に沿った第1血液流路115と第2血液流路114との間に位置する部分Xは、貯血室シェル11aの内面のうちの周縁部から中央部に向かって連続した曲面Yの一部を成している。すなわち、上記部分Xは、外方に窪んでいない。このような形態では、気液分離がより良好に行え、安全性が高くなるので、好ましい。その理由は下記のとおりである。
【0040】
貯血室1内に流入する血液の流速が比較的遅い場合、血液に混入した気泡はその浮力により、貯血室1内の流速の遅い部分、すなわち貯血室1の中央上部(頂部)に移動しやすい。同様に、血液の流速に関係なく気泡の浮力による気液分離が充分に行えるほど貯血室1の直径が大きい場合も、血液に混入した気泡が上記中央上部に移動しやすい。そのため、このような場合は、貯血室1から気泡が送り出される危険性は低い。
【0041】
しかし、貯血室1内に流入する血液の流速が比較的速い場合は、気泡の浮力による気液分離が充分に行えず、貯血槽から気泡が送り出される危険性高くなる。貯血槽から送り出
された気泡が患者の体内に入ると、患者が空気栓塞症等になる危険性が高まり、体外血液循環の安全性が低下してしまう。貯血室1の直径が比較的小さい場合も同様の危険性を有する。
【0042】
しかし、図2に示す閉鎖型貯血槽のように、第1血液流路115と第2血液流路114とが、互いに繋がらないように形成され、第1血液流路115と第2血液流路114との間Xが、貯血室シェル11aの碗型形状をした部分(外方に凸となった曲面部分)の内面のうちの、周縁部から中央部に向かって連続した曲面Yの一部を成していると、上記Xが上記中央部と段差なく繋がっているので、流速が比較的遅い貯血室の中央上部側に気泡が移行し易くなる。この気泡の移行に伴い、気泡の浮力による気液分離がより良好に行われる。また、気液分離がより良好に行われるので、貯血槽から気泡が流出し難くなり、貯血槽の安全性が高くなる。
【0043】
第1血液流路115の流路長(ハウジングの内面のうちの外方に窪んだ部分)について、特に制限はないが、旋回距離の1/8〜1/3であると好ましい。旋回距離のうちの、貯血室シェル11aの内面の外方に窪んだ部分が占める距離が短い方が気液分離の観点からは好ましいが、第1血液流路115の流路長が短すぎると、流路閉塞防止効果が十分に得られなくなるからである。
【0044】
貯血槽の外殻11を形成する材質は、硬質でも、軟質でもよいが、形状保持性と透明性等を考慮すると、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートまたはアクリル樹脂等からなり、破損し難いハードシェルが好ましい。
【0045】
隔壁3の材質は、柔軟かつ耐圧性を有しており、加工性に優れた材質が好ましく、PVC、ポリオレフィン、またはポリテトラフルオロエチレン等が好ましい。
【0046】
図4Aに示すように、容量調節用の流体を注入排出するための容量調節液ポート8は、ポンプ6を介して調節液槽7と接続される。ポンプ6により、容量調節室2と調節液槽7の間で容量調節用の流体が送入排出される。ポンプ6を駆動し、容量調節室2に貯留される容量調節用の流体の量を変化させて隔壁3を移動させることにより、容量調節室2の容量が可変であり、従って、貯血室1の容量が可変である。貯血を開始する前の容量調節室2の容量を把握しておけば、その量の変化分が貯血室1の容量の変化分として把握でき、体外に貯留された血液量を把握できる。容量調節室2の容量の変化は、調節液槽7に収容された容量調節用の流体の量の変化を測定することにより知ることができる。
【0047】
次に、閉鎖型貯血槽の動作について、図4Bおよび図4Cを参照して説明する。なお、理解し易いように、図4Bおよび図4Cでは、閉鎖型貯血槽20を断面で示している。そのため、図示の都合上、血液流入ポート4および血液流出ポート5は仮想線で描いている。この貯血槽を使用する際には、まず、図4Bに示すように、ポンプ6などを用いて、調節液槽7から容量調節室2に生理食塩水等の調節液を充填する。調節液の充填は、貯血室1に面する外殻11(貯血室シェル)の内面に隔壁3がほぼ当接するまで行う。次に、貯血室1を含む体外血液循環回路側に必要最小量のプライミング液を充填する。
【0048】
体外血液循環を開始すると、体内より脱血された血液は、血液流入ポート4を介して貯血室1に導入され、血液流出ポート5を通って貯血室1より排出される。この際、ポンプ6により、容量調節室2の生理食塩水を調節液槽7側に排出すると、隔壁3が容量調節室2より排出された生理食塩水量に応じて容量調節室2側に移動し、貯血室1の容量が増加する。すなわち、ポンプ6により調節液槽7に移送された生理食塩水量に相当する量の血液が、貯血室1に変化分として貯留されたことになる。その量は、調節液槽7により正確に把握可能である。
【0049】
逆に、ポンプ6により調節液槽7から生理食塩水を容量調節室2に送り込むと、その量に応じて隔壁3が貯血室1側に移動し、貯血室1の容量が減少する。その結果、貯血室1に貯留された血液は、貯血室1より排出され、結果的に体内に戻される。その量は、調節液槽7により正確に把握できる。
【0050】
以上のように、貯血室1の容量を容易に変更でき、しかも変更された貯血室1の容量、すなわち貯血容量を容易に把握できる。従って、体外血液循環において、適切な容量の貯血槽を患者の条件に応じてその都度選択する必要はなく、ある程度の容量のものを準備することにより、小容量から大容量まで対応できる。さらに、体外血液循環の状態に応じて貯血量を随時増減可能であり、必要最小限の容量を状況に応じて選択可能であるので、患者の体外循環血液量を減少させることができる。
【0051】
一方、隔壁3は可撓性を有するため、貯血室1および容量調節室2に流体を流し続けた際、流れに押され自由に変形し、特に貯血室1の貯血量が少ない場合、図4Cに示すように、隔壁3が血液流出ポート5側に吸い込まれることがある。しかし、本実施形態の構成によれば、陰圧により隔壁3が血液流出ポート5に吸寄せられても、貯血室シェル11aの内面が外方に窪むことによって形成され、血液流出ポート5と連通し、少なくとも一部が血液流出ポート5の延長方向に形成された第1血液流路115の存在により、隔壁3による血液流出ポート5の閉塞が抑制され、血液の流路が確保される。
【0052】
第1血液流路115の形状については、図示されたものに限定されず、貯血室シェル11aの形状、寸法、隔壁3の材質、配置等に応じて、適宜設定できる。要するに、第1血液流路115は、外方へ窪んだ空間として血液流出ポート5と連通し、少なくともその一部が血液流出ポート5の延長方向に存在していればよい。そして、ポンプ6の駆動条件等の範囲内で血液流出ポート5および第1血液流路115が閉塞されないように、例えば、溝状に形成された第1血液流路115の周囲の貯血室シェル11a内面により、隔壁3が支持可能であればよい。
【0053】
血液流入ポート4と血液流出ポート5は、血液流入ポート4から貯血室1内に流入する血液が貯血室1内を旋回可能であれば、例えば、図5に示すように、血液流入ポート4の中心軸と血液流出ポート5の中心軸とが同一線上にある位置関係で、血液流入ポート4と血液流出ポート5とが設けられていてもよい。
【0054】
図1〜図5を用いて説明した例では、外殻内には略回転楕円体状の空間が存在しているが、上記空間は略球状であってもよい。また、図1〜図5を用いて説明した例では、第1血液流路115および第2血液流路114がともに、その一部が血液流出ポート5、血液流入ポート4の延長方向に沿って存在し、第1血液流路115および第2血液流路114は、さらに貯血室シェル11aの内面に沿って存在しているが、本実施形態の閉鎖型貯血槽はこのような形態に限定されない。第1血液流路115および第2血液流路114の少なくとも一方について、その全長が、血液流出ポート5、血液流入ポートの延長方向に沿って形成されていていてもよい。すなわち、第1血液流路115または第2血液流路114は、それぞれ図1〜図5を用いて説明した例よりも、その長手方向の長さが短くてもよい。
【0055】
(実施形態2)
実施形態2では、本発明の第1の閉鎖型貯血槽の他の例について、図面を参照しながら説明する。図6は、本実施の形態における閉鎖型貯血槽を示す斜視図である。
【0056】
本実施形態の閉鎖型貯血槽では、第1血液流路115と第2血液流路114とが互いに
連結されて、連続した1つの血液流路を成している。以上のこと以外は実施形態1の閉鎖型貯血槽と同様であり、本実施形態の閉鎖型貯血槽は、実施形態1の閉鎖型貯血槽と同じ構成により同じ効果を奏する。
【0057】
貯血室1内に流入する血液の流速を比較的遅くすれば、本実施形態の閉鎖型貯血槽を用いても、貯血槽から気泡が送り出されることなく、体外血液循環を安全に行える。血液の流速に関係なく気泡の浮力による気液分離が充分に行えるほど貯血室の直径が大きく設定される場合も、同様に、体外血液循環を安全に行える。
【0058】
(実施形態3)
実施形態3では、本発明の第1の閉鎖型貯血槽のさらに別の例について、図面を参照しながら説明する。図7は、本実施形態における閉鎖型貯血槽を示す断面図である。
【0059】
図7に示すように、本実施形態の閉鎖型貯血槽は、容量調節室2に面する容量調節室シェル11bの内面が外方へ窪むことによって形成された閉塞防止流路13を容量調節室2内に備えており、閉塞防止流路13と連通するように容量調節液ポート8および容量調節室排気ポート10がハウジング11に設けられている。閉塞防止流路13は、例えば、一定幅の筋状の形状をしている。以上のこと以外は、実施形態1の閉鎖型貯血槽と同様であり、本実施形態の閉鎖型貯血槽は、実施形態1の閉鎖型貯血槽と同じ構成により同じ効果を奏する。
【0060】
本実施形態の閉鎖型貯血槽は、容量調節室2内に閉塞防止流路13を備えているので、隔壁3が容量調節室2を形成するハウジング内面の一部に当接した状態においても、隔壁3により容量調節液ポート8が閉塞されるおそれが軽減される。当接した隔壁3は閉塞防止流路13の周囲の容量調節室シェル11bの内面により支持されるので、閉塞防止流路13の存在により容量調節液ポート8の容量調節室2側開口の周囲の空間が確保されて、調節液の流路が確保される。
【0061】
(実施形態4)
実施形態4では、実施形態1〜3で説明した閉鎖型貯血槽を用いて構成された、本発明の第1の体外血液循環装置の一例について説明する。
【0062】
図8に、本実施形態の体外血液循環装置の一例を示している。なお、理解し易いように、図8では、閉鎖型貯血槽20は断面で示している。そのため、図示の都合上、血液流入ポート4および血液流出ポート5は仮想線で描いている。
【0063】
図8に示すように、本実施形態の体外血液循環装置の一例は、本発明の閉鎖型貯血槽20と、調節液槽21と、遠心ポンプ等の血液ポンプ22とを備える。調節液槽21は、管路部材である柔軟な調節液路チューブ23を介して、閉鎖型貯血槽20の容量調節液ポート8に接続される。血液ポンプ22の吸入口は、閉鎖型貯血槽20の血液流出ポート5に接続される。調節液槽21は支持具24に支持され、閉鎖型貯血槽20に対する相対高さを調節可能である。閉鎖型貯血槽20の血液流入ポート4には、生体の脱血部位に接続される柔軟な脱血側チューブ25が接続され、矢印Zで示されるように血液が流入する。血液ポンプ22の吐出口には、返血部位に接続される柔軟な返血側チューブ26が接続され、矢印Wで示されるように血液が流出する。
【0064】
調節液槽21は、閉鎖型貯血槽20の容量調節室2に対して注入排出される容量調節液を貯留する機能を有する。調節液路チューブ23は、その流路断面積が可変であるように構成される。例えば、調節液路チューブ23を、可撓性を有するチューブにより構成すれば、鉗子でチューブを狭窄することにより、流路を閉塞したり、開放したり、一部閉塞し
たりして、流路断面積を変化させることができる。調節液路チューブ23は、その流路中に、コックのような、流路断面積を変化させるための流路調節部材を備え、流路調節部材により流路断面積を変化させてもよい。
【0065】
また、調節液槽21は、貯留されている調節液の量を計測するための計測部、例えば目盛りを有する。
【0066】
支持具24による調節液槽21の支持位置を変化させて、生体の脱血部位に対する調節液槽21の高さ、すなわち容量調節液の落差を調節することにより、容量調節室2に貯留された容量調節液の量を増減させることができる。これにより隔壁3を移動させて、貯血室1の容量を調節する。貯血を開始する前の容量調節室2の容量を測定しておけば、その容量の変化分から貯血室1の容量の変化分を知ることができる。容量調節室2の容量の変化は、調節液槽21に収容された容量調節液の量の変化により測定できる。
【0067】
この体外血液循環装置による体外血液循環方法について、図9〜図14を参照して説明する。なお、理解し易いように、図9〜図14では閉鎖型貯血槽20は断面で示す。そのため、図示の都合上、血液流入ポート4および血液流出ポート5は仮想線で描いている。また、体外血液循環を行う際には、人工肺、血液フィルター等、他の装置も循環経路に接続されるが、図示を省略する。
【0068】
最初に、体外血液循環開始前の操作および動作、すなわち体外血液循環開始前のプライミングの操作および動作について、図9を参照して説明する。この閉鎖型貯血槽20を使用する際には、容量調節室2、チューブ23および調節液槽21を含む系に、例えば生理食塩水を調節液として適当量充填して、貯血室1の貯血容量をプライミングに適した大きさとする。具体的には、調節液槽21を、高い位置に上げて容量調節液を容量調節室2に十分に充填し、隔壁3を、貯血室1に面する外殻の内面に近づけ、貯血室1の容量を、最小限の流路、すなわち、後のプライミングに必要な流路断面積が確保されるように調節する。この状態で、調節液路チューブ23を、鉗子27により閉塞する。このようにして形成された最小限容量で機能する貯血室3を含む体外血液循環系に、プライミング液を充填する。プライミングは、血液ポンプの駆動により行う。
【0069】
次に、体外血液循環開始時の操作および動作について、図10を参照して説明する。プライミングの終了後、調節液槽21を、閉鎖型貯血槽20に対して図9の場合よりも低い位置に下げる。この状態を保持しながら、血液ポンプ22の運転を開始すると、脱血動作が開始され、体外血液循環が開始される。
【0070】
次に、脱血開始および脱血中の操作および動作について、図11を参照して説明する。図10に示した状態から鉗子27を外すと、生体の脱血部位と調節液槽21の落差圧によって、容量調節室2から調節液槽21への調節液の移動が可能になる。その結果、生体より脱血され貯血室1に流入する血液により隔壁3が容量調節室2側に移動し、貯血室1の容量が増大する。体外血液循環中は、体外血液循環系の内圧に応じて隔壁3の位置が変動して、貯血室1の容量が自動的に調節される。容量調節室2の高さは、体外血液循環系での血液の推定圧力、および貯血室1の容量目標値に応じて設定されるが、体外血液循環中に高さを適宜調節してもよい。
【0071】
次に、生体の心臓の血液量を増大させるための調節操作について、図12A及び12Bを参照して説明する。図12A及び12Bはそれぞれ、異なる調節操作の説明に用いる。生体の脱血部位で脱血チューブの吸付きが生じた場合、下記の調節操作により心臓の血液量を増大させれば、脱血チューブの吸付きを解消できる。
【0072】
一つ目の調節操作では、まず、鉗子27が用いられていない状態で、調節液槽21の位置を高くして調節液を容量調節室2に送り込む。送り込まれた調節液の量に応じて隔壁3が貯血室1側に移動し、貯血室1の容量が減少する。その結果、貯血室1に貯留された血液は貯血槽20から排出され、体内に戻されて、心臓の血液量が増大する。貯血室1が適当な容量に設定されたときに、鉗子27により調節液路チューブ23を閉塞してその状態を保持する(図12A参照)。
【0073】
二つ目の調節操作では、まず、脱血側チューブ25の一部を鉗子28で狭窄する。これにより、貯血室1の圧力が低下して、調節液槽21から調節液が容量調節室2に送り込まれる。容量調節室2に送り込まれた調節液の量に応じて隔壁3が貯血室1側に移動し、貯血室1の容量が減少する。その結果、貯血室1に貯留された血液は貯血槽20から排出され、体内に戻されて、心臓の血液量が増大する。貯血室1が適当な容量に設定されたときに、鉗子により調節液路チューブ23を閉塞してその状態を保持する(図12B参照)。
【0074】
最後に、体外血液循環の状態から離脱する際の操作および動作について、図13を参照して説明する。まず、調節液槽21の位置を高くし、血液ポンプ22による吸引流量を減少させる。これにより、調節液が調節液槽21から容量調節室2に移動し、隔壁3が貯血室1側に移動して、貯血室1の容量が減少する。この状態で、鉗子27により調節液路チューブ23を閉塞した後、体外血液循環を終了させる。
【0075】
図14は、上記構成の体外血液循環装置に対して、更に要素が付加された体外血液循環装置を示す斜視図である。
【0076】
第1の付加要素は、調節液路チューブ23に設けられた微調節ポート29である。微調節ポート29を介して注射器30により調節液の注入および排出を行うことができ、これにより、容量調節室2に対する調節液の充填量を微調節できる。
【0077】
第2の付加要素は、補助貯血槽31とポンプ32からなる補助循環系である。補助貯血槽31は簡略化して図示されているが、一般的な開放型の貯血槽である。補助貯血槽31には、生体の脱血部位以外から出血した血液を回収するため補助系チューブ33が接続されている。補助貯血槽31は、ポンプ32を介して閉鎖型貯血槽20の血液流入ポート4に接続され、補助貯血槽31に貯まった血液が閉鎖型貯血槽20に供給される。
【0078】
上記実施形態の体外血液循環装置は、調節液槽21の高さを変化させて、落差の変化により調節液の流出入を行うよう構成されているが、本実施形態の体外血液循環装置は、調節液槽21から容量調節室2への調節液の流出入をポンプによって行うよう構成されていてもよい。
【0079】
容量調節室2は隔壁3により貯血室1と隔離されているので、血液が汚染されることはない。したがって、容量調節室2に充填される調節液は、あえて滅菌されたものを使用する必要はないが、万が一隔壁3が破損したときを考慮すると、生理食塩水など滅菌された等張液を使用することが望ましい。
【0080】
(実施形態5)
実施形態5では、本発明の第2の閉鎖型貯血槽の一例および本発明の第3の閉鎖型貯血槽の一例、およびこれらを用いた、本発明の第2、第3の体外血液循環装置の一例について説明する。
【0081】
図16は、本実施形態の閉鎖型貯血槽の一例の斜視図であり、図17は、その正面の断面図である。図16および図17に示した、本実施形態の閉鎖型貯血槽では、血液流入ポ
ート44および血液流出ポート45の配置位置が、本実施形態1の閉鎖型貯血槽のそれらとは逆になっている。
【0082】
図16に示すように、この貯血槽は、外方に凸となった曲面形状を有する貯血室シェル41aと、外方に凸となった曲面形状を有する容量調節室シェル41bとが、結合部47において結合された外殻により、ハウジングが形成されている。貯血室シェル41aには、血液流入ポート44、血液流出ポート45、および貯血室排気ポート49が設けられている。容量調節室シェル41bには、容量調節液ポート48、および容量調節室排気ポート410が設けられている。
【0083】
図17に示すように、貯血室シェル41aと容量調節室シェル41bは、接合面46において密着されて、内部に空間を形成している。貯血室シェル41aと容量調節室シェル41bの間に、可撓性を有する隔壁43が介在して、内部の空間を、血液を一時的に貯留するための貯血室41と容量調節液を貯留するための容量調節室42とに区画している。血液流入ポート44、および血液流出ポート45は、貯血室41に対して血液を流入させ、または流出させるために用いられる。貯血室排気ポート49は、貯血室41に流入した血液に混入していた気泡を排出するために設けられている。容量調節液ポート48は、容量調節室42に容量調節液を注入排出するために用いられる。
【0084】
隔壁43は、図17に示す形状を有し、周辺部の平坦部43aと、その内側の曲面部43bとを備えている。平坦部43aは、貯血室シェル41aの外周縁に沿った内側の一部領域が実質的に平坦な形状となった部分である。環状の平坦部43aの外側に設けられた環状の保持部材413が、貯血室シェル41aと容量調節室シェル41bの間に挟まれることにより、隔壁43が外殻411に保持されている。貯血室シェル41aを構成する第1結合部47aと容量調節室シェル41bを構成する第2結合部47bとが結合されて空隙414が形成されており、この空隙414に、例えば隔壁43と一体成形されるか、あるいは、隔壁43に固定された保持部材413が係止される構造が形成されている。
【0085】
貯血室シェル41aの内面は、回転円弧面の形状を有する。隔壁43の曲面部43bは、図17では貯血室シェル41a側に膨らんだ形状に示されているが、貯血室シェル41a側または容量調節室シェル41b側に曲面状に突出可能なように成形されている。隔壁43の曲面部43bの成形形状における曲率は、貯血室シェル41aの内面の曲率よりも小さい。図17は、隔壁43が実質的な変形を生じることなく、成形形状を保持している状態の隔壁43の形状を示す。実際には、隔壁43はその可撓性のために、それ自身では図示する形状を保持できない場合もある。従って、成形形状が保持された状態において曲面部43bの曲率を定義する。
【0086】
この貯血槽は、例えば図18に示すようにして使用される。図18には、以上のような構造を有する閉鎖型貯血槽を用いて構成された、体外血液循環装置の構成を示している。この体外血液循環装置は、上記構成の閉鎖型貯血槽40と、容量調節液槽421と、遠心ポンプ等からなる血液ポンプ422とを備える。閉鎖型貯血槽40は、貯血室シェル41aが上側、容量調節室シェル41bが下側に配置される。
【0087】
容量調節液槽421は、管路部材である柔軟な調節液路チューブ423により、閉鎖型貯血槽40の容量調節液ポート48に接続される。容量調節室排気ポート410には排気チューブ427が接続され、鉗子428で狭窄することにより閉塞されている。血液ポンプ422の吸入口は、閉鎖型貯血槽40の血液流出ポート45に接続される。容量調節液槽421は支持具424に支持され、閉鎖型貯血槽40に対する相対高さを調節可能である。閉鎖型貯血槽40の血液流入ポート44には、生体の脱血部位に接続される柔軟な脱血側チューブ425が接続され、矢印Zで示されるように血液が流入する。血液ポンプ4
22の吐出口には、返血部位に接続される柔軟な返血側チューブ426が接続され、矢印Wで示されるように血液が流出する。
【0088】
容量調節液槽421は、閉鎖型貯血槽40の容量調節室42(図17参照)に対して注入排出される容量調節液を貯留する機能を有する。調節液路チューブ423は、例えば、可撓性を有するチューブにより構成され、鉗子でチューブを狭窄することにより、流路を閉塞したり、開放したり、一部閉塞したりして、流路断面積を変化させることが可能である。あるいは、調節液路チューブ423が、その流路中に、コックのような、流路断面積を変化させるための流路調節部材を有する構造としてもよい。
【0089】
また、容量調節液槽421は、貯留されている容量調節液の量を計測するための計測部、例えば目盛りを有する。
【0090】
支持具424による容量調節液槽421の支持位置を変化させて、生体の脱血部位に対する容量調節液槽421の高さ、すなわち容量調節液の落差を調節することにより、容量調節室42に貯留された容量調節液の量を増減させることができる。それにより隔壁43を移動させて、貯血室41の容量を調節する。貯血を開始する前の容量調節室42の容積を測定しておけば、その容積の変化分から貯血室41の容量の変化分を知ることができる。容量調節室42の容積の変化は、容量調節液槽421に収容された容量調節液の量の変化により測定することができる。
【0091】
本実施の形態の貯血槽は、図16、図17を参照して説明したような構造を有し、図18に示したような体外血液循環装置に用いられる。その際、隔壁43がその周辺部に平坦部43aを有することにより、隔壁43の曲面部43bは、貯血室シェル41aの内面から、例えば、平坦部43aの寸法だけ内方に隔たった位置から立ち上がることになる。それにより、隔壁43の周縁部において、貯血室シェル41aの内面との間に、所定の寸法、形状を有する空間が確保される。すなわち、容量調節液が通常の使用状態の圧力で容量調節室42に注入される限り、隔壁43が貯血室41a側に最大に膨らんだ状態で、図17に示す成形形状が保持される。従って、最小でも図17に示すような空間が貯血室41として確保される。それにより、血液流出ポート45が隔壁43によって閉塞される状態が回避され、実施形態1の貯血槽における、第1血液流路114が貯血室内に設けられていなくても、血液流出ポート45が貯血室41内に開口した状態を、常に維持することができる。そのため、使用準備段階におけるプライミング液の充填作業を簡便に行うことが妨げられ、貯血室42に循環血液の一部が滞留して血液中の血栓形成の原因となるなどの恐れが低減される。さらに、体外循環終了時においては、貯血槽内部からの血液の回収を効率的に行うことができる。
【0092】
さらに、保持部材413を貯血室シェル41aと容量調節室シェル41bの間に保持することにより、隔壁43を容易に固定できる効果も得られる。また、貯血室シェル41aと容量調節室シェル41bを結合させる際に隔壁43を位置決めするためには、貯血室シェル41と容量調節室シェル41bに対して保持部材413を位置決めすればよい。また、隔壁43が平坦部43aを備えているので、位置決め精度の余裕が大きく組立て工程が容易である。
【0093】
また、本発明の第3の貯血層の一例では、隔壁43の曲面部43bが上述のように、貯血室シェル41a内面の曲率よりも小さい曲率を有していると好ましい。この場合、図17に示すように、貯血室シェル41aの内面と隔壁43との間に、所定の寸法、形状を有する空間が確保され、上述の効果をいっそう確実にすることができる。この場合、貯血室シェル41aと隔壁43の間隔が、中央部で最大となり周辺部に近づくにつれて小さくなる寸法関係が得られるので、貯血容量の変動に伴って隔壁が移動する際に、貯血室シェル
41aと隔壁43との近接が、周辺部から始まって中央部に向かって進行する状態が得られる。
【0094】
なお、隔壁43が平坦部43aを備えていなくても、隔壁43の曲面部43bが貯血室シェル41a内面の曲率よりも小さい曲率を有していれば、血液流出ポート45が隔壁43によって閉塞される状態が回避される。
【0095】
以上の特徴により、使用準備段階におけるプライミング液の充填作業に際して、貯血室の周辺部における残存気泡の除去を簡便に行うことが可能となる。
【0096】
この閉鎖型貯血槽を用いた体外血液循環装置の操作について、図17および図18を参照して、以下に説明する。この貯血槽を使用する際には、まずプライミングを行う。その際には図18の図示と異なり、閉鎖型貯血槽40を、容量調節室シェル41bが上側、貯血室シェル41aが下側になるように配置する。そして、容量調節液槽421から容量調節室42に容量調節液(例えば生理食塩水)を注入する。生理食塩水の注入は、貯血室シェル41aの内面に向かって隔壁43が最大に膨らむまで行う。次に、貯血室41を含む体外循環回路側にプライミング液を充填する。
【0097】
プライミングの完了後、閉鎖型貯血槽40の配置を上下逆転させて、図18に示す状態にする。そして、体外循環を開始すると、体内より脱血された血液は、血液流入ポート44を介して貯血室41に導入され、血液流出ポート45を通って貯血室41より排出される。このとき、容量調節液槽421の高さを操作して、容量調節室42の生理食塩水を容量調節液槽421に排出すると、隔壁43が容量調節室42より排出された生理食塩水量に応じて移動し、貯血室41の容積が増加する。すなわち、容量調節液槽421に移送された生理食塩水量に相当する量の血液が、貯血室41に貯留されることになる。その量は、容量調節液槽421により正確に把握可能である。
【0098】
逆に、容量調節液槽421の位置を高くして生理食塩水を容量調節室42に送り込むと、その量に応じて隔壁43が貯血室41側に移動し、貯血室41の容積が減少する。その結果、貯血室41に貯留された血液は、貯血槽より排出され、結果的に体内に戻される。その量は、容量調節液槽421により正確に把握可能である。
【0099】
以上のように、貯血室41の容積を容易に変更可能であり、しかも変更された貯血室41の容量、すなわち貯血容量を容易に把握することが可能である。従って、体外循環において、適切な容量の貯血槽を患者の条件に応じてその都度選択する必要はなく、ある程度の容量のものを準備することにより、小容量から大容量まで対応可能である。
【0100】
容量調節室42は隔壁43により貯血室41と隔離されているので、血液が汚染されることはない。したがって、容量調節室12に充填される流体は、あえて滅菌されたものを使用する必要はないが、万が一隔壁43が破損したときを考慮すると、生理食塩水など滅菌された等張液を使用することが望ましい。
【0101】
貯血室シェル41aおよび容量調節室シェル41bを形成する材質は、実施形態1の貯血槽におけるそれと同様でよい。隔壁43の材質についても、実施形態1の貯血槽におけるそれと同様でよい。
【0102】
(実施形態6)
実施形態6では、本発明の第4の閉鎖型貯血槽の一例、および、本発明の第4の体外血液循環装置の一例について説明する。
【0103】
図19は、本実施の形態における閉鎖型貯血槽を示す斜視図であり、図20はその正面の断面図である。
【0104】
図19に示すように、この貯血槽は、外方に凸となった曲面形状を有する貯血室シェル51aと、同じく外方に凸となった曲面形状を有する容量調節室シェル51bとが、結合部57において結合された外殻511により、ハウジングが形成されている。貯血室シェル51aには、血液流入ポート54、血液流出ポート55、および貯血室排気ポート59が設けられている。容量調節室シェル51bには、容量調節液ポート58、および容量調節室排気ポート510が設けられている。
【0105】
図20に示すように、貯血室シェル51aと容量調節室シェル51bは、接合面56において密着されて、内部に空間を形成している。貯血室シェル51aと容量調節室シェル51bの間に、可撓性を有する隔壁53が介在して、内部の空間を、血液を一時的に貯留するための貯血室51と容量調節液を貯留するための容量調節室52とに区画している。血液流入ポート54、および血液流出ポート55は、貯血室51に対して血液を流入させ、または流出させるために用いられる。貯血室排気ポート59は、貯血室51に流入した血液に混入している気泡を排出するために設けられている。容量調節液ポート58は、容量調節室52に容量調節液を注入排出するために用いられる。容量調節室排気ポート510は、プライミング時に容量調節室52内の残存空気を排気するために設けられている。
【0106】
隔壁53は、図20に示すように、周辺部の平坦部53aと、その内側の曲面部53bとを含む。平坦部10aは、貯血室シェル51aの外周縁に沿った内側の一部領域が実質的に平坦な形状となった部分である。平坦部53aの外側に設けられた保持部材513が、貯血室シェル51aと容量調節室シェル51bの間に挟まれることにより、隔壁53が外殻511に保持されている。すなわち、例えば平坦部53aと一体成形されてるか、あるいは平坦部53aに固定された保持部材513が、結合部57内の空間514に保持されることにより、隔壁53が外殻に固定されている。空隙514は、貯血室シェル51aを構成する第1結合部57aと容量調節室シェル51bを構成する第2結合部57bとが結合されて形成されており、この空隙414に、保持部材513が係止される構造が形成されている。
【0107】
貯血室シェル51aの内面は、回転円弧面の形状を有する。隔壁53の曲面部53bは、貯血室シェル51a側に膨らんだ形状に成形されており、その成形形状の曲率は、貯血室シェル51aの内面の曲率よりも小さい。図20は、隔壁53が実質的な変形を生じることなく、成形形状を保持している状態で隔壁53の形状を示す。隔壁53が実質的な変形を生じることなく、成形形状を保持している状態の隔壁53の形状を示す。実際には、隔壁53はその可撓性のために、それ自身では図示する形状を保持できない場合もある。従って、成形形状が保持された状態において曲面部53bの曲率を定義する。
【0108】
図20に示すように、容量調節室シェル51bは、その中央部を頂点とする形状を有する。容量調節室シェル51bの中央部に容量調節液ポート58が設けられ、容量調節液ポート58に隣接して容量調節室排気ポート510が設けられている。容量調節液ポート58の先端は、容量調節室排気ポート510の先端よりも、容量調節室シェル51bの外壁面から遠くに位置するように形成されている。容量調節室排気ポート510が設けられることにより容量調節室シェル51bに形成された排気ポート開口部510aは、容量調節室シェル51bの内壁面から外方に向かって設けられた窪みの中に配置されている。なお、図示しないが、容量調節室排気ポート510にはチューブが連結されて、そこに、エアーフィルタが配置された構成とすれば、無菌維持のために好ましい。
【0109】
この貯血槽は、例えば図21に示すようにして使用される。図21は、以上のような構
造を有する閉鎖型貯血槽を用いて構成された、体外血液循環装置の構成を示す。この体外血液循環装置は、上記構成の閉鎖型貯血槽50と、容量調節液槽521と、遠心ポンプ等からなる血液ポンプ522とを備える。図21は体外血液循環時の状態を示し、閉鎖型貯血槽520は、貯血室シェル51aが上側、容量調節室シェル51bが下側に配置される。
【0110】
容量調節液槽521は、管路部材である柔軟な調節液路チューブ523により、閉鎖型貯血槽50の容量調節液ポート58に接続される。容量調節室排気ポート510には排気チューブ527が接続され、鉗子528で狭窄することにより閉塞されている。血液ポンプ522の吸入口は、閉鎖型貯血槽50の血液流出ポート55に接続される。容量調節液槽521は支持具524に支持され、閉鎖型貯血槽50に対する相対高さを調節可能である。閉鎖型貯血槽50の血液流入ポート54には、生体の脱血部位に接続される柔軟な脱血側チューブ525が接続され、矢印Zで示されるように血液が流入する。血液ポンプ522の吐出口には、返血部位に接続される柔軟な返血側チューブ526が接続され、矢印Wで示されるように血液が流出する。
【0111】
容量調節液槽521は、閉鎖型貯血槽50の容量調節室52(図20参照)に対して注入排出される容量調節液を貯留する機能を有する。調節液路チューブ523は、例えば、可撓性を有するチューブにより構成され、鉗子でチューブを狭窄することにより、流路を閉塞したり、開放したり、一部閉塞したりして、流路断面積を変化させることが可能である。あるいは、調節液路チューブ523が、その流路中に、コックのような、流路断面積を変化させるための流路調節部材を有する構造としてもよい。
【0112】
また、容量調節液槽521は、貯留されている容量調節液の量を計測するための計測部、例えば目盛りを有する。
【0113】
支持具524による容量調節液槽521の支持位置を変化させて、生体の脱血部位に対する容量調節液槽521の高さ、すなわち容量調節液の落差を調節することにより、容量調節室52に貯留された容量調節液の量を増減させることができる。それにより隔壁53を移動させて、貯血室51の容量を調節する。貯血を開始する前の容量調節室52の容積を測定しておけば、その容積の変化分から貯血室51の容量の変化分を知ることができる。容量調節室52の容積の変化は、容量調節液槽521に収容された容量調節液の量の変化により測定することができる。
【0114】
この体外血液循環装置におけるプライミングの作業に際しての、閉鎖型貯血槽50の状態を図22に示す。図21の図示と異なり閉鎖型貯血槽50は、容量調節室シェル51bが上側、貯血室シェル51aが下側になるように配置される。従って、容量調節液ポート58および容量調節室排気ポート510の先端が上方を向く。容量調節室排気ポート510は開放される。そして、容量調節液槽521から容量調節室52に容量調節液(例えば生理食塩水)を注入する。
【0115】
上述のとおり、容量調節室シェル51bは、その中央部を頂点とする形状を有し、容量調節室シェル51bの中央部に容量調節液ポート58に隣接して容量調節室排気ポート510が設けられている。従って、容量調節室排気ポート510は、容量調節室52の最も高い位置に保持される。そのため、生理食塩水が注入されるのに伴い、容量調節室52内に残存する空気が、その浮力により浮上して容量調節室排気ポート510の近傍に集まる。その結果、迅速な排気が行われ、プライミング液を充填する作業を効率的に行うことが可能である。
【0116】
また、容量調節液ポート58の先端は、容量調節室排気ポート510の先端よりも、容
量調節室シェル51bの壁面から遠くに位置するので、図22に示すプライミング中は、容量調節液ポート58の先端は、容量調節室排気ポート510の先端よりも高くなる。また排気ポート開口部510aは、容量調節室シェル51bの内壁面から外方に窪んで配置されているので、浮上した空気が容量調節室排気ポート510に導入され易い。
【0117】
プライミングの完了後、閉鎖型貯血槽50の配置を上下反転させて、図21に示す状態に戻す。そして、体外循環を開始すると、体内より脱血された血液は、血液流入ポート54を介して貯血室51に導入され、血液流出ポート55を通って貯血室51より排出される。このとき、容量調節液槽521の高さを操作して、容量調節室52の生理食塩水を容量調節液槽521に排出すると、隔壁53が容量調節室52より排出された生理食塩水量に応じて移動し、貯血室51の容積が増加する。すなわち、容量調節液槽521に移送された生理食塩水量に相当する量の血液が、貯血室51に貯留されることになる。その量は、容量調節液槽521により正確に把握可能である。
【0118】
逆に、容量調節液槽521の位置を高くして生理食塩水を容量調節室52に送り込むと、その量に応じて隔壁53が貯血室51側に移動し、貯血室51の容積が減少する。その結果、貯血室51に貯留された血液は、貯血槽より排出され、結果的に体内に戻される。その量は、容量調節液槽521により正確に把握可能である。
【0119】
以上のように、貯血室11の容積を容易に変更可能であり、しかも変更された貯血室51の容量、すなわち貯血容量を容易に把握することが可能である。従って、体外循環において、適切な容量の貯血槽を患者の条件に応じてその都度選択する必要はなく、ある程度の容量のものを準備することにより、小容量から大容量まで対応可能である。
【0120】
なお、容量調節室52は隔壁53により貯血室51と隔離されているので、血液が汚染されることはない。したがって、容量調節室52に充填される流体は、あえて滅菌されたものを使用する必要はないが、万が一隔壁53が破損したときを考慮すると、生理食塩水など滅菌された等張液を使用することが望ましい。
【0121】
貯血室シェル51aおよび容量調節室シェル51bを形成する材質は、実施形態1の貯血槽におけるそれと同様でよい。隔壁53の材質についても、実施形態1の貯血槽におけるそれと同様でよい。
【実施例】
【0122】
図15に示す系を用いて、閉鎖型貯血槽から気泡が流出しはじめるまでの時間と、閉鎖型貯血槽から気泡が流出しはじめた時に貯血室内に残存していた空気量とを測定した。これらの測定は、貯血量を最大に設定し、または、最小に設定して行った。
【0123】
図15において、61はヘパリン添加牛血であり、62はポンプであり、63はフィルターであり、64は気泡を積極的に混入させるための注入器、65は図2に示した閉鎖型貯血槽Aまたは図6に示した閉鎖型貯血槽Bであり、66は気泡量を測定するため容器であり、67は実験開始前に貯血室内等に充填されていたプライミング液を回収するための容器である。なお、閉鎖型貯血槽Aと閉鎖型貯血槽Bの相違は、第1血液流路115と第2血液流路114とが繋がっているか否かのみである。容器66については、循環終了後に閉鎖型貯血槽65に取り付けた。
【0124】
閉鎖型貯血槽内の残存空気量の測定は、下記のようにして行った。まず、閉鎖型貯血槽65を傾けて、貯血室内の残存空気を貯血室排気ポートから遠ざけ、貯血室排気ポートを貯血室内の液体で満たした。次いで、貯血室排気ポートに、液体で満たされた容器66を取り付けた。この際、閉鎖型貯血槽65内に空気が入らないように注意した。その後、閉
鎖型貯血槽をもとの姿勢に戻して、貯血室内に残存した空気を貯血室から容器66内に移し、空気量を測定した。
【0125】
【表1】

【0126】
表1に示したように、第1血液流路115と第2血液流路114とが連結した閉鎖型貯血槽B(図6参照)よりも、第1血液流路115と第2血液流路114とが繋がっていない閉鎖型貯血槽A(図2参照)では、閉鎖型貯血槽から気泡が流出しはじめるまでの時間が長く、閉鎖型貯血槽から気泡が流出しはじめた時に貯血室内に残存していた空気量が多いことが確認できた。この結果は、閉鎖型貯血槽Bよりも閉鎖型貯血槽Aの方が、気泡除去性能が優れ安全性が高いこと示している。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の第1〜3の閉鎖型貯血槽は、貯血室の容量を可変とするための隔壁により血液流出ポートが閉塞されることが抑制されているので、体外血液循環システムの構成に有用である。本発明の第4の閉鎖型貯血槽は、プライミング時に容量調節室の排気が効率的に行われる姿勢に容易に設定可能であるので、体外血液循環システムの構成に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外方に凸となった曲面形状を有する、貯血室シェルと容量調節室シェルとが結合され、内部に空間を形成する外殻と、
前記貯血室シェルと前記容量調節室シェルとの間に介在し、前記空間を、血液を貯留するための貯血室と容量調節液を貯留するための容量調節室とに区画する可撓性を有する隔壁と、
前記貯血室と連通するように前記貯血室シェルに設けられた血液流入ポート、血液流出ポートおよび貯血室排気ポートと、
前記容量調節室と連通するように前記容量調節シェルに設けられた、前記容量調節液を前記容量調節室へ注入排出するための容量調節液ポートとを備え、
前記血液流入ポートおよび前記血液流出ポートは、前記血液流入ポートから前記貯血室内に流入する血液が前記貯血室シェルの内面に沿って旋回可能なように、それぞれ前記貯血室シェルの内面の接線方向に設けられており、
前記閉鎖型貯血槽は、前記貯血室シェルの内面が外方に窪むことによって形成され、前記血液流出ポートと連通し、少なくとも一部が前記血液流出ポートの延長方向に沿って形成された第1血液流路を、前記貯血室内に備えていることを特徴とする閉鎖型貯血槽。
【請求項2】
前記閉鎖型貯血槽は、前記貯血室シェルの内面が外方に窪むことによって形成され、前記血液流入ポートと連通し、少なくとも一部が前記血液流入ポートの延長方向に形成された第2血液流路を、前記貯血室内に備えている請求項1に記載の閉鎖型貯血槽。
【請求項3】
前記第1血液流路と前記第2血液流路とが互いに連結されて、連続した1つの血液流路を成している請求項2に記載の閉鎖型貯血槽。
【請求項4】
前記血液流入ポートと前記血液流出ポートとが、同じ方向に開口し、互いの中心軸が平行となる関係で前記貯血室シェルに設けられた請求項2または3に記載の閉鎖型貯血槽。
【請求項5】
前記貯血室シェルの内面の、周方向に沿った前記第1血液流路と前記第2血液流路との間に位置する部分は、前記内面のうちの周縁部から中央部に向かって連続した曲面の一部を成している請求項2に記載の閉鎖型貯血槽。
【請求項6】
請求項1に記載の閉鎖型貯血槽と、
前記容量調節室に対して注入排出される前記容量調節液を貯液するための調節液槽と、
前記容量調節液ポートと前記容量調節液槽とを接続し、流量を調節可能な管路部材と、
前記血液流出ポートに接続された血液ポンプとを備えたことを特徴とする体外血液循環装置。
【請求項7】
外方に凸となった曲面形状を有する、貯血室シェルと容量調節室シェルが結合され、内部に空間を形成する外殻と、
前記貯血室シェルと前記容量調節室シェルの間に介在し、前記空間を、血液を貯留するための貯血室と容量調節液を貯留するための容量調節室とに区画する可撓性を有する隔壁と、
前記貯血室シェルに設けられた、血液流入ポート、血液流出ポートおよび貯血室排気ポートと、
前記容量調節室シェルに設けられた、前記容量調節液を注入排出するための容量調節液ポートおよび容量調節室排気ポートとを備え、
前記隔壁における、前記貯血室シェルの外周縁に沿った内側周辺部の一部領域が実質的に平坦な平坦部を形成し、前記平坦部の内側領域は前記貯血室シェル側または前記容量調節室シェル側に曲面状に突出可能に成形されていることを特徴とする閉鎖型貯血槽。
【請求項8】
外方に凸となった曲面形状を有する、貯血室シェルと容量調節室シェルが結合され、内部に空間を形成する外殻と、
前記貯血室シェルと前記容量調節室シェルの間に介在し、前記空間を、血液を貯留するための貯血室と容量調節液を貯留するための容量調節室とに区画する可撓性を有する隔壁と、
前記貯血室シェルに設けられた、血液流入ポート、血液流出ポートおよび貯血室排気ポートと、
前記容量調節室シェルに設けられた、前記容量調節液を注入排出するための容量調節液ポートおよび容量調節室排気ポートとを備え、
前記貯血室シェルの内面は回転円弧面の形状を有し、
前記隔壁は、少なくともその中央部領域が前記貯血室シェル側または前記容量調節室シェル側に曲面状に突出可能に成形された成形部であり、前記成形部の成形形状における曲率が、前記貯血室シェル内面の曲率よりも小さいことを特徴とする閉鎖型貯血槽。
【請求項9】
前記隔壁の周辺部では、前記貯血室シェルの外周縁に沿った内側の一部領域が実質的に平坦な平坦部を形成している請求項8に記載の閉鎖型貯血槽。
【請求項10】
請求項7または8に記載の閉鎖型貯血槽と、
前記容量調節室に対して注入排出される前記容量調節液を貯液するための調節液槽と、
前記容量調節液ポートと前記容量調節液槽とを接続し、流量を調節可能な管路部材と、
前記血液流出ポートに接続された血液ポンプとを備えたことを特徴とする体外血液循環装置。
【請求項11】
外方に凸となった貯血室シェルと容量調節室シェルが結合され、内部に空間を形成する外殻と、
前記貯血室シェルと前記容量調節室シェルの間に介在し、前記空間を、血液を貯留するための貯血室と容量調節液を貯留するための容量調節室とに区画する可撓性を有する隔壁と、
前記貯血室シェルに設けられた、血液流入ポート、血液流出ポートおよび貯血室排気ポートと、
前記容量調節室シェルに設けられた、前記容量調節液を注入排出するための容量調節液ポートおよび容量調節室排気ポートとを備え、
前記容量調節室シェルは、その中央部を頂点とする形状を有し、
前記容量調節室シェルの中央部に前記容量調節液ポートが設けられるとともに、前記容量調節液ポートに隣接して前記容量調節室排気ポートが設けられたことを特徴とする閉鎖型貯血槽。
【請求項12】
前記容量調節室排気ポートが設けられることにより前記容量調節室シェルに形成された排気ポート開口部は、前記容量調節室シェルの内壁面から外方に向かって設けられた窪みの中に配置されている請求項11に記載の閉鎖型貯血槽。
【請求項13】
請求項11に記載の閉鎖型貯血槽と、
前記容量調節室に対して注入排出される前記容量調節液を貯液するための調節液槽と、
前記容量調節液ポートと前記容量調節液槽とを接続し、流量を調節可能な管路部材と、
前記血液流出ポートに接続された血液ポンプとを備えたことを特徴とする体外血液循環装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−104396(P2011−104396A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18502(P2011−18502)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【分割の表示】特願2007−538767(P2007−538767)の分割
【原出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】