説明

防水床パン

【課題】成形時のクラックの問題が解消され、製造コストをかけずに、大きさや床面等のデザインの異なる床パンを得ることができるとともに、床面をできるだけ平坦にすることができる防水床パンを提供することを目的としている。
【解決手段】上部が開口する樋状部が、複数の格子孔を形成する格子の桟状に設けられるとともに、前記樋状部の底が排水口に向かって下り勾配となった床パン本体と、床面の一部を構成する床面形成部が前記格子孔を上方から覆った状態で、その周縁部を樋状部の上端で受けられて隣接する他の床面形成部材の側面との間で床面に落ちた湯や水を樋状部に流れ込ませる排水用隙間を形成する複数の床面形成部材と、を備えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水床パン、特に浴室ユニットやシャワー室ユニット等の洗い場床面を形成するのに好適な防水床パンに関する。
【背景技術】
【0002】
浴室ユニットの浴室洗い場を構成する防水床パンは、排水口を有し、床面がこの排水口に向かって傾斜しているとともに、床面表面にすべり止めのためのエンボス加工等が施されている。
しかしながら、いくらエンボス加工が施されていても床面に傾斜があれば、水濡れにより滑りやすく、高齢者などの場合、入浴時に足を滑らせて転倒し、大怪我をする虞がある。
【0003】
そこで、床面をできるだけ水平あるいは水平に近い状態にするために、平坦な平面部と、この平面部間に設けられる目地状の溝部とにより構成され、上記平面部は水平であり、目地状の溝部には排水口に向かって流れ勾配が設けられている防水床パン(特許文献1参照)が既に提案されている。
すなわち、平面部に落ちた湯や水は、目地状に設けた溝部に入り込み、この溝部の流れ勾配に沿って排水口から排水されるようになっている。
【0004】
ところで、上記のような防水床パンの場合、床面の面積が大きい防水床パンの場合、排水口近くでは、平面部から溝部の底までの深さが深いものになってしまう。また、溝部の幅は、入浴者等が足の指が入り込まないとともに、床面に座ったときや床面を歩くときに違和感を覚えないようにできるだけ幅の狭いものにしなければならない。
【0005】
しかしながら、上記のような防水床パンは、一般的に強化繊維が配合された熱硬化性樹脂組成物やABS樹脂等を熱プレス成形することにより得られるため、上記のように深い溝部や幅の狭い溝部を形成しようとすると、成形時に溝部分にクラックが発生し、生産性が悪いという問題がある。
また、上記のような防水床パンは、建物の大きさやユーザーの好みによって、その要求される大きさや床面のデザイン等が一律ではない。したがって、従来はいろいろな要求に応えることができるように、ある程度大きさや床面のデザイン等が異なる防水床パンを用意している。
しかしながら、たくさんの種類の防水床パンを用意するには、防水床パンの数だけ金型も用意しなければならず、金型コストがかかるとともに、金型の保管場所も広いスペースが必要で非常に不経済である。
【0006】
【特許文献1】特開平9−228439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みて、成形時のクラックの問題が解消され、製造コストをかけずに、大きさや床面等のデザインの異なる床パンを得ることができるとともに、床面をできるだけ平坦にすることができる防水床パンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の防水床パン(以下、「請求項1の床パン」と記す)は、上部が開口する樋状部が、複数の格子孔を形成する格子の桟状に設けられるとともに、前記樋状部の底が排水口に向かって下り勾配となった排水路形成部材と、床面の一部を構成する床面形成部が前記格子孔を上方から覆った状態で、その周縁部を樋状部の上端で受けられて隣接する他の床面形成部材の側面との間で床面に落ちた湯や水を樋状部に流れ込ませる排水用隙間を形成する複数の床面形成部材と、を備えることを特徴としている。
【0009】
本発明の請求項2に記載の防水床パン(以下、「請求項2の床パン」と記す)は、樋状部が、請求項1の床パンにおいて、床面形成部材は、床面形成部が格子孔を上方から覆った状態で、前記樋状部に挿入される脚部が床面形成部の裏面に突設されていることを特徴としている。
【0010】
本発明の請求項3に記載の防水床パン(以下、「請求項3の床パン」と記す)は、樋状部が、その上端部に両側に延出する鍔状部を有し、この鍔状部に床面形成部の周縁部が水密材を介して下方から受けられることを特徴としている。
【0011】
本発明の請求項4に記載の防水床パン(以下、「請求項4の床パン」と記す)は、樋状部が、請求項1〜請求項3のいずれかの床パンにおいて、床面形成部が、その表面側に中心から周縁に向かって下り勾配の傾斜面を備えていることを特徴としている。
【0012】
本発明において、排水路形成部材の製造方法は、排水路形成部材全体を金型で一体成形する方法、複数のパーツを成形し、これらのパーツを接着や融着で接合する方法のいずれでも構わない。
【0013】
樋状部の上端から底までの深さは、特に限定されないが、最大で50mm程度が好ましい。すなわち、あまり深くすると、排水路形成部材の成形時に割れ等が生じる虞がある。因みに、最も上流側から下流側までの長さが1800mm〜2000mmの床パンの場合、40mm程度とすることが好ましい。
樋状部の幅は、特に限定されないが、排水用隙間を1mm以下(より好ましくは0.5mm以下)とできる程度とすることが好ましい。
【0014】
樋状部の排水勾配は、排水がスムーズになされれば特に限定されないが、1/50程度が好ましい。
格子孔の大きさは、特に限定されないが、300mm角〜400mm角程度が好ましい。
【0015】
請求項4の床パンにおいて、傾斜面の勾配はできるだけ平面に近い方が好ましいが、水はけ性を考慮すると1/50程度の勾配とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、請求項1の床パンは、上部が開口する樋状部が、複数の格子孔を形成する格子の桟状に設けられるとともに、前記樋状部の底が排水口に向かって下り勾配となった排水路形成部材と、床面の一部を構成する床面形成部が前記格子孔を上方から覆った状態で、その周縁部を樋状部の上端で受けられて隣接する他の床面形成部材の側面との間で床面に落ちた湯や水を樋状部に流れ込ませる排水用隙間を形成する複数の床面形成部材と、を備えるので、成形時のクラックの問題が解消され、製造コストをかけずに、大きさや床面等のデザインの異なる床パンを得ることができるとともに、床面をできるだけ平坦にすることができる。
すなわち、樋状部に囲まれた部分が格子孔となっているので、成形時にクラックを発生させることなく、排水路形成部材を成形することができる。
【0017】
また、床面を複数の床面形成部材により形成するようにしているので、大きさの異なる排水路形成部材を成形しておけば、床面形成部材の数を増減するだけで、大きさの異なる防水床パンを得ることができる。また、床面形成部の表面の意匠の異なるものを用意すれば、意匠の異なる床面形成部材に交換するだけで意匠性の異なる防水床パンを得ることができ、金型コストや保管コストが低減できる。
樋状部に排水口に向かう下り勾配が設けられているので、床面形成面に流れ落ちた湯や水が樋状部に入り込み、排水口に向かってスムーズに排水される。したがって、床面形成部を平坦あるいは平坦に近い傾斜面とすることができ、安全性の高いものとすることができる。
【0018】
請求項2の床パンは、床面形成部が格子孔を上方から覆った状態で、前記樋状部に挿入される脚部が床面形成部の裏面に突設されているので、脚部を樋状部に挿入することによって、床面形成部材の位置決めが容易にでき生産性に優れている。
【0019】
請求項3の床パンは、樋状部が、その上端部に両側に延出する鍔状部を有し、この鍔状部に床面形成部の裏面が水密材を介して受けられるので、しっかりとした水密構造とすることができる。
【0020】
請求項4の床パンは、床面形成部が、その表面側に中心から周縁に向かって下り勾配の傾斜面を備えているので、床面形成部上に落ちた湯や水がスムーズに樋状部内に流れ込んで排水され、水はけのよいものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明を、その実施の形態をあらわす図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1〜図6は、本発明にかかる防水床パンの1つの実施の形態をあらわしている。
【0022】
図1に示すように、この防水床パン(以下、「床パン」とのみ記す)1は、床面11に目地状の隙間Sが格子状に形成され、図2および図3に示すように、別個に成形された排水路形成部材2と、6つの床面形成部材3と、側枠部材4とを組み立てることによって形成されている。
すなわち、排水路形成部材2は、図4および図5に示すように、樋状部21が平面視略正方形の複数の格子孔22を形成する格子の桟状に形成された格子状をしている。
【0023】
樋状部21は、上部が開口し、図4において矢印で示すように、底21aが排水口に向かう下り勾配に形成されている。
また、樋状部21は、図6に示すように、上端部に両側に延出する鍔状部23を備え、鍔状部23に後述するビス5の挿通孔24が穿設されている。なお、挿通孔24は工場出荷時あるいは現場施工時に穿設される。
【0024】
床面形成部材3は、図1〜図3に示すように、床面形成部31と、脚部32とを備えている。
床面形成部31は、格子孔22の外縁より少し大きな平面視略正方形に形成されていて、格子孔22を覆った状態でその周縁部が、樋状部21の格子孔22を囲む部分に下方から受けられるようになっている。
床面形成部31の表面側は、中心から周縁の各辺に向かって1/50程度の下り勾配となった4つの二等辺三角形をした傾斜面31aによって構成されている。
【0025】
脚部32は、床面形成部31の裏面に床面形成部31の周縁に沿うように枠状に突設されていて、床面形成部31が格子孔22を上方から覆った状態で、樋状部21にはまり込んで、床面形成部材3の位置決めができるようになっている。
また、床面形成部材3は、脚部32が、樋状部21にはまり込んだ状態で、樋状部21の上部開口の直上位置に、隣接する床面形成部材3、あるいは、後述する側枠部材4の脚部41との間で1mm以下の幅の排水用の隙間S(図では隙間を分かりやすくするために幅が大きく描かれている)を形成するようになっている。
【0026】
そして、この床面形成部材3は、ゴム製の水密材6を介して床面形成部31の裏面が鍔状部23に受けられ、鍔状部23に設けた挿通孔24を介して裏面側からビス5をねじ込むことによって、排水路形成部材2に水密に固定されるようになっている。
【0027】
側枠部材4は、平面視長方形の枠状をしていて、長方形の一方の長辺が浴槽パン(図示せず)と接続されるようになっていて、その他の3方が上端部に設けられたで壁パネル(図示せず)の下端を受けるようになっているとともに、下端に脚部41を備えている。
そして、側枠部材4は、脚部41が樋状部21の外側部分にはまり込み、脚部41の根元部分の近傍が水密材6を介して鍔状部23に受けられ、鍔状部23に設けた挿通孔24を介して裏面側からビス5をねじ込むことのよって、排水路形成部材2に水密に固定されるようになっている。
【0028】
また、この床パン1は、図1、図5、図7に示すように、流れ勾配の最も下流である樋状部21の浴槽パン側の2箇所で側壁に排水口となる排水孔25が穿設され、排水孔25にノズル26を介して接続した排水管Pを介して排水トラップTに接続されるようになっている。
【0029】
したがって、床面形成部材3の床面形成部31に流れ落ちた湯や水は、床面形成部31の傾斜面31aに傾斜方向にまず流れたのち、隙間Sを介して樋状部21内に流れ込み、樋状部21の流れ勾配に沿って下流側へと流れ、2つの排水孔25のいずれかから排水管Pおよび排水トラップTを介して下水管(図示せず)へと流入する。
【0030】
この床パン1は、上記のように、個別に樹脂成形された排水路形成部材2と、6つの床面形成部材3と、側枠部材4とを組み立てることによって形成されるようになっているので、床面に目地状の溝を備えた従来の床パンのように成形時にクラックが入ったりすることがない。
また、床面形成部材を床面形成部のエンボス模様が異なるものや、化粧印刷の柄が異なるものなど、意匠性の異なる床面形成部材を複数用意しておけば、排水路形成部材および側枠部材が共通でも、床面形成部材の組み合わせを変えることによって少ない投資で多数の意匠性の異なる床パンを得ることができる。
【0031】
さらに、隙間Sが1mm以下の幅であるのでヘアピン等の異物が隙間Sの間にはまり込んだりすることがない。勿論、隙間Sに足の指等が入り込んだりすることがなく安全である。
【0032】
本発明は、上記の実施の形態に限定されない。たとえば、上記の実施の形態では、床面形成部および格子孔が平面視略正方形であったが、長方形や多角形でも構わない。
上記の実施の形態では、排水路形成部材と側枠部材とが別体になっていたが、排水路形成部材と側枠部材とを一体成形しても構わない。
【0033】
上記の実施の形態では、床面形成部材の脚部が枠状に設けられていたが、間欠的に設けられていても構わない。床面形成部の裏面を接着剤等で水密に鍔状部に固定できれば、脚部はなくても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明にかかる防水床パンの1つの実施の形態をあらわす平面図である。
【図2】図1のX−X線断面図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】図1の防水床パンの排水路形成部材の平面図である。
【図5】図1のY−Y線断面図である。
【図6】図2の排水路形成部材の樋状部の拡大平面図である。
【図7】図5の排水孔部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 防水床パン
2 排水路形成部材
21 樋状部
22 格子孔
23 鍔状部
3 床面形成部材
31 床面形成部
31a 傾斜面
32 脚部
6 水密材
S 排水用隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部が開口する樋状部が、複数の格子孔を形成する格子の桟状に設けられるとともに、前記樋状部の底が排水口に向かって下り勾配となった排水路形成部材と、
床面の一部を構成する床面形成部が前記格子孔を上方から覆った状態で、その周縁部を樋状部の上端で受けられて隣接する他の床面形成部材の側面との間で床面に落ちた湯や水を樋状部に流れ込ませる排水用隙間を形成する複数の床面形成部材と、
を備えることを特徴とする防水床パン。
【請求項2】
床面形成部材は、床面形成部が格子孔を上方から覆った状態で、前記樋状部に挿入される脚部が床面形成部の裏面に突設されている請求項1に記載の防水床パン。
【請求項3】
樋状部が、その上端部に両側に延出する鍔状部を有し、この鍔状部に床面形成部の周縁部が水密材を介して下方から受けられる請求項1または請求項2に記載の防水床パン。
【請求項4】
床面形成部が、その表面側に中心から周縁に向かって下り勾配の傾斜面を備えている請求項1〜請求項3のいずれかに記載の防水床パン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−127833(P2008−127833A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312952(P2006−312952)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(501362906)積水ホームテクノ株式会社 (89)
【Fターム(参考)】