説明

開放型焼成炉及び当該焼成炉における脱ろう方法

【課題】従来の開放型焼成炉において不可避であった脱炭現象を抑制することができる開放型焼成炉を提供する。
【解決手段】予熱室1、加熱室、徐冷室及び冷却室がこの順に設けられ、金型潤滑剤を含む金属粉末を加圧成形した粉末成形体9を焼結する開放型焼成炉。前記予熱室1の上部空間に燃焼ガスを供給する燃焼ガス供給部16と、前記予熱室1内に配設されており、供給された燃焼ガスを、当該予熱室内に搬送された粉末成形体に向けて分散して供給する分散板20とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は開放型焼成炉及び当該焼成炉における脱ろう方法に関する。さらに詳しくは、金型潤滑剤を含む金属粉末の成形体を焼成して焼結部品を製造する開放型焼成炉及び当該焼成炉における脱ろう方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の各種部品は、通常、ダイの凹所内に充填された金属粉末を加圧成形した成形体を用いて製造されている。
【0003】
金属粉末を加圧成形する場合、ダイの内壁と金属粉末との間で発生する摩擦を低減させ、焼き付きのない高品質の成形体を製造するためにワックスなどの金型潤滑剤が使用されている。
【0004】
かかる金型潤滑剤は、前記成形体を焼成する焼成炉内の予熱ゾーンないし予熱室において燃焼ガスにより気化されることで除去される。従来、焼成炉として、炉内が外気に対して開放されている開放型焼成炉と、シャッターなどにより炉内を外気に対して遮断可能にした密閉型焼成炉とが用いられている。
【0005】
このうち開放型焼成炉は、外気と遮断するためのシャッターや、当該シャッターを作動させるための機構が不要であるので、炉の構造が簡略化されるという利点があるが、予熱室内に侵入した酸化性の雰囲気ガスによって部品が酸化され、続く加熱工程において前記酸化された部分に脱炭現象が発生することがある。脱炭現象が生じると所定の強度(硬度)が得られず、製品不良となる。
【0006】
一方、例えば特許文献1に記載されたような密閉型焼成炉では、予熱室内への酸化性の雰囲気ガスの侵入を防ぐことができるので脱炭現象が発生することがない。したがって、所定の強度を有する焼結部品を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭60−27912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、密閉型焼成炉では、予熱室が外気に開放されていないので燃焼ガスにより気化された金型潤滑剤が「スス」として当該予熱室内に堆積する。堆積した「スス」が粉末成形体に付着し、この粉末成形体が続く加熱工程において加熱されると、付着した「スス」が巣となり外観不良が生じる。これを防ぐためには、頻繁に予熱室内を清掃する必要があり、生産性が低下する。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、従来の開放型焼成炉において不可避であった脱炭現象を抑制することができる開放型焼成炉及び当該焼成炉における脱ろう方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の開放型焼成炉は、予熱室、加熱室、徐冷室及び冷却室がこの順に設けられ、金型潤滑剤を含む金属粉末を加圧成形した粉末成形体を焼結する開放型焼成炉であって、
前記予熱室の上部空間に燃焼ガスを供給する燃焼ガス供給部と、
前記予熱室内に配設されており、供給された燃焼ガスを、当該予熱室内に搬送された粉末成形体に向けて分散して供給する分散板と
を備えたことを特徴としている。
【0011】
本発明の開放型焼成炉では、予熱室内に配設された分散板により当該予熱室内に供給された燃焼ガスを分散させることができ、粉末成形体に均一に燃焼ガスを供給することができる。これにより、燃焼ガスがあたりすぎることに起因する粉末成形体の酸化、さらには脱炭現象を防ぐことができる。
(2)前記(1)の開放型焼成炉において、前記粉末成形体にあたる燃焼ガス量を調整するために前記分散板に設けられた遮蔽部を更に備えていることが好ましい。この場合、遮蔽部により燃焼ガスの流れを遮断することができるので、前記分散板によっても局所的に燃焼ガスが多く流れる場所が存在したとしても、かかる遮蔽部によって粉末成形体にあたる燃焼ガス量がより均一になるように調整することができる。
【0012】
(3)前記(2)の開放型焼成炉において、前記燃焼ガス供給部は、前記予熱室における粉末成形体の進行方向左右の壁部のうち一方の壁部側に設けられており、
前記遮蔽部は、帯板状の部材からなっており、
この帯板状の部材は、その長手方向の側縁が、他方の壁部の内面に沿って配設されていることが好ましい。燃焼ガスが予熱室の一方の壁部側から当該予熱室内に供給される場合、この一方の壁部と対向する他方の壁部側に多くの燃焼ガスが供給され、この他方の壁部側に配置された粉末成形体に燃焼ガスがあたり過ぎることが考えられる。この場合でも、帯板状の部材からなる遮蔽部を、その長手方向の側縁が他方の壁部の内面に沿うように配設することで、当該他方の壁部の内面に沿う燃焼ガスの流れを遮断することができる。したがって、他方の壁部側に配置された粉末成形体に燃焼ガスがあたり過ぎることが防止され、この粉末成形体が、多すぎる燃焼ガスにより酸化されるのを防ぐことができる。
【0013】
(4)前記(1)〜(3)の開放型焼成炉において、前記燃焼ガス供給部のガス吹出し口の前方に、予熱室内に吹き出された燃焼ガスの流れの向きを上方に変える流路変更板が配設されていることが好ましい。この場合、流路変更板により燃焼ガスの流れの向きを上方に変えて予熱室の天井にあてることで、燃焼ガスを予熱室の上部空間において効果的に拡散させることができる。
【0014】
(5)前記(2)〜(4)の開放型焼成炉において、前記遮蔽部が、前記分散板と一体に形成されていることが好ましい。この場合、遮蔽部が分散板と一体に形成されているので、部品点数を減らすことができる。
【0015】
(6)前記(1)〜(5)の開放型焼成炉において、前記分散板を、複数の開口部を有するセラミックス板からなるものとすることができる。この場合、丸孔などからなる開口部の大きさ、位置、個数などを適宜調整することにより、燃焼ガスの分散性をある程度調整することができる。
【0016】
(7)前記(2)〜(6)の開放型焼成炉において、予熱室内における粉末成形体の進行方向に沿って一対の燃焼ガス供給部が設けられており、
前記遮蔽部は、一対の燃焼ガス供給部のうち進行方向下流側の燃焼ガス供給部に対応して配設されていることが好ましい。下流側の燃焼ガス供給部は、上流側よりも高温の燃焼ガスが供給されるので、燃焼ガスのあたり過ぎによる粉末成形体の酸化の影響が大きい。かかる下流側の燃焼ガス供給部に対応して遮蔽部を設けることで、必要最小限の設備(遮蔽部)で粉末成形体の酸化を防ぐことができる。
【0017】
(8)本発明の第1の観点に係る開放型焼成炉における脱ろう方法は、予熱室、加熱室、徐冷室及び冷却室がこの順に設けられた開放型焼成炉における前記予熱室において、金属粉末を加圧成形した粉末成形体に含まれる金型潤滑剤を除去する脱ろう方法であって、
前記粉末成形体を予熱する燃焼ガスの温度を590〜610℃の範囲内に設定するとともに、当該燃焼ガスの組成比をブタン:エア=1:21〜25の範囲内に設定することを特徴としている。
【0018】
本発明の第1の観点に係る開放型焼成炉における脱ろう方法では、粉末成形体を予熱する燃焼ガスの温度を590〜610℃の範囲内に設定しているので、粉末成形体を構成する金属粉末が酸化されるのを抑制しつつ当該粉末成形体に含まれる金型潤滑剤を効果的に気化させることができる。また、燃焼ガスの組成比をブタン:エア(空気)=1:21〜25の範囲内に設定し、ブタンが完全燃焼するとき(このときの組成比はブタン:エア=1:31)よりもブタンの割合を多くしているので、ブタンによる「スス」の発生を抑制しつつ、ブタンが有する浸炭性を利用して製品の硬度を大きくすることができる。
なお、本発明において、金型潤滑剤の種類はワックス(ろう)に限定されるものではないが、一般的にワックスが多用されていることから、予熱工程において金型潤滑剤を気化させて除去する方法を「脱ろう方法」と称することにする。
【0019】
(9)また、本発明の第2の観点に係る開放型焼成炉における脱ろう方法は、前記(1)の開放型焼成炉における前記予熱室において、金属粉末を加圧成形した粉末成形体に含まれる金型潤滑剤を除去する脱ろう方法であって、
前記粉末成形体を予熱する燃焼ガスの温度を590〜610℃の範囲内に設定するとともに、当該燃焼ガスの組成比をブタン:エア=1:21〜25の範囲内に設定することを特徴としている。
【0020】
本発明の第2の観点に係る開放型焼成炉における脱ろう方法においても、前記第1の観点に係る開放型焼成炉における脱ろう方法と同様に、粉末成形体を予熱する燃焼ガスの温度を590〜610℃の範囲内に設定しているので、粉末成形体を構成する金属粉末が酸化されるのを抑制しつつ当該粉末成形体に含まれる金型潤滑剤を効果的に気化させることができる。また、燃焼ガスの組成比をブタン:エア=1:21〜25の範囲内に設定し、ブタンが完全燃焼するときよりもブタンの割合を多くしているので、ブタンによる「スス」の発生を抑制しつつ、ブタンが有する浸炭性を利用して製品の硬度を大きくすることができる。
【0021】
さらに、本発明の第2の観点に係る開放型焼成炉における脱ろう方法では、前記(1)の開放型焼成炉を用いているので、予熱室内に配設された分散板により当該予熱室内に供給された燃焼ガスを分散させることができ、粉末成形体に均一に燃焼ガスを供給することができる。これにより、燃焼ガスがあたりすぎることに起因する粉末成形体の酸化、さらには脱炭現象を防ぐことができる。
【0022】
(10)前記(8)又は(9)の開放型焼成炉における脱ろう方法において、前記燃焼ガスの温度を略600℃に設定することが好ましい。この場合、より効果的に、粉末成形体を構成する金属粉末が酸化されるのを抑制しつつ当該粉末成形体に含まれる金型潤滑剤を効果的に気化させることができる。
【0023】
(11)前記(8)又は(9)の開放型焼成炉における脱ろう方法において、前記燃焼ガスの組成比をブタン1に対してエアを略22に設定することが好ましい。この場合、より効果的に、ブタンによる「スス」の発生を抑制しつつ、ブタンが有する浸炭性を利用して製品の硬度を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の開放型焼成炉及び当該焼成炉における脱ろう方法によれば、従来の開放型焼成炉において不可避であった脱炭現象を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】開放型プッシャー焼成炉の概略説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る開放型プッシャー焼成炉における予熱室の平面説明図である。
【図3】図2に示される予熱室の横断面説明図である。
【図4】燃焼ガスの温度と工程能力との関係を示す図である。
【図5】燃焼ガスを構成するブタンとエアの組成比と、工程能力との関係を示す図である。
【図6】脱炭の有無を示す図である。
【図7】分散板の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の開放型焼成炉及び当該焼成炉における脱ろう方法の実施の形態を詳細に説明する。
図1はプッシャーによりワークの移動を行う開放型プッシャー焼成炉の概略説明図であり、図2は、本発明の一実施の形態に係る開放型プッシャー焼成炉Fにおける予熱室1の平面説明図であり、図3は、図2に示される予熱室1の横断面説明図である。
【0027】
開放型プッシャー焼成炉Fは、耐火物及び断熱材で構築されたトンネル状の構造体であり、入口側から順に予熱室1、加熱室2、徐冷室3及び冷却室4が連設されている。各室の床面にはスキッドレール5が敷設されており、このスキッドレール5に沿ってトレイ6に載置されたワーク(粉末成形体)の積層体19が予熱室2から冷却室5へと移動する。トレイ6の炉内への搬入及び炉内での移動は、炉外に配設されたプッシャー7により行われる。
【0028】
トレイ6の上には、耐火板8を挟んでワーク9が複数段載置されている。複数のワーク9及び複数枚の耐火板8によりワークの積層体19が構成されている。トレイ6は、後続するトレイ6に押されて順次出口側へと移動する。
予熱室1には、当該予熱室1内に燃焼ガスを供給するための燃焼ガス供給部であるラジアントバーナー10が設けられており、加熱室2の内側にはヒータ11が設けられている。また、冷却室4の外周には冷却用水ジャケット12が配設されている。
【0029】
予熱室1内に搬入されたワーク9は、ラジアントバーナー10により供給される燃焼ガスの燃焼熱により当該ワーク9に含まれていた金型潤滑剤が気化され、除去される。続く加熱室2において、金型潤滑剤が除去されたワーク9が所定の温度(例えば、1250℃)まで加熱され焼結される。焼結されたワーク9は、続く徐冷室3及び冷却室4において徐々に冷却され、炉外に搬出される。
【0030】
本実施の形態では、図2に示されるように、ワーク9の進行方向(図2の矢印Aで示される方向)に沿って一対のラジアントバーナー10a、10bが配設されている。一方のラジアントバーナー10aは、ワーク9の進行方向を向いて左側の壁部の上部に配設されており、他方ラジアントバーナー10bは、前記のラジアントバーナー10aよりも下流であって、ワーク9の進行方向を向いて右側の壁部の上部に配設されている。ラジアントバーナー10a、10bでは、ブタンとエアの混合ガスが燃焼され、この燃焼ガスが、ラジアントバーナー10a、10bのガス吹き出し口16a、16bから予熱室1の上部空間に供給される。図2において、13はブタンとエアの混合ガスの供給管である。
【0031】
予熱室1内には、ラジアントバーナー10a、10bから供給された燃焼ガスをワーク9に向けて分散して供給する分散板20a、20bが配設されている。分散板20aは、ラジアントバーナー10aに対応して配設されており、分散板20bは、ラジアントバーナー10bに対応して配設されている。分散板20a、20bは、予熱室1の壁上部の段部17上に載置されている。
【0032】
分散板20a、20bは、平面視矩形状であり、その側面は、図3に示されるように、中央で屈曲した山形形状を呈している。分散板20a、20bは、厚さ50〜90mm程度のセラミック板からなり、複数の丸孔(開口部)21が千鳥状に形成されている。丸孔21の直径及びピッチは、燃焼ガスの分散性を考慮して適宜選定することができるが、例えば直径25mm、ピッチ50mmとすることができる。また、開口率も、燃焼ガスの分散性を考慮して適宜選定することができるが、例えば15%とすることができる。
【0033】
ラジアントバーナー10bのガス吹き出し口16bの前方(吹き出し方向前方)には、予熱室1内に吹き出された燃焼ガスの流れの方向を上方に変える流路変更板25が配設されている。流路変更板25は、ガス吹き出し口16bの前方において、当該ガス吹き出し口16bから離れるにしたがって上に位置するように、傾斜して配置されている。その結果、ガス吹き出し口16bから吹き出された燃焼ガスは流路変更板25の表面25aにあたり、図3において矢印で示されるように、流れの方向を上方に変更し、さらに予熱室1の天井1cにあたり、流れの方向を下方又は斜め下に変更する。これにより、予熱室1の上部空間において、燃焼ガスを効果的に分散させることができる。
【0034】
流路変更板25は、例えばアルミナで作製することができ、その厚さは50〜70mm程度とすることができる。流路変更板25は、前記分散板20bに固定された一対の支持部26により支持されている。
【0035】
予熱室1におけるワーク9の進行方向左右の壁部1a、1bのうち、ラジアントバーナー10bが設けられた壁部1aと対向する壁部1bの内面に沿って遮蔽部30が設けられている。この遮蔽部30は、帯板状の部材からなり、その長手方向の側縁が壁部1bの内面に沿って配設されている。本実施の形態では、分散板20bの長手方向(図2において左右方向)の寸法と遮蔽部30の長手方向の寸法は同一にされている。遮蔽部30の幅(短手方向の寸法)は、本発明において特に限定されるものではないが、例えば100〜130mm程度とすることができる。遮蔽部30は、例えばアルミナで作製することができる。
【0036】
予熱室1の一方の壁部側から燃焼ガスが当該予熱室内に供給される場合、この一方の壁部と対向する他方の壁部側に多くの燃焼ガスが供給され、この他方の壁部側に配置されたワーク9に燃焼ガスがあたり過ぎることが考えられる。しかし、本実施の形態のように、帯板状の部材からなる遮蔽部30を、その長手方向の側縁が他方の壁部の内面に沿うように配設すると、当該他方の壁部の内面に沿う燃焼ガスの流れを遮断することができる。したがって、他方の壁部側に配置されたワーク9に燃焼ガスがあたり過ぎることが防止され、このワーク9が、多すぎる燃焼ガスにより酸化されるのを防ぐことができる。
【0037】
本実施の形態では、一対のラジアントバーナー10a、10bのうち、ワーク9の進行方向下流側のラジアントバーナー10bだけに対応して前記流路変更板25及び遮蔽部30が設けられており、上流側のラジアントバーナー10aには流路変更板25及び遮蔽部30が設けられていない。下流側のラジアントバーナー10bは、上流側よりも高温の燃焼ガスが供給されるので、燃焼ガスのあたり過ぎによるワーク9の酸化の影響が大きい。換言すると、上流側のラジアントバーナー10aから吹き出される燃焼ガスの温度は比較的低温であるので、燃焼ガスによりワーク9が酸化されることがほとんどない。したがって、影響が大きい下流側のラジアントバーナー10bに対応して流路変更板25及び遮蔽部30を設けることで、必要最小限の設備でワーク9の酸化を防ぐことができる。
【0038】
本発明では、予熱室1内において、ワーク9を予熱する燃焼ガスの温度を590〜610℃の範囲内に設定するとともに、当該燃焼ガスの組成比をブタン:エア=1:21〜25の範囲内に設定している。燃焼ガスの温度は、高温になるほどワーク9の酸化が進むので低温であるほうが好ましいが、温度が低すぎると金型潤滑剤の気化が抑制され、また、設備的に例えば550℃以下の設定は困難であるので、590〜610℃の範囲内に設定している。この範囲内に設定することで、ワーク9を構成する金属粉末が酸化されるのを抑制しつつ当該ワーク9に含まれる金型潤滑剤を効果的に気化させることができる。
【0039】
また、本発明では、ブタンが完全燃焼するとき(このときの組成比はブタン:エア=1:31である)よりもブタンの割合を多くしている。すなわち、燃焼ガス中に積極的にブタンを残存させている。ブタンは浸炭性を有しており、このブタンをワーク9にあてることで当該ワーク9の硬度を大きくすることができるが、一方において、ブタンはススを発生しやすいため、多すぎるとワーク9に付着して外観不良を引き起こす。そこで、燃焼ガスの組成比をブタン:エア=1:21〜25の範囲内に設定することで、ブタンによる「スス」の発生を抑制しつつ、ブタンが有する浸炭性を利用して製品の硬度を大きくすることができる。
【0040】
前記温度範囲のうち、燃焼ガスの温度は略600℃に設定することが好ましい。この場合、より効果的に、ワーク9を構成する金属粉末が酸化されるのを抑制しつつ当該ワーク9に含まれる金型潤滑剤を効果的に気化させることができる。
また、前記組成範囲のうち、燃焼ガスの組成比をブタン1に対してエアを略22に設定することが好ましい。この場合、より効果的に、ブタンによる「スス」の発生を抑制しつつ、ブタンが有する浸炭性を利用して製品の硬度を大きくすることができる。
【0041】
次に、燃焼ガスの温度又はガス組成を種々変更して行った実験結果について説明する。
表1及び図4は、燃焼ガスの組成比を一定にし(ブタン:エア=1:31)、燃焼ガスの温度を580℃、600℃、650℃、700℃と変えた場合における、製品の硬さ(ロックウェル硬さ)及び工程能力を調べた結果を示している。予熱室の上部空間には、図2〜3に示される流路変更板、分散板及び遮蔽部を配設した。分散板及び遮蔽部の仕様は、以下のとおりであった。
流路変更板
材質 :アルミナ
厚さ :60mm
長さ :345mm
幅 :345mm
分散板
材質 :セラミックス
厚さ :70mm
孔ピッチ:50mm
孔直径 :25mm
開孔率 :15%
遮蔽部
材質 :アルミナ
厚さ :60mm
長さ :690mm
幅 :115mm
【0042】
【表1】

【0043】
表1及び図4より、600℃付近で工程能力が最も大きくなることが分かる。
【0044】
表2及び図5は、燃焼ガスの温度を一定(700℃)にし、燃焼ガスの組成比(ブタン:エア)を1:18、1:20、1:22、1:25、1:27、1:31と変えた場合における、製品の硬さ(ロックウェル硬さ)及び工程能力を調べた結果を示している。予熱室の上部空間には、図2〜3に示される流路変更板、分散板及び遮蔽部を配設した。分散板及び遮蔽部の仕様は、前記のとおり(表1の実験条件と同じ)であった。
【0045】
【表2】

【0046】
表2及び図5より、燃焼ガスにおけるブタンの割合が多くなるとススの発生が観察され、また、割合が少なくなると工程能力が基準値とされる1.33を下回ることが分かる。
【0047】
表3は、以上の結果をまとめたものである。比較例は、従来の開放型焼成炉を用いて、燃焼ガス温度700℃、燃焼ガス組成比1:31でワークの予熱を行なった。実施例1〜4は、天井構造、温度及びガス組成比を表3に示されるように変えてワークの予熱を行った。
【0048】
【表3】

【0049】
比較例の場合、硬さ不良率は2.8%であり、また工程能力は0.63であった。比較例における硬さ不良は、前述したようにワークの酸化に起因する脱炭現象によるものである。図6の(a)は、比較例1に係る製品の材料組織の電子顕微鏡写真である。脱炭現象により、白色組織(カーボンを含まないフェライト)が多くなっていることが分かる。
【0050】
これに対し、実施例では、いずれも硬さ不良率は0%であった。特に、前述した流路変更板、分散板及び遮蔽部を採用し、燃焼ガス温度を600℃にし、且つ、燃焼ガス組成比をブタン1に対しエア22とした実施例4では、製品の硬さ及び工程能力において最も優れていることが分かる。図6の(b)は、実施例4に係る製品の材料組織の電子顕微鏡写真である。白色と黒色の混合組織(カーボンを含むベントナイトが多い)であり、脱炭現象のない正常な組織であることが分かる。
【0051】
〔その他の変形例〕
なお、本発明は前述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、前述した実施の形態では、分散板と遮蔽部とが別体であるが、例えば図7に示されるように両者を一体に形成することもできる。図7に示される例では、分散板120のうちラジアントバーナーの吹き出し口から遠い側に配設される側縁120aから内側に向かう所定範囲に孔121が形成されていない。そして、この孔121が形成されていない帯状の領域130が遮蔽部とされている。この場合でも、領域130によって、ラジアントバーナーの吹き出し口から遠い側の壁部内面に沿う燃焼ガスの流れを遮断することができる。
また、前述した実施の形態では、分散板の開口部である丸孔の大きさを同じ大きさにしているが、場所により開口部の大きさを変えることもできる。例えば、ラジアントバーナーの吹き出し口から遠い側の開口部を小さくすることで、当該ラジアントバーナーの吹き出し口から遠い側の壁部内面に沿う燃焼ガスの流れを抑制ないし実質的に遮断することができる。この場合は、遮蔽部を採用しなくても、分散板によって粉末成形体にあたる燃焼ガス量を均一にすることができる。
【0052】
また、前述した実施の形態では、分散板の開口部として丸孔を採用しているが、長孔、矩形開口など他の形状の開口部であってもよい。
また、前述した実施の形態では、支持部26により流路変更板25を支持しているが、流路変更板25を予熱室1の天井1cから吊るす構造を採用することもできる。
【0053】
また、前述した実施の形態では、一対のラジアントバーナーを用いているが、ラジアントバーナーの数は1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 予熱室
2 加熱室
3 徐冷室
4 冷却室
9 ワーク(粉末成形体)
10a ラジアントバーナー(燃焼ガス供給部)
10b ラジアントバーナー(燃焼ガス供給部)
16a ガス吹き出し口
16b ガス吹き出し口
20a 分散板
20b 分散板
21 孔(開口部)
25 流路変更板
26 支持部
30 遮蔽部
F 開放型プッシャー焼成炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予熱室、加熱室、徐冷室及び冷却室がこの順に設けられ、金型潤滑剤を含む金属粉末を加圧成形した粉末成形体を焼結する開放型焼成炉であって、
前記予熱室の上部空間に燃焼ガスを供給する燃焼ガス供給部と、
前記予熱室内に配設されており、供給された燃焼ガスを、当該予熱室内に搬送された粉末成形体に向けて分散して供給する分散板と
を備えたことを特徴とする開放型焼成炉。
【請求項2】
前記粉末成形体にあたる燃焼ガス量を調整するために前記分散板に設けられた遮蔽部を更に備えている請求項1に記載の開放型焼成炉。
【請求項3】
前記燃焼ガス供給部は、前記予熱室における粉末成形体の進行方向左右の壁部のうち一方の壁部側に設けられており、
前記遮蔽部は、帯板状の部材からなっており、
この帯板状の部材は、その長手方向の側縁が、他方の壁部の内面に沿って配設されている請求項2に記載の開放型焼成炉。
【請求項4】
前記燃焼ガス供給部のガス吹出し口の前方に、予熱室内に吹き出された燃焼ガスの流れの向きを上方に変える流路変更板が配設されている請求項1〜3のいずれかに記載の開放型焼成炉。
【請求項5】
前記遮蔽部が、前記分散板と一体に形成されている請求項2〜4のいずれかに記載の開放型焼成炉。
【請求項6】
前記分散板が、複数の開口部を有するセラミックス板からなる請求項1〜5のいずれかに記載の開放型焼成炉。
【請求項7】
予熱室内における粉末成形体の進行方向に沿って一対の燃焼ガス供給部が設けられており、
前記遮蔽部は、一対の燃焼ガス供給部のうち進行方向下流側の燃焼ガス供給部に対応して配設されている請求項2〜6のいずれかに記載の開放型焼成炉。
【請求項8】
予熱室、加熱室、徐冷室及び冷却室がこの順に設けられた開放型焼成炉における前記予熱室において、金属粉末を加圧成形した粉末成形体に含まれる金型潤滑剤を除去する脱ろう方法であって、
前記粉末成形体を予熱する燃焼ガスの温度を590〜610℃の範囲内に設定するとともに、当該燃焼ガスの組成比をブタン:エア=1:21〜25の範囲内に設定することを特徴とする開放型焼成炉における脱ろう方法。
【請求項9】
請求項1記載の開放型焼成炉における前記予熱室において、金属粉末を加圧成形した粉末成形体に含まれる金型潤滑剤を除去する脱ろう方法であって、
前記粉末成形体を予熱する燃焼ガスの温度を590〜610℃の範囲内に設定するとともに、当該燃焼ガスの組成比をブタン:エア=1:21〜25の範囲内に設定することを特徴とする開放型焼成炉における脱ろう方法。
【請求項10】
前記燃焼ガスの温度を略600℃に設定する請求項8又は請求項9に記載の開放型焼成炉における脱ろう方法。
【請求項11】
前記燃焼ガスの組成比をブタン1に対してエアを略22に設定する請求項8〜10のいずれかに記載の開放型焼成炉における脱ろう方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−154583(P2012−154583A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15483(P2011−15483)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】