説明

防水型アンテナ装置

【課題】防水性を保持しつつ川床を流れる砂礫を検知できる指向性を有し、取り扱いが容易な防水型アンテナ装置を提供する。
【解決手段】両端部が水密構造に閉塞された非金属製のパイプからなり、水中に配置される防水筒202内にその軸方向に沿って同軸ケーブル203を装入し、防水筒202内に装入されている同軸ケーブル203の挿入先端部に導電性を有する二等辺三角形の平板部材からなる導体板207を接続し、さらに防水筒202内にの同軸ケーブル203の外周に電波吸収層208を形成した構造とし、導体板207の頂角を同軸ケーブル203の中心導体203aに接続すると共に、導体板207の底辺と同軸ケーブル203の外部導体203bとを抵抗器209を介して接続し、導体板207の斜辺を上下方向に向けて配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳地河川における流水中の土砂、特に掃流砂を検知するための防水型アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洪水時や中小出水時に掃流砂を計測する方法として、一定時間毎にバケツ等の容器に採取し、その容積中に含まれている土砂の量と質を計測したり、バケツの代わりに流れ込んだ掃流砂を複数の選別網体により粒径に応じて段階分けしながら捕獲する掃流砂採取器が用いられている(特許文献1)。
【0003】
また、砂防ダムの水通し天端の全面部に取り付け掃流砂捕獲装置(特許文献2)を用いて計測する方法が用いられている。
【0004】
これらに対し、川床又はスリット砂防えん堤のスリット部に設置した金属管に流砂が衝撃した際に発する音響パルス数から流砂量を間接的に推測する方法(非特許文献1)が提案されている。
【特許文献1】特開2003-3442号公報
【特許文献2】特開2002-294670号公報
【非特許文献1】「ハイドロフォンによる流砂量計測の水理模型実験への適用」砂防学会誌vol.58 No.2,p.15-25,2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術によると、前記した特許文献1、特許文献2は、主に河の下流で直接採取により行われており、時間的な砂流量変化が激しい場合や計測が長時間にわたる場合は多大な労力が必要である。前述した非特許文献1は、使用する金属管の寸法により検知信号の収集性が決まるため、その適用範囲が狭く普遍性に欠ける。また、水中で浮遊する掃流砂に対しては金属管と接触しないため、信号が得られない場合が想定される。
【0006】
そこで、人間が直接掃流砂を採取することなく長時間に渡り川床又は砂防えん堤の適所における状況を観測可能とし、掃流砂との接触・非接触に限らずその存在を捕える事を可能とする手法として、レーダーを用いることを本出願人等が提案している。
【0007】
レーダーを用いる場合、送受信アンテナを水中に水没した状態で使用するため、防水性を保持しつつ川床を流れる砂礫を検知できる指向性を有するアンテナ装置が必要とされる。
【0008】
本発明は、斯かる観点に鑑みなされたもので、防水性を保持しつつ川床を流れる砂礫を検知できる指向性を有し、取り扱いが容易な防水型アンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的を実現する防水型アンテナ装置の第1の構成は、両端部が水密構造に閉塞された非金属製のパイプからなり、水中に配置される防水筒と、前記防水筒内にその軸方向に沿って装入された同軸ケーブルと、前記防水筒内に装入されている前記同軸ケーブルの挿入先端部に接続された導電性を有する三角形の平板部材からなる導体板と、前記防水筒内に装入されている同軸ケーブルの外周に形成された電波吸収層と、を有し、前記導体板の頂角を前記同軸ケーブルの中心導体に接続すると共に、該導体板の底辺と該同軸ケーブルの外部導体とを抵抗器を介して接続し、該導体板の斜辺を上下方向に向けて配置したことを特徴とする。
【0010】
本発明の目的を実現する防水型アンテナ装置の第2の構成は、上記の構成において、前記防水筒の上方の水面中に送信アンテナからの送信波を受信アンテナに向けて反射する導体部材を一定距離を隔てて配置したことを特徴とする。
【0011】
本発明の目的を実現する防水型アンテナ装置の第3の構成は、上記の各構成において、前記抵抗器は前記導体板の底辺の離隔する2箇所にそれぞれ接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明による防水型アンテナ装置によれば、防水筒を例えば川の流れに沿って配置することにより、流れの抵抗を最小限として河床を流れる砂礫を検知することができる指向性を得ることができる。
【0013】
特に、導体板を二等辺三角形とし、底辺と高さを約2cm、約3cmとし、抵抗器を33Ωと設定することにより、水中を電波が通過する際に、その損失が比較的少ない周波数である400MHzを簡単な構成で得ることができ、しかもコンパクトに構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0015】
図1〜図3は本発明の実施形態を示し、図1はインパルスレーダーシステムのブロック図、図2は図1に示す防水型アンテナの構造を示す図、図3は図1の演算部33による信号処理を示すフローチャートである。
【0016】
図1において、送受信部1を構成するコントローラー11は、インパルス発生器12にインパルス波を発生させるための送信トリガとなるパルスを繰り返し(例えば1μs間隔にて)送信する。このインパルス発生器12は、コントローラー11より繰り返しトリガを受け、最大電力は約30dBmであり、パルス幅は0.5n秒から1n秒のインパルス波を防水型アンテナ装置2の送信アンテナ21に対して繰り返し送信する。
【0017】
防水型アンテナ装置2の送信アンテナ21は、インパルス発生器12よりインパルス波を受け、この電気信号を電波に変換し、電磁波を水中で放射する。防水型アンテナ装置2は、送信アンテナ21より放射された電波から直接カップリングする電波の他、水中を流れる掃流砂5、例えば、石や砂等から反射された複合波を受信アンテナ22で受信し、これを電気信号に変換した後、送受信部1を構成する増幅器13を介してサンプルホールド回路14に送信する。この場合、水面における波が複合波に干渉する恐れがあり、これを軽減するために送信アンテナ21及び受信アンテナ22には波よけ用導体23が設けられている。
【0018】
サンプルホールド回路14は、入力される信号のうちの1波の一部を瞬間的、例えば128psの間に捉える機能を有し、送受信部1を構成するコントローラー11によって制御される移相器15により、繰り返し入力される信号を遅延時間調整、例えば128p秒の間隔で時間遅延した後に検波し、低域通過フィルタ(LPF)16を介してA/D変換器17に送信する。
【0019】
A/D変換器17は、LPF16より受信する電気信号を繰り返しA/D変換し、コントローラー11に送信する。
【0020】
コントロー11は、A/D変換器17より受信したディジタルデータを内部に設けられた内部メモリ(不図示)に格納する。前記内部メモリには、2のべき乗分のデータ量(本実施形態では256検波分であり、検波分の単位を以降、BINと称する)×複数分のデータが格納される。
【0021】
ここで、「2のべき乗分のデータ量」とは、これらを結合させることにより、受信アンテナ22が出力する電気信号をディジタル的に復元できる仕組みになっていることを意味する。また、「複数分」とは、S/N比(SNR)向上のためにデータを積算する量を意味し、本実施形態では100としている。
【0022】
コントロー11は、前記内部メモリに格納されたデータを一定間隔(例えば、0.1sec毎)で吸上げ、インターフェイス(I/F)18を介してレベル変換した後に、信号処理部3を構成するインターフェイス(I/F)31に送信する。
【0023】
信号処理部3のインターフェイス(I/F)31は、送受信部1のインターフェイス(I/F)18から送信されたデータをレベル変換した後に演算部33へ送信する。
【0024】
演算部33はDSP(Digital Signal Processor)や汎用PCなどから構成され、図3に示すフローチャートに従った信号処理を実施し、1次元(Aモード:横軸を時間軸とし縦軸を振幅とするモード)もしくは2次元(Bモード:例えば横軸を計測件数もしくは計測時間とし縦軸を送信アンテナから受信アンテナへ伝搬される電波の遅延時間とするモード)のデータ表示を表示器34にて行うとともに、内蔵される記録媒体(不図示)に格納する。
【0025】
なお、送受信部1のコントローラー11は本システムを制御するソフトウエアが搭載されており、計測開始及び停止等計測の操作を行う機能を有する。
【0026】
また、送受信部1、信号処理部3に対して電力を供給する電源部4は、アンテナの設置場所が商用電源が使用できない山奥等であることを考慮し、例えば水力発電機41、風力発電機42、太陽電池43、二次電池44等により構成することができる。
【0027】
図2において、アンテナ装置2の送信アンテナ21及び受信アンテナ22の構造について説明する。
【0028】
これらのアンテナは、防水化のために水道用の配管等によく用いられる円筒状の塩化ビニールパイプで構成した非金属製の防水筒202の中に、硬性同軸ケーブル203を一端側から略他端側まで挿入している。
【0029】
そして、図2(b)に示すように、広帯域化のために、硬性同軸ケーブル203の挿入先端部には、底辺aが約2cm、高さbが約3cmの三角形状の導電性を有する板材で構成される導体板207を取り付け、その底角に33Ωの抵抗209を2箇所接続した広帯域型モノポールアンテナを構成している。したがって、導体板207は防水筒202内でブレることなく支持されている。
【0030】
二等辺三角形に形成された導体板207の底辺aを約2cm、高さbを約3cmとすることにより得られた斜辺dの寸法をこのように設定したのは、水中を電波が通過する場合に、その損失が比較的少ない周波数が400MHz近傍であることから、式(1)を用いて算出した数値と製作の容易性を考慮したことに起因する。
【0031】
d=c/(4f√(εr)) (1)
但し、d>√{(a/2)+b
ここで、fは周波数(=400×10−6)、εrは水の比誘電率(=81)、cは光速(=3×10)とする。防水筒202の先端部及び後端部には、防水筒202の両端から防水筒202内への水の浸入を防止する防水部材201と204が設けられている。本実施形態において、防水部材201,204は、防水用テープを防水筒202に貼り付けることにより構成している。なお、防水部材201,204としては、防水筒202の端部にキャップ部材をねじ込む構成とすると共に、防水筒202と該キャップ部材との間にOリングを設けて内部への水の侵入を防止するようにしても良い。
【0032】
後端側の防水部材204の後端部には、硬性同軸ケーブル203が取り付けられている内部コネクタ部に外部コネクタ部が取り外し可能に嵌合する防水型のコネクタ205が設けられ、該内部コネクタ部が後端側の防水部材204と一体的に固定され、後端側の防水部材204から露出している該外部コネクタ部には軟性同軸ケーブル206が取り付けられ、コネクタ205により硬性同軸ケーブル203と軟性同軸ケーブル206との電気的接続がなされている。なお、コネクタ205として防水性を有するものを使用しているが、経時変化、製造の仕上がり具合等により、コネクタ205に防水用テープを巻き付けるようにすることもできる。
【0033】
構成同軸ケーブル203の外周は電波吸収体208で覆われており、この電波吸収体208により導体部207から漏洩する電流を吸収し、二次的に発生する電波を抑圧することにより、掃流砂の信号を導体部207で捕らえられるようにしている。
【0034】
図2(c)は鉛直方向で見たアンテナの指向性10を示し、導体部207対して鉛直方向に効率よく電波を送受信できる特性となっている。
【0035】
図3において、図1に示す演算部33の動作をフローチャートに従って以下に説明する。
【0036】
図3に示すフローチャートにおいて、ステップ(Sと略す)1は、Aモードのデータを取得し、内蔵されるメモリに蓄積する。
【0037】
S2では、Aモード(横軸を時間とし、縦軸を振幅とする1次元データ)のデータを縦軸方向に並べてBモード(計測時間毎に横軸につなぎ合わせた2次元データ)のデータを作成するにあたり、設定点数mに達するまでメモリに蓄積する。この場合、Aモードのデータ点数はメモリには256BINであるので、メモリには256BIN×m点のデータが蓄積されていることになる。
【0038】
S3では、データを更新するため、最も古いAモードのデータをメモリから消去する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明によるアンテナ装置を備えたレーダーシステムのブロック図
【図2】図1のアンテナ装置を示す図で、(a)はアンテナの断面図、(b)は導体と同軸ケーブルとの接続構成を示す図、(c)は指向性を示す図。
【図3】図1のレーダーシステムにおける信号処理示すフローチャート。
【符号の説明】
【0040】
1:送受信部
11:コントローラー
12:インパルス発生器
13:増幅器
14:サンプルホールド回路
15:移相器
16:低域通過フィルタ(LPF)
17:A/D変換器
18:レベル変換器(I/F)
2:アンテナ装置
21:送信アンテナ
22:受信アンテナ
23:波よけ用導体
201,204:防水部材
202:防水筒
203:硬性同軸ケーブル
203a:内部導体 203b:外部導体
205:コネクタ
206:軟性同軸ケーブル
207:導体板
208:電波吸収体
209:抵抗器
10… 指向性
3:信号処理部
31:レベル変換器(I/F)
32:コントローラー
33:演算部
34:表示部
4:電源部
41:水力発電機
42:風力発電機
43:太陽電池
44:二次電池
5:掃流砂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部が水密構造に閉塞された非金属製のパイプからなり、水中に配置される防水筒と、
前記防水筒内にその軸方向に沿って装入された同軸ケーブルと、
前記防水筒内に装入されている前記同軸ケーブルの挿入先端部に接続された導電性を有する三角形の平板部材からなる導体板と、
前記防水筒内に装入されている同軸ケーブルの外周に形成された電波吸収層と、
を有し、
前記導体板の頂角を前記同軸ケーブルの中心導体に接続すると共に、該導体板の底辺と該同軸ケーブルの外部導体とを抵抗器を介して接続し、該導体板の斜辺を上下方向に向けて配置したことを特徴とする防水型アンテナ装置。
【請求項2】
前記防水筒の上方の水面中に送信アンテナからの送信波を受信アンテナに向けて反射する導体部材を一定距離を隔てて配置したことを特徴とする請求項1に記載の防水型アンテナ装置。
【請求項3】
前記抵抗器は前記導体板の底辺の離隔する2箇所にそれぞれ接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の防水型アンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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