説明

関節軟骨損傷治癒促進剤及びそれを含有する飲食品

【課題】安全性が高く、効果の高い関節軟骨損傷治癒促進剤を提供する。
【解決手段】グリセロリン脂質、好ましくは、グリセロリン脂質が、ホスファチジルコリン、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、リゾホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、リゾホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール及びリゾホスファチジルグリセロールからなる群から選ばれる1又は2以上のものを有効成分として含有することを特徴とする関節軟骨損傷治癒促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節軟骨損傷治癒促進剤及びそれを含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
骨と骨の接合部である関節は、自由な角度に折れ曲がることができ、動物が運動を行う上で重要な役割を果している。
【0003】
関節の骨と骨とが接する面には粘弾性に富んだ関節軟骨が存在しており、関節を保護すると共に関節面を滑らかにして関節の動きを円滑にしている。
【0004】
しかしながら、激しい運動や怪我等によって関節軟骨が欠損したり、損傷を受けると、関節軟骨は自然治癒力に乏しいため、悪化して変形性関節症に移行しやすいことが知られている。従来、関節軟骨の再生方法として、i)損傷を受けていないところの軟骨を損傷したところに移植する方法(モザイクプラスティ)、ii)関節鏡を使って、自分の関節軟骨を取り出し、取り出した関節軟骨の中の軟骨細胞を損傷した軟骨に移植する方法(カーティセル)等が知られている。
【0005】
近年、上記のような外科的治療だけでなく、軟骨損傷の治癒を促進するために、軟骨組織の構成成分となっているII型コラーゲン(特許文献1、2、非特許文献1)やヒアルロン酸(特許文献3)を経口投与して治療効果を得ようとする試みもなされており、変形性関節症や関節炎の治療に対して有効的であったという報告もある。
【0006】
他方、グリセロリン脂質は、細胞の膜様構造部位に特異的に存在し、タンパク質と共に生体膜の主要な構成成分として知られている。脳、神経、内臓、血液、卵、種子などの部位に多く含まれ、生命維持のために多くの機能を果たしている。
【0007】
その他として、近年各種リン脂質の機能性が明らかとなりつつある。例えば、レシチンの主要成分であるホスファチジルコリン(PC)には、美白効果を得る作用(特許文献4、5)、炎症刺激で誘導されるコラーゲン産生を抑制する作用(非特許文献2)、損傷部皮膚の収縮を抑制して回復を調節する作用(非特許文献3)などが報告され、ホスファチジン酸(PA)にはプロテインキナーゼC(PKC)を活性化して毛髪再生を促進する作用(特許文献6)、腫瘍細胞の膜流動性を向上させ多剤耐性を一変させる作用(特許文献7)、またリゾホスファチジン酸(LPA)には細胞増殖作用、環状リゾホスファチジン酸(cPA)には細胞増殖抑制活性(非特許文献4)が報告されている。他にも、ホスファチジルセリン(PS)には脳機能改善効果(非特許文献5)や神経突起伸張活性(非特許文献6)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)には神経栄養作用(非特許文献7)が報告されている。
【0008】
しかしながら、グリセロリン脂質が関節軟骨損傷治癒促進作用を有することは全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−327979号公報
【特許文献2】特開2005−232089号公報
【特許文献3】特開2007−314531号公報
【特許文献4】特開2004−59496号公報
【特許文献5】特開2005−272444号公報
【特許文献6】特開2006−76967号公報
【特許文献7】特開2006−143744号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】第61回日本栄養・食糧学会大会、4I−6p、「コラーゲン・トリペプチドの変形性膝関節症に対する効果」
【非特許文献2】J.Lab.Clin.Med.,139(2002)、202−210
【非特許文献3】J.Invest.Surg.,17(2004)、15−22
【非特許文献4】蛋白質 核酸 酵素、Vol.44、No.8(1999)、1118−1125
【非特許文献5】FOOD Style 21、Vol.6、No.11(2002)、108−116
【非特許文献6】日本農芸化学会 2004年大会、3A19p23、「卵黄由来ホスファチジルセリンが神経突起伸張に与える影響」
【非特許文献7】J.Lipid Research、47(2006)、1434−1443
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、これらの経口摂取可能な関節軟骨損傷治癒促進剤のうち、コラーゲンはアレルギーなどでタンパク質に過剰反応する人は注意が必要であり、ヒアルロン酸は経口摂取での安全性については信頼できる充分なデータがないなど安全性に関する問題点があった。
【0012】
本発明の目的は、安全性の高い関節軟骨損傷治癒促進剤及びそれらを含有する飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、グリセロリン脂質に関節軟骨損傷治癒促進作用があることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は、グリセロリン脂質を有効成分として含有することを特徴とする関節軟骨損傷治癒促進剤を要旨とするものであり、好ましくは、グリセロリン脂質が、ホスファチジルコリン、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、リゾホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、リゾホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール及びリゾホスファチジルグリセロールからなる群から選ばれる1又は2以上のものである関節軟骨損傷治癒促進剤である。
【0015】
また、別の本発明は、前記した関節軟骨損傷治癒促進剤を含む飲食品を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、食経験が充分にあるグリセロリン脂質を有効成分として含有させることにより経口摂取でより安全性の高く、効果の高い関節軟骨損傷治癒促進剤を提供でき、またそのような関節軟骨損傷治癒促進剤を大量にかつ容易に製造し得る。また、本発明の飲食品は、グリセロリン脂質を有効成分とする関節換骨損傷治癒促進剤を配合しているので安全性が高く、日常的に摂取可能であり、これを喫食することにより関節軟骨損傷の予防効果及び治癒促進の生理機能を付与した飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の関節軟骨損傷治癒促進は、必須成分としてグリセロリン脂質を単独又は2つ以上組み合わせたものを有効成分とする。グリセロリン脂質として、エステル型(モノアシル型、ジアシル型)、エーテル型(アルキル型、アルキルアシル型、アルケニルアシル型、ジアルキル型)、ホスホノ型(C−P化合物)の存在が知られている。
【0019】
本発明に用いられるグリセロリン脂質は、エステル型グリセロリン脂質が望ましく、より具体的にはホスファチジルコリン、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、リゾホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、リゾホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール及びリゾホスファチジルグリセロールなどが挙げられる。これらの中でも、ホスファチジルコリン、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、リゾホスファチジン酸の効果が高いため好ましい。
【0020】
本発明に用いられるエステル型グリセロリン脂質を構成する脂肪酸は、少なくとも一つ以上が不飽和脂肪酸であることが好ましく、その不飽和脂肪酸の不飽和度が1以上で炭素数が4以上であることがより望ましい。より具体的にはブテン酸(C4:1、例えばクロトン酸、イソクロトン酸など)、ペンテン酸(C5:1)、ヘキセン酸(C6:1)、ヘプテン酸(C7:1)、オクテン酸(C8:1)、ノネン酸(C9:1)、デセン酸(C10:1)、ウンデセン酸(C11:1)、ドデセン酸(C12:1、例えばラウロレイン酸など)、トリデセン酸(C13:1)、テトラデセン酸(C14:1、例えばミリストレイン酸、ミリステライジン酸など)、ペンタデセン酸(C15:1)、ヘキサデセン酸(C16:1、例えばパルミトレイン酸、パルミテライジン酸など)、ヘプタデセン酸(C17:1)、オクタデセン酸(C18:1、例えばペトロセリン酸、ペトロセライジン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸など)、ノナデセン酸(C19:1)、エイコセン酸(C20:1、例えばガドレイン酸、ゴンドレン酸など)、ドコセン酸(C22:1、例えばエルカ酸、ブラッシジン酸、セトレイン酸など)、テトラコセン酸(C24:1、例えばネルボン酸など)、ヘキサコセン酸(C26:1)、オクタコセン酸(C28:1)、トリアコンテン酸(C30:1)、ペンタジエン酸(C5:2)、ヘキサジエン酸(C6:2、例えばソルビン酸など)、ペプタジエン酸(C7:2)、オクタジエン酸(C8:2)、ノナジエン酸(C9:2)、デカジエン酸(C10:2)、ウンデカジエン酸(C11:2)、ドデカジエン酸(C12:2)、トリデカジエン酸(C13:2)、テトラデカジエン酸(C14:2)、ペンタデカジエン酸(C15:2)、ヘキサデカジエン酸(C16:2)、ヘプタデカジエン酸(C17:2)、オクタデカジエン酸(C18:2、例えばリノール酸、リノエライジン酸など)、エイコサジエン酸(C20:2)、ドコサジエン酸(C22:2)、テトラコサジエン酸(C24:2)、ヘキサコサジエン酸(C26:2)、オクタコサジエン酸(C28:2)、トリアコンタジエン酸(C30:2)、ヘキサデカトリエン酸(C16:3)、オクタデカトリエン酸(C18:3、例えばα−リノレン酸、γ−リノレン酸、など)、エイコサトリエン酸(C20:3、例えばジホモ−γ−リノレン酸、ミード酸など)、ドコサトリエン酸(C22:3)、テトラコサトリエン酸(C24:3)、ヘキサコサトリエン酸(C26:3)、オクタコサトリエン酸(C28:3)、トリアコンタトリエン酸(C30:3)、オクタデカテトラエン酸(C18:4、例えばステアリドン酸など)、エイコサテトラエン酸(C20:4、例えばアラキドン酸など)、ドコサテトラエン酸(C22:4、例えばアドレン酸など)、テトラコサテトラエン酸(C24:4)、ヘキサコサテトラエン酸(C26:4)、オクタコサテトラエン酸(C28:4)、トリアコンタテトラエン酸(C30:4)、エイコサペンタエン酸(C20:5)、ドコサペンタエン酸(C22:5、例えばクルパドノン酸など)、テトラコサペンタエン酸(C24:5)、ドコサヘキサエン酸(C22:6)、テトラコサヘキサエン酸(C24:6、例えばニシン酸など)、などが挙げられる。
【0021】
上記に示した直鎖不飽和脂肪酸以外にもルメン酸(C18:2)、カレンジン酸(C18:3)、ジャカリン酸(C18:3)、エレオステアリン酸(C18:3)、カタルピン酸(C18:3)、プニカ酸(C18:3)、ルメレン酸(C18:3)のような共役脂肪酸、リシノレイン酸(C18:1)やリシネライジン酸(C18:1)、ジモルフェコリン酸(C18:2)のような水酸化不飽和脂肪酸、ベモリン酸(C18:1)のようなエポキシ脂肪酸、ウロフラン酸のようなフラノイド脂肪酸、ミコリン酸のような高分子量の分岐鎖不飽和脂肪酸、その他メトキシ不飽和脂肪酸や環状不飽和脂肪酸などであってもよく、不飽和度が1以上で炭素数が4以上であれば構造や種類は特に限定されない。
【0022】
本発明に用いられるグリセロリン脂質は、グリセロリン脂質を含有する素材から水や有機溶剤で抽出することにより得ることができる。例えば、大豆、菜種などの植物素材由来、卵黄などの動物素材由来、菌類や細菌類由来のグリセロリン脂質を抽出することができる。ここで用いられる有機溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの炭化水素、エタノール、アセトニトリル、酢酸エステル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキサン、グリコール、石油エーテル、THF、アセトン、塩化メチレン、クロロホルムなどが挙げられる。抽出にはこれら溶剤を単独で又は2種類以上を混合して用いることができるが、特にエタノール、アセトン、ヘプタン、石油エーテルが好ましい。
【0023】
抽出に用いる溶剤の量に特に制限はないが、グリセロリン脂質を含有する素材の重量に対して2〜10倍量を用いることが好ましい。2倍量以下では操作性が、10倍量以上では作業効率が悪い。
【0024】
また、抽出は1種又は複数種の溶剤を用いて、複数回行うこともできる。複数回行う場合は、グリセロリン脂質を含有する素材からの抽出でもよいし、グリセロリン脂質を含有する素材から得られた抽出画分をさらに抽出してもよい。また、それらを組み合わせて行うことができる。
【0025】
抽出操作の際の温度は、特に制限はないが10〜60℃が好ましい。10℃以下では抽出効率が悪く、60℃以上ではグリセロリン脂質以外の不純物も抽出されやすくなり、純度が低下してしまう。抽出時間にも特に制限はないが、1時間〜2日間程度が好ましい。1時間以下では抽出量が少なく、2日間以上では作業効率が低い。また、抽出は静置のまま行うこともできるが、撹拌又は振盪などすることによって抽出効率を高めることができる。
【0026】
また、本発明に用いられるグリセロリン脂質は、上記のようにして得られたグリセロリン脂質をさらに精製や化学処理やホスホリパーゼなど酵素処理等をしたグリセロリン脂質、化学合成品や酵素合成品を用いることも可能である。
【0027】
酵素処理の例としては、天然レシチンを酵素と反応させる例を挙げることができる。天然レシチンとしては、例えば、大豆、菜種、魚などの水産物、卵黄などに由来するレシチンが挙げられる。酵素としては、好ましくは、リパーゼ、ホスホリパーゼD、ホスホリパーゼA1、およびホスホリパーゼA2からなる群より選択される少なくとも1種が用いられる。酵素反応条件は、用いる酵素に応じて、当業者により適宜決定され得る。
【0028】
以上のようにして抽出などにより得られたグリセロリン脂質は、そのままで本発明の関節軟骨損傷治癒促進剤の有効成分として使用してもよく、また本発明の効果を損なわない限りで濃縮、脱色、脱塩、分配、粉末化等の処理を施したものを使用してもよい。例えば、減圧濃縮して溶媒を溜去して固形分含量を高めたものとしてもよく、活性炭処理により着色成分を除去したものでもよく、水層と有機溶媒層との液/液分配により水溶性成分を除去したものでもよい。また、順相系や逆相系の各種クロマトグラフィー等で精製してもよい。さらに、それら抽出物あるいは処理品にデキストリンや乳糖等の賦形剤を添加して粉末化したものでもよい。
【0029】
本発明の関節軟骨損傷治癒促進剤は、上記のグリセロリン脂質を関節軟骨損傷治癒促進剤中に、好ましくは1〜100質量%、より好ましくは10〜100質量%の割合で含有される。
【0030】
また、本発明の関節軟骨損傷治癒促進剤には、上記グリセロリン脂質に加えて、N−アセチルグルコサミン、ヒアルロン酸、コラーゲン若しくはその加水分解物などの関節軟骨損傷治癒促進作用が報告されている成分を一緒に含有することもできる。
【0031】
本発明の関節軟骨損傷治癒促進剤は、経口摂取可能な形態、例えば粉末、散剤、顆粒、錠剤、カプセルなどの剤型にすることができ、また飲料などの食品に配合することもできる。飲食品に配合した場合は、日常的に摂取しやすくなり、そのため関節軟骨疾患の予防および治療が可能となる。
【0032】
本発明の関節軟骨損傷治癒促進剤の摂取量は、特に制限はないが、通常、グリセロリン脂質の量が0.01〜10g/日となるような量である。もちろん、摂取する者の年齢、体重、症状、投与期間、治療経過等に応じて変化させることもできる。1日あたりの量を数回に分けて摂取することもできる。また、他の関節軟骨損傷治癒に有効な素材と組み合わせて摂取することもできる。
【0033】
本発明の関節軟骨損傷治癒促進剤は、軟骨組織を構成する軟骨細胞の基となる前駆軟骨細胞の増殖を促進する。さらに、この前駆軟骨細胞の軟骨細胞への分化を促進してコラーゲンやグリコサミノグリカンを蓄積させる作用も有することから、軟骨組織の再生に有効なものである。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
卵黄レシチンPL−30S(キユーピー株式会社製)200gにヘプタンとアセトンとの混液(3:1(容量比))を加えて溶解し、全量を2Lとした(卵黄レシチン溶液とする)。次いで、20,000UのホスホリパーゼD(名糖産業株式会社製)を含む酵素溶液(pH=8.0)740mLを調製した。この酵素溶液を卵黄レシチン溶液に添加して、撹拌しながら30℃で20時間酵素反応させた。次いで、分液後、ホスファチジン酸(PAという場合がある)を含む有機溶媒層を、エバポレーターで減圧濃縮(約3倍濃縮)した。濃縮後、濃縮物の5倍容量のアセトンを加え、不溶物として得られるPAを減圧乾燥してPA晶析物54gを得た。なお、純度は95%であった。このPA晶析物を本発明の関節軟骨損傷治癒促進剤として試験に供した。
【0036】
実施例2〜5
グリセロリン脂質として以下の市販品を購入し、それぞれ本発明の関節軟骨損傷治癒促進剤(実施例2〜5)とし、試験に供した。すなわち、1、2−Dioleoyl−sn−glycero−3−phosphate sodium salt (DOPA;Avanti Polar Lipids社製)(実施例2)、1、2−Dioleoyl−sn−glycero−3−phosphocholine sodium salt (DOPC;Avanti Polar Lipids社製)(実施例3)、1−Oleoyl−sn−glycero−3−phosphate sodium salt (LPA;Avanti Polar Lipids社製)(実施例4)、1−Oleoyl−sn−glycero−3−phosphocholine sodium salt (LPC;Avanti Polar Lipids社製)(実施例5)である。
【0037】
試験例1(軟骨細胞の増殖促進作用)
マウスteratocarcinoma細胞由来の前駆軟骨細胞(ATDC5:理研バイオリソースセンター)を96ウェルプレートに3×103 cells/wellずつ播種し、37℃、5%炭酸ガス存在下、5%ウシ胎児血清(FBS)を含むDMEM/HamF12(1:1)培地(WAKO)で培養した。24時間後、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含む同培地(FBSを含まない)に交換した後、実施例1〜5の関節軟骨損傷治癒促進剤を終濃度が10μg/mlとなるようにそれぞれ添加して培養を継続した。72時間後、Cell Counting Kit−8(同人化学製)を添加し、37℃で2時間反応させた際の450nmの吸光度を測定することによって細胞数を比較した。結果を表1に示した。なお、無添加群の測定値を100として相対値で評価した。
【0038】
【表1】

表1から明らかなように、卵黄由来のPA及びグリセロリン脂質(DOPA,DOPC,LPA,LPC)は前駆軟骨細胞の増殖を促進することが示され、軟骨損傷の治癒に対して有効であることが明らかとなった。
【0039】
試験例2(コラーゲン産生促進作用)
上記したATDC5細胞を24ウェルプレートに5×10 cells/wellずつ播種し、37℃、5%炭酸ガス存在下、5%ウシ胎児血清(FBS)を含むDMEM/HamF12(1:1)培地(WAKO)で培養した。24時間後、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含む同培地(FBSを含まない)に交換した後、実施例1〜5の関節軟骨損傷治癒促進剤を終濃度が10μg/mlとなるようにそれぞれ添加して培養を3日間継続した。コラーゲン産生量は、−20℃に冷却した70%エタノールで細胞を固定した後、Sircol Soluble Collagen Assay Kit(Biocolor社)を用いて測定した。結果を表2に示した。なお、無添加群の測定値を100として相対値で評価した。
【0040】
【表2】

表2から明らかなように、卵黄由来のPA及びグリセロリン脂質(DOPA,DOPC,LPA,LPC)はコラーゲン産生を促進した。これは前駆軟骨細胞の軟骨細胞への分化が促進されたことを示しており、本発明の関節軟骨損傷治癒促進剤は軟骨損傷の治癒に対して有効であることが明らかとなった。
【0041】
試験例3(グリコサミノグリカンの蓄積促進作用)
上記したATDC5細胞を24ウェルプレートに5×10 cells/wellずつ播種し、37℃、5%炭酸ガス存在下、5%ウシ胎児血清(FBS)を含むDMEM/HamF12(1:1)培地(WAKO)で培養した。細胞がコンフルエントに達した段階で、培地にITS(終濃度1%)とともに終濃度が10μg/mlとなるように実施例1〜5の関節軟骨損傷治癒促進剤をそれぞれ添加し、培養をさらに2週間継続した。グリコサミノグリカンは細胞を−20℃の95%メタノールで細胞を固定後、1%アルシアンブルー染色液(pH2.5)で一晩細胞を染色した後、6Mグアニジン塩酸溶液を用いて2時間遮光下で色素を溶出し、溶出液の630nmの吸光度を測定することによってグリコサミノグリカン蓄積量を比較した。無添加群の測定値を100として相対値で評価した。得られた結果を表3に示した。
【0042】
【表3】

表3から明らかなように、卵黄由来のPA及びグリセロリン脂質(DOPA,DOPC,LPA,LPC)はグリコサミノグリカン蓄積が促進した。これは前駆軟骨細胞の軟骨細胞への分化が促進されたことを示しており、本発明の関節軟骨損傷治癒促進剤は軟骨損傷の治癒に対して有効であることが明らかとなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセロリン脂質を有効成分として含有することを特徴とする関節軟骨損傷治癒促進剤。
【請求項2】
グリセロリン脂質が、ホスファチジルコリン、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、リゾホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、リゾホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール及びリゾホスファチジルグリセロールからなる群から選ばれる1又は2以上のものである請求項1記載の関節軟骨損傷治癒促進剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の関節軟骨損傷治癒促進剤を含む飲食品。

【公開番号】特開2010−189315(P2010−189315A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35499(P2009−35499)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】