説明

防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントおよび工業用織物

【課題】ガムピッチ汚れに対する防汚性に優れると共に十分な強度を有し、抄紙ワイヤーおよび抄紙ドライヤーカンバスなどの抄紙機用織物の構成素材として有用な防汚性ポリエステルモノフィラメントの提供。
【解決手段】芯成分および鞘成分がいずれもポリエステルからなる芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントであって、鞘成分がポリエステル以外の成分として炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物をポリエステル100重量部に対して0.01〜15.0重量部含有してなり、かつ、強度が5.5cN/dtex以上である防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントおよびこれを用いた工業用織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙ワイヤーなどの工業用織物に要求される優れた防汚性と十分な強度を有する防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントおよびそれを構成素材とする工業用織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、ポリフェニレンスルフィドおよびポリアミドなどの熱可塑性樹脂からなる繊維は、優れた抗張力および耐熱性などを有していることから、従来より各種工業用部品、衣料用および工業用繊維材料、各種織物などに使用されてきた。
【0003】
これらの織物としては、例えば、ポリエステルモノフィラメントは、抄紙機用、フィルター用、サーマルボンド法不織布熱接着工程用ネットコンベアなどが挙げられ、さらに他の用途としては、各種ブラシ、毛筆、印刷スクリーン用紗、釣り糸、ゴム補強用繊維材料などに広く用いられている。
【0004】
なかでも、抄紙業界における抄紙機用抄紙ワイヤー(紙を漉き上げる織物)、抄紙プレスフェルト(紙の搾水工程織物)および抄紙ドライヤーカンバス(紙の乾燥工程用織物)などの構成素材としてモノフィラメントが広く使用されてきた。
【0005】
しかしながら、抄紙工程においては、紙原料中に存在する各種填料、スライム、木材ピッチあるいは近年資源保護の見地から回収古紙のリサイクルの普及により回収ダンボール古紙原料に付着していたガムテープ粘着糊などの粘着性汚れ物(以下、ガムピッチ汚れと略称する)が、熱可塑性樹脂製繊維からなる抄紙用織物類に付着することにより、濾水効率の低下、搾水効率の低下および乾燥効率の低下などの工程上において汚れやすい等の問題を生じるばかりか、これらの汚れ物が紙へ転写することによる製品紙の品位低下などが重大な問題となっていた。
【0006】
このような問題を解決するために、従来から様々な提案が行われてきた。
例えば、少なくとも表層部に、溶融混練されたポリシロキサンを含有するポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献1参照)、フッ素系のポリマーを添加したポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献2参照)、フッ素系のポリマーとシリコーンオイルを含有したポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献3参照)、鞘成分にフッ素系のポリマーとシリコーンオイルを含有した芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献4参照)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン1、ポリスチレンなどのポリオレフィンを特定量添加したポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献5参照)が知られているが、これらのモノフィラメントは、ガムピッチなどの粘着性の汚れに対する防汚性がいまだに不十分なものであり、さらなる改善が望まれていた。
【特許文献1】特開昭60−81313号公報(第1〜4頁)
【特許文献2】再公表国際公開番号 WO 92/07126号公報(第1〜11頁)
【特許文献3】特開2004−308090号公報(第1〜18頁)
【特許文献4】特開2004−292960号公報(第1〜21頁)
【特許文献5】特開昭51−136923号公報(第1〜5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、ガムピッチ汚れが付着し難く、かつ付着したガムピッチ汚れを洗浄しやすいなどの優れた防汚性(以下、ガムピッチ防汚性と略称する)と十分な強度を有し、特に抄紙ワイヤー、抄紙ドライヤーカンバスや抄紙プレスフェルトなどの抄紙機用織物の構成素材として好適な防汚性モノフィラメントおよびこれを用いた各種工業用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題の目的を達成するために本発明によれば、芯成分および鞘成分がいずれもポリエステルからなる芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントであって、前記鞘成分がポリエステル以外の成分として炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物をポリエステル100重量部に対して0.01〜15.0重量部含有してなり、かつ、JIS L1013―1992に準処して測定した強度が5.5cN/dtex以上であることを特徴とする防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントが提供される。
【0010】
なお、本発明の防汚性芯鞘複合モノフィラメントにおいては、
前記鞘成分が炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物をポリエステル100重量部に対して0.05〜10.0重量部含有してなること、
前記炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物が、天然性植物由来のワックスであること、
前記炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物が、モノフィラメントの軸方向に垂直な断面において10μm以下の分散径で分散していること、
前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであること、
前記芯成分および鞘成分の芯鞘複合重量比率が、芯成分/鞘成分=50〜95/50〜5であること、および
モノフィラメント軸方向に垂直な断面が円もしくは扁平であること
が、いずれも好ましい条件として挙げられ、これらの条件の少なくとも一つの条件を満たすことによって一層優れた効果の取得を期待することができる。
【0011】
また、本発明の工業用織物は、上記の防汚性芯鞘複合モノフィラメントを緯糸および/または経糸の少なくとも一部に用いたことを特徴とし、特に抄紙機用織物、フィルター用織物もしくはサーマルボンド法不織布の熱接着工程用ネットコンベアの織物、熱処理炉内搬送ベルト用織物として用いることが望ましい。
【0012】
本発明の工業用織物は、中でも抄紙ワイヤーまたは抄紙ドライヤーカンバスであることが望ましく、特に抄紙ワイヤーの場合には、次に示す方法で測定した平均直径が0.05〜0.50mmで、この平均直径に対する線径斑率が±5%以下の円形断面モノフィラメントからなることが望ましい。
【0013】
[モノフィラメントの直径(線径斑率)の測定方法]
(1)レーザー外形測定器(アンリツ(株)製SLB DIA MEASURING SYSTEM KL151Aまたは他社同等品)を使用してモノフィラメントの長さ方向に、30カ所の直径(mm)を小数点以下3桁まで測定する。
(2)測定値30点の平均直径(X)を算出する(小数点以下4桁目を四捨五入し小数点以下3桁まで求める)。
(3)線径斑率は、各測定値の最大直径値(A)と最小直径値(B)の差を線径斑とし、測定値30点の平均直径(X)から下式によって求める。
{(A)―(B)}/(X)×100=線径斑率(%)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下に説明するとおり、従来のものより一層ガムピッチ汚れが付着し難く、かつ付着したガムピッチ汚れを洗浄しやすいなどの卓越したガムピッチ汚れに対する防汚性を有すると同時に、十分な強度を有し、特に抄紙ワイヤー、抄紙ドライヤーカンバスや抄紙プレスフェルトなどの抄紙機用織物の構成素材として好適な防汚性芯鞘複合モノフィラメントおよびこれを用いた各種工業用織物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明でいうポリエステルとは、主成分がジカルボン酸とグリコールからなるポリエステルである。ジカルボン酸成分としてはテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。これらのジカルボン酸成分とグリコール成分とを適宜組み合わせて使用することができる。また、上記ジカルボン酸成分の一部をアジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えてもよく、また、上記のグリコール成分の一部をジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなど置き換えてもよい。更に、ペンタエスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、トリメシン酸、硼酸等の鎖分岐剤を少量併用することもできる。
【0017】
これらの内でも、ジカルボン酸成分の90モル%以上がテレフタル酸からなり、グリコール成分の90モル%以上がエチレングリコールからなるポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略称する)が好適である。
【0018】
本発明の効果を効率よく発現させるために、PET中にリン化合物を、リン原子として50ppm以下で、かつ下記の一般式1の範囲内の量を含有させることができる。
5×10−3≦P≦M+8×10−3 式1
(式中のPは、PETを構成する二塩基酸に対するリン原子のモル%であり、MはPET樹脂中の金属で、周期律表II族、VII族、VIII族でかつ、第3,4周期の内より選択された1種もしくは2種以上の金属原子のポリエステルを構成する二塩基酸に対するモル%である。M=0であってもよい。)
【0019】
上記したポリエステルには、目的に応じて公知の有機・無機の各種添加剤を含有することができ、例えば異種の熱可塑性樹脂類、各種合成・重合触媒残渣、各種抗酸化剤、耐光剤、難燃剤、ヨウ化銅、ヨウ化カリウムなどの老化防止剤、酸化チタン、酸化珪素、炭酸カルシウム、チッ化ケイ素、炭化ケイ素、硫酸バリウム、クレイ、タルク、カオリン、カーボンブラックなどの無機粒子・顔料類、フタロシアニン金属系、コバルト青などの各種有機顔料、ステアリン酸金属塩類、エチレンビスステアリルアミド、ステアリン酸、メタ珪酸カルシウム、含水珪酸マグネシウム、アミノシラン、メラミンシアヌレート、アイオノマー類、金属イオン封鎖剤、包接化合物、着色防止剤、帯電防止剤、シリコーンオイル、各種界面活性剤、各種強化繊維類、および熱可塑性樹脂が飽和ポリエステルの場合には耐加水分解性や耐乾熱分解性を改善するための各種カルボジイミド化合物、各種エポキシ化合物および各種オキサゾリン化合物などを含有することができる。
【0020】
また、本発明の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを抄紙ドライヤーカンバス用織物用として用いる場合には特に、1分子中に1個または2個以上のカルボジイミド基を有するモノカルボジイミドやポリカルボジイミド等のカルボジイミド化合物、モノまたはジエポキシ化合物、あるいはモンまたはビスオキサゾリン化合物、さらには各種ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂等を配合させることもできる。
【0021】
使用するポリエステルの極限粘度は、通常0.5以上であれば良いが、好ましくは0.6以上、さらに好ましくは0.7以上であると、得られるモノフィラメントの強度物性に優れるため好ましい。
【0022】
本発明の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを構成するポリエステルには、溶融重合に引き続き、固相重縮合を行って高分子量のポリエステルを製造する方法も好ましく採用できる。特に、ポリエステルモノフィラメントが工業用織物の構成素材である場合には、溶融重合に引き続き、固相重縮合を行うことは、ポリエステルの高分子量化と共にカルボキシル末端基濃度(以下COOH末端基濃度という)濃度を低減できるため好適である。
【0023】
また、本発明の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントの鞘成分には、ポリエステル以外の成分として、炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物を含有することが必要である。このエステル化合物としては、炭素原子数10〜33の高級脂肪族モノカルボン酸を炭素原子数2〜33を有する1価または2価のアルコールで一部または全部をエステル化することによって得られる炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物が好ましく、高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物が鞘成分に含有されることにより、優れたガムピッチ防汚性を有するモノフィラメントを得ることができる。特に、炭素原子数16〜33の高級脂肪族モノカルボン酸、さらには炭素原子数20〜32の高級脂肪族モノカルボン酸をエステル化して得られる炭素原子数40〜62の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物の使用が好ましい。
【0024】
高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物の炭素原子数が34未満の場合は、エステル化合物の分子量が低いことに起因して、得られたポリエステルをモノフィラメント化する際に劣化、あるいは飛散して紡糸時の口金汚れが激しくなり、その結果得られたポリエステルモノフィラメントの着色が激しくなるばかりか、強度低下や線径斑が大きくなり、さらにガムピッチ防汚性が悪化する。また、高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物の炭素原子数が65を越えると、ポリエステルとの相溶性が悪くなり、モノフィラメントの強度が低くなるばかりか、線径斑が大きくガムピッチ防汚性が悪化する。
【0025】
炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物の具体例としては、工業的に製造されたものであっても、天然に得られるものであっても良い。例えば、工業的に製造されたものとしてはモンタン酸ヘキシルエステル、モンタン酸セリル、リグノセリン酸オクタコシル、リグノセリン酸メリシル、リグノセリン酸セリル、セロチン酸メリシル、セロチン酸セリル等が挙げられる。ただし、これに何ら制限されるものではない。また、天然に得られる植物由来のワックス、動物由来のワックス、石油由来のワックス、鉱物由来のワックスを挙げることができ、中でもカルナウバワックス、キャンデリラワックス、ヌカロウ、ビーズワックス、イボタロウ、モンタンワックスなどが挙げられる。ただし、これに何ら制限されるものではない。
【0026】
特には、天然に得られるモンタンワックス(主成分:炭素原子数28のモノカルボン酸からなる炭素原子数52のエステル)、カルナウバワックス(主成分:炭素原子数26のモノカルボン酸からなる炭素原子数56のエステル)、ビーズワックス(主成分:炭素原子数16のモノカルボン酸からなる炭素原子数46のエステル)などが好ましく用いられる。なかでも、天然植物由来のワックスであるカルナウバワックスが特に好ましい。
【0027】
さらには、炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸化合物エステル化合物の酸価が5以下であるとガムピッチ防汚性向上効果が期待できる。酸価が5を越えるものは、ガムピッチ防汚性が得られにくい傾向にある。
【0028】
本発明の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物の添加量は、鞘成分のポリエステル100重量部に対して、0.01〜15.0重量部含有させることが必要であり、好ましくは0.05〜10.0重量部、さらに好ましくは0.1〜5.0重量部である。高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物の含有量が0.01重量部未満では、ガムピッチ防汚性が不十分となり、また、15.0重量部を越えると、得られるポリエステルモノフィラメントの着色が激しくなり、またモノフィラメントが柔軟化傾向を生じるため均一化したモノフィラメントを得にくい傾向となり、引張強度、引掛強度や結節強度を損なうことになるため好ましくない。
【0029】
また、本発明の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントの鞘成分におけるポリエステル中の炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物は粒子状に分散して存在しており、分散径が10μm以下であることが好ましく、より好ましくは8μm以下であり、更に好ましくは5μm以下である。分散径が10μmを越えるとポリエステルモノフィラメントのガムピッチ防汚性が不十分となったり、強度物性等を損なう可能性がある。
【0030】
本発明の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントは、さらにガムピッチが付着しにくく、かつガムピッチが剥がれやすくなるように、モノフィラメント表面の水接触角を78°以上とすることが好ましく、80°以上であることがより好ましく、82°以上であることが更に好ましい。
【0031】
なお、本発明における防汚性モノフィラメントのガムピッチ防汚性は、布粘着ガムテープ貼付剥離法による布粘着ガムテープ剥離応力測定試験方法において、ガムピッチ防汚性指数(炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物を添加しないモノフィラメントを100とした時の値)を求め、ガムピッチ防汚性指数が小さいほど優れていることを表す。また、ガムピッチ防汚性はガムピッチ防汚性指数が90を越える値では効果が得られない傾向にある。
【0032】
本発明における防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントは、1本の単糸からなる連続糸である。
【0033】
本発明における防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントの繊維軸方向に垂直な断面の形状(以下、断面形状もしくは断面と略称する)は、円、扁平、正方形、半月状、三角形、五角以上の多角形、多葉形状、ドックボーン状、繭型および馬蹄型などいかなる断面形状を有するものでもよい。本発明のモノフィラメントを工業用織物の構成素材として用いる場合には、断面形状が円もしくは扁平が好ましい。特に、このモノフィラメントが抄紙ワイヤーである場合には、紙の漉き上げ性、防汚性を有効に発現させることと、ワイヤーの平坦性という観点からモノフィラメントの断面形状が、円もしくは扁平であることが好ましい。本発明における扁平とは、楕円、正方形もしくは長方形のことであるが、数学的に定義される正確な楕円、正方形もしくは長方形以外に、概ね楕円、正方形もしくは長方形に類似した形状、例えば正方形および長方形の角を丸くした形状を含むものである。また、楕円の場合は、この楕円の中心で直角に交わる長軸の長さ(LD)と短軸の長さ(SD)とが次式に満足する関係にあり、正方形もしくは長方形の場合は、長方形の長辺の長さ(LD)と短辺の長さ(SD)とが次式を満足する関係にあることが好ましい。
1.0≦LD/SD≦10.0
【0034】
このモノフィラメント断面の重心を通る線分の長さは、用途によって適宜選択できるが、0.01〜3.0mmが好ましい。
【0035】
本発明の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントは、JIS L1013―1992に準処して測定した強度が5.5cN/dtex以上であり、好ましくは6.0cN/dtex以上である。強度が5.5cN/dtex未満であるとモノフィラメントを経糸に使用した織物の両端部を折り返して経糸のループに緯糸を通して接続してエンドレスのベルト状織物として使用した場合に、ベルトの縦方向の張力に経糸のループ部が耐えきれずに接続部の経糸が破断するトラブルの一因となることがある。
【0036】
本発明の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントにおける芯鞘複合重量比率は、任意に設計できるが、芯鞘複合重量比率が芯成分/鞘成分=50〜95/50〜5である場合が、モノフィラメントの強力保持効果やガムピッチ防汚性付与および防汚の持続性の点から好ましい。さらに好ましくは、芯鞘複合重量比率が芯成分/鞘成分=70〜90/30〜10である。一方、鞘成分の重量比率が50を越えると、複合ポリエステルモノフィラメントの主として物理的特性を保持している芯の断面比率が小さくなるため、強度などの物理的特性に劣る可能性がある。また、鞘成分の重量比率が5未満では、製糸性および製糸工程における機械的煩雑によって鞘部が摩耗し、芯部が露出する可能性があるため、本発明の目的とするガムピッチ防汚性の効果が期待できないばかりか、強度物性などの物理的特性および品位の劣るものとなる。
【0037】
また、本発明の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを抄紙ワイヤーの構成素材として用いる場合には、モノフィラメントの平均直径に対する線径斑率が±5%以下の円形断面を有するモノフィラメントであることが好ましい。線径斑率が±3%以下であると更に好ましい。抄紙ワイヤーは、パルプを主成分とする分散液からパルプを漉き揚げ、水を吸引して紙の基本的な表面状態や均一性が形成される工程で使用されるものであるために、モノフィラメントの線径均一性が最も必要とされる用途である。モノフィラメントの平均直径が0.05〜0.50mmで、上記線径斑率が±5%以下であると、表面と織り構造が均一な抄紙ワイヤーとなり、漉き揚げた高含水パルプからの搾水を均一に行うことができるため、厚みが均一で表面特性に優れた紙の製造が可能になるという好ましい効果が得られる。
【0038】
なお、この場合における芯鞘複合モノフィラメントの直径(線径斑率)の測定方法は上述したとおりである。
【0039】
本発明の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントの製造方法は、公知の芯鞘複合紡糸機を使用して、芯成分にポリエステル、鞘成分に炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物を含有したポリエステルを供給し、必要に応じて各種添加剤などを溶融混練した後、溶融紡糸することにより製造することができる。
また、本発明の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントの鞘成分に高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物を配合する方法としては、A.ポリエステルの重合反応前、反応中、反応終了直後にいずれかの時期において添加・混練させポリエステルペレットを得る方法、B.1軸もしくは2軸エクストルダーにおいて添加・混合させポリエステルペレットを得る方法、また、C.前記AおよびB法により、炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物の高濃度ポリエステルマスターペレットを得る方法などがある。
【0040】
上記に続き、例えば、AまたはBにおいて混練したポリエステルペレットを用いる方法、Cの高濃度ポリエステルマスターペレットを所定量同種のポリエステルペレットにブレンド、または紡糸時に添加する方法、あるいはポリエステルペレットと炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物とをブレンドする方法、さらには紡糸機内に直接炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物を添加する方法などを採用し、公知の方法で紡糸・延伸・熱セット等を行う方法などにより本発明の防汚性芯鞘複合モノフィラメントを製造することができる。
【0041】
かくして得られる本発明の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントは、優れたガムピッチ防汚性、さらには十分な強度を有しており、各種工業用織物の構成素材として有用なものである。
【0042】
したがって、本発明の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを構成素材とする各種工業用織物は、十分な強度を有し、かつ、木材ピッチおよびガムピッチ汚れが付着し難く、かつ付着したガムピッチ汚れを洗浄しやすいなどの防汚性が従来のものより優れるものであり、産業用の利用価値が高い。
【0043】
本発明の工業用織物とは、上述した本発明の防汚性芯鞘複合モノフィラメントを緯糸および/または経糸の少なくとも一部に用いたものであるが、本発明の防汚性芯鞘複合モノフィラメントは、一本の単糸からなる連続糸であり一本で使用される他に、この一本の単糸からなる連続糸を複数本組合せたもの、さらには複数本組合せた単糸を撚り合わせたものなどを織物を構成する経糸および/または緯糸の少なくとも一部として使用すればよい。これら工業用織物の具体例としては、抄紙機用織物、サーマルボンド法不織布の熱接着工程用ネットコンベア用の織物、熱処理炉内搬送ベルト用織物、各種フィルター用織物などが挙げられる。
【0044】
さらには、抄紙機用織物が抄紙ワイヤーまたは抄紙ドライヤーカンバスの構成素材用モノフィラメントとして好適に使用することができ、従来にない卓越したガムピッチ防汚性を有するものであり、産業上の利用価値が高いものである。
【0045】
ここで、抄紙ワイヤーとは、平織、二重織および三重織など様々な織物として、紙の漉き上げ工程で使用される織物であって長網あるいは丸網などとして用いられるものである。また、抄紙ドライヤーカンバスとは、平織り、二重織および三重織など様々な織物(相前後する緯糸と緯糸とがスパイラル状の経糸用モノフィラメントによって織継がれたスパイラル状織物を含む)として、抄紙機のドライヤー内で紙を乾燥させるために使用される織物のことである。
【0046】
また、サーマルボンド法不織布の熱接着工程用ネットコンベア用の織物とは、不織布を構成する低融点のポリエチレンのような熱接着性繊維を融着させるために、不織布を炉中に通過させるための織物であり、平織り、二重織、などの織物である。
【0047】
また、熱処理炉内搬送ベルト用織物とは、各種半製品の乾燥、熱硬化、殺菌、加熱調理などのために、高温ゾーン内において半製品を搬送する織物のことである。
【0048】
また、各種フィルター用織物とは、高温の液体、気体、粉体等を濾過する織物のことである。
【0049】
これらの中では、特に優れたガムピッチ防汚性が要求される抄紙ワイヤーの構成素材として特に好適である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0051】
なお、以下の実施例における特性値は各実施例の中で特に記載ない限り、次に示す方法によって測定したものである。
【0052】
1.極限粘度
ポリエステルの極限粘度は、0.1g/10mlのオルソクロロフェノール溶液を調整し、25℃で測定した粘度より求めた極限粘度であり、〔η〕で表す。
【0053】
2.ポリエステルのカルボキシル末端基濃度(以下、COOH末端基濃度という)の測定方法
ポリエステル試料0.5gをo−クレゾール10mlに溶解し、完全溶解後冷却してからクロロホルム3mlを加え、NaOHのメタノール溶液にて電位差滴定を行ない求めた値である。
【0054】
3.モノフィラメントの強度
モノフィラメントの引張試験 JIS L1013―1992に準処して、引張試験器((株)オリエンテック製テンシロン/UTM−III−100)を使用して行った。
【0055】
4.モノフィラメントの直径(線径斑率)
(1)レーザー外形測定器(アンリツ(株)製SLB DIA MEASURING SYSTEM KL151Aまたは他社同等品)を使用してモノフィラメントの長さ方向に、30カ所の直径(mm)を小数点以下3桁まで測定する。
(2)測定値30点の平均直径(X)を算出する(小数点以下4桁目を四捨五入し小数点以下3桁まで求める)。
(3)線径斑率は、各測定値の最大直径値(A)と最小直径値(B)の差を線径斑とし、測定値30点の平均直径(X)から下式によって求める。
{(A)―(B)}/(X)×100=線径斑率(%)
【0056】
5.色調
モノフィラメントを5mm程度にカットしたサンプルをカラーコンピューター(スガ試験機(株)製:タッチパネル式SMカラーコンピューター SM−T)専用ガラスセルに約13g入れ、カラーコンピューターで5回測定し、平均値を色調(b値)をとした。b値が、大きいほど黄味を帯びた傾向となる。
【0057】
6.防汚性モノフィラメント中の炭素原糸数10〜33の高級脂肪族モノカルボン酸および/または炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物の分散径評価方法
モノフィラメント軸方向に片刃カミソリにて垂直に切断したモノフィラメント試料(2mm程度)を、SEM試料台に貼った導電テープに試料断面がSEM試料台上部と平行になるように貼り、白金−パラジウム合金を1分30秒蒸着(蒸着機:HITACHI社製のE101 ION SPUTTER)し、走査型電子顕微鏡(ニコン社製のE(Environmetal)SEM)でモノフィラメントの1断面全体を観察し(カミソリ跡のない所)、最大分散径のものを選択し分散面の重心を通る最大径を円の直径としてμm単位で、小数点以下1桁まで求める。この作業を10回繰り返し、10データー中の平均分散径を求め、添加剤の分散径とした。
【0058】
7.モノフィラメント表面の水接触角
モノフィラメント1本を両面接着テープを貼った長さ20mm、巾5mmのガラス板表面に固定して測定試料とし、20℃の雰囲気下において、エルマ光学(株)製ゴニオメーターの試料台上にセットし、該測定試料のモノフィラメント表面にマイクロシリンジで2マイクロリットルを付着させ、水滴の付着角度(°)を測定した。この測定作業を10回繰返し、測定の最大値と最小値を除き、その平均値をモノフィラメント表面の水接触角とした。
【0059】
8.ポリエステルモノフィラメントのガムピッチ防汚性指数
以下に示す布粘着ガムテープ貼付剥離法による布粘着ガムテープ剥離応力測定試験(以下、布粘着ガムテープ剥離試験という)により剥離応力値を求め、下記式によりガムピッチ防汚指数を求めた。
試験剥離応力値/比較サンプル剥離応力値×100=ガムピッチ防汚指数
【0060】
布粘着ガムテープ剥離応力を測定することにより、モノフィラメントを織物に加工することなく、対象とするモノフィラメントを構成素材とする抄紙機用織物などのガムピッチ汚れに対する防汚性を定量的に評価することが可能であり、ガムピッチ防汚性指数90未満を目標値と設定した。
(1)厚さ150〜250μm、横巾30mm、縦長さ120mmのポリエチレンテレフタレート製2軸延伸フィルムを2枚用意する。
(2)一枚のフィルムの長さ方向の中央部に横巾10mm、縦長さ120mmの両面粘着テープ(日東電工(株)製品、No.523または同等品)を貼り、長さ約200mmに切断したポリエステルモノフィラメント試料をフィルム上の両面粘着テープ上に、両面粘着テープの長手方向と平行に隙間無く貼付し、両面粘着テープの長手方向の両端からはみ出しているモノフィラメントの余端を鋏で切除し、モノフィラメント試料貼付フィルムを得る。
(3)モノフィラメント試料貼付面を上にしモノフィラメント試料貼付フィルムの30mm巾ともう一方のフィルム30mm巾の一端同士を重ならないように合わせて、この合わせ面の下部に、片面に粘着剤の塗布された25mm×25mmサイズの布粘着テープを、前記2枚のフィルムの両端に渡るように貼付することにより、接合部で縦方向に繋ぎ合わされた見かけの縦長さ約240mm、横巾30mmのフィルムを作成する。
(4)上記モノフィラメント試料貼付面を上にし、かつモノフィラメント面が左側になるようにしてから、繋ぎ合わされた見かけの縦長さ約240mm、横巾30mmのフィルムを硝子板(厚さ約8mm、縦約300mm、横約80mm)中央部にセットする。
(5)横巾10mm、縦長さ150mmに切断した片面に粘着剤が塗布された布粘着ガムテープ(ニチバン(株)製、段ボール包装用強粘着テープ<LS>No.101Nまたは同等品)を長手方向左端を前記モノフィラメント試料貼付フィルムのモノフィラメント面左端と合わせて、モノフィラメント上に布粘着ガムテープを仮貼付する。次いで、モノフィラメント面右端に約30mm残っている布粘着テープを、一方のフィルム面に貼付する。
(6)前記モノフィラメント貼付フィルムを裏返して、前記(3)で2枚のフィルムを繋ぎ合わせるために貼付した前記片面に粘着剤の塗布された25mm×25mmサイズの布粘着テープを取り除く。
(7)前記モノフィラメント貼付フィルムのモノフィラメント貼付面を上向きにし、かつモノフィラメント面が左側になるようにして硝子板上に完全に乗るようにセットして、前記モノフィラメントの表面に仮貼付されている前記布粘着ガムテープ上に、重量1.43Kg、巾50mm、直径86mmのゴムローラーを、前記布粘着ガムテープを重ねたフィルムの右長手方向から左はじまで約10秒/120mmの速度で片道走行させ、布粘着ガムテープ剥離応力測定用試料を作成する。
(8)前記2枚のフィルムの接合部を支点にして、前記布粘着ガムテープの貼付面が内側になるように山折りし、次いで山折りの支点部からモノフィラメント上に貼付されている前記布粘着ガムテープを長さ約15mm剥がし、露出したモノフィラメント貼付フィルム端部を引張試験器((株)オリエンテック製テンシロン/UTM−III−100)の上チャックの中央部にセットし、一方のモノフィラメントの貼付されていない前記フィルムの下端(山折りの裾部)を、前記引張試験器の下チャックの中央部にセットして、引張速度100mm/分、チャートスピード100mm/分の条件で剥離応力を測定し、剥離応力の高い山と剥離応力の低い谷とが交互に連なった剥離応力チャートを得る。
(9)得られた剥離応力チャートの最初の剥離応力の高い山から約20mm後の剥離応力の高い山を始点として、山、谷の順序に各50点の剥離応力値を読み取り、その平均値をもって剥離応力とし、この測定作業((1)から(9))を10回繰返し、その平均値を布粘着テープ剥離応力とする。
【0061】
〔実施例1、比較実施例1〕
1.ポリエステルの製造法
公知の溶融重縮合と固相重縮合とによって製造した二酸化チタン0.4重量部(PET100重量部に対して)を含有した〔η〕0.87、COOH末端基濃度13当量/10gのPET乾燥チップ(以下、ポリエステル(A)略称する)を得た。
【0062】
2.カルナウバワックス含有ポリエステルの製造法
ポリエステル(A)とカルナウバワックス(セラリカNODA社製:精製カルナウバワックスNO1)(以下、C−ワックスと略称する)を窒素シールした各々のホッパーに仕込み、C−ワックスがポリエステル(A)100重量部に対して20重量部になるようホッパーから計量しながらフィーダーを経由し、2軸エクストルダー型混練機に供給し、溶融混練し、冷水にストランド状に吐出し、直ちにカッティングしてC−ワックス混練ポリエステルを得た。この混練ポリエステルチップの〔η〕は0.602、COOH末端基濃度は26.0当量/10gであった。該混練チップを150℃、15時間、真空乾燥機で乾燥した(以下、ポリエステル(B)と略称する)。
【0063】
3.防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントの製造法
窒素シールした芯成分用ホッパーにポリエステル(A)を供給し、芯成分が85重量部となるようフィーダーを用いて芯成分用1軸エクストルダー型紡糸機に連続供給し、1軸エクストルダー287℃で約4分間メルトしギアポンプを経て芯鞘複合紡糸パックに供給した。また窒素シールした鞘成分量の各々のホッパーにポリエステル(A)と乾燥したポリエステル(B)を供給し、ポリエステル(B)中のC−ワックスがポリエステル(A)とポリエステル(B)のポリエステル成分100重量部に対して1重量部になるようフィーダーを用いて、混練翼が設置された中間ホッパーに投入し、鞘成分が15重量部となるようフィーダーを用いて鞘成分用1軸エクストルダー型紡糸機に連続供給し、1軸エクストルダー283℃で約5分間メルトし、ギアポンプを経て芯鞘複合紡糸パックに供給した。芯成分/鞘成分の重量比率を85/15とし、それぞれの濾過層を通して口金吐出孔直前で合流させ、孔径 1.2mm、孔数8の紡糸口金より紡出した。紡出モノフィラメントを70℃の湯浴で冷却後、常法に従い1段目93℃倍率3.6倍、2段目180℃倍率1.528倍、総合倍率5.5倍に2段延伸し、220℃で熱セットを行い、平均直径0.250mmの円形断面芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを得た。
【0064】
得られた芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントの物性を表1に示す。モノフィラメントの強度は6.4cN/dtex、また、モノフィラメントのガムテープ剥離応力は198.7cN/cmであり、比較実施例1のポリエステル単独モノフィラメントのガムピッチ防汚性指数を100とした時、該モノフィラメントのガムピッチ防汚性指数は69であり、ガムピッチ防汚性に優れたポリエステルモノフィラメントが得られた。このモノフィラメント物性は工業用織物の一種である抄紙ワイヤーの構成素材として好適である。
【0065】
比較実施例1は、実施例1の芯成分用のエクストルダーのみを使用して単一構造の平均直径0.250mmのモノフィラメントとした以外は、実施例1と同様にしてモノフィラメントを得た。モノフィラメントのガムテープ剥離応力は288.0cN/cmであった。モノフィラメントの物性を表1に示す。
【0066】
〔実施例2〜6、比較実施例2〕
実施例2〜6は、実施例1の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントの鞘成分に含有されるC−ワックスの量を表1に示したように本発明の規定範囲内で適宜変更した例であり、いずれの場合にもガムピッチ防汚性に優れたポリエステルモノフィラメントが得られた。
【0067】
一方、比較実施例2は、実施例1のポリエステルモノフィラメントに含有されるC−ワックスの量が本発明の規定範囲外とした例であり、モノフィラメントの強度が低下し、線径斑が増大し、着色が大きく抄紙ワイヤーの構成素材としては不適当なものであった。モノフィラメントの物性を表1に示す。
【0068】
〔実施例7〕
実施例7は、実施例1のポリエステルモノフィラメントに含有されるC−ワックスをモンタンワックスに変更したものであり、この場合にもガムピッチ防汚性に優れ、抄紙ワイヤーの構成素材として好適なポリエステルモノフィラメントが得られた。モノフィラメントの物性を表1に示す。
【0069】
〔比較実施例3、4〕
比較実施例3は、実施例1のポリエステルモノフィラメントに含有されるC−ワックスを炭素原子数22のステアリン酸ブチルエステルに変更した例、比較実施例4は、同様に炭素原子数76のヘキサテトラコンタン酸メリシルに変更した例であり、本発明で規定する高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物の炭素原子数34〜65の範囲外であり、これらの場合にはモノフィラメントの強度低下が大きく、またガムピッチ防汚性に劣り、抄紙ワイヤーの構成素材として不適当なものであった。モノフィラメントの物性を表1に示す。
【0070】
〔実施例8、9〕
実施例8は、実施例1の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントの芯鞘複合重量比率を芯成分/鞘成分=95/5、実施例9は芯成分/鞘成分=60/40に変更したものであり、これの場合にもガムピッチ防汚性に優れ、抄紙ワイヤーの構成素材として好適なポリエステルモノフィラメントが得られた。モノフィラメントの物性を表1に示す。
【0071】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントは、卓越したガムピッチ汚れに対する防汚性と十分な強度を有するものであることから、抄紙機用織物、サーマルボンド法不織布熱接着工程用ネットコンベア用の織物、熱処理炉内搬送ベルト用織物もしくは各種フィルター用織物として有効であり、中でも抄紙機工程でパルプの漉き揚げ工程で使用される織物抄紙ワイヤー、漉き揚げたパルプを搾水する工程で使用される抄紙プレスフェルト基布および搾水した湿紙やコーティング紙などを乾燥する工程の抄紙ドライヤーカンバスの構成素材として有用であり、特に抄紙ワイヤーの構成素材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分および鞘成分がいずれもポリエステルからなる芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントであって、前記鞘成分がポリエステル以外の成分として炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物をポリエステル100重量部に対して0.01〜15.0重量部含有してなり、かつ、JIS L1013―1992に準処して測定した強度が5.5cN/dtex以上であることを特徴とする防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント。
【請求項2】
前記鞘成分が炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物をポリエステル100重量部に対して0.05〜10.0重量部含有してなることを特徴とする請求項1に記載の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント。
【請求項3】
前記炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物が、天然性植物由来のワックスであることを特徴とする請求項1または2に記載の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント。
【請求項4】
前記炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物が、モノフィラメントの軸方向に垂直な断面において10μm以下の分散径で分散していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント。
【請求項5】
前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント。
【請求項6】
前記芯成分および鞘成分の芯鞘複合重量比率が、芯成分/鞘成分=50〜95/50〜5であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント。
【請求項7】
モノフィラメント軸方向に垂直な断面が円もしくは扁平であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の防汚性芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の防汚性モノフィラメントを緯糸および/または経糸の少なくとも一部に用いたことを特徴とする工業用織物。
【請求項9】
抄紙機用織物、サーマルボンド法不織布の熱接着工程用ネットコンベア用の織物、熱処理炉内搬送ベルト用織物もしくは各種フィルター用織物であることを特徴とする請求項8に記載の工業用織物。
【請求項10】
抄紙ワイヤーまたは抄紙ドライヤーカンバスであることを特徴とする請求項9に記載の工業用織物。
【請求項11】
前記抄紙ワイヤーが、次に示す方法で測定したモノフィラメントの平均直径が0.05〜0.50mmで、この平均直径に対する線径斑率が±5%以下の円形断面モノフィラメントからなることを特徴とする請求項10項記載の工業用織物。
[モノフィラメントの直径(線径斑率)の測定方法]
(1)レーザー外形測定器(アンリツ(株)製SLB DIA MEASURING SYSTEM KL151Aまたは他社同等品)を使用してモノフィラメントの長さ方向に、30カ所の直径(mm)を小数点以下3桁まで測定する。
(2)測定値30点の平均直径(X)を算出する(小数点以下4桁目を四捨五入し小数点以下3桁まで求める)。
(3)線径斑率は、各測定値の最大直径値(A)と最小直径値(B)の差を線径斑とし、測定値30点の平均直径(X)から下式によって求める。
{(A)―(B)}/(X)×100=線径斑率(%)

【公開番号】特開2008−19528(P2008−19528A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192451(P2006−192451)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】