説明

閉鎖系水域の自動脱窒システム

【課題】閉鎖系水域で魚介類を飼育する場合において、換水すること無く硝酸濃度の上昇を正確、迅速に抑えることを可能にする。
【解決手段】閉鎖系水域内2の水を取り込むとともに取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換する脱窒循環槽7と、閉鎖系水域2内の水を脱窒循環槽7に取り込む水張り手段13と、脱窒循環槽7内の水を循環する循環手段16と、脱窒循環槽7内の水を閉鎖系水域2に戻す押出手段20と、脱窒循環槽7内の水位を検知するために脱窒循環槽7内に配設された水位検知手段23と、脱窒循環槽7内に配設されたヒーター24と、脱窒循環槽7内の水の酸化還元電位を計測するために脱窒循環槽7内に配設された酸化還元電位計25を具備して、脱窒循環槽7はその内部を、脱窒部12を有する脱窒エリア10と、脱窒部10内の水を再び脱窒エリアへ循環するための循環エリア11に分割した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水産養殖、生け簀、観賞魚ディスプレイ等の閉鎖系水域内の硝酸を自動的に還元して窒素ガスにまで変換可能とする閉鎖系水域の自動脱窒システムに係り、より詳しくは、閉鎖系水域内の水の一部を脱窒循環槽に取り込み、この脱窒循環槽に取り込んだ水の中に硝酸が存在するときは硝酸が無くなるまで脱窒処理を繰り返し、硝酸が無くなった後に脱窒循環槽内の水を閉鎖系水域に戻し、これによって、換水によって対応すること無く、閉鎖系水域内の硝酸濃度を低い値で一定に保つことを可能とした閉鎖系水域の自動脱窒システムの改良発明に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、水産養殖、生け簀、観賞魚ディスプレイ等の閉鎖系水域で魚介類を飼育する場合には、魚介類から出る老廃物や餌の残渣に由来して発生するアンモニア態窒素は毒性が強いため、飼育している魚介類の死滅等を防止するためには、このアンモニア態窒素の蓄積は許されない。そのため、これらの閉鎖系水域では一般的に、生物濾過と呼ばれる好気性細菌による処理により、魚介類から出る老廃物や餌の残渣に由来して発生するアンモニア態窒素を、毒性の弱い硝酸態窒素にまで酸化(「硝化」)している。
【0003】
そして、その具体的な方法としては、例えば、本体内に濾過材としての珊瑚砂を入れ、この珊瑚砂に好気バクテリアを付着させて濾過装置を構成し、ポンプによって、水槽内の水を、濾過装置内を通過させつつ循環させる方法が一般的であり、この方法によれば、水槽水が濾過装置を通過する過程で、水槽水に含まれるアンモニア等の有毒物質を、好気バクテリアによって硝化させて毒性の弱い硝酸態窒素にまで変化させることができる。
【0004】
このように、好気性細菌を用いた濾過装置によって、水槽水に含まれるアンモニア等の有毒物質を毒性の弱い硝酸態窒素にまで硝化させることができるが、この硝酸態窒素もまた、過剰に蓄積されて濃度が高くなると弊害が生じるため、濃度についてはある程度の許容範囲が定められている。
【0005】
一方、硝酸は硝化の最終物質であり、閉鎖系水域に蓄積されていくため、従来は、硝酸態窒素の濃度が許容範囲を超えた場合には、換水しなければならないとされていたが、水産養殖、生け簀、大型の観賞魚ディスプレイ等の場合は、換水作業に要する手間、時間、コスト等が大きいという問題点が指摘されていた。
【0006】
そのため、本発明者は過去において、閉鎖系水域で魚介類を飼育する場合において、換水すること無く閉鎖系水域内の硝酸濃度の上昇を完全に抑えることを可能にした自動脱窒システムを提案した。
【0007】
即ち、この従来の自動脱窒システムでは、閉鎖系水域内の水を取り込むための脱窒循環槽と、この脱窒循環槽内に取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換するための脱窒塔とを有するとともに、閉鎖系水域内の水を脱窒循環槽に取り込むための水張り手段と、脱窒塔を介して脱窒循環槽内の水を循環するための循環手段と、脱窒循環槽内の水を閉鎖系水域に戻すための押出手段とを有し、閉鎖系水域内の水の一部を脱窒循環槽に取り込み、この脱窒循環槽に取り込んだ水を脱窒塔と脱窒循環槽間で循環しながら、脱窒循環槽に取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換し、脱窒循環槽内の水の中の硝酸が無くなった後に、この硝酸が含まれていない脱窒循環槽内の水を閉鎖系水域に戻すこととしており、これにより、水産養殖、生け簀、観賞魚ディスプレイ等の閉鎖系水域で魚介類を飼育する場合において、換水によって対応すること無く、閉鎖系水域内の硝酸濃度を低い値で一定に保つことを可能とした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−88307号公報
【特許文献2】特開2003−103294号公報
【特許文献3】特開平9−38683号公報
【特許文献4】特開平9−155380号公報
【特許文献4】特開2002−159244号公報
【特許文献5】特表2000−513224号公報
【特許文献6】特開平03−049630号公報
【特許文献7】特公平07−055116号公報
【特許文献4】特許第3769680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述の従来の自動脱窒システムでは、閉鎖系水域内の水を取り込むための脱窒循環槽と、この脱窒循環槽内に取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換するための脱窒塔とを別個独立に備え、脱窒循環槽と脱窒塔を循環手段によって連通するとともに、循環手段の経路に循環用ポンプを介在し、脱窒循環槽に取り込んだ水を脱窒塔と脱窒循環槽間で循環させる場合には、循環用ポンプによって、脱窒循環槽内の水を脱窒塔内に圧入していたため、循環している過程で循環用ポンプがエアーを巻き込んでしまい循環が停止してしまうことが発生してしまうという問題点があった。
【0010】
また、従来の自動脱窒システムにおける脱窒塔では、筒状とした容器(「カラム」)内に、嫌気性細菌としての脱窒菌を着床させるための細菌着床部と、脱窒菌の栄養分としての生分解ポリマーとを交互にサンドイッチ状に充填して構成していたが、このような構成において、脱窒塔内の嫌気性細菌が増えると、ヌメリが発生し、それにより細菌着床部に目詰まりを起こしてしまうため、このような場合には、循環用ポンプの駆動による脱窒循環槽内の水の脱窒塔内への圧入がスムーズに進まないという問題点が発生していた。
【0011】
更に前述の自動脱窒システムでは、脱窒循環槽内に取り込んだ水に含まれる硝酸濃度を検知するための硝酸濃度検知手段として硝酸イオンメーターを用いることとしていたが、特に閉鎖系水域内の水が海水の場合には、硝酸イオンメーターでは硝酸濃度を正確、迅速に検知することができないという問題点があった。
【0012】
そこで、本発明は、閉鎖系水域内の水を脱窒循環槽に取り込み、この脱窒循環槽内に取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換し、脱窒が完了した水を閉鎖系水域に戻し、これにより、水産養殖、生け簀、観賞魚ディスプレイ等の閉鎖系水域で魚介類を飼育する場合に、換水によって対応すること無く閉鎖系水域内の硝酸濃度を低い値で一定に保つことを可能にする閉鎖系水域の自動脱窒システムにおいて、脱窒循環槽内の硝酸濃度を正確、迅速に検知可能であるとともに、脱窒循環槽内に取り込んだ水の脱窒を確実に行うことを可能にした閉鎖系水域の自動脱窒システムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の閉鎖系水域の自動脱窒システムは、
閉鎖系水域の自動脱窒システムであって、
閉鎖系水域内の水を取り込むとともに、取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換するための脱窒循環槽と、
閉鎖系水域内の水を前記脱窒循環槽に取り込むための水張り手段と、
前記脱窒循環槽内の水を循環するための循環手段と、
前記脱窒循環槽内の水を前記閉鎖系水域に戻すための押出手段と、
前記脱窒循環槽内に配設された、前記脱窒循環槽内の水位を検知するための水位検知手段と、
前記脱窒循環槽内に配設されたヒーターと、
前記脱窒循環槽内に配設された、前記脱窒循環槽内の水の酸化還元電位を計測するための酸化還元電位計と、
システム全体の作動を制御するための制御手段と、を具備し、
前記脱窒循環槽は、
その内部を、仕切板によって、閉鎖系水域内の水を取り込むとともに取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換するための脱窒エリアと、該脱窒エリアを通過した水を再び脱窒エリアに循環するための循環エリアとに分割し、
前記脱窒エリア内には、嫌気性細菌を着床させるための細菌着床部と、前記嫌気性細菌の栄養分としての生分解ポリマーとを有して、硝酸を含んだ水を通過させることにより、水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換可能とした脱窒部を具備し、
前記仕切板は、下部部分において、前記脱窒エリアと循環エリアが互いに連通する連通部を有して、前記脱窒部を通過した水を前記循環エリアへ移動可能とし、
前記水張り手段によって前記脱窒循環槽の脱窒エリア内に閉鎖系水域の水を取り込み、
前記循環手段によって、前記脱窒エリア内に取り込んだ水を、脱窒部を通過させながら循環エリアと脱窒エリア間で循環することで、前記脱窒エリア内に取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換し、
前記押出手段によって、硝酸が含まれていない前記脱窒循環槽内の水を閉鎖系水域に戻す、ことを可能とした、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
嫌気的な条件の下で嫌気性細菌(「脱窒菌」)が硝酸呼吸をすると、硝酸が還元されて窒素ガスにまで変換されるが(これを「脱窒」という。)、本発明の閉鎖系水域の自動脱窒システムでは、閉鎖系水域内の水を取り込むとともに、取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換するための脱窒循環槽を有するとともに、閉鎖系水域内の水を脱窒循環槽に取り込むための水張り手段と、脱窒循環槽内の水を循環するための循環手段と、脱窒循環槽内の水を閉鎖系水域に戻すための押出手段とを有しており、脱窒循環槽は、その内部を、仕切板によって、閉鎖系水域内の水を取り込むとともに取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換するための脱窒エリアと、該脱窒エリアを通過した水を再び脱窒エリアに循環するための循環エリアに分割し、脱窒エリア内には、嫌気性細菌を着床させるための細菌着床部と、前記嫌気性細菌の栄養分としての生分解ポリマーとを有して、硝酸を含んだ水を通過させることにより、水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換可能とした脱窒部を具備し、仕切板は下部部分において、前記脱窒エリアと循環エリアが互いに連通する連通部を有して脱窒部を通過した水を循環エリアへ移動可能とし、この構成において、脱窒循環槽の脱窒エリア内に閉鎖系水域の水の一部を取り込む水張工程と、脱窒エリア内に取り込んだ水に含まれる硝酸が無くなるまで脱窒エリア内に取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換する循環工程と、脱窒エリア内の水に含まれていた硝酸が無くなったときに、脱窒循環槽内の水を閉鎖系水域に戻す押出工程を行うこととしている。
【0015】
そのため、本発明によれば、水産養殖、生け簀、観賞魚ディスプレイ等の閉鎖系な水域で魚介類を飼育する場合において、硝酸濃度の上昇を完全に抑え、換水によって対応すること無く、閉鎖系水域内の硝酸濃度を低い値で一定に保つことが可能である。
【0016】
そしてこのとき、本発明では、仕切板によって、脱窒循環槽の内部を脱窒エリアと循環エリアに分割し、脱窒エリア内には、硝酸を含んだ水を通過させることにより水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換可能とした脱窒部を具備し、これによって、脱窒循環槽において、閉鎖系水域内の水の取り込みと取り込んだ水に含まれる硝酸の還元を行うこととしているため、閉鎖系水域内の水を取り込むための脱窒循環槽とこの脱窒循環槽内に取り込んだ水に含まれる硝酸を還元する脱窒塔を別個独立に備え、脱窒循環槽と脱窒塔を循環手段によって連通するとともに循環手段の経路に循環用ポンプを介在し、この循環用ポンプによって脱窒循環槽内の水を脱窒塔内に圧入していた従来の自動脱窒システムと異なり、循環が停止してしまうことを防止できる。
【0017】
また、本発明の自動脱窒システムでは、脱窒エリア内に、嫌気性細菌を着床させるための細菌着床部と、嫌気性細菌の栄養分としての生分解ポリマーとを有した脱窒部を具備しているため、カラム内に細菌着床部と生分解ポリマーを交互にサンドイッチ状に充填して脱窒塔を構成した従来の自動脱窒システムと異なり、嫌気性細菌が増えた場合でも、取り込んだ水が脱窒部を通過することに支障が生じることが無く、更に脱窒菌を確実に繁殖させることが可能である。
【0018】
更にまた、本発明の自動脱窒システムでは、脱窒循環槽内に、脱窒循環槽内の水の酸化還元電位を計測するための酸化還元電位計を配設し、この酸化還元電位計の計測結果に基づいて、脱窒循環槽内に取り込んだ水に含まれる硝酸の有無を判断することとしているため、硝酸イオンメーターを用いて脱窒循環槽内に取り込んだ水に含まれる硝酸濃度を検知していた従来の自動脱窒システムと異なり、閉鎖系水域内の水が海水の場合でも、硝酸濃度を正確、迅速に検知することが可能である。
【0019】
また、本発明の閉鎖系水域の自動脱窒システムでは、閉鎖系水域内の水の一部を脱窒循環槽に移動する水張工程と、脱窒循環槽内の水を循環する循環工程とを別々の工程としてバッチ処理しているために、循環工程においては、脱窒循環槽内に外部から酸素が入り込むことがないとともに、好気性細菌の酸素呼吸によって溶存酸素はすぐに枯渇し嫌気化するため、脱窒循環槽内の嫌気性細菌の脱窒活性を速やかに高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の閉鎖的水域の自動脱窒システムの実施例のシステム全体を説明するための図である。
【図2】本発明の閉鎖的水域の自動脱窒システムの実施例の制御系を説明するための図である。
【図3】本発明の閉鎖的水域の自動脱窒システムの実施例の作用を説明するためのフローチャートである。
【図4】脱窒によってORPが減少していく様子を示した波形である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の閉鎖系水域の自動脱窒システムでは、水産養殖、生け簀、観賞魚ディスプレイ等の閉鎖系水域内の水を取り込み、この取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換するための脱窒循環槽を有するとともに、閉鎖系水域内の水を脱窒循環槽に取り込むための水張り手段と、脱窒循環槽内の水を循環するための循環手段と、脱窒循環槽内の水を閉鎖系水域に戻すための押出手段とを有している。
【0022】
また、前記脱窒循環槽内には、脱窒循環槽内の水位を検知するための水位検知手段と、脱窒循環槽内の水温を一定以上に維持するためのヒーターが配設されており、更に、前記脱窒循環槽内には、脱窒循環槽内の水の酸化還元電位を計測するための酸化還元電位計が配設されており、これらの水位検知手段、ヒーター、及び酸化還元電位計は、システム全体の作動を制御するための制御手段に接続されている。
【0023】
そして、前記脱窒循環槽の内部は、仕切板によって、脱窒エリアと循環エリアに分割しており、脱窒エリアは、閉鎖系水域内の水を取り込むとともに取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換するエリアとしており、その内部には、嫌気性細菌を着床させるための細菌着床部と、嫌気性細菌の栄養分としての生分解ポリマーとを有した脱窒部を具備しており、これによりこの脱窒部は、閉鎖系水域内から取り込んだ水を通過させることにより、水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換可能としている。
【0024】
一方、循環エリアは、脱窒部を通過した水を再び脱窒エリアに循環して脱窒部を通過させるためのエリアとしている。
【0025】
また、前記仕切板は、下部部分において、前記脱窒エリアと循環エリアが互いに連通する連通部を有しており、前記脱窒部を通過した水を、この連通部を通って前記循環エリアへ移動可能としている。
【0026】
そして、本発明の閉鎖系水域の自動脱窒システムは、このような構成において、水張り手段によって脱窒循環槽の脱窒エリア内に閉鎖系水域の水を取り込んで水張りを行い、水張りの後に、前記脱窒エリア内に取り込んだ水を、脱窒部を通過させることで取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換するとともに、脱窒エリア内に取り込んだ水に硝酸が無くなったと判断するまで、循環手段によって、脱窒部を通過した水を、循環エリアと脱窒エリア間で循環し、脱窒エリア内の水に硝酸が含まれていなくなったと判断したときは、押出手段によって、脱窒循環槽内の水を閉鎖系水域に戻すこととしている。
【0027】
ここで、前記水張り手段、循環手段、及び押出手段の作動を制御手段により自動制御し、これにより、自動的に水張工程、循環工程、及び押出工程を実行するとよく、それにより、最小限度の労力で各工程を行うことが可能である。
【0028】
そして、自動制御の例としては、例えば、水位検知手段が脱窒循環槽内の水位の低下を検知したときに、水張り手段によって脱窒循環槽内に閉鎖系水域の水を取り込む方法が考えられ、これによれば自動的に水張りを行うことができる。
【0029】
また、自動制御の例としては、その他に、酸化還元電位計による脱窒循環槽内の水の酸化還元電位の値に基づいて、脱窒循環槽内の水に硝酸が存在していると判断しているときは、脱窒循環槽内の水に硝酸が存在しなくなったと判断するまで、循環手段によって、脱窒エリア内の水を、脱窒部を通過させながら循環エリアと脱窒エリア間で循環し、脱窒循環槽内の水に硝酸が存在していないと判断したときは、押出手段によって脱窒循環槽内の水を閉鎖系水域に戻す方法が考えられ、これによれば、酸化還元電位計による計測結果に基づいて、自動的に循環工程、押出工程を実行することが可能となる。
【0030】
また、循環手段は、循環エリア内に配設された水中ポンプと、この水中ポンプに基端部が連結されるとともに先端部が脱窒エリアに連通し、その経路の途中に三方弁が介在された循環用流路で構成し、水張り手段は、基端が閉鎖系水域に連通するとともに先端部が脱窒エリアに連通した水張り用流路と、この水張り用流路を介して閉鎖系水域の水を脱窒エリアに取り込むための取込み用ポンプで構成し、押出手段は、先端が閉鎖系水域に連通し、基端が前記三方弁を介して循環用流路に連結した押出用流路で構成し、脱窒循環槽内に閉鎖系水域の水を取り込むときは、水張り用流路と取込み用ポンプを介して閉鎖系水域内の水を脱窒循環槽内に取り込み、脱窒循環槽内の水を脱窒エリアと循環エリア間で循環させるときは、三方弁の切り替えにより循環用流路を介して循環エリアと脱窒エリアを連通し、脱窒部を通過させながら、水中ポンプ及び循環用流路を介して、脱窒循環槽内の水を脱窒エリアと循環エリア間で循環し、脱窒循環槽内の水を閉鎖系水域に戻すときには、前記三方弁の切り替えにより、循環用流路における基端部から三方弁までの部分と押出用流路とを連通して、水中ポンプ、循環用流路における基端部から三方弁までの部分、及び押出用流路を介して脱窒循環槽内の水を閉鎖系水域に押し出すようにしてもよく、これによりシステム全体の構成を簡素化してコストを抑えることができる。
【0031】
また、脱窒部に有する生分解ポリマーとしては、植物油由来のポリマーを用いるとよく、これにより、安全性の高い脱窒システムにすることが可能である。
【実施例1】
【0032】
本発明の閉鎖系水域の自動脱窒システム(以下単に「自動脱窒システム」という。)の実施例について図面を参照して説明すると、図1は本実施例の自動脱窒システムの全体を説明するための図であり、図において点線で示す1が本実施例の自動脱窒システムの主要部分である。
【0033】
また、図1において2は、閉鎖系水域としての水槽であり、本実施例の自動脱窒システムは、この水槽2内の水に含まれる硝酸を自動で脱窒することを目的としている。
【0034】
更に、図において3は濾過装置であり、この濾過装置3は、その内部に、好気性細菌を付着させた珊瑚砂等の着床部を有しており、前記水槽2内の水を濾過装置3を通して循環させることで、着床部に付着させた好気性細菌によって、水槽2内に存在する、魚介類から出る老廃物や餌の残渣に由来して発生するアンモニア態窒素を毒性の弱い硝酸態窒素にまで酸化することとしている。
【0035】
即ち、前記濾過装置3は、循環路4によって水槽2に連通しており、循環路4は、基端部を前記水槽2に連通して先端部を濾過装置3に連通した第1循環路401と、基端部を濾過装置3に連通して先端部を前記水槽2に連通した第2循環路402を有し、第2循環路402の経路には濾過用ポンプ5を介在している。
【0036】
そして濾過用ポンプ5を駆動と、水槽2内の水が、第1循環路401、濾過装置3、及び第2循環路402を通って循環されることとしており、本実施例の自動脱窒システムは、このような濾過装置3を備えた水槽を前提としている。
【0037】
なお、好気性細菌を用いた濾過装置は従来周知であるために詳細な説明は省略する。また、周知のように、図1において601はエアレーションであり、また602はエアレーションを発生させるためのエアストーンである。
【0038】
次に、図において7は脱窒循環槽である。即ち、本実施例の自動脱窒システムでは、内部に水を蓄えることが可能な形状の脱窒循環槽7を有しており、この脱窒循環槽7内に、前記水槽2内の水の一部を取り込み、更に、この取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換することとしている。
【0039】
ここで、前記脱窒循環槽7について説明すると、本実施例において前記脱窒循環槽7は、その内部に仕切板8を配設しており、この仕切板8によって、前記脱窒循環槽7の内部は、脱窒エリアと循環エリアに分割されている。
【0040】
即ち、図において10が脱窒エリアであり、この脱窒エリア10は、閉鎖系水域内の水を取り込むとともに、この取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換するためのエリアとしており、その底部には、脱窒エリア10に取り込んだ水の脱窒を行うための脱窒部を具備している。
【0041】
即ち図において12が脱窒部であり、本実施例において前記脱窒部12は、嫌気性細菌を着床させるための細菌着床部1201と、前記嫌気性細菌の栄養分としての生分解ポリマー1202を積層して構成されており、前記脱窒エリア10に取り込んだ水が通過すると、脱窒部12を通過した水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換することとしている。
【0042】
即ち、嫌気的な条件の下で、嫌気性細菌である脱窒菌が硝酸呼吸をし、それにより硝酸を還元して窒素ガスにする作用を脱窒というが、本実施例の自動脱窒システムでは、前記脱窒エリア10の底部に、嫌気性細菌である脱窒菌を着床させるための細菌着床部1201を有した脱窒部12を配設し、前記脱窒エリア10に取り込んだ水が脱窒部12を通過することで、脱窒菌によって、前記脱窒循環槽5内に取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換することとしている。
【0043】
なお、本実施例においては、前記細菌着床部1201としては、脱窒菌を効率的に着床させることが可能な珊瑚砂を用いており、また、前記生分解ポリマーと1202としては、植物油由来のポリマーを用いて、安全性を確保している。即ち、本実施例においては、生分解ポリマーとして天然原料を使用しているために、食材である養殖魚に懸念すべき化学物質が捕り込まれず、対人的な危険性も極めて低く、魚自体への化学物質による影響も極めて低く、閉鎖系水域の水が閉鎖系の外に流出した際に環境に対する負荷が極めて低いという利点がある。
【0044】
更に、本実施例において前記植物油由来の生分解ポリマーとしては、イタリアのノバモント社製の商品名マタービーKF−01U/130を使用しており、これにより、硫化水素の発生も防止している。
【0045】
即ち、例えば海水を嫌気条件化におくと、嫌気性細菌である硫酸還元菌によって硫酸が還元されるために猛毒の硫化水素が発生することがあり、かかる場合には、水槽内の魚介類が死滅に至る場合も考えられる。しかしながら、本発明者による実験の結果、前記マタービーKF−01U/130を生分解ポリマーとして使用した場合には硫化水素の発生が見られなかった。従って、生分解ポリマーとして前記マタービーKF−01U/130を使用している本実施例の自動脱窒システムでは、海水を循環した場合でも、猛毒な硫化水素が発生することもない。
【0046】
なお図において25は、脱窒循環槽7内に取り込んだ水の酸化還元電位を計測するための酸化還元電位計であり、2501は酸化還元電位計の電極部であり、本実施例の自動脱窒システムでは、後述するように、酸化還元電位計25によって脱窒循環槽7内の酸化還元電位を計測し、その計測結果に基づいて、脱窒循環槽7内の水の中の硝酸の有無を判断することとしている。
【0047】
次に、前記循環エリア11について説明すると、図において11が循環エリアである。即ち、本実施例においては、前記仕切板8によって前記脱窒循環槽7内を左右に分割しており、前記脱窒エリア10に隣り合う配置で循環エリア11を形成している。
【0048】
そして、前記脱窒エリア10とこれに隣り合う循環エリア11は互いに、前記仕切板8の下端部分に形成した連通部9によって連通し、これにより、脱窒エリア10において脱窒部12を通過した水を循環エリアへ移動可能としている。
【0049】
なお、図において23は、脱窒循環槽7内に取り込んだ水の水位を検知するための水位検知手段であり、本実施例においてこの水位検知手段7としてはフロートスイッチを用いている。
【0050】
また、図において24はヒーターであり、このヒーター24によって、脱窒循環槽7内の水の温度を一定以上に維持することとしている。即ち、脱窒菌は水温が25℃を下回ると極端に活性が低下して脱窒するスピードが遅くなるため、本実施例においては、冬場の水温対策として、前記ヒーター24を脱窒循環槽7内に配設し、脱窒循環槽7内の水温を25℃以上に保てるようにしている。
【0051】
次に、図において13は、前記水槽2内の水を前記脱窒循環槽7に取り込んで脱窒循環槽7の水張りを行なうための水張り手段であり、本実施例においてこの水張り手段13は、基端部が前記第2循環路402に連通し、先端が前記脱窒循環槽7に連通した水張り用流路14と、この水張り用流路14の経路の途中に介在させた二方弁15で構成している。
【0052】
そしてこの構成において、濾過用ポンプ5を駆動して水槽2内の水を濾過装置3経由で循環している状態で前記二方弁15を開放することで、濾過装置3を通過して水槽2へ戻る水の一部を、前記脱窒循環槽7へ取り込むこととしている。
【0053】
但し、必ずしも循環路4を兼用して水張り手段を構成する必要は無く、水張り用流路14の基端を水槽2に連通させ、水張り用流路14の経路に取り込み用ポンプを介在し、取り込み用ポンプを駆動することで、水槽2の水を直接、脱窒循環槽7に取り込んでもよい。
【0054】
次に、図において16は循環手段である。即ち、本実施例においては、循環手段16によって、前記脱窒エリア10において脱窒部12を通過した水を循環エリアへ移動させるとともに、循環エリア11内へ移動させた水を再び脱窒エリア10へ循環させることとしている。
【0055】
即ち、本実施例において前記循環手段16は、前記循環エリア11の内部に配設した水中ポンプ17と、基端部をこの水中ポンプ17に連結するとともに先端部を前記脱窒エリア10に連通させた循環用流路18を有している。
【0056】
そして、この構成により、水中ポンプ17を駆動すると、水中ポンプ17は、循環エリア11内の水を吸い込むとともに、この吸い込んだ水を、循環用流路18を介して脱窒エリア10へ戻し、これにより脱窒循環槽7内の水を循環することが可能となる。
【0057】
そうするとそれとともに、循環エリア11内の水の減少に伴って、脱窒エリア10内の水は、脱窒部12を通過しつつ、矢印に示すように、仕切板8の下端部分に形成した連通部9を通って循環エリア11へ移動していく。
【0058】
そのため、この循環を繰り返すことによって、脱窒循環槽7に取り込んだ水に含まれる硝酸を無くするが可能となる。
【0059】
従って、本実施例によれば、水中ポンプ17を駆動するのみで、脱窒エリア10内の水を、脱窒部12を通過させつつ、脱窒エリア10と循環エリア11間で循環し、これにより脱窒循環槽7内の水を脱窒することができるため、換水によって対応すること無く、水槽内の硝酸濃度の上昇を完全に抑え、硝酸濃度を低い値で一定に保つことが可能である。
【0060】
次に、図において20は、前記脱窒循環槽5内の水を水槽2に戻すための押出手段であり、本実施例においてこの押出手段20は、先端が水槽2に連通した押出用流路20としており、この押出用流路20の基端は、三方弁19を介して循環用流路18に連結している。即ち、本実施例において循環用流路18は、その経路に三方弁19を介在させており、この三方弁19を境にして、基端部に水中ポンプ17が連結された基端側循環用流路18aと、先端部が脱窒エリア10に連通された先端側循環用流路18bに分かれており、脱窒循環槽5内の水を水槽2に戻す際には、基端側循環用流路18aを利用している。
【0061】
即ち、脱窒循環槽5内の水を水槽2に戻すときには、三方弁19を切り替えて基端側循環用流路18aと押出用流路20を連通し、この状態で水中ポンプ17を駆動する。そうすると、水中ポンプ17が循環エリア11内の水を吸い込むとともに、この吸い込んだ水は、基端側循環用流路18a及び押出用流路20を通って水槽2に戻される。
【0062】
但し、必ずしも循環用流路18の一部を用いて押出を行う必要はなく、押出用流路20の基端を循環エリア11又は脱窒エリア10に連通させ、押出用流路20の経路に押出用ポンプを介在し、押出用ポンプを駆動することで、脱窒循環槽7内の水を水槽2に戻しても良い。
【0063】
次に、図において21は制御手段を収納した制御盤であり、本実施例の自動脱窒システム1では、制御手段による制御によって、前記水張、循環、押出の各工程を自動的に行なうとともに、制御手段がシステム全体の作動を制御している。
【0064】
ここで、本実施例の自動脱窒システム1の制御系について図2のブロック図を参照して説明すると、本実施例の自動脱窒システム1では、制御手段22としてのマイコンを有しており、この制御手段22に、前記フロートスイッチ23、ヒーター24、酸化還元電位計25、水中ポンプ17を接続している。
【0065】
また、本実施例では、前記二方弁15、及び三方弁19として電動の二方弁、三方弁を用いるとともに、この二方弁15、三方弁19を前記制御手段22に接続しており、更にその他、操作スイッチ26、電源27等が制御手段22に接続されている。
【0066】
そして、制御手段22は、脱窒循環槽7内の水位が予め設定した値以下になったことをフロートスイッチ23が検知したときに、前記二方弁15を開放して前記水張りを行い、脱窒循環槽7内に取り込んだ水の中の硝酸が無くなるまで水中ポンプ17を駆動して循環を行い、脱窒循環槽7内に取り込んだ水の中の硝酸が無くなったと判断したときに、水中ポンプ17の駆動を継続しながら三方弁19の切替で押出用流路20と基端側循環用流路18aを連通して押出を行い、更に冬場には、ヒーター24を作動させて脱窒循環槽7内の水温が25℃以上に維持することとしている。
【0067】
次に、このように構成される本実施例の自動脱窒システム1を用いて水槽2内の水を自動で脱窒する方法について、図3のフローチャートを参照して説明すると、本実施例の自動脱窒方法ではまず、脱窒循環槽7への水張りを行う。即ち、ステップ1において制御手段22は、濾過用ポンプ5が駆動している状態で、所定時間だけ、水張り用流路14を介して第2循環路402と脱窒循環槽7が連通するように二方弁15を切り替えて、これにより、濾過装置3を通過して水槽2へ戻る水の一部を、所定量、前記脱窒循環槽7へ取り込んで水張りを行う。なお、取り込む水の量は特に限定されず、脱窒循環槽7の容量に応じて予め、前記二方弁15を制御する時間を制御手段22に設定しておくとよい。
【0068】
次に制御手段22は、酸化還元電位計25の計測結果に基づいて脱窒循環槽7内の硝酸の有無を判断し、硝酸が存在すると判断したときは循環を行い、硝酸が無いと判断したか、あるいは循環によって硝酸が無くなったと判断したときは、押出を行う。
【0069】
即ち制御手段22は、脱窒循環槽7内に硝酸が存在すると判断したときは、硝酸が存在しないと判断するまで、ステップ2において、基端側循環用流路18aと先端側循環用流路18bが連通するように三方弁19を切り替えるとともに水中ポンプ17を駆動して、脱窒エリア10内の水を、脱窒部12を通過させながら、脱窒エリア10と循環エリア11間で循環して脱窒循環槽7内の水の脱窒を行う。
【0070】
そして、制御手段22は、脱窒循環槽7内に取り込んだ水に硝酸が無いか、あるいは循環によって硝酸が無くなったときは、基端側循環用流路18aと押出用流路20が連通するように三方弁19を切り替えるとともに水中ポンプ17を駆動し、循環エリア11内の水を水槽2に戻す(ステップ3の押出)。
【0071】
そして、ステップ3の押出により脱窒循環槽7内の水位が予め設定した所定値まで低下したときは、前記ステップ1からステップ3を繰り返し行い、これにより、水槽2内の水の脱窒を自動的に行っていく。
【0072】
ここで、脱窒循環槽7内に取り込んだ水の酸化還元電位(「ORP」)に基づいて硝酸の有無を判断する方法について説明すると、従来、脱窒反応の管理制御の手法の一つとして酸化還元電位を用いる方法が提案されているが、本実施例においては特に、脱窒循環槽7内に取り込まれた水槽2内の水のORPが、脱窒循環槽7内の脱窒によって、3つのステージを経て減少していくことに着目し、このステージに応じて硝酸の有無を判断することとしている。
【0073】
即ち、脱窒循環槽7に取り込まれた直後の水には溶存酸素(「DO」)と硝酸が含まれているために、ORPは概ね+100以上であるが、脱窒循環槽7内で脱窒菌により脱窒が始まると、脱窒循環槽7内の脱窒菌によってDOが消費されてDOが低下していき、それに伴ってORPの低下が始まり、DOがゼロになるまで、ORPは急激に低下する。これが第1ステージであり、DOが完全に消費されたときのORPは概ね+50程度である。
【0074】
次に、第1ステージの終了によって水の中のDOが枯渇するために、脱窒菌は硝酸から酸素を奪って呼吸するようになり、これによって硝酸が減少を始める。そしてそれに伴って、硝酸が完全に消費されるまで、ORPは緩やかに減少していく。これが第2ステージであり、硝酸が完全に消費されたときのORPは概ね0以下である。
【0075】
そして、硝酸が完全に消費された後は、ORPは再び急激に低下し始め、マイナス450程度で低下が止まり、その後は、硫酸の還元が始まり、これにより、猛毒の硫化水素が発生してくる。このORPの減少を示した波形が図4であり、図においてA地点が第1ステージ終了地点であり、概ねこのA地点においてDOが枯渇していき、Bの部分が、硝酸が消費されていく第2ステージであり、C地点が、第2ステージが終了して第3ステージが始まる概ねの地点である。
【0076】
そこで、本実施例の自動脱窒システムでは、このように、脱窒循環槽7内に取り込まれた水槽2内の水のORPが脱窒循環槽7内の脱窒によって3つのステージを経て減少していくことに着目し、硝酸が完全に消費されたと思われるときのORPを一つの目安にして、酸化還元電位計による計測結果が、0以下になったときに、脱窒循環槽7内に取り込んだ水に含まれる硝酸が無くなったと判断し、そのときを循環の終了及び押出の開始の目安としている。
【0077】
このように、本実施例の自動脱窒システムでは、脱窒循環槽7内に酸化還元電位計25を配設して脱窒循環槽7内の水の酸化還元電位を計測し、その計測結果に基づいて、脱窒循環槽7内に取り込んだ水に含まれる硝酸の有無を判断することとしているため、硝酸イオンメーターを用いて脱窒循環槽内に取り込んだ水に含まれる硝酸濃度を検知していた従来の自動脱窒システムと異なり、閉鎖系水域内の水が海水の場合でも、硝酸濃度を正確、迅速に検知することが可能である。
【0078】
なお、前述のように、脱窒循環槽7内に取り込まれた水槽2内の水のORPは脱窒循環槽7内の脱窒によって、3つのステージを経て減少していくが、各ステージ終了時のORPの値は水質によって異なってくるため、ORPが示す波形の変曲点を捉えて硝酸の有無を判断してもよい。
【0079】
即ち前述のように、第2ステージにおいて硝酸が減少を始めると、硝酸が完全に消費されるまでORPは緩やかに減少していき、硝酸が完全に消費された後のC地点以後はORPが再び急激に低下し始める。そのため、ORPが緩やかに減少した後に急激に減少したときを捉えて、硝酸が無くなったと判断してもよい。
【0080】
このように、本実施例の自動脱窒システムによれば、水槽内の水の脱窒を行うことが可能であるため、水産養殖、生け簀、観賞魚ディスプレイ等の閉鎖系水域で魚介類を飼育する場合において、換水を行うことなく、閉鎖系水域内の硝酸濃度を低い値で一定に保つことが可能である。
【0081】
そしてこのとき、本実施例の自動脱窒システムでは、水槽内の水の一部を脱窒循環槽に移動する水張工程と、脱窒循環槽内の水を循環する循環工程とを別々の工程としてバッチ処理しているために、脱窒循環槽の嫌気性細菌の脱窒活性を速やかに高めることが可能である。
【0082】
即ち、例えば溶存酸素を豊富に含む海水を脱窒循環槽に取り込んで水張りを行った場合には、脱窒循環槽内に酸素が入り込んでしまう。このとき、一般的に脱窒菌は、酸素に少しでもふれると死滅してしまう偏性嫌気性菌と異なり、通性嫌気細菌であるために酸素が存在していても死滅することはないが、活動が弱くなってしまう。そのため、例えば、水張りと循環とを並行して行った場合には、脱窒循環槽内に次々に酸素が供給されるため、脱窒菌の活性を高めることができず、有効な脱窒を行うことが困難になってしまう。
【0083】
しかしながら、本実施例では、水張工程と循環工程とを別々の工程としてバッチ処理しているため、循環工程においては、脱窒循環槽内に外部から酸素が入り込むことがないとともに、好気性細菌の酸素呼吸によって、水張りによって脱窒循環槽5内に取り込んだ水は、溶存酸素がすぐに枯渇し嫌気化するため、脱窒循環槽内の嫌気性細菌の脱窒活性を速やかに高めることが可能である。
【0084】
更に、本実施例では、仕切板によって、脱窒循環槽の内部を脱窒エリアと循環エリアに分割し、脱窒エリア内には、硝酸を含んだ水を通過させることにより水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換可能とした脱窒部を具備し、循環エリアには水中ポンプを備えて、水中ポンプを駆動することで、脱窒エリア内の水を、脱窒部を通過させつつ、脱窒エリアと循環エリア間で循環し、これにより、脱窒循環槽において、閉鎖系水域内の水の取り込みと取り込んだ水に含まれる硝酸の還元を行うこととしているため、閉鎖系水域内の水を取り込むための脱窒循環槽とこの脱窒循環槽内に取り込んだ水に含まれる硝酸を還元する脱窒塔を別個独立に備え、脱窒循環槽と脱窒塔を循環手段によって連通するとともに循環手段の経路に循環用ポンプを介在し、この循環用ポンプによって脱窒循環槽内の水を脱窒塔内に圧入していた従来の自動脱窒システムと異なり、循環が停止してしまうことを防止できる。
【0085】
また、本実施例の自動脱窒システムでは、脱窒エリア内に、嫌気性細菌を着床させるための細菌着床部と、嫌気性細菌の栄養分としての生分解ポリマーとを有した脱窒部を具備しているため、カラム内に細菌着床部と生分解ポリマーを交互にサンドイッチ状に充填して脱窒塔を構成した従来の自動脱窒システムと異なり、嫌気性細菌が増えた場合でも、取り込んだ水が脱窒部を通過することに支障が生じることが無く、更に脱窒菌を確実に繁殖させることが可能である。
【0086】
更にまた、本実施例の自動脱窒システムでは、脱窒循環槽内に、脱窒循環槽内の水の酸化還元電位を計測するための酸化還元電位計を配設し、この酸化還元電位計の計測結果に基づいて、脱窒循環槽内に取り込んだ水に含まれる硝酸の有無を判断することとしているため、硝酸イオンメーターを用いて脱窒循環槽内に取り込んだ水に含まれる硝酸濃度を検知していた従来の自動脱窒システムと異なり、閉鎖系水域内の水が海水の場合でも、硝酸濃度を正確、迅速に検知することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の自動脱窒システムによれば、換水を行うこと無く、閉鎖系水域内の硝酸濃度を低い値で一定に保つことを可能にしているため、硝酸濃度が高くなる可能性のある水域の全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 自動脱窒システム
2 水槽
3 濾過装置
4 循環路
401 第1循環路
402 第2循環路
5 濾過用ポンプ
601 エアレーション
602 エアストーン
7 脱窒循環槽
8 仕切板
9 連通部
10 脱窒エリア
11 循環エリア
12 脱窒部
1201 細菌着床部
1202 生分解ポリマー
13 水張り手段
14 水張り用流路
15 二方弁
16 循環手段
17 水中ポンプ
18 循環用流路
18a 基端側循環用流路
18b 先端側循環用流路
19 三方弁
20 押出手段(押出用流路)
21 制御版
22 制御手段
23 フロートスイッチ
24 ヒーター
25 酸化還元電位計
2501 電極部
26 操作スイッチ
27 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉鎖系水域の自動脱窒システムであって、
閉鎖系水域(2)内の水を取り込むとともに、取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換するための脱窒循環槽(7)と、
閉鎖系水域(2)内の水を前記脱窒循環槽(7)に取り込むための水張り手段(13)と、
前記脱窒循環槽(7)内の水を循環するための循環手段(16)と、
前記脱窒循環槽(7)内の水を前記閉鎖系水域(2)に戻すための押出手段(20)と、
前記脱窒循環槽(7)内に配設された、前記脱窒循環槽(7)内の水位を検知するための水位検知手段(23)と、
前記脱窒循環槽(7)内に配設されたヒーター(24)と、
前記脱窒循環槽(7)内に配設された、前記脱窒循環槽(7)内の水の酸化還元電位を計測するための酸化還元電位計(25)と、
システム全体の作動を制御するための制御手段(22)と、を具備し、
前記脱窒循環槽(7)は、
その内部を、仕切板(8)によって、閉鎖系水域内(2)の水を取り込むとともに取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換するための脱窒エリア(10)と、該脱窒エリア(10)を通過した水を再び脱窒エリア(10)に循環するための循環エリア(11)とに分割し、
前記脱窒エリア(10)内には、嫌気性細菌を着床させるための細菌着床部(1201)と、前記嫌気性細菌の栄養分としての生分解ポリマー(1202)と、を有して、硝酸を含んだ水を通過させることにより、水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換可能とした脱窒部(12)を具備し、
前記仕切板(8)は、下部部分において、前記脱窒エリア(10)と循環エリア(11)が互いに連通する連通部(9)を有して、前記脱窒部(12)を通過した水を前記循環エリア(11)へ移動可能とし、
前記水張り手段(13)によって前記脱窒循環槽(7)の脱窒エリア(10)内に閉鎖系水域(2)の水を取り込み、
前記循環手段(16)によって、前記脱窒エリア(10)内に取り込んだ水を、脱窒部(12)を通過させながら循環エリア(11)と脱窒エリア(10)間で循環することで、前記脱窒エリア(10)内に取り込んだ水に含まれる硝酸を還元して窒素ガスにまで変換し、
前記押出手段(20)によって、硝酸が含まれていない前記脱窒循環槽(7)内の水を閉鎖系水域(2)に戻す、ことを可能とした閉鎖系水域の自動脱窒システム。
【請求項2】
前記水張り手段(13)、循環手段(16)、及び押出手段(20)の作動を前記制御手段(22)により自動制御することとしたことを特徴とする請求項1に記載の閉鎖系水域の自動脱窒システム。
【請求項3】
前記制御手段(22)の制御により、前記水位検知手段(23)が脱窒循環槽(7)内の水位が予め設定した所定値まで低下したことを検知したときに、前記水張り手段(13)によって前記脱窒循環槽(7)内に閉鎖系水域(2)の水を取り込むことを特徴とする請求項2に記載の閉鎖系水域の自動脱窒システム。
【請求項4】
前記制御手段(22)の制御により、前記酸化還元電位計(25)による前記脱窒循環槽(7)内の水の酸化還元電位の値に基づいて、
前記脱窒循環槽(7)内の水に硝酸が存在していると判断しているときは、前記循環手段(16)によって、前記脱窒エリア(10)内の水を、脱窒部(12)を通過させながら循環エリア(11)と脱窒エリア(10)間で循環し、
前記脱窒循環槽(7)内の水に硝酸が存在していないと判断したときは、前記押出手段(20)によって、前記脱窒循環槽(7)内の水を閉鎖系水域(2)に戻す、ことを特徴とする請求項2に記載の閉鎖系水域の自動脱窒システム。
【請求項5】
前記循環手段(16)は、前記脱窒エリア(10)内において前記脱窒部(12)を通過した水を再び脱窒エリア(10)に戻すための、
前記循環エリア(11)内に配設された水中ポンプ(17)と、
該水中ポンプ(17)に基端部が連結されるとともに先端部が前記脱窒エリア(10)に連通し、その経路の途中に三方弁(19)が介在された循環用流路(18)と、を具備し、
前記水張り手段(13)は、基端が前記閉鎖系水域(2)に連通するとともに先端部が前記脱窒エリア(10)に連通した水張り用流路(14)と、該水張り用流路(14)を介して前記閉鎖系水域(2)の水を前記脱窒エリア(10)に取り込むための取込み用ポンプ(5)と、を具備し、
前記押出手段(20)は、先端が前記閉鎖系水域(2)に連通し、基端が前記三方弁(19)を介して前記循環用流路(18)に連結した押出用流路(20)を具備し、
前記脱窒循環槽(7)内に閉鎖系水域の水を取り込むときは、前記水張り用流路(13)と取込み用ポンプ(5)を介して閉鎖系水域(2)内の水を脱窒循環槽(7)内に取り込み、
前記脱窒循環槽(7)内の水を循環させるときは、前記三方弁(19)の切り替えにより、前記循環用流路(18)を介して循環エリア(11)と脱窒エリア(10)を連通し、脱窒部(12)を通過させながら、水中ポンプ(17)及び循環用流路(18)を介して脱窒循環槽(7)内の水を循環エリア(11)と脱窒エリア(10)間で循環し、
前記脱窒循環槽(7)内の水を閉鎖系水域(2)に戻すときには、前記三方弁(19)の切り替えにより、前記循環用流路(18)における基端部から三方弁(19)までの部分と前記押出用流路(20)とを連通して、水中ポンプ(17)、前記循環用流路(18)における基端部から三方弁(19)までの部分、及び前記押出用流路(20)を介して前記脱窒循環槽(7)内の水を閉鎖系水域(2)に押し出す、ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の閉鎖系水域の自動脱窒システム。
【請求項6】
前記脱窒部(12)に備えた生分解ポリマー(1202)が、植物油由来のポリマーであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の閉鎖系水域の自動脱窒システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−75384(P2012−75384A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223616(P2010−223616)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(505073015)株式会社大洋水研 (3)
【出願人】(508298961)株式会社環境技術センター (2)
【Fターム(参考)】